真・恋姫†有双……になるはずが(仮)   作:生甘蕉

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36話 転生者

 浴衣姿のロリ――見た目だけで歳はロリじゃない――嫁たちと手を繋いで縁日を堪能してたはずが、嫁の浮気に遭遇することに。

 ヨーコたちといっしょにカミナ、ミシェルがいたわけで。

 ……浮気というか、元サヤ?

 結婚して初めての大ピンチ襲来とです!

 

「ミシェル!」

「クラン? なんでここに?」

 驚いた顔をする眼鏡。いや、俺も眼鏡だけどさ。

「貴様こそなんでいるのだ!」

「クラン、この男と知り合いなのか?」

 状況がわからずに問う梓。

 グレンラガンは劇場版まで全部みんなで観たけど、マクロスFはまだだから梓はクランとミシェルの関係知らないんだよね。

 戻ったら観るか。でも、ちゃんとマクロスから順番に観てもらいたいしなあ。時間かかりそうだ。

 

「あ、梓?」

 クランはミシェルばかりに目がいって梓たちに気づいてなかったらしい。

 梓がミシェルを指差す。

「うん。こいつ、ヨーコの元彼の仲間らしくてさ、あたしたちをナンパしてるんだよ」

「うむ。ヨーコはカミナと話したいだろうから、断り辛くて困っていたのだ」

 なんですと。

 クランだけに飽き足らず、他の嫁を狙うとは許すまじ。

 眼鏡割れろ!

 

「ミーシェルー!」

「レーティアちゃん困ってたの? 言ってくれればいいのに」

 ぽかぽかと両手を振り回すクランの頭をおさえてあしらいながら微笑むナンパ眼鏡。

 くっ。手馴れていやがる。

 

「ミシェルは私の幼なじみなのだ」

「よろしく」

 ウインクするな!

 ……いかん。過剰反応してしまうな。

 

「みんなも知ってるだろうけど、こいつはカミナ」

2面(ふためん)に悪名轟くグレン団! 男の魂背中に背負い、不撓不屈の、あ、鬼リーダー! カミナ様たぁ、俺のことだ!!」

 その啖呵にヨーコが顔をしかめる。

「だから知ってるって言ってるでしょ。……2面?」

「おうよ! 今はここが俺たちグレン団のシマよ!」

「俺たちの小隊名はグレン団じゃないっていつも言ってるだろ……」

 ミシェルのツッコミはなんだか疲れているように聞こえた。

 

 

「ふうん。あんたたちもファミリアやってんだ」

「ああ。ヨーコたちもか?」

「そうよ。あたしたちは4の面」

「なんだよ、隣面じゃねえか」

 こっちも仲いいな。不安になってしまう。

 ファンとしてはカミナに直接会えて嬉しいけど、ガラの悪い兄ちゃんはちょっと怖い。

 

「おうおうおうおう! なに見てやがんだオッサン?」

 ……ちょっとじゃなかった。けっこう怖い。

「お、俺は天井煌一」

「あたしのマスターよ」

 夫だとは紹介してくれないヨーコ。事前に打ち合わせていたある作戦のためだとはいえ、悲しい。

 

「へえ。あんたがヨーコをファミリアにしてるってえのか?」

 グラサンに睨まれるとさらに怖い。というか、浴衣にグラサンは似合わないでしょ。

「う、うん」

「オッサン、ヨーコをうちにくれ」

 は?

 なに言ってんの?

「断る」

「ヨーコは元々グレン団の一員だぞ!」

 それは知ってるけどね。

「今はうちの大事なメンバーだ」

 そして俺の嫁さん。

 渡せるわけないでしょ。

 

「ヨーコ、お前はどうなんだよ!」

「あ、あたしは……あっちにいなきゃいけない事情があるの」

 俺を選んでくれたってわけじゃなさそう……。

 成現の持続時間やチョーカーがなかったら、どっちを選んだか不安になってしまう。

「だいたい、あたしはあんたのヨーコじゃないし……」

 自分たちがフィギュアだと説明するヨーコ。

 自分はカミナの知っているヨーコではないと。

 ん? 目の前のカミナってどういう経緯でファミリアになったんだろう?

 このカミナの世界のヨーコも別にいたりするのか?

 

「よくわからん!」

「だから」

「難しい話はわからねえっつってんだろ。オッサン、ヨーコを賭けて勝負だ!」

 ヨーコの解説をさえぎって、俺に勝負を挑んでくるカミナ。

「断る」

 俺じゃカミナに勝てそうにないし。

「ああん? 自信がねえのか?」

「なんと言われようとそんな賭けに乗るつもりはない」

「ケッ、腰抜けが。そんな奴にヨーコをまかせられるかよ! ヨーコ、こっちにこい!」

 強引だなあ。

 こんな人だったっけ?

 

「その勝負、受けるわ」

「ヨーコ?」

 俺の情けない姿に愛想尽かしちゃった?

「ただし、勝負するのはあたしよ」

「いいねぇ。それでこそヨーコだぜ。オッサンもそれでいいな?」

「……ヨーコ」

 たぶん、俺は今泣きそうな顔をしているはず。眼鏡で隠れていればいいけど。

 

「安心して。絶対にあたしが勝つから」

「わかった。ヨーコが勝ったら、彼女は渡さない」

 ヨーコが負けた時はどうしよう?

 そもそも、ファミリアって他のプレイヤーに渡せるもんなの?

 カミナたちのプレイヤーって誰?

 

「勝負方法は交流戦の競技でもある射的よ」

「ヨーコ、それはマズイのだ!」

「そっちのお嬢ちゃんはわかってるみてえだな……悪いが射的だとグレン団の代表は俺じゃねえんだ」

 バツが悪そうに頭をかくカミナ。チラリと隣に立つ少年を見る。

「ミシェルもスナイパーなのだ。それも一流の」

「超一流だぜ、クラン」

 くいっと眼鏡を持ち上げ、訂正するミシェル。

「歓迎するよ、ヨーコちゃん。うちは男ばっかりでウンザリしてたんだ」

「メガネ、ヨーコに触るんじゃねえ!」

「ミーシェールー!!」

 そりゃクランも怒るよね。

 

「あげるつもりはないけど、君はクランをよこせってのはないの?」

「クランを? ……だって、俺の知ってるクランじゃないんだろ? いらないね」

 それはそれで腹が立つな。理不尽なのはわかってるどさ。

 絶対にお前にクランはやらないからな!

 ショックだったのか、片手を振り上げたまま固まってしまったクランを華琳が優しく抱きしめる。

「私たちの義姉に対してその台詞は許せないわね。ヨーコ、この無礼者に必ず勝つのよ」

「まかせて!」

 ヨーコ、負けないでね。

 

「水を差すようで悪いけど、射的なら勝つのは俺だ!」

 そう自分を指差したのはさっきからいっしょにいるエルフ。

 たしか名前は……。

「言うじゃないか、アゴルフ」

 あれ? そんな名前だったっけ?

 

「何度も言ってるだろミシェル、俺の名前はヘンビットだっての!」

 そうそう。ヘンビット。

 ……じゃあ、顎のエルフでアゴルフか。

 ぷっ。思わず噴き出しそうになる。だってさ、すごいわかるんだ。

 ヘンビットってエルフなのに美形っていうより、いや、美形は美形なんだけど、米アニメの美形って方がしっくりくる造形。

 つまり、マッチョで顎がゴツイ。耳がとんがってなかったら誰もエルフって思わないような顔。

 

「なに言ってんの? 勝つのはミシェルでしょ」

「そうよ。いくら弟でも、調子こきすぎ!」

 こっちのお姉ちゃんたちはミシェルのファン? 女エルフで普通に美女と美少女だ。美女の方は巨乳なのが残念だけど。

 やっぱりエルフは貧乳のイメージがあるのは俺がおっさんだからだろうか?

 

「弟?」

「どっちも俺の姉だ。……敵の応援なんかすんなよ!」

 ずーんと目に見えて落ち込むア……ヘンビット。

「あら、初めて見る顔だけどあなたも使徒ね。1面(ピンめん)の使徒、エルフのダイコよ」

「同じく、チックウィードよ」

 エルフだから長命で逆だったりするかもしれないけど、たぶんダイコが一番上なんだろう。

 むう。ダイ姉ちゃんとチィ姉ちゃんか。ベタだな。

 ……いや、胸のサイズじゃなくて、名前の略的な呼び方でね。

 

「俺は4の面の使徒、天井煌一」

「4の面? 苦労するわよ」

 あ、やっぱりそんな感じ?

「最近使徒になったばっかりで詳しくないんだけど、それって他の面はみんな、そう思ってる?」

 俺の質問にカミナとミシェル、エルフたちとドワーフまでもが頷いている。

 思わず大きくため息。

 剣士ぃ。お前の評判、良くなさそうだぞ……。

 

 嫁さんたちも名乗ったら、最後にドワーフ。

(わし)は6の面の使徒。ドワーフのドライツェン」

「13?」

 レーティアの問いに頷くドライツェン。それっぽい響きだしドイツ語で13って意味なのかな?

「じゃあ十三(じゅうぞう)か」

「おお、わかるか。儂の名前は沖田艦長のような立派なドワーフになれという願いを籠められてつけられたんだ」

 いや、沖田艦長ってドワーフじゃないし。外見はそうかもしれないけどさ。

「って、ヤマト知ってるの?」

「うむ。儂のところは転生者が多いからな」

「俺や姉ちゃんたちも転生者だぜ」

 なんと。ドワーフやエルフに転生したっていうの?

 

「ダイ姉ちゃんなんてな、オート三輪に轢かれて転生したっていうんだ。お笑いだろ」

 マジでダイ姉ちゃんって呼んでるんだ……。

 トラック転生? っていうか、いつの人なの?

 エルフだから歳はわかんないか。

「そのことは言うなって言ってるでしょ!」

 ダイコの一撃でヘンビットが宙を舞った。

 あのエルフらしい細腕で、エルフらしくないマッチョを殴り飛ばすとは、姉ちゃん恐るべし。

 

「ヤマトか。いつかあのような宇宙戦艦を造ってみたいものだ」

 髭をなでながらうっとりとした目で語る十三。もしかして、話が長くなるかな? そう思った時、放送が流れ出した。

『使徒の皆様、準備が整いました。射的競技会場までおこし下さい』

 この声はさっきの案内の女性だろう。他に係の人いないのかな。

「お、やっとだな。ヨーコ、さっきの約束、忘れんじゃねえぞ!」

「勝つのはあたしよ!」

 言い合いながら歩き出すヨーコとカミナ。仲良さそうだな……。

 って、競技会場知ってるの?

 

「こっちよ」

 剛腕エルフ長女が案内してくれた。

 彼女の話によると、3の面と5の面は不参加のようだ。

「3の面は海の面。水棲の者が多いから、たまにしか交流戦には参加しないのよ」

「だが、やつらが参加する水中競技になると勝ち目はないわい」

 ふむ。すくいものでは参加する気にならなかったのかな?

「5の面は修行に飽きたのかしらね? 神はいるはずなんだけど、参加してるのを見たことがないわ」

 そんな神様もいるんだ。

 剣士はまだマシなのか。

 ……いや、下を見ちゃ駄目だ。もっと上を目指さないと。

 

 

「見たとこ、普通の屋台だね」

 銃はコルク銃。階段状の台の上に的である景品が並んでいるのも、最上段に大物が並んでいるのも普通。違うのは最上段真ん中の目玉景品が鎧だってことぐらいか。

 あれって、TVの通販番組で扱ってたやつだよね?

「そうね。他の屋台とあまり変わらない規模ね。それより煌一、他の使徒に連絡はしたの?」

「え? ……あ、忘れてた」

 華琳の指摘で思い出した。放送がなったら剣士に集合だったっけ。

 予想外の出会いや、ヨーコを賭けた勝負ですっかり忘れていたよ。

 

「うん。そう、もう競技会場にきちゃったから……」

 慌ててビニフォンで連絡。

「なんですか、それ?」

 聞いてきたのはいつの間にかいた案内の女性。

 彼女だけじゃなくて、他の面の連中も俺の手元に注目してるな。

 

「え? 携帯電話みたいなもんだけど」

「携帯電話?」

「基地局もないのに使えるのか?」

「どこで買ったんだ?」

「ボタンないのに操作できるの?」

 いきなり質問責めに合う俺。

 ど、どうしよう。こういうの、慣れてないんだけど。

 

「え、えと、」

 パニクった俺から、ビニフォンを奪う華琳。

「これはコンビニエンスフォン。煌一が作ったものよ」

「オッサンが?」

「操作はどうするの?」

「基本は画面に触れて操作。コンビニエンスカードの機能も内包しているから、思考操作も可能」

 淀みなく解説する華琳。

 デジタル機器なんてない世界出身なのにさすがだ。頼りになりすぎる。

 

「他には」

「これ以上は……そうね、交流戦で使うかもしれないから秘密にしておきましょう」

「わ、私は運営ですから聞いてもかまいませんよね!」

 食い下がる運営のお姉さん。

 そんなに気になるのかな?

