真・恋姫†有双……になるはずが(仮)   作:生甘蕉

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21話 初夜

「こ、こんなにGPが違うんか?」

「ちいとめんどくさいッスけど、違いがはっきり出ますッスね」

 初物ボーナスの効果に驚いているのは、俺よりも先輩なはずの同僚2人。1人にいたっては、俺たちで一番システムを知ってなきゃいけないはずの人物、いや神だったりする。

 

「これからはちゃんと分別して記入するように」

「け、けど、そいつはせこすぎやせんかのう? どうせ初物は1回きりなんじゃし」

 まったくこの未熟神は……。

 メンドクサイだけなんじゃないだろうか?

「いいかい、その1回なら間違えて売ったとしても、損はない。入荷目的なら尚更だ」

「そうッスね。食料品でこれなら、金額の大きいものを売った時の効果は大きいはずッス!」

 うん。柔志郎は素直にわかってくれたようだ。

 

「ワシはちまちましたことは苦手ぜよ!」

 今度は開き直るの?

「神様なんだから、そういうのも慣れなさい。もしくはそういうのを担当する秘書っぽいファミリアでも見つけるかして」

 もしかしたら神としての修行の一環でこういうボーナスもあるのかもしれない。

 ……神の仕事ってなんだろう? 気になるけど、涼酒君に聞いてもわからなそう。……というかガッカリしそうなので聞かないことにする。

 俺内部で涼酒神の株が急降下中だから。

 

「ほ、ほいじゃ、おっさん頼むぜよ」

「おっさん? 君、神様ってことは俺より年上なんじゃないの?」

 冷めた目で彼を見るパフォーマンス。すぐに頼まれてもいいんだけどね。

「たしかに本体はなん億歳かじゃが、ワシのこの分霊(からだ)は見た目通りぜよ」

 歳ぐらい覚えてないの?

 ていうか、億ってどんだけ生きてんのさ。

「剣士、人にものを頼む態度ってものがあるッスよ」

「……わかったぜよ。おっさ……煌一さん、お願いするぜよ!」

 うん。こんなもんでしょ。

 俺も色々とあってイラついていたけど、これ以上はいけない。だって相手神様だし。俺の呪い解いてもらわなきゃいけないから仲がこじれても困る。

 

「いいよ。でも、手数料貰うからね涼酒君」

「おう、それぐらいかまわんぜよ」

 よし! これで少しでもGPが稼げそうだ。

 

「ふむ。なあ、それなら一気にGPが稼げないか?」

 レーティアも気づいたようだ。

「昨日聞いたのだが、そこの田斉の世界にはそれなりに品があるのだろう?」

「まあ、ほとんどオレたちんとこと同じッスから、ここよりはあるッスよ」

「ならば、食料以外でも銘柄別に分ければ、初物ボーナスでかなり稼げるはずだろ?」

 うん。俺もそれを考えていた。

 武器防具の入手はしにくいかもしれないけど、アイテムは多いはずだ。

 

「スタッシュには入らないかもしれないけどさ、車とかってけっこう高く売れそうじゃない?」

「自動車ッスか。たしかに放置されたままッスからねえ。ゾンビは運転できないみたいだったし」

「車種、年式で分別すれば中古車でも初物ボーナスで稼げそうじゃない?」

 新車はディーラーさんのとこにあるのかな? ……納入されたタイミングじゃないと無理そうかも。

「なるほど。……自動車は無理でも単車ならいけそうッスね」

 ああ、そっちもあったか。

「別に車じゃなくても、家電製品でもいいんじゃない? さっき見たけど、この百貨店にあるのは古いのばっかりだし」

 7階からエスカレーターで下りてくる時に家電売り場もチラッと見たけど、昭和って感じの売り場。テレビもブラウン管だった。

 初物ボーナスがつくなら、入荷させるって意味だけでも持ってきて損はないと思う。

 

「ゾンビ?」

 梓が怪訝な顔をしてるな。

 そろそろ説明するかな?

