真・恋姫†有双……になるはずが(仮)   作:生甘蕉

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16話 基礎講習1日目

 女の子たちは俺のとこで、俺自身は1階の大部屋で寝ていた夜。

 急に目が覚めた。

 ……覚めてしまった。

 

 目は覚めたが、目が開けられない。

 怖くて。

 すぐ側に感じる人の気配。

 耳に入ってくるはぁはぁという荒い息。

 怖い。

 ここ、幽霊なんて出るのか?

 使徒は死んだら一時的に幽霊みたいなのになるけど、それ? じゃあこれは涼酒君か田斉君?

 

「……くっ。この私が!」

 え?

 この声は華琳だ。間違えるわけがない。

 も、もしかして夜這い?

 ハァハァしてるのは興奮して?

 

 ……違う気がする。

 だってこれって殺気だよね。

 いまだに他の恋姫ぬいぐるみを救出してないことをそんなに怒っているのだろうか。

 跳ね起きて土下座した方がいいんだろうか。

 でも、俺の身体は恐怖で動かない。

 

 しばらく――俺は何時間にも感じたが――して気配がなくなり、恐る恐る目を開けると華琳はいなかった。

 気のせいかそれとも夢だったのだろうか。

 避けられがちになってしまった華琳を求める俺の妄想?

 マサムネに聞けば正体がわかるかもしれないけど、調査に出ているのかここにいないし、いたとしても怖くて聞けない。

 背中が冷や汗でぐっしょりだ。気持ち悪いが俺んとこに戻って着替えるわけにもいかないしなあ。

 タオルで汗を拭くだけはしておいて寝直すことにしよう。

 

 

 翌朝。結局あの後あんまり眠れなかった。

 スッキリしない頭だが気力を振り絞って朝食の用意。なにか作業をしていないと落ち着かない。

 なのに、早めに始めてしまったのでもうできてしまった。

 ……ぬか漬けでもつくろうかな? スタッシュに入れておけば、ぬか床の長期放置も防げるし。

 逆にスタッシュに入れっぱなしだと漬からないのが問題か。むう。

 まあどの道、ぬか床から準備しないと駄目なのにぬかがないので諦めるしかないけど。

 

 共有スタッシュに入れておけば冷めないから、できた料理をそっちに入れておいてテーブルの上に書置き。

 自宅ならネット巡回でもするとこだけど、ここにはなにもない。テレビすらないんで暇だし、ちょっとランニングしてこよう。

 コンカでスタミナの数値を確認してからアパートを出る。朝日が眩しい。

 太陽はずっとサイコロの中心で位置は変わってないが、微妙に色が違う気がする。これで1日の時間を表現しているのだろう。

 

 訓練所となっている小学校まで走ってみる。

 途中から全力疾走。学校についた頃には息が上がって汗だく。

 でも思いっきり走った時の速度はけっこう出た気がする。気持ちよかったし。

 駆け足も早くなっているのかもしれない。スタミナだけじゃなくて筋力にもHPのシナジーのプラス補正ついていたし。

 コンカでスタミナの数値を確認したら最大値がちょっぴり増えていた。元が低いんですぐに鍛錬度が貯まったのだろう。

 しばらく朝のランニングを続けたほうがいいかもしれない。

 しかし疲れた。このまま病院に行って回復しようか迷う。

 まあいいか。帰り道は歩いていこう。

 

 のんびり帰ったら、もうみんな朝食を終えてました。

 そりゃ先に食べてていいって書置きしたけどさあ……寂しい。

 俺の分のおかずも残っていないし……俺のスタッシュや冷蔵庫にも料理入ってるの知ってるから気にしてなかったのかな?

 でも、それを出す気もしなかったのでお茶漬けにすることに。

 ささっと流し込んで食事終了。

 

「そんなのでいいの?」

「うん。味見でつまんでたし」

 ホントいうと食欲がない。

 久しぶりにマジに走ったせいか、それとも夜中のことで気が重いのか自分でもよくわからない。

 華琳を見ると、いまだに目を合わせてくれないし。

 ……でも、こっちを見ていることが多い気もするんだよな。どうなってるんだろう?

