真・恋姫†有双……になるはずが(仮)   作:生甘蕉

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18話 宇宙一の天才

 戦闘訓練――弱いやつと戦わせて自信をつけさせたいんだか、仲間そっくりの相手と戦わせてトラウマを植えつけたいんだかわからないような――をこなし、基礎講習を修了。

 無料回復を捨てて挑んだ我が仕事場。

 ……そこはどうやら地球ではなさそうで。

 

「低重力?」

「ええと、重力っていう地面が物を引っ張る力があって、それが弱い……であってるのかな?」

 華琳に説明しながら軽くその場でジャンプする。思った以上に高く跳んでしまい若干ビビった。落下もゆっくりな気がするし。

「ふむ。感じるだけではなく実際に軽くなっているというわけね」

「そう。そして地球上でこんなに低重力な場所は考えにくいから、ここは地球じゃない可能性が高い」

「地球?」

「俺たちが住んでいた……あのサイコロ世界は別か? ……ともかく、華琳たちがいた大陸のあった星」

 星については基礎講習の神様ん時にざっくりと説明してたはず。

 最小で惑星単位の創造神で……地球じゃないってことは、そういう星を創ったのか、それとももっと(ランク)が上の神様が創って手放した世界ってこと?

 

「なにを言っている。重力制御で軽くしているという可能性もあるではないか」

 重力制御が当たり前のようにあるマクロス出身のクランならそう思うのね。

「どちらにしても、それなりに科学が進んだ世界のようね」

 ゲートによって転移してきた部屋を見回すヨーコ。俺たちもそれに続く。

 大きな部屋だ。床にはゲートと同じ魔法陣が描かれている。元のサイコロ世界に帰るにはこれを使うのだろう。

 壁には機械類。モニターやらコンピュータやら。椅子は結構しっかりしているな。巨大コンピュータらしき物体は紙テープに穴を開ける形式のではなかった。

 いや、さっきまでいたとこが昭和臭すごかったからさ、つい古いのじゃなかったって少し安心したのよ。あんまり古そうな装置で地球外にいるってなったら怖いもんね。

 

 デスクと一体型になっているキーボードを見る限り、文字はなんとかわかりそうだけど、どうしたもんかな。

「触って大丈夫かな?」

「拠点として選ばれた場所だ。いきなり爆発するようなブービートラップはないであろう」

「それもそうか」

 クランの言葉に納得し、適当にコンソールをいじってみるが反応しない。

「電源入ってないのかな?」

 照明はついているのに。といっても天井全体が光ってるんだけどね。LED?

「一応地球式っぽくはあるのだが……」

「制御室かブリッジのようだけど……」

 クランもヨーコも駄目か。システムを起動させるのに条件があるのかな?

 キーが必要?

 

「まさかドアも開かないとはね」

 出入り口らしき場所は自動ドアかと思ったが、前に立っても反応しない。センサー類やスイッチを探したがそれも発見できず。

「壊すしかないのかしら?」

「待つのだ! ドア以外も破壊してしまったら大変なのだ。もしもここが機械のせいではなく元から低重力ならば、外は大気が薄い可能性が高いのだぞ」

 ああ、重力が弱いと空気もその分薄くなってるんだっけ?

「息苦しいどころの話じゃないか。外に出るだけで危険とはね」

「これはあれかしらね」

 貸したままのマニュアルを取り出すヨーコ。

「ほら、ここにあるわ。使徒は能力に応じた世界に派遣される。って」

 え? そんなのあった?

「……もしかして俺がMP鍛えすぎたせいで、難易度高い世界の担当任されちゃった?」

「その可能性が高いわね」

 くっ。なんてこった!

 俺TUEEEしようと鍛えたら、ハードモードに回されてしまってそれが不可なんて。そんなバランス調整ありなの!?

