真・恋姫†有双……になるはずが(仮)   作:生甘蕉

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23話 初陣

 GGK二刀流で挑んだ初めての実戦。

 目標に選んだのは背広を着た中年太りのゾンビ。ゾンビになっても残ってるんだから根性のある脂肪だと思う。

 むこうが気づくよりも先に近づいて背後からの先制。

 ほとんど素人の俺の攻撃も、動きののろいゾンビになら当てることができた。

 

 ぐちゅっ。

 

 その手応え……というか、感触に俺の心はもう折れそうになった。

 

 素材が『GりGりKん』の棒を削ったものだけあって、成現したGGKは木刀。つまり鈍器。

 魔力を通せば水色の氷を刀身として形成できる量産型アイスソードという設定なのだが、今回初めて使ったせいで刀身の作りがイマイチだったため、切れ味などあってないようなものだった。

 

 俺の攻撃が上段からゾンビの弱点である頭部に命中したまではよかったが、頭部を切断することはできず、頭部が胴体に半ば埋まってしまう。

 よたよたと振り向き、衝撃で腐った眼球なのかもしれない嫌な色の涙があふれ出してしまった眼窩で俺を睨むゾンビ。

「ひっ」

 目元まで埋まってくれればこんな恐ろしさは味わわずにすんだのに。

 頭部半没ゾンビの手がのろのろと俺にせまる。

 もう一度攻撃するか逃げるかしなければいけないのだが、恐怖で俺の身体がすくむ。腰が抜けたという状態だろう。

 こわい! 怖い! 恐い!

 

「ふせなさい!」

 え?

 咄嗟にその言葉に従えなかった俺の目の前で、ゾンビが弾けとぶ。

 

「なにやってるの!」

 ヨーコからの怒声。

 ……そうか、ヨーコがライフルで倒してくれたのか。

 ほっとした俺は緊張が一気に緩んで、そのまま意識を手放してしまった。

 

 

 

 気づけば、俺は剣士に背負われていた。

「うう……」

「気づいたんか?」

「ここは?」

 薄暗い。匂いがキツイ。その2つから考えて屋内なんだろう。

 明かりの魔法を使ってはいるのだろうが、それほど明るくはできない。

 あまり強い魔法を使えば、その魔力にゾンビたちが群がるらしいからだ。

「ここは駅から近い方のデパートぜよ」

「そうか。俺、気絶しちゃってたのか……あ、もう降ろしてくれていいから」

 大きな剣士の背中から降りる。

 別にふらつくようなことはなかった。

 

「煌一さんは早く、恐怖とグロの耐性マスターした方がいいぜよ」

「面目ない……」

 そうか。そんなスキルもあるのか。弱い俺には精神的な耐性スキルはかなり必要だな。

 耐性・悪口とかあるのならすごいほしい。

「しばらくはぞんびで煌一の訓練がいるわね」

「そうね」

「まったく、煌一は軟弱なのだ」

 嫁さんたちがしてくれたのは心配ではなく、ため息。

 ううっ、精神耐性のスキル、すごいほしいなあ。

 

「こ、ここは2階? あまり大きくないデパートみたいだね?」

「そうッスね。綾瀬駅前のデパートの方が大きかったッス」

「まあ、それでも服はそれなりにあったよ。100円ショップも入ってる」

 梓が店内を指差して説明してくれた。

 そうか。無駄足にはならなかったのか。

 

「じゃあ、適当にスタッシュに」

「もうみんな入れた。あとは煌一のスタッシュだけなのだ」

「ホントは倉庫っつーかバックヤードを漁った方がいろいろあるんスけど、時間かかるんで今回はさっさと次のデパートに行った方がいいッス」

 野球ボールくらいの大きさの照明魔法の光球の明かりを頼りに、下着類や100円ショップの商品を適当にスタッシュに放り込みながら会話を続ける。

 100円ショップの安物とはいえ、食器類と石鹸、洗剤はありがたいな。

「バックヤード? なんか慣れてるね」

「もちろんッス。オレ、スーパーで働いてたことあるんスよ」

 なるほど。裏側を知っているのは強いな。

 

