真・恋姫†有双……になるはずが(仮)   作:生甘蕉

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48話 ドキッ☆男だらけの開発部

 朝。目覚めてすぐに自分の身体を確認する。

 小さくなったり、翼が生えたりしたのが夢なんじゃないかと一縷の希望で。

 けど、やっぱり俺は小さいままだった。クランが触りたがるので、寝にくいのに出しっぱなしだった翼もやっぱり生えている。

「パターンだと、エロースと夢で対談しそうなもんだけどなあ」

 首を捻りながら、ビニフォンで最大MPの確認。

 ……おや?

 

 昨日、寝る前にチョーカーを通してみんなの成現時間を延長した時に使ったMPが気になった。

 ログを確認して、増えた分を計算してみる。

 ……うん。最大MPの増加分が減っていた。

 今までが、消費分の1.8倍は増えていたのに、1.6倍くらいに減っている。

 俺の伸びしろの上限までいってしまったのか、それとも若返ってしまった影響なのだろうか?

 

 現在の最大MPは3兆ちょい。

 心配になったので、これで足りるのか、成現に必要なMPを確認してみる。

 ぬいぐるみやフュギュアを人間にするのに、1人1秒で100MP前後。ただしセイバーライオンはその100倍、10000MP。

 1分で100×60で6,000MP。1時間は6,000×60で36万MP。1日は360,000×24で864万MP必要だ。

 

 人数の方は恋姫†無双キャラが華佗も入れると55人。

 ヨーコ、クラン、レーティア、梓、智子で5人。

 セイバーライオンは100人とすると計算しやすいか。

 

 今のところ合計で160人分として8,640,000×160で1日当たり13億8240万。

 1年分だと1,382,400,000×365で5045億7600万になる。

 あ、ディスクロンとエリザベスもいるからもっとかかるね。

 でも、1日分のMPで1年は余裕で持たせられるな。3ヶ月もすればみんなの一生分の成現時間が充填できそうだ。

 もしも最大MPの伸びが1.6倍に下がっていたとしてもこのままずっと伸び続いてくれれば、あと1ヶ月もかからないだろう。

 その時こそ本番を解禁してもらいたい!

 

 ……この身体じゃなあ。

 朝の生理現象も迫力減少中のジュニアに大きくため息。

 はやくセラヴィーに年増やしの薬作ってもらわないと……。

 

 

 朝食後、今日の予定を話し合っていると、ドワーフの十三(ドライツェン)からメールが届く。

「あいつら、徹夜したのか」

 同じくメールを受け取ったレーティア。

 4面(うち)以外の開発部の連中はずっと2面にいて開発を続けているらしい。まあ、あそこには食堂も仮眠室もシャワー室もあったから泊まるには不自由しないだろうけど。

「なになに……今日はくるなだと?」

 レーティアが声を荒げるのも無理はないだろう。やっと自分の仕事ができるって張り切っていたのだから。

 俺もメールを読み進める。

 なんでも、難航していた液晶やバッテリーに最適な素材が、3の面の経由で手に入りそうなのだが、今日はその3の面の神がくるらしい。

 3の面の神は女癖が悪いので、女性はこない方がいいとのこと。

 

「3の面って、こないだの交流戦にこなかったやつらだよな」

「ええ。海の面で水棲の者が多いとの話だったわね」

「海の神で女癖が悪い……」

 俺とレーティアは視線を合わせ、頷きあう。

 彼女もSF世界とはいえ、ギリシア神話に近い話を知っているのだろう。

 

「ワルテナに確認してみよう」

 ワルテナにメール。

『3の面の神ってどんな神?』

 すぐに返事が返ってきた。

『ドンさんですか? 海の神で女好きで助平ですわ』

 やっぱりか。

 ドンさんってことは、ポセイドーン(ポセイドン)相当の神なんだろう。

 アテナっぽいのがいたり、ポセイドンっぽいのがいたり、うちの関係者がアフロディーテっぽかったり。第666開闢の間(このサイコロ)の世界はギリシア神話の影響が大きいのかな?

