交流戦第1競技、射的のルール。
弾は4つ。
的である景品毎にポイントが設定されており、その景品も入手できる。
1射毎に次の選手に交代。
射撃順は面の数の順。1面の
あのドワーフは
「ヨーコの番、か」
むう。やっぱり指示するんじゃなかった。あんなにお尻を突き出した射撃体勢なんて。
……いつものホットパンツもいいけれど、浴衣での後姿もいいなあ。
「すごい人気なのだ」
「そりゃ、応援するなら美少女の方がいいでしょ。セコンドについた梓と2人並んでいたらさ、他の代表が撃つのなんて見る気にもならないよね。代表さんもチラチラ見てるし」
胸囲のというか、脅威の戦闘力を誇る2人だからね。
「……ミシェルのやつ、チラチラどころかガン見ではないか!」
ミシェルどころか、会場の視線がヨーコに集まってる気がする。
こんなにモブさんがいるなら、作戦変えてればよかったか。
あれは俺んだ。
あのお尻は俺専用なの!
「まずはみなさん様子見のようですわね」
各面代表の1射目がおわったところでワルテナがそう評する。
「様子見とはいえ、全員がちゃんとポイントゲットするのはさすがとしか」
いくらスナイパーとはいえ、初めて使うコルク銃でよく当てるなあ。
銃ごとに癖もあるだろうに。
スキルの補正も効いているのかな?
「ええ。次からはきっと技も使ってきますわ」
「技?」
ワルテナは読心術というか、本当に心が読めるようなので話が早いけどこっちは隠し事ができない。
早く精神防壁教えてほしい。
2順目、銃を構えるヘンビットの様子がおかしかった。
1順目と同じはずなのに、どこか違う。
俺が違いを探しているうちに、アゴルフが目標に向けてコルク銃を発射した。
命中した景品が台から落ちていく。
……それも複数。
「分身、した?」
「ええ。マルチプル・シュートですわね」
俺には、発射されたコルク弾が分身して、それぞれ別の目標に向かっていったように見えた。
銃のスキルだろうか?
「はい。銃だけではなく、射撃系の
「あの、その技ってなんですか?」
「ああ、なるほど」
一瞬、驚いた顔を見せて、その後頷く戦女神。俺の心を読んだのだろう。
理解が早いのは助かるが、正直複雑な気持ちだ。
「技というのは気を使って、あのような行動を行うことですわ」
「気?」
「ステータスではCPで表示されますわ」
え? そんなステータスあったっけ?
MPを消費して魔法を使うみたいに、CPで技を使うってこと?
ビニフォンで俺のステータスを確認すると、たしかにCPという項目があった。
「技やCPは1つ目の救済を達成すれば教えてもらえるはずですが」
そんなの聞いていない。
剣士のうっかりか。
それともまさか運営の嫌がらせ?
「あら?」
スコアボードのヘンビットの2射目のポイントが、ゼロになっている。
『えー、ただいまの射撃についてですが、ヘンビット選手が発射し、分裂した弾は7つ。しかし、命中した弾は6つ。1つ外れているということで、全弾、外れたという扱いになるそうです』
アナウンサーと化した運営のお姉ちゃんが、的屋の兄ちゃんから話を聞きながら、会場に説明している。
「そんなの、アリなのか?」
納得いってない表情のレーティア。
「アリなんだろ。最初に説明されたじゃないか。審判はあの兄ちゃんだって」
「なるほど。たしかにあの方がルールなのですね」
俺たちの作戦を知っているワルテナから微笑みが消えた。
「ミシェルは技は使わなかったようだな」
自分の弟が零点にされてしまったというのにミシェルを応援するダイ姉ちゃんとチィ姉ちゃんにいらついていたクランだったが、無難にポイントを重ねた幼なじみの射撃にうんうんと頷いていた。
やっぱりあいつのこと、気になるよね……。
「ヨーコは技を使えないはずよね?」
「もし使えても、たぶん使わない方がよさそう」
俺たちが仕掛けるとしたら最後。
そのためにも、俺はぐっと堪えて応援は華琳たちにまかせている。
「策士ですのね」
「できることをするだけだよ。俺たちはなんにも知らないからね」
情報が足りなすぎる。
なんだよ、技って。必殺技?
CPなんてあるんなら、そっちも鍛えなきゃ駄目じゃないか。
3射目までの獲得ポイントはミシェルとヨーコが同点でトップ。続いてドワーフ、ヘンビットの順。
「もう最終射か」
「エルフ君は、2射目のゼロポイントが響いてますわね」
ヘンビットが勝つには、最上段真ん中の目玉景品、あれを狙うしかないだろう。
人気商品なのだろう、TVの通販でも見かけた鎧。それが1本足の台座に着せるようにして置かれている。大きさこそ射的の景品サイズだが自動サイズ調整の魔法がセットしてあるそうだ。
とても重そうで、コルク弾が当たったところで意味があるかどうか。
「それでも、1発に賭けるか」
なのに彼の姉たちの声援は「早くミシェルに代われ」とか、泣けてくるんですが。
彼も苦労しているのだな。
「当たった! けど……」
アゴルフの渾身の一撃はたしかに命中した。
だが、鎧はわずかに少し向きを変えただけにとどまった。
「……これでミシェルが落としやすくなったのだ」
ここからだと、さっきとあんまり変わったようには見えないけれど、クランが言うならそうなのかもしれない。
ミシェルが銃を構える。玩具の銃なのに様になるところが憎らしい。
やはり鎧を狙うのか。
さっきまでとは違い、ゆっくりと狙いをつけている。発射までの時間が長いな。
「彼はやってくれますわ」
「だろうね。俺としては彼を信じるよ」
ワルテナと俺はそれぞれ違う彼を応援するしかない。
会場のモブから、いい加減に撃てよ、とのヤジが飛び始めて数秒。……ゴルフのように『お静かに』のボードがほしいな。
そのヤジとエルフ姉たちが口論になりかける直前で、ミシェルはついに発射した。
「マルチプル・シュート!?」
コルク弾は10以上に分裂して、その全てが鎧の上部に命中した。
ぐらりと揺れて、それから背後へと倒れ、台から落ちてしまう目玉景品。
「その手があったか!」
全段命中したので、これならさっきのクレームは使えない。
俺は彼がどうでるか心配になってしまう。
「そんな……」
スコアボードにつけられた点数を見て、落胆の声を上げたのは戦女神。
ミシェルの最終射のポイントはゼロだった。
『ただいまの射撃について……だから説明するからちょっとおとなしくしてて下さい……』
解説しようとする運営側にカミナがかみついているな。
その気持ちはよくわかる。
『……ただいまの射撃についてですが、最上段の景品は手前に落ちなければ駄目、とのことです』
両さんから話には聞いていたけど、まさかそのルールでくるとは……。
観客からは大ブーイング。
それに後押しされたかのように、カミナが的屋の兄ちゃんに掴みかかっている。そりゃ怒るよ。
『やかましいっ!』
いつのまにか的屋の兄ちゃんがマイクを手にしている。
『テメェ、そっちの姉ちゃんをこの勝負に賭けているらしいじゃねえか! 許せねぇっ!』
ヨーコを指差す的屋の兄ちゃん。
選手たちが話していたのを聞いていたのかな。
的屋の台詞で、ブーイングしていた観客の態度が一転した。
パチ……パチパチ……パチパチパチパチ。
会場に溢れる拍手。嘘、名采配扱いなの?
そりゃ巨乳美少女を賭けていたと言われたら、的屋の方を応援したくもなるかもしれないけどさ。
モブたちの拍手喝采に俺はビビっていた。
作戦がうまくいったとはいえ、俺たちの作戦は、美少女に審判がほんのちょっと贔屓してくれる、程度のもんだったんだけどなあ……。
なんか観客まで煽動したみたいになっちゃって、これじゃカミナたちが悪役じゃないか。そんな予定なかったのに。
これでもし俺がヨーコたち複数の美少女を嫁にして貞操帯で縛ってるなんてバレたら、今度は俺が観客に睨まれそう。
うう……、胃が痛い。モブさん怖いよう。
それでも納得できないカミナが警備らしき人におさえられ連れていかれて、やっと競技再開。
あの警備さんはモブじゃなくてファミリアなのかな?
この状況でカミナに同情しちゃうんじゃないかって、ヨーコがちょっと心配になったけれど彼女はちゃんとポイントをとってくれた。
それも、狙ったのは最上段の、重ねられてフィルムで巻かれ棒状になったメダルの束。
ヨーコはメダル上部、中心よりずれた場所に命中させる。
後ろではなく、横に転倒するメダル。棒状のため安定せずに転がり、手前に落ちていった。
「わざわざあんな難しいことしないでも……」
普通に難易度の低い景品を落とせば勝てるのに。
「それではヨーコは勝ったと思えないのでしょうね」
「あんな判定されたらそうかもしれないけどさ」
もしかして負けてもいい、なんて思っちゃったんじゃ?