 

 

 自宅に戻ってシャワーで汗を流して、動きやすそうな服に着替える。

 つまりはジャージ。

 ……HP特訓でジーンズが2本ほど焼けちゃったので補充を考えないといけない。

 女の子たちの服も必要だし、早く出陣しないと。自分の担当世界がどんなものかわからないけど、それ次第では田斉君のとこを頼ることになるな。

 量販店で未使用の衣料品を見つけても、死臭が染み付いていそうな気はするけどさ。

 

 基礎講習のために訓練所に全員で到着した。

「……ここなのか?」

「学校じゃない」

 クランとヨーコが胡散臭そうに俺を見る。

「俺もそう思うんだけど、涼酒君は訓練所って言っていた。とにかく中に入ってみよう」

 

 校舎の入り口、下駄箱で来客用のスリッパに履き替えて、入ってすぐに机とその上に用紙、ペンが用意されていた。

「ここに記入しろってこと?」

「まさかここにも人がいないのか?」

 いくらなんでも用務員はともかく、講師までいないってことはないんじゃないかと希望的観測を持っていた俺だが。

 その期待は裏切られた。

 

 基礎講習申込書と書かれた用紙に名前を書くと、講習が行われる教室とスケジュールが書かれた用紙が出てくる。

 1日目ってあるけど、1日じゃ終わらないのかな?

「1の2ね」

 用紙を頼りに教室へ向かう。

 10年以上ぶりに会う懐かしい机と椅子。あ、机はさっき見たか。

 教壇にはスライド映写機とスクリーンが用意されていた。普段は丸められていて、使う時に引っ張ってスクリーンにするやつだ。

 そして、講師はいない。

 

 嫌な予感はしたがとりあえず前の方の席に座り、女の子たちにノートと筆記具を渡す。

「時間ね」

 時計の見かたはもうわかっている華琳と同時くらいにチャイムが鳴り、教室のカーテンが勝手に閉まった。そして照明が消え、スライドがひとりでに動き出す。

「ホントに講師なし?」

 質問への回答もなく講習が始まった。

 マジですか。モブだけじゃなく、案内役すらいないなんて。どんだけケチってるんだろう、うちの神様は。

 それとも人間嫌いなんだろうか?

 

 ガッカリしながらもスライドはちゃんと見る。

 最初は、使徒の使命か。ほぼ涼酒君に聞いたのと同じだ。

 使徒が世界を救済したら、その世界が神のものとなるってのは初めて聞いたけどさ。

 華琳とヨーコのためにクランが読み上げてくれたので2人が読めない字で悩むということはなかった。

「神の修行ねえ。信者の願いでも叶えてあげてればいいのに」

「いまだに俺たちを使徒にしたっていう未熟神には会ってないんだけどね」

 神様はずっと俺たちを監視しているのだろうか?

 

 チャイムが鳴るとスライドが止まり、照明が点く。

「休憩か」

 スケジュールによれば午前中は基礎知識の講義、午後は実習らしい。

「この分だと実習にも講師はいなさそうね」

 ヨーコも呆れている。

「いずれ私の部下たちが復活したらその時はヨーコ、あなたに教えてもらおうかしら?」

 ヨマコ先生か、いいかもしんない。

「私もいるのだぞ!」

 クラン先生には白衣が必要だな。用意しないと。田斉君担当の世界で探そう。

 ……白衣ってどこで売ってるんだろう?

 

 次はサイコロ世界である開闢の間の説明だった。

 面ごとに違う神様が修行していて、さらに季節も違うらしい。6面あるので春夏秋冬では2つ足りないが、他に昼、夜という2つの季節があるとのこと。1日中昼か夜な季節らしい。……それって季節なの?

 その6つの季節が2ヶ月ごとにランダムで変わるようだ。

 なんでそんなことになっているかといえば、どんな世界に出陣しても対応できるようにという理由だ。

 担当がずっと冬だったり、夜の世界だったら嫌だなあ。

 

 アイテムの売買や修復、強化、合成はショップ、つまりは百貨店で行える。うん、これも知ってた。売るときの初物ボーナスも。

 修復はそのまんまで壊れたアイテムを直してくれる。

 強化は、GPでアイテムやプレイヤー、ファミリアを強化してくれる。

 合成は、アイテムやファミリアを合成できるらしい。

 ……ファミリアも合成できるの? さらにソシャゲっぽくなってきた気がする。それとも悪魔合体か?

