真・恋姫†有双……になるはずが(仮)   作:生甘蕉

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24話 人類最強

 夢を見た。

 俺が初めて戦ったゾンビの夢だった。

 頭部を胴体に半陥没させてしまった中年太りのゾンビ。

 俺の目の前で爆散したゾンビの夢。

 

 そのゾンビが仕事を終えて帰宅する。途中、近所のゾンビに会い、にこやかに――ゾンビ顔だが――挨拶。

 自宅のドアを開けると、娘らしき少女のゾンビが出迎える。さらには妻らしき女ゾンビも。

 海外ドラマのようにおかえりなさいのキス。

 足元にじゃれつく子犬のゾンビ。

 幸せそうなゾンビ一家。

 

 だが、シーンは一転。

 帰ってこない父ゾンビを待つ娘ゾンビと、その理由を知っていながら教えられない母ゾンビ。

 そして、子犬の餌の皿にのっているのは……。

 

「うわあああぁぁぁ!」

 夢?

 夢だよね!

 夢じゃないと困る。

 はぁはぁと荒い呼吸を静めていると、心配そうにこちらを見ている顔が目に入った。

 一瞬、ホラー映画のパターンだとゾンビだったりするんだよな、とドキドキする。

「だいじょうぶ?」

 ヨーコだった。よかった、ゾンビじゃなかった。

 

 

 ヨーコが俺の隣で寝ているのは、今夜はヨーコの当番だからだ。嫁さんたちで添い寝のローテーションを組んだということらしい。

 華琳だけじゃなくて、みんなで俺の嫁さんとしての役目を果たしてくれるそうだ。……やっぱり本番はなしなんだけどさ。

 本番どころか、ヨーコはキスも駄目だった。

「私のせいでまたあんなことになったら……」

 ヨーコのキスは固有スキルを発生させるから気にしてしまっている。どうにかOFFにする方法か、俺が耐性スキルを身につけなければならないようだ。

 で、添い寝。ちょっとお尻に触っただけでビクッと硬直されてしまったので、それ以上なにもできずただの添い寝。

 ヨーコの香りや体温を側に感じる生殺し状態で寝れるわけがない!

 ……と思っていたが、昼間の疲れでしっかり寝ていたらしい。しかも、変な夢つきで。

 

「煌一が魘されていたんで目が覚めちゃったのよ」

「魘されてた?」

 まあ、あんな夢みたら魘されるのも当然か。

「ごめんなさい、ごめんなさいってずっと謝っていた」

「え?」

「まだ泣いているし」

 ……ヨーコに言われて自分が涙を流していたことに気づいた。

 

「幸せに暮らしていた家庭をぶち壊しちゃったんだ」

 枕元のタオルで涙を拭く。眼鏡は外したままだ。寝る時安心して外せるのはありがたいなあ。

 枕元にタオルとティッシュを用意しているのに深い意味はない。

 昨日のような華琳のサービスを期待なんかしていない。……期待してなかったってば。ぐっすん。

「ゾンビが幸せに暮らしてるわけないじゃない」

「……そりゃそうなんだけどさ」

 ゾンビ相手でも罪悪感があるんだろうか?

 相手はもう死んでいるんだから、気にする必要はないはずなのに。

 

「あんたは想像力がありすぎるのよ、余計なこと考えすぎ」

「でも、それが俺の能力に繋がるわけなんだし……」

 俺は妄想するしかできないわけで。

「それとも、初めての実戦はそんなに怖かった?」

「……怖かった。というか、まだ怖い」

 あんなことを続けられるのか、まだ自信はない。

「2度目はうまくいったじゃない」

「あれはヨーコのおかげだよ」

 ヨーコの固有スキルK(キス)O(オブ)C(クライマックス)の効果は、ステータスの向上や、死亡判定悪化以外にも、テンションアップもあるのかもしれない。

 死亡判定悪化の方も、今回はクライマックスというにはあまりにも敵が弱かったから効果が薄かっただけで、ステータスアップしたいクライマックスに相応しい強敵相手の時は死亡しやすくなると思う。なんとなくそんな気がしてならない。

 

「ほら、思い出しただけでまた手が震えだした」

 情けないなあ。恐怖の耐性スキル、入手はしたけどまだゼロレベルだもんなあ。

「それでも、戦うの?」

「……うん」

 華琳と約束したからGP稼がなくちゃいけない。嫁さん養うためにも必要そうだし。

「煌一は戦わないでもいいんじゃない? 後方支援も立派な仕事よ」

「嫁さんだけ戦わせて、自分は安全なとこってのは駄目」

 なによりも、いいとこ見せて好感度上げたい!

 ……うまくいってないけどさ。

 

「震えてるくせに」

 まだ震えてる俺の手をとって、自分のその大きな胸にもっていくヨーコ。

 柔らかい!

 なにこの感触? 華琳の胸も柔らかくはあったけどレベルが違う!

「落ち着くまでこうしていてあげる」

「……ありがとう」

 柔らかいなあ……。

 

 

 ヨーコのおかげか、変な夢は見なかったようでぐっすり眠れた。

 起きた時に両手でヨーコの胸を鷲づかみにしていたのにはビックリしたけど、ヨーコも寝ていたようで怒られないですんだ。

 惜しいけど起こさないようにゆっくりと両手を離す。

「あん」

 俺は慌ててトイレに駆け込んだ。

 

 スッキリした俺はよく手と顔を洗って朝食の支度。

 昨日は食欲なかったけど、今朝はなんとか食べられそうだ。これもヨーコのおかげかな?

「おはよう、今日は早いね」

 1階の台所に行くと既に梓が料理を始めていた。思わず、エプロンに隠されたその巨乳に目がいってしまう。ヨーコの胸は柔らかかったな……。

「おはよう。そっちこそいつもこんなに早いの?」

「レーティアとランニングするって決めたからさ、ちょっと張り切っちゃって」

 なるほど。そういえば、俺も朝走ろうって決めたような……。

 まあ、今は朝食の準備もしなくちゃいけないから、それはもう少し料理できるメンバーが増えてからかな。

「そうか。じゃあ、あとは俺がやるから走っておいで」

「いいのか?」

「なんとかなるって」

 ご飯はもうガス釜にスイッチが入ってるし、味噌汁もあとは味噌を入れるだけっぽい。他には玉子焼きとサラダかな?

「浅漬けが冷蔵庫に入ってる。納豆もついでに出しといて」

 浅漬けも作ってるとはさすがだ。藁苞の納豆も美味しいし。

 手際いいなあ、嫁さんにほしい。……もう俺の嫁なんだっけ。

「梓」

「なに? ……んっ!」

「おはようのキス」

「い、いきなりすんなよ!」

 そう怒りながらも俺を殴りもせずに足早に梓は2階へと去っていった。

 照れてるのか、可愛いなあ。

 

 って、俺、今なにを?

「もしかしてまだKOCの効果が……」

 慌ててコンカでチェック。

 俺のステータスに赤字でプラス補正がついている。まだ効果は続いているらしい。

 変なスキルが増えていないかもチェックするが、それはなかった。

 いや、もしかすると隠しスキルなのかもしれない。

 

 

「……疲れた」

「明日はもうちょい距離増やすよ」

 テーブルに突っ伏すレーティアに容赦のない梓。いっしょに行かないで正解だったかな?

 でも、梓が励ましてくれながらなら、おじさん頑張れそうな気がする。

「お疲れ様。ご飯食べて元気出そうね」

「……うん」

 ジャージのレーティアも可愛いな。

 

 朝食をとりながら今日の予定を話し合う。

「2日後には季節が変わるわ。着替えの追加が必要よ」

「とは言っても、次が夏なのか冬なのかわからないってのは困るよなあ」

「どっちにしろ洗濯機もいるよなあ。消毒してもやっぱ洗ってから着たいし」

 その気持ちはわかる。いくら新品でもゾンビがうろつく街で入手した品だ。人数も増えたんで、俺んとこの洗濯機でも追いつかなくなりそうだし。

「使徒の2人は洗濯はどうしてたの?」

「コインランドリーぜよ」

 ああ。そういえば、銭湯の隣にあった気がする。

 ……コインじゃなくてGPランドリーな気もするな。

「服もいいッスけど、コタツもほしいッス」

「冬ならそうだけど、夏だったらエアコンの方がよくない?」

 俺のとこにはエアコンあるけどさ。

 

「なら、今日は家電をメインに狙うか。そこそこの値段で売れそうだし」

 昨日の買取りでは初物ボーナスもあって、それなりのGPで売れた。まあ、売るよりも確保する分が多くて儲けは少なかったんだけど。

「箪笥やクローゼットも必要だぞ」

 レーティアに言われて204号室にはほとんど家具がなかったのを思い出す。

 俺のとこをコピーしたんだから家具やエアコンもコピーしてくれればよかったのに。

「あとテレビ台か」

「ワシのとこにもでっかいテレビほしいぜよ」

「オレもほしいッス」

 使徒ともあろう者が、物欲を前面に出すとは嘆かわしい。

 ……もちろん、俺んとこのテレビも大きいのにしたいな。嫁さんとこにも必要だし、録画装置もいるだろう。

 こっちのテレビ番組も有用そうなのがあれば録画したい。番組表がほしいとこだ。

 

「剣士、新聞はとらないのか?」

「ワシは読まんからいらんぜよ」

 ああもうこいつってば、ケチなんだから。……というか貧乏なのか。まさか貧乏神?

「新聞があればテレビ欄くらい、ついてくるだろ?」

「ホ、ホンマか?」

 いやだから、こっちのことは君の方が詳しくなきゃいけないでしょうに。

「……とりあえず、契約しないでいいから1部だけ買ってみてくれ。それで良さそうだったら契約すればいい」

「え? 新聞って契約せんでも買えるのか? 知らなかったぜよ!」

 駄神……思わずそう言いそうになってぐっと堪えた。

 ホントにこいつ、俺の呪いを解けるまでに成長してくれるんだろうか?

 

 

 ゲートに到着すると、剣士と柔志郎の2人がカードで作ったポータルはまだ稼動していた。俺が魔法で作った百貨店とアパートを結ぶポータルは消えていたのに。

 俺のポータルがレベル1だから持続時間が短いのかもしれない。コンカでディスクロン部隊にメールして確認したら8時間くらいは持ったようなので、充分な気もするけどね。

 

 京成金町駅から昨日のマーキングを頼りに俺のポータルで移動。レベルが1とはいえ、無料で使えるのはありがたすぎる。消費MPは大きいけど、俺のMPならすぐに回復する程度の量だし。

「やっぱ臭い」

「ゾンビは近くにいないようね」

「今日は稼ぐのだ!」

「おおっ!」

 みんな、張り切ってるなあ。

 

 

「張り切りすぎたのだ……」

 京成金町駅の短いホームには、物が溢れていた。

 ポータルの仕様をよく相談した結果、俺がポータルを開け、髑髏小隊の数名のみが駅に移動。

 残った俺たちが共有スタッシュにアイテムを入れ、駅側のメンバーが共有スタッシュからアイテムを出していくという、ポータル移動の時間すらも節約した作戦でこんなになってしまった。

 流れるようにスタッシュに押し込んでいくのは宝石売り場の怪盗の気分だった。

「あっちに持っていくのが大変そうね」

「ゲートもピン隊員で動かせればいいんスけどねえ」

 ポータルと違い、ゲートは小隊全員じゃないと使えない。小隊の隊長じゃないと動かすことができないからだ。ちょっと不便だ。

 

 並んだ品、全部に消臭と殺菌の魔法をかけてからみんなに聞く。

「今日はこれぐらいにするか。買取り用紙に書く時間もかかりそうだし」

「そうね。早く自転車を試してみたいわ」

 楽しみそうな華琳。

 今回は忘れずに自転車も入手した。新車、中古、それに工具、空気入れ等。

 むこうに置いてきた愛車が懐かしい。電車だと痴漢にあうんで自転車通学だったのよ、高校時代。

 

「次は単車だな。ネットでバイク屋探しておこう」

 問題はガソリンの入手か。停電でもガソリンスタンド動けばいいけど。

 電気がないと現代社会は不便で仕方がない。

「道路も使えそうだし、自動車でもいいのだがな」

 クランの言うように、道路上は緊急時のマニュアル通り、左側に寄せて停車している車が多かった。

「一瞬でゾンビにされたんじゃなかったのかもな」

 そうだとしたら運転中にゾンビになって事故車両が多いはず。停車してからゾンビになったんだろう。

「自動車には気をつけるッス。中に閉じ込められたゾンビもいるッス」

 ……ゾンビになって知能が落ちて、ドアを開けられなくなったのか。匂いもすごそうだな。

 車を狙う時はディーラーのとこのにしよう。鍵もあるだろうし。

「まあ、車はスタッシュが広がってからだ。だいぶ熟練度も貯まったからすぐかもしれないけど」

 スタッシュスキルの熟練度はどうやら、入れっぱなしよりも頻繁に出し入れする方が伸びが良いようで、さらに入れたことのない物を入れた時の方が貯まる。

 空気満タンが効果あったのは、最初だけだったようだ。残念。まあ、俺担当の世界では空気を入れられるのも使うかもしれないからまったくの無駄というわけでもあるまい、と自分を慰める。

 

 

 今回は数が多いので全員で買取り用紙に記入。

 昨日学習したので、ゲート前に並べた品にサービスセンターから持ってきた買取り用紙に記入して張ってみる。

「うん。ちゃんと消える。……GPも増えているね」

 さっき駅で試した時はできなかった。買取はサイコロ世界じゃないと駄目らしい。

「じゃあ、みんな書くッス。わからないのはアニキに聞くッス! 売り上げは山分けッス!」

 話し合った結果、売り上げはファミリアも含めた人数で割ることになった。随分と俺のとこが得してしまい気が引けたが、使徒2人が折れなかったのでこうなってしまった。

 鷲と狼も頭数に入れてもらったのはせめてもの抵抗だ。だって、どっちもスタッシュ使えたし。

 

「結構稼いだッスね」

 入手GPの合計値を計算したらすごいことになった。

「なんか火事場泥棒みたいで気が引けるけどね」

「だいじょうぶぜよ。使徒は泥棒はできんぜよ」

「どういうこと?」

「持ち主がいるもんはスタッシュにしまえんぜよ」

 なるほど。スタッシュにはそんな条件もあったのか。

 そりゃそうだよな。じゃなきゃ万引きしほうだいだ。

「今まで、入れられないのがなかったのは、みんな死んでいたからか」

「そうなるぜよ。家族でも生き残りがいれば、入れられないはずなんじゃがのう」

 やっぱりあの世界、ゾンビしかいないのかな……。

 

「落ち込んでても仕方ないか。これだけあれば少しはメダルも買えるから、そろそろクレーンゲームをしよう」

 今日もゾンビと戦って、それでもなんとか死なずに済んだけど、次はどうなるかわからない。

 俺が死んでスピリットとして召喚される時のGP額は能力によって変わるけど、残金がマイナスになることはないらしい。GPが不足してもスピリット召喚はしてくれる。

 なら、宵越しのGPは持たない方がいいんじゃね? って死ぬこと前提の考えになってしまったので貯まったGPを使うことにした。

 必要なものはだいたい揃った気もするしね。

 

 確保した品はスタッシュにしまい、効果がまだ続いている柔志郎のカードのポータルで百貨店にワープする俺たち。

「これがみんな人間ッスか……」

 柔志郎が驚くのも当然だろう。クレーンゲームの中はあいかわらず恋姫†無双ぬいぐるみで一杯だった。

「どう見てもまずは邪魔なこの2人か……」

 相変わらず漢女2体を取らないと、どれも取りにくい配置のようだった。

「それはいらないのだけど……」

 メダルを無駄にすることなく貂蝉ぬいぐるみをゲットしたのにあまり嬉しくなさそうな華琳。

 というより、怒ってる?

「だって全員をって……」

「私は他の娘たち全員、と約束したのよ。化け物は数に入っていないわ」

 ……ああ、そういうこと。

 でも、俺だってこんなのがほしくてメダルを無駄にしたわけじゃないし。

 

「じゃあ、売っちゃおうか?」

 戦力にはなりそうな気がするけど、いろいろと危険な気がする。

 特に俺の貞操が。童貞捨てる前にこんなのに襲われたくない!

「そうね」

 華琳の許可も出たのでさっきの用紙の余りに記入して……。ぬいぐるみに張る前に用紙に表示された買取り額に驚く。

「なんかエライ額なんだけど」

「こりゃスゴイのう」

「今日1日の稼ぎより多いッスよ」

 初回ボーナス付きだとしても、漢女って……。

 

 結局、卑弥呼もゲットしてすぐに2体を売った。そのGPでまたメダルを購入。

 チャレンジの結果、さすがにノーミスは無理だったが、おさげのおかげで取り易かった許緒他の数名の恋姫†無双ヒロインを救助することができた。

「ありがとう煌一」

 よほど嬉しいのだろう、許緒や魏の娘のぬいぐるみを手に涙ぐむ華琳。

「よかったね。ちゃんと全部助けるから安心して」

 華琳を抱きしめて胸を貸す。

 俺の胸で泣いているのかじっとしている華琳。少し不安になる俺。

 ……まただ。まだKOCの効果続いているの?

 

 

 屋上の軽食コーナーで休憩することにした俺たち。むこうでは食べる気になれなかった弁当を広げる。

「この娘たちを元に戻すのは後でいいわ」

 まだ目の赤い華琳が驚くことを言う。

「でも、戦力になるんじゃ?」

「あそこから助け出せればいつでも戻せるのでしょう? 元に戻っても住む所のないのでは可哀想よ」

 ああ、住居問題があったのね。今回助け出した許緒ちゃんもすごい食べるんで、食事のことも考えなきゃいけない。コンロや炊飯器が足りないか。

 

「剣士、アパートの部屋ってあとどれぐらい増やせる?」

「階を増やせばあの人数分はなんとかなるじゃろうが、それじゃったら、本拠地をグレードアップした方がたぶん安上がりぜよ」

「そんなことできるの?」

 そういえば、アパートの名称に初期ってついていたな。中期とか後期型とかあるのか?

 

「もちろんぜよ。ワシのオススメはこの城ぜよ!」

 マスターの書を開いて見せる剣士。開くことはできなくても、開いてあれば俺たちにも読めるらしい。

 けど、城?

「そんな高そうな上に不便そうなのはいらない」

「そうッス。シャチホコよりもBSアンテナの方がほしいッス」

 俺と柔志郎に否定されて落ち込む剣士。

 

「やっぱりマンションがいいッスよ」

「まあ、そうなるかな」

「それなら鶴来屋がいいんじゃないか?」

「鶴来屋?」

「梓んとこが経営してる温泉旅館。すごい豪華」

 いいかもしれない。部屋も多いだろうし、今なら眼鏡なしで温泉に入れる。

 モデルになった旅館も実際にあるんだっけ。まあ、高そうな旅館泊まる金あったらプラモに回してたから、想像もつかないんだけどさ。

 

「……なんかこっちも城っぽいんじゃが」

 梓の説明を参考に図にしていったらそんな感じだった。

 15階建ての本館ビルとそれを囲む3つの別館に広大な日本庭園とか。

 大浴場の他に数種の浴場、展望露天風呂。……露天風呂はいらないな。他の面のやつに覗かれそうだ。

 大浴場があれば、他もいいでしょ。あ、でもプールがあったら嬉しいかも。

 

 話し合いながら図に変更を加えていく。

 別館は必要になったらでいいから、本館ビルのみにして、日本庭園は家庭菜園か果樹園、もしくは薬草を育てるとこに。

 うん。こんなもんかな?

 出来上がった予想図は食堂、イベントホール、プール、大浴場のある高級マンションといった感じになった。

「高級マンションぽいな」

「そんなもん、ワシはわからんぜよ」

「俺だって。でも、見本を見ればなんとかなるだろ」

「見本って、あてがあるんスか?」

 住宅情報誌か、ネットで調べれば結構出てきそうだ。それにさ。

「あの駅側の高層マンション、高級かはわからないけど一番上からの景色はよさそうじゃない?」

 

 まあ、見本はなんとかなりそうだけど、予算は足りなさそうらしい。

 そりゃ、ボロアパートからいきなり高級マンションとか、ステップアップしずぎだからねえ。

「次の交流戦で稼ぐしかないぜよ」

 交流戦で名を上げれば、GMも貯まりやすくなるとか。

 

「GMってそういうものなの?」

「神さんたちの中での存在感が上がるっつうことぜよ」

「GMって信者の信仰心で増えるんじゃないッスか?」

 その質問にフッと鼻で笑う剣士。かなり似合わない。

「そんなもん役に立たんぜよ。だいたい、人間の信仰心なんてお願いと引換えばっかでワリが合わんぜよ」

 むう。言われてみればそんな気がしないでもない。

 善行をつむのだって天国に行きたいから、ってされると否定しにくいかも。

「でも宗教戦争とかあるから、信仰心ってすごいんじゃない?」

「神のために、って頼んでもないことをするのが宗教じゃ。神さんがそんなことを望んでないのに勝手なことばかりするんぜよ」

 ……剣士は自分の星で宗教関係でなにか苦労してるのかもしれない。

 でも、それじゃあ俺たちは救済ってなにをすればいいんだろう?

 

「だいたいじゃな……」

「ああ、宗教の話はもういいよ、長くなりそうだし」

 愚痴を聞いていてもGPもGMも貯まりそうにない。

「それで、交流戦とはいったいどういうものなのだ?」

「このサイコロの各面の代表者が戦うんぜよ。交流戦ごとにルールが違うんじゃ。最近は野球やサッカーみたいな団体競技が多かったのう」

 野球やサッカーに1人で出場してたのか?

 せめてキャッチャーやキーパーがいないと勝負にならないでしょ? まさか鷲がそれをやっていたの?

 

「今回は祭りだろ?」

「ワシもこんなのは初めてじゃ。なにをするのかサッパリわからんぜよ」

 祭りで勝負か。

「喧嘩神輿とか牛追い祭りとか勝負できそうな祭りは結構あるよ」

 チーズ転がしたり、かけっこしたり、ロケット花火打ち合ったり。

「つまり、なにがくるかまったく予想できない、と」

「そうなるね。新聞見てもよくわからないしなあ」

 テレビ欄と天気予定は役に立ちそうだから、とる事に決めたけどさ。だって予報じゃなくて予定なんだよ。それに他のサイコロ世界や担当世界の情報もあって役に立ちそうだし。

 

「祭り、か。助っ人を呼ぶか」

「助っ人?」

「うん。人類最強の男」

 最強っていうと何人も出てきそうだけど、カテゴリ分けしたら、その中の1つに確実にいる人物。

「そんな男がおるんか?」

「いる。柔志郎の世界の拠点の近所に」

「……ゾンビになってるんじゃないッスか?」

「その心配はないよ」

 ゾンビにはなっていない。

 心配なのは、あっちのニホンにいるかどうかなんだけど、ほとんど同じっぽいから大丈夫だと思う。

 

「柔志郎、わからないか?」

「さっぱりッス」

「……金町と綾瀬の間にある駅は?」

「亀有ッス! ……もしかして?」

 そう。目的地は亀有。

 柔志郎の拠点付近をインターネットで調べた時から、ずっと気になっていた駅だ。

 そこにいるあの人なら美形じゃないから、俺の呪いも関係ない。

 それに、お祭りも大好きだし!

 

 




柔志郎が北綾瀬スタートだったのはこのためだったり

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