真・恋姫†有双……になるはずが(仮)   作:生甘蕉

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22話 貞操帯

 書類だけの式のない結婚を済ませた翌朝。

 俺は華琳と同じベッドで目覚めていて。

 それはなかなかによい気分だったけれど。

「おはよう、煌一」

「……おはよう」

「ふふ。『魔法使い』は残っているようね」

 そう。初夜をおえたのに俺の隠しスキル、魔法使いは失われてはいなかった。

 それはつまり、俺がまだサクランボな少年のままということ。

 

「ゆうべはよかったけど、やっぱり……」

「挿れるのはお預けよ」

 昨夜、俺の元を訪れてくれた新婦華琳との初夜。……それは本番なしだった。

 華琳のおかげでたいへんに気持ちのよいものだったが、やはり捨てたかったり卒業したかったりしたわけで。

 身体はスッキリしたのにモヤモヤしているという複雑な心境だ。

「あんなに出したのにまだ欲求不満なの?」

「だってさ……なんかまだ他人みたいだ」

「煌一の素顔を見ても平気なのだから、他人のはずはないわ」

 そうだけど。

 そうだけど、そうじゃないんだ!

 俺が憧れていたのは……。

「……シャワー浴びてくる」

 涙が溢れそうになった。泣き顔は見られたくない。

「私もいくわ」

 え?

「問題はないでしょう? 夫婦なのだから」

 

 

「道具が手に入ったあとでよかったわね」

 洗面台の鏡を見ながら髪の手入れをする華琳。昨日、柔志郎にもらった器具を使っている。ホットカーラーというらしい。メールで頼んでいたものだけど、ちゃんと柔志郎は覚えていてくれた。

 しかも、結婚祝いって無料でくれた。ちょっと変だけどいい子だなあ。

 華琳がなんでそれを使っているかといえば、髪を洗ったからだ。

 なんで洗ったかといえば、髪にかかっちゃったからだ。

 洗いっこだけのはずが、いつのまにか……。

 でもその後、華琳の髪を洗ってあげるのもよかったな。俺がいいって言うまで目を瞑っている華琳、可愛かったなあ。

 

「どうかしら?」

 昨日の内に使い方をマスターしていたらしく、華琳のくるくるは見事に決まっていた。

「似合うよ。でも、髪を下ろした華琳もすごく可愛かったよ」

「わ、忘れなさい」

 忘れるわけないでしょ。もしディスクロン部隊の連中がいたらデータを後で印刷してもらいたいとこだ。

 今の赤面している顔も撮っておきたいなあ。

 

 ディスクロン部隊は、こっそりとコンカメールで連絡をとった結果、全員が隠形や隠蔽を高レベルで持っていることが判明した。

 妄想した俺設定で見つからないスパイって念を籠めてたおかげだろう。成現後もずっと見つからないように行動しているので熟練度も貯まってレベルが上がってるらしいし。

 目の前にいても俺の感知スキルではわからないし、探知スキルをつかってもコンカにも表示されない。彼らは頼りになりそうだ。

 

「こらあッ! いつまで寝てやがる! もうとっくに朝ご飯の用意はできてんだよ!」

 203号室の扉を大きな音を立てて開け、怒鳴り込んできたのは梓。成現した時の制服の上からエプロンを装備している。

 ……華琳、昨夜鍵を閉めてなかったのかな?

「おはよう、梓」

「……おはよう、じゃ、なあーーーーーーーーいッ! あ、朝っぱらからなにイチャイチャしてんのさ! いくら新婚だからって……」

 真っ赤になってまくし立てているのは、微妙なタイミングで突入してしまってバツが悪いせいだろうか?

 

「新婚はイチャイチャするものなの?」

「え?」

 華琳の質問に、俺と梓が顔を見合わせる。

「参考までにどの程度? 梓、見本を見せてくれないかしら?」

 ええと、これはマジで言ってるの? それとも梓をからかって?

 梓は後者に受け取ったらしい。

 

「へ、へえ。あたしを試そうって言うの? ……いいでしょ、やってやろうじゃない!」

「梓?」

 握り拳をそんなに強く握って宣言されると、ちょっと怖い。

「こういち!」

「は、はい」

 俺のすぐそばに立って、目を閉じる梓。

 こ、これって……おはようのキス?