「どうせ消臭魔法を使うにしても、缶詰とかカップ麺は段ボール箱に残ってたやつの方が臭くなかったッス」

 缶詰はともかくカップ麺は匂いが移っちゃうんだっけ。洗剤かなんかの匂いが移るって事件あったよな。

「食料は今度でいいんじゃない? ……文房具も、紙とペンだけあればいいかな?」

 スタッシュがいっぱいになってきたようなので目移りする。

 ほしくはあるけど、すぐには使いそうにないものが多い。

「そろそろッスか?」

「うん。一端戻ってむこうに置いてこよう……」

 でも、駅に戻るとなるとゾンビと戦わなければならないんだよなあ……。

 今度こそ、ちゃんと戦えるのだろうか?

 

「じゃ、マーキングするッスね」

「えっ?」

 俺の疑問をよそにスタッシュからカードっぽい物を取り出した柔志郎が、それを商品棚の裏側の壁に隠すようにぺたっと張った。

「それは?」

「マーキングカードッスよ。ポータル使う時の目印になるんス」

 そんなのあったっけ?

 ポータルってのは好きなとこで使える移動用のワープゲートだよね。その行き先に指定できるのは拠点だけなはずだったんだけど。

 本人が覚えていない魔法でもMPを消費しないで使える使い捨てのマジックカードってのを売ってるの見たから、それの一種かな。

 

「そんな便利なもの持ってたの?」

「アニキのおかげでGPがあったから買ってみたんスよ」

 なるほど。店売りのアイテムなのね。

「ちいと高いんぜよ。けど、あんまり拠点への出入りはせん方がいいと思うんじゃ。また壊されてはたまらんからのう」

「じゃあどうやって戻るの?」

「これぜよ!」

 今度は剣士がカードを取り出した。

 さっきのとは違うようだけど、やはりマジックカードなのだろう。

 メンコのように床にそれを叩きつける。

「ポータル起動ぜよ!」

 それと同時にカードを中心に直径2メートルぐらいの薄青色の円柱状の空間が出現した。

 これがポータルか。

 

「これで、拠点と繋がったぜよ」

「だからマーキングしたわけか」

「そうッス。マーキングカードは剥がされなければ、しばらくは使えるらしいッス」

 ふむ。ポータルで拠点に戻って、拠点からゲートでサイコロ世界へ。荷物を置いてきたら、今度はマーキングを頼りに駅からポータルを使ってここへ戻ってくると。

「マーキングとポータルの魔力にゾンビが群がるってことは?」

「それは大丈夫じゃ。敵にはわかり辛いように作られちょる。ポータルで移動できるのも設置者の仲間のみぜよ」

 ポータル出た途端にゾンビに囲まれてたり、ゾンビがポータルを使用してくる、ってことは避けられるか。

 

「ポータルの持続時間は?」

「設置者が使用するまでぜよ。時間はどんぐらい持つかはわからん」

 戻ってくるにはやはり、もう1個ポータルカードを使わなければならないか。

 ネットゲームだと、往復できるポータルもあるのにな。……今使ったのより高価なので往復用があったりして。

 

「ならさ、設置者が残って、ポータルが開いてるうちに仲間が荷物をピストン輸送するっていうのは?」

「それはできんじゃろ? ポータルやゲートで移動したら、隊員もいっしょに移動してしまうぜよ」

 うん。小隊編成の時にその仕様は見た気がする。

「でも、それは小隊の隊長だけの話だよね?」

「あっ! ……そういうことッスか」

 柔志郎にはわかったようだ。

 ポータル、ゲートの移動は小隊ごと。別の小隊には影響がない。それは、この世界への移動にディスクロン部隊がついてきてないことからも証明できる。

 ……いや、彼らは秘密部隊だから説明することはできないけどさ。

 

