あっぱれ! 天下御免。
恋姫†無双のメーカーの作品。
恋姫シリーズの次に発売されたのだが、不発との見方をされることが多い残念な作品。
恋姫シリーズでは合計で100巻以上を超えている4コマ、アンソロ漫画が1巻しか発売されていない、というのが世間の評価の低さを表してるといえよう。
Webゲームも1年と持たずに終了しちゃったらしいし……。
……ゾンビ世界にならなくても、たしかに救済が必要な世界だったのかもしれない。
ロリ率もそこそこでヒロインは全処女という、俺にとってはそこまでハズレだった気はしないゲームだった。
うん。ファンディスクもちゃんと買ったし。
ゲームの内容は、人工島に設立された学園都市、大江戸学園が舞台で、時代劇をモチーフとしたヒロインが出てくるギャルゲー。
時代劇のパロディっぽいのがメインで学生生活はほとんどおまけだった気がする。
……あれ? あんまりおぼえてないや。
智子が電話で言っていた柳宮十兵衛は、隻眼で2刀流。学園最強の剣術指南役で……生徒だったか先生だったか思い出せないな。
実は主人公の姉で攻略ルートはないが、妄想によるエロシーンがある。
大江戸学園の外で柔志郎たちと遭遇したはずだから、あっぱれ本編の話はもう終わってるのかな?
ゾンビ世界になった時点で本編通りにいかなかった可能性もあるか。
ともかく、現場へ急行しよう。
……柔志郎って、名前だけならあっぱれのキャラっぽいかもしれないな。
俺たちは設計室に駆け込んで、事情を話す。
「ララミアはあとでむかえにくるのだ」
人数の関係で、彼女はわが髑髏小隊には入れない。
基礎講習も受けていないので、連れていくのはまだ早いだろう。
ファミリア契約もしてないので、小隊の人数を考えると柔志郎と契約してもらった方がいいだろうか?
試作型ではない、現在俺たちが使ってるのと同じビニフォンをそこにいるみんなに渡した。
「連絡とれないと困るからね。ただ、それの成現時間は1週間だから」
「なるほど。1週間でこっちを完成させろというのじゃな」
試作型をスキャンした図面を持ち上げる十三。
「それは無理じゃない? あとこれ、スタッシュ空けておきたいから置いていくよ」
サンプルにと適当に持ってきた家電を全部スタッシュから取り出す。
「詳しい話も聞きたいですが、緊急事態なのですわね?」
「うん、急いでいるからもう行くね」
智子たちが心配だ。
俺たちはゾンビ世界改め、あっぱれ世界へと急行した。
「智子、無事か?」
あっぱれ世界の拠点、京成金町駅――京成カナマチ駅に到着、すぐに電話する。
智子たち、俺の嫁さん以外のチョーカーは機能限定版なので、やばくなったら俺の元に転送、な機能はついていない。つけておくべきだったか……。
「無事や。なんや柳宮さん、そう悪い人やないようや」
「そうか」
ほっと胸を撫で下ろす。
もしも捕まった柔志郎を人質にされてたら、とかろくなことを考えなかったからなあ。
……まさか、人質にされててそう言わされてるんじゃ?
一瞬不安になったが、もしそうならメールを送ってくるか。
思念操作で入力できるから、相手に怪しまれずにメールできるはずだし。
「今どこだ?」
「館山城や。ポータル開けるわ」
智子はすでにポータルのスキルを入手している。さすがわが娘!
館山ってことは千葉だよな。城なんかあったっけ?
智子が出してくれたポータルを使って、彼女たちの元へ移動した。
「なるほど。それがポータルか。便利なものだ」
ポータルの先は……茶屋?
捕まっていると言われた柔志郎も縛られているようなことはなく、仲良く茶屋のベンチに腰掛けて俺たちを出迎えてくれた。
隣に座っているのが柳宮十兵衛だろう。格好もゲームと同じ。腰には刀を2本佩いているな。
……この世界の人でも、大江戸学園以外は普通の格好なんじゃなかったっけ?
