クラン・クラン――アニメ『マクロスF』の登場人物。
戦うために作られた種族、
バトルスーツ、クァドラン・レアを駆るピクシー小隊を率いる大尉。
本来の姿である巨人時は爆乳の美女だが、マイクローン化して人間サイズになると遺伝子の異常により体形、言動ともに幼くなってしまう少女。
ヒロインではないが一部で人気が高い。
うん。俺もその一部だけどね!
本当なら持っている固有スキルは『巨大化』じゃなくて『マイクローン化』だろうし、そもそもがマクロス世界ではマイクローン装置という機械を使って巨人と人間の変換をしているから、スキルで自力変身するもんじゃないんだよね。
でも、俺は彼女のフィギュアに
たぶんEPも足りていたとは思うけど、追加で籠める念を、妄想を、調整した。
2体のフィギュアを用意したのもその一環だし、成現して現れたのもマイクローン状態だ。
ゼントラーディ状態だと病室壊れちゃうし、MPの消費が大きそうなのもある。
ヨーコを成現した時、彼女は設定通りの知識を持っていた。
……姿は第1部なのに最終話までの知識を。
だが、かわりに日本語を読めなかった。
作品設定が優先されたのだと思う。いや、そうなっていると俺が思い込んでいたのかもしれない。
日本語が読めなかったのは、『読める』と強く思わなかったせいなのかもしれない。
今回はそれを試してみることにした。
俺設定を追加するのだ。
そう、『クラン・クランは巨大化というか、変身能力を持っている』とフィギュア2体に念を籠めた。
まず黒歴史化が急速に進むノートに書き込んで設定をまとめ、さらにメモ張機能を使ってコンカにも。
すると、固有スキルのレベルが上がっていたのか、EPを籠める最中に仕様としてその内容が表示されていた。すごい便利だった。
『EP注入
変身能力追加』
その作業でEPをかなり消耗してしまったせいか、なに馬鹿やってるんだろうと落ち込んだり、無駄なことと諦めかけたりもしたが、回復ベッドの力で乗り切った。
「本来はあるはずのない能力ということ?」
華琳ちゃんの質問に頷く。
「マイクローン装置って用意するの大変そうだからね」
なのでイメージしたのは変身。
巨大化するだけではなく、衣装も変わる。じゃないと服が破けるし武装も使えない。
「そんなこと、できるはずがなかろう!」
「フィギュアが人間になることができるんだから、できてもおかしくないって」
「だから、それが信じられないと言っているのだ!」
両手を大きく振り上げて抗議するクランちゃん。
「もうすぐわかるってば。華琳ちゃん、残り時間は?」
「あと数十秒。妙に短いわね?」
「時間指定もしたから。MP完全回復前だったし、もし巨人サイズだったら大変だろうからね」
コマンドオプションで時間指定もできることは今朝方既に試していた。まだ試していないが、消費MPでの指定もできると思う。
「巨人ね。どれ程の大きさはわからないけれど、それなら外で試しなさい」
「あ」
迂闊。その手があったか! 盲点だった。
……でも、ゼントラーディサイズだとたぶんMPが足りなかったよと心の中でいいわけ。
時間指定したおかげでクランは成現から10分きっかりでフィギュアに戻った。
……元と同じ2体のフィギュアだけど、意識はどうなっているのかな?
「どう? 意識ある? 自分がフィギュアだってわかってくれた?」
もちろん返事はない。
「巨大化というのは、これがこれになるということ?」
ちびクランとでかクランを順に指差していくロリ覇王様。
「うん。あとで実験してみよう」
「……巨大化というより、成長ではなくて? たしかに胸は巨大になっているようだけど」
ゼントラーディクランの暴力的なまでのバストを凝視している。思うところがあるのかな?
