ずっとずっと憧れ続けていた結婚。
実は女神の祝福だと知らなかった俺の呪いにより、無理だと諦めていた結婚。
それがついに叶う。
……と言っていいんだろうか、これ?
「ほ、本当にいいのか? 俺なんかと結婚しちゃって……」
「煌一の顔が平気になってじいぴいも入手できる。問題があって?」
GP入手がメインぽいなあ。
「あんた、金目当てで結婚すんの?」
梓が華琳を
「違うわ。じいぴいは手段よ」
「GPでメダルを買って仲間を救出するため、ってのが目的なのはわかるけどさ。結婚ってのはもっとこう……」
「構わないわ。相手もいなかったもの」
主人公の北郷一刀以外は、対象になりそうな男性がいない世界だったのかな。
「貴様が飛び出してから、皆と話し合ったのだ。貴様と結婚するか、それとも人形に戻るか、とな」
「そりゃ悩んだけどね……」
クランとヨーコは死んだ相手に操を立ててるんじゃなかったの?
あとなに、その2択。他にも選択肢あるでしょ? 俺がすごい悪人みたいじゃないさ。
「結婚というものにも興味あるしな」
レーティアは興味本位ですか?
まあ、大帝国主人公の東郷は手を出しても結婚はしてくれないというタイプだった。だからあの主人公とは話が合いそうにないんだけどさ。
む、北郷と東郷か。あとは西と南か。西南……腐レッシュなカップリングみたいだな。
あ、GXPの主人公も西南だったっけ。あっちも重婚だったけど、俺とは比べ物にならないよな。だって好いていてくれてるもん。
俺が現実逃避してる間に梓が沸点を超えてしまったらしい。
「あ、あんたらねえ! こういちを好きでもないやつと結婚なんて、あたしが許さない!」
「あら、それはあなたもでしょう、梓。その気持ちは作り物の気持ちなのだから」
華琳の挑発のせいか、梓の雰囲気が変わった。
梓の足下からミシミシと軋むような音が聞こえる。
全身から陽炎のようなものが立ち上っている。
そして、その瞳から夜行性の獣のような光が。
「それが梓の固有スキルなのかしら?」
どうなんだろう。体質というか、血筋なはずだけど。
「か、華琳、梓の固有スキルはなんて?」
「『鬼の子』よ」
やっぱり。柏木家は鬼と呼ばれた宇宙人の血を受け継ぐ一族だもんなあ。
あ、鬼だから恋姫キャラと仲が悪いとか? 新作では鬼が悪役だったし。
……いや、華琳がなんか攻撃的なのは俺の
2人から漂う殺気で、洒落にならん緊張感が漂っている。息をするのも辛いほどだ。
EP強化してなかったら俺、気絶してただろうな。……そっちの方が楽だったかもしれない。
「梓、落ち着いて。華琳も挑発しない」
震える声で2人を説得する。
「……こういち」
梓が鬼モードを解除してくれたらしい。
ふぅぅ。大きく息を吐いて緊張した身体から力を抜く。……朝から疲れる。
「そうね。梓が嫌なら仕方ないわ」
「べ、別に嫌とは言ってないだろ!」
今度は鬼化せずに真っ赤になって梓が怒鳴った。
ええと、梓もオッケーってこと?
「というわけだから、煌一」
「で、でも……やっぱり愛のない結婚なんておかしいよ」
「結婚なんてそんなものよ」
そうなの? それとも政略結婚が当たり前なのかな、華琳ぐらいになると。
「こ、こういちは、あた……あたしたちのことが嫌いなのか?」
「そんなことはない! むしろめっちゃ好き!」
うん。それは確か。
「即答ね」
「じゃなきゃフィギュアなんて持ってない。成現の対象に選んだりしない」
戦う可能性が高いから、戦闘力やその他をメインに選んだとはいえ、憧れの結婚のためにどうせならと、好みの女の子を選んだのも事実。
いっしょに戦ってれば、愛情も芽生えるかもしれないしね。つり橋効果ってやつを期待するしかないでしょ。……使い方違うかな?
「やはりそんな理由で選んでいたのね。美しい少女ばかりなわけだわ」
華琳の呆れた声とため息。
「だって、今まで諦めていたものが、急に手が届きそうになったんだよ。そうなるでしょ?」
それは錯覚だったんだけどさ。……
「結婚に憧れていたのでしょう? 素直に喜びなさい」
「で、でも……」
「愛のない行為を恐れているのね?」
いや、そうじゃなくて。
って、行為?
もしかしてそれって性行為?
愛があっても恐れてますけど。未経験だから。
……したくないわけじゃないよ。むしろしたい! させて下さい!!
「安心なさい。そっちはお預けよ」
「や、やっぱり俺のことが嫌いだから」
「違うわ。あなたの隠しすきる『魔法使い』を失わないためよ」
……そうか。
華琳、君もか。
君も女神といっしょで俺を道具としてしか、見ていないのか……。
「皆を助け出すのには、煌一の力が必要よ」
「ふーん」
なんかもうどうでもいいや。
どうせ俺には憧れの新婚生活なんて夢のまた夢だったのさ。
もう醒めた。
嫌々なふりをしていても、実はすごく嬉しかったのに萎え萎えだ。
「もし、全員助け出したら、その時は……全てをあげるわ」
「へー」
どうせ助け出した連中に邪魔されちゃうんでしょ。それとも離婚させられるのかな?
「……信じてないわね」
「どうでもいいよ、もう」
「結婚はしてくれるのね?」
「いいよ。……ただし浮気は許さない。そのためのアイテムもつけてもらう。それでいいのなら」
こうなったら、俺も目的のために手段を選ばないことにする。
彼女たちには俺以外の選択肢は与えない。
外道になりますよ、ええ。
朝まで寝て回復していたMPで梓の成現時間を延長した。
契約空間へは人形にならなくてもいけるようだから問題はない。
その後、結婚の準備をすることとなる。
「市役所がなくて婚姻届を出せなかった経験から、自分が市長になったゼントラーディがいたのだ」
たしかミリアだったかな。シティ7市長の。
クランがなぜこんなことを言ってるのかといえば、結婚の手続きをする場所にあるわけで。
「サービスセンターかよ」
まさか百貨店から出ないで、もう結婚するとは思わなかった。
心の準備なんてあったもんじゃない。
「書類が必要な手続きはだいたいここで行えるらしいわね」
マニュアル片手に華琳が解説してくれた。
「この婚姻届に署名しなさい」
婚姻届といっても、名前を書く欄しか空いていない。捺印する場所もない。
ここのシステムでは、キャラシートやコンカなど本人が記入することが重要なのだろう。記入したら空欄が埋まることを考えても偽造は意味がなさそうだ。
ただ、名前の欄は6名分も空いていた。
結局、俺の思惑もあったが華琳に押し切られる形でそれぞれ婚姻届に記入。俺たちは結婚してしまった。
「結婚式は?」
「そんな余裕はないでしょう? 招待客も呼べないし」
そりゃそうか。なんとも味気ない。
……2人だけの結婚式ならぬ、6人だけの結婚式でもいいのになあ。
いつか、結婚式してやる!
「これが御祝儀? なんかかなりGPが増えているけど……」
予想以上に増えているな。
コンカで確認していたら男の声が聞こえた。
「そりゃ新婚さんが新居買うための足しにってあるんぜよ」
「涼酒君? 帰ってたの?」
「おう。今やっと帰ってきたとこじゃ。そしたら異常な魔力を感知したんで慌ててきたとこじゃ」
また感知・魔力か。異常ってのは喜んでいいんだか。あんまりな表現じゃない?
久しぶりに見る大きな学ラン姿の男と、その後ろにいるのは中学生くらいだろうか? 茶髪でピアスをした可愛らしい……女の子?
「あ、ちぃーッス。田斉柔志郎ッス」
……え?
「なんか凄いことになってるみたいッスね」
あまりに予想外のキャラに一瞬思考停止してしまった。
「田斉君?」
「なんスか?」
「メールやチャットの時と雰囲気違わない?」
違いすぎでしょ? 俺のイメージだともっと真面目ぶった眼鏡男子だったのに。
髪は生え際が黒くなってきているってことは染めてるんだろうし、ピアスとかなんかチャラい。でもそれよりも的確に表現するなら、可愛い。
これがいわゆる男の娘?