 まさか、いまだ謎の5の面はハーデスやゼウスが担当じゃないだろうな。

 ……未熟神の修行用だから違うか。って、ポセイドンも修行中なの?

 その答えがワルテナからのメールの続きにあった。

『修行中の女神や使徒に手を出すのが目的で、AAAに参加しているのですわ』

 なんて神だ。もしかしたらワルテナを狙って修行を始めたのかもしれない。

 今日は絶対にうちの女の子は2面に近づけないようにしよう。

 

「ドンさんはカッコいいおっさんぜよ」

 剣士から見たらそんなもんなのかな。

 それでも、嫁さんや娘を守るために念をおしておく。

「3の面のやつとは、絶対にフレンド登録しないように。もししていたら解除するように」

「わ、わかったぜよ。ワシはフレンド登録なんてこないだやっとできたばかりなんじゃ。もちろん、ドンさんとはしてないぜよ」

 フレンド登録しちゃうと、この面にもこれるようになっちゃうからね。

 そんな危険な神にはどうあってもきてもらいたくない。

 

「私たちも今日は2面に近づくのを止めておくよ」

「頼む」

「そうなると、今日はどうする? ララミアとゆり子たちの基礎講習もすぐ終わるだろうし……」

 娘の訓練は気になるけど、ドンさん神も気になる。

「俺は2面の開発部に顔を出してくる。みんなは講習を見守ってくれ。その後は……」

「あっぱれ世界だっけ? あっちで物色してくるよ」

 梓、物色ってのはまずくないか。

 

「もうすぐ人数も増えるんだろ? いくら制服が支給されても下着類やその他色々と要りようだろう」

「そうね。着せたい下着も多いし……お金も必要になるでしょうね」

 今なんか気になるワードがあったような。……お金か。大江戸学園は独自通貨の『エン』を使用しているけど、普通の現金もあるにこしたことはないだろう。

「銀行に行けばすぐに大金入手できるんじゃないか?」

「どうッスかね? スタッシュには自分たちのもの以外の、持ち主がはっきりしてるものは入れられないッスよ」

 そんな仕様だったな。銀行支店のお金は、その銀行がまだ存続してればスタッシュには入れられなさそう。

 でも、デパートの品が入ったことを考えると、入れることもできそうな気もする。

 コンビニのATMを狙えばいいのだろうか?

 ……なんか神の使いの考えることじゃないような。

 使徒だってバレたらイメージダウンしないようにって、ワルテナにも言われてる。

「隠形は厳重にかけといてね。あの辺、注目されているようだから」

 衛星で監視でもされているのか、十兵衛も都内の動きを知っていたしね。

 俺たちが火事場泥棒をしていたと知れ渡るのはまずいだろう。

 

「だいじょうぶだ。私たちもマーキングとポータルが使える。煌一のマーカーのデータも貰っているしな」

 マーキングした場所は、同じ面の仲間や、フレンド登録したり指定した相手と共有できる。俺が行かなくても、ポータルの移動先には指定できるのだ。

 魔法使いのスキルのおかげで俺のマーキングレベルも高くなっており、マーカーの持続時間も長い。彼女たちが困ることはないか。

「なら、ビニフォンの材料用にスマホか携帯電話も多めに確保してくれないか」

「そうだな。開発部でも頑張っているけど、もう少しかかりそうだ」

 第2ロット分ももうなくなりそうだし、恋姫ぬいぐるみたちの分も必要だろう。

「それに箒とロボ掃除機もね」

 本当はプラモも頼みたいけど、以前に模型店に行った時の分もあるし、俺が直接行かないとどんなプラモがくるかわからない。

 せめて両さんがいればなあ。さっき試したけど3兆でもMPが足りなかった。

 あの人、どんだけイレギュラーな存在なんだろう。

 