 華琳の前でしろと!?

「は、早くして……」

 目を開けずにそう急かすので、そっと梓の両肩に手を置く。ビクッと反応したが、それでも動かない梓。ガッチガチになってるな。

 いいのかなあ? いや、モタモタしてても怒られそうだ。

 どうせ怒られるなら、と梓の唇を奪った。……といっても、ほんの僅か一瞬、触れる程度のキスだけど。

 殴られるのを覚悟しながら、すぐに梓から離れる。

 けど、拳はとんでこなくて。

「キス……したの……初めて……」

 ぐはっ。痕梓ルートのラスト付近の台詞じゃないか!

 目の前で言われると、こんなに破壊力があるとは!

 華琳がいなければ、梓を抱きしめていたかもしれない。

「俺も、自分の方からキスしたのは初めてかも」

 華琳と何度かしたけど、奪われたのだけだし。

 

「ふむ。……私が期待したのよりは初々しいわ」

 覇王様も満足してくれたようだ。それから小声で「なるほどね」と呟いていた。

 

 

 ファーストキスのせいで振り切ってしまったのか、1階の大部屋に行ってからもその状態が続きっぱなしの梓。

「こ、こういち、この玉子焼き、けっこう上手く焼けたんだよ」

 俺の隣に座り、箸で摘んだ玉子焼きを俺の顔の前に差し出してくる。

 うっ。

 所謂『アーン』なシーンなんだろうけど、まわりの目が気になる。嫁さんたちだけじゃなくて、剣士と柔志郎の2人もいるんだし。

 だがしかし、これこそが俺が望んだ甘々な新婚生活。挑戦は受けて立たねばならない!

 目の前の玉子焼きを頬張り、感想を言わねば。

 

 ……みんな見てる。見てるよ、視線が気になる。

 

「あ、梓、自分で食べられるからさ」

 ヘタレな俺。

 じわりと涙を滲ませるおっぱい美少女。あれ? 梓さん、そんなキャラでしたっけ?

「あ、あたしの玉子焼きは食べたくないんだね。……や、やっぱりこういちは、あたしと結婚なんかしたく……」

「食べる、食べるから!」

 慌てて玉子焼きを口にする。

「うん。美味しい、美味しいよ梓。ちゃんと出汁も効いているしふっくら柔らかくて最高!」

「本当? よかった」

 涙を拭きながら微笑む梓。

 うっ。可愛い。

 みんなの目がなければ梓ルートラストのごとく押し倒してしまいそうだ。

 

 ……梓は自分以外にも俺と結婚した美少女が多いので、精神的に追い込まれているのだろうか?

 まだ無料で回復ベッドが使えればなあ。

 

 そして、まわりの視線が辛い。

 ……違う。こうじゃない。

 俺の憧れた新婚生活は、こんな「愛してないのね?」と泣かれ「そんな事ないよ、愛してるよ」な、コントみたいのじゃない!

 

「イチャついているとこ悪いけど、今日の予定確認していいかしら?」

「よろしくお願いします!」

 ヨーコの救いの手に、即座に飛び乗った俺。

「レーティアと梓は基礎講習2日目。これはたぶん午前中で終わる」

「たいへんだろうけど、挫けないでね」

 そっくりさんの出現は教えていない。予備知識なしの方がいいだろう。一応、訓練なんだし。

 

「俺は、無線LANと剣士のパソコンのセッティングするよ。ちゃんと中継器も見つけてきてくれたから使えるようにしないとね」

「お願いッス」

「華琳たちは?」

 華琳、ヨーコ、クランの予定は聞いてなかったな。

「私たちは高天屋に行くわ」

「うむ。装備品を見てくるついでに必要なものをリストアップしておくのだ」

「ウィンドウショッピングってとこね」

 なるほど。204号室にはまだ足りない物が多い。百貨店でなにが必要かを見てくるのだろう。

 

「なんじゃ? 買わんのか?」

「GPはできればめだる購入のためにまわしてほしいわ」

「それに百貨店の品は古い」

「そうじゃろか? テレビだってカラーぜよ」

 ああ、剣士の感覚は古いんだったか。いくら神だといってもさあ。……神?

「そうか。もしかして、いざなぎ景気あたりの頃がモデルになっているのか?」

 って、何年ごろだったっけ? 勉強したの小学生の時だからもう忘れているなあ。

 3Cでカラーテレビが出回り始めたころでいいんだっけ?

 テレビか。そういえばニュースをやってるんだったな。

 

「ここのニュースってテレビでやってるの?」

「おう。ワシも時々見るぜよ」

「剣士の部屋にもテレビあるんだ?」

「白黒じゃがのう」

 ふむ。剣士の部屋からなら、ニュースが見れるのか。アンテナどうなってるんだろう?

 室内アンテナか?

 

「ここのアパート、テレビのアンテナって立ってたっけ?」

「アンテナはあったはずぜよ」

 そうか。アンテナ線を探してみるかな? いつのまにか俺んとこにも追加されていたりするかもしれない。

 ……む。

「あった」

 立ち上がって、大部屋の壁に設置されたアンテナ線と思わしきものを調べてみる。

「これなら使えるかも」

「なら次行った時はテレビも持ってくるッスね」

「午後は俺たちも行っていいんだよね?」

「よろしく頼むッス」

 そう。梓とレーティアの講習が終わったら、午後はみんなで柔志郎のゾンビ世界に救援に行く予定だ。

 だから、柔志郎のアドバイス通りに俺たちは昼食抜きだし、朝食も控え目にしている。

 剣士と柔志郎には弁当を用意したらしい。梓だろうか、気がきく嫁さんである。

 

「今んとこ、必要なのは布団とテレビか」

 俺の203号室から客用の布団を持っていったとはいえ、204号室には布団が足りない。昨夜は4人、身を寄せ合って寝たらしい。

 美少女4人が身を寄せ合って? ……見たかったなあ。

「あと、着替えよ」

 ああ、そうか。そうだった。俺も特訓でいくつか服を失ってるし。

「俺の分も着替えは必要だし、ネットが繋がったら金町駅近辺の店を調べておくよ」

 たぶん俺のとことゾンビ世界で、そんなには違いなさそうだから事前調査は役に立つと思う。

「私は工作機械が必要だ。煌一の世界に行ってみないとわからないが、なにか作るには道具と材料がないと」

 うん。レーティアには戦闘力よりもそっちを期待してるんだよね。指揮官としてならともかく、個人戦だとちょっと不安が残るステータスだったし。

「そっちも調べておく。町工場か、工業高校なら旋盤くらいあるでしょ」

 旋盤なら俺も使える。

 俺、工業高校出てるからね。工業か男子校しか選択肢なかったし。だって、女子の多い学校なんて行けるわけないでしょ、この呪われた俺がさ。

 ……男だらけで別の意味で危険だったけどね。

 

「あ、剣士、作業用の場所、あとで用意してもらうかもしれないから」

「部屋じゃできんのか?」

「無理。機械も大きいし、作業音もけっこうする。もし事故がおきてもいいように、アパートの外がいいと思う」

 爆発はそうはしないと思うけどさ。

「たしか設置可能なもんに研究所があったのう。それでええんじゃろうか?」

 マスターの書を取り出して確認する剣士。やはり彼なら開けるみたいだ。

 マスターの書ってそういうことが書かれているのか。

「研究所? なんかすごそうだけど、GM足りるの?」

「入れもんだけならなんとかなるわい。じゃが、研究員は高いから無理ぜよ」

 箱物行政、はちょっと違うか。

 設備より人件費の方が高いのね。だからモブどころか店員もいないのか。

「ならそれでお願い。人の方はなんとかなるでしょ」

 ぬいぐるみを救助してれば役に立ってくれそうな人材は多いはず。

 ……プラモ用の工作室も用意できないかな?

 

 

 食後、梓とレーティア、ペットの2頭を見送る。梓にいってらっしゃいのキスを要求されたりして、なんとか応えて。

 華琳たちも百貨店に行って。華琳にいってくるわとキスされて。

 使徒2人の目が気になりながらも無線LANのセッティング。

「ここがアニキの部屋ッスか」

「ワシんとこと大違いぜよ」

 203号室に初めて入ってキョロキョロする2人。

「こいつがコンバットさん……なんて恐ろしい玩具なんじゃ!」

 剣士、それは怖がってるか馬鹿にしているのかどっち?

 

「ここだとオレのスマホもネットできるッス」

 柔志郎のスマホで室内での無線LANの接続を確認してもらったら、203号室から出てもらってチェック。

「……廊下だと駄目みたいッス」

 そうか。玄関を開けてても駄目という事は、部屋と廊下で違う空間扱いになっているのかな?

「有線でやるしかないか。壁に穴開けていいかな?」

「かまわんぜよ」

 大家と管理人も兼ねているマスターなはずの剣士の許可ももらったので、電動ドリルで玄関ドア付近の壁に穴を開け、LANケーブルを通す。

「4本も必要なんか?」

「201、202、204号室と大部屋の分だよ。管理人室にはいらないんだよね?」

 色違いの4本のケーブルを通したらそれをそれぞれの部屋へと壁伝いに這わせていこうとしてあることに気づく。

 ケーブル固定用の器具も頼んでおけばよかったか。

「まあ、電気屋行けばあるかな」

「なんか足りんのか?」

「使う分には問題ないよ。ただ、ケーブルがちょっと邪魔っぽくなるだけで」

 不足な物って多いな。すぐに入手できない環境だとなおさらだ。

 必要なさそうな物でも、持ってきておいた方がいいかもしれない。

 

『どう?』

 自室に戻って動作チェックしている柔志郎とコンカのメールでやり取り。

『繋がりました。次は剣士の部屋ですね』

 やっぱりメールの時は別人だね、彼は。

 二重人格?

 

 柔志郎のスマホで各中継器の動作を確認したら、次は剣士の部屋に移動。

 たしかに4畳半で物もほとんどない。

 小さなタンスとその上にテレビ。剣士の言ったように白黒なのだろう、見た目からして古い型だ。 

 壁にはペナント。あの3角形が懐かしい。

 丸い卓袱台にパソコンを乗せてセッティングを始める。

 ノートパソコンだから配線もいらない。

「ワシが動かしても大丈夫じゃろか?」

「持ち主なんだから、最初の電源入れは当然でしょ」

 使えるとこまでセッティングしてから渡してもいいんだけど、少しでも早く慣れてもらいたい。

 恐る恐る電源スイッチを入れる剣士。

「わっ、点いたぜよ」

「そりゃ点くでしょ。指示通りに従えばだいたいできるから」

 ノーパのマニュアルを確認しながらアドバイス。

 うん。今のところ、俺の世界のものとの違いは見受けられない。

 

「……ニホン?」

 違いがあったのは、国の指定での時。

 国名表記が『日本』ではなく、『ニホン』だった。

 どこかで見たような気がするのだが、すぐに出てこない。

 まあ、その内思い出すか。気にせずに作業を続けることにする。

 

「これで、やっと終わりじゃろか……?」

 かなり疲れた感じの剣士。慣れない作業のせいだろう。

 画面が変わる度に騒いでいたし。

「いや、終わりじゃなくて、これからだから」

 無線LANも繋がったので、金町駅近辺を検索してみる。

「これがネットつうもんか。便利じゃのう」

 へえ。デパートが2つに高層マンションか。東京の端っこかと思っていたけど、けっこう開けているみたいだな。

「でかいッスよ、あのビル」

「一番上まで行って周囲を確認するのもいいかもしれないね」

 商業施設や図書館も入っているようだし、行ってみるのもいいかもしれない。

「ただ、建物ん中は特に匂うッスよ。覚悟しといて下さいッス」

 うう。死臭やゾンビか。行きたくなくなるなあ……。

 

「っと、そろそろ時間か。今の内に弁当食べといてね」

「アニキは?」

「ちょっと準備がある」

 俺は昼抜きにする予定なので、2人が昼食をとっている間に作業を済ますことにした。

 

 

 俺の作業。固有スキル、成現の準備。

 結婚する時に、嫁さんみんなに浮気防止のアイテムをつけてもらうと宣言した。それを作らないと。

 

 いつもつけてもらうには、やはりアクセサリーがいいだろう。

 結婚指輪が一番なんだけど……外せないようにしても、指輪だと指を切断してから新しい指を生やせば外すことができてしまう。これは却下だ。

 普通は生えてこないんだけど、病院で脚が生えてくるの体験したし。

 そうなると首か頭につける物しかなくなるな。もしくは心臓? 柱の男みたいにできればなあ。

 頭は髪型に影響する。なら首か。ネックレス? ……戦闘の時とか邪魔そうだな。

 じゃあチョーカーか。

 

