真・恋姫†有双……になるはずが(仮)   作:生甘蕉

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40話 回らない

「それでは煌一君、この子を元に戻して下さい」

 手にしたぬいぐるみをずいっと俺に寄せてくるワルテナ。

 北郷一刀を俺が?

 漢ルートだったとはいえ、萌将伝では50人超えのハーレム主人公。嫁さんを寝取られたくないから、できればそのままにしておきたいんだけど。

 救出した恋姫†無双ぬいぐるみたちの分もMPを残しておかなきゃいけないし。

 

「コスト分のGPは支払いますわ」

 俺の心を読まれたか。

 精神防壁のスキルをまず教えてもらわないと困るな。

 俺の好みからは多少外れる爆乳さんながらも美しい処女神だ。えっちな妄想しちゃうかもしれないし、それがばれたら気まずい。

「まあ、残念ですわ」

 気まずい……。

 きっと俺は茹でダコのような顔になっているはずだ。

 

「コストだけではなく、お礼もいたしますわ」

「……なぜそこまで彼を? そりゃイケメン君だけど、能力はそんなに高くないはずだよ」

 女の子をおとすスキルは高いだろうけど。

「このままでしたら、この子は道具にされてしまいますわ」

「道具?」

「ええ。事情聴取のために。ぬいぐるみのままでは会話ができませんから適当な喋る道具(インテリジェントアイテム)にされてしまうでしょう」

 一刀だからって剣か刀にされそうだな。

 さすがにそれは可哀想かもしれない。

 

「元に戻っていればそんなことはないでしょう。ですから、お願いしますわ」

 この女神は人間を道具扱いしないの?

 俺、この女神の世界に産まれればよかったかも。

 ……魔族との戦いで無くなって、今は腐女神だっけ。

「も、元に戻すのはしょうがないけど……」

 けど、寝取られを防ぐために実験させてもらうけど、いいの?

 嫁さんたちの手前、口に出すのはカッコ悪いから言わないけど、心読んでるんだよね? それでもいいの?

 

「お願いしますわ」

 にっこりと後光の輝きそうな微笑みを見せる女神様。

 俺と視線が合うとわずかに頷く。

 なら、やるしかないか。

 

 まずはEP注入だな。いや、その前に俺1人にしてもらうか。

 男のぬいぐるみを手に妄想しているのは見られたくない。

 

 空いてる部屋を借りて1人になり、ビニフォンで追加項目を確認しながら妄想する。

 そう。俺がやる実験は設定改変。

 俺の固有スキル『成現』は一度(ひとたび)成功したら、その後は設定変更はできない。

 けれど、初回に限り設定改変はできる。だから、あとからでも改変したいことを追加できるように空き項目(スロット)を用意するようにしてる。

 

 恋姫†無双ぬいぐるみは、人間が何らかの方法で永続的にぬいぐるみにされているらしい。

 最初から成現に必要な(EP)に満たされている。だから俺がEPを籠める必要はない。

 けれど元々は人間でも、成現するのは初めてだから設定改変ができるかもしれない。

 変更する設定は彼の嗜好。

 ごめん。人間に戻してあげるんだから多少は許してね。

 

 EPを注入し始めて数分。Piという電子音とともにビニフォンの画面に表示が現れた。上手く行くのかな?

『EP注入

 人妻や恋人のいる女性はアウトオブ眼中。絶対に欲情しない』

 よっしゃ! これで寝取られを防げる!

 人妻は駄目でしょ、やっぱりさ。

 ……ついでにもうちょい追加しておくか。俺と好みがカブらないように。

 EPを消耗したせいで不安になってきたからか、改変項目を増やしてしまう俺。

『EP注入

 熟女超大好き』

 これでバッチリだろう。元々熟女にも手を出している主人公だから問題もあるまい。

 これだけじゃ可愛いそうだから、ちゃんと空きスロットをいくつか追加して、と。

 

 ワルテナたちのところに戻り、確認してもらう。

 彼女たちは相変わらず会場の一角で談笑していた。

 なにを話していたんだろう?

 まさか俺の悪口?

 ……EP減ってるからネガティブ思考になるなあ。

 

「成現コスト、こんなになったけどいい?」

 この額じゃGP貰ってからじゃないと成現できないね。

「かまいませんわ」

 コンカを操作して、俺にGPを譲渡するワルテナ。

 すぐに払ってくれるなんてさすがだなあ。かなりの額なのに。

 ……設定改変したから余計に高くなったはずだし。

 

 ビニフォンで入金を確認して成現を行う。

 MPではなく、GPで成現なので呪文も必要ない。

「成現!」

 音もなく1体のぬいぐるみが消え、1人の少年が現れた。

 

「ふーん、こうやって人形がヨーコもどきになったんだな」

 感心するカミナ。

「そりゃ女の子が多いわけだ」

 うんうんと納得するミシェルや他の面の男性陣。

「無茶苦茶なレアスキルじゃないですか!」

 驚愕する瀬良さん。

 むう。俺の能力って秘匿しといた方がよかったかな?

 ……まあ、鑑定スキルや読心でバレるからいいか。

 

「……動ける? 戻った?」

 自分の身体を確認する北郷君。

 それからキョロキョロとあたりを見回す。

「久しぶりね、北郷」

「曹操?」

 ああ、華琳とは面識があるんだっけ?

 真名はもらってないみたいだ。よかった!

 

「人形にされていた時でも意識はあったはずよ。多少は状況をわかっているでしょう?」

「あ、ああ。麗羽たちは無事なのか?」

 うん。やっぱりこの北郷君は華琳たちと同じ世界の北郷君みたいだな。

 外史って平行世界の多い恋姫†無双だけに、別のルートの北郷君かも? 魏ルートの北郷一刀かも? って非常に不安だったけど一安心。

「まだ人形のままだけど助け出してはいるわ。私の夫が」

「お、夫!?」

 またキョロキョロする北郷君。

 視線がミシェルやカミナたちに向かう。

 

「そっちじゃないわ。……煌一」

 華琳に促されて自己紹介。

「華琳たちの夫、天井煌一だ」

 ちゃんと真名もらってるもんね、とアピールする俺。

「え、ええと、俺を元に戻してくれた人ですよね?」

 それはわかっているのか。

 洞察力はあるんだよな。呉ルートだと軍師扱いだし。

 

「ありがとうございました。北郷一刀です。よろしく」

 彼が右手を差し出してきたので握手しようとしたら、華琳に止められた。

「それは、北郷の新しい飼い主が先よ」

「ワルテナですわ」

 差し出しされた手を受け取る北郷君。

 あんな美女から握手を求められて動じずにすぐにできるってすごいなあ。俺だったらビビっちゃうって。

 

「……元の場所? これで契約したってことなのか?」

 あ、そうか。

 さっきあのまま俺が握手してたらワルテナより先に契約空間入りしちゃったかもしれないのか。

 北郷君と契約する気はないとはいえ、説明せずにすんでよかった。さすがは俺の嫁!

 

「ええ。一刀君は私のファミリアですわ」

「弟分が増えやがったか」

「ったく、なんですぐに兄貴分になりたがるかねえ」

 カミナとミシェルが北郷君の前に出てくる。

「俺はカミナだ。グレン団のリーダーだ。よろしくな、新入り」

「だからさ、うちの小隊はそんな名前じゃないって言ってるだろ。……俺はミハエル・ブラン。俺もカミナも君と同じく女神のファミリアなんだ」

「よろしく」

 自己紹介する2人と北郷君をにこやかに見ているワルテナ。

 もしかしたらもう、彼女の脳内ではかけ算が始まっているのかもしれない。……さすがにそこまで腐壊(ふかい)は進んでないかな?

 う! ワルテナがこっちを見てニヤリってするし。

 ……いや、あの笑いは『にやそ』かもしれん。恐ろしい女神様だ。

 早く精神防壁(ATフィールド)下さい。俺の精神が汚染されそうとです。

 

 

「くぅー、やっと飲めたビールは美味いねー」

 EP低下で馬鹿な考えに歯止めがきかくなりそうだった俺は、回復のためという言いわけを手に入れ、やっとアルコールを摂取。

 北郷君も戻ったし、もういいよね。

「夕食もここで済ますつもりか?」

 梓がジト目でこっちを見てる。

 いいじゃないか。今日はなんか精神的に疲労困憊です。

 

「いいなー。私も撤収の仕事がなければ飲めるのにー」

 瀬良さんが愚痴る。

「事情聴取はいいんですか?」

「干吉君と左慈君という2人が怪しいということはわかりましたし、今日はどこも交流戦で忙しいので後日になりますね。北郷君ももう少し落ち着いてからの方がいいでしょう」

 そういうものか。

 まあ、事情聴取って心を読めるやつからしたら、相手は落ち着いていた方がいいかもしれないな。きっとそういうスキル持ちがするんだろうし。

 

「今回はいつになく賞品の大盤振る舞いでしたわね?」

 瀬良さんに質問したのはワルテナ。

 やっぱりそうなのか?

 剣士の話じゃ今までの交流戦だと、1つの試合で勝利してもらえる賞品も1つ。負けたら参加賞のみ。優勝してさらに賞金が貰えるぐらいだったらしいけど。

 今回は、競技の景品が複数貰えた上に各順位ごとに賞金が出ている。

 

「人気取りですよ。ほら、こないだ本部の上層部が変わったじゃないですか」

「最近活発化している魔族に対抗するため、でしたわね」

 そんな話があったのか。

 剣士は……知らなかったろうなあ。新聞もとってなかったし。

 

「名目上は魔族対策のために、強化してもらおうと賞品が多目になっています」

 でも、本当は人気取りが理由と。

「ですから、あのコンビニエンスフォンには上層部もとびつくと思います」

「けどさ、あの程度、神様なら創れそうじゃない?」

 神様なんだしさ。

「開発部には念話を使える方が多いので、通信関係は軽視されているんです」

 だから固定電話しかないのか。

「なら、ビニフォンもいらないんじゃない?」

「いえ、念話中ってはたから見ると危ない人に見えると不満な使徒さんやファミリアさんも多くて」

 ああ。相手もいないのにブツブツ言ってる人か。

 声に出さないでポーカーフェイスで会話しなくちゃいけないのか。慣れがいるかな?

 

「それに、念話は相手によってはこちらが応じなくても一方的に聞かされることもあって」

 強制されて、頭の中に声が聞こえるのは嫌だなあ。

「あれなら、忙しくて電話に出れなかったと言いわけもできますし」

「留守録機能もあるよ」

「助かります」

 なんだか、使うのは使徒やファミリアじゃなくて運営の方な気がしてきた。それも現場で働く下っ端の。

 

「もちろん音楽再生もあるんだろ?」

 ミシェルに指摘されて、適当に曲を流す。

「突撃ラブハート? あんたも隊長と同じ趣味か」

「いい歌じゃねえか」

 うん。入ってるのはアニソンばっかだし。

 

「たしかにほしいかも」

 操作するのを覗いてるチ子たん。

 この娘、エルフじゃなかったらロリ扱いされそうだよね。

「チ子たん……ふふっ」

 ツボに入ったのかふき出してしまうワルテナ。

「チックウィードさんがチ子たん……ふふふふふふ」

 俺内部の愛称をバラすな。

 ほら、チ子たんがワルテナを睨んでるじゃないか。

 

「トラウマソングみたいな呼び方は止めて!」

「なんや、あんたもチコタン知っとるんか?」

 ゆり子とともにセイバーライオンに給仕、というか餌付け中だった智子がそれを中断して聞く。

 トラウマソングってなんだろう?

「まあね……でも別に前世の名前も違うし、交通事故で死んだわけじゃないから!」

 チ子たんも転生してエルフになったんだっけ。

 

「あなたは関西の子なのね」

「私は神戸や」

「そう……」

 むう。寂しそうな顔になっちゃったな。前世のことを思い出したのかも。

 転生したんじゃ元の世界には戻れないだろうしなあ。

 ……俺も戻るつもりはないけど。

 

「時々むしょうにたこ焼きが食べたくなる時があるわ」

 屋台で買ったのだろう、じっと手元のたこ焼きを見つめるチ子ちゃん。

 関西だからたこ焼きってネタは安直だって怒るんじゃないの?

「1面や担当世界にはないの?」

「エルフは動物性のはあんまとらないからね。担当世界にも残念ながらないよ」

 ダイコさん、イカ焼きを頬張りつつ言われてもあんまり説得力ないんですが。

「あ、セイバーライオンは蛸が嫌いだからあげないでね」

 たこ焼きは食べたんだっけ? 覚えてないなあ。

 

「たこ焼きか。張遼と李典も好きそうだな」

「あの2人? たしかに智子と口調が似てる気がするわね」

「蛸ですか? そうですわね。屋台もいいですけれど、夕食なら別のところで食べません?」

 そう提案するワルテナ。

 

「この面にはいいお寿司屋さんがあるんですわ。もちろんオゴりますわ」

「いいのか?」

「寿司なんて何年振りかのう」

 すかさず割り込んでくるヘンビットと十三。

「寿司? そんな高そうな」

 この面はなんかバブル期っぽい気がして値段も強気そうで怖い。

「お気になさらず。私たちが今回の交流戦に総合優勝したのと、一刀君加入のお祝いですわ!」

 女神の羽振りのよさもバブルっぽいかも。

 あと、総合優勝は2面だったのか。宝珠すくいも2面が1位だったのかな。

 

「花火はいいの?」

「そんなのより寿司だよ寿司!」

 ダイコたちに押し通されて、花火は諦めた。

 このサイコロ世界で花火なんかしたら他の面からはどう見えるんだろう?

 マサムネたちに録画しといてもらおうかな。

 

 

 浴衣から着替えて、寿司屋に向かう使徒とファミリアたち。

「いいなー、お寿司いいなー……」

 仕事が残ってる瀬良さんが指をくわえて見送ってくれた。

 今度会う機会があったら、ちらし寿司でも差し入れてあげよう。

 

「やっぱり回らない寿司屋だ……」

 何年振りかになる寿司屋にビビる俺。寿司食う金があったらプラモに回してたし。

「高そうなとこだなあ」

「時価っていくらなんやろ」

 梓や智子も落ち着かない様子。

 

「華琳たちは、生魚、平気?」

 そういえば、まだお刺身試してもらってなかったな。

「ちゃんと食べられるものならだいじょうぶよ」

「ええ。平気よ」

「刺身なら食べたことがあるぞ」

 ヨーコとレーティアもだいじょうぶそうか。

 

 常連なのか、ほぼ貸切状態に文句も言わない店主。

 適当に席に着いたところで、乾杯の音頭をとる女神。

「それでは、私たちの総合優勝と、一刀君の加入。それに、新たな友情を祝して……乾杯!」

「かんぱーい!」

 

 華琳が気になるというので、俺たちはワルテナと同じくカウンター席についてしまった。

 自分で金を払わないでいいというのにすげえ緊張する。

「お好きなものを頼んでくださいね」

 そう言われても俺みたいな小市民には無難にセットメニューを頼むしかできないって。

 

「あ、この子のはサビ抜きでお願いします」

 華琳は辛いの苦手だしね。

「私のもサビ抜きで頼むぞ」

 クランもか。

「錆び?」

「山葵のこと。香りがいいんだけど辛いから」

「そう」

 華琳はすぐに納得したようだったが、空気を読めない剣士も同調してしまった。

「そうぜよ。ワシのもサビ抜きで頼むぜよ。子供扱いされてもかまわん。ワサビは苦手ぜよ」

 あ、お茶を飲んでいた華琳が固まってしまった。

 

「サビ抜きだと子供扱いなの?」

「まあ、大人の味ってことだな」

 梓! なんでそう挑発するかな?

 いつもの仕返し?

 

「わ、私のサビ抜きはやっぱり……」

 華琳が言いかけたところで、サビ抜き分から先にきてしまった。

「おおっ、これはうまいぜよ!」

 即座に手づかみで堪能する剣士。

 ああっ、醤油をあんなにシャリに……。

 

「寿司は手づかみの方が正しいって言われることもあるよな」

 サビ抜きから話題を変えよう。

「そうなの?」

「その方が粋だって言う人もいれば、不衛生だって嫌う人もいる。結局はどっちでもいいらしいけどね」

「お待ちっ」

 俺たちの分もきたので、食べ方を華琳たちに教える。

 剣士を見てたら、俺は箸で食べる方を選ぶことにした。

 

「こう、シャリじゃなくてネタの方に醤油をつけるんだ。その方がシャリが崩れにくくもなるしね」

 解説しながら口に運ぶ。

 うん。久しぶりの寿司だということを抜きにしても、かなり美味い。

 シャリの味も握り具合も絶妙の加減だ。

 値段も高そうだな。

「シャリ?」

「ご飯のことだよ。酢飯にされて握られて、ネタが乗っている。これが握り寿司。こっちの海苔で巻かれているのが海苔巻き」

「魚だけではないのね」

「うん。まあ、食べてみてよ。日本を代表する料理の1つなんだから」

 寿司初体験の嫁さんたちがチャレンジする。

 みんな箸を使うのか。剣士のせいだなこれは。

 見回せば、カミナ、ダイコ、十三は手づかみで食べていた。なんか納得。

 ゆり子の方は智子と柔志郎が面倒見ているようで、あっちはあっちで楽しそうにやっている。

 

「……美味しい」

「そうでしょう。このお店を選んだかいがありましたわ」

 嬉しそうにワルテナが微笑む。

 ちなみに彼女の服装は体の線を強調したボディコン。まさにバブルレディ。

 ……ボディコン爆乳美女か。神通棍が似合うかもしれない。

 

「っ! これがワサビ? きくわね……でも、美味しいわ」

「う、うむ。これのおかげで生魚の匂いも中和されているのだ」

 ワサビ初体験の嫁さんたち。涙目になりながらも好評のようだ。

 あ、レーティアは刺身なら経験済みらしいからワサビも知ってたのか。

 

「な、泣くほど辛いの?」

「唐辛子とは違う辛さなんだよ。ツンと鼻に抜けるんだ」

 中国だとワサビってどうなんだっけ?

「食べてみりゃいいでしょ」

 梓がずいっと寿司下駄ごと海苔巻きを華琳にすすめる。

 これはワサビ巻きじゃないか。いつの間に頼んだんだ?

 

「梓、さすがにこれは駄目でしょ」

 かわりに俺が受け取ってつまむ。

「くぅーっ! きくー」

 辛い。ツンとどころかツーーン! とくる。泣ける!

 でも美味い。

「どれ」

 好奇心からレーティアも挑戦。

 そして落涙。

「こ、これは……ききすぎる。美味しいけど……」

「だろ」

 梓も頬張り、鼻をおさえる。

「こ、この刺激が大人の味だよ」

 泣きながら大人言われてもね。

 でも、それを気にしたのかチラチラとワサビ巻きを見る華琳。

 無茶なことをしないように、残さずに俺が食べてしまった。

 ーーっ。……泣けるなあ。

 

「あ……」

「ワサビが気になるなら俺のを食べてみて。甘エビあたりどう?」

 恐る恐るといった感じで箸をのばす華琳。ゆっくりと口へ。そしてすぐにお茶。

「……た、たしかに刺激的ね……」

 飲み込んでから涙目でそう言うのがやっとだったようだ。

 うん。いい。涙目の可愛い嫁さんたちを肴に酒がすすむ。

 

「……これは皆にも食べさせたいわね」

「そうだね。早く元に戻してあげたいな。住宅環境なんとかしてさ」

 魏のメンツが揃ったら、華琳と別れさせようとしそうでかなり不安ではある。

 でも、約束したし、華琳も喜ぶだろうからなんとかせねば。

 

 

「麗羽たちのこと、よろしくお願いします」

 別れ際に北郷君がそう頼んできた。

「うん。まかせて北郷君」

「一刀でいいですよ」

「一刀君も大変だろうけど頑張ってね」

 俺とは別の意味で不安な神様だからさ。

 握手して俺たちは別れた。

 

「たっだいまー」

「おかえりなさい隊長殿」

 いい気分で戻ってきた俺をコンバットさんが敬礼でむかえてくれる。

 あれ? いつの間に俺、自分の部屋に戻ってきたんだろう? 記憶が飛ぶほど飲むなんて久しぶりだな。

「眠い……」

 なんかもういい感じにできあがってしまった。

 交流戦や左慈戦の反省会、入手した景品の確認等もしたいけど、今日はもう無理。

 もう寝ます!

 風呂にも入らずに俺はベッドへと潜り込むと睡魔に従った。

 

 

 ……ええと、どういう状況?

 気がついたら、布団で寝る俺を覗き込む複数のぬいぐるみたち。

「起きましたか?」

 まわりに何もないってことは、ここは契約空間もどきか。

 でも、なんでこんなに恋姫†無双ぬいぐるみが? なんか全員いるようなんですけど?

 俺が寝る時、ぬいぐるみなかったよね?

 

「どうなってるの?」

「曹操が煌一殿の寝台に我らを並べたのだ」

 愛紗が教えてくれた。

「俺のベッドに大量のぬいぐるみ? ……あまり見られたくない光景だ」

 おっさんがぬいぐるみに囲まれて寝てるなんて。

「煌一さんの隣には曹操も半裸で寝ているぞ」

 ぬいぐるみなのに赤い顔の蓮華。

 今夜は華琳の当番だったっけ。起こしてくれればよかったのに。

 ……半裸か。どんなのなんだろう? すごく見たいんですが。

 

 あっ! 華佗もいるのか?

 俺以外の(ヤロー)に華琳の半裸なんて見せたくないのに!

 たぶんあいつも漢ルートだろうから華琳の裸を見てるはずだし……。

 おや、いないな?

「華佗は?」

「華佗は別の銅像の所に置かれているわ」

 両さんのとこか。

 よかった。嫁さんの部屋でもないなら安心だ。

 

「貴様! 華琳さまがあんなに起こそうとしたのにイビキばかりかいて起きないとは、どういうつもりだ!」

 蝶眼帯のぬいぐるみ、これは夏侯惇か。

 ……俺が起きなかったのか。そんなに酔っていたのか。

 怒られるだろうなあ、明日。

 

「それよりも! こんな男が華琳さまの夫ってどういうことよ!」

 このネコミミぬいぐるみは荀彧か。

 

 ……頭が痛い。

 二日酔いだけじゃない。

 説明するのが大変、って意味で。

 

 あ、ちょっと離れたとこにぬいぐるみじゃないのがいるね。

 あれは袁紹?

 元に1回戻したから、ここなら人間でいられる。でも、なんであんなとこに?

 

 ……はっ。そうか。俺、今眼鏡外しちゃってるよ!

 女神の呪いが発動しちゃったのか。

 だから俺のそばにいるのも嫌だと。

 

 はあ。

 頭痛が痛いです……。

 

 




頭痛が痛いは誤字じゃないです

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