「ヨーコはキッチリと勝負をつけたかったのだ。あの男への想いと決別するために」
「そうなの?」
だが俺の問いにクランは答えてくれず、ただじっとミシェルの方を見ていた。
的屋の兄ちゃんはヨーコにはクレームをつけなかった。
敵わないと悟ったのか、無難にポイントを稼いだドワーフの射撃がおわり、ヨーコの優勝が決定する。
「やられましたわ」
「いや、負けたかと思ったよ」
「……開始前にミシェル君が、固定されているかを確認したのもマイナスだったのですね」
そう。疑いたくなるけど、それをやっちゃったのは審判の心証を悪くする理由の1つ。
もっとも、ミシェルはエルフ姉たちに応援されてた方のが、マイナス要因としては大きいと思うけど。俺だったら妬むもん。
「あれってさ、高額のは落としてもなんだかんだ理由つけて貰えないこともあるんだ」
じゃないと、赤字になるからね。
全部の的屋がそうじゃないらしいけどさ。
「だけど、相手が美少女だったら話は別。男ならいいカッコしようとして太っ腹になるでしょ」
「そういうものですか」
「だから煌一はヨーコが妻だということをずっと秘密にしていた。あのカミナにも教えたかったでしょうにね」
華琳が補足してくれる。フリーだと思わせておいた方が、贔屓してもらえると計算したからね。応援を控えていたのも同じ理由。
……って、効果がありすぎたかな。優勝したヨーコと的屋の兄ちゃんが握手している。
あ、ヨーコの手を両手で強く握ってなにか言ってるようだ。まさか……。
「あれがこれの効果?」
自分のチョーカーを指差す嫁さんたち。
「うん。まさか口説かれただけで発動するとは思わなかった……」
的屋の兄ちゃんは地面に倒れている。
雷の魔法かな。ヨーコには異常がないようなので一安心。
俺の想いを籠めて成現させた貞操帯機能が発動したってことはさ、もしかして俺ってすごい嫉妬深い?
あ、的屋の兄ちゃん、担架で運ばれてっちゃった。
ヨーコの優勝、取り消しにならなきゃいいけど……。
「よもやこのような負け方をするとは」
「遊戯屋台のルールって、的屋さん次第だからね」
それが両さんに教えてもらったこと。
両さんは胸を強調しろとか、チラリもアリ、とか言ってたけどさすがにそこまでは止めた。
嫁さんにそんなことさせられないよね。
「次の競技からの参考にさせてもらいますわ」
……とはいってもさ、ワルテナんとこって男ばっかりじゃないの?
まさか女装させるとか?
「それもいいですわね」
ぽん、と手を叩くワルテナ。
余計なことを考えてしまったみたいだ。すまん、ワルテナさんとこの男たち。
「さて、次の競技に入る前にこちらに来てもらえますか」
ポータルを広げる戦女神。
質問ではなく確認だったようで、俺の返事の前に腕を引っ張られ、ポータルへと飛び込んでしまった。
「ここは?」
「私たちの本拠地ですわ」
大きな建物の中っぽい。うちのボロアパートとは大違いだな……あれ?
「俺の小隊のみんなは?」
「ああ、ポータルのスキルレベルが高いと、隊長のみの転移や、指定した人物のみを連れてくることも可能になります」
なんと。
じゃあ、ここにきたのって俺だけ?
みんな心配するじゃないか!
……心配、してくれるよね?
不安になる前に、ビニフォンの着信メロディが鳴り出す。この音は電話機能だ。
「うん。たぶん大丈夫。試合前には戻れるみたいだから」
ワルテナに連れ去られた俺にすぐに電話をくれるなんて。
心配してくれたみたいで、ちょっと嬉しくなった。
電話を切ると、いつのまにかワルテナだけではなく、カミナとミシェルもいた。
「……さっきのは無効だ」
俺を睨むカミナ。
「いえ、私たちの負けです」
「けどあんなの、おかしいじゃないか」
ミシェルも納得できないか。そうだろうなあ。
「私たちは試合内容を勘違いしていたのです。この方たちは理解していた。……戦うべきは競技者ではなく、審判だったのです」
いや、審判と戦っちゃ駄目でしょ。味方につけないと。
「カミナ君、賭けに負けたのです。ヨーコさんのことは諦めて下さい」
「お前のヨーコとは違う別人なんだ。あの子にこだわってちゃ、お前のヨーコに悪いじゃないか」
そうか。ミシェルはそういう考えで、『俺の』クランをいらないって言ったのか。あの台詞は許すことにしよう。
あとでクランにも教え……教えない方がいいかな。ミシェルへの未練なんてない方がいい。
がっくりと肩を落とすカミナ。
「ヨーコ……」
「カミナ君、あのヨーコさんは10倍返し程度では満足しませんわ」
「なんだと?」
いきなりなにを言い出すの、この戦女神様は。
「あのヨーコさんはすでに、もっとすごいことをしてますわ」
「もっと……すごいことだと?」
「気になるのでしたら、煌一君に教えてもらえばよろしいですわ」
教えてって、無理でしょ!