「……ようわからんぜよ」

「なら試してみるッス。剣士はここで待ってるッスよ」

 柔志郎がポータルに飛び込み、それと同時に彼のファミリアであるカシオペアも消えた。拠点である京成金町駅へ移動したのだろう。

 5分ぐらいしてから、可愛い女の子、いや、柔志郎がポータルから出てきた。狼犬もいっしょだ。

「荷物置いてきたッス」

「どうなっちょるんじゃ?」

「仲間だからポータルは使えるけど、小隊は違うからワープには巻き込まれないってこと」

 柔志郎が往復したのに、ポータルはいまだに残っている。

 使用回数か持続時間での制限はどれぐらいなのかな?

 

「なるほどのう。たぶんわかったぜよ」

「ホントにわかったッスか?」

「これで、ポータルカードを節約できるんじゃろ?」

 うん。わかってくれたみたいだ。

「よし。今度は俺たちが荷物置いてくるから」

「おう。ゾンビどもがきても蹴散らしておくぜよ!」

 頼もしい言葉を背にポータルに突入すると、いきなり視界が変わってそこは京成金町駅だった。

 

「ゲートで使う魔法陣と共用か」

 たぶんWPも兼ねているのだろう。別の拠点が稼動したらここからワープできるようになると思う。

「さっさと行きましょう」

「そうなのだ」

 嫁さんたちに急かされて、その場でゲートを起動。

 

『→ 第666開闢の間 第4面ゲート

   ポータル 涼酒剣士』

 

 ……俺の担当世界から戻る時も思ったけど、どんだけサイコロ世界ってあるんだろう?

 あと、うちのサイコロ世界の数字……。

 

 いつものサイコロ世界に戻ってきて、ほっと一息。やっぱりゾンビでビビっていたんだろうな。

「荷物、どこに置いたのかしら?」

 その答えは、ゲートを出てすぐにわかった。

 路上に無造作に服が置かれていた。

「さすがにこれは……」

 戸惑う俺を尻目に、嫁たちもスタッシュから出したものを地面に置いていく。

 ……気にしてる場合じゃないのか。俺も慌ててスタッシュの中身を出して、ゲートに戻った。

 

 ゲートから拠点、それから剣士のポータルを選んでデパートへ。

 そして、思ったことを一言。

「リヤカー、必要かも」

 ゲートからアパートや百貨店に運ぶことを考えると気が重い。

 ホントはトラックがあればいいんだろうけど、さすがにスタッシュに入らないしなあ。

 デパートでリヤカー売ってないかな?

 

 髑髏小隊と柔志郎の小隊でもう1往復してから、次のデパートへと移動を始める。

 地図を見ると結構離れている。

「今度は気絶するでないぞ」

「……がんばります」

 俺と同じくゾンビにビビってたはずのクランに言われてしまった。

 さすが戦闘種族(ゼントラーディ)。実戦になると違うようだ。

 

 階段を下りて1階に出ると、かなりのゾンビが倒れていた。ほとんどが頭部がない。

 生き残りいたりしないよね? ビビりながらキョロキョロしていたら、梓に声をかけられた。

「感覚を研ぎ澄ますんだよ」

 そうか。感知スキルか。コンカを見ないでもわかるようにあえて表示させないで魔力感知に意識を集中してみる。

 どうやら、付近にはもう生きてるゾンビはいないらしい。

 

「それじゃ行くわよ。いい、目的地まで駆け抜けるわ」

「え? ゾンビ倒しながら行くんじゃないの?」

「路上で囲まれたら不利なだけよ。一度に相手にする数が少なくて済む室内で戦った方がやりやすい」

 俺が気絶してる間にゾンビとの戦いの経験を積んだのか、もうそこまで作戦が立つのね。

「オレが死んだ時も囲まれて、逃げ切れなくなったッス」

「できるだけ戦闘は避けるんだ。今回の目的はゾンビの殲滅ではない」

 まあ、戦わないで済むならそれにこしたことはないんだけどさ。

 ……なんか俺、足手まといだな。

 