「デカルチャー! 侍!! この世界には侍が残っているのか!」
「やはりサムライなのか?」
クランとレーティアが若干興奮気味だ。
未来でも外人のイメージする日本人ってやっぱり侍か忍者なんだろうか。
すぐそばには城もある。あの城が館山城かな? そのせいで住人もあの格好をアトラクションの一環かなにかかと思っているのかもしれない。
「智子の父の天井煌一です」
十兵衛が立ち上がったので、こちらから先に名乗る。
「私は曹孟徳。煌一の妻よ」
さっきの俺のうわ言に気を使ってくれたのか、妻と名乗ってくれる華琳。思わずうるっときちゃたよ。
「あたしは天井梓。あたしも煌一の妻だよ」
「ヨーコ・リットナー。同じく煌一の妻よ」
「クラン・クラン・天井なのだ。煌一の妻なのだ」
「私はレーティア・アドルフ。煌一の妻だ」
他の嫁さんたちも次々と続く。やばい、感動のストームで俺もう泣きそう。
さすがに予想外だったのだろう、全員が妻と名乗ったのには十兵衛も驚いたようだ。
ある意味、ナイス先制攻撃だったのかもしれない。……こんな美少女たちを何人も嫁にしてるおっさんって、俺のイメージが悪くなったかもしれないけどさ。
「そ、そうか。私は柳宮十兵衛」
「十兵衛ちゃんすっげえ強いッスよ。オレたちを見つけただけじゃなくて、逃がしてくれなかったっス」
あっぱれでも最強っぽいもんなあ。
「逃げるだけなら、空を飛べばよかったのだ」
「あ」
天を指差すレーティアの指摘で、それは気づかなかったと落ち込む柔志郎。
人目につくところでは箒で飛ぶのを思いつかなかったのだろうか。同じ状況だったら俺もちょっと躊躇したな。
「それでも捕まったかもしれないよ」
「私は空は飛べんよ」
謙遜する学園最強の剣術指南役。そう言うけど、攻撃が届くうちに箒を破壊されそう。
無茶苦茶に能力高そうだからね。華琳の鑑定結果はあとで聞かせてもらおう。
「で、俺たちを捕まえてどうするつもり?」
「トウキョウを占拠している妖怪たちの仲間と思ったがどうやら違ったようだ」
そうか。魔人の仲間って思ったのか。
「やつらって、ゾンビタウンの外に出てくることあるの?」
「ゾンビタウン……ああ、決まって満月の夜に支配領域からゾンビを引き連れてやってくる。夜が明ければ支配領域へと戻っていく。たとえ守備隊を全滅させてもな」
「守備隊がいなかったら?」
「街が襲われるだけだ」
むう。そんなことになっていたのか。
「ゾンビの経験値稼ぎッスかねえ?」
「おそらくな。骸骨を作りたいのだろうよ」
ゾンビがスケルトンに進化することまで知っているのか。
ゾンビタウンをつくったやつの目的はそれっぽいからなあ。他に本当の目的があるかもしれないけどさ。
「……そのゾンビを引き連れてくるやつと勘違いしちゃったってこと? 俺の娘たちを?」
「色々と不自然だったので気になった」
あんたの格好の方が不自然です。
「絶滅したはずのニホンオオカミを飼っているようだし、それを誰も気にしていない」
「カシオペアを狼って気づくのはそういないと思うッス」
「そうか?」
変な犬で通用しちゃうんじゃないか?
好物はドッグフードだし。
「隠形の術でも使っているのか、時々、妙に影が薄くなる。突然、現れたり消えたりしている様子が監視カメラにも映っていた」
「買い物する時は隠形スキル解いちゃってるッスからねえ」
隠形したままじゃ買い物や聞き込みもできないか。これは仕方ない。注意点としてよく覚えておくことにしよう。
「偶然見つけたの? それともずっと監視していた?」
監視カメラってことは、今日見つけてすぐに動いたってことではなさそう。
「数日前だ。満月の戦いのために増援として呼ばれ、その時に彼女たちの話を聞いた。以来、気になって調査していた」
「満月の戦いって、やつらと戦ったのか?」
ゾンビはともかく、魔族相手には神の祝福がないとダメージが通らないんじゃなかった?
