真・恋姫†有双……になるはずが(仮)   作:生甘蕉

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34話 UFO

「飛行魔法?」

 夕食前にちゃんとアパートに帰ってきた愛娘と、その小隊。

 彼女たちと情報交換。今日覚えたばかりの魔法を説明した。

 

 あ、袁紹は置いてきた。

 ファミリア契約をしないとゲートは使えないらしい。人形に戻ってアイテム扱いしないと駄目なようだった。

 幸いといっていいか、数時間で俺の固有スキルの効果時間が切れるはずだから、明日迎えにいけばいいだろう。

 ぬいぐるみ状態もセラヴィーに調べてもらえるし。

 元に戻す方法がわかればいいなあ。

 

「ああ。箒で飛ぶ魔女スタイルだけどな」

「ハリーも箒で飛んでるッスよ」

 ああ。そういやそうだっけ。

 レース用やスポーツ用の箒があったっけ。

 

「となると、飛行性能の高い箒もあるのかな?」

 俺たちはセラヴィーのとこでもらった箒をそのまま使っているけど、他の箒を試すのもいいかもしれない。

「だいたい、なんで箒なんだ? 掃除機じゃ駄目なのか?」

「昔は掃除機なんてなかったからじゃないか?」

 掃除機で飛ぶアニメもあったなあ。箒以上に乗りにくそうな気もするけど。

 ……いや待て。ロボット掃除機ならいいかもしれない。あれの大きいのがあれば立ったまま飛ぶこともできるな。カエル軍曹のソーサーみたいな感じで。業務用で大型のないかな。

 それとも片足ずつ、サンダルみたいに履いてってのもありか。丸いから忍者の水蜘蛛っぽくていいかも。

 使おうと思ってまだ買取りしてもらってないのが余っているはず。明日試してみよう。

 

 

「魔法修行ッスか?」

「そう。そっちの情報収集も大事だけど、柔志郎たちも行った方がいいかもしれない」

 智子も柔志郎も美少女だけど、セラヴィーの性癖なら安心だろう。

「アニキに教わるんじゃ駄目ッスか?」

「俺が教えてもいいけど、こっちやそっちじゃ訓練しにくいでしょ」

 飛行魔法だけならともかく、攻撃魔法は周りの被害も考えないといけない。

 このサイコロ世界だと建物を破壊してしまうし、ゾンビ世界だとそれプラス魔族にも見つかることになる。

 その点、剣士担当の世界ならあまり気にしないでよさそう。

 

「それでそのセラヴィーって人はどうするん?」

「攫ってきた女の子を少しずつ人形から元に戻しながら住んでた所へ帰してあげたり、行き先を探してあげたりするみたい」

 帰り際に人間に戻った娘さんたちに会ったけど、どっかで見たような金髪縦ロール(くるくる)の娘がいたのは気にしないことにしよう。まさか、あの作品の世界ってことはないだろう。お月さんは1つみたいだし……。

「それも大変そうッスねえ。剣士の使徒にはならないッスか?」

「……10年以上も救済できなかったワシのような愚図の使徒になんかなるのは御免じゃと」

 強力な戦力を簡単に入手できるチャンスを逃していたと知って、イジケている剣士。

 そりゃ、あんなチート魔法使いが仲間になっていれば剣士の修行も楽だったに違いない。

 ……性格に難はあるけど。

 

「1人でやってたんならそんぐらいかかるかもな」

 ……いや待て。もしかしたらスタート時に他にも特典としてアイテムや情報を貰っていたかもしれない。

 でなければ、強いけど、仲間にはなってくれそうにないセラヴィーを最初のボスに選ぶなんて……。

「煌一さんたちが来てくれて助かったぜよ」

 それともまさか、この駄神って運営に嫌われているとか?

 柔志郎の担当世界の拠点は、ゾンビタウン内だった。

 普通に考えたら、ゾンビのいないとこを拠点にするはず。

 拠点を用意してくれるのは運営だったよな……。

 俺の拠点にいたっては、拠点の外にすら出られそうにない。

「剣士……」

 落ちこぼれを自称しているけど、あまりにできが悪すぎて運営にすら疎まれている?

 なんて聞けばいいんだ? お前、嫌われてる? ……聞けるわけがない。

 

「おっ、今日はカレーじゃな。煌一さんがくるまではずっとカレーじゃったけど、なんかすごい久しぶりな気がするぜよ!」

「……あ、ああ」

 やべえ。思わず「おかわりもいいぞ!」って言いそうになっちゃったじゃないか。

 落ちこぼれには死亡フラグなのに。

 

 

「北京にムンバイ、ニューヨーク……人口の多い大都市が狙われたようやな」

「そんなにゾンビタウンができているのか?」

「そうッス。10以上らしいッス」

 柔志郎担当世界はハードだ。

 いったい何人ゾンビにされてしまったんだろう?

「らしいって」

「核がな、使われたようや」

 核って核兵器?

 思わず無言になる俺たちに、空気を読まない子が聞く。

 

「核ってなんじゃ?」

 ……それぐらい知ってろよ、神様だろ。

「核兵器。物凄い破壊力を持った爆弾やミサイル。それだけじゃなくて、放射能っていう凶悪な毒を撒き散らすんだ」

 あとで絶対、あのトラウマ漫画を読ませよう。図書館にならあるよな?

「放射能撒き散らすって、核兵器ってそんな旧式なのか?」

 レーティアが驚いている。大帝国は第2次大戦がベースだけど、SFだもんなあ。

 

「あの半島のな、北が南に使うたようや」

「使われたとこはニホンが発射させたって宣伝して国をまとめようとしてるらしいッスけど、中国やロシアが絡んでるんじゃないかっていうのが大方の意見みたいッスね。どっちも自国にゾンビタウンもってるんで、よそで実験したかったんじゃないかって」

 ああ。効果があれば自分とこでも使おうってこと?

 その前に爆撃や核じゃないミサイルとか試してるんだろうなあ。

 

「よく東京が狙われなかったな」

 それこそ、東京は実験台にされそうな気がするんだけど。

「ニホンには有能な外交官やスゴ腕のスパイがいるようやな」

「そこは俺たちの世界と違うのか」

「そうッスね。なんか優秀な生徒を輩出するでっかい学校があって、そこの卒業生のおかげでトウキョウを失ってもなんとかニホンはまとまっているようッス」

 すごいなそれ。

 東京だけじゃなくて、ニューヨークまでゾンビタウンになっているんなら経済もガタガタだろうに。

 

「そんなわけで、自国に核を使われちゃたまらん、ってゾンビタウンの情報は各国隠してる状態や。もしかしたらもっとあるかもしれへん」

「なるほど」

「皮肉な話ッスけど、大都市という消費地がなくなったせいで、食料やエネルギーがなんとかなってる状態ッス」

 とはいえ、食料自給率考えるとやばいような。海外とも流通はしてるのかな?

 

「で、核の効果はあったのか?」

「それが……ゾンビたちの大半を始末することはできたらしいけど、魔人やったか、魔族の連中は無傷やったそうや」

 それなんてオーラマシン?

「当たり前ぜよ。魔族を倒すには神の祝福を持った攻撃でないとダメージはいかんぜよ」

「そうなの?」

「そうぜよ。じゃが、安心するぜよ。ワシらプレイヤーやそのファミリアには元々その効果があるから、気にする必要はないぜよ!」

 いや、あっちの世界の人間じゃ魔族には勝てないってことでしょ。祝福を与える神なんていないんだし。

 ……剣士が祝福すればいいのか?

 無理だな、うん。

 

「さらに生き残った、つうても死んでるんやけど、とにかく核に耐えたゾンビたちがスケルトンに進化しだしたらしいんや」

「げ。それってあちらさんの思う壺じゃないか?」

「オレもそう思うッス」

 だよなあ。

 核なんて無駄撃ちもいいとこじゃないか。

 敵の進化だけじゃなくて、地球も汚染するし。日本に近いとこでそんなことされたら……。

 

「耐性・放射線のスキルが手に入るかもしれないな……」

「放射線か。あの濾過装置を応用すればいけるか?」

「えっ?」

 レーティアの呟きに反応する俺たち。

「放射能に汚染された水でも綺麗に濾過できる濾過装置の設計図を見せてもらったことがある」

 大帝国でヤマトっぽいそんなイベントあったなあ。

「それ、覚えてるの?」

「無論だ」

 さすが宇宙一の天才。

 

「なら、剣士担当世界救済の報酬が届き次第、研究所を作った方がいいかもしれないな」

「そういや研究所なんて話もあったのう」

「まさか忘れてないよな?」

「も、もちろんぜよ!」

 怪しい。

 優秀だっていう学校でこの駄神も勉強させてくれないかな?

 ……あれ?

 ニホンの優秀な教育機関? もしかしてあの世界って……。

 

「よくそこまで情報を集めたな」

 クランがうんうんと感心している。

「インターネットがなんとか生き残ってるッス」

「見れないページも多いんや。まだしばらくは情報収集やろうなあ」

 魔族を倒す方法もわかってないし、そもそも奴等の居場所や数も不明だ。目的はスケルトン量産?

 その辺もわかるといいんだけどね。

 

「魔族と戦う時は俺たちも協力するから。先走るなよ」

「もちろんッス」

「なにかあったら些細なことでも連絡するんだぞ」

「お父さんは心配性や」

 物騒な世界なんだから、用心を重ねるにこしたことはないんだよ。

 過保護なのはわかってるけどさ。

 ……智子に恋人ができたら、俺、まともでいられるか不安だ。

 可愛い娘なんてつくるんじゃなかったかもしれない。

 

 

 

「どうした? 掃除機なんか見つめて」

 部屋で悩んでいたら、レーティアがきた。今夜の当番なのだろう。

 もうそんな時間? 長い間考え込んでしまったようだ。

「いや、箒代わりに使えないかと思ってね」

「ふむ。円盤型飛行装置か」

 なんかその言い方だとUFOみたいだな。

 ……ナチのUFOネタとか好きだけどさ。

 

「これをこう」

「なるほど。それに直接乗るわけか」

 足を乗せて使用方法を説明したらすぐにわかってくれた。

「だが、それではバッテリーが切れたら飛ばなくなるのではないか?」

「その可能性もあるか」

 むう。となると、成現してMPで充電できるようにした方がいいのか。

 

「うまくいったらもっと確保しないといけないな」

 機能追加メモをしながら、ふと気づく。

「って、成現するんなら、掃除機じゃなくて最初から飛行装置にすればいいじゃないか!」

「たしかにそうだな。ふふふふ」

 あれ? そんなに受けるとこ?

 

「い、いやでも、よく考えたら魔法で飛んだ方が、飛行魔法のスキルも上がるし、MPの鍛錬度も貯まるか」

「うん。それもあるな」

 むう。

「なんか楽しそうだね、レーティア」

「わかるか。やっと自分が役に立てそうで嬉しいんだ」

 ああ、気にしてたもんなあ。

「これからきっともっと頼ることがあるよ」

「まかせろ! これからなんて言わず、今すぐでも大丈夫だ!」

「今すぐ?」

 ロボ掃除機の飛行化案の協力かな?

 これに足の固定用の部品の追加を考えていたんだけど、他になにかあるのかも。

 

「……い、今すぐ、ってのはそういう意味じゃなくて! い、いや、別に嫌ってわけじゃないぞ。ちゃんと準備してきたし」

 急に真っ赤になって慌てだす天才少女。いったいどうしたんだ?

 挙動不審……って、アレか。夜の夫婦生活か。

「俺なんかと結婚してくれたんだから、レーティアには凄い助けられてるよ」

「馬鹿者! 自分をなんか呼ばわりするな! お前はこの私の夫だぞ! もっと胸を張れ!」

 うわ。なんかものすごく嬉しい。

 レーティアも自信を取り戻して本調子になってきたみたい。

 

「ありがとうレーティア」

「う、うん……」

 大丈夫。ローションの貯蔵は充分だ!

 

 

 

「おはよう」

「おはよう。レーティアもずいぶんと早いんだね」

「煌一の寝顔をスケッチしてた」

 俺の寝顔?

「お、おっさんの寝顔なんて面白くもないでしょ!」

「そうか? けっこうよく描けたと思うぞ。みんなに見せてくる」

 羞恥プレイは勘弁して下さい。

「そ、そんなことはさせない!」

 レーティアを止めるために布団から飛び出したら、真っ赤になって硬直された。

 視線の先は俺の股間。

 ……昨晩あんなに射出したのに、元気だなあ。

 

「あ、朝から?」

「い、いやこれは生理現象でね」

 そっち関係のスキルが増えだしているから、その影響もあるかもしれない。

 その内、絶倫や艶福家といったスキルを入手しそうでちょっと怖い。

「い、いいよ……」

 美少女にそんな風に言われたらね、耐性・誘惑のスキルを持ってない俺がレジストできるわけないよね。

 

 結局、朝からがんばってしまった。

 うん。新婚さんっぽい。充実しすぎて、なんか怖いなあ。

「う……梓との特訓よりスタミナがついた……」

 ビニフォンでステータス確認したレーティアがちょっとへこんでる。

 気持ちはわかる。というか、同士?

 

 

「さて、煌一」

「ん?」

 朝食後、華琳がぬいぐるみを持って俺を呼ぶ。

 愛紗と蓮華のぬいぐるみだ。

 

「試しなさい」

「試す?」

「口づけよ」

 ああ、人形薬と同じ方法で戻らないかって実験か。

 って、ええ?

 

「く、口づけって」

「キス、というのだったかしら?」

 うん。そうだけど、そうじゃなくて。

「た、たぶん効果ないんじゃ」

「上手くいけばもうけもの、程度の試しよ」

「で、でも」

 なんかみんな見てるし。

 恥ずかしいってば。

 

「早くなさい」

「な、なんでその2人なのさ」

「もしも、元に戻るのなら早く戻さなければならない2人だからよ。そのために夢でも会わせたでしょう?」

 そんな理由からだったのか。

「面白そうだからってわけじゃなかったのか」

「それもあるわ」

「あるんかい!」

 

 とはいえ、早めに戻した方がいい気がするのはたしか。

 ここはチャレンジするしかないか。

 ……嫁さんたちも含めたみんなの前で人形とキスするなんて変態行為は無理でしょ。

 ならば!

 

 もしも戻った時のために1人ずつ椅子に乗せて、少し離れてから2人のぬいぐるみに顔を向ける。

 ちゅっ。

「これでどうだ!?」

「怖気づいたわね」

 ジト目で俺を見る華琳。でもわずかに頬が赤い。

 おっさんの投げキッスってそんな、見ていて恥ずかしいほど痛々しかった?

 

「悩殺! アニキッス……」

 なんですかそのブラボー(アーツ)みたいなのは。

 柔志郎、真っ赤になって顔を背けるぐらいなら素直に笑ってくれ!

 

「駄目みたいぜよ」

 今ばかりは剣士の空気を読まないスキルがありがたい。

 あとでガムやるからな。

「うん。やっぱり薬じゃないから戻す方法が違うんだろう」

「いえ、煌一の方法がよくなかったのではないかしら? 今度は直接試してみましょう」

「……楽しんでいるでしょ?」

 まったくもう。

 

 結局、ちゃんとキスして元に戻せるかの実験は、擬似契約空間で相手に確認をとってから、ということにした。

 あと、みんなに見られてないとこでってのもね。俺もそうだけど、相手の子も可哀想でしょ。

 

 


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