真・恋姫†有双……になるはずが(仮)   作:生甘蕉

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4話 成現

 俺の固有スキルは成現らしい。

「せいげん? ……じょうげん、か」

 コンカで読み方を確認したら『じょうげん』のようだ。

 

「ほほお。どんな解説が書いてあるんじゃ?」

 受話器のむこうから聞かれた。

「それがね、スキル名しか書いてないんだよ」

「レベルが足りんと言うわけか。なるほどのう」

 え? なにがなるほどなんだろう。

 

「スキルの中身を知るにはレベルが足りんということは、極秘情報扱いの強い能力っつうことぜよ」

「そんなもんなの?」

 閲覧に制限がかかるほどのすごいスキルってこと?

 コンバットさんから察するにたぶん、プラモが動くようになるスキルなんだと思うんだけど。

「そうぜよ。早うシステムツールのスキルレベルを上げて確認するぜよ」

「スキルレベルってどうやって上げればいいのかな? やっぱり敵を倒して?」

「手っ取り早いんはGPを使用するのじゃが、おっさんはあんまりGPないしのう」

 そうか。資金でスキルレベルも上げられるんだっけ。ゴッドってのは伊達じゃないのね。

 となるとGP稼ぎが重要になるな。

 

「GPはどうやって稼ぐの?」

「基礎講習を受ければ貰えるが、出陣の準備するだけでのうなってしまう程度じゃ」

 武器とか買う分しか出ないってことか。

 俺は最初に貰ってるはずのGPも少ないらしいし……。

「俺の初期GPって少ないんだよね?」

「おお。無意識になんかに使ってしまったんじゃろうなあ」

「光熱費や通信費でってことは?」

 もしくは家賃?

 勝手に召喚しといてそこまで請求されたらいやなんだけど。

「神さんはその程度請求せんじゃろ」

 だとすると、もしかしたらさ。

 

「GPを消費するスキルってあるのかな?」

「なんじゃと?」

「俺の固有スキルがもしかしたら、そうなのかもしれない」

 それならば辻褄が合う。

 涼酒君に会ってGPを確認する前にコンバットさんを動けるようにしていたみたいだし。

「ふむ。ありえるのう。物作り関連のスキルはGPを使うもんもあるぜよ。一時的なのはMPで、効果が長く続くやつはGP使うんが多いはずぜよ」

「やっぱり。じゃあ、さっきの話に戻るけどGPの稼ぎ方って?」

 俺は他のプレイヤーよりもGPを稼がなきゃいけないようだからね。

 たくさん稼いで、色んなプラモを動かしたい。

 

「出陣先の世界を救済するのが一番稼げるぜよ」

 そりゃまた大きなミッションだな。世界救済?

「……それってどうやって?」

「世界によって違うんじゃ。たいていの出陣先はのう、元々おった担当の神さんが放棄した世界なんぜよ」

 神に見放された世界?

 そんなところに行かされるのか。

「次の段階に行くとか、行き詰ったとか、魔族の妨害が酷いとか、飽きたとか。色々理由があるがのう、神さんに放棄された世界があるんじゃ。そのまま放置するのは勿体無いじゃろ? そこを使って未熟な神さんを鍛えちょるんぜよ。世界のリサイクルじゃな」

 めんどくさくなった作りかけのプラモを初心者に作らせるってとこか。

 リサイクルって言っていいのかそれ?

 

「俺たちを召喚したのは未熟な神様ってこと?」

「そっ、そうなるのう……」

 なんだか不安になってくる。

 やっぱり俺を選んだのはなにかの間違いなんじゃ?

 ……でも、持ってる固有スキルは珍しいものらしいしなあ。

 

「あ、あと他にの! 出陣先で敵を倒しても貰えるんじゃ! 強い敵じゃとその分ぎょうさん貰えるんじゃぞ!!」

 受話器から聞こえる声が大きく早くなった。なんか涼酒君、誤魔化そうとしてるっぽい。

 追求しても未熟神の使徒って状況は改善されそうにないし、乗ってあげよう。

「敵って?」

「倒すとGPが貰えるやつらぜよ!」

 オイ。

 それじゃ答えになってないでしょ。

 涼酒君もよくわかってないんだろうな。

 神への生贄? それはそれでちょっと怖い気もする。

 