「オレ、文章書く時は緊張してああなるッス。あと、こう見えてもう成人式済ませてるッス。子供扱いはしないでほしいッス。気にしてるッス」
ピアスは子供っぽく見えないようにするため? 効果はないっぽいけど。
……ええと、この子も女神のせいでこんな外見なんだろうか?
「華琳、田斉君も祝福持ってる?」
華琳に鑑定してもらう。杞憂だったらいいんだけど。
「……ええ。加護があるわね。効果は煌一のと違うようだけど」
やっぱりか。この子も呪われているのか。罪状プラス1、と。
「涼酒君」
「なんじゃ?」
「俺たちの神様ってさ、女神なの?」
涼酒君なら知ってると思う。いや、知っているはずだ。
妙にこのサイコロ世界やシステムに詳しいし、不自然な点が多い。神を崇拝している様子はないが、支持している。関係者と見て間違いないだろう。
「ん? 女神さんじゃないぜよ? なんでそんなことを聞くんじゃ?」
「俺と田斉君に祝福っていう呪いをかけた女神のことを知りたいんだけど」
「な、なんじゃと!? ……知らんぜよ、そんなこと」
明らかに怪しい。
女神じゃないってのは本当でも、女神を知らないってのは嘘なのかな?
「華琳、鑑定お願い」
「……種族が妙ね。人間とはなっているけど……その後の括弧の中身が見えないわ」
華琳ちゃんでも駄目か。でもこれで確信できた。
涼酒君は人間じゃない。
「涼酒君、正体を明かしてくれないかな?」
「どしたんスか? オレが呪われているってなんなんスか?」
……やっぱり別人じゃないかな、田斉君。
あ、よく見たらこの子アホ毛生えてる。詰め込みすぎでしょ。
「これから説明してくれると思うよ」
「せ、説明と言われても困るぜよ。ワシはワシじゃし……」
「ふーん。じゃあ、君がここの、この面の神様ってのは当たっているかな?」
それが一番納得できるんだけど。
修行なはずなのに、姿を見せない神様っておかしいよね?
使徒にまかせて自分でやらないにしても、なにか指示は与えるはずでしょ。
違ったとしても神に近い関係者だと思う。それが神様って言われたら正体明かすんじゃないかな。
「な、なぜそれを!?」
うん。神様の方だったか。
「え? このアホが神様スか?」
……君もじゅうぶんアホの子に思えてきたんだけど……これも女神が悪いんだね。
ほろり。思わず涙が滲むよ。
「これが神様?」
「そうは見えないのだぞ!」
「後で細胞もらっていいか? ちょっとでいいから」
名ばかりとはいえ、俺の嫁となった女の子たちも驚く。……1人、妙なことを言ってたけど気にしない方がいいだろう。
「……ワシはのう、ここの神さんの
「ああ、なるほど」
「なんスか、それ?」
まあ、滅多に使わない言葉だから知らなくてもアホではないか。
「ほら、同じ神様を祀っている神社っていくつかあるだろ?」
「同じ神様スか」
「うん。別々の場所なのに同じ神様。神様はどっちにいると思う?」
本社と分社のどっち?
「どっちって……」
「両方にいるんだよ。どっちも本物の神様なんだ」
「神様って分身するんスね」
まあ、そんなとこだ。俺も詳しくないから違うかもしれないけど。
「つまり、簡単にいえば涼酒君は神様のアバターってとこ」
「なるほど。そっちの方がわかりやすいッスよ」
「アバターってなんぜよ?」
アバターの語源はたしかアヴァタールじゃなかったけ? 宗教的な専門用語だったら君の得意分野じゃないの?