 

「運営なんだから、試合開始の手続きをするのだ!」

「そ、そうでした。……後で詳しく!」

 俺の手を両手でぎゅっと握る運営の人。

 諦めてないのね。

 コンカ機能、勝手に使っちゃまずかったのかな?

 

「失礼しました。これより交流戦第1競技、射的を行います!」

 マイクで開始を宣言する運営女。背後でモブさんたちがわっと盛り上がる。

 これ、うちの面でやったらかなり淋しいことにならない?

 そりゃ評判も悪くなるよね。

 

「……さらに、落とした景品はポイントになるだけではなく、景品自体ももらえちゃいます!」

 解説されたルールにいちいち反応するモブさんたち。……いや、景品もらえるのは当たり前なんじゃないの?

「審判は的屋(てきや)のお兄さんです」

 よし! その紹介はどうかと思うけど、だいたい予想通り。

 ヨーコ、頑張ってくれ。

 

「よかった。間に合ったぜよ」

「お待たせッス、アニキ」

 剣士と柔志郎たちも間に合った。娘たちはナンパされてないかちょっと、いやかなり不安だったけど、だいじょうぶだったみたい。

「まったく、のん気なものね」

「姐さん、どうかしたんスか?」

2の面(ここ)の連中とね、ヨーコを賭けることになったのよ」

 華琳が大きなため息をするが、俺はそれどころじゃない。意識しないと息をするのも忘れるぐらいに緊張してる。

 

「その話、詳しく聞かせてもらえますか?」

 前に出てきたのは剣士たちといっしょにやってきた女性。

 浴衣姿なのは当然として、長いストレートの金髪で爆乳の美女。

「あなたは?」

「……申し送れました。この2の面で修行中の女神です。もっとも、分霊(わけみたま)ですが」

 ああ、剣士と同じパターンなのね。

 女神って言われたら納得するしかないほどの美貌だもんなあ。……女神?

 

「女神ってもしかして?」

「いや、姉ちゃんとは違うぜよ。……姉ちゃんの親友ではあるんじゃが」

 なんか言いにくそうにしてるな。

「親友?」

「ええ。彼女は、私が魔族との戦いで疲れ果てた時に救いの手を差し伸べてくれた、大切な友達ですわ」

「この女神(ひと)はホントは修行するような女神じゃないんぜよ。もっと上の女神なんぜよ」

「……私は魔族との戦いで育てていた世界を失うような未熟者。修行をやり直すぐらいでちょうどいいのです」

 世界を失う?

 神々の黄昏(ラグナロク)でも起きたってこと?

 

「魔族との戦いって」

「魔族はしっかり滅ぼしたのですが……私の愛した世界や可愛い者たちが……」

 うっ。聞いちゃまずかったっぽい。

 でも、魔族を滅ぼすってこの女神、すごくね?

「戦女神じゃ。魔族になんぞ、負けはせんぜよ」

 空気を読まない子が教えてくれました。

 戦女神か。アテナみたいなもん?

 だからファミリアにカミナやミシェルみたいな美少年揃えているのか。うん、納得。

 

「って、あなたがカミナとミシェルをファミリアにしてるプレイヤー?」

「そうですけど」

 あんたのせいで!

 ……いや、カミナもミシェルも俺が使徒になるより前からファミリアやってるっぽいから、それはやつ当たりか。

 

「あの2人はどうやってファミリアに?」

「それは私の固有スキルで」

 !

 もしかして俺と同じ?

 

「いえ、貴方ほどのレアな固有スキルではありませんわ」

「……さすが戦女神、俺のこともお見通しですか」

 うちの駄神と違って、この女神は文字通り神々しい。勝てる気がしない。

 ……俺じゃ剣士にだって負けるけどさ。

 

「だって貴方、彼女の自慢の子ですもの」

 ああ、こっちにくる前から俺のこと知ってたのね。

「剣坊、よく貸してもらえたわね」

「剣坊?」

「いけない、つい」

 ケン坊って、夢ノートとか入手しそうな呼び方は勘弁して。

 

「私の固有スキルは英霊召喚なのです」

「それって」

「Fateのとは違うわ。触媒もいらない。条件は相手が戦死、もしくは戦いの場で死んでいること。そしてそれは物語上でもかまわない」

 ふむ。カミナもミシェルもその条件なら当てはまる。

 アテナかと思ってたけど、ワルキューレの性質も持っているのか。

「けどそれじゃ、コストがすごいかかりそうなんですけど」

「ふふ。これでも最近まで世界を育てていたのよ。それなりの貯えはあるわ」

 なるほど。この女神も重課金ですか。

 俺もそんなとこで使徒やりたかったなあ。

 

「貴方も私の所にきません?」

「えっ?」

 まさか、俺の心を読んだ?