カミナも怒りそうだし。
「いえいえ、実践なさっていただければカミナ君も納得しますわ」
「実践? 俺がカミナに?」
俺とカミナの視線が交差する。
「できるか!」
2人同時に叫んだのだった。
「おっさん、ヨーコ……ヨーコもどきのこと、頼んだぜ」
「クランもな。泣かせたら……」
くくっと笑って眼鏡を光らせるミシェル。
怖い。すでにベッドで泣かせちゃったことがあるのは秘密にせねばなるまい。
「梓ちゃんとレーティアちゃんによろしくねー」
ミシェルはカミナをなだめつつ、この場所から去っていった。
なにがよろしくだ。危険人物め。
「さ、みんなのとこに戻らないと」
2人とちゃんと話をさせたかったのかな?
たぶん納得してもらえたのでよかったのだろう。
あ、俺がヨーコとクランと結婚してるって教えてないや。あとで怒られるかなあ。
「用件はこれからですわ」
「え? 今のでおわりなんじゃないの?」
「いえ、賭けに敗れたのです。相応の品を支払いますわ」
ああ、そんな話だったけ。
見合った者を渡すって。
ワルテナが渡すというものは予想外すぎるものだった。
「戦死なさった方でどなたか、復活させてほしい人はいますか?」
え? 俺のために固有スキル使ってくれるの?
「GP馬鹿高いんじゃ?」
「かまいませんわ。そちらのように不足しているわけではありませんから」
嫌味じゃないんだろうなあ。
俺の心を読んでいるからか、それとも剣士のダメっぷりが有名かで、うちがGP不足なのがばれているんだろう。
「戦死、ねえ」
誰がいいだろうか?
いきなり言われても困るなあ。
「おまたせ」
再びワルテナのポータルで会場に戻る俺たち。
なんとか次の競技前に間に合ったようだった。
どうやら各チーム、1戦目の様子から作戦を立て直すとかで、次の競技までの時間を延ばしてくれとの注文があったらしい。
運営側もあの試合内容では仕方ない、と競技開始がずれこむことになったようだ。
「遅かったわね」
華琳の目が怖い。……これって鑑定?
「無事なようね」
無事って見ればわかるでしょ……ってまさか、魔法使いを失うようなことしてたんじゃないかって疑ってた?
俺が女神様とそんなことになるわけないでしょうに。
「安心なさって。私は処女神ですわ」
おおっ!
そこまでアテナっぽかったのね、ワルテナさん。
「そう……処女神。自然の摂理を無視し、
あれ? なんか様子がおかしい?
でもさ、やっぱり処女神なのに男ばっかり集めてるってことは逆ハーレムなんかじゃなくてさ。
「い、いいじゃないですかっ! ちょっとBLが好きなぐらい!」
いきなりカミングアウト?
真っ赤になったワルテナが声を大きくする。
「魔族との戦いで愛した世界を失い、打ちひしがれた私を癒してくれたのは親友と、彼女が教えてくれたサブカルチャー。新たな世界を知ることで私は生まれ変わったのですわ!!」
……ええと、それも女神のせいなの?
「処女神である以上、男女の恋愛は御法度。ならば、BLに
そう自信満々に言われても困ります。
処女神がみんな腐女神みたいに言うのはやめて下さい。
「大変だったようね」
嫁さんたちは女神の豹変で俺の潔白を信じてくれたようだ。
「もしかして、焼きもちやいてくれた?」
「さあ?」
心配だったのは、俺が魔法使いのスキルを失うってことだけだったのかな?
……いかん、恋敵の登場でネガティブ思考がいつも以上に捗る。EPかなり減少してるな、これ。
確認するとさらに落ち込みそうだから見ないけど。
「で、なにしてたんや?」
「よかった。智子もいたか。ちょっとキュアムーンライトになってくれないか。会わせたい子がいるんだ」
首を傾げながらも素直に変身してくれる智子。
近くにいたモブさんたちも驚いたけどあんまり騒がないのは、慣れてるのかな?
「会わせたい人って?」
「この女神ワルテナの力でね、復活した人がいるんだ」
誰にするか悩んだけどね、娘が喜んでくれる人がいいかなって。
「復活……まさかコロン!?」
落ち着かない様子であたりを探すムーンライトの目にとびこんで来たのは、黒い衣装に身を包んだ黒髪おかっぱの少女。
ごめん。淫獣、じゃなかった、ムーンライトのパートナーの妖精は最初から候補にいなかった。
だって下手したら娘の彼氏になりそうだし。あれにお父さんと呼ばれるのはちょっと……。
「悪かったな、お前の望んだ者ではなくて」
不機嫌そうにそう言った少女の瞳は金色。
「まさか……ダークプリキュア?」
うん。ワルテナの固有スキルで復活してもらっちゃった。