真・恋姫†有双……になるはずが(仮)   作:生甘蕉

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27話 男の娘なんて

「じゃ、寝ようか」

「キ、キスだけなのか?」

 レーティアとはキスまで。

 大帝国アルティメットルートのヒムラーのようにそのまま最後までとはいけない。

 華琳との約束があるから魔法使いのスキルをまだ失うわけにはいかない。

 

 ……いや、俺だってもうちょい先のステップまで進みたかったけどさ、見てるわけよ。

 愛紗と蓮華の2人が!

 両さんとの話に夢中になりすぎて華琳に返すの忘れてた!

 ぬいぐるみなのにすごい視線を感じちゃってさ。

 これ以上はさすがにできないでしょ。

 今返しに行くのも「これからレーティアとえちぃことします!」って言ってるようなもんなので不可だし。

 

「今日はしっかり休んで、明日もっと体力つけないとね」

「私の身体がそんなに強くないことを気にしてくれてるのか?」

「いや、レーティアが過労で倒れたのはホントに働き過ぎだったからでしょ。1人でなんでもやろうとしてさ」

 大帝国ではたいがい、レーティアは過労で倒れてしまう。

 さらに場合によっては過労死する時もあるけど、それは今は言わない方がよさそう。

「そんなことまで知っているのか」

「うん。でもね、ファミリアになったんだから鍛えれば体力もつくさ。こんなおっさんだって使徒にされたおかげで能力は上がり易いんだし」

 使徒になる前に比べたらかなり強化されたと思う。

 HPだってかなり増えてるし。……特訓は辛かったけどさ。

 

「そうか。梓とのトレーニングも無駄ではないのだな」

「ああ、朝のランニングか。俺もいっしょに走りたいけど、それは料理できるメンバーが増えてからかな」

 さっきイメージ籠めてた娘は料理できたっけな?

 レーティアに腕枕してそう思いながら俺は眠りに落ちていった。

 

 

 本日3度目の契約空間モドキ入り。

 両さんはいなくて、差し入れた酒やプラモもなかった。

 いるのは愛紗と蓮華の2人。

 やはり、寝た時に近くにいるのが条件なのかもしれない。

 

「曹操の夫と言っておきながら、別の女性と同衾……」

「しかも昨夜とは別の娘ってどういうこと?」

 思った通り、2人の視線がキツイ。ぬいぐるみなのに。

 

「どっちも俺のお嫁さんだよ」

「なっ!?」

「そんな……」

 そんなに驚く? ……そりゃ驚くよね、こんなおっさんに美少女が何人も嫁入りってさ。

 俺はぬいぐるみ2人に結婚までの経緯を説明した。

 

「なるほど、煌一殿の呪いを避けるために結婚した、と」

「うん。他に手っ取り早い方法がなかったから。……女神に直接会って解除してもらえればいいんだけどね、剣士は紹介してくれそうにないし」

性質(たち)の悪い女神ね」

 全くだ。そんなのが俺の世界の神様っていうんだから勘弁してほしい。

 

「だが、本当にそんな呪いがかかっているのか? 私は平気なのだが」

「そういえば私も」

「だからそれはこの眼鏡が……げっ!」

 そういや寝るんで眼鏡外してたんだ。……昨晩も外してたっけ?

「お、俺の顔見て平気なの?」

「ええ。嫌悪感などはありませんが?」

「むしろシャオあたりなら喜びそうな顔だと思う」

 なんでだろう?

 ……もしかして2人がぬいぐるみなせい?

 ぬいぐるみだと女性扱いしてなくて、呪いの適用外?

 

「実家の雌猫は俺のこと嫌がってなかったから、そんな感じなのかも」

 もうかなりの歳になってるはずだけど、まだ生きているかなあ。

「私たちを猫扱いすると言うの!」

「わ、私があのような可愛らしい生き物だと!?」

 蓮華と愛紗が怒った。……愛紗のは怒っているのか?

 

「いや、そうじゃなくて、今の君たちはぬいぐるみでしょ。人間じゃないから呪いがきかないんだと思う」

 だといいな。

 人間じゃなければ効果がないなら、人外キャラなら普通に接してくれるはず。

「……私たちは人間ではないのか」

「猫でもないと……」

「落ち込まないで。ちゃんと元に戻してあげるからさ、みんなを」

 華琳と約束してるんだし。

 ……でもそうすると、呪いの適用範囲になっちゃうんだろうなあ。

 

「やはり、煌一殿に恩を返すには嫁入りするしかないだろうか」

「だから、なんでそんな話になるのさ。いくら華琳に借りを作りたくないからって」

「それほどまでに人形のままでいるのは辛いの。皆にこんな思いをさせているかと思うと……」

 ぬいぐるみだから涙は流せないけど、たぶん蓮華は泣いてるんだろう。

「だからね、自分を助けるためにね、君たちがこんなおっさんに嫁入りしたなんてなったらさ、助けられた方も気にするでしょ」

「呉の人間はそこまで恩知らずではありません!」

「桃香様ならわかってくれます!」

 ……そうかなあ?

 

「呉は甘寧あたりが俺の命を狙ってきそうだし、劉備は「愛紗ちゃんが犠牲になることなんてない」とか言い出しそうなんだけど」

「そ、それは……」

「ありえるでしょ? だから、みんな助かるって俺を信じて待ってるだけでいいよ」

「ですが!」

「助けた後で、みんなでちゃんと相談してそれでも俺の嫁になりたいってんなら嬉しい。ないだろうけど」

 とは言っても、ほとんど知らない俺を信用するってのは無理があるよなあ……。

 

 

 ……もう朝か。

 セミが鳴いてるな。夏なのかな?

 せっかくの美少女と同じベッドでの目覚めだというのになんか疲れてる気がする。

 一昨日、昨日のようにトイレに駆け込む気にもならない。

 

 枕元のぬいぐるみ2体を恨みがましく見る。君たちのせいだから。

 その時、いっしょに並んだフィギュアたちに気づいた。レーティアがくる前にEPを籠めていたフィギュアだ。

「うん。成現しちゃうか!」

 きっと契約空間でのストレスが残っていて、寝ぼけていたのだろう。

 レーティアを残してベッドを抜け出し、パジャマのまま着替えもせずにその娘を成現してしまった。

 

「……で、その娘が新しい娘?」

 朝食の前に集まったみんなに彼女を紹介する。

 みんなの表情が微妙なのは住むとこどうすんの? ってことだろう、きっと。

「保科智子です。お父さんの娘です」

 簡潔な自己紹介。うん、クールだ。

 彼女、保科智子はもはや古典ともいえる名作ギャルゲー『To Heart』のヒロインの1人だ。

 元祖ツンデレというか、ツンデレという言葉自体がないころのツンデレヒロインで、その方向性を確立させたキャラたちの1人でもある。

 

「娘ぇ?」

 梓が俺を睨む。

「うん。そんな設定にしちゃったみたい」

 俺は呪い避けのためにそう改変してしまっていた。ちょっとどころか、かなりアルコールが残っていたようだ。

 妹じゃなくて娘なのは、3個1でいっしょに成現したフィギュアとの繋がりのせいかな。

 クランで試したニコイチじゃなくてサンコイチ。しかも今回は別人3人を1人に、という仕様。酔ってたからって無茶したなあ。……上手くいってよかったよ。

 

「で、智子には柔志郎のファミリアになってもらうつもりだから」

「オレッスか?」

「うん。ぬいぐるみのお礼」

 犬だけじゃ戦力不足だろうし。

 ベースになっている智子はともかく、いっしょに使った2体の能力が上手く使えればかなりの戦力になるはずだ。

 ……蠍座の黄金聖衣があれば、4個1試したのに。

 

「ずるいぜよ! 柔志郎ばっかり! ワシもファミリアほしいぜよ!」

 いや、剣士からぬいぐるみもらってないし。

「ワシはライオンかゴリラかサメがいいぜよ!」

 だからやるなんて言ってないし。

「頼むぜよ!」

「なあ剣士」

「やってくれるんか?」

「いや、普通さ、そういう能力とか使い魔を注文されるのって、神様の方じゃね?」

 チート能力や外見を要求するのがお決まりだったような。

「な、なんのことじゃ? ワシゃさっぱりわからんぜよ!」

 ああ、やっぱりそういうのあるんだ。

 俺たちにジト目で見られて剣士が観念する。

 

「……実はのう、煌一さんや柔志郎のように連れてきたのをそのまま使徒に、じゃのうて新しい肉体を与える場合もあるんぜよ」

「転生か」

「よう知っちょるのう。そん時は好きなように固有スキルを決められたりして、強い使徒が作れるんぜよ。じゃが煌一さんのようなレアな固有スキルをつけることはできんし……高くてのう」

 最後にポツリと言った、高いってのがホントの理由だろうな。剣士、貧乏駄神だし。

 それにしても転生か。転生だったら俺の呪いも解けたのかな?

 ……固有スキルや魔法使いもなくなっちゃうか。それに能力高いと難度高い世界を任されちゃうんだよな。転生した連中も苦労してるだろうなあ。

 

 おとなしくなった剣士をほっといて主従予定の2人が握手する。

「田斉柔志郎ッス!」

「柔志……郎? 変な名前やな」

 智子は神戸出身で関西弁。

 父親設定とはいえ、俺が2代続いた東京生まれで江戸っ子一歩手前の血筋なのは違和感ないのかな?

「智子ちゃんこれからよろしくッス」

「お父さんが頼むから仕方なくや」

 握手したと思ったらもう契約終わったのかな?

 マニュアルの通り、正式な契約空間での出来事は一瞬のことらしい。

 

「それよりも、智子の住むとこどうすんだよ?」

 あ、やっぱそれ聞く?

「狭いけどオレんとこでいっしょに暮らすッスよ!」

 うん。狙い通り柔志郎が上機嫌。

 智子は三つ編み眼鏡美人。眼鏡を外しても美人なんだけどね!

 柔志郎が取ってきたぬいぐるみから推察した眼鏡フェチというのは当たっているようだ。

 それに合わせる意味で、3体の中で一番戦闘力が低い智子がベースになってるんだよね。まあ、もう1体も変身前は眼鏡っ娘だけどさ。

 

「お父さんといっしょがええんやけど」

「だ、駄目だ! それだったら204号室で面倒見るから。ほ、ほら、あたしたちの娘ってことになるんだし!」

 あ、そうなるのかな?

 娘なんて嫁さんたちに怒られるかも……。

「なんや梓さん焦ってない? 私がお父さんといっしょに暮らすとなんかまずいことでもあるんか?」

「智子、今日は梓が待ちに待った閨当番の日なのよ。察してあげなさい」

 ……そうか、今日は梓が添い寝してくれるのか。

 この順番って成現した順番だったのかな。

「べ、別にあたしは楽しみになんて……」

「では今日は止める?」

 華琳に意地悪く言われて涙目になる梓。

 

「そんなに梓をイジらないの。梓もほら、泣かない泣かない」

「泣いちゃいない!」

「俺の方は楽しみにしてるからさ」

 耳元で囁くと一瞬で梓が真っ赤になってしまった。

「なんやお父さんの方がイジってるやん」

 ため息混じりの智子。

「わかるか」

「当たり前や。けどそういうとこ可愛いなあ、梓お母さん」

 さらに赤くなる余地がまだ残ってたか、すごいな梓。

 

「智子、私のことはクランママと呼ぶがよい」

「く、クランママ?」

 どうみても小さいクランを母親と呼ぶのは抵抗あるだろうなあ。

「うむ」

 ない胸を張ってにやけるクランに質問してみる。

「いきなり娘とか怒ったりしないの?」

「ふん。妻が5人もいることに比べれば大したことでない。それに隠し子の数人は覚悟していたぞ」

 俺が隠し子なんてできるはずがないでしょ。

 ……ミシェルの方か。

 なんとなくクランを抱き寄せてなでなで。俺は死なないからね。

 

「ワシのファミリアはまだなんじゃろうか?」

 諦めてなかったの?

 なんでやってもらって当然、な感じなんだろう。これがゆとり世代か。

「……智子の部屋を用意してくれたら考える」

 拠点のグレードアップは遅くなるだろうけど、仕方ないよね。

「わかったぜよ!」

 

 

 朝食後、ダッシュで自室に行った剣士が戻ってきた。

「202号室を煌一さんのとこと同じにしたぜよ!」

 202号室って柔志郎の部屋か。

「助かるッス。これで安心して智子ちゃんと暮らせるッス!」

「お父さんといっしょがよかったんやけど」

 文句も言いながらも智子は柔志郎といっしょに2階へ上がっていく。

 

 バンとテーブルに両手を叩きつける梓。

「いいのかよ、可愛い娘を同棲なんかさせて!」

 怒る気持ちもわからなくはない。

 けどさ、大丈夫でしょ。

「同棲とは違うんじゃないかな? どっちかって言うと、ルームシェア?」

「え?」

 おとなしくついて行ったってことは智子はちゃんと気づいたようだね。さすが我が娘。

「なにをそんなに怒っちょるんじゃ?」

「だから! 嫁入り前の娘が男と暮らすってのは駄目だろ!!」

 やっぱり梓は気づいてなかったか。

 

「なにを言っちょるぜよ。柔志郎は女ぜよ」

 うん。俺も昨日スキルで人物鑑定するまでは名前に騙されていたけどね。

 柔志郎は女性。男の娘なんかじゃなかったよ。

 

「なに梓、柔志郎を男と思っていたの?」

「日本だと男の名前らしいんだ」

 ああ、君たちは日本人の名前に慣れてないから引っ掛からなかったのか。

「あんな可愛い子が男なわけないでしょう?」

「華琳、その認識は甘いのだ。宇宙は広いのだぞ」

 クランはアルトやルカを知ってるもんなあ。

 

「え? 女だったの?」

 梓が驚くのはよくわかる。

 女子中学生にしか見えない男名の成人女性で、オレっ娘で口調が変で、アホ毛持ちのアホの子で、眼鏡フェチで、鉄ちゃん、いや鉄子さん。

 ……これでさらに使徒なんだから属性盛りすぎだよねえ。

 女神の呪いはどれについているんだか。俺の鑑定スキルのレベルでは見れなかった。華琳は知ってるだろうけど、ろくでもない効果だろうから聞くのも怖い。

 

「そんなことよりも、ワシのファミリアぜよ!」

 ああ、そんな約束だったっけ。

 どうしようかな?

「じっくり選んであげるから待ちなさい。MPもないし」

 智子のためにMPほとんど使っちゃったからさ。

「ライオンかゴリラかサメがいいぜよ!」

 拘るねえ。

 ライオンとゴリラはともかく、サメはいらないでしょうに。

 

「今日はどうするんだ?」

「今日はエアコン取り付け工事かな。なんか夏になったみたいだし」

「急に暑くなりすぎよ」

 まったくだ。外ではセミが五月蝿いぐらいに鳴いている。

「智子は基礎講習だろうから、今日は出陣しない。各自訓練ってことで」

「わかった。レーティア、特訓だな」

「あ、ああ。よろしく頼む」

「あんま無理させんなよ。ちゃんと休憩取りながらだぞ」

「わかってるって」

 あとでレーティアのいない時に彼女が過労死のイベントもあるってことを教えておこう。

 ……メールの方がいいか。

 

「ワシは?」

「工事の手伝い。さすがに1人じゃ大変だ。足りないのがあったら持ってこなきゃいけないし」

 両さんの話やネットで調べたのだと大丈夫そうだけど、実際やってみないとわからない。

「了解ぜよ。……ワシの部屋にもクーラーつくんかのう? 夏は暑うてかなわんぜよ」

 学ラン脱げばいいでしょが。

 

 

「ふぅ。暑いぜよ」

「なら脱げ」

 やっと202号室のエアコン取り付けが完了した。慣れないせいで午前中いっぱいかかってしまった。

 素人がやったにしちゃ早いほうか。途中で工事・エアコン取付のスキルレベルが1になったおかげだろう。ちょっと嬉しい。……かなり使いどころのないスキルではあるけどさ。

 

 智子は講習には行かず、嫁さんたちとトレーニング中。

 剣士のファミリアを待っていっしょに講習を受けた方がいいという判断らしい。

「剣士のファミリアかー」

 首に巻いたタオルで汗を拭き、柔志郎が差し入れてくれた麦茶で喉を潤しながら考える。

 

「ライオンかゴリラっつってもさ」

 ライオかイボンコなら動物サイズだっけ? なんとかなるかもしれない。……コスト以外は。

 けど、戦力になっても普段それと暮らすってなると、ねえ。

 柔志郎の狼なんて犬小屋ないから部屋に用意されたケージで寝てるしさ。ライオンもそうする?

 

「埼玉の球団のマスコットなんかいいんじゃないッスか」

 ……柔志郎が薦めるのは、鉄道会社なせいな気がする。

「手持ちにそんなのないっての。頭が星のならともかく」

「ああ、アニキはそっちのファンッスか」

 ……優勝した時の腕だけのブロンズ像、横浜にあるかな?

 

「そこまで拘るんだから、剣士、なにか素材になるもの持ってないか? それを使った方がEP籠めも楽だし、お前のイメージ通りになるはずだ」

「……ないぜよ。本体の方が持っちょるがあれは宝物ぜよ。渡してくれんぜよ!」

「そうか」

 さすがに貧乏駄神から徴収するのは気が引ける。

 ならば、手持ちのから見繕うしかないか。模型店から持ってきたのもあるしなにか見つかるかもしれない。

 コップに残った麦茶を一気飲み。

「まずはエアコンつけるしかないか」

 まだ、204号室、1階大部屋の工事が残っている。

 201号室?

 4畳半なんで窓用エアコンでじゅうぶんでしょ。あれなら設置が楽だから剣士1人でも出来るはず。剣士もエアコン取付のスキル入手したしね。

 

「なんかワシの扱い悪くないじゃろか?」

 ちっ、駄神の癖に勘がいい。

「気のせいだろ。ファミリアほしかったらさっさと工事終わらせる」

「そうじゃな! 頑張るぜよ!」

 

 

「涼しい」

「これがクーラー……構造をあとで詳しく説明なさい」

 トレーニングと入浴を終えた嫁と娘が、大部屋で涼んでいる。

 季節に合わせて薄着になっているので、目のやり場に困る。……夏、サイコー!

「なんとか1日で取り付けが終わってよかったよ」

 スキルレベルはまだ1だけど、けっこう熟練度が貯まっていたりする。……次いつ熟練度増えるかわからないけどさ。

「ワシの部屋は手伝ってくれんかった……」

 大部屋の隅で剣士がイジケている。

 チラチラとこっちを見ているので、あれは構ってくれというアピールなのだろう。

 子供か!

 

 剣士の部屋のエアコン設置を手伝わなかったのには理由がある。

「それだけじゃないッス! トイレも強化されてるッスよ!」

 シートタイプの温水洗浄便座も持ってきてあったので、ついでに設置した。

 やっぱりスキルも入手してしまった。

 俺はエアコンとトイレの工事で担当世界を救済するのだろうか?

 

「まあ、そっちは後で試すとして、ご飯にするよ。手を洗っといで」

 夕食の用意が済んだ梓がみんなを促す。……嫁というよりお母さん?

 あ、もう母親になっているか。

 

「おお、今日は焼肉か。奮発したな」

「奮発って言っても材料費はうち持ちじゃないって」

 テーブルの上に並べた3枚のホットプレートが温まっていく。

「……ブレーカーだいじょうぶか? エアコンもついているのに」

「問題ないぜよ。アンペア上げといたぜよ」

 焼肉で機嫌が直ったのか、剣士が答えた。エアコン工事の時にその辺ちゃんと覚えたらしい。

 もしかして、やればできる子?

 

「こーいち、ビールばっか飲んでないでちゃんと肉も食え」

 梓が俺の皿にどんどん焼けた肉を乗せてくれる。

 ビールがいい感じに冷えているんで、そっちが進んじゃうんだよね。

 後で両さんにも肉とビール差し入れないと。

「梓母さん、やる気やな」

「なんのことなのだ?」

「ほら、今日は梓母さんなんやろ、で、焼肉。お父さんにスタミナつけさせて……」

「ち、違う! こ、これはレーティアにスタミナつけてもらおうと」

「そうなのか。ありがとう梓。とても美味しいぞ」

 レーティアに感謝されて微妙な表情の梓。

 きっと良心が痛いに違いない。

 ……それにしてもそこまで梓が期待してるんじゃ、ビールはここまでにしておこう。

 アルコールでスタンバイできなくなると困る。

 

 

 

 剣士のファミリア候補をなんとか選び出し、EP注入を終えた頃、梓がやってきた。

「こ、こういち」

「いいのか。梓?」

「あんたなら……ううん、煌一じゃないと、嫌だよ」

 うう、良心が痛い。

 梓が好きなのは俺じゃなくて、痕の耕一なのに!

 直そうにも一度(ひとたび)成現したら、その後の設定変更はきかないみたいなんだよな。そのために最近は空きスロットを追加して成現してるんだし。

 心をいじるのは良くない、って思っているのに智子もお父さん設定にしちゃったしさ……。

 

「こういち?」

 はっ。……EP低下でネガティブになっていたか。

 嫁さんを手に入れるためなら、外道になるって決めたんだ。これぐらい飲み込んでやるさ。

「俺も梓が嫁になってくれて嬉しいよ」

 今夜はちゃんとぬいぐるみを華琳のとこに返した。

 梓だったら回想シーンのロリの時の方が好きだけど、そんなのは些細なこと。

 おっぱいさんだってヨーコっぱいで目覚めたんだし、ちゃんと愛せるよ、俺。

 

 

 ……あれ? 智子を10歳ぐらいの設定で成現すればよかった?

 

 




男の娘なんていませんでした

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