真・恋姫†有双……になるはずが(仮)   作:生甘蕉

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35話 交流戦

 愛紗と蓮華への口づけ実験は、戻ってきてからすることにした。

 契約空間もどきで会うために朝から寝直すのもあれだし、もしかしたらセラヴィーが袁紹ぬいぐるみを調べてて、元に戻す別の方法を見つけたかもしれないからだ。

 ……さらに変態じみた方法じゃなきゃいいけど。

 

 交流戦まであと2日。

 大部屋のテレビでもいまだに公開されないその試合内容が話題となっていた。

「マンネリを指摘されていた運営が打開策として情報を秘匿、ねえ」

 新イベントの時は逆にもっと情報公開して煽るもんじゃないの? 新キャラ登場や、景品のアイテムとかで。

「まあ試合内容が発表されると、GPが余っているとこは試合に合わせてポイントつぎ込んできたり、スキル持ちの新人連れてきたりするぜよ」

「テレビでも、同じこと言ってるわね。そういった連中が景品を独占してしまうので、初心者がアイテムを入手するチャンスがないって」

 課金者が優遇されるのは当然とはいえ、これはゲームじゃなくて修行。

 運営も一応、考えているってことか。

 

「わかっているのは、舞台は夜の面、ってことだけッスか」

 夜の面、つまり、夜の季節になっている面。一日中夜らしい。

 どの面なんだろう? サイコロ世界の他の面からは、ずっと夜になっているのはわからないようになっている。上や隣の面がずっと真っ暗だったら異様すぎるもんなあ。

「そこで祭りって、夜祭りの可能性が高いな」

 やっぱり運営なにも考えてないのかな?

 競技はある程度絞れちゃうよね。

 全くわからないってクレームへの予防線?

 

「夜祭り……火を使う祭りか縁日か?」

「面白そうぜよ」

「縁日はともかく火の方は、耐性上げといた方がいいかもな。無駄にはならないし」

 ただ、耐性上げるには火属性のダメージを受ける必要があるんだよな。

「交流戦までの2日は特訓に回す?」

 

 反対意見もなかったので、剣士担当世界で鍛えることに。

 いい加減、誰担当の世界って呼び方は止めたいとこだけど、世界名を知っている住人などいないらしい。

 考えてみれば、俺も自分が育った世界の名前なんて知らないし、当然かも。

 剣士に聞いてみたが、神族がつける世界名は『第○○ナントカ世界』っていう、よけいに覚えにくそうなものだった。

 チャチャの世界とは違うようだし、とりあえず『サンダル世界』とでもしておこうかな。

 

 

「今日もお世話になります」

 門番役のトカゲ将軍に挨拶。

「あア、後でまた訓練しよウ」

「見張りは飽きタ。滅多に客も敵もこなイ。身体が鈍ってしまウ」

 それってどうなんだろ。

 まあ、大魔王の城なんてそうそう襲われはしそうにないけどさ。

 

「向かって右がラガー将軍、左がルティッハ将軍ね」

 2人を見比べてそう決めつけたのは華琳。後ろでレーティアも頷いている。

「当たりダ」

 マジですか。

 よく見分けがつくなあ。

 ラガーとルティッハ。それがセラヴィーがつけた2人の名前。

 気になったのでインターネットで調べたら、2つを繋げたラガルティッハはトカゲのスペイン語だった。

 なんかかっこいい。日本語だとトカとカゲだろうに。……それはそれでカゲの方が忍者みたいでかっこいいか。

 

 

「またきたんですか」

 その迷惑そうな顔やめて。

 そんな顔しながらもお茶を入れてくれてるんだけどさ。

「麗羽はどうなったのかしら?」

「ああ、あの人ですか。ずっと騒がしかったんですよ。人形になってくれてほっとしたんです。ちゃんと連れてってくださいね」

 ……人間のまま連れて帰らなくてよかったかも。

 次に元に戻す時はおさえ役の公孫賛がいる時にしよう。

 

「それで、人形になった彼女を元に戻す方法は?」

「わかりません」

 その顔だと意地悪でそう言ってるんじゃないのかな?