「他にはの、アイテムを売ってもGPは手に入るぜよ。デパートでも買えるようになるし、いいことづくめじゃな」

「あ、それなんだけどさ」

 ぼったくる商店なシステムならさ、やりたいことがある。

「涼酒君、俺にいらない装備を売ってくれない? デパートの買取りよりも高く買うからさ」

「どういうことじゃ?」

「だって、デパートだと涼酒君が売ったその倍の額じゃないと、俺が買えないわけでしょ。それだったら涼酒君から直接買った方が安くすむ」

 デパートの買取り以上売値以下でやり取りすればどっちも得だ。

 

「ちいとセコくないかのう?」

「そんなことはないって!」

「むう。……じゃが、ワシは余分なアイテムは全部売ったばかりでのう。柔志郎担当のこっちじゃ武器もあんまり見つからんので駄目そうじゃ」

 残念。安く装備入手案はお預けか。

 現代日本で武器になりそうなのものって工具類かな? 『バールのようなもの』とかだろうなあ。

 ん? 現代日本?

 

「そっちのゾンビってさ、元々はそこの住人なのかな?」

「どうやらそのようじゃな。女子供のゾンビまでおってやりにくいわい」

 う、それは確かに嫌だ。そんなのとは戦いたくないな。

 でも聞きたいのはそこじゃなくて。

「警官のゾンビなら拳銃を持ってないかな?」

「そりゃ持っちょるかもしれんのう。あいつらは武器を使うてこんから忘れとった」

「それだ!」

 銃なんか使ったことないけど、剣より強そうな気がする。

 是非とも彼らに入手してもらおう。

 

「お巡りさんのゾンビを探して鉄砲を奪えばいいんじゃな」

 お巡りさんて……ごっつい涼酒君がそんな呼び方するから思わず噴出しそうになったじゃないか。

「い、いい気分しないかもしれないけど、よろしく」

「いや、柔志郎にピッタリの武器じゃ。必ず見つけるぜよ」

 銃がピッタリって田斉君はどんなイメージなんだろう。

「ほいじゃ、ワシらは死体回収に戻るぜよ」

 あ、まだ復活してないのね、田斉君。

 なのに電話をしてるってことはそれだけ俺を心配してくれたのかな。

 

「ちょっと待って! もう一つ聞きたいことが」

「なんじゃ? だいたいのことならスターターセットか基礎講習でわかるぜよ」

 そうか。よく目を通しておこう。

 今から聞くのはそっちには載ってなさそうだけどさ。

「ゲームコーナーのゲーム機って壊したら怒られる、よね?」

 今聞いとかないと、ぬいぐるみに殺されるかもしれない。

「ああ、そりゃ無理じゃ」

「無理?」

「ワシものう、全然取れんので八つ当たりで何度か殴ったんじゃが、壊れんかったぜよ」

 2メートル近い上に筋肉質な涼酒君が殴って壊れないの?

「それって軽く、だよね?」

「いや、結構思いっきり殴ったぜよ。全くの無傷じゃった。ありゃ破壊不能の属性がついちょる」

 破壊不能?

 ゲーム機にそんなすごい属性ついてるの?

 まあたしかに破壊不能のコントローラーとか携帯ゲーム機があったら欲しいけど。

 

「疑うんなら鑑定スキルで確認できるぜよ」

「信じてるから。鑑定スキルって持ってないし」

「ん? 初期スキルで持ってるはずじゃが?」

 え? 慌ててキャラシートを見たらスキルの1枚目にちゃんとあった。1レベルで持っているみたいだ。

「ごめん。持ってた」

 いつのまに覚えたんだろう。

 自分のことだからわかってると思って全然見てなかったけど、しっかり確認しないと駄目だね。

 ……童貞の二文字が目に映るんで嫌なんだよなあ。

 

「スキルはMPやらが減るのもあるがの、使えば熟練度が貯まるんじゃ。それが一定値を超えるとスキルレベルも上がるぜよ。どんどん使うた方が得なんじゃ!」

「なるほど。そういうシステムなのか」

「もういいかのう?」

 他に聞きたいことは……あるけどまとまってないな。

 思いついたらメモっておこう。

「うん。ありがとう。そっちもがんばってね」

「おお。おっさんもな」

 ガチャ、という音とともに電話が切れた。やはり、携帯電話じゃなかったようだ。

 

 

 クレーンゲーム機を破壊するために百貨店に行くつもりだったが、部屋に引き返すことにした。

 早く固有スキルを試したい!