「基礎講習って何度受けても無料なんだよね?」

「おお、ただしGPが貰えるのは初回プレイヤーのみで、訓練で回復できるのも初回受講者のみじゃがのう」

 無料回復はそうはできないか。

「じゃあ、梓とレーティアは基礎講習を受けてもらおう」

 今日の予定が決まったな。

 その間に俺たちは柔志郎担当の世界へと……。

 

「待つんじゃ、おっ、煌一さん」

 なんとか言い直した涼酒君が俺を止める。

「柔志郎の世界に行くんなら、隠形を覚えてからの方がええ」

「あ、そうッスよ。アニキの魔力だと、あっという間にゾンビに囲まれるッスよ」

 そうだった。

 MPを強化しすぎた分、俺は感知に引っ掛かりやすいんだった。

 

「教えてくれるかい?」

「もちろんスよ、アニキ!」

「よろしく頼む」

 俺たちも勉強のターンみたいだね、今日は。

 出陣できそうにないかな?

 

 それから、サービスセンターで売るだけ売って、アパートへの帰り道。

 訓練場である小学校へと直接向かわなかったのは、朝食もまだだったからだ。

「屋上で食ってもよかったんじゃがのう」

「まあ、俺の……よ、嫁さん……がつくってくれたみたいだしさ」

 名ばかりとはいえ、嫁さんというのが妙に気恥ずかしくてどもってしまった。たぶん俺の顔は今、真っ赤になっているはず。

 梓を除く嫁さんたちは俺を探しにくる前に朝食の準備をしてくれたらしい。俺の場所はわかっているので、それから迎えにきたのだ。

 

「なんじゃ、嫁言っちょるその女子(おなご)どもは、煌一さんの固有スキルでつくったんか」

 つくったってのはあんまりな言い方じゃ……神だとそれも当たり前なのか?

「俺のスキルでこの姿になっているけどさ、ちゃんと人間扱いしなさい」

「お、おう。……さすがじゃのう! 煌一さんの『成現』は」

 大声で俺を褒める涼酒君。誤魔化してるつもりなんだろう。

「やっぱり知っていたのか」

「もちろんぜよ! 姉ちゃんに頼み込んで、やっとプレイヤーとして貸してくれたんぜよ。もしも上位スキルの『顕現』持ちじゃったら絶対に貸してもらえんかったぐらい凄いスキルなんぜよ!」

 貸し出しって、やっぱり道具扱いか。それも本人に説明も了承もなしで。

 神ってのはまったくもう。

 

「煌一さんは姉ちゃんのお気に入りなんぜよ。じゃから加護も与えちょるんじゃ」

 非常に巨大な迷惑だ。

 そんなものいらない、はっきり言って邪魔なのに。

「お気に入りをよく貸し出したッスねー」

 同じく加護持ちの柔志郎もたぶんお気に入りだぞ。

「そ、そりゃ姉ちゃんはワシのことを可愛がってくれちょるからのう……」

 怪しい。

 可愛がってもらえてる感じがしない。

「で、本当の理由は?」

「そ、そんなんないぜよ!」

 絶対あるね、これは。

 でもこれ以上は聞けそうにないかな?

 押すだけじゃ駄目だ。こっちにも餌がないとね。

 

「まあ、それも後で聞くとして。彼女たちは俺の大事な嫁さんだから、手を出しちゃ駄目だよ」

「剣士、わかってるッスね?」

 いや、危険なのは涼酒君じゃなくて柔志郎の方。可愛いし。

 まあ、手を出すじゃなくて、出される方かもしれんが。

「さらに嫁さんたちは俺のファミリアになってくれてるんだ」

「じゃから基礎講習か。ふむ。ファミリアに講習を受けさせるのは思いつかなかったぜよ」

「オレたちのファミリアも復活させて、いっしょに基礎講習受けさせるッスよ!」

 死亡してカードに戻ったファミリアは本拠地や拠点じゃないと復活できない。京成金町駅を拠点にできた2人は疲れもあって、すぐにこっちに戻ってきたそうだ。

「受けさせてなかったの?」

「基礎講習を終えるまでは契約空間に入れなかったッスよ」

 なるほど。やはり夢で契約空間に入るのはイレギュラーな事態だったのか。

 

 