「本当に?」

「ええ。世界一の大魔法使いである僕がわからないということは、どうやら魔法で人形にされたのではないのかもしれませんね」

 さりげなく自慢するセラヴィー。

 むう。やはりGPを貯めて俺の固有スキルを使うしかないのかな。

 MPはかなり増えたけど、それでも時間制限はあるのだし。恋姫†無双のぬいぐるみの数を考えたら、MPもっと鍛えなきゃいけない。

 ……GPだといくらになるんだろう? ぬいぐるみを全部救助できたとしても、GP稼ぎは続けなきゃいけなさそうか。

 

「そちらは?」

 今回初めて連れてきた娘たちを大魔王に紹介する。

「俺と同じ剣士神の使徒とそのファミリアだよ」

「田斉柔志郎ッス。使徒ッス。こう見えて大人の女性ッス!」

「保科智子です。柔志郎のファミリアで煌一の娘です」

 智子はさらに狼を抱えて、セラヴィーに向ける。

「こっちはカシオペア。狼や」

「ガウ」

 カシオペアにはちゃんと首輪がつけてある。あれは俺が成現した首輪型のビニフォン。見た目以上の高性能品だ。

「賢そうな子ね」

 カシオペアに手を差し出すエリザベス、彼もおとなしくなでられる。

 最近のイナズマの活躍の陰に隠れてしまってるけど、たしかに賢いとは思う。

 

「エリザベス、その格好は?」

「セラヴィー先生の役に立とうと思ったの」

 エプロンドレスでにっこりと微笑む元人形の美少女。

 ロリメイドというより、アリスって感じかもしれない。

 

「セラヴィーの趣味?」

「そうよ。セラヴィー先生のお手製なの」

 くるりとターンすると、ふわっと広がるスカート。

 あれがお手製って……鑑定したらマジックアイテムだし。防御力すげえ。

「汚れても平気な衣装にしただけですよ」

「なら作業着でもいいんじゃないの?」

「それでは可愛くないでしょう!」

 それはそれで可愛いんじゃないの?

 美少女はなにを着ても可愛いと思うんだけど。

 ……金髪くるくるに作業着は微妙すぎるか。

 

「煌一もあんな服好きなのか?」

「そりゃ嫌いじゃないけど」

 梓の質問は無意味だよね。嫌いな男なんているの?

「他には?」

「巫女服も大好きだ」

 メイドさんと巫女さん、どっちが好きかって聞かれたら迷うな。

 ギャルゲの職業コスプレのツートップだよね。婦警やナース、女教師も悪くはないけどさ。

 

「なるほど。巫女ね」

 もしかして、今度着てくれるとか?

 用意してみようかな。

 ……巫女服ってどこで入手するんだろう?

 クランの白衣もまだ見つけてないし。

 セラヴィーみたいに俺も作るしかないのかも。

 

「他の娘もメイドさんにするの?」

「帰れる娘は帰ってもらいますよ。そうでない娘は……才能がありそうな娘だったら弟子にするんですけどね」

 あとはどっかに嫁に出すか。

 大魔王に攫われてたっていうのは付加価値にならないかな? 美人の証明とかで。

 

「弟子……ね」

 セラヴィーの弟子になれば、魔法のレベルは上げやすいだろうな。

 自分を指差して聞いてみる。

「俺たちって、セラヴィーの弟子?」

「よして下さい。ただのインストラクターとその生徒ですよ」

 師匠と呼ぶわけにはいかないのか。

 チャチャみたいにちょっと抜けてる子でもちゃんと魔法使いにしたんだし、セラヴィーの指導力は高いんだよなあ。

 誰か弟子になってもらおうか。ぬいぐるみから戻すとしてチャチャみたいな金髪で……袁術ちゃん?

 いいかもしれない。

 金髪くるくるだからセラヴィーがちょっと心配だけど、張勲もつけておけばだいじょうぶだと思う。……根性悪(こんじょうわる)同士で気が合っちゃうかもしれないかな?

 

 

「火炎魔法ですか?」

「そう。火への耐性つけたいんだ」

「まずは飛行魔法を使いこなせるようになってほしいんですけど」

 一応覚える順番があるらしい。

 セラヴィー流だと、箒での飛行は初歩の初歩なのか。

「そこをなんとか。あと2日しかないんだ」

「しかたありませんね」

 やれやれといった感じで了承してくれた。

 

「って、この中につっこめと?」

 BoMという効果音とともにセラヴィーが出したのは直径2メートルぐらいの大きな輪。しかも燃えている。

 そう、サーカスの火の輪くぐりの輪。

「そうですよ。輪をくぐって下さい。この大きさで1つだけなら余裕でしょ?」

「余裕って、高さが結構あるんだけど」

 輪は足もないのに5メートルぐらいの高度で浮いていた。

「飛ぶ練習もできて一石二鳥ですね」

 もしかして意地でも飛ばせたいの?

 

「まあそれなら。これの実験にもちょうどいいか」

 スタッシュから円盤状のアイテムを取り出す。

「なんですか?」

「ロボ掃除機改」

 レーティアと練った案を籠めて成現した実験用の飛行アイテム。

 掃除機の上、中心より少しずれた位置に追加した器具で片足のみ固定する。飛行時は固定してないもう片足も乗せればいい。

 片方しか固定してないのは掃除機の大きさもあるけど、キックできるようにって意味もある。空中でトラブった時に、両足固定されていたら、箒にも乗りにくいだろうしね。

 

「じゃ試してみるから」

 片足だけなのはちょっと不安だけど、箒だって手で持ってるだけだと自分を言い聞かせて、ロボ掃除機改に魔力を流す。

 1つだけの方が制御にも集中できる。慣れたら片足ずつ、両方つけて試そう。

「なるほど。『魔法の靴』の掃除機版といったところですか」

 ああ、魔法の靴なんてアイテムも赤ずきんチャチャにはあったなあ。

 おっと、雑念を振り払わなきゃ。箒の時の浮くイメージで……っと、前のめりに転びそうになる俺。足元に浮く力があって立ったまま飛ぶってのは意外に慣れが必要?

 俺、スケボーもスノボもやったことないしバランスがイメージしにくいかも。

 

「うん。ちゃんと浮くな」

 レーティアも自分が協力した物の稼動に嬉しそうだ。ここでいいとこを見せないと。

 飛ぶんだから別に横向きになっていてもいいんだけどさ、空中で立ってたらカッコいいでしょ?

 重心がロボ掃除機の上にきているイメージでいいのかな? ……うん。こんな感覚か?

「ふむ。浮くだけなら問題ないようね」

「箒よりもよさそうなのだ」

「そうね」

 他の嫁さんたちにも評判はいいようだ。

 華琳とレーティア以外は箒に苦労してたもんなあ。

 

「おお! 両手が開いてれば空中戦もできそうじゃのう。ワシもやってみたいぜよ」

「剣士は足がデカいからちょっと無理。それに下駄を固定しても簡単に脱げそうだろ?」

 足のサイズ27センチの俺でもはみ出しそうなんだし。

「むう、やはりイナズマに期待するしかないんじゃろうか?」

 悩む駄神をほっといて飛行試験を続ける。

 スケートのイメージでターンやスピン……なんか面白くなってきた。

 これ、いいかもしれない。

 

「はいはい。遊んでないで、あれをくぐって下さい」

 屈むようにして正面投影面積を減らし火の輪をくぐる。うん。ゆっくりいけばなんとかなる。……熱いけど。

「次はもっと早く!」

 セラヴィーに急かされて、少しスピードを上げて再チャレンジ。

 自転車くらいの速度でもけっこう怖いな。

 

「チッ……まあいいでしょう。次のかた、どうぞ」

 今舌打ちしたよね。失敗するの期待されてた?

 女の子の時はあからさまに火力も減ってるし。まあ、女の子に火傷させるわけにはいかないからいいけどさ。……耐火訓練という意味では間違ってる?