「あの箱は壊せないらしいから」

 華琳ぬいぐるみに向かってそう言ったが、彼女は無反応。

 やっぱり夢じゃないと喋ったり動いたりしないのかな?

 確かめるためには寝ればいいけど、まだ早い。

「クレーンゲームをやるための資金を効率的に集めるために情報整理するから待っててね」

 メダルがまだあるから数回はできるけど、クレーンゲームはどうしても取りたかったら一気に何度もやった方がいい。

 資金がつきてちょっと離れている隙に、他の人に取られちゃったり、取りやすくしたぬいぐるみの位置が戻されてしまうとかあるしね。

 取りやすくしてくれって頼む人もいるけどさ。

「きっと助けるからさ」

 宥めるように頭をなでてからぬいぐるみをベッドの枕元に置いた。

 

「さて、と。どれからいこうかな?」

 コンカでGPを確認したら、固有スキルを試すプラモを選ぶ。

「やっぱりこれかな?」

 選んだのはマスターグレードEX-Sガンダム。一番目立つところに飾っている。

 複雑な変形を再現しているだけあって、部品数が多くて作るのが大変だった代物だ。それゆえに思い入れも大きい。

 それを手に取り、つい変形させようとして思いとどまる。

 目的はそうじゃない。

 

「……どうやるんだろう?」

 プラモを手にしてコンカの表示を見ながら動けと念じてみる。

 GPに変化はなかった。

 ならばとスキルを使うことを思い浮かべる。

「成現!」

 口にも出していた。中二っぽい前フリもあった方がいいのかな?

 

 あ……。

 コンカの表示が変わった。

『成現を使用しますか?』

 その下にも表示がある。

『→ マスターグレードEX-Sガンダム』

 うん。できそうだ!

 はい。そう念じた。

 これで勝手に変形してくれるEX-Sが……。

 

「……駄目?」

 コンカには『GPが足りません』の表示。

 むう。足りないだけで、いくら足りないかは表示されなのか。

 これもスキルのレベルが上がればわかるようになるのかな?

 

 次に選んだのは値段も安くて部品数の少ないキット。塗装もしない素組みだけなら30分もあれば完成してしまうだろう。

 このキットなら使うGPも少なくてすむに違いない。

「成現!」

 ……あれ?

 矢印の選択肢が出る前に失敗してしまった。今度の表示は『EPが足りません』と出ている。

 

 EP?

 キャラシートを見てみるとたしかにEPがある。最大値と現在値が表示されているから、普通に増減する能力値のようだ。

 スターターセットのプレイヤーの書で確認すると、エモーションポイントとなっている。

 どうやら感情値らしい。これが低くなると鬱や無気力状態になるようだ。

 

 感情……想いを籠めろってこと?

 それにしてはEX-SにはEP不足は出なかった。

 さらに別のキットで試してみる。

 ふむ。作るのに手間がかかったり、何度も遊んだキットは『GPが足りません』まで進むな。

 俺自身のEPじゃなくて、既にキットに籠められた俺の情念なのかもしれない。

 ならばとEP不足のキットの一つを選んで願ってみる。

「EP注入!」

 ……どうやら違うようだ。俺のEPも減っていない。

 

 感情を籠めるためにキットを改造してみることにした。

 カラー変更と重武装化かな。ついでだから別のキットとニコイチにして……。

 EP消費EP消費と念じながらノートに変更箇所をまとめていく。

 ぼくの考えた最強の……とまではいかないが、自分設定満載の痛い改造案がまとまった。

 

 ……いい年してなにやってんだろう。

 時計を見ると三時間も経っているし……。

 上手くいってもどうせ、GP不足で失敗するのに……。

 

 ……はっ。

 コンカでEPを確認すると現在値がかなり減っている。

 なんかネガティブな気分になってるのはこのせいか?

 病院行ったら回復するかなあ。

 ホントは改造完了してから試すつもりだったけど、メンドクサイからもういいや。

 テストすっか。

 

「成現……」

 うん。『GPが足りません』まで進んだな。

 俺の減少したEPが籠められたってことだろう。

 嬉しいんだけどなんかテンションが上がらない。EPが低いせいだろうな。

 病院行って回復した方がいいんだろうけど、それすらもメンドクサイ。

 

「……もう寝よ」

 まだ外は明るいようだったが、ベッドに潜り込んだ。

 このサイコロ世界の太陽ってどうなってるのかな? サイコロの中心にあって沈みようがなさそうなんだけど。

 夜はちゃんとあったよなあ。

 まあいいか、後で考えれば。

 