 

 デパートを出て、次のデパートまで、剣士を先頭に走り出す俺たち。

 こちらに気づいて向かってくるゾンビがいても、剣士は「邪魔ぜよ」とその大きな足でケンカキックする程度。

 殿(しんがり)の梓は、鬼の力を乗せた拳でゾンビの頭を粉砕していたようだった。はっきりといえないのは、後ろを見ている余裕など俺にはなかったからだ。

 遅れないように必死に走りながら、移動だけなら、先に移動してポータルを開けてくれる道先案内人な人を用意すればいいんじゃね? などと考えていた。

「ここじゃな」

 休憩を入れることなく、一気に駆け抜けてしまった。HP強化特訓でのシナジーでスタミナも強化されていたおかげだと思う。

 俺の次に運動能力に不安があったレーティアはいつのまにか梓に担がれていた。

「ありがとう」

「あんたももう少し、走った方がいいかもね」

 そういえば梓は陸上部だっけ。

 

 入り口すぐのある店舗が目に入った。

「使えるな」

 そこは自転車屋だった。

 自転車なら、ゲートからの荷物の移動が少しは楽になるかもしれない。

 でも、ゾンビの気配がどんどんと近づいてきたので俺たちはデパートの奥へと進む。

 

「自転車?」

「うん。さっきの店にあったでしょ。あれを回収できれば……」

 話の途中で店内にいたゾンビを感知してしまった。2体か。

 GGKを握りなおす。

 ……さっきの感触を思い出して、手が震える。

 

「今の煌一に必要なのは自信よ」

 そう言われても。

 新兵に自信つけさせるのって、童貞捨てさせるのが定番じゃなかったっけ? 世界が変わって見えるという無敵感で錯覚してる間に初陣をむかえさせるっていう。

「おじさんならできるわ」

「うん。頼りにしてるのだ」

「私はお前を信頼しているぞ」

「がんばれ!」

 打ち合わせていたのだろう、嫁さんたちが揃って俺を励ます。

 根拠のない信頼とか信用なんて……。

 

「……煌一」

 ヨーコがおじさん、じゃなくて名前呼びなんて嬉しいなと思ったら、突然俺の襟首を掴んだ。

 ちらりと華琳を見てから続ける。

「あんた、あたしの固有スキル、知っているわね?」

「う、うん」

 頷くと、ぐいと襟を引っ張られてヨーコに唇を奪われてしまった。

「……死ぬ気でがんばりなさい」

 

 ヨーコの固有スキル、『キス・オブ・クライマックス』の効果は、ステータスの大幅アップと、死亡判定に大幅マイナス修正。

 作品中のヨーコらしいスキルだけど、彼女の気持ちを考えると教えるわけにはいかなかった。

 けれど、ヨーコ自身が日本語の読み書きをマスターしたおかげで知ることができてしまったのだろう。

 さっきの態度から、華琳も関係しているのかもしれない。

「だいじょうぶよ。ぞんび程度で死ぬことなんてないわ」

 やはり華琳も固有スキルを知っているようだ。

 

「……そうだよな。いいとこ見せないとな」

 惚れ直して……惚れてもらわないと。

 チョーカーのおかげで浮気の心配は減ったとはいえ、俺の好感度を上げておかないと夫婦間は冷め切ったままだ。

 憧れた新婚生活のためにも俺はやる! やってやる!

 ヨーコのキスのおかげか、俺の気も大きくなっていて、なんかできるような気がしてきた。

 震えも止まっている。……俺ってチョロいなあ。それとも嫁さんたちは面倒くさい男だと思っているんだろうか?

 

「ヨーコ」

 彼女が返事をする前に今度は俺が唇を奪った。

 そしてなにも言わずにゾンビへと駆け出す俺。

 なんか言うと死亡フラグになりそうだったのと、カッコいい台詞が思い浮かばなかったから。

 

 2本のGGKに魔力を通す。今度はちゃんと刀身をイメージ。薄く、鋭く、硬く……こんなもんだろう。

 短い距離だったが、走った勢いを殺さずに1体の頭部に右手のGGKで上段攻撃。

 さっきはこれで失敗したが、今度は違う。嫌な手応えも気にせずにそのまま振り下ろす!

「おっ、おおぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 変な感じに叫んでしまったが、真っ二つにはできなかった。頭部は破壊できたが、ゾンビの胸のあたりで止まるGGK。構わずに右手を離し、GGKごとゾンビを蹴飛ばして距離をとる。

 倒れたゾンビは動くことはなかった。

 

「次っ!」

 左手のGGKを両手で持ち直す。残る1体のゾンビが両手を伸ばしてきたがやはり動きが遅い。それをかわして、今度は横一線にGGKを振る。

 狙い通りにゾンビの首を切断することに成功し、頭がぼとりと落ちた。

 その頭部に真上からGGKを突き刺し、さらに魔力を流す。GGKの氷がゾンビの首を凍りつかせた。

 

 ……うん。我ながらカッコよく倒せたかも。

 そう思って嫁さんたちを振り返ったら、別のゾンビと戦ってました。まだいたのね……。

 凍りついた首からGGKを抜くのはちょっと大変だったし。

 

「やるじゃない」

「まあね。ヨーコのキスのおかげだよ」

 10倍返し、しておいた方が死亡フラグ終了になるのかな? でもみんなの前でなんて恥ずかしい。

「き、気をつけなさいよ! そのスキルは……」

「わかってる。俺はヨーコを悲しませない」

 まだKOCの効果が残っていたのか、いつもなら言えなそうな台詞を口から出して、三度ヨーコとキスする俺。

 誰これ? ホントに俺?

 などと混乱しながらも、調子に乗って舌まで使用してみたり。

 

「い、いつまでキスしてんだよ!」

 真っ赤になった梓からの強烈なツッコミ。力いっぱい、いや手加減はしてただろうけど、拳で横っ面を殴られた。

 タイミングが悪かったのはKOCの効果か。

 舌を思いっきり噛んでしまった俺。

 口の中に広がる血の味。

 慌てて自分に回復魔法(小)を何度もかける。……魔法名を口に出さないとイメージしにくい。あとでもっと練習しよう。

 

「……まだ、口ん中が鉄っぽい……」

 水筒の麦茶で口を濯いだけど、まだ血の味が残っている。

 舌はなんとか繋がっているようなので一安心。

「ごめん」

 しゅんとしている梓。

「気にするな。嫁さんのヤキモチぐらい受け止めてみせるから」

 そう言ったら赤くなるどころか、ポロポロと涙を流し始めてしまった。

「あ、あたし、煌一が危険になってるの知ってたのに……」

 やっぱり嫁さんみんなで打ち合わせていたんだろう。

 でも、どれくらい危険なのかはわかっていなかったっぽい。

 よしよしと頭をなでて慰める。……あとでみんなにグレンラガン見せないと。

 

「思ったよりも強力なすきるのようね」

 華琳がヨーコと頷きあっている。また鑑定したのかな?

「しばらくは煌一は戦闘や余計なことをしない方がよかろう」

 クランもミシェルの最後を思い出したのか、微妙な表情だ。

 このままではいかん。

「俺は死なないってば。それに死んでも復活できるしさ」

「バカモノ! 油断するな!」

「……うん。効果が切れるまでおとなしくする」

 慰めるつもりが怒られてしまった。

 クランまで泣きそうになったので、慌てた俺は抱きしめてしまう。

「俺のこと、心配してくれてありがとう」

「ふ、ふん。心配など」

 尖った耳の先まで赤くなるクラン、可愛いなあ。

 

「すごいなヨーコの固有スキル。あそこまで変わるとは」

「ええっ? あれ、あたしのスキルのせいなの?」

 俺の背後でなんか変な驚き方をしてるけど気にしないことにしよう。

 

 その後、俺たちはゾンビとの戦闘を避けるため、強めの照明魔法球を囮にしてゾンビを誘導させることに成功。

 ゾンビは魔力を発する魔光球をふらふらと追って1階に集まった。

「こんな使い方があったとはのう」

「今の内に2階のアイテム回収するッスよ」

 2階のゾンビを階段で誘導したら、光球を追って階段を転げ落ちるやつが半数近くいたのはトラウマになりそうな光景だった。

 探知魔法で2階からゾンビの反応がなくなったのを確認してから階段を上る。

 

 さっきのデパートよりも大きく、助かることに2階がホームセンターになっているようだった。

 工具や材料、それに家電も手に入りそうだ。

 残念ながらここにもおもちゃ売り場はないようだった。

 プラモの入手したいのに。モデルガンほしかったのになあ。

 

 

 

 マーキングして拠点、そしてゲートへと戻ってきた俺たち。

「今日はここまでにしましょう。煌一の効果もまだ切れていないようだし」

 効果時間が長いのは、3度目、舌まで入れちゃったせいだろうか。

「入手した布団も干したいな」

 駅で一度、荷物と俺たちに消臭と殺菌の魔法は使ってきたけど、布団はやはり天日干ししたい。

 ……もう夕方だから今からじゃ間に合わないかな?

「運ぶのも大変だし……」

 結局、自転車を持ってこれなかった。

 明日はゲットしよう。別に新品じゃなくても、鍵は魔法で外せるしね。

 

「あ、運ぶのは大丈夫ッスよ」

 ポータルカードを取り出した柔志郎。そっと地面に置く。別に叩き付けなくてもいいのね。

「ポータル開けッス!」

 起動コマンドってなんでもいいのかな? 柔志郎の合図で青い柱が立った。

 サイコロ世界でもポータル使えるのね。

 

「行き先は百貨店ッス。どうやらここの施設はワープ先に選べるようッスね」

「なるほど。マーキングせんですむのはありがたいのう」

 いやだから、君はその辺詳しくないと駄目でしょうに。

「なにしてるッスか。剣士はアパートまでのポータルを開くッスよ」

「お、おう」

 なんか剣士は尻に敷かれているっぽいなあ。……相手は柔志郎だけど。

 

 ポータルの複数起動はあっさり成功した。どうやら、個人で開けるのは1つだけど、複数人でいくつものポータルを開けるのは可能らしい。

 いつまでポータルが開いていられるか、試してみたいなあ。

 取りあえず、入荷させたいアイテムをスタッシュに入れて柔志郎のポータルをくぐった。

 百貨店には魔法陣なかったからどうなるのかと思っていたが、百貨店の入り口にポータルの青い柱が立っていた。なるほど、出発地と目的地の両方にこれが立って、双方向に結ばれるわけね。

 

 ポータルは便利だ。GPに余裕がなくてもカード買っておくべきかもしれない。

 ……そんなことを考えていたんだけど、アパートや百貨店に荷物を運ぶために往復していたら、移動魔法・ポータルのスキルを1レベルでマスターしてしまった。

 魔法使いの効果ってすごいなあ。それともKOCの相乗効果?