「油断だけはしないでね」

「煌一こそ。ワルテナには注意するのよ」

 昨日は気絶させられたから、そう言われるのもわかるけどさ。

「今日は平気でしょ」

 なぜか嫁さんみんながため息。ちょっと傷つくなあ。

 しかも出発際に全員俺の頭をなでていくし。

 

 

「おはよう」

「おお、きたか煌一。って、お前誰だ?」

 ああ、事情を説明するの忘れてた。ワルテナ、教えといてくれなかったのか。

 

「き、貴様が話題の剣士のところの使徒か」

 十三を押しのけて、俺を睨むのはマッチョ大男。剣士よりもデカい。

 顔は髭面で半裸の中年。下はジーンズだが、上半身は裸である。

「天井煌一です。貴方は?」

「3面の神の分霊(わけみたま)だ。名は……ドンさんと呼ぶがいい」

 本名は教えてくれないのかな? 真名や、本名を知られるとまずい等なのかもしれない。

 それにしても、なんか動揺しているようにも見える。

 

「……貴様、エロ坊ではないのか?」

 ああ、俺をエロ神と間違えたのね。そんなに似てるのかな。

 俺は変身魔法を解除して、翼を見せる。

 さらにドンさんは顔色が悪くなった。

 

「理由は知らないけど、俺の中にエロ神の欠片があるらしい」

「そ、そうか」

「ドンさん、なにか知らない?」

 恐る恐るといった感じで震えながら、ドンさんの大きな手が俺の頭に触れる。

 そして数秒後、大きく息を吐いて肩の力をぬく大きなおっさん。

「わからんな。だが、貴様がエロ坊そのものではないのはわかった」

 さっきまでとは違い、にこやかな表情を見せる海神。

 なんだろう? エロ神に弱みでも握られているんだろうか。それともキューピッドのようなイタズラの被害者だったのかも。

 

「本当に煌一なのか? その姿はいったい?」

 幼くなった俺の周りに集まる開発部の男たち。男ばかり、というか男しかいなかった。

 ワルテナすらもいない。そこまでドンさんを警戒しているのだろうか。

 一刀君もいないのは、うちと同じく基礎講習を受けているのかもしれない。

「ちょっとしたワケありでね」

 こっちの事情をかいつまんで説明した。

 

「若返りの薬か。それは激レアなアイテムだな」

「ああ。エルフでも材料を集めるのは苦労するぞ」

 薬品製造はドワーフよりもエルフの得意分野なのかな?

 ヘンビットは姉がいないせいか、いつもよりもイキイキしているようだね。

 

「ここまではできておる」

 十三が試作品を見せてくれた。

 それは昔の電話の子機のようだった。液晶は無く、代わりにコンカが貼り付けられており、大きさも大きい。

「まだ通話しかできないけどね」

 ミシェルもなんだか疲れた顔している。開発部につきあって徹夜したのかな。

「それでも2日でこれってすごいじゃないか」

「そりゃ、こんだけ専門家が揃ってるんだ。当然だ」

 カミナも同様の疲れ顔。でも、こういう技術には詳しくないだろうに妙に自信ありげなのはさすがだ。

 

「ドンさんのおかげで、問題点も解決しそうなんだろ?」

「それなんだが……」

 言葉を濁すドワーフ。

「このおっさん、交換条件があるんだとよ」

 親指でドンさんを指差すカミナ。

 おっさん呼ばわりされても怒ることなく頷くドンさん。けっこうできた人なのかもしれない。

 

「交流戦で新たな美少女が参加したというから、来てみたというのにこれでは俺もやる気がおきん」

「それは、貴方の普段の行いが原因でしょう」

 つい、つっこんでしまった。

「ふふ。若いのに言うのう」

「これでも三十路ですので」

 まあ、若くなった分、怖いもの知らずな気分になってるのかもしれない。……トップレス?

 

「俺も使徒やファミリアとなる人材を探している。だが、俺のとこは海。そこで暮らせる者でないといかん」

 なるほど。スカウトするのも条件が厳しいと。

「なので、ここの女神に頼んでいる状況だ。それが済めば貴様らの要求をのもう」

「要求って素材の取引き?」

 無言で頷く十三。

 ワルテナの英霊召喚を待っているのか。それでここにいないのかな?

