真・恋姫†有双……になるはずが(仮)   作:生甘蕉

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3話 殲滅指令!!

 202号室の田斉君が幽霊となった場所は北綾瀬だそうだ。

 なんかあんまり異世界って感じがしない地名なんだけど。

 お、メールの続きがきた。

『地下鉄千代田線。他の地下鉄、鉄道路線と接続がない東京メトロ駅では珍しい単独終端駅です』

「千代田線って東京……日本なの?」

『そう。でもほとんど同じみたいだったけど俺たちの日本じゃないみたい。北綾瀬駅にあるはずの可動式ホーム柵がなかった』

 違うのか。

 それにしても駅のこと詳しいんだね。鉄ちゃん?

「帰れるわけじゃないのね。平行世界の日本ってとこかな」

 日本なのに殺されるほど危険って……戦時中?

「どんな人がいたの?」

 さすがに誰に殺されたの、とは聞けなかった。

 

『生きてる人間には一人も会ってない。みんなゾンビだった。動きは遅いけど数が目茶苦茶多かった』

 げっ。

 生物学ハザードですか。

 ゾンビだらけの街に一人で行って……殺されたなんて。

 

「泣いちょるんか、おっさん?」

「大変だったんだねえ」

『だいじょうぶ』

「ほうじゃ。ワシがついちょる。今度はワシもいっしょに行って死体回収してくるぜよ!」

 ドンと自分の分厚い胸板を叩く涼酒君。最初からいっしょに行けばよかったのに。

 ……もしかして俺の案内のせいでそれができなかったのかな? 救援連絡もアパートにいなかったから受け取れなかったとか。

「ごめん」

「どうしたんじゃ?」

「俺のせいで救援要請の電話に出られなかったんじゃ……」

「いや、電話はなかったみたいじゃ」

『電話のこと忘れていたし、そんなヒマなかった。次はメールする』

 異世界に行ってもメール届くのかな?

「じゃあ、君たちが行ったらこっちまで届くかどうか実験しよう」

「おお。それがええ。ほいじゃ、ワシらは行くぜよ」

 もう?

 田斉君死んだままにしとけないか。

 

 俺たちはいっしょに病院を出てゲートと呼ばれる場所へと向かった。

 それほど大きくはないけど石造りでここだけ周りの風景にそぐわない建築物だった。しかもなんだか高そうな石使っているし。

 中に入ると床には奇妙な文字と文様が描かれている。魔法陣なのかな。

 その中心に立つ学ランの巨漢。

「気をつけて」

『いってきます』

「まかせるぜよ!」

 わっ。床の模様が光り出した。慌ててその模様の上から出るように少し下がる。

「ちゃんと訓練所に行って基礎講習受けるんじゃ。飯は冷蔵庫の中のもんも食ってかまわん。初期本拠地荘の一階のでかい部屋の台所を勝手に使っていいぜよ」

「君たちの分は?」

「いつ帰るかわからん。気にする必要はないぜよ」

 早く帰ってきてくれるといいなあ。こんなところに一人だと心細い。

「そうか。気をつけて」

「おう」

 一瞬模様が目が開けていられないほどに強く輝いて、すぐに光らなくなった。涼酒君はもう消えている。

 床を調べてみたけど、どんな仕掛けかわからなかった。

 どうやって起動させたんだろう。コンカ(コンビニエンスカード)みたいに念じるだけでいいのかな?

 

 

 二人を見送った後、病院から持ってきていた抜けた歯をどっかの家の屋根に投げた。虫歯は下の歯が多かったからね。

 それからアパートへと戻ろうとしたが……迷った。慣れない土地だから仕方がない。

 とりあえず目印となる大きな建物である百貨店へなんとかたどり着いたので、そこから来た道を思い出そうとする。

 GPがあればここで食料調達できるのになあ。

 ここに来るまでの道にあった自販機もGPで買うものばかりらしく、硬貨や紙幣の投入口が無かった。

 胸ポケットからコンカを取り出してGP残高を確認しようとしてふと気づく。

 マップ表示ってできるかな?

 

「出た!」

 念じてみたら地図が表示された。ええと、アパートをマーカー表示。

 うん。ちゃんと目標地点に色がついて、第49初期本拠地荘と矢印までも表示されている。

 じゃあ、目標地点までの最短ルートを案内、っと。

『レベルが足りません』

 ……カーナビの代わりはまだできないか。

 

 コンカをいじっていたらメールが届いた。田斉君からだ。

 うん。異世界からでもちゃんと届くみたいだね。どれどれ。

『ゾンビなう』

 ……異世界からの初メールがこれか。

 幽霊からきたメールの内容としては相応しいのかも知れないけど。

 さすがに写メではなかったな。

 コンカにはレンズがないから写真は撮れないもんなあ。まあ、ゾンビ画像があっても嬉しくないしね。

 あ、でも俺が見たものをコンカに画像として記憶させられないかな?

 念写ってスキルになるのかな。試してみてもいいかもしれない。

 メールにはどうコメントしていいか悩んだあげく『がんばれ』とだけ返信した。

 

 

 

 コンカの地図を頼りに無事にアパートに帰ってこれた。現在位置も表示するようにしてやっとだったけど。

 妙に疲れた。病院で半日ぐらい寝ていたらしいけど、もう風呂入って寝よう。

 食事はいいや。食欲ないし。

「ただいま」

 誰もいないのはわかっているけど、帰ってきたことを実感したくてつい帰宅の挨拶を声に出す。

 すると、無人のはずの我が家から俺を出迎える声がする。

「おかえりなさい隊長殿」

 え? だ、誰?

 その声は下の方から聞こえた。

「留守中の戦況報告を申し上げます!!」

 ビシッと敬礼しながら喋っているのは小さな人形。

 身長は確か13センチ。

「未登録の大型種を2匹撃退! 作戦行動開始後……」

 メーカーはキンリュー。

 カテゴリーはインターセプトドール。

 形式番号はRRX-7.8……って俺の足元にいるのはもしかして。

「コンバットさん?」

 

 

 漫画『一撃殺虫!! ホイホイさん』に出てくる超小型害虫駆除ロボット。それが『コンバットさん』なワケなんだけど。

 それがなんで俺の家に?

 パトロール中なのか、武器を構えながら歩行中のコンバットさんを眺めながら考える。

 あれはフィクションで、キャラクター商品にもこんなすごいのはなかったはずだ。

 プラモデルぐらいなら俺も持ってるけどさ。ちゃんと作って飾ってるし。

 今朝もやたらにでっかいゴキブリを発見して寝不足の変なテンションで、マイコンバットさんにあいつを仕留めてくれと願ったりしたっけ。

 

 ……まさかと思って、ディスプレイしてあるはずのコンバットさんプラモを確認する。

「嘘だろ……」

 そこにはコンバットさんの姿はなく、あるのはコクピットシートのような充電台だけ。これはキット化されてないので自作したものだけど、それから伸びるプラグが壁のコンセントに差し込まれていた。

 ケーブルだけでプラグの先までは作ってなかったのに。

 

「俺が作ったコンバットさん?」

 すると敬礼とともにコンバットさんが答える。

「サー・イエッサー!!」

 むう。そういえばコンバットさんは指示が理解できなくても返事をするんだった。

 これでは肯定されたのかどうかわからない。

 

 コンバットさんを手にとって確認してみる。プラモデルよりも重いな。かなり造形も違う。キットを作る際も多少はいじったけど、ここまで見事にはできていない。

 タクティカルスーツも塗装ではなく、ちゃんと上から着せているようだ。

 数段上の完成度。これぞまさに本物のコンバットさんであろう。

 デジカメで撮影しなきゃ!

 そうだ、コンカで撮影できるかも調べてみよう。

 取り出したカードをコンバットさんに向けてみる。

 撮影……反応無し。駄目か。

 じゃあ、俺が見たものを画像として表示……反応無し。

 むう。どうしたものか。

 赤箱のマニュアルを読むしかないか。でも眠い。

 

 ……おや? できた!

 こんな方法でできるのか……あれ? どうやったっけ?

 

 もう一度やってみると反応無し。

 ……夢だったのか。寝落ちしてたのか。……駄目だ、眠い。眠すぎる。

 もう寝る!

 入浴も諦めて俺はベッドに入った。

 

 

 

「どういうつもりかしら?」

 気づけば、俺の顔は小さくて柔らかい足に踏まれていた。

 なんか最近似たようなことがあったような?

「また夢?」

「夢であればどんなによかったでしょうね」

 ……思い出した。

 俺を踏んでいるのは華琳ぬいぐるみだ。病院でもこんな夢を見たんだ。

 

「どうなってるの?」

「さあ? 私が聞きたいわね」

 むう。彼女にもわからないのか。

 コンバットさんがリアルコンバットさんになったのと関係してるのかな?

 

「それよりも! 他の娘たちを助けるのはどうしたの?」

「あ……ごめん、忘れてた」

 死んだとか幽霊とかゾンビとかでショックが大きすぎて、頭から綺麗さっぱりなくなっていた。

「あ、明日はちゃんと調べるから」

「本当でしょうね? もしまた忘れたら……」

 うっ。また殺気。

「わ、忘れたら?」

「殺す。あなたを殺すぐらいなら、この身体でもできなくはないわ」

 げっ。

 たしかに窒息死とかならぬいぐるみでもできそうな気がする。俺の口の中に潜りこんでとか。

「ちゃんと覚えているから。まかせて!」

 これも夢っぽいから起きた時に忘れないようにしないと。

 腕をナイフで傷つけた方がいいのかもしれない。『NUIGURUMI STAND』って。

 

「あの人形は自由に動いているようだけど、なんなの?」

「コンバットさんのこと? あれはああいう絡繰で、ゴキブリなんかの害虫を駆除してくれるんだよ」

「ごっ……」

 あっ。なんか冷や汗流してるっぽい。

 ぬいぐるみでもやっぱり女の子なんだな。ゴキブリが苦手なんて。

 

「でも、動くはずないんだよなあ」

「動くはずがない?」

「そういう設定の人形を形だけ再現したものだったはずなのにさ、動くようになっちゃった」

「……そう。ならばその理由も調べなさい」

 うん。それは調べたい。

 もし再現できるのなら、他にも動かしたいプラモは多い。

 ガンプラあたりなら俺のかわりに戦ってくれそうだ。

 ビームとか撃てるのかな? コンバットさんのビームライフルユニット、作っておけばよかったか。でもあれって電気代がすごくかかるんだったよなあ。

 あれ? アパートこんなんなっちゃったし光熱費とかってどうなるんだろう?

 電気や水道もちゃんと使えているし……。

 

 

 

「ふぁああああ」

 欠伸をしながらベッドのまわりを見回す。

 枕元に華琳ぬいぐるみ。俺、こんなとこにおいたっけかなあ?

 疲れてたせいか、ベッドに入った時の記憶が思い出せない。

 やっぱりあれ、夢だったのかな。

 

 ストックしているバランス栄養食品で簡単に食事を済ませて、せっかく治った歯のために念入りに歯磨き。

 終了後、鏡でじっくりと歯を確認する。

 すごい、本当に歯が全部治っている。なんか得したなあ。

 ガチガチと噛み合わせを確かめてみる。うん。いい感じだ。

 あの病室、どんな技術なんだろう? やっぱり魔法?

 タダで使える内に有効な使い方を考えた方がいいよね。

 

 ……もしかして、俺の呪いも治療されてないかな?

 でも、確かめようがないか。俺以外に人がいないし。

 俺の呪われた顔が治るんだったら、大変そうだけど使徒もがんばるのになあ。

 

 コンカでの撮影実験を再開しようとしたら、華琳ぬいぐるみと目が合ってしまった。

「わかったよ」

 ため息を一つついてから、ぬいぐるみを手に203号室となってしまった自宅を出た。

 スリッパでペタペタとアパートの玄関へ向かうと、ジリリリと黒電話が鳴っている。

 ちょっとだけ迷った後に受話器を取った。

 

「もしもし」

「おう。ワシじゃ!」

 ワシワシ詐欺?

 いや、涼酒君なのはわかっているけどね。

 

「大丈夫か、おっさん!?」

 凄い大きな声で安否確認をされてしまった。

 大丈夫だから電話に出てるんだけど。それに、その質問はこっちの方がしたいとこだ。

「メールにも返事がないんで心配したんじゃぞ」

 メール? ……そういえば起きてから確認してないな。

 後で見てみよう。

 

「安心して。元気だから」

「そうか。ほんならええんじゃが」

「どうしたの?」

「そっちに変なやつが出ておらんか?」

 変なやつ?

 むう。見たっけなあ?

 ……なんてね。

 

「俺以外のやつはいないんでしょ?」

「そりゃそうなんじゃが」

「あとは人形ぐらいしかいないよ」

 っと。せっかくだから聞いてみよう。

「自宅に帰ったらさ、俺のプラモが動くようになっているみたいなんだけどなにか知ってる?」

「プラモ?」

「うん。コンバットさんの模型。……ええと、ゴキブリ退治用のちっちゃいロボット」

 涼酒君がホイホイさん知らないかと思って説明した。女の子型ってのを省いたのは、理解してくれない奴は拒絶反応するからが理由。オタクは秘するものなのだよ。

 

「ご、ゴキブリ退治じゃと!」

 あれ? 涼酒君もゴキブリ苦手なのかな?

「うん。昨日でっかいゴキブリ見てさ、困ってたんだけど退治してくれたみたい」

 でも、その死骸が見つからなかったんだよな。コンバットさんちゃんと捨ててくれたのかな?

 

「そいつは、ゴキブリだけを殺すんか?」

「いや、害虫はほとんどだったはず」

「そんな……」

 なんかショック受けてるみたい。どうしたんだろう?

 

「でも、俺のことは襲ったりしないから大丈夫だよ。ちっこいし」

「ほ、ほうか……」

「涼酒君、大丈夫?」

 声に元気がない。田斉君の救助、上手くいってないのかな。

「だ、大丈夫ぜよ!」

「そう? それでね、その模型のことなんだけど」

 

「そりゃのう……」

 その後が続かない。

 落ち着くまで待った方がいいと思って俺もせかさない。携帯のバッテリーが切れたとか言われたら困るけど。

 ……どうやって電話してるんだろう? もしかして電話ボックス? 日本にならあるよね。

 そんなことを考えている内に涼酒君も落ち着いたようだ。

 

「そりゃたぶん、おっさんの固有(ユニーク)スキルのせいぜよ」

「固有スキル?」

 俺のスキルのせい?

 俺がコンバットさんを動くようにしたってこと?

「そうじゃ。ワシは、おっさんが使徒に選ばれたんは固有スキルのおかげじゃと思っちょる」

「俺が選ばれた理由?」

「正直な話、おっさんはあまり強そうに見えん」

 正直すぎる。実際弱いけどね。

 

「じゃが、滅多にないレアスキル持ちなら選ばれたのも納得もいくぜよ。いくら鍛えても固有スキルの変更はできんらしいからのう」

「他のスキルなら変更したり後付けできるってこと?」

「そうぜよ。GPを使えばなんとかなるんじゃ」

 ほほう。それを聞くと鍛えてみるのもいいかなと思う現金な俺。

 どんなスキルがあるかはわからないけど、面白そうではある。

「おっさん、プレイヤーシートで確認してみるんじゃ」

「わかった。ちょっと待ってて」

 電話を切らないように受話器を横に置いて、急いで自宅へと戻る。コンカがあればいいやと思って赤箱は置いてきてたんだよね。

 

「持ってきたよ」

「なら、固有スキルの欄を見るんじゃ」

 言われるままにキャラシートを確認。

 ……って、これコンカでも確認できたんじゃないの? 焦って階段で脛をぶつけたのは無駄だったんじゃなかろうか。

「これか」

 その欄に書かれているのは漢字でたった二文字だった。

 成現、と。

 

 


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