 どっちにしても、華琳たちを合成するつもりはないけどさ。

 

 で、3ヶ月に1度くらいの割合で他の面との交流のためのイベントがあるらしい。大会、市場、等があるようだ。

 6つの面のどれか一つが会場になって行われる。

 大会の賞品や市場での商品で珍しいアイテムを入手したり、大量にGPを稼ぐチャンスとのこと。

 詳しいスケジュールやイベント内容は新聞やテレビニュースで告知される。

 新聞? テレビニュース?

 新聞は……やっぱりとってないんだろうな、ケチって。

 テレビニュースの方は、どこで見ればいいんだろう。うちのテレビにここのニュースが流れてくるんだろうか?

 でも、うちのテレビに映るのは俺の世界の番組ばかりだったし……。

 そうか! 百貨店の家電売り場で見ればいいのか。後で見に行ってみよう。

 

 再び休憩。

「合成、ね」

「君たちにそんなことするつもりないから安心していいよ」

 やっぱり気になるよね。合成ってどっちかは無くなるわけだから。たまに元にした両方とも違うものになることもあるようだし。

 アイテムならともかく、感情を持つ相手に使うのは酷いよね。

「ならばいい」

 まあ、クランのニコイチ成現も合成みたいなもんだけど。元から同一人物だからいいでしょ。

 

 3時限目は出陣や担当世界について。

 その世界を創りだした神様が手放した世界が担当になるということ。

 つまり、神様のいない世界らしい。

 ちなみに、神族と魔族は非常に近いものらしく、違いは世界を創れるかどうかということ。創れる方が神様で、創れない方が魔族なんだそうだ。

 魔族は自分では世界を創れないので、神族の創った世界を狙う。

 ここでいう世界だが、最小で惑星規模。神様の(ランク)が上がればそれこそ宇宙創造ができるようだが、修行するような未熟神には関係なさそう。

 ……最小で惑星か。星単位の神様か。うちの神様は緑色だったり触覚が生えていたりするんだろうか?

 救済は、世界ごとに方法が違うようだ。

 各地に用意された拠点は運営が用意したもので、使徒が辿りつくことで起動する。

 拠点は簡単には破壊されないが、魔族側の攻撃で破壊されてしまうこともある。こちらも魔族側の拠点を破壊することができるが、それにはGPで購入するアイテムが必要。

 これも聞いてたな。……むこうの拠点か。どこだろう? 墓地?

 

 4時限目はやっと、ステータス、スキルの説明。

 ゼロレベルや熟練度、鍛錬度、シナジーはだいたい知ってたのと同じだった。

 そして、魔法。

 MPを使って行うのはわかっていたが、MPをどう使うのかがわからなかった。

 なのに、スライドを見ていたら魔法スキルを1レベルで習得していた。いまだに理屈がよくわかっていないのに。

 MP、つまり魔力を現象に変換するとか書いてあったけど、MPが炎や氷に変換されるってことであってる?

 どうなってんだと思ったら女の子たちは「ふむ」とか「なるほど」と納得している模様。あんなのでわかっちゃうもんなの?

 その次の、一部のスキルもMPを消費する。ってのはわかった。メールやチャットで実際に使っているし、俺の固有スキルもMP消費でもできているから。

 ……女の子たちの身体は俺のMPが変換されてできているってことになるのか。そのせいで魔法への理解がいいとかあるのかな。まさかね、考えすぎか。

 

 チャイムがなって午前の部、終了。

 次は実技。

 魔法と武器の初級編。ってスケジュールにはある。場所はここじゃなくて体育館。まあ、教室で攻撃魔法とかできないか。

「昼食にしようか」

 机を4つ合わせる。小学校の給食思い出すなあ。牛乳持ってくるんだった。

 スタッシュからおにぎりやおかず、ポットとカップを取り出して並べる。

「煌一、そんなので足りるのか?」

「どこか調子悪いの?」

 俺の分を見て疑問に思ったらしいクランとヨーコ。

「元気だよ。ただ、あんまり食べると、午後動きづらいかなって」

 病院の回復ベッドで空腹感を感じなかったので、昼食はとっていなかった。

 ヒキコモリであんまり身体動かしてなかったせいで、ここにくる前から昼飯抜きはザラだったし。昼食代あったらプラモに回してたよ。

 

 

 少しの食休みの後、体育館に移動。

 今度は体育館入り口にスリッパではなく上履きとプリントが用意されていた。

 プリントといってもわら半紙だったけど。この紙、すごい久しぶりに見た気がする。もしかしてガリ版刷りか?