 

「けどさ、あんたの要求した子は無理だよ」

 ミシェルが疲れた顔なのはこのせい?

「誰を要求したの?」

「人魚姫。彼女は泡になっちゃったけど、戦死じゃない」

 ワルテナの固有スキルは戦没者じゃないと復活させられない。人魚姫は不可でしょ。

 それでみんな困った顔になってたのか。

 

「絶対に人魚姫じゃないと駄目なの?」

「いや、そこまでワガママは言わん。代わりに当てがあるのか?」

「うん。ちょっと待って」

 ワルテナに電話する。

 

「人魚姫は人魚姫でも人魚姫(マーメイド)のテティスがいるじゃない」

海闘士(マリーナ)の?』

「うん。元々ポセイドンのとこのなんだし、あの子なら戦死扱いでもいいんじゃない?」

 聖闘士星矢に出てきた海闘士。正体は魚だし、問題ないんじゃないかな。

『アニメでは死んでませんわ』

「そうだっけ? でも原作漫画だと死んでるよ」

『今、手元に漫画の方はなくて……ちょっと無理そうですわ』

 ワルテナの能力にも資料が必要って制限があるのかな?

 ……ゆり子の時はあっさりやってくれたから、女癖の悪いドンさんに渡すのが嫌なのかもしれない。

 

「ワルテナは無理そうだね」

 電話を切って報告すると、ドンさん以外のみんながため息。

「それがビニフォンか。便利なものだな」

「これの開発用にそっちの素材がほしいんだけど」

「ふむ。しかし俺もこの要求は下げるつもりはない」

 ……仕方ないか。

 手持ちのフィギュアから考えてみる。

 

「紹介してもいいけど、酷いことしない?」

「もちろん。俺は女には優しいので有名だぞ」

 本当にそうだったらこんなに警戒されないだろうに。

「無理強いしないって誓える?」

「海神の名において誓おう」

 信じるしかないか。

 俺は準備してくると断って4面本拠地(アパート)に戻り、1体のフィギュアを選んで再び開発部へ。

 

「人形ではないか」

 俺の手にあるフィギュアを見て落胆するドンさん。

「まあ見てて」

 ドンさんの見えないとこでやってもいいけど、成現時間の説明をするためにあえて眼前で固有スキルを使って見せた。

 いつもと同じく、音もなく本物になるフィギュア。

 

「こ、ここはどこでゲソ?」

「人間になった?」

「人間などではないでゲソ! イカ娘でゲソ!!」

 そう、俺が成現したのは『侵略! イカ娘』の主人公、イカ娘ちゃん。

 もしドンさんがいらないって言っても、彼女ならうちでも喜んでもらえると思う。

 

「イカ娘? 海は平気なのか?」

「海は私のホームグラウンドじゃなイカ」

 天敵も多いみたいだけどね。

「気に入った!」

 ドンさんがイカ娘の頭に触れる。

 契約空間に入れるかな?

 

「これで私がファミリアでゲソか?」

「うむ。よろしく頼むぞ」

「まかせるでゲソ!」

 契約できたか。あっさり馴染んでいるなあ。

 おっと、これを忘れていた。

 

「イカちゃん、プレゼント」

「なんでゲソ?」

 素早く彼女の首に機能限定版のチョーカーを装着。

「あれは?」

 聞いてきたドンさんに人差し指をちょいちょいと動かす。

 身長差が大きいのでかがみながら寄せてきた大きな顔に耳打ち。

「あれは彼女の生命線。見たろ、人形からあの姿にしたのを。俺のスキルが切れると、彼女は人形に戻っちゃうから」

「なんだと」

「あれがあれば、スキルの効果時間延長がしやすい」

 面や世界を超えても効くかはまだ試してないけど、ビニフォンも通じたしだいじょうぶだと思う。

 