 

 

 

 荷物運びが終わったら、ポータルスキルのテスト。百貨店とアパートを結んでみた。

「どう?」

「うん。ちゃんとできてるッス!」

 柔志郎が往復して効果を確認してきてくれた。

 レベル1でも効果に違いはないらしい。消費MPは大きい方だと思うけど、俺には関係ないし。

「じゃあ、手分けして作業しようか」

「あたしとクランは夕食の用意だな」

 梓とクランがポータルでアパートへ移動した。

 うん。隊長じゃない隊員ならポータルで移動しても小隊の全員が移動させられるってことはないらしい。

 

「あたしたちは荷物の整理ね」

 ヨーコと柔志郎もアパートへと。

 犬も消えるけど、慣れるまでは驚くなあ。

 

「で、俺たちは入荷用の書類作成、と。剣士もちゃんと見て覚えるんだよ」

「ま、まかせるぜよ」

 サービスセンターで華琳、レーティアと相談しながら買取り用紙に記入中、ふと気づく。

「ここに持ってこれない大きな物ってどうやって売るんだろう?」

「そうだな。車等の買取りは別の場所があるのか?」

 今回は必要なものばかりであまりGPにはならないけど、次からは高額商品も買い取ってもらうつもりだ。その筆頭として自動車を狙っていたんだけど……。

 悩んでいたら、買取り用紙の裏の注意書きを発見した。

 

『記入後、売りたい商品に貼り付けることでも取引できます』

 

 ……もしかしてここまで何往復もして運ぶ必要なかったんじゃ?

 妙な気疲れを覚えつつ、作業を終了してポータルをくぐった。

 剣士は直接アパートへ向かう俺のポータル。俺はゲートへと向かう剣士のポータル。

 設置者が使うと消えちゃうからね。持続時間確認したいし。

 

「えっ?」

 俺の目の前には下着姿のヨーコ。

 ……隊長の転移には、小隊のみんなが引っ張られちゃうんだっけ。

 ヨーコは入浴しようとしていたのだろう。そこを俺のワープで呼ばれてしまった、と。

「ご、ごめん」

 俺のシャツをヨーコに差し出して謝る。

「今度から、ポータル使う時は連絡しなさいっ!」

 俺のシャツを羽織りながら怒鳴るヨーコ。

 華琳はサムズアップしてるし。

 

 嫌な予感がしてコンカで俺のスキルを確認したら、やっぱり入手していました。『ラッキースケベ』のスキルをレベル1で。

 喜べないよね、これ……。

 

 

 食事前にアパート1階の大部屋にテレビを設置する。せっかくだからと、ホームセンターにあった一番大きい液晶テレビ。

 テレビ台を忘れたんで、床に直置きなのはちょっと情けないけどさ。

 ケーブル類は忘れずに持ってきたんで接続はあっさり終了。

 さて、この世界の電波に対応してるかな。スイッチON!

「ポチッとな」

 

『AAAニュース』

 お、ちょうどニュースが始まったのか。ずいぶんとタイミングがいいな。

「やっぱしでかいテレビは迫力が違うのう」

 そりゃ剣士の部屋のちっこいテレビとは比べ物にならないでしょ。

 

『あと3日で季節の変わり目ですねえ。みなさんは次はどんな季節になるのでしょう?』

『そればっかりは気象予報士でもわかりません』

 2ヶ月ごとに変わるんだっけ。あと3日とか聞いてないんだけど。

 今の季節は春っぽいけど、次はどうなるのかな?

 冬だったら着替えももっと用意しなきゃいけない。

 

『さらに10日後には交流戦の開催です』

「うおおおっ!」

 アナウンサーの言葉に突然剣士が吠えた。

「ど、どうした?」

「交流戦ぜよ、交流戦!」

「うん。他の面の使徒と戦うんだろ?」

 それで、なんでそんなに興奮するのさ。

 

「今まで、団体競技ばかりだったんぜよ!」

 ああ。この面には他の使徒はいなかったんだっけ。

「それでも参加賞目当てで参加して1回戦負けを重ねて、悔しい思いをしてたんじゃ!」

 参加賞もあるのか。

 定期的にイベントがあるってマジでソシャゲっぽいけど、交流戦ってなにをやるんだろう?

 

『今回のお題は祭り! みなさん準備して下さいね』

「え?」

 祭り?

 交流戦のお題が祭りってどういうこと?

 俺の視界の片隅では剣士が呆けたように大きな口を開けたまま固まっていた。

 

 


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