「魔法の使い方、ね」

 各自サイズがピッタリ合っていた上履きに履き替え、体育館の中に入ってみると同心円の描かれた的らしき板が壁に並んでいた。

「あれに魔法を当てろってこと?」

「そのようだな。プリントにもそう書いてある」

 クランがプリントの内容を2人に説明している。

「そこの図形の中心に立て。それから、自分の中の魔力が燃え盛る火の玉に変わるのをイメージするのだ!」

「こうかしら?」

 華琳ちゃんが構えると、両手の間に炎の玉が発生する。……でかっ、バスケットボール以上の大きさはありそうだ。

「そ、それをあの的に向けて放つのだ」

「……はっ!」

 すごい。見事に命中して、的が消し炭になってしまった。でも、この威力じゃ下手したら体育館まで破壊しちゃうんじゃ。そう思って体育館を鑑定したら、破壊不能の属性がついていた。そりゃそうか。

「よく一発目でできたわね」

「魔力を火炎に変換するのは炎骨刃で慣れていたし、塊にしたり飛ばすのは氣弾を見たことがあるわ」

 凪の氣弾の応用でファイヤーボールができちゃうとは。天才少女すぎる。

 

「ええと、そこの魔法陣の描かれたマットの上だとHPやMPの回復が早いって。そこで休んでいて」

 俺のすすめに無言でマットに移動する華琳。その後、じっと俺を見つめる。

 次は俺ってこと?

「じゃ、じゃあ、俺もやってみる」

 両手を前に出して、その先に炎の玉をイメージ……できた! やればできるじゃん、俺!

 あれ?

 ちょっと大きくない? 華琳のよりも大きい……って、もっと大きくなっていくし、熱い! ストップストップ!

 俺の意思が通じたのか、ボシュッと音を立てて、火炎球は消えてしまった。

 手を見ると火傷している。みんなは大丈夫かな?

 

「このように、もしも魔法が暴発してもあの図形の外には被害が出ないようになっているらしい」

 クランが解説していた。なるほど、この足元の魔法陣にはそういう効果があったのね。

「固有スキルでMP使うのには慣れていたつもりだったのに……」

 MPには余裕があるが火傷の回復のため、マットの隅で体育座りして落ち込む。

 

「……そのせいで失敗したのではないかしら?」

「え?」

 久しぶりに華琳から話しかけてくれたので驚く。

「煌一の固有すきるでは一度にえむぴいを全消費してばかりいたのでしょう?」

「う、うん。その方が鍛錬度の上がりがよいみたいだったから」

 おかげで最大MPは10億超えという、まさにチートな数字になってしまった。

「だから魔力の小量の消費ができなくなっているのね」

「少量の消費?」

「我慢しきれずに出すから」

 それだけ言ったらもう、顔を背けてしまった。必要なことだけを告げたらもう会話を続けるつもりはないようだ。

 でも、なんか別の意味に聞こえたのは俺が汚れているせい?

 ……落ち込んでいる場合じゃない。せっかく華琳がヒントをくれたんだ。それを活かして見直してもらおう。

 

 俺が回復を待っている間に、ヨーコもクランもファイヤーボールを成功させていた。

 せっかくMP鍛えたのに、そのせいで落ちこぼれるなんて嫌だ!

 今度こそ成功させると、理屈を考える。固有スキルでも、全開以外の使い方もやったことはある。コマンドオプションだけど。

 ならば、できるはずだ。

 大事なのはイメージ。そして、魔力の流れを調節すること。

「ファイヤー……野球のボール!」

 燃え盛る野球のボールをイメージ。うん、口に出すとイメージしやすい。呪文詠唱はそのためにあるのかな?

 駄目だったら消費MPをコマンドオプションで指定するつもりだったけど、上手くいったみたい。

 大きさはたぶんこれぐらいだ。硬式のボールなんて使ったことはないけど!

 あとはこれを的に飛ばすだけだ。発射!

 

「外した!」

 さすがスナイパー。ヨーコは的に当たる前にわかったらしい。

 火炎球の大きさ調整に浮ついた俺と同じく、ファイヤーボールの軌道も浮つき、的をかすりもせずにそのはるか上の壁に命中した。

 ……体育館が破壊不能でよかった。

「もう一度!」

 さっきの感覚が残っている内に続けて練習。今度は無言で火炎球をイメージ。魔力の消費はこんな感じで……できた! ちょっと大きい気もするけど誤差の範囲だ。

 的をよく狙って発射。

「また」

 再び上ずった軌道にヨーコが残念がったが問題ない。的の付近でファイヤーボールが急に落下する。

 そして、命中。的の破壊に成功した。

「ファイヤーフォークボール?」

「落ちることに意味はあるの?」

「ビックリする、かな。カーブもできると思う」

 障害物をよけて攻撃もできるしね。自動追尾の方がすごいけどさ、そっちはマジックミサイルだっけ?

 

 

 そんな感じでちょっとコツを掴んだ俺はそれ以降悩むこともなく魔法を覚えていく。

 的は5分ぐらいで直っているので、練習に差し障ることはなかった。鑑定したら自動修復がついていた。便利だなあ。

 火地風水の4属性や雷、氷といった派生系、照明か目くらましにぐらいしか使えそうにない光の魔法を入手したら、もう4時を回っていた。MP回復のために回復マットで休憩しながらだったから、チャイム関係なく続けていたんだよね。スライドと違って自分たちで勝手にできるからさ。

「初級だとここまでか。魔法の各属性を1レベル入手できたからこれでいいのかな?」

「それは煌一が魔法使いだからだろう。みんなはゼロレベルばかりで得意なのが1レベルになったぐらいなのだぞ」

 クランのツッコミで思い出す。そういえば隠しスキルの魔法使い持ってたし、魔法で苦労するのもおかしいか。

 ……思い出したくはなかった。便利だけど早くこのスキル捨てたい。

 

「で、次は武器? 時間だいじょうぶなのかな?」

 夜になってもここ使えればいいんだけど、そう思いつつ次のプリントに目を通す。

『好きな武器を選んで目標を攻撃しましょう』

 それだけ。

 いつのまにか、人間サイズの大きなわら人形のような物が立っているし。これが目標?

 

「好きな武器っていわれても」

 わら人形の前に武器も並べられていた。ほとんどが木製だ。

 華琳は大鎌がなかったため木剣を、ヨーコは弓矢を、クランは……こん棒? なんかゴっツイ木の塊を持っている。

「どうせ木なのだ。質量のある方が有利であろう」

 ああ、そうですか。

 俺はといえば、たくさんの木武器を前に悩む。

 魔法使いらしく、杖を選ぶべきだろうか。でも魔法ならともかく、杖で殴るのはちょっと。ならば剣? それとも涼酒君オススメの斧?

 トンファーやヌンチャクも捨てがたいな。

 でも、色物武器は入手考えるといい武器が限定されるだろうから、剣か槍か。弓だったら魔法でいいだろうし。それだと至近距離での戦闘を考えてショートソードか短刀か。

 

 悩みに悩んだ挙句、結局木刀を2本選んだ。やっぱり二刀流はカッコいいよね!

「って、あれ?」

 女の子たちはすでに攻撃を終えていたらしい。いつのまに……。

「やっと決まった?」

「う、うん」

「ならば早く攻撃しろ。それで今日の講習は終わりなのだ」

 みんなどうやったんだろ? ……参考にはならないか。腕前が違いすぎる。

「セイッ!」

 素人丸出しだろうなと思いつつ、二刀同時に上段から斬りつける。

 大わら人形に攻撃が命中した途端、妙な、いや改心の手応え。

 

「うむ。煌一も武器スキルを入手したようだな」

 頷くクラン。

「当てるだけでいいのなら別の武器を選ぶのも面白かったでしょうね」

 と華琳。

「銃があればね」

 愚痴るヨーコ。

 どうやら大わら人形に武器を当てるだけでその武器のスキルを入手できるらしい。それもゼロではなく、1レベル。

 ……なんか講習時間の調整が上手くいかなくて、帳尻合わせな気がしないでもないが、楽にスキルを入手できたのだ、よしとしよう。

 それに俺の場合、刀だけじゃなくて、二刀流のスキルも同時に1レベルで入手できてて得してるからね。

 

 

 体育館の出口で次回のスケジュールをもらって、帰った。

 木刀やみんなが使った木武器貰ってきちゃったけどいいのかな?

 使わなかった木武器は消えちゃったから、いいんだろうな。

 どうせ木製じゃ実戦で使えないだろうし。

 後で素振りでもしろってこと?

 

 次回の内容は戦闘訓練。それが基礎講習の最後の内容らしかった。

 ……あれ? 回復魔法は?

 

 


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