「契約もしたようだし、素材を提供してもらえるな?」

 ミシェルの問いにマッチョなおっさんは立ち上がった。

「わかった。ただし、次からは料金は貰うぞ」

「それは当然だ」

 うん。これでこのサイコロ世界の全てで開発部参加になってきたな。あとは謎の5面か。

 

「だが、ここでは狭すぎて出せぬな」

「ならば、空いている倉庫がある」

 倉庫へと歩く途中で、ドンさんに再確認。

「あんまりイカちゃんを泣かせるようなら、延長しないからね」

「誰が泣かせるものか。というか、幼すぎるわ!」

 海神を脅そうとしたが、彼のストライクゾーンからは外れていたようだ。

 イカちゃん可愛いのになあ。

 

「ここならばいけるな」

 案内された倉庫はかなり広かった。

 天井も高く、ここならガンダムでも収容できそうだ。

「少し下がっておれ」

 みんなが下がったのを確認すると、ドンさんがスタッシュを開く。ちょっ、その穴大きすぎじゃね?

 

「でかっ!」

 出されたのは全長10メートルを超えていそうなカラフルな巨大ザメと、これまた巨大な金属色の巻貝。

 生臭いと感じないのはゾンビ相手で耐性・悪臭を手に入れているからだろう。ヘンビットなんか鼻をつまんでいるし。

「おお! これだ!!」

 鑑定したのか十三が嬉しそうに大声を出した。倉庫が大きいのであまり響かないけど、やっぱりうるさい。

 

「解体も手伝うか?」

 海神の申し出に首を横にふるドワーフ。

「現代ドワーフはモンスターの分解もお手の物だ!」

 テンション上がってるなあ。

 嬉々としてスタッシュから取り出した巨大包丁を振るうドワーフ。

 ジンベイザメよりも普通のサメをそのまま大きくしたような形の七色ザメが、見る見る解体されていく。

 

「必要なのはこの内臓だ」

 蛍光色のサメの血に塗れた十三が1メートルぐらいのこれまたパステルカラーの臓器を取り出す。

「残りは?」

「適当に持ってってくれ」

 そう言われてもね。

 食えるのかな?

 

「新鮮だが、刺身は止めておけ」

「加熱すれば食えるの?」

「ああ。人間にも毒はない」

 ならば貰っておくか。大食いさんも増えることだし。

 日本刀のような包丁を借りて適当にサメ肉を切り取ってスタッシュに収納する。

「残りどうしようか?」

「冷凍庫に入れておけばいいだろ。この工場には大きいのあるから」

 簡単にそう言えるほどの巨大な冷蔵庫があるらしい。

 なにを作るつもりで建てた工場なんだろう?

「貝の方は時間がかかるので後回しでもいいだろう」

 十三がサメの内臓と巨大貝をスタッシュにしまった。

 ドンさんといい、こいつらのスタッシュ広いなあ。俺のはやっと大型車が1台ってとこなのに。

 

「これならいい液晶が作れそうだ」

「そうか。楽しみだな」

 素材はともかく、こういうのは嫌いじゃない。プロジェクトXとかよく見てたしね。

 俺の頭には地上の星が流れ続けていたのだった。

 

 

 昼食はサメ肉をステーキにしてみた。これがなかなかイケる。

 これなら、あの巨大なヒレを切りとって巨大フカヒレを作るのもいいかもしれない。

「おいしいじゃなイカ!」

 うんうん。イカちゃんは可愛いなあ。さっきビビっていた巨大サメがそれだよ。

 ドンさんの顔も綻んでいるし。

「娘を思い出すな」

「あんた、妻子持ちか」

 ポセイドンもそうだったっけ。

 ならばとこれからのために、残り少ないビニフォンを渡しておく。

「これに娘さんの写真を入れておくこともできる」

「ほう。コンカと同じ様に思念操作ができるのか。……だがこれも時間制限があるのだろう?」

「時間を気にしないのがほしいなら、今試作中のが完成するまで待ってくれ」

「そうきたか」

 笑いながらイカちゃんの写真を撮っていくