ヨーコとの契約もうまくいったおかげか、目覚まし時計よりも先に目が覚めてしまった。
寝直すにも微妙な時間。ニュースでも見るかな。
……使徒の2人は帰ってきたかな?
とりあえずコンカを確認してみる。
メールがきてた。時間はついさっきか。着信音があれば目も覚めたかもしれない。
『魔族が出た』
はい?
これは涼酒君からだけど、そのせいで帰りが遅れたってこと?
メールしてみよう。
『起きてる? チャットする?』
『よろしく頼むぜよ』
すぐに返答がきた。こんな時間なのに待ち構えていたのかな?
『了解。すぐに準備する』
緊急事態かもしれないので急いでチャットルームを立ち上げた。
第49初期本拠地荘会議室を起動します
煌一さんが入室しました。
剣士さんが入室しました。
柔志郎さんが入室しました。
起動と同時に2人が入ってきた。やっぱり待ち構えていたのか。
煌一>おはよう
柔志郎>おはようございます
剣士>おはようどころか、まだ寝とらんぜよ
徹夜か。なにがあったんだろう?
柔志郎>さっきまでずっと戦ってました
煌一>無事なの?
剣士>あまり無事とはいえん
柔志郎>ファミリアをやられました
剣士>拠点も破壊されてしまったんじゃ!
え?
拠点が破壊された?
煌一>拠点って駅だよね? 破壊されないんじゃなかったの?
剣士>魔族ぜよ。あいつらなら拠点破壊のアイテムを仕掛けることができるんじゃ
柔志郎>北綾瀬駅がなくなりました……仇は討ちます!
仇って、ファミリアと駅のどっちの?
聞かない方がいいか。駅っていわれたら気まずいし。
煌一>魔族?
剣士>ワシら神さんの使徒みたいに、魔族も魔人つうのを出陣させてることがあるんぜよ
煌一>敵となるプレイヤーもいるってこと?
剣士>そうぜよ。やつらもワシらと同じくポイントを使っていろいろできるんじゃ。拠点破壊のアイテムを入手したりのう
煌一>ポイントってGP?
剣士>あっちはDPとかいってるらしいぜよ
DPか。デーモンポイントかデビルポイントなのかな?
それを使えば拠点襲撃アイテムが購入できると。
柔志郎>警察署で戦ってなんとか拳銃を入手して、いったんそっちへ帰ろうと思っていたんだけど、骸骨に待ち伏せをくらいました
剣士>スケルトンじゃ。10体以上おったかのう
煌一>スケルトン? ゾンビ以外もいたんだ
柔志郎>あいつら骨のくせにゾンビより強くててこずりました
剣士>武器も使ってくるしのう
脳がない方が知能あるってこと? ボーンヘッドじゃないの?
スケルトンねえ。……うちの小隊の名前、変えた方がいいかもしれない。
煌一>スケルトンはゾンビの仲間なの?
剣士>いや、モンスター鑑定したらスケルトンは魔人のファミリアじゃったぜよ
柔志郎>倒したら、ゾンビと違って死骸が残らずに一瞬カードになってすぐに消えてしまいました
剣士>魔人のとこに戻ったんぜよ
ゾンビは死体が残るのか。嫌だなあ。
アイテム入手するためにはその方がいいんだろうけどさ。
で、ファミリアは死んだらカードになって主人のところに戻るというわけか。
煌一>スケルトンからはなにも入手できないの?
剣士>魔族のやつらを倒すと獲得GPが大きいんぜよ!
柔志郎>むこうもうちのファミリア倒してポイント稼いだのかと思うと腹が立ちます
魔族側もほとんど同じシステムなのかな?
煌一>ファミリアはスケルトンにやられちゃったの?
柔志郎>いえ、スケルトンを全滅させた時には疲弊しましたが、こちらには被害はありませんでした
剣士>スケルトンだけじゃなくて、他にもいたんぜよ。そいつらが拠点を破壊しておったんじゃ!
煌一>魔人?
剣士>ファミリアだけぜよ。バンシーが3体にデュラハンが1体じゃった
柔志郎>それに首のない馬の馬車
デュラハンの馬車、コシュタ・バワーか。
剣士>首がないくせにデュラハンは強すぎぜよ。こっちの攻撃が効いとらんようじゃった
柔志郎>バンシーもやりにくい。飛んでるし、叫びがうるさくて集中できない
泣き女だもんなあ。叫びに状態異常効果があるのかも?
ユニコーンの2号機……はバンシィだっけ。あっちはライオンか。
柔志郎>それでも拳銃のおかげでバンシーを1体倒せました
飛んでる相手に拳銃を当てるって、田斉君の腕かなりいいんじゃないだろうか。
煌一>銀の弾丸じゃなくても倒せたんだ。……あれは吸血鬼か
剣士>銀の弾丸? それならデュラハンを倒せるかのう?
煌一>どうだろう? 少しは効果があるかもしれないけど。デュラハンって首なしの騎士?
剣士>そうぜよ。鎧が硬すぎるんじゃ
首なしの女の場合もあるはずだけど違ったか。タライの血をかけてくるタイプじゃないのかな。
硬い鎧ってことは本体の能力だけじゃなくて装備もいいのかもしれない。
柔志郎>俺の犬は馬車に轢かれてやられました。それで、状況的に見て勝てないと思って撤退することにしました
剣士>じゃからあれは犬じゃなくて狼ぜよ
柔志郎>剣士が再び火事をおこし、やつらがそれに気を取られた隙に逃げ出しました
剣士>最大火力で火炎剣使うたんじゃ。ついでに飛んでるバンシーにも当てることができてのう、タイミングよくワシのファミリアがトドメをさしたんじゃ
最大火力ってどんだけ火炎噴き上がるんだろう?
あと涼酒君にもファミリアちゃんといたのね。
煌一>涼酒君のファミリアって?
剣士>ワシじゃ
煌一>え?
剣士>じゃからワシじゃ
柔志郎>鷲です
ああ、そっちのワシね、紛らわしい。イーグルっていってくれ。
けど航空戦力あったのか。飛べるのってアドバンテージでかいよなあ。偵察にもいいだろうし。あ、鳥目か。
剣士>ワシらが逃げてる途中でカードになって戻ってきたぜよ。がんばって時間稼ぎしてくれたんじゃ
煌一>どっちもいいファミリアなんだね
柔志郎>自慢の愛犬です
剣士>狼ぜよ
犬と鳥か。次は猿?
……俺のファミリアが美少女なんて言い出しにくいな。
剣士>やつらに見つからんように今は隠れている最中なんぜよ
煌一>レーダーみたいなスキルで感知されるとかはないの?
柔志郎>2人とも隠形のスキルを持ってるから大丈夫だと思います
ステルスなスキル持ってるんだ。俺も取った方がいいのかな。
……べ、別にノゾキに使おうとなんて考えてないから!
煌一>これからどうするの?
剣士>別の拠点を起動させる予定ぜよ
柔志郎>綾瀬駅に向かうつもりです
煌一>それまで帰ってこれない?
剣士>拠点がないと、そっちには戻れんぜよ。死ねば別じゃがのう
煌一>もし死んじゃったら、もうそっちに行けなくなるんじゃ?
剣士>GPを消費して新たな拠点を用意してもらうことはできる。だが、高いんじゃ
ふう。完全に詰んだわけじゃないのか。よかった。
でも、高いのか。涼酒君がいうんじゃ相当なんだろうなあ。
柔志郎>隠形があるのになんで見つかったんでしょう?
煌一>火事を調べにきたんじゃない?
柔志郎>あ!
剣士>それぜよ!
涼酒君の火炎剣で北綾瀬駅周辺を焼け野原にしたというから、たぶんそれを調査しにきた可能性が高いと思う。
それでスケルトン、デュラハンとバンシーの2パーティを派遣してきたんじゃないだろうか?
煌一>ファミリアの数から考えると、魔人って強いのかな?
剣士>わからんがGMをかなり贅沢に使っちょるぜよ。スケルトンが1部隊じゃったようじゃから、隊員数増加しちょる
煌一>GM?
柔志郎>俺もそれ聞いたことない
ジム? ゲームマスター?
隊員数増加ってのも気になる。
剣士>GMはゴッドミラクルじゃ。魔族側ではなんていうのかは知らん。GPでもできんことを叶えてくれるんぜよ
煌一>隊員数増加とか?
剣士>そうぜよ。部隊の隊員数は隊長も含めて最大6。これはGPでも変えられないぜよ
煌一>でも、GMなら変えられると
剣士>うむ
むう。GPは万能じゃなくて、さらにその上があったのか。
……これってさ、似てるのを知ってる気がする。
煌一>GMでGPを買うことはできる?
剣士>できるぜよ
煌一>やっぱり。GMがリアルマネーかウェブ通貨で、GPがゲーム通貨ってところか
剣士>どういう意味じゃ?
柔志郎>なんとなくわかります
赤箱やキャラクターシートのせいでTRPGっぽいって思っていたシステムだけど、どうやら違うらしい。
ネットゲームやソーシャルゲームみたいだ。
GMのMはミラクルじゃなくて、マネーなんじゃ?
煌一>敵さんは重課金ユーザーで、俺たちは……俺たちの神様はモブにすら金を出してくれない無課金ユーザーか
剣士>た、多少は出しちょるじゃろ!
柔志郎>じゃあ微課金ユーザー
重課金ユーザーか。
ふむ。アンデッドばかり配下にしている敵はもしかして……リッチ?
煌一>敵の魔人ってリッチ?
剣士>それはありえそうじゃな
柔志郎>金持ちなのはわかっているでしょ
煌一>そうじゃなくて、リッチってモンスターがいるんだ。ノーライフキングっていわれることもある強力なアンデッド
柔志郎>そうですか。それが敵のプレイヤーだと?
煌一>いや、単なる駄洒落でそう思っただけだけどね
剣士>なんじゃ、冗談じゃったんか。この世界をゾンビだらけにしたのはたぶんやつらぜよ。上位のアンデッドの可能性は高いはずじゃ
上位アンデッドか。定番の
手持ちのフィギュアにはそっち方面のプロフェッショナルはいない。ヘルシング機関か埋葬機関のメンバーのフィギュア、買っておくんだった。
煌一>なんでゾンビだらけにしたのが魔人だと思うんだい?
剣士>スケルトンぜよ
柔志郎>骸骨?
剣士>むこうのファミリアじゃ。デュラハンとバンシーはわからんが、スケルトンはこっちで生まれたモンスターぜよ。ゾンビの進化系じゃ
進化ってポケモンじゃないんだから。
ゾンビの腐肉が落ちるとスケルトンになって強く賢くなるってこと?
柔志郎>たしかにスケルトンは元はこっちの人間だったのかもしれない。服がそんな感じだった
煌一>ゾンビはファミリアじゃなかったんだよね?
剣士>おう。モンスター鑑定でもそうだったぜよ
煌一>それで、ゾンビから進化したスケルトンはファミリアにされていた
柔志郎>ファミリア以外のスケルトンには遭遇していません
ゾンビだらけにしたのが魔人だとすると……。
煌一>じゃあなに、その世界はスケルトンの養殖場ってこと?
剣士>そんなところかもしれん。ゾンビを大量生産して、スケルトンになったやつだけをファミリアにする。最初のゾンビを用意する時点でかなりのポイントを使っているはずぜよ
煌一>ゾンビは感染しないの?
剣士>こっちのゾンビは大丈夫のようぜよ。耐性スキルの熟練度が上がっちょらん
柔志郎>噛まれたりしたけど、平気です
ウィルスか薬物の耐性スキルを上げる必要があるかもと思ったけどそうではないらしい。
煌一>ゾンビになった人間はもう助けられない?
剣士>もう死んぢょる。ゾンビ化を解除できたとしてもただの死体になるだけぜよ
柔志郎>ゾンビになってからもう1年以上たっているようなので、蘇生は無理じゃないでしょうか
煌一>わかるの?
柔志郎>コンビニで売っていた新聞の日付がそれぐらいでした
そんな前から……。もう生きている人間はいないのかな?
あまり恐ろしいと思わないのは、俺が実際にその現場にいないからだろうか。
ただ、悲しい。さっきからもうずっと泣きそうになっている。
煌一>スケルトンの材料にするために、そこの人たちは殺されたってこと?
剣士>そうじゃろうなあ。違う理由があるかもしれんが、今はわからんぜよ
柔志郎>許せません。たとえ死因が別だったとしても死体を弄んでいることにはかわりません!
そうだよなあ。理不尽に殺された上に自分の死体がゾンビになるなんて酷すぎる。
煌一>その魔人を倒すのが田斉君の担当世界の救済?
剣士>それもわからんぜよ。じゃが、違ったとしてもポイントはかなり稼げるはずじゃ
柔志郎>必ず倒します!
田斉君やる気になってるな。
……涼酒君はまずポイントか。変にルールやその他に詳しい分、彼が一番ゲームをやってる感覚なのかもしれない。
煌一>ターンアンデッドとかの浄化魔法ってないの? むこうがゾンビ大量生産したみたいに範囲に効果があるもので一気にゾンビを始末できない?
剣士>浄化の効果で高範囲じゃと聖鐘ぜよ。じゃが、無茶苦茶高いんぜよ。手が出んわい
鐘か。教会やお寺の鐘みたいのだろうか? 大きな鐘だったら設置も大変そうだ。
地道に倒していくしかないのか。
剣士>まあ、まずは拠点起動が最優先ぜよ
柔志郎>たぶん駅が拠点になっているはずなので、綾瀬駅に向かいます
煌一>道はわかる?
剣士>ちゃんと地図は手に入れているぜよ
柔志郎>ここからそれほど距離は離れてませんが、やつらに見つからないように慎重に行くので時間がかかると思います
剣士>目立つからしばらく火炎剣は封印するぜよ
火事にもなるしね。
煌一>気をつけてね
剣士>おっさんの方はどうなっちょるんじゃ?
煌一>基礎講習前にステータス強化中。MPの伸びが凄いよ
君たちが苦戦してる時に、女の子を増やしてましたなんて言えない……。
剣士>そうか。はよう講習終えて手伝ってほしい気もするが、おっさんのアドバイスは参考になるしのう。そのおっさんが上手い鍛え方見つけたんならその方がええんじゃろ
柔志郎>そうですね。敵のファミリア相手では生半可な戦力ではすぐにやられてしまいそうです。じっくり鍛えて下さい
むう。早く助けてあげたいけど、出陣するのが怖くなるなあ。
頑張って鍛えないといけないか。
煌一>うん。がんばるよ。
柔志郎>それでは、おやすみなさい
柔志郎さんが退室しました。
煌一>おやすみ、って今から寝るの?
剣士>ワシはその間見張りぜよ
煌一>お疲れ様
剣士さんが退室しました。
拠点がないと、寝るのも交代で見張りしながらか。大変だなあ。
彼らの無事を祈りながらチャットルームを閉じた。
魔族か。しかも重課金ユーザーが敵って田斉君担当の世界はハードだなあ。
でも、俺も行きたい。ゾンビは嫌だけど、行って近代日本のアイテムを入手しておきたい。こっちの百貨店だと昭和止まりっぽいからさ。
そのためには力をつけないと。俺自身と仲間の戦力。
あとは情報収集も必要だな。
準備を終えた俺は病院へ。食事もしないできたので、ついたのはまだ8時前だった。
24時間営業なのかな、入り口が閉まってなくてよかった。
もはや見慣れてしまった病室の天井。回復ベッドでそれを眺めながらMPの回復を待つ。
「そう。彼女もファミリアになったのね」
MPが満回復したので華琳ちゃんを成現する。計算してみたらもう1週間以上、成現したままでいられるはず。
そろそろ基礎講習をやってもいいかもしれない。
でも、MPはいいけど、それ以外はまだ低いんだよなあ。
「うん。それでね、言い難いんだけど……もう1人増やそうと思うんだ」
「もう1人?」
「そう。ぬいぐるみを救出するのが先だと思っていたんだけど、今朝、2人から連絡があって強敵が出たらしい」
それを知らなきゃ、まだ増やすつまりはなかったんだけど。華琳ちゃんを焦らせる危険があるからね。
「強敵ね。必要なの?」
「うん。今度こそ日本語がわかるはずだし、戦闘力も高い」
上手くいけば空中戦もできるかもしれない。それほどハイスペックな娘だ。
華琳ちゃんとヨーコが彼女から日本語をマスターしてくれれば、マニュアルを調べるのも進むだろう。
「美しい女の子ならいいわ」
納得してくれたのかな。
……華琳ちゃんの様子次第では、残りのメダルを投入してクレーンゲームにチャレンジする必要があるかもしれない。
「1人ではなかったの?」
俺が取り出したフィギュアを見て疑問の声をあげる華琳ちゃん。
「1人だよ」
そう言いつつも俺が手にするフィギュアは片手で1体ずつ両手で計2体。
右手には幼女といってもいい少女。左手には武器やブースターを装備したグラマラスな女性。
「どういうこと?」
「まあ見てて」
実際にやって見せた方が早いだろう。
今朝、病院にくる前に似たようなことを試して成功してるから、自信を持って俺は成現した。
「な、なんなのだ?」
現れたのは青い髪の1人の少女。
右手に持っていたフィギュアによく似た雷形の眉を持つ幼女。
「1人だけ? ……私は曹孟徳。あなたは?」
「クラン・クランである!」
そう。彼女こそ俺が好きなマクロスキャラトップ3に入る少女だ。
マクロスFのコミックス版のひとつで教師もやっていたので教えるのも問題はない。専攻は生物学でモンスター相手にも役立ってくれそう。
髑髏アクセサリー装備じゃないけど、スカル2の機体にも乗ったことあるし。
「私が人形なワケがあるか!」
俺たちの説明を聞いて、当然のように信じないクランちゃん。いきなり信じる方がおかしいよね、こんな話。
「まあ、それは後でわかるだろうから」
そのためにヨーコの成現は後回しにしたんだ。彼女の成現を見れば少しは信じてくれるかもしれないでしょ。
サイドテーブルの上にヨーコフィギュアを置いているから状況はわかっているはずだけど、ヨーコ、なんて言うかな?
「華琳ちゃん、クランちゃんの固有スキルわかった?」
俺も鑑定したけど、人物鑑定が0レベルじゃさっぱりわからん。
華琳ちゃんの鑑定スキル頼みだった。スキル名がカタカナじゃなければきっとわかるはずだ。
「たぶんこれでしょうけど、どういう意味かしら?」
華琳ちゃんが教えてくれたスキル名、それは『巨大化』だった。
このためにフィギュア2体を使って成現したんだけど上手くいったみたいでよかった。
サブタイトルがネタバレ