「あとで調べなさい。それよりも、なんで神様なことを隠していたのさ?」
「……ワシゃあ、この開闢の間でも落ちこぼれでのう、自分の世界は持ってはいるんじゃが、プレイヤーになれるほどの
神様としてのプライドが原因とか。その外見でなんというシャイボーイ。
けど、姉ちゃんか。
「そのお姉ちゃんが、俺たちを呪った女神か」
「……ほうじゃ。おんしらの世界の神さんぜよ」
チッ。
つい舌打ちしてしまう。下品だがそんな気分なのだ。
俺たちの世界の神が敵とは。郷土愛が消し飛んだ気分だ。
「この呪い、涼酒君に解ける?」
「無理ぜよ。ワシは落ちこぼれぜよ。そんな力はないぜよ」
チッ。
思わず「使えねえ」と言いそうになって堪える。涼酒君は悪くない。
それどころか、涼酒君のおかげで呪いの正体にも気づいたし、名義上だけでも結婚できたといってもいいだろう。
恨みはすまい。感謝もしないけどさ。
「じゃ、じゃけど、修行が進んでワシの力が強くなればその加護は解除できるはずぜよ」
「本当か?」
「お、おう……姉ちゃんには怒られるじゃろうけど……」
ふむ。お姉ちゃん怖いのかな。
でも、関係ないよね。
「絶対に解いてくれるか?」
「神に二言はないぜよ!」
本当だろうか?
金目当てや道具扱いの結婚のせいで、疑い深くなっている。素直に信じることができない。
けどまあいいか。今は信じることにしよう。
全ては夢見た新婚生活のためだ!
「わかった。俺も世界の救済とやらを頑張るから、必ず呪いを解いてくれ」
「了解したぜよ。……おっさん、なんか変わったのう」
「男子三日会わざれば刮目して見よ、ってやつだ。扶養家族もできたしな」
利害関係で結ばれた、だけど。
「それはめでたいッスねー」
なんかこう、このアホの子には癒される気がする。
ささくれた俺のEPが回復していくようだ。
「で、オレの呪いってなんなんスかー。教えてほしーッス!」
ただ、幽霊の時に俺の顔、見られちゃってるんだよね。
祝福持ち同士で効果が発揮されてないならいいけど、もし違うならヤバイ。田斉君って美少女、否、美少年だもんなあ。
なんか信じてた女性に裏切られた今なら、男の子でもいいか、って思えてきちゃうかもしれないし……。
「呪いってのは正確には呪いじゃなくて、女神の加護らしい。もっともそれは名ばかりで効果は呪いとしか言い様がない。君の場合はたぶん、その外見だろうね」
「……マジッスか!」
「大マジ」
「許せねーッス! オレがどんだけこのルックスで悲しい思いしたと!」
うん。涙まで流して怒るのもわかるよ。
「その気持ちはよくわかる。俺も似たようなもんだ」
「天井さん……アニキって呼んでいいッスか?」
……頬を染めて言わないでくれ。一瞬ドキッとしたじゃないか。だって見た目は、涙で瞳をウルウルさせた美少女なんだもん。声まで可愛いし。
やっぱり呪いの効果が発動しちゃってるっぽいなあ……。
だが、これはチャンスだ。
呪いを無効化するチャンス!
「いいよ。本当の兄弟と思ってくれ。今から俺たちは義兄弟だ、柔志郎!」
「アニキ!」
どうだ。これで田斉君、いや、柔志郎は俺の義弟、俺の家族。呪いの効果は消えるだろう。
惜しかったなんて思ってないやい。
……ちょっとしか。
「そろそろいいかのう? ワシらもサービスセンターを使いたいんぜよ」
ああ、入手したアイテムでいらないものを売りにきたのかな?
「うん。あとでもっと詳しいことを教えて」
知りたいことはまだまだあるからね。
「……仕方ないぜよ」
ため息をつきながら、スタッシュからカップラーメンを次々と取り出す未熟神のアバター。
ふむ。百貨店に入荷したいのね。よほど気に入ったのだろう、かなりの種類を持ってきてるな。
そして買取用紙に自分の名前を書いて……そのまま、『記入した用紙はこちらへ』の箱へと投入しようとした。
「ちょっと待った!」
「な、なんじゃ!?」
慌てて涼酒君の腕を掴んで止めた俺に彼も驚く。
もしかして、いつもこうやってたのか?
「なんじゃじゃないっての。買取用紙の使い方、知ってるの?」
「名前を書いて、ここに入れるだけぜよ」
駄目だ、自分で落ちこぼれって言うのも伊達じゃなさそうだ。
「柔志郎は?」
「え? なんか違うんスか?」
お前もか。
やれやれと大げさに首をふってため息。
「まあ、見てなさい」
カップ麺の銘柄別に用紙に記入してみせる。
これは意外と早くGP稼げるかもしれない、と思いながら。
オリ主、やさぐれモード
でもやっと目標がはっきりしました