 やっとアパートに帰ってきた。

 昨日飛び出した時は戻ってこれるなんて思わなかっただけに、妙に感慨深い。

「あ」

「どしたんじゃ?」

「アニキ?」

 忘れてた。

 アパートを見て、住居問題を思い出した。俺の家で6人が暮らすのはちょっと大変そう。

 3DKと、1人暮らしするには贅沢なくらいの物件だったけど――ワケあり物件で家賃はそんなに高くなかった。主に隣の爺さんが原因だと俺は思っている。夜中にお経が延々と聞こえたりしたし――小さい部屋はプラモやトイ等でもう埋まっている。箱も捨てたくないのよ。

 

「涼酒君、アパートの空き部屋使っちゃ駄目かな?」

「空き部屋?」

「ほら、俺んとこ、人数多いでしょ? ちょっと無理があるかなって」

「そうじゃのう……仕方ないぜよ、部屋を1つ開放するぜよ」

 よかった。これで大部屋で寝ないでも済むかもしれない。

 

「どうする? 煌一さんの部屋を拡張するか、隣の部屋を用意するかどっちかになるぜよ」

 隣、となると205号室かな?

「隣を用意しなさい」

 華琳が決めてしまった。

 やっぱり俺と暮らすのが嫌なのか……。

「そうすれば、風呂と厠も増えるのでしょう?」

「なんじゃ? おっさんの部屋は風呂もついちょったんか?」

 驚きのせいか、おっさん呼びに戻っている涼酒君。

 

「涼酒君のとこは違うの?」

「もちろんぜよ」

「剣士んとこは4畳半、オレんとこは6畳1間ッスよ」

「そうなの?」

 どうやら、部屋ごと召喚されたのは同じだが、自分の部屋という条件だったらしい。涼酒君はイメージ的にそんなものと思い込んでいたようだ。

「ここの昭和臭は涼酒神のせいだったのか」

 百貨店屋上の双眼鏡で見た面には街もあった。あっちはこの面よりも発展していたから、神の好みによって面が構成されているのだろう。

「ワシはGPが少ないから、基本セットを選ぶしかなかったんじゃ……」

「なるほど……だとすると、隣って4畳半?」

 それだとみんなが暮らすにはちょっと足りない。

「いや、煌一さんの部屋をコピーして204号室をつくるぜよ」

 そんなことできるんだ。

 第49初期本拠地荘なのに4号室が欠番扱いだったのって追加できるようにってこと?

「それってやっぱりGPがかかるのかな?」

「今回はワシが出すぜよ! 結婚祝いじゃ」

 ふむ。それで正体を隠していたことをチャラにしようという腹かな?

 まあありがたいんで、それでもいいか。

「そんかわし!」

 む? なにか条件を出すというのか?

「ワシんことも名前で呼ぶんじゃ! なんか除け者みたいぜよ!」

「それでいいの? じゃあ……剣士君」

「君はいらんぜよ!」

「剣士?」

「おお!」

 嬉しそうに強面の顔が笑う。義弟となった柔志郎のことを呼び捨てにしているから、疎外感を味わっていたのかもしれない。ン億歳のワリに彼は子供っぽいなあ。

 

「剣士、オレんとこも頼むッスよ」

「そっちは後回しぜよ! もっとGP稼いで自分でするぜよ」

「ケチッス!」

 神とわかっても柔志郎の態度は変わっていない。仲良さそうだな。

 いい友達なのかもしれない。……傍目には身長差の大きなカップルがイチャイチャしてるようにも見えるけどね。

 

 そして朝食。

「……マジッスか」

「おお……」

 なんか2人が感動している。

 気持ちはわかる。女の子の手料理だもんなあ。

 半分くらいは俺が作った料理を共有スタッシュに入れておいたものだけどさ。

 まあ、考えてみれば何日もゾンビだらけの街で、まともな食事はしていなかったのかもしれない。剣士なんてカップラーメンを有難そうに大量に持ち帰ってきたぐらいだし。

 

「まさかここでカレー以外のメシが食えるとは思わんかったぜよ」

「本当ッス」

 え? カレー?