 

「玩具で遊んでいるなんてよほど死にたいらしいわね」

 受け取ったのは相変わらずの柔らかい足の感触とそんな冷たいお言葉。

 またこの夢か。

「あれは実験だってば」

 いまだ低いテンションの俺。瞼を開けるのもおっくうで姿も見ずに言いわけする。

「実験?」

「うん。俺の固有スキル、成現の実験。GPがなくて成功しなかったけどさ、上手くいってたらプラモが動いたんだよ」

 動いてたらモチベももうちょい維持できたのになあ。

 

「あの玩具を動かそうとしていたのね。……ふむ。それは私にも使えるのかしら?」

「え?」

「試しなさい」

 ぬいぐるみにか。最初に成功してるのがコンバットさんのプラモだったから、プラモにしか試してなかったけど、プラモ限定ってことでもないのかもしれない。

 こうやって夢に出てくるぐらいだから、ぬいぐるみにもEPはかなり貯まっているのだろう。

 

「でもさあ、ぬいぐるみが動いてもねえ」

 ゾンビには勝てそうにない。

 まあ、小さいプラモが動いてもゾンビに勝てるかはわからんけどさ。

「ほう。ならばそのぬいぐるみの力、試してみましょうか?」

 ……また殺気ですか。

 EPが少ないせいかビビるのも面倒だ。恐怖って本能的なものじゃないのかな?

 それすらも優先度が下がるってEP減少ってかなりやばいのかも。

 

「……」

 彼女は黙ってしまった。俺の返答待ち?

「…………」

 うう、殺気よりもこの持たない間の方が辛い。仕方ないか。

「いいけど、結局GP不足で失敗すると思う」

「資金不足? 余計なものを処分してでも稼ぎなさい」

 むう。

 涼酒君もアイテム売ればGP入手できるって言ってたけどさ。

 何を売ればいいんだか。

 今持ってる物を売っちゃうと後で後悔しそうなんだよなあ。

 

「余計なものって言われても、必要なものばっかりで……また買いなおす羽目になるかと」

「また買えるのならばいいじゃない。一時的に手放すだけよ」

 だって倍額だよ。一時的って言うけどさ。

 うん?

 一時的?

 

 涼酒君はさっきなんて言ってた?

 ……効果が長く続くのはGP消費で、一時的なのはMP消費みたいなことを言ってなかったっけ?

 MPか。コンカでメール送るぐらいしか使ってないけど俺にもちゃんとある。

 やってみるか。

「ちょっと実験したいことができた。試してみよう」

 

 

 寝ていたのはほんの三十分ぐらいだろうか。

 目が覚めた俺は落ち込んだ気分が幾分かよくなっていた。

 睡眠が効いたのかな?

 コンカで確認するとEP現在値が少し回復している。……最大値も増えている?

 

 まあそっちは後で調べよう。

 今は忘れないうちに固有スキルがMPで代用できるか試すのが先だ。

 華琳ぬいぐるみを両手で高く掲げる。

「GPのかわりにMPで成現!!」

 ちょっと力んじゃって叫んでしまった。

 そのかいがあったのか、チラリと見たコンカには『MPで成現を使用しますか?』の表示。

 さらに『→ 真・恋姫†無双ぬいぐるみ曹操』までも。

 もちろん、はいと強く念じた。

 

「ひえっ!?」

 ぬいぐるみが急に重くなった。

 重くなっただけじゃない。大きくなった。

 姿もぬいぐるみじゃなくて人間の少女に、それもゲームに出てきた通りの美少女に変わった!

 驚いて掲げていた両手が固まってしまい、ぬいぐるみから変身した少女が俺の上に落ちてくる。

 衝撃に備えてぎゅっと目を閉じた。

 

 ……うん。ぬいぐるみが美少女に変わった。

 

 ほんの一瞬だけ。

 時間にしたら一秒にも満たないだろう。

 目を閉じた俺の顔に落ちてきたのは元のぬいぐるみ。受けたのは衝撃ではなく柔らかい感触だけだった。

 

 コンカを確認したら満タンだったMPがゼロになっている。

 MP消費だと一時的だとはわかっていたけどさ……。

 消費量半端ネェ。

 

 というかさ、ぬいぐるみが動くんじゃなくて美少女になっちゃうって、どういうこと?

 俺はなにか根本的なとこで勘違いをしてたのかもしれない……。

 

 


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