「ああ」
言葉少なく答える十兵衛。もしかしたら犠牲者も多かったのかもしれない。
「よく生きていたな。ゾンビだけだったのか?」
「いや、泣き女が2体ついていた。あれの叫びにはまいるよ」
ああ、状態異常を引き起こす精神攻撃らしいからな。
「泣き女や首なし騎士は、斬れないしな」
斬れないって、攻撃自体は当てたことあるのね。
やっぱり飛んでる相手でも攻撃できるんじゃん。
「たしか、使徒やファミリアじゃないとダメージを与えられないッス。オレはこないだ、バンシーを1人やっつけたッスよ!」
その情報は秘密にしといた方がよかったんじゃないかなあ。
「なんと。……もしや北アヤセ駅での戦いか?」
「よく知ってるね。人工衛星で監視でもしていた?」
「そうだ。やつらの攻撃に備えて、監視は怠っていない」
魔族側は隠形なんて使ってないのかな? それでカメラに映って、北綾瀬駅での攻防も見られていたのかも。
その前にも大きな火災をおこしちゃったりしてるから、要注意な場所としてマークされていた可能性もあるか。
「柔志郎たちは必ず電車を使うようなので見つけることは楽だった。改札では必ず姿を現していたので」
「無賃乗車は駄目ッス!」
柔志郎の趣味のせいで見つかったのか。
……人がいないように見えるのに、改札機が反応したら、それはそれでホラーだけどさ。
「使徒とファミリアとはいったい?」
「ええと……ちょっと待ってね、確認とるから」
ビニフォンで女神ワルテナに連絡する。渡しておいてよかったなあ。
うちの駄神だと聞いてもあてにならないし。
「使徒って現地の人にばれちゃってもいいんですか?」
『あらあら。かまいませんわ。ただ、ばれた後は神の評判を落とさないように心がけて下さいですわ』
「そんなもんですか」
『そんなもんですわ』
十兵衛も聞いているので長話もできずに、それだけ聞くと礼を言って電話を切る。
むう。別に隠す必要はないのか。
でも、使徒だってばれて現地の人に利用されるもの避けたい気がするんだけど。
能力を探るためにって、解剖されたりするのも嫌だし。
「ええと、確認とれたので説明するね。突拍子もない話だけど笑わないで聞いてね」
前置きしておかないと、危ない人って思われそうな話だもんな。
「聞こう。なに、突拍子もない話にはなれているさ」
女の子なのにかっこいいなあ。男前じゃん。
「使徒ってのは、神の使徒。使徒と契約しているのがファミリア。どっちも世界の救済を目指しているんだ」
うん。いきなり俺だったら信じない話になっちゃった。
「この中だとオレとアニキが使徒で残りはファミリアッス」
そこまで説明しちゃう? まあいいいか。
柔志郎がバンシーをしとめたってのはもう言っちゃったし。
「世界の救済?」
「最終条件はわからないけど、とりあえずはゾンビタウンの解放と、魔族の排除かな」
それだけでもかなり大変そうだけどさ。
「魔族?」
「泣き女バンシーや、首なし騎士デュラハンたちのこと。やつらはたぶん魔族のファミリアだ。やつらにも魔人ってボスがいるはずだけど、情報もってない?」
「残念ながら。泣き女、首なし騎士とその馬車の他はゾンビと骸骨しかトウキョウでは確認されていない」
トウキョウではってことは、他の場所では別の魔族がいそうだ。
世界中で10以上の大都市がゾンビタウンになっているらしいもんなあ。
「トウキョウや他の都市をゾンビタウンにしたのは魔族のはず。俺たちはそいつらと戦っている」
「使徒はどうやってやつらを、魔族を倒せる?」
「神の祝福。……としか聞いてない。それによって俺たちの攻撃でダメージが通るらしい」
「デュ……」
「柔志郎、それはまだいいよ」
柔志郎が言いかけたことはさすがに止める。
デュラハンが硬すぎてダメージ与えられなかったってのは言う必要がない。
「ふむ。それが本当ならトウキョウ解放に協力してほしい」
「えっ? 信じるの?」
俺の方が驚いてしまった。
話だけで証拠が少なすぎるでしょ。
「信じよう。柔志郎殿や智子との追走劇、それにあなたの奥方たちの佇まいを見れば、な。先ほど見せてもらったポータルも不可思議だ」
「あれぐらいなら剣魂でできるんじゃ?」
「剣魂が使えるのは学園島内のみだ」
ああ、剣魂を構成する粒子と、制御用の電波の範囲があるんだっけ。
そうだよな。剣魂があれば、ダメージが通らなくてもゾンビたちとは戦えそうだし。
「アニキ、どうするッスか?」
このあっぱれ世界は柔志郎の担当じゃ?