「冷蔵庫にかなり食材あったのにカレーだけだったの?」

「オレ、カレーしか作れないッスよ」

 むう。見た目は可愛い女の子なのに、料理はできないのか?

 ……いや、コダワリがあるのかも知れないな。インド人の血が流れているとかで。

「剣士は米をとぐのに洗剤使ったりしてさらに役立たずッス」

 料理あるあるまで昭和チックなのか。

 落し蓋を本当に落下させる、もやりそうだな。

「ワシは食う専ぜよ、おかわり」

 大きな丼でご飯をかきこみながらの剣士。まあ、ガタイを考えればそりゃ食うか。

「オレもおかわりッス」

 小っちゃい見た目とは裏腹に柔志郎も食うな。よほど腹が減っていたのか。

 その食欲に俺と嫁さんたちも呆れる。

 

「ゴチソウさまッス」

「うまかったぜよ」

 気持ちのいい食いっぷりで、2人は食事をおえた。

 デザートの牛乳かんも好評だった。また作ろう。今度はプリンかな?

「お粗末さま」

「アニキには感謝ッス。一生ついていくッス!」

「大げさな。だいたい、食材はほとんど冷蔵庫から出したんだから君たち持ちだろ?」

 うん。俺の懐は痛んでいない。

 それにしてもあの冷蔵庫いいなあ。

 やはり自動補充機能がついているらしい。補充した分GPは消費されるようだけど。

「これからも料理は煌一さんたちに頼むぜよ」

「お願いするッス」

 ふむ。俺だけなら大変だけど、梓もいるからいいかな?

 材料費出してくれるなら、こっちも助かるし。

「出陣してる時は無理だけど、それ以外ならいいかな? 食費はもらうよ」

「ありがとうぜよ!」

「さすがアニキッス!」

 ……初物ボーナス教えた時より喜んでない? やっぱり胃袋握るのは重要なのね。

 

 

 少しの食休みの後、2人のファミリアの復活。それぞれの部屋で復活させたファミリアを連れてきた。

「これがオレのファミリア、カシオペアッス」

 柔志郎のファミリアは中型犬ぐらいの大きさの……。

「犬?」

「狼ぜよ!」

 剣士がそう言うけど、俺のイメージの狼と違う。こんなだっけ?

 犬とも違うようだけど。

「じゃから、そいつはニホンオオカミぜよ!」

 それって絶滅してなかったっけ?

 後でインターネットで調べてみるかな。

「その名前って寝台特急から?」

「そうッス! わかるッスか!?」

 嬉しそうだな。やっぱり鉄ちゃんなんだろうな。

 同じ寝台でも銀河だったらそれこそ狼犬っぽくてよかったのに残念だ。

 

「ワシのはイナズマぜよ!」

 剣士の大きな肩にとまっているのは鷲だった。大きいな。尾のとこだけが白い。

「オジロワシ?」

「おお! さすがぜよ」

 適当に言ったら正解だったようだ。知ってる名前言っただけなのにね。

 

 でも、2人のファミリアがこれで、俺の方は美少女か。俺ってけっこう恥ずかしいかも……。

「人間のファミリアは本来、出陣せんと手に入らんのぜよ」

「ゲームコーナーのは動物か魚、虫だけだったッス」

 そういえばカードダスがあったっけ。あれには人間は入ってないのか。

「じゃあ、クレーンゲームで入手するしかなかったのか」

 俺の固有スキルでファミリアを出すのも普通ではないのだろう。

「そっちでも無理ぜよ。あのゲームはとれんし、人の魂の入ったアイテムは普通は合成の素材用ぜよ」

「合成の素材?」

「そうじゃ。うまくいけば喋る剣ができたりするんぜよ!」

 インテリジェンスアイテムにされちゃうってこと?

 それはそれで酷いような。

 神ってのは人間は道具か素材なのか……。

 

「クレーンゲームのぬいぐるみをそんなことに使っちゃ駄目だから。あそこのは全部俺がもらう」

 華琳との約束もあるし、それがなくても素材にされたら気分が悪い。

「わかったぜよ。それに、ワシにゃとれんぜよ」

「了解ッス。もしとれたらアニキにあげるッス!」

 よかった。これで一安心だ。

「頼むわ、煌一」

 華琳に言われなくても約束は守る。かわりにそっちの約束も守ってもらうから。

 ……絶対にね。

 

 ペット気味なファミリアにも餌の生肉を与えた。

 むこうではどうしてたんだろう?