 

 

 華琳とレーティアも成功したので、いったん火の輪くぐりは中断。

 残りの生徒の飛行魔法の訓練となる。

「こういうのは来栖川先輩の担当なんやけどなあ」

「これはいいッスねえ」

 初チャレンジの智子と柔志郎はあっさりと箒での浮遊に成功。

 智子は空中戦の経験もあるキュアムーンライトの記憶もあるからわかるけど、柔志郎もすごいな。使徒に選ばれるだけのスペックは持っているのかもしれない。

 カシオペアは乗せる方法がちょっと思いつかなかったので、エリザベスと遊んでいる。

「ガウ!」

 フリスビーを口にくわえてなんだかドヤ顔? ロボ掃除機改をくわえて飛べないかな? ……攻撃手段の1つである噛みつきが使えなくなるんじゃ意味ないか。

 

 クラン、ヨーコ、梓にはロボ掃除機改を試してもらっている。

「こっちのがいいわね」

 ヨーコはもう自由に飛んでいる。

 飛行経験自体はあるから、コツを掴めばすぐなのか。

 

「これは腰や背中に固定してもいいかもしれないな」

 逆さまに浮きながら考察するクラン。

 飛行訓練もするつもりだったから、全員スカートじゃなくてよかった。

 

「なんか玩具のUFOに乗ってるみたいだね」

 箒よりは乗りこなしている梓。

 宇宙人の子孫だけに空飛ぶ円盤には思い入れがあるのかもしれない。

 先祖が乗っていたヨークって生体宇宙船で円盤状かは不明だけどさ。

 

 うん。これでうちの小隊は全員飛行に成功したね。

 問題は剣士のとこだけど……。

「がお!」

 セイバーライオンがロボ掃除機の上で丸くなりながら飛んでいる。はみ出しているけど、ライオンというより猫?

 猫ならその飛び方は非常に納得できるんだけど。ロボ掃除機と猫の組み合わせはある意味、最強だし。

 セイバーのように騎乗スキル持っていて、それが役に立っているのかもしれない。

 

「ワシは?」

「箒で練習するしかないでしょ」

「こんな細いのに乗るのはカッコ悪いぜよ」

 わがままな。もっと太いのだと、柱に桃白白乗りすることになるけど。

 あとは飛行生物に騎乗するか。

「箒で練習しておけば、箒なしでの飛行にもシナジーで補正つくはずだって」

 ビニフォンで飛行魔法・掃除機のスキルの入手を確認しながら剣士に練習を促す。

 こいつ、興味のないことはやりたがらないんだよなあ。

 

「やっぱりワシはトカゲたちとやってる方がいいぜよ!」

 逃げ出しちゃったか。

 まあ、あいつ担当の世界は救済できたし、急いで飛ぶ必要もないかな?

 いざとなれば飛行装置を用意してやるしかないか。

 思わず大きなため息が漏れる。あんなだから何年もかかっていたんだろうなあ。

 

「さて、みんな飛べるようになりましたね?」

 ……駄神は数には入りませんか。そうですか。

「次はこれにチャレンジです」

 BoMと再び火の輪を出すセラヴィー。ただし今度は輪が3つ。直線ではなく、右、左、右と配置されている。大きさも小さくなったな。

「ガァー!」

 イナズマが大きく一声鳴くと、見本とばかりに3つの輪をくぐる。

 さすがは本職。かなりのスピードでクリアした。

「ガァ」

「がおがおーん!」

 挑発されたのか、今度はセイバーライオンが丸まったまま挑戦。そして成功。

 ライオンの火の輪くぐりなんだけど、そうは見えないとこもすごいな。

 

「さすが動物ですね。次はあなたたちですよ」

「やるしかないか」

「今日の目標はわっか10個です」

 曲芸飛行覚えたいんじゃないんだけどなあ。

 

 