 黒歴史ノート化が急速に進むメモ張に案を纏めていく。

 まず必要な機能は、俺と離婚しないこと。

『夫(煌一)との離婚届けにサインしようとすると、身体が動かなくなる』

 うん。次に浮気防止か。

『夫(煌一)以外の異性とエッチなことになると、相手に攻撃魔法発動』

 エッチな度合いによってダメージが変わるのもいいか。メモメモ。

『貞操の危機には装着者をカード化して夫(煌一)の元に転送』

『夫(煌一)が望んだ時も装着者をカード化して夫(煌一)の元に転送』

 無理矢理されそうな時もあるかもしれないので、逃げられるようにしておいて。

 カード化するだけで、死亡扱いにならないようにしないと。

 あ、成現の残り時間が10分を切ったらも入れておこう。

 

『外せない。破壊不能』

 うん。これも大事だよね。

 でも、ずっと外せないとなると。

『蒸れない。痒くならない』

 通気性も必要だよね。防水ももちろんかな。

『装着者の意思によって、色、形状が変更可能』

 女の子なんだから、デザインも重要でしょ。

 気になるなら、透明になって見えなくすることも可能、と。

 

 これだけだと呪いのアイテムっぽいな。プラスの効果もほしい。

『守備力にプラス』

 一応、防具ってことで防御力上げの効果大に。

『各能力値にプラス』

 効果がどれほどのものになるかわからないけど、一応ね。

『状態異常、属性攻撃に耐性アップ』

 特に魅了系は完全無効化っと。

 柔志郎の仕事場に行くってことはだよ、バンパイアが出てくるかもしれないでしょ。となると、あんなに可愛い美少女な俺の嫁さんたちを狙わないはずがない!

 だとしたら、魅了系は防げないとね。

 

 ふむ。こんなもんかな?

 後で追加できるように、効果の空きスロットもいくつか用意しておこう。

 そうしないと、一度成現した後は効果の変更できないみたいだから。

 MP訓練用魔法銃を強化しようとしたら上手くいかなかったので、いくつか試した結果わかったことである。

 固有スキルのレベルが上がれば違うかもしれないけどさ。

 空きスロットだけでも、効果はないのにEP、MPともに必要なコストは増大する。でも、拡張性は必要だろう。

 

 俺を好きになるという効果は入れない。いらない。

 梓がたまたまスキルでそうなっちゃって、嬉しいんだけど素直に喜べない状況になっているので、そんな効果をつける気にはならなかった。

 

 素材はビニールテープ……じゃさすがにあれだから、プレゼント梱包用のリボンにするかな。FFのリボンにあやかって。

 適当に切った10本のリボン。本数はこれからも嫁さんを増やすってことじゃなく、後でコストの計算がしやすいようにってことで10本。

 そのリボンを手に設定を見ながらEPを籠めていく。

 嫁さんたちにどんなチョーカー似合うかな、と考えながら。

 コンカを見ながら、EP注入と思い描いた効果がちゃんと籠められているのを確認していく。

 

 嫁さんの行動縛るとか、女神とたいして変わらないな……。

 チョーカーとか首輪のつもり? 人として間違っているよな……。

 ……マズイ。EP低下しすぎたか。ネガティブ思考に偏ってきた。楽しいことを考えないと。

 嫁さんを縛るならロープか? いや、ロープだと痛そうだし、あとが残るな。そういう目的の専用の品があるのかもしれない。

 ゾンビ世界にはアダルトグッズを扱う店あるかな?

 

 お、エロいこと考えていたらEPが回復している。さすが俺!

 じゃあ、エッチなことしながらなら、EP籠めもはかどるかも!

 ……逆に集中できそうにないか。

 

 なんとかEP注入が完了したので、成現してみる。使用するMPは最大値の半分くらい。午後のためにとっておかないとね。

 成功。鑑定したら『貞操のチョーカー』というアイテム名だった。

 疲れた。少し寝たい。あ、布団干してたんだ。取りこまないと。

 

 

 講習を終えた2人が帰ってきても、百貨店組が戻ってこなかったのでコンカでメール。

 噂どおり、女性の買い物は長いらしい。それがたとえウィンドウショッピングであっても。

 でも夢中になっているとメールって気づかないんだよね。やっぱり電話機能も欲しいかも。せめて着信音ぐらいあればなあ。

 返事はすぐにきた。今、帰り道らしい。焦りすぎたか。

 

 合流後、できたばかりのチョーカーを嫁さんたちにつけてもらった。みんな、嫌がらずにつけてくれた。

「どう? 似合うかしら?」

「似合うよ」

 これから出陣ということでデザイン変更は試さず、シンプルな黒い帯だけのチョーカーだけど、みんなに似合っていた。

「いーッスねー。オレもほしーッスよ」

 柔志郎の趣味はよくわからん。

 それともチョーカーじゃなくて、嫁さんがほしいって意味なんだろうか?

 

 その後すぐにゲートにむかった。

「自分以外の担当世界にはどうやって行くの?」

「担当のヤツが、入るのを許可すればいいッス。許可したんでアニキはもう行けるッス」

「プレイヤーを許可すれば、そのファミリアは全部許可したことになるぜよ」

 なるほど。

 ならばディスクロン部隊にも後で行ってもらおうかな。

「担当の人がいっしょじゃなくても行けるの?」

「そうぜよ。そうでなかったら、助けを求められた時に行けんじゃろ?」

「それもそうか」

 救援要請の時を忘れてた。

 電話番号も覚えてないけど、コンカメールがあるからいいか。

 

 ゲートに到着すると、ちゃんと行き先が増えていた。

『→ 煌一担当世界拠点1

   柔志郎担当世界拠点2 京成金町駅』

 間違えずに京成金町駅を選択する。

 俺の拠点には地名が表示されていない。判明した時点で追加されるんだろうか?

 

「小さな駅だね」

 それが拠点を見た俺の感想だった。

「京成電鉄金町線は4両編成ッスから」

 しかも単線。デパート2つとか、高層マンションから想像していた駅とは大違いだった。

「駅は匂わないんだね」

「拠点は結界もあるからのう。周りからある程度隔離されているぜよ。モンスターも入ってこれんのじゃ」

 安全地帯か。でも魔族もいるから過信もできない。

 

「まずは近い方のデパートにむかおう」

 駅を出た途端、空気が変わった。これが死臭か。

 洗濯バサミ持ってくればよかったか。耐性・悪臭はすぐに覚えられそうにない。魔法スキルだったらなあ。

 

 真昼の日差しの中、目に映るのは10体以上のゾンビ。ううっ、リアルで腐った死体見るはめになろうとは……。

 感知・魔力にもかなりの反応がある。コンカで表示したら無数の赤い点。これが全部ゾンビ?

「いるわね」

「みんな隠形スキルもってるから、そこまで囲まれることはないはずッスけど、むこうに視認されたらむかってくるッスから気をつけるッス」

 弓を構えながらの柔志郎。彼は遠距離型のようだ。

「弱点は?」

「頭ぜよ。頭部を破壊すれば動かなくなるぜよ。そこ以外を攻撃してもやつらは痛みを感じないんであまり意味はないぜよ」

 首がついてるゾンビはまだ生きているって思った方がいいのか。……死んでいるんだけどさ。

 

「こ、こういち……」

 梓とクランが青い顔をしている。

「だ、だいじょうぶ。ゾンビが伝染ることもないし、頭を破壊すれば倒せる相手みたいだから」

 言ってる俺も手が震えていたり。

 臭いのを我慢しながら深呼吸して震えを静め、スタッシュから武器を2本取り出した。

 

「木刀ッスか?」

「量産型アイスソード、GGKさ」

 軽く魔力を通すと刀身を水色の氷が覆っていく。

「おおっ、カッコいいのう」

「どっかで見た水色ッスねえ。あっ、もしかしてGGKって……」

「うん。素材はアイスの棒」

 病院で特訓中に作ったのがこのGGK。妄想中を華琳たちに見られて恥ずかしかったなあ。

 

「なるほど。それなら冷たいんもイメージしやすいちゅうわけじゃな。さすがぜよ」

「これなら火事にならないでしょ」

 武器を自慢してたら緊張が解けてきた。

 これならいけるかな?

 

 さあ、戦いだ!

 ……ここにはいないはずのマサムネの声が聞こえた気がした。

 

 




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