 ……まさかゾンビ食わせたりしてないよね?

 聞くのはよそう。やはり凄い勢いでがっついている2頭にそんなことを思った。

 

 

 小学校につくと、レーティアと梓、カシオペアとイナズマに基礎講習を受けてもらう。

「あれ? ファミリアになってないと、講習受けられないのかな?」

 基礎講習申込書に名前が書けなかった梓に、契約してないことを思い出し、慌てて契約空間に突入。

 梓もその気になっていてくれたのか、手を握るだけで契約空間に入れた。

 

「状況はわかった?」

「なんとなく、ね。あんたも苦労してんのね」

 苦労してるのかな? これからな気がする。

 目標もはっきりしたし、乗り切れるとは思うんだけどね。

「力を貸してくれないか?」

「当たり前だろ。あたしはあんたの……妻なんだし」

 照れながら頬をかく美少女。

 俺も照れる。

「へへ……」

「はは……」

 見詰め合って薄ら笑い。

 

 ファミリアシートを渡すと、少し悩んでから梓は記名した。

 天井梓、と。

「い、いいんだよな?」

 悩んだのはそれか。

 結婚したから苗字が変わるんだろうけど、あっているのかな?

 俺もちょっと疑問に思ったけど、ファミシーの空欄が埋まったので問題はなかったらしい。

 

「うん、うん」

 嬉しそうに何度も頷く梓。

 可愛いなあ……これが俺の嫁さんか!

 他の娘と違って、ちゃんと俺を好きみたいだし。……俺のスキルのせいだってのは残念だけどさ。

 

 契約空間から戻ってくると、今度はちゃんと梓の名前が用紙に書けた。どんな仕組みなんだろうね、これ。

「天井梓?」

 記帳を覗き込んでいた華琳がこっちを向く。むこうは夫婦別姓が当たり前なんだっけ?

「結婚すると姓を統一するんだよ」

 クラン・クランはどっちが苗字なんだろう?

「そうなのだ。私の場合はクラン・クラン・天井、だな」

「なるほど。たしか、結婚したミリアがミリア・ファリーナからミリア・ファリーナ・ジーナスになってたね」

「おお、さすがエースのミリアは有名だな!」

 ミリアはクランの憧れの存在だったはずだ。それにあやかったのかもしれない。

「ヨーコやレーティアも名前どうするか決めといてね」

 

 狼と鷲をつれて2人は指定された教室へと向かった。

 あの2頭も席につくのかな? ちょっと見てみたい。

「それで、あたしたちはこれからどうするの?」

「ワシと柔志郎が必須スキルを伝授するぜよ」

「仲間うちでも教えられるのなら安上がりでいいな」

「いや、たぶんゼロレベルになるぜよ。あとは訓練かGPを使って1レベル以上にせんと使えんぜよ」

 むう。教えてもらってもゼロレベルか。

 まあ、ないよりはマシか。

 

「まず重要なのは隠形スキルと、消臭、殺菌の魔法ッスね」

「隠形はわかるとして、残りの2つは?」

「オレんとこ行くには必須ッス。ないとメシも食う気にならないッス」

 ああ、ゾンビだらけなんだった。死臭が凄いのか。

「初めて行く時は1食抜いてからの方がいいッス。耐性・悪臭を入手する前に吐くッス」

 うわあ。キツそう。

 煙草やってないせいか、鼻はいい方だもんなあ。その耐性・悪臭スキル、早くほしいかも。

「しばらくチーズも食いたくなくなるッス」

「え? 似てるの?」

「ビッミョーにそんな気がするッス」

 腐っているからかな? 嫌な予備知識だ。酒のツマミにいいのにな、チーズ。

 

「殺菌ってのは?」

「ゾンビの攻撃でゾンビ化することはなくても、傷口に使っておかないと気分悪いッスよね?」

「なるほど」

 雑菌やウィルスも凄そうだもんなあ。

 わりと潔癖症な俺には有難い魔法かもしれない。

 紫外線照射に近いのかな?