 

 

 その後、色々試したが最初の部屋から出られない。

 拠点となっている以上そんなことはないのだろうが、ここで悩むと酸素を無駄に消費してるかもしれない気がして落ち着かず、一端むこうに戻ることにした。

 ゲートに戻ってから、スタッシュ内に溜め込んだ空気を出せばよかったと気づく。今さらもう一度行く気もしなかったが。

 

 アパートの大部屋に戻ってミーティングするも、これといって打開策が浮かばない。

 後でマサムネたちに調査を手伝ってもらうとしても、この状況を打開するにはさらなる新メンバーが必要なのかもしれない。

 小隊の人数はGMという神様のリアルマネーで枠を広げてもらわない限り、最大6名。

 ファミリアと契約した者が小隊長だとそのファミリアが成長しやすくなるので、俺が小隊長になる髑髏小隊の空きはあと2人。

 増やしても問題ないか?

 いい加減、恋姫ぬいぐるみをクレーンゲームから救出して、仲間になってもらおうかな。

 ……今回の場合に限っていえば役には立ちそうにないか。古代中国だもんなあ。

 

 金髪の華琳、赤髪のヨーコ、青髪のクランときているから次は緑かピンク、もしくは黒髪かな。

 いや、戦隊をつくるわけじゃないんだから色は考える必要はない。

 じゃあ髑髏アクセサリーの女の子繋がりか。

 男は増やしたくない。俺の嫁候補である女の子たちとくっついたら嫌だし、もし万が一俺の素顔見られて惚れられても困る。

 

 雪子姫、蜂須賀五右衛門、フロイライン・ブロッケンJr.、エルシィ、ハクア……あたりか?

 他の分野では頼りになりそうな娘が多いけど……今回だとフロイラインか? でもフィギュアないし……ブロッケンJr.のキン消しにEP籠めまくって設定改変で……無理があるか。

 あとはエメラルダスか。レイジメーターじゃなかったけど、拠点にも計器類多かったからなんとかしてくれるかな? でもやっぱりフィギュア持ってない。戦士の銃(コスモドラグーン)ならぬコスモモーゼルならあるんだけどなあ。

 

 仕方ない。髑髏つながりは諦めよう。

 こんな時は機械に強い人だよな。

 天才系かな。華琳も天才だけどね。

 

 ちよちゃん。候補ではあるけど、戦えそうにないしなあ。

 ルリルリ。電子機器に強そうだ。ただ、ロリと育った後、どっちにするかで悩むな。

 カウボーイビバップのエド。天才ハッカーで頼りになりそう。けどフィギュア持ってない。

 スパロボのラトゥーニ。天才スキル持ち。でもフィギュア持ってない。

 グレイス・オコナー。サイボーグでそっち方面もエキスパートっぽい。しかしフィギュア持ってない。

 

 むう。手持ちのフィギュアを確認するのが先か。

 ヨーコとクランに、低重力や真空、地球と宇宙その他必要そうなことを華琳に説明しておいてと後を任せて、俺は2階の自宅へ向かった。

 それから所有フィギュアのチェック。ガチャや食玩系の小さいものも入れれば思ったよりは持っているようだ。この中から探し出さないと。

 

 

 いた! さっき悩んだフロイランと同じドイツ系女体化キャラが。

 作品はアリスソフトの大帝国。第二次世界大戦を元ネタにしているが一応SFなSLGだ。

 大帝国からなら、髑髏アクセサリーつながりでイタリン共和帝国の提督、ユーリ・ユリウスも捨てがたい。

 ロリ体形だし、イタリンの軍服は黒のマイクロビキニだったりするが帽子には髑髏がついている。

 ……けれどやっぱりフィギュアがない。人気ないのかな? 金髪三つ編みで眼鏡のロリで真面目な委員長タイプって、属性多めなのに……。

 

 気を取り直そう。選んだのはドクツ第三帝国の総統、レーティア・アドルフ。

 アイドルもこなす金髪の美少女。

 彼女は宇宙一の天才。総統ではあるが発明もできるし、なんとかしてくれるだろう。

 運痴らしいが、契約してくれて小隊に入ってくれれば鍛錬度貯まりやすいし戦い自体にはなれているはず。

 

 ……ただ、大きな問題がある。

 彼女のアルティメットアイドルルートが一部で――俺のような属性の人たちに――アウトレットルートと呼ばれている。……ではない。そこは残念だったけど。

 彼女が主役のコミックス版では改善されてるし。

 成現する時にそっちのルート後にはならないように注意すればいい。もちろん、東郷――大帝国主人公。俺とは話が合いそうにないモテ男――にも手を出されてない状態で。

 

 問題なのは服。

 持っているフィギュアは、レーティアがイラストでよく着ているミニスカ軍服ではなく水着なのだ。しかもイタリン軍制服の黒ビキニほどマイクロではないが極小ビキニ。

 このまま成現となると、女の子たちの好感度下がるだろうなあ。魔改造(キャストオフ)してなかったのがせめてもの救いか。

 

 水着の上から着れそうなのはなんだろう。彼女のもう一つのユニフォームともいうべきジャージだろうか。でも、1着しかないジャージを渡すのも……よく考えたらジャージは今俺が着てるな。渡すにしても洗濯してからか。

 彼女用にシャツとジーンズを用意。ついでに俺自身も着替えて準備を終える。

 コンカで確認すると必要EPはほとんど貯まっていた。設定を調整するためにさらにEPを籠める。

 ……自分(てめえ)の勝手で人様の過去を改変してしまうとか、俺は何様だ……。

 ふぅ。EP低下で発生するネガティブ思考は慣れてきてもキツイな。回復ベッドの上じゃないから続くし……。

 

 イカン、落ち込むこと考えるの無し!

 明るいことを考えよう。

 そうだ、レーティアが仲間になってくれたら今日こそ宴会をしよう。久しぶりに飲もう。

 って、EP注入に集中しないと!

 

 切り替えられたのは、慣れとEP最大値増加のどっちのおかげだろう?

 

 設定調整が完了した。クランのように本来ない能力を追加したわけではないので、それほどEPは消費しなかったようだ。

 落ち着くために深呼吸してから彼女を成現。時間は10分あれば足りるかな?

 問題なく成功。金髪の水着美少女が現れた。やばい、回復ベットじゃないので興奮したらすぐにばれてしまう。

 急いで用意した服を着てもらった。彼女にはどちらも大きめで、ジーンズは裾を折ってもらっている。

 その後、彼女がフィギュアであること、協力してほしいことを説明した。

「私が作られたものだと?」

「うん。信じられないかもしれないけど」

「わかった」

「え? 信じるの?」

 このパターンは初めてなんだけど。

 さすが天才、というべき?

「あと数分で確認できるのだろう? ゲッベルスの用意したドッキリだとしても私が驚く姿を見せるわけにはいくまい。それに……」

「それに?」

「この服は彼女が用意したにしては地味だからな」

 うつむき、シャツをつまんで視認するレーティア。地味な服でごめんなさい。派手なのなんて持ってねーですって。

 

 

 成現から10分後、彼女はフィギュアに戻った。着てもらったシャツやジーンズもいっしょに小さくなっている。一安心だ。

 それから、目覚まし時計をセットしてベッドのそばにレーティアフィギュアを置いてから寝る。

 まだ外は明るかったが、精神的に疲れていたのですぐに眠れた。

「ここが契約空間か」

 やはり、あまり動揺もせずに興味深そうに辺りを見回すレーティア。

「なにもないのだな。精神世界にしても殺風景すぎる」

「うちの神様、ケチってるからそれも関係あるのかな」

 せめて布団じゃなくて、ちゃぶ台がほしいな。

 ファミリアシートに記入する時も見えない床の上に置いて書くのはやり辛そうだし。

「神、か」

「……ドーラと、ラムダスと戦った記憶はある?」

「ああ。ここの神はあんなのじゃないといいな」

 ふむ。真エンドまでの記憶はあるようだね。

「俺もまだ神様には会ってない。ただ、未熟神で微課金らしい。その修行のために俺は使徒に選ばれた」

「修行?」

「他の神様が手放した世界の救済。まだどんな世界かはよくわからないけど」

 だって拠点から出られてないし。こんなつまづき方するとは思ってなかったなあ。

 

「その救済に私の力が必要だと?」

「うん。契約してくれる?」

「私にファミリアになれと?」

「無理に、とは言わない。……その場合フィギュアのままでいてもらうことになるけど」

「選択肢などないではないか」

 そうなんだよね。フィギュアに戻っても意識はあるみたいだから、動けないフィギィアに戻されるってのは苦痛だろう。

 それか、協力するかの2択なら協力するしかなさそう。

 