まあ、年長者として義妹に頼られてるのだから応えないわけにもいかないか。
それに、協力しないって選択肢もなさそう。
ここから脱出するだけならできそうだけど、智子と柔志郎の顔は録画されちゃっているようだから今後の活動にも影響する。
協力して、有利な条件を引き出した方がお得ってもんでしょ。
「俺たちの身の安全を保障できる?」
「……約束しよう」
十兵衛との約束であって、他との約束じゃないだろうな。連絡とかしてないし。
十兵衛以上の能力の人間はそうはいないだろうから、やばくなっても逃げられるかな?
「神の使徒相手にいやらしい話だが、タダとは言わない。報酬も約束する」
「報酬か」
「い、いやらしい報酬?」
違うでしょ梓……。華琳も違うってわかってるのに目を輝かせないの。
現金かな。それならこっちでも生活できるな。
ふむ。用心すればなんとかなるかな? 強い娘が多いし。
「5、60人が住むとこを用意……いや、生活を面倒見ることができる?」
「それって」
華琳が俺を見つめる。
こっちでみんなに暮らしてもらえれば、全員を元に戻せるし、女神に借りをつくらないですむ。
こっそりと暮らしてもらおうとしても目立ちそうだから、それは無理。
なら、協力してもらえればいい。
「それは全員が使徒かファミリアか?」
「ファミリアになる可能性のある者たち、かな? もちろん彼女たちの安全も保障してもらうけど」
無茶な注文をしてる気もする。
「その者たちの年齢は?」
「だいたいが君と同じくらいか、それより下」
あ、熟女もいたっけ。
歳のことを考えると矢が飛んできそうなので、気にしないことにしよう。
「ふむ。少し待ってくれ」
そう断って席を外す十兵衛。
今度は連絡をとるらしい。
「煌一」
「うん。みんなを戻すチャンスかもしれない」
「信用できるの?」
「彼女はね。用心するにこしたことはないけどさ」
この世界で現代知識を手に入れてもらうのは悪くないと思うし。
ゾンビタウンがなくなれば、それなりに住みやすいんじゃないだろうか。
「サンダル世界はどんなとこかまだわからないからね」
あっちで暮らすのも悪くは無いかもしれないけど不便そう。
魔法はあるらしいからなんとかなるかな?
……俺基準での考えだから、古代中国の娘たちならあっちの方がいいのかな?
「待たせた。なんとかなりそうだ」
十兵衛が戻ってきた。
「本当に?」
「ああ。なんとか学園で受け入れられそうだ」
……はい?
「学園って、大江戸学園?」
「知っておられたか」
そりゃ知ってますよ。あっぱれの舞台なんだから。
「いや、あそこって入りたくても入れない人が多いんじゃ?」
「だからこそ、保護もしやすい。外国の手も入りにくいしな」
むう。そんな理由か。
魔族と戦える使徒なんて、どこの国もほしがるか。
「学生として入ってもらえれば偽装もできよう」
「5、60人がいきなりじゃ目立つでしょ」
「このご時勢だ。どんな言いわけも立つさ」
そうなの?
10万人もの生徒がいる超マンモス校だから、それぐらい余裕なのかな?
でも、大江戸学園か……みんなの着物姿も気になるから、別にいいかな?
けどそうなると、むこうの状況も確認しないといけないな。
「今の生徒会長……生徒大将軍は誰?」
「……現在は空位だ」
となると、あっぱれ本編前か本編の途中ってこと?
ゾンビが発生しちゃってるのに攫われたの?
「
「ああ。知り合いか?」
十兵衛の隻眼が光る。
怪しまれているみたいだね、あのスパイ先生。
「いや、ちょっとね。じゃあ、君の弟さんはもう学園にいるの?」
あっぱれの主人公は田舎で暮らしてたはずだから、ゾンビにはなっていないはずだ。
「……貴公は何者だ」
十兵衛の眼光がさらに鋭くなった。
「通りすがりの使徒」
いや、通りすがりじゃないけどね。
でもさ、ゲーム通りなら学園にも色々と問題がある。
みんなが暮らしやすいようにさっさと解決しますかね。
……記憶が不確かなんで、あっぱれ、やり直そう。
まだアンインストールしてなかったはずだ。
「よろしくお願いする」
熟女と璃々ちゃん、どうしよう?
華佗もいたっけ。
そう悩みながら十兵衛と握手した時、景色が一変してしまった。
これってもしかして契約空間?
活動報告に有双の一発ネタを投稿してます