 

「ちなみにワシらもこっちに帰ってきた時にすぐ自分に消臭、殺菌の魔法を使っておるぜよ。臭わなかったじゃろ?」

 そういえば。

 使ってなかったらいっしょに食事する気にもならなかったかもしれない。

「うん。必要だってのはわかった。他にあると便利そうなのは?」

「解毒はほしいが、毒状態にならんと無理じゃしのう。……感知と探知じゃろうか?」

 ふむ。どっちもサーチ系だと思うけど感知と探知って違うのか。

「感知・魔力は持ってるよ、俺たち」

「アニキの魔力って馬鹿デカいから、その影響ッスかね?」

 たぶんそうだと思う。

 ということは初期スキルで持ってる感知・生命力をゼロレベルから1レベルにあげるには。

「HPが大きいやつがいれば感知・生命力を入手できるってこと?」

「もしくはたくさんの生物がいれば、ぜよ。残念ながらここには生物が少ないがのう」

「それは君がモブ代をケチったからでしょ」

「……ワシ、そんなにGM持っとらんのぜよ……」

 神の世界にも貧富の差ってあるのね……。

 

「じゃが、ワシにまかせるがええぜよ! ワシをよく見とくんじゃ!」

 なにを始めるかわからないけど、言われたとおりに剣士を観察する。

 校庭の真ん中に立ってなにするんだろう?

「うおおおおっ!」

 いきなり吠えたのでビックリ。

 あれ? なんだこれ?

「……彼から力を感じるわ。これは生命力?」

「うん。そうだ。凄い大きなものを感じる」

「でもどうして? さっきまではわからなかったのに」

 ここにいる嫁さんたちも感知・生命力をレベルアップできたようだ。

 ドヤ顔で剣士が近づいてくる。

「どうぜよ? ワシのHPは」

「なんでいきなりわかるように?」

「ワシの隠蔽・能力スキルをOFFにしたんぜよ」

 そんなスキルもあるのか。

 ……OFFにするだけで、あんなに吠えたの?

「落ちこぼれって言うワリには凄いんじゃないの?」

「肉弾戦には自信があるんぜよ! ……デュラハンには苦戦しとるがのう」

 ふむ。性能いいのね。まがりなりにも神のアバターってことか。

 

「たぶんむこうもいい装備してるんだよ。相手は重課金っぽいし」

「あの鎧はやっかいぜよ」

「まあ武器を強化するか、魔法で対抗することを考えよう。俺たちも協力するしさ」

「頼むぜよ」

 嫁さんたちの戦力はあてになると思うしね。

 でも、強敵対策もそうだけど、まずは初心者のための準備が先だ。

 

「隠蔽・能力スキルってMPも隠せるの?」

「そうぜよ。隠形と互いにシナジーがあるスキルぜよ」

「そっちも教えてね」

 俺のMPは感知されやすいから、隠せるものなら隠しておいた方がいいだろう。

 パッシブスキルみたいだけど、OFFにもできるようだから、仲間の感知・魔力スキルのレベルアップの時にはOFFにしてればいいんだし。

 

「まずは感知、探知が先ぜよ。そっちを覚えて、そのスキルから隠れたり、隠すようにすれば隠形や隠蔽を覚えやすいぜよ」

「なるほど」

 隠れるよりも探す方が先か。

「感知スキルはパッシブスキルで、探知スキルがアクティブスキルぜよ。探知の方が性能がいいんじゃがMPを消費してしまうんぜよ」

「魔法扱いなのかな? どうやって覚えるの?」

「探したい対象を強く念じるんじゃ。人、物、敵なんかぜよ」

 ふむ。

 探したいものか。

 ……レーティアと梓を探したい!

 あ! これか!

 校舎内にいるのがなんとなくわかる。

 コンカで表示したら、レーダー表示みたいに赤い点で2人が表示されていた。地形はわからない。レベルが上がればマップも表示されるのかな?