「ごめんね。永続的に人間でいてもらうにはGPってのが必要なんだけど、そのGPも華琳の仲間を助けるのに使わなきゃいけないから全然足りなくて」

「華琳?」

「ファミリアになってくれた女の子の1人。古代中国出身ということを考えれば君に匹敵する天才といっていいと思う」

「私に匹敵する天才か。会ってみたいな」

 俺も会わせてみたい。だからレーティアを選んだのももちろん理由の1つだ。

 

「その天才が仲間を救出するために、俺みたいなおっさんのファミリアになってくれたんだ」

 じゃなきゃ俺と契約どころか、話なんてしてくれなかったかもしれない。

 今だって様子がおかしいしさ。

「そうか。囚われた仲間のためか。……わかった、協力してやる」

「ありがとう。じゃここにサインを」

 受け取ったファミリアシートをじっくりと確認するレーティア。

「……契約書ではなく、能力表か。名前だけでいいのか?」

「あとは勝手に埋まるから」

「どれ」

 レーティアが記名し、自動的に空欄が埋まっていく。

「すごいな。どうやって調べてるんだ?」

 ファミシーの記載内容をチェックするレーティアの横から覗く。

 処女だった。よしっ! 心の中でガッツポーズ。

 

「好きなもの、蜂蜜入りのホットドリンク。嫌いなもの、恥ずかしい衣装……合ってるな」

 そんなものまで記載されているのか。

 蜂蜜入りか。美羽ちゃんとアルルゥちゃんとも会わせてみたくなるな。美羽ちゃんは救出するし、アルルゥちゃんのフィギュアは……実家から持ってきてたっけ?

「日本語、読めるんだ」

「ああ。日本軍の提督もやってるしな」

「なるほど。じゃあ、固有スキルは……大帝国一の天才?」

 むう。納得できるけど、効果がわかりそうで全然わからないスキルだった。

「大帝国というのが私が出ている作品か。後で見せてくれ」

「えっ!?」

 どうしよう。

 大帝国って18禁のゲームなんだよなあ……。

 

 

 目覚まし時計の音に起こされて目覚める。

 睡眠中は少し回復速度が上がるようだから、MPもほとんど回復した。

 今日はもう、派遣先には向かわないことを決めて、残りの全MPを使用してレーティアを成現する。

「やはり自由に動けるというのはいいな」

 フィギュアのまんまで自由に動いてくれてもいいのに。最初、そんな効果だと思ったんだっけ、俺の固有スキル。

「みんなを紹介するからついてきて、レーティア」

「な、名前で呼ぶのか?」

 今までで一番動揺した表情を見せるレーティア。その頬は赤い。

 ああ、そういえばほとんどみんな、アドルフって呼んでいたんだ。ゲッベルスか、付き合う男のみにレーティアと呼ばせていたはず。

「悪いけど、アドルフだと君のモデルになった人を思い浮かべちゃうから名前で呼ばせてくれないかな?」

「そ、そういうわけなら仕方ないな、うん」

 赤い頬のまま納得してくれる美少女。

「ん? ……あれは?」

 レーティアがコンバットさんを発見する。充電が終わってこれからパトロールらしい。

「あれはコンバットさん。ゴキブリ退治用の小型ロボット。やっぱり俺の固有スキルで動いているけど、GPでやったみたいでまだ時間切れになっていない」

「小さいのによく動くな」

 感心してるのかな。

「コンバットさん留守番頼むね」

「サー・イエッサー!!」

 敬礼に見送られて俺たちは1階の大部屋へと移動する。

 

「レーティア・アドルフだ。よろしく頼む」

 レーティアを女の子たちに紹介。

 みんな、すぐに打ち解けてくれたようだ。華琳も美少女が気に入ったのか真名を教えていた。

 

「今日はもう、MPがないから出陣はなし。基礎講習修了のお祝いと歓迎会ということで宴会にしよう」

「たしかに気分転換は必要かもしれないわね」

「宴会か。悪くないな」

 反対意見はないようなのでほっとした。

 さて、これで気兼ねなく呑むことができそうだ。

 久しぶりの飲酒に俺は張り切る。

「ここにあるもんで用意するから、そんな期待しないでくれ。酒も少ないし……じゃ、準備始めるから」

 

 大部屋の冷蔵庫を見ながらメニューを考える。相変わらずの量。やっぱり補充されているんじゃないだろうか?

 ……焼き鳥かな。から揚げはまだ残ってるし。

 鶏肉を切ってフライパンで焼く。串には刺さない。というか、串がない。

 クランが手伝ってくれるというので、小説版でうどん作ってたはずだから大丈夫かと判断してそれを任せ、俺は別の作業に移る。

 

 ネギ、キュウリをともに5センチぐらいの長さに切った後、ネギには5ミリおきに斜めに隠し包丁を入れ、キュウリは真ん中にナイフを刺し、その上から斜めに包丁を入れる。ひっくり返してもう一度斜めに包丁。切れ目で2つに分ければ切り違いキュウリの完成。

 簡単にできて、上に味噌を乗せやすいのでモロキュウにピッタリだ。

 種をとった梅干をまな板の上で味噌といっしょに刻み、混ぜる。それを皿に並べた先程のキュウリに乗せる。梅干が大目なので赤い色がキュウリの緑によく映えるね。

 ネギは鶏肉といっしょに焼いてもらって、その間に醤油、砂糖、ミリン、酒でタレをつくる。小指につけて味見。……これでいいでしょ。

 それをフライパンの鶏肉とネギとからめて焼き鳥のできあがり。

 

 玉ネギは皮を剥いたら縦に半分に切ってから切断面を下にして薄切り。丸いままだと安定しなくて切りにくいからね。

 器に盛って、削り節と醤油、ゴマをかける。

 あえて水にはさらさない。栄養が流れちゃうってのもあるけど、俺、スライス玉ネギは辛い方が好きだから。

 

 椎茸は石づきをとって、裏側にチーズを乗せてオーブンで軽く焼く。

 焼きたての熱い内に醤油をかけると、溶けたチーズにジュっと音を立てて醤油がからむ。

 香りがたまらないな。つい、いっしょに焼いた石づきにも醤油をかけてつまみ食い。

 

 キャベツとハムは3、4センチに四角く切って混ぜ合わせ、塩、ゴマ油で味付け。仕上げにレモン汁を絞る。

 冷奴にはおろしショウガ。

 

 こんなもんかな。ビールにも日本酒にも合う簡単ツマミは。

 スタッシュから残っているから揚げや他の料理も出して、と。

 2階の自宅から酒持ってこよっと。

 

 

 ウキウキと酒を持って戻って、みんなと乾杯。

 くぅぅ、久しぶりのビールは美味いなあ。発泡酒だけどさ。

「辛いわ」

 警告するのを忘れていた玉ネギに華琳が顔をしかめている。

「こっちは甘いから」

 と焼き鳥をすすめておく。

 無言でそれを摘む華琳。……まだ駄目なのか。

 落ち込んだ気分を晴らすために、酒を呷る。

 もう発泡酒は空か。最後の1缶は入荷してもらうために百貨店に売らないといけないから、日本酒にしよう。

 

「む。もうおわりか」

 評判よかったようで、多めに焼いた焼き鳥がすぐに終わってしまった。

 涼酒君たちの分もとっておけばよかったか。

 早く帰ってくればいいのに。……っ、この涙は玉ネギの辛さのせいだい。

「大丈夫なの? そんなに飲んで」

 ヨーコが俺を心配してくれる。やっぱペース早いかな。

 そう思いながらも手酌で日本酒を注ぎ、スタッシュに入れっぱなしだった鶏皮チップスもどきを摘む。酒がすすむなぁ。

 

「あの派遣先が、酒を買いやすい世界だといいなあ」

 我ながら駄目っぽい発言だ。

 でも、さすがに自分で酒を作るのは大変そうだし。

 ……華琳はやってたけど。

「……ミシェルが生きてる世界だったらな……いや、それは私のミシェルではないか」

 呟いてからぐいっと梅酒を呷るクラン。

「クラン」

 その呟きに自分と似た境遇を感じたのかヨーコが慰めようとするが、次を言う前にクランが迫る。

「クランじゃない! お姉さんと呼ぶのだ!」

「……シモンもカミナをアニキって呼んでいたわね……」

 今度はヨーコか。

 2人とも酔っているなあ。

 

「2人は姉妹なのか? クランの方が年下に見えるのだが」

 どこか羨ましそうに2人を見ていたレーティア。

 ああ、レーティアは妹を亡くしていたんだっけ。

「義姉妹だ。詳しいことはシラフの時に聞いてやってくれ」

 今は面倒そう。

 ……ふむ。レーティアなら華琳と姉妹でも通用するかもしれないな。道具が手に入ったらくるくるにしてもらおうかな?

「……煌一」

 ポリポリとモロキュウをツマミに日本酒を飲んでいた華琳が突然、俺を呼ぶ。

 俺の考えが読まれた?

「なっ、なに? お酒が気に入らなかった?」

「……こっちにきなさい」

 お酌しろってこと?

 機嫌なおったのかな、と喜びで油断していた俺は椅子から立ち上がって華琳の元へと近づいてしまった。

 

「クラン姉さん」

「う、うむ!」

 クランが泣いてるのはさっきのと、華琳に姉と呼ばれたのとどっちだろうかね?

「ヨーコ」

「なに?」

「レーティアもよく見てなさい」

 3人が注目したのを確認してから唐突に華琳の手が俺の顔に伸びて、眼鏡を奪ってしまった。

「え?」

 

 ……俺の眼鏡が奪われた?

 慌てて俺は両手で顔を隠す。

「い、いったい何を?」

 だが、返事は返ってこない。

 かわりに、俺の呪われた顔を見てしまった3人から、震えた声が聞こえる。

「な、なんなのだ、その顔は……」

「獣人? いえ、それよりももっと……」

「不気味な……」

 フィギュアから生まれた3人ならもしかしたら、と淡い希望を抱いていたけど、やっぱり駄目だったか。

 

「やはり、ね」

 華琳から冷たい声。

「煌一、皆、あなたの素顔に凄まじい嫌悪感を感じているわ。それは生理的、本能的なもの」

「そんなの、わかっていたさ! だから隠していたんじゃないか!」

「待ちなさい」

 華琳から眼鏡をひったくって、俺はアパートを飛び出した。

 

 

 ううっ。せっかくいい気分で酔っていたのに……。

 俺は路上に盛大に吐いた。

 もう会えない。文字通り会わす顔がない。

 やっと、俺と普通に話してくれる女性と会えたのに……。

「死のう」

 無意識に呟いて、はっとする。

 どうせ死んでも復活する。

「それに、復活するの、アパートじゃないか」

 幽霊となった俺は見えないだろうけど、もしも彼女たちに俺が見えて、毛虫やゴキブリを見るような目で見られてしまったら……。

 ううっ。

 再び泣きながら吐いた。

 

 どうすればいいんだろう?

 俺の固有スキルで整形できればいいのに……。

 吐くだけ吐いて、もう胃液しか出なくなっても吐き気がする。

 病院へ行くか?

 回復ベッドなら弱った俺の心も治してくれるだろうが、顔の呪いはとけない。

 それにもう基礎講習を終えてしまった。ベッドの使用にはGPがかかる。

 

 どうすればいいんだろう?

 彼女たちは諦めるしかないのか?

 もしかしたらと希望が見えてきていた、憧れ続けていた結婚を諦めるしかないのか?

 だって、女の子たちはもうアパートから出て行くかもしれないしさ。俺の顔なんか見たくないって。

 どこか住むとこが見つかるといいけど。

 

 どうすればいいんだろう?

 俺の顔が平気な女の子がいればいいのに……。

 ……家族なら平気だけど。

 なら、家族になってもらう?

 もう顔を見られている。結婚なんてしてくれるわけがない。

 ……義姉妹に俺も入れてもらって義妹になってもらう?

 顔を見られてなきゃなあ……。

 

 どうすればいいんだろう……。

 

 

 

 

「……起きて、こういち。もう朝だよ」

 揺すられて目が覚める。今、何時?

「ふぁ、おは……え?」

 ……ここどこ?

 見覚えのないベッドで俺は寝ていて。

「おはよう」

 ベッドのそばに女の子が立っていて。

「寝る時は眼鏡外せよな」

 手には俺の眼鏡を持っていて。

 

 ……あれ? 俺の素顔平気なの?

 

 


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