 こうして、俺たちの飛行能力は高まった。

 途中でMP切れをおこした娘がいたり、ちょっと火傷もしたけど、俺の回復魔法でなんとか治療できた。

 火傷の痕も残っていない。回復魔法(中)を覚えたのが大きいな。

 どうやら、スキルはレベルを上げていくと、関連するスキルや上位のスキルを覚えることもあるようだ。

 シナジーもあるから下位スキルのレベルも無駄にはならないし、鍛えられる時に鍛えて損はない。

 ひきこもっていた頃だと考えられないけど、面倒とは思わない。効果がはっきりとわかるのが理由の1つだろう。

 他に、嫁さんたちにいいとこを見せたいってのもある。

 

「熱かったけど、耐性・高温を入手できたわ」

「髪が少し焼けてしまったのには困ったが、セラヴィーがそれを治したのも驚きだ」

 焼けたのがレーティアの髪だったからだろ。サンダルさんは俺の服に火が移ったのは放置したし。まさか自分に氷結魔法使う羽目になるとは思わなかった……。

 

「で、今日はとろろか」

 ロボ掃除機の改良や、他のアイテム製造のために夕食の準備まで梓に任せっきりにしてしまった。

 口づけで戻すのは無理そうなので、愛紗と蓮華とはまだ会っていない。

「百貨店で自然薯のいいのが売ってたんだよ」

 梓がご飯をよそりながら教えてくれる。

「お米じゃなくて麦飯? 本格的だな」

「とろろ? 自然薯を出汁でのばすの?」

 華琳が興味深げにすり鉢のとろろを観察している。

「せや。これをご飯にかけて食べるんや。見た目はちょっとあれやけど美味いで。それに強壮作用もあるんや」

「強壮作用、ね」

 チラリと梓を見て微笑む華琳。梓の方は真っ赤だ。

 

「そういえば今日は梓だったわね」

「煌一に強壮作用……梓、大変だぞ!」

 クラン、それどういう意味?

 俺、クランの時はちゃんと手加減……してなかったっけ。

 回復魔法の必要がなさそうとわかって逆にがんばったような気もしてたり。

「た、大変だろうがあたしならだいじょうぶだよ」

 嫁さんみんなで相手してくれてるおかげか、俺の方もそっち関係の熟練度や鍛錬度が貯まっちゃって、レベルもアップしてるみたいなんだよ。

 持続時間も伸びてるし、ここんとこ毎晩出しているのに打ち止めどころか、量や回数も増えているみたい。

 たぶん使徒になってるせいなんだろうけど、そっちも成長しやすいなんて……。

 

「ほら、煌一、しっかり食べて気合い入れな!」

 照れ隠しなのかおかわりを大盛りでよそってくれるし。

 これじゃとろろがかけにくいってば。

 

 

「……こ、煌一はやっぱり胸だけじゃ不満なのか?」

 今夜の当番として俺の部屋にやってきた梓の開口一番の台詞がそれだった。

「え? 梓の胸はすごいよかったけど?」

「だって……他のみんなは……その……でしたって」

 どんどん小声になっていったので全部は聞き取れなかったけど、言いたいことはわかった。

 嫁さん同士でそっちの情報交換もしているの?

 プレイ内容筒抜け?

 そういえばこの部屋、防音はたいしたことなかったんだよな。

 むこうにこの部屋があった頃は夜中に隣の爺さんのお経がずっと聞こえるなんてことがあったし。……あれは絶対に隣のじいさんだって。うん。もう確認できそうにないからそういうことにしておこう。

 

「もしかして、みんなで聞き耳立てたりしてるの?」

「そんなことはしないって。コップ使っても聞こえないし」

 あれ? ここに転移してから壁が厚くなったのかな? それとも無線LANの電波だけじゃなくて、音も届かなくなってるのかも。

 あと、コップは試したのね。

 

「そんな話をするぐらいには仲良くなってるのか」

「ま、まあこんな状況だから仲違いなんてしてられないしさ」

「それは助かる」

 これで嫁さんたちの仲が悪かったりしたらストレスで胃に穴が開くと思う。

 対人スキルの低い俺には、人間関係の揉め事は最難関だもん。

 ……交流戦で他の面の人と会わなきゃいけないんだよなあ。戦う相手だし、今から気が重い。

 

「どうした?」

「……ちょっと先行きに不安を感じてさ」

「だいじょうぶだって。あんたはあたしらが護るからさ」

 えっと、それはどうなんだろう。

 俺、お姫様ポジション?

「夫としてはその立ち位置はちょっと情けなくない?」

 イトコ設定のおかげか、梓は気安く話しやすい。他の嫁さんの前だと見得はって言えないようなことまで言えてしまう。

 

「ならさ、男らしいとこ見せてくれるか?」

「男らしいとこって?」

「あ、あたしも覚悟決めてきたからさ。ちゃんと準備もしてきた」

 ……梓の方が男らしいような。

「梓」

 ここは俺も男らしく、確認をすっとばして雪崩れこむとしよう。

 男らしいというよりは、獣じみた気もしないでもないけど。勢いって大事だよね。

 

 

 

 ついにやってしまった。

 嫁さんのお尻、フルコンプ!

 なのにいまだ本番はなしとか、俺ってどんだけマニアックな性癖やねん!

 ……まあいいけど。早く恋姫†無双ぬいぐるみもフルコンプして、嫁さんと本番できるようになってやる。

 じゃないと開発されすぎて、俺の初体験が「お尻の方がよかった」なんて言われてしまったらショックだし。

 

「今日の夜はさ、当番なしでいいよ」

 朝食の準備を手伝ってくれている華琳に提案してみた。

「どういうつもり? まさか皆のお尻を堪能したからもう飽きたとでも言うの?」

「そんなわけないでしょ。さすがに毎晩だと俺も疲れるからさ、週に1日か2日、当番のない日があってもいいと思うんだ。週2日休みだったら誰がどの曜日担当か決めやすいし」

 毎日だとありがたみが薄れそうで怖いというのが本音だったりする。

 それに、たまには深酒したいし。最近は嫁さんが待ってるからってお酒も控え目なのよ。いや、すごい贅沢なことを言っているのはわかっているんだけどさ。

 

「……ふむ。あと2人までなら嫁を増やせるということね」

「なんでそうなるの?」

 俺の休みは無くならなきゃいけないの?

「今は1人ずつだけど、慣れてきたらもっと人数を増やして毎晩楽しむ予定だったのだけれど」

 に、人数を増やして毎晩?

 いいかもしれない。

 ……い、いや、それでも週1の休みはほしい。

 プラモを作る時間がないと困る。

 両さんとも会う時間を確保しておきたい。あの契約空間モドキで昼間っから酒を飲むのは気が引けるのよ。

 

「とにかく、今日はお休み。お願い」

「わかったわ。そのあたりは皆と相談しましょう」

「ありがとう」

「そのかわり、明日は今夜の分までがんばってもらうわよ」

 ふふ、と華琳ちゃんは微笑む。

 まーかせて! ローションも多めに用意しておくから!

 

 

「交流戦の内容がわかったッス」

 新聞を片手に義妹が興奮している。

 テーブルに新聞を広げた。

「射的、カタヌキ、輪投げ、宝珠すくい、って書いてあるッス」

「縁日の遊戯屋台できたか。宝珠すくいってのはスーパーボールすくいみたいなもんだろうな」

 むう。たしかにこれなら景品も渡しやすいだろうけど、勝敗はどうやって決めるんだ?

 

「各面の代表が競技を行い、合計点で順位をつける、か」

 新聞を覗き込んでいたレーティアが新聞を音読する。

「せっかく人数が増えたのに、こんな試合……張り合いがないぜよ!」

 まあ、このルールなら剣士1人でも全屋台に参加できたな。

 でもさ、別に種目ごとに代表を変えてもいいんだろ?

 

「まず、射的の代表はヨーコだろうな」

 コルク銃だろうけど、スナイパーなヨーコなら上手く扱ってくれると思う。銃関係のスキルも作用するだろうし。

 

「そのへんの競技ならあたしも自信あるぜ」

 競技って言っていいのかな、これ。

 梓か。なにが向いているかな?

「輪投げか宝珠すくいのどっちがいい?」

「カタヌキは?」

 無言で親指を自分に向ける俺。

 これでもモデラーだ。型抜きは任せてもらいたい!

 

 輪投げと宝珠すくいは、実際にやってみて代表者を決めることにした。

 100円ショップで入手できるの、わかっていたからね。

「ポイもあるとはね」

「こないだ来た時にちゃんとチェック済みだよ」

 ゾンビ世界の100円ショップで必要な物を揃える俺たち。

 俺の固有スキルの仕様上、おもちゃ関連の売り場はしっかりとチェックしていたりするのだよ。

 宝珠がどんな感じなのかわからないので、スーパーボールやビー玉で代用することに。金魚すくいじゃなくてよかったな。

 

 サイコロ世界に戻ってきてタライに水を張って試してみる。

 輪投げの方は、適当にキャラメル等の箱を並べてみた。

「こんなもんかな?」

「使徒の交流戦とは思えんのう」

 む。それもそうだな。

 もしかしてバラエティ番組のように、輪投げの輪がフラフープサイズで、景品も巨大だったりするのか?

「まあ、基本ができてればなんとかなるでしょ」

 とりあえず普通のだと仮定して練習することにした。

 

 俺は爪楊枝や画鋲を手にカタヌキのイメージトレーニング。

 板ガムを突っつきながら感覚を研ぎ澄ます。

 さすがに100円ショップだと弁当用の型抜き器しかなかったからしかたがない。

 魔法じゃないからスキル習得に補正がつかないのが辛いとこだ。

 

 あ、そうだ。こういうのに詳しい両さんにも話を聞いておこう。

 ちょうど今夜は空けてもらったんだし。

 

 

 そして翌日。

 俺たちは交流戦の舞台、2の面へと向かった。

 代表じゃない者も応援として、全員で。

「ゲートでいけるのね」

「ここが2の面か……街の面だな」

 百貨店の双眼鏡で見たビル街のあった面のようだ。

 夜の季節というだけあって、当然、夜。

 だが、わが4の面と違ってまばゆいネオンの照明に彩られていた。

 

「各面の方は、こちらでお着替え下さい」

 2の面のゲートを出てすぐに案内らしき人につかまった。

「着替えって?」

「こちらでございます」

 小さなビルの1つに案内されて、そこで着替えさせられる。

「浴衣か」

「なんか落ち着かんぜよ」

「似合ってるって。下駄にピッタリだ」

 まあ、剣士の浴衣なんてどうでもいい。

 気になるのは当然、女の子たちだ。

 

「どうかしら?」

「いい。すごくいい! 最高!」

 うん。みんなで来てよかった。

 これで交流戦に1勝もできなくても元がとれた気がする。

 みんな美少女なだけあって、どれも似合っていた。

 俺はビニフォンでそれを撮影していく。こんなことなら、デジカメやビデオカメラも持ってくるんだった。今から取りに戻ろうかな?

 

「が、がお?」

 セイバーライオンまで着ぐるみの上から浴衣を着せられていた。

 これはこれで、ありかも。

 

「会場はこちらでございます」

 全員の着替えが終わったのを確認すると、案内の人が歩き出す。

 この人は運営の人かな? それともモブ?

 2の面にはモブと思わしきサラリーマン風の人たちがけっこう歩いていた。羨ましいなあ。この面の神様は剣士より稼いでるってことなんだろうなあ。

 

 連れていかれた先は大きな神社。そこに、屋台がいくつも並んでいた。

 遊戯屋台だけではなく、焼きそばや焼きトウモロコシ、ハッカパイプや綿菓子、お面等のおなじみの屋台。

「試合ってすぐに始まるの?」

「いえ、まだこられていない面の方がいます。しばらくかかりそうですね。開始は放送で案内いたします。それでは他の方をお迎えにまいりますので」

 そう言って案内の女性はゲートへと戻っていった。人手、足りてないのかな?

 

「うん。ここでもちゃんと繋がるみたいだ。なら、少し屋台を見ていこうか?」

 ビニフォンでの通話を確認してから文字通りのお祭り気分になって、そう提案した。

 モブの人も大勢きていたけど連絡手段があるので、はぐれてもだいじょうぶだろう。

「混んでて全員では動けそうにないから、少しバラけるぜよ」

「そうッスね」

「集合の目印は……」

 辺りを見回して、ちょうどいいのを見つけた。

「剣士に集合で」

 まさかこのネタを使えるとはね。

 剣士は学ランじゃなくなったけど、2メートルの体格(ガタイ)はあいかわらずなので目立つし。

「ワシ?」

「うん。試合開始の放送が流れたら、セイバーライオンを肩車してくれ。そうすればすぐに見つけられるから」

「なるほどッス」

 浴衣の肩車って別の意味で危険だけど、着ぐるみの上に着てるから問題はあるまい。

「それじゃ、散開!」

 

 

 俺は華琳とクランと回ることになった。ヨーコとレーティアは慣れている梓が案内。他は小隊ごと。

「なにか食べたいのある?」

 屋台の料理は匂いで誘惑するから迷うな。

 俺的には焼きトウモロコシやイカ焼きとビールな気分なんだけど、カタヌキに影響でるからアルコールは試合を終えてからにしよう。

 

「そうね。アレは?」

「綿菓子。細い飴が綿みたいになってる。買ってくるよ、待っててね」

 俺は綿菓子の屋台に向かった。

 おっ、子供のモブまでいるんだ。すごいな。

「カード払いみたいなもんなのね」

 GPでの支払いにちょっとてこずったが、綿菓子を2つ買って戻ったら、華琳とクランがナンパされていた。

 そりゃ、可愛いからわかるけどさ。人妻なのよ、その2人。

 ……指輪してないからわかんないか。今度、プレゼントしないとな。

 

「この耳をよく見ろ、どう見てもエルフだろ!」

 クランを指差すとんがり耳の男。

「なにを言う、この小ささをよく見ろ! これで大人だと言ってるんだ、ドワーフだ!」

 華琳を指差す背の低い髭面の男。

 華琳の目が怖いことになってるな。あの殺気に気づかないのか?

 

 ふむ。ナンパじゃないのかな? 2人に声をかけていたのはたぶん、エルフとドワーフの男だろうけど。

「俺の嫁がなにか?」

「嫁?」

 男2人が驚いた顔を見せる。うん、気持ちいいね。

 

 喧嘩中っぽい2人を宥めつつ、話を聞く。

「そうか、あんたも使徒か」

「じゃあ、君たちも?」

 2人も使徒でエルフが1の面、ドワーフが6の面からきたそうだ。

 他の面にきたついでに、自分のファミリアになる者を探しているとのこと。

 同族らしき者を見つけたのでスカウトしようとしたが、ライバル種族に邪魔をされ口論になったらしい。

「そんなのでファミリアって見つかるの?」

「人のファミリアなんて滅多にみつからんわい」

「しかも2人ともSSRじゃん。どこで見つけたんだい?」

「URだろ。鑑定スキルおかしいんじゃないのか」

 SSR(ダブルスーパーレア)とかUR(アルティメットレア)ってソシャゲキャラのランクじゃないんだからさ。

 ……それとも本当にそんなランクあるのかな?

 

 彼らと話しながら屋台を回っていたら、ヨーコたちを見つけた。

 それも、予想外の人物といっしょに。

「あれは……カミナ?」

 グレンラガンのカミナだよね、あれ。なんでここにいるの?

 

 さらに、はぐれないように俺と手を繋いでいた嫁さん2人だったのに、クランがその手を離して駆け出す。

 大きな声で目標の名を呼ぶ我がロリ嫁。

「ミシェル!」

 

 え?

 どうなってるの?

 ここって、交流戦じゃなくて交霊会の会場?

 

 


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