「綺麗な男のかたは大歓迎ですわ」

 瞳をキラキラさせている戦女神。

 ……さっきミシェルが男ばっかりって言ってたっけ。

「女性のプレイヤーとか、ファミリアっています?」

「私がいるのです。必要ないでしょう?」

「お断りします」

 これって女目当てで断ってるみたいだけど、仕方ないよね。

 

「何故ですの? 隊内恋愛も禁止してませんのに」

 えっと、女性が女神しかいないのに、恋愛オッケーってそういうこと?

 俺に呪いをかけた女神の親友なんだし、2柱とも腐女神?

「煌一さん、ありがとうぜよ」

 剣士はわかってないのか、断った俺に感涙してる。

 うん。俺は腐女神のとこになんかいかないから安心してくれ。

 そりゃあいつらもヨーコをほしがるわけだ……。

 渡す気はまったくないけどね!

 

 

 試合開始され、ハラハラしながら観戦する俺と嫁さんたち。

 ヨーコにはセコンドというかコーチ役として、梓がついている。本当は俺がいきたいけど、これも作戦。

 

「まあ、貴方のファミリアを賭けの対象に?」

 戦女神の相手は適当にしたいのだが彼女も賭けが気になるのか、しつこい。

「ええ。だから悪いけど負けませんよ」

「それはかまいませんが……うちのミシェルも強いですわよ」

 それは知っている。

 スナイパーだもんなあ。

「狙撃手なら他にもいそうだけど」

 最近の作品ってスナイパー死亡率高いよね。

 彼女の能力、と趣味ならもっと揃えていそう。

「ええ。ですが、アーチャー君は収録がおしてますし」

「アーチャーも? もしかして本物の?」

「ええ。私のファミリアですわ」

 たしかに戦死してるといえなくもない? でも、あのアーチャーのオリジナルを召喚できるほどの財力って……この戦女神、重課金どころか廃課金かもしれん。

 

「でも、そちらが勝った場合、メリットがありませんわ」

「……たしかにそうかも」

 ヨーコを取られないことばかり考えていて、そこまで気づかなかった。

 まさか、勝てると思ってなかったわけじゃないよね、俺?

「いけませんわ。もしも万が一、私たちが負けてしまったら見合った者をお渡ししますわ」

「いいんですか? 勝つのはヨーコですよ」

「自信おありなんですね」

 自信あるっていうか、そう信じないと意識を保てそうにないっていうか。

 あと、男は、とくに美形はいりません。あなたの親友の呪いが作用しますので。

 

「ミシェル君に抜かりはありませんわ。ほら、自分の射撃の前に景品が固定されていないか確認してるでしょう?」

 よく台に固定されているとか、中に錘が入っているんじゃないかってネタにされるもんなあ。疑うのは当然か。

「……あの、お名前は?」

 女神を呼ぼうとして名前を聞いてないのに気づいた。

「可愛がっていた世界を失った時に私も名前を失いました。今は戦女神とだけ呼ばれてますわ」

 戦女神か。呼びにくいなあ。アテナ……じゃ他にいそうだし、ワルキューレやヴァルキリーじゃ使徒っぽいし……。

 ワルテナ。ワルキューレ、プラス、アテナってことで。うん。

 脳内呼称はワルテナさんにしよう。

 

「それ、いいですわね」

「うそ」

 マジで心を読まれてる?

 表情読んでたり、ベタに俺が口に出してるとかじゃなかったの?

「はい。私はこれからワルテナと名乗りますわ」

 ど、どうしよう? これじゃ、俺たちの作戦、筒抜けじゃないか。

 

「そうですわね。お詫びとして、後ほど精神防壁系のスキルをお教えしますわ。……でも、困りましたわ。その通りなら、ミシェル君が負ける可能性がありますわね」

 俺の心を読んだ戦女神(ワルテナ)の美顔は、あまり困っているように見えなかった。

 

 




エルフの名前は春の七草の英語名から

スズシロ(ダイコン)
ハコベラ(チックウィード)
仏の座(ヘンビット)

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