真・恋姫†有双……になるはずが(仮)   作:生甘蕉

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17話 基礎講習2日目

 夕食後、いまだに出陣中の同僚2人からメールがこないので小隊ミーティング。

 綾瀬から金町ってたったの2駅だけど、住人がゾンビとなってしまった街中を移動するのは、いくら隠形のスキルを持っていても大変なんだろう。

 京成金町駅が拠点として起動することを祈りたい。

 ……祈る相手が姿を現さない未熟神しかいないので無意味かも。あっちの世界には神がいないらしいし。

 

「明日の戦闘訓練で基礎講習は終わりのようだな」

 クランがプリントの内容を説明している。

 俺が食事の用意をしている間にクランによる読み書き講座はだいぶ進んだようで、チラッと見たらローマ字を教えていた。

 完璧超人とヨマコ先生だけに覚えるのは早いようだ。

 

「戦闘訓練か。今日覚えた魔法といい、どう考えても戦うこと前提なんだよね」

 俺、性格的に戦うのって向いてない気がするんだけどなあ。

 出陣先になるとは神様のいない世界だから、荒廃してるってことなんだろうか。救済が戦いの先にあるってのは、なんだかなあ。

「お前もそのつもりで私たちを選んだのであろう」

「まあ、そうなんだけどね。あとは教師役?」

 戦闘力は重視したよ。でも、同じくらいに好みもあるけどね。フィギュア買うぐらいには好きな娘たちだもんね。

 

「魔法は面白かったけど、MPを使うしあたしは銃の方がいいわ」

 ライフルを手入れしながらのヨーコ。

 今日の講習で入手した矢もライフルに合わせて調整している。電気式のライフルだから矢も撃てる。たしかそれで狩りをしてたシーンもあったな。

 

「各自動きやすい服装でこられたし、ね」

 さすが華琳、もうほとんど読めてそうだ。

「着替えなんてないからこのままでしょうね」

「うむ。問題ないな」

「そうね。問題あるのはおじさんだけでしょ?」

 うん。戦闘訓練がどれほどのものかはわからないけど、服が破けるほどじゃなければいいなあ。

 基本的にシャツとジーンズなんで、ジャージは1着しか持ってない。寝る時どころか部屋着は下着だったし。

 一応、着ないのに寝巻きは数着買ったり貰ったりしてたので、華琳たちにはそれを使ってもらうことにした。

 裸ワイシャツ? あの時は忘れてたんだよ。……ということになっている。だってはだワイ見たかったんだもん!

 

「服にも体育館の的みたいに自動修復ついていればいいのに」

「それこそ、煌一の固有スキルで作りなさい」

 あ、なるほど。服をベースに自動修復効果を追加か。ダミーコンカができたんだからできるかもしれない。

 イメージするのは……一子相伝の殺人拳の正統伝承者の服?

 

「私たちの着替え入手は、明日の講習を終えて出陣してからか」

「それか、田斉君担当の世界で」

「だ、だが、ゾンビなのだろう?」

 やっぱり怖いのかな。

「助っ人で行くとしたら、スケルトンや首なし騎士とも戦うことになると思う」

 魔法による攻撃、今日使った感じではかなり強力そうだったけど、あれでも倒せなかった強敵。

 涼酒君たちが魔法を使えないってことはないだろうから、スケルトンでMPを使いすぎていたのかも?

 あ、バンシーの叫びが煩くて集中できないっていってたから、それで魔法が使えなかったのか。

「面白そうではあるけど、煌一の担当の世界にそんなのがいなければいいわね」

 む。華琳がまともに話してくれてる。

 でも、顔を見たら睨み返してきた。パターンが変わった?

 

「その使徒2人が帰ってきたらそっちを手伝って、戻ってこなければ煌一の担当世界に行ってみるでいいじゃない」

「そうだな。戻ってこなければあっちには行けないんだし、明日の講習が終わったら病院を無料で使えなくなる」

「やっとGPを稼げるのね」

「華琳の仲間を助けるのだ!」

 握りこぶしを掲げて力強く宣言するクラン。

 GPを稼いでメダルを買って、クレーンゲームで恋姫ぬいぐるみを救出したら、華琳の機嫌が直ればいいけど。

 

「っと、そうだ。今日の講習で魔力の流れがだいぶわかってきたからさ」

「なに?」

「そこに3人で並んで立って、手を重ねて」

 素直に聞いてくれて、3人が並ぶ。美少女が3人並び立つのは壮観だなあ。

「なに、義姉妹の契りでも交わさせるつもり?」

「いや、桃園の誓いじゃないんだから」

 華琳もあれ知っているのか。

 あ、三国伝でもやっていたっけ。

「義姉妹ね。アイツらを思い出すわね」

 ヨーコが言ってるのはカミナとシモンだろう。あいつらって義兄弟でいいのかな。

 

「ならば私がお姉さんだな!」

 一番年下に見えてしまうクランの発言に、華琳がにこりと微笑む。

 否定しないのは巨人時の美女を知っているからだろう。

 クランはピクシー小隊のネネにお姉様って慕われていたし……ギガンティアっていうかギガントだな、うん。

「そう。では私は次姉ね」

「え? あたしが末っ子?」

 ええと、見た目が逆なんだけど。年齢的には合ってるの?

 

「じゃなくて!」

「いいところなのに無粋ね」

 うっ。睨むどころか冷めた目で見られました。

「ど、どうぞ……空気読んでなくてごめんなさい」

 あっさり引き下がる俺。

 一応、彼女たちの隊長なはずなんだけどなあ……。熟練度や鍛錬度が上がり易いからシステム的にそうしてるだけか。

 

「で、なにか儀式でもするのか?」

 なんかクランすごい乗り気だな。

「義兄弟の杯だっけ?」

 ヨーコ、それはヤクザだ。

 それ以前に君たち、お酒飲んでいい年齢なの?

「ロザリオ渡す方が姉妹っぽいんだけど」

「ロザリオ?」

「聖印だったかな」

 ホーリーシンボルってうちの未熟神様だとなんになるんだろう?

 十字架って感じじゃないし……後で涼酒君に聞いてみるか。

 

「精飲? それならお酒の方がいいわね」

 むう。華琳とクランは18歳以上なんだけど、お酒は20歳以上なんですよー。

 まあ、華琳はゲームでも飲んでいたからいいのかな。このクランとヨーコは俺設定で20歳以上ってことにしよう。見た目はそのまんまで。

「じゃあ、ちょっと待ってて」

 2階の自宅に戻って一昨年漬けた梅酒を持ってくる。これならツマミいらないからね。

 うん、いい色になっている。それをグラスに注いだ。独特の甘い香りが漂う。……俺も飲もうかな。

「これを3人で分けて飲むんだったよね」

「いい香りね」

「度数は高いけど、これくらいなら大丈夫だよね?」

 ええと、ホワイトリカーが35度で梅で薄まっているから、25度くらい?

 

「ではまず私からだな」

「全部飲まないようにね」

「わかっている!」

 グラスを傾け、こくっとクランの喉が上下する。

「見ろ! 見事に3分の1ではないか!」

 掲げたグラスに得意気なクランの顔は赤い。もう酔ってます?

 

「次は私ね」

 華琳が照明にグラスを透かして色を見、ソムリエのようにグラスを回す。香りを確認しているのかな?

 そして飲む。これまた量ったように3分の1。

「これは煌一が漬けたの?」

「うん」

「ふむ」

 と頷いてグラスをヨーコに渡した。

 え? 味の感想は? やっぱり美食家には不満なだけなのかな。

 

「甘いわね。美味しい」

 ヨーコが残りを一気に呷って感想を言ってくれた。ありがとう。

 やはり3人とも頬を染めて色っぽい。

 このまま今日は酒盛りといこうかな。

 ……っと、さっきの続きだ。

 

 

「じゃあ、そろそろいいかな?」

「む。おかわりは?」

「後でね」

 俺も飲みたいし。

 先程途中で止めたように3人に手を重ねてもらう。

 

「これで誓いを立てるのだな。1人はみんなのために、みんなは1人のために!」

 うん。クラン酔ってる。あとそれは三銃士ね。女体化ゲーだと主役はダルタにゃんってなるのかな?

「それもいいけどね」

 重ねた3人の手にさらに俺の手を重ねる。

 それから固有スキル発動。

「我と手を重ねし義姉妹たちよ、魔力を用いて成現を続けよ!」

 俺がやりたかったのは、これ。

 成現時間の延長の実験。

 MPも体育館の魔法陣でフル回復してる。ソシャゲみたいな使徒のシステムだと、満タンだと使わなければ溢れた分が損な気がしてならない。貧乏性なのよ、俺。

 

「どう?」

 鑑定中の華琳ちゃんに聞く。

「……残り時間が延びているわね。それも3人とも」

 よかった。成功したみたいだ。

 元に戻ってから一々再成現しないで済むし、MPが無駄にならなくなる。

「これなら、ずっとみんなといられる」

 フィギュアになっちゃった彼女たちをスタッシュに入れないで運ぶのも面倒だしね。

 

「じゃ、ツマミみつくろって飲もう」

「それは明日、基礎講習修了のお祝いでいいでしょう」

 そう言われるとそうかもしれない。

 涼酒君たちも帰ってくるかもしれないし、酒にも限りがある。

「今日はもう寝ようか」

 ミーティングを終えて、俺は後片付けをするのだった。

 ……梅酒1杯くらい俺も飲めばよかったかなあ。

 あ、自家製のでも百貨店に売ったら追加補充してくれるのかな? 試してみるのも悪くはないか。

 

 

 ……まただ。

 夜中に目が覚めてしまった。朝までグッスリ眠れるように呑んでおくべきだった。

 また人の気配がする。

 恐怖で目を開けらないけど、背筋が凍るほどの強い殺気を感じる。

 これはやはり……。

 

 ……ん? 殺気が和らいだ?

「なるほどね。ふふっ……」

 この声は華琳だよねえ。

 どこか楽しそうだ。目を開けちゃおうかな。

 

 っっっっ!!

 危うく声が出るところだった。急に華琳の手が俺に触れたのだ。……俺の頬に。

 その手はなんだか震えていた気がする。

 緊張していた? そのせいで俺が起きているのに気づかない?

「……ふむ」

 それから静寂。

 暫くしてようやくなんとか瞼を開けたら、誰もいなかった。

 

 なんだかまだ怖いので、アパートで寝るのを止める。

 朝食は彼女たちにまかせよう。

 まだ冷蔵庫やスタッシュにも料理は残っているし、問題ないだろう。

 炊飯器だけセットし、書置きを残して病院へ向かった。……深夜の無人の街も怖かった。

 

 コンカでGPがかからないのを確認してから病院のいつものベッドに潜り込むも、1時間たっても眠れない。ステータス異常っぽい恐慌状態は治まっているはずなんだけどなあ。

「マサムネ、いる?」

「ココニ」

 シュタッとどこからともなく青い小型のロボットが参上する。

「ディスクロン全員集めて」

 さらに小型の鷹、豹、人型のロボットたちも現れた。

 MP全回復したので彼らにも成現時間延長を行ってから、再び寝る。

 華琳のことや他の情報も聞きたかったけど、集まった小型ロボットをみたらほっとしたというか、ほっこりしたので眠れそうだ。

 

 で、夢、というか契約空間。

 そこにはゲーム機状態のマサムネとディスク形態のディスクロンたち。

「そうか。そっちの形だとここにこれるのかな?」

 ある意味元の状態だし。それとも別の理由か。

 とにかく、せっかくなので彼らもファミリアになってもらった。

 

 ついでに彼らが集めた情報を聞く。

 この4の面と呼ばれる街には人どころか、犬猫、ネズミもいないらしい。虫すらも見かけなかったということ。……俺の部屋に現れたでっかいゴキブリは俺についてきてこの世界にきたってこと? やだなあ。

「コンバットさんの仕事は留守番だけってことになっちゃうか」

「インセクトロンヲ用意スレバイイノデハ?」

 ああ、そんなやつらもいたっけ。

「コンバットさんの獲物になるためってのは可哀想だ。まあ、留守番も大事な仕事だよ。おかえりなさいって言ってくれるだけで嬉しいし」

「ソレハ同感」

 ふむ。マサムネにおかえりなさいしてるコンバットさんも見てみたいな。

 

 

 目が覚めたら、マサムネたちを小隊編成。

「名前はやっぱりディスクロン部隊かな。隊長はもちろんマサムネで」

「了解シマシタ」

 記入が終わると、彼らは情報収集へとむかった。

 俺もアパートに戻ろう。

 

 ランニングしながらアパートへ戻ると、女の子たちが朝食を用意してくれていた。感動。

「いただきます」

「心して食べなさい」

 もちろん美味しかった。

 まあ、どんな料理でも今の俺なら美味しくいただけたと思うけどね。

 だって浮かれすぎて、何を食べたのか覚えていない。

 ……あれってなんて料理だったっけ?

 とにかく気合が入った。これで今日は頑張れる。

 

 

 ……頑張れると思ったけど、大変でした。

 

 学校へ向かったら、校庭の朝礼台に人影が見えたので思わず走る。

 やっと俺たち以外の人間が、そう喜んだら違った。

 俺たちのそっくりさんだった。

「俺たちが戦闘訓練の相手だ」

「自分のコピーを相手にするのって、普通もっと後じゃないの?」

 いくら定番とはいっても初っ端の練習相手にもってくる?

「見た目だけよ。能力は違うわ」

 華琳ちゃんのコピーがそう言うけど、声も同じなんですが。

 すると、俺ってあんな声してるのか?

 

「ドッペルゲンガーとは違うので安心するのだ」

「わ、私はこんなちっこいのか?」

 クランもショックを受けているな。

 

「服が違うのですぐにわかるでしょう?」

 コピーたちは体育着を着ていた。昭和の雰囲気なこの街だから当然、女の子のコピーはブルマだった。それだけは嬉しかったけど。

 おっさん、せめてジャージを着てくれ。恥ずかしいのは俺なんだから!

 

「私たちを倒せれば基礎講習は修了よ」

「仲間と同じ顔のやつらと戦えって言うの?」

 ヨーコが文句を言うのもわかる。俺も同じ気持ちだ。

 

「魔族だってよく使ってくる手だ。慣れておくんだな。ちなみに武器は真剣。この戦いで死んでもGPは減らないから安心してくれ」

 その説明でどう安心しろと? 手加減なしで殺す気満々としか伝わってこないんですが!

「お、俺たちの武器は?」

「まだ買ってなかったのか。ああ、ここ講師がいないから、その説明抜けちゃうんだよ。早いとこプリント直してくんないかね」

 むう。プリントの不備か。

 それ以前にモブや講師がいない方が問題なんだろう。

 

「仕方ないので今回はそこに置いてある基本装備でやってくれ。店売りの品に比べたら弱すぎるけど勘弁な」

 一応、武器は支給してくれるのね。

「銅の剣と皮の盾、ね」

 こん棒じゃなかっただけマシか。……そっちは昨日の講習で似たようなの貰ってたか。

 人数分以上の数が用意されていたので、俺は銅の剣2本を持つ。

 

「まずは個人戦、でその後チーム戦だ」

「誰が誰の相手になるかはこっちで決めるから」

「え?」

 できれば自分のコピーの方がいい。女の子のコピー相手だと、勝っても負けても好感度下がりそう。

 

「用意はいいか? ならば少し離れて立て。……そんなもんだな。あ、お前はもう少し後ろに下がって」

 クランコピーに言われて少し後ろに下がったら、校庭が突然光り出し、4分割される。分割線のところには緑がかった透明な壁が発生していた。

「準備完了」

 俺の目の前に対戦相手が現れる。

 俺、クランコピー。

 華琳、俺のコピー。

 ヨーコ、華琳コピー。

 クラン、ヨーココピー。

 という組み合わせだった。

 

「行くぞ」

 クランコピーの武器は両刃の大きな斧だった。バトルアックスかな。

 それが斜め上段から勢いよく俺に迫る。避けないと!

 ……あれ? 俺の身体が動かない。もしかして腰が抜けちゃった?

 

 そして、ダメージ。運よく一撃死は免れたみたいだけど……。

「あ、動く」

 どうなってるんだ。

「よくぞ我が一撃に耐えた。褒美に回復魔法を教えてやる。感謝しろ」

「え? ……もしかしてこれって、絶対被ダメージのイベント?」

「ええい! つべこべ言わずに覚えるのだ!」

 あ、当たったみたい。みんなもこんな感じで回避不能な理不尽な攻撃受けてるのかな。痛いけど、大丈夫かな。

 

「おお……」

 真っ赤になったクランコピーの魔力が俺を癒していくのがわかる。なるほど、細胞を活性化させ、さらに魔力で失った細胞まで作り出すのか。たしかにこれは傷を治してもらうのが一番わかりやすいかもしれない。

「これで0レベルは入手しているはずだ。精進するのだぞ」

「ありがとう」

「ふん。次は本気でいくからな」

 宣言どおりにさっきよりも速い攻撃が襲ってきた。慌てて回避する。

「どうした? かかってくるのだ!」

 そう言われても、女の子を斬るってのは非常にやりにくい。腕があれば服だけ斬るのを狙うのに。

 悩んでる間にも斧が襲ってくる。

 ええい、これは偽者なんだ。両手に持った2本の剣を強く握る。

 斧をかわして、右手の銅剣で攻撃。左右両方はまだ同時に使うなんて無理。

 

「きゃっ」

 あれ? 当たってしまった。可愛い声をあげてクランコピーが倒れる。その腕から流れる赤い血。

 お、俺が女の子を斬ってしまった?

 ど、どうしよう?

「ごめんなさい」

「い、今さら謝っても許さないのだ!」

 立ち上がったクランコピーがぶんぶんと斧を振り回す。剣で受け止めるのは無理そうなので必死にかわす。

 でも、左肩に貰ってしまった。

 

「心臓までは届かなかったか。きさま、斬撃と打撃の耐性があるな」

「ま、まあね」

 痛みや出血の耐性もあるから軽口もたたけるけどさ、これはやばい。

 慌てて俺はさっき覚えたばかりの回復魔法を試す。

 たしか、こうだったはず。

 

「ほう。もう使うとはな。だが低レベルの回復魔法ではMPを無駄にするだけだぞ」

 クランコピーの言う通りだ。さっきの彼女ほど魔力がうまく傷口に作用してないのがわかる。だが、効率が悪くても、魔力を傷口に集中するしかない。

「むむ、完治させただと? なるほど、きさまはそっちにむいているタイプか」

「そっちってどっち?」

「ならば、きさまのMPが尽きるまで攻撃するまでだ!」

 再びの追いかけっこ。

 

「逃げるな!」

 逃げなきゃ殺される。

 斬られても治しながら逃げる。

 コンカを見ている余裕はないけど魔力はまだ感じられるからMPは大丈夫。

 

「戦うのだ!」

 無理だって。

 こんなの、みんなだってやりにくいって。

「きさま以外はもう戦闘終わっているのだぞ」

 え? 

 見回せば、華琳、ヨーコ、クランの3人が透明の壁越しにこっちを見ていた。

「もう倒しちゃったの?」

「うむ。初期レベルの弱い我らとはいえ、ああも簡単にやられてしまうと情けなくなってくる」

 あ、弱かったんだ。だから俺、まだ生きているのか。

 

「さあ、戦え」

「でも……」

「私はきさまに倒されるために生まれたのだぞ。それを無駄にするつもりか!」

 げっ、泣いている?

「女に恥をかかすつもりか?」

 こ、ここで使う台詞じゃないでしょ、それ。

「でなければ、使徒の基礎講習も行えない私は、や、役立たずの欠陥品なのだ」

 ど、どんな理屈だよ、それ。

 なんか俺がすごい悪人な気がしてきた。

「痛かったらごめんね」

「覚悟はできてるのだ!」

 ううっ、もっと別の場所でしたかったよ、こんな会話。

 俺も泣きながら彼女を攻撃する。……当たってしまった。

「やるな。だが、まだまだぁ!」

 まだ駄目なの?

 やはり武器を買うか、スタッシュ内の成現武器を使うべきだったか。

 ふらつきながらも斧を振るうクランコピー。速度もかなり落ちていて辛そうだ。

 これは、早く楽にしてあげた方が彼女のためだと自分に言い聞かせて、剣を彼女に突き刺す。

「……やればできるではないか」

 ごふっと血を吐いて、彼女の姿が消えた。

 

「ううっ」

 コピーとはいえ、殺してしまった。

 手がぶるぶる震えだす。

 だが、そんな感傷に浸っている間はなかった。

「なにを呆けている! 次に行くぞ!」

 朝礼台からクランの声がした。いや、あれはクランコピーか。

 

「えっ?」

「さっき言ったではないか。次はチーム戦をやると」

 ふっ、復活するならそう言ってくれ!

 

 

 足手まといの俺がいるとはいえ、それをカバーしてお釣りがくるほどのチームワーク。

 開始早々、なんだかわからない内にクランコピーが消え、華琳コピー、ヨーココピーも続く。

「み、見事だ」

 最後に残っていた俺のコピーはそう言って消えた。瞬殺だった。

 

 そして再び朝礼台に現れるコピーたち。なんかほっとする。

「これで基礎講習は修了だ」

「もう少し難しいことを習得したかったらまたきてね」

「その時は有料だけど」

「では、諸君らの活躍を期待する!」

 ボンという音とともにコピーたちは消えた。

 

「ホントに見た目だけだったわね」

「やりにくくはあったけどね」

 あ、あれで?

「見た目もイマイチだったのだぞ。私の方がもう少し大きいのだ!」

 華琳も頷いている。

 

 俺はいまだにクランコピーを刺した時の感触が残っていて、こんなんでやっていけるのかな、とか、もしかしてEP強化したからこの程度で済んでいるのかな、とか思っていた。

 

 

 銅の剣と盾も貰って、スタッシュに入れる。GPも入金されているようだ。

「この後は武器の購入か」

「それよりも先に煌一担当の世界に行ってみましょう」

「そうね。まだお昼前だし」

 クランコピーと長いこと戦っていた気がするけど、まだそんなもんなの?

 あっ、そういえば斬られたとこの傷だけじゃなくて、服も直っているな。血の染みもない。

「ああそれ、最初に回復魔法かけた時に修復魔法もかけておいてくれるんだって」

「絶対かわせない攻撃なんかするんだから当然よね」

 そうなの? ならその修復魔法も教えてくれればいいのに。

 

「武器やその他を購入するなら、どんな所へ行くかを見てからの方がいいわ。煌一が用意した武器もまだ残り時間はあるのだし」

 華琳は早く出陣してGPを稼ぎたいんだろうなあ。

「やばそうだったらすぐに戻ってくるからね」

「ええ。無理をしてはそれこそ損をするわ」

 俺の修理代、高そうだし。まあ、回復魔法を覚えたからその分はせこく回復することにしよう。

 

 使徒2人を見送ったゲートへとやってくる。相変わらず周りにそぐわない建物だ。

「ここから出陣するんだ」

「ずいぶんと違和感がある建物ね」

 やっぱりそう思うよね。

 中に入ると、なんとなく使い方がわかるようになっていた。基礎講習を終えたせいか。

「この魔法陣に乗ってね」

 魔法陣の中心に移動して、みんなも乗っているのを確認。まあ、ゲートにいなくても同じ小隊にいれば隊長の転移にみんな引っ張られちゃうらしいんだけどさ。

「行くよ」

 ゲート起動。コンカに行き先の選択肢が表示される。

 

『→ 煌一担当世界拠点1』

 

 今は1つしかないのでそれを選択。

 他の2人の世界に行くには彼らの案内が必要なのかな?

 床が光ったと思ったら、もう場所が変わっていた。

 足元には同じ魔法陣があるけど、確実に違う場所だ。どうやら室内らしい。

「ここが、俺の担当か」

「やっと出陣できたわ。足取りも軽くなるわね」

 スキップでもしそうな華琳。ここでGP多量入手できるといいね。

 ……あれ?

 

「足取りが軽いっていうか、これは……」

 なんかおかしい。

「これってもしかして?」

 ヨーコの問いかけにクランが頷く。

「ここは低重力のようだな」

 

 え? ここって地球じゃないの?

 

 


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