 

「もう習得したんか? ずいぶんと早いのう」

「オレはレベル1にすんの、けっこう時間かかったッスよ」

「やっぱり魔法みたいだね、これ。俺って、隠しスキルのおかげで魔法関係は習得早いみたいなんだ」

「『魔法使い』のスキルね」

 くっ、その名前は出さないでほしかった。

「魔法使い? そんなスキルあるッスか?」

「……聞かないで」

 結婚できたのに、これのせいであっちはお預け。有難いけどいらないスキルだ。

 早く捨てたい。

 

 

 こうして俺と嫁さんたちは感知、探知、隠形、隠蔽、消臭、殺菌のスキルを手に入れた。

 魔法は俺以外はまだ0レベルだけどね。俺が使えれば当面は問題ないでしょ。

「あと今の内に覚えておいた方がいいのは?」

「解錠も必要ッス」

 ああ、それは便利そうだ。

「解錠はMPを使わない解錠・物理のスキルと、魔法で鍵を開ける解錠・魔法の2種類があるんじゃ」

「えむぴいを使わない方がいいのではないかしら?」

 華琳の疑問ももっともだ。

 シナジー効果で両方覚えてた方がいいんだろうけどさ。

「魔法で施錠されとったら解錠・魔法じゃないと開けられんぜよ」

 そうか。あ、でも魔法の鍵とかアイテムでありそうだな。

 

「それって、あの扉を開けられるんじゃないか?」

「あそこ? どうだろう?」

 俺の担当世界の拠点の扉か。開いてほしいけど、それだとレーティアを成現した意味がなくなるな。

 ……可愛い娘が嫁さんになってくれたからいいか。まだ出番はありそうな世界だし。

 

「なんのことじゃ?」

「俺たちも自分の担当の世界に出陣したんだけど、拠点から出られなかったんだ」

「おじさんが鍛えすぎたおかげで難易度が高い世界みたいね」

 ヨーコ、おじさんて、結婚したんだからそれは止めてほしかったり。

 

「そんなんもあるんか?」

「知らなかったの? 剣士もそれだけHPあるんじゃ難易度高い世界なんじゃない?」

「ワシのはむこうの世界で上げた生命力じゃ。何度も死に掛けたおかげぜよ」

 ああ、剣士も苦労してたのか。ずっと1人で修行してたって言ってたもんなあ。

 

 せっかくなので、解錠を覚えるため、校舎わきの飼育小屋に移動。

 GM節約のためか動物はいなかったが、南京錠がかかっていた。

「これで練習するぜよ」

 スタッシュからそれっぽい針金を取り出す剣士。

 受け取って鍵穴に突っ込んで開けようとすること数分。開きはしなかったが、解錠・物理のスキルをゼロレベルで入手していた。

「なんか試せばゼロレベルだけどスキルが手に入るって便利なシステムだよな」

「使徒になったおかげッスかね?」

 嫁さんたちもスキル入手できたので針金を返し、今度は魔法にチャレンジ。

 

「オープン」

 カチリと音がして南京錠が外れた。

「あっさり開いちゃったッスねえ」

 続けて魔法の施錠にもチャレンジしてみる。

「ロック」

 あれ? 失敗した?

 南京錠は外れたままだ。

「施錠・魔法まで成功とはさすがぜよ」

「え?」

 試しに扉を開けようとしたけど、開かなかった。魔法で施錠するってこういうことか。

 南京錠が自動的にかかるわけじゃなくて、見えない鍵がかかるってことなのか。

 

「たしかに扉に魔力を感じるわ」

 感知・魔力のおかげで、魔法で施錠されたのはわかるのか。

 隠蔽系のスキルが上がれば、これも隠せるようになるのかも知れない。

 

 剣士と柔志郎は教えることはだいたい教えたとして、銭湯へ向かった。2人の部屋には風呂ないらしいもんなあ。

 銭湯から出たら、204号室を準備してくれるそうだ。

 俺たちはレーティアと梓を待ちながら、覚えたばかりのスキルを訓練する。

 

 

 その後、基礎講習1日目を終えた2人と合流し、覚えたスキルを伝授した。感知・生命だけはあとで剣士に頼むことにしよう。

 カシオペアとイナズマは挨拶のつもりかそれぞれ1声鳴いてから、訓練所を去った。飼い主……契約者のところへ戻ったんだろう。

 解錠訓練には開いたクリップを使ってもらったが、ちゃんと覚えた。クリップじゃ開きそうにないけど、試すことが重要なのかも。

「なんか頭がおかしくなりそうだ」

 疲れた顔の梓。いきなり、神の修行をやらされるなんて知ったらそう思うのも当たり前か。

「でも魔法というのは面白いな。アラビアの王が使っていたのもこれと同じなのだろうか?」

 アラビアの王……ゴローンか。彼も『魔法使い』なんだよな。オタクだし彼とは話が合うだろうなあ。

 

 アパートに帰ると、もう204号室はできていた。

 内装までほとんど俺の203号室と同じだった。家具はなかったけど。

「とりあえず、布団だけ俺のとこから持っていって、残りは柔志郎担当の世界に行ってからだな」

 来客用の布団、足りないけど今日は我慢してもらうしかない。寒くはないので風邪もひかないだろう。

「ゾ、ゾンビのいるとこから持ってきた家具を使うつもりか?」

 クランが青い顔をしている。

「消臭と殺菌が役立ちそうね」

「た、祟られたらどうするのだ!」

「その時は神様になんとかしてもらいましょう」

 ……神様はあてにできそうにないなあ。

 浄化の魔法って早く覚えられるといいけど。

 

 帰還祝いと部屋の礼、結婚のお祝いとして、夕食は豪勢にした。

 材料費は2人持ちだけどさ。

 家事を得意とする梓が頼りになるところを見せてくれた。そっち関係の話も妙に合うし、おっぱいさんだけどポイント高いね、この娘は。想い人になり代ってしまったのが悔やまれてならない。

 

 宴は楽しかった。

 お酒はほとんど昨日飲んじゃったんで、乾杯はジュースだったけどね。

 ……柔志郎んとこで、傷んでないお酒も見つかるといいなあ。蒸留酒あたり?

 

 

 その夜。嫁さんみんな隣の204号室に行っちゃって、新婚なのに俺は1人淋しく寝るのかと泣いていたんだけど。

 ベッドに腰かける俺の前には華琳。風呂上りなのかいいにおいがする。

「ふふ。もう、完全に平気ね」

 その小さな手には俺の眼鏡。

 可愛らしい微笑みに俺の心臓は高速回転中。

 

「眼鏡なしに見る妻の顔はどうかしら?」

「……最高です」

 うん。最高に可愛い。

「泣くほどかしら?」

「だって、俺の顔を嫌わないで、怖い目で見ないでいてくれるなんて……」

 こんなことがありえるなんて。

 涙が次々と溢れてくる。

「もう、しょうがないわね」

 俺の頭を抱えて、優しく撫でる美少女妻。

「うっ……ううっ……」

 俺は、その小さな胸で泣き続けた。

 

「ええと……初夜はないんじゃなかったの?」

 泣き止んだ俺は、照れくさくって華琳の顔がまともに見れなかった。

 顔が熱い。

「そんなことは言ってないわよ」

「でも、俺の隠しスキルのためって……」

「そうね。そのためよ」

 え? なにを言っているんだろう?

 布団が足りなくて、こっちで寝にきたんじゃないんだろうか?

 

「挿れなければいいんでしょう?」

「え?」

「煌一が欲求不満になって我慢できなくなったらそれこそ困るわ。梓なら拒否しないでしょうし」

 ……うん。梓なら、俺の求めにこたえてくれるかもしれない。

 

「だから、私が解消してあげるの」

「ど、どうい……んん?」

 ズキュウウウン。

 いきなり唇が奪われた。

 俺のファーストキスが!

 

 硬直する俺から柔らかな唇を離し、じっと見つめる18歳以上の幼妻。

「まだ、『魔法使い』は失われていないようね」

 か、鑑定して確認していたのか。

 俺がそれに気づくよりも先に再びの口づけ。

 今度は舌までも……。

 

「挿れなければいいんでしょう?」

 俺の口内を蹂躙した舌で、華琳はもう一度そう言ったのだった。

 

 


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