自分も巨乳ボディに変身能力を追加しろ、だったら困るなあ。俺は小さいおっぱいの方が好きだから。
「そっちの大きい方のクランちゃんは本当に大きいんだよ。人間の5、6倍の身長なんだ」
「そんなに?」
「うん。詳しくはこれを観て」
ノートパソコンにマクロス(1作目)のDVDをセットして再生開始。
ヨーコも動けないフィギュア状態で退屈だろうから、それを観ながら待っていてほしい。
「俺はちょっと眠るから。夢でクランちゃんと話してくる」
「そう。上手く契約をもらってきなさい」
なんだろう、そう言われると外回りの営業さんみたいだ、俺。
MPが満タンになる時間に目覚まし時計をセットして、俺は眠りについた。
「夢にまで出てくるな馬鹿者! ブレイであろう!」
よし、ちゃんと契約空間に入れたようだ。
クランちゃんもいる。もしかしたらロリと巨人の2人のクランちゃんがいるかもしれないと思ったがそんなことはなく、小さい方の姿だけだった。
「ごめん、夢っぽいけど夢じゃないんだ。ここは契約空間。プレイヤーがファミリアと契約する異空間……らしい。俺も詳しいことは知らない」
ここにくるためには寝ないといけないんで、夢で合ってるのかも知れない。
マニュアルではその気になったファミリア候補とプレイヤーが接触したタイミングで契約空間に入れるとあったけど、今までそんなことはなかった。
その気になってくれてなかったのか、成現した相手だと条件が違うのかはよくわからない。
「少しの時間だったけど、自分がフィギュアになっていたのはわかったでしょ?」
「う……あ、あんなのはトリックなのだ! ガスかなにかで私を動けなくしたのだ! 大きいお前たちも、マイクローン装置で巨人化しただけなのだ」
うむうむと納得したように首を振るクランちゃん。
むう。マクロスFの世界だと、フィギュアになった時の視点も説明がついてしまうのか。
「じゃ、じゃあ、小さい時と大きい時の2人のフィギュアに戻ったんだけど、どんな感じだった?」
「そ、それは……く、薬か催眠術で私の意識を朦朧とさせて錯覚させたのだ!」
……どう説明すればいいんだろう?
「信じてはもらえない、か」
「……だいたいだな、もしも貴様の話が本当だとしてなぜ私を選んだ?」
「そりゃクランちゃん可愛いし美人だし」
ロリと美女を完備ってのは凄いよね。
俺としてはロリ部分が重要なんだけどさ。眼鏡割るのがデフォだったし。
「なっ」
「フィギュア両方買うぐらいファンだからね」
うん。日本語がわかるという建前がなくても、成現はしたと思う。
バルキリーはプラモも超合金も幾つか買っているぐらいマクロス好きだし。
成現できるぐらいにMPかGPが貯まったら、本物のバルキリーに乗ってみたい。
「そ、そうか。貴様は見る目があるな!」
「そう?」
「うむ。どうせ夢だし契約とやらをしてやってもいいぞ!」
ああ、まだこれを夢だと思っているのか。
訂正するの大変そうだし、このまま契約してもらうしかないか。
ファミリアシートとペンをクランちゃんに渡す。
「これか。どれ」
記入欄に名前をクラン=クランと書いてくれた。ちゃんとカタカナだった。
いつも通り、空欄が瞬時に埋まる。
「ふむ。これが私のデータか。……で……っ、でかるちゃあぁあー!」
「どうした?」
「なんだこれは? 私のスリーサイズまで記入されているではないか! それどころか……」
ああ、目立つとこに処女、って書かれてるもんなあ、これ止めてほしいよね。
なんでも、処女や童貞じゃないと使えないアイテムがあったり、契約してくれないモンスターがいるから重要項目らしいんだけどさ。
目覚まし時計の音で目が覚めた。
「おはよう。契約とれたよ」
「……そう。よかったわね」
あれ? 声が冷たい。
やっぱり恋姫†無双ぬいぐるみの救出を後回しにしたから怒っているのかも。
「そ、それじゃヨーコを成現するね」
2人きりでこの雰囲気は辛いので、急いで成現した。
「ずいぶんと待たせたじゃない」
やっと動けたので、身体を確認するように軽いストレッチを始めるヨーコ。
「ごめん。状況が変わってね」
「聞いてたわ。強敵が出たんでしょ。……助っ人があんな小さな子で大丈夫なの?」
「クランちゃんは強いよ。スナイパーとの連携も慣れてるし」
ヨーコとの相性はいいんじゃないかな。
それに……想い人と死別しているという共通点もある。クランちゃんがヨーコと似たような固有スキルを持っていたら困るかな、と能力改変を目論んだというのも実はあった。教えないけどね。
「まずはHP強化から始めよう」
「……そうね」
3人で屋上へと移動する。病室でやると血の後始末が大変だという理由からだが、華琳ちゃんはそう思わなかったらしい。
スタッシュから取り出した炎骨刃が炎を纏っている。それも、昨日よりも大きい炎だ。
俺を睨むと、険しい表情の美少女は無言でその剣を振り下ろした。
「殺すつもり?」
「手加減はしたわ。死んでしまっては困るでしょう」
ベッドで回復中の俺の横で2人が口論してるが、こっちはそれどころではなかった。
「あれで手加減? 煌一の下半身が無くなっちゃったのに?」
「生きているわ」
俺のBパーツは今はない。炭化して、崩れ去ってしまった。いくら耐性スキルがアップしても、2人が急いで俺をベッドに入れてくれなかったら俺は死んでいたと思う。
「うぅぅ……」
火傷からでも昨日は治ったけれど、欠損した部分もちゃんと元通りになってくれるのだろうか?
不安と痛みに泣きながら耐えるしかなかった。
「ま、まさか本当に生えてくるとはね」
1時間で太腿の辺りまで復活した。回復中からくるのだろう疼きや痒みといった不快感はキツイが、治るのならば耐えるしかない。
ただ、身体は治るが服は治らない。着替えを持ってきていてよかった。
なんとか意地で下着を履くことができたのは耐性・痛みスキルのおかげだろう。
眼鏡が外れないように涙を拭いてから、ヨーコに支えてもらって上体を起こしてクランちゃんのフィギュアを手に取り、成現。
「だいじょうぶなのか?」
自分がフィギュアだったことよりも、俺のことを心配する方が先だなんて、クランちゃんいい子だ。
「う、うん。このベッドで寝てれば治るから……」
話すのも実は辛いが、2人に日本語の読み書きを教えてと頼んだ。
赤箱のマニュアルとスタッシュから本を数冊、それにノートと筆記具を出して渡す。
後は彼女にまかせて治るまで辛さに耐えるだけだった。
「先に小隊編成すればよかったか」
まだHPはフル回復していないが、耐性・痛みのスキルレベルがさらに上がったのか、かなり楽になったので小隊編成を行うことにした。
よく考えたら小隊に入ってもらってからの方が、読み書きを覚える熟練度の上がりもよかったはず。もったいないことをしたな。
小隊システムを説明したら、クランちゃんも入隊してくれるらしい。
「とりあえず、貴様たちを信じることにした」
「そう? ありがとう」
「あくまでとりあえず、だからな!」
「よろしくね、クランちゃん」
「子供あつかいするな! お前より年上なんだぞ!」
驚いた顔のヨーコと華琳ちゃん。華琳ちゃんは建前上は18歳以上なはずだけど、ヨーコの姿は第1部がベースだし、19歳のクランの方が年上なのは確かだ。
「うん。クランちゃんの方が年上だよ」
「だから、ちゃんは余計なのだ!」
「そうね。ヨーコには付けていないのだから不要よね。もちろん私にも」
えっ? 華琳ちゃんも駄目なの?
俺の方を向いてくれないし、そんなに怒っているの?
「髑髏小隊……ふん、スカル小隊とでもいうつもりか」
すぐにバレてしまった。
「クランちゃ」
「ちゃんはいらんのだ!」
「……クランに合わせて小妖精小隊にでもする?」
いや、隊長の俺にはピクシーのイメージは合わないけどさ。
「このままで構わん」
「そう? ヨーコもこれでいい?」
「いいわよ。あなたが隊長じゃ、グレン団ってつける気にもなれないし」
ごもっとも。いや、紅蓮団って変えても構わなかったんだけどね。
これで小隊の人数は4人。GMでの隊員数増加がない限り、あと2人まで増やせるか。
「次はどうするの?」
やっぱり俺の方を見ていない華琳ちゃ……華琳。あと2人なんて追加できるはずもないか。
「クランの固有スキルを試してみようと思う」
「固有スキル? そう言われても使い方などわからんぞ」
腕組みしながら首を傾げるクラン。
「変身アイテムを用意しておくべきだったか」
「変身アイテム?」
「魔法少女みたいにステッキとか」
美少女戦士のようにペンで変身だとウルトラの戦士みたいになっちゃうもんなあ。
「ふむ。魔法少女か……はっ! 子供あつかいするなーっ!」
いや、そんなつもりはまったくないんだけど。
「アイテムが駄目だとすると、魔法扱い? 巨人の姿になるって念じてみて。あっ、もちろん外でね」
「むむ、簡単に言ってくれるな」
「ええと、マイクローン装置を使った時の感覚をイメージして」
「……やってみるしかないのだな」
渋々納得してくれてクランちゃんは病院の外に出た。
ヨーコが病室のカーテンと窓を開けて下を覗く。
「出てきたわね。おーい!」
「今から試してみるぞー!」
ヨーコの呼びかけにクランが大声で答えてきた。
次の瞬間、俺のスキルと同じく音もなく巨人が窓の外に現れた。
しまった! 魔法少女風の変身バンクで巨大化するという設定にしておけばよかった!
「……デカルチャー」
窓の外、高い位置から小さい時とは違うクランの声が聞こえる。
ここは2階だが、クランの頭の位置がもっと上なのだ。窓からは脚しか見えない。
その脚には元となったフィギュアと同じくVF-25用のスーパーパーツが装着されているのが見える。所謂アーマードクランだ。
上手く行ってよかった。……服が破けて全裸になってしまう巨大化なんて期待はしてなかったので問題はない。ほんのちょっとしか。
「本当に巨人に……」
「まさかここまでとはね」
華琳とヨーコも驚きを隠せないようだ。窓から身を乗り出して上を覗いている。
「……お、大きい」
華琳が驚愕したのはたぶん、身長じゃなくて別のとこだろうな。
赤箱からクランのキャラシートを取り出して見てみると、時間が2つ表示されていた。
いつのまにか俺のシステムツールのスキルレベルも上がっていたらしく、成現の残り時間がわかるようになったか。
もう片方は巨大化の残り時間。だが、すぐに0:00になって表示から消えてしまった。5秒くらいだろうか。
「どうなっているんだ!?」
病室に駆け込んできたクランが問う。
「MP切れ。クランの固有スキルはMP消費型みたいだ」
クランのMPの現在値はゼロになっていた。
「MP? まるでゲームではないか!」
「そうなんだよ、ここのシステム。ゲームっぽいんだ」
それも課金型のソシャゲ。俺たちのユーザーである未熟神は微課金だというのは、士気が下がりそうなので言わない方がいいだろう。
「ここのベッドで寝てればMPは1時間でフル回復するから。MPや他のステータス、スキルって使ってれば上昇するし」
「どう見てもふつうのベッドだが……煌一の足も生えてきたし、本当に魔法のベッドとは……デカルチャー」
一通り調べた後に隣のベッドに潜り込むクラン。
「でも、一度に使いきったはずなのに、煌一のMPより上昇率が低いようね」
「そうなのか? むっ!」
ベッドで上体を起こしたクランが俺を睨む。
「なっ、なんなのだ、貴様から感じるその力は!」
「えっ?」
俺からクランのキャラシーを取り上げた華琳がふむと頷く。
「どうやらクランも感知・魔力のすきるを手に入れたようね」
なにそれ? そんなスキルあるの? しかも入手したてなのにゼロレベルじゃないの?
「えむぴいを使う行動をすれば、魔力の流れを感じられるようになるわ。自分のも、外のも。そのベッドに寝ているのなら、自分の魔力も回復しているのがわかるでしょう?」
「……これが魔力なのか?」
「ええ」
説明する華琳。俺じゃなくクランにだけどさ。冷たいなあ。泣きたい。
……魔力の流れ? そんなもの、感じたことなんて……あれ? もしかしてこれ?
「なんだこれ? すごい勢いで増えていく感じがする……」
慌ててコンカで確認。俺も感知・魔力スキルを1レベルで獲得していた。
後でわかったことだが、感知・生命力と感知・魔力は初期スキルで0レベルを持っているらしい。初期スキルなんだから1レベルくれててもいいのに……。
「煌一の魔力は桁外れだから、それを感じたら感知の熟練度が上がり易いのかも知れないわね」
そんなこともあるのかな?
でも、これだと敵のプレイヤーやファミリアにも感知され易いだろうしなあ。涼酒君たちみたいに隠形のスキルを取らなきゃいけなさそうだ。
「私もこの剣でMPを使えるようになってから、MP最大値が上昇しているけれど煌一程の上昇はないわ」
スタッシュから炎骨刃を取り出して説明し、またすぐにしまう華琳。
「確かに俺の最大MPはだいたい1.8倍くらいで増え続けているけど、それは一気に消費しているからで」
さっき10分限定でクランを成現した時はそこまでの上昇はなかったし。
「それだけではないはず。たぶん、煌一の『魔法使い』というスキルが関係しているのではないかしら?」
なにそれ? そんなスキル、持ってないはずだけど。……あった?
キャラシートを確認したらありました。こんな便利そうなスキル、今まで見つけられないはずがないのに。……もしかしてシステムツールのスキルレベルが上がって見れるようになった隠しスキル?
「げっ」
スキルの解説を見たらそんな声が出てしまった。
だってさ、『30歳まで童貞だったので魔法使いになった』って。
なんだろうこの解説。酷いよ、そりゃ隠しスキルにもなるよ!
最大MPの上昇率がいいとか、魔法関係のスキルを習得しやすいとか凄いスキルでも嬉しく……えっ? 凄いスキルだよね、これ……。
どうしよう、効果いいわこのスキル。
「そうか、俺の最大MPにはそんな秘密があったのか」
「煌一は魔法使いだったのか?」
うっ。
「あ、あんまり魔法使いって呼ばないでね。ただそんなスキル持ってるだけだから!」
精神ダメージでナイーブなおっさんのEPが激減しちゃうから!
回復ベッドの中で考える。
魂があった華琳ちゃんと、フィギュアからのヨーコ、設定改変のクランには多少の消費MPの違いがあるようだ。
でも、誰であっても既に1回の成現で25日以上人間の姿でいられるようになっている。
もういいだろう。
巨大化のためのクランのMP強化もあるので今日は病院で過ごすとして、明日からは基礎講習を受けようと思う。
……だってなんか華琳怖いし。
早くGP稼がないといけない気がする。
残ってるメダル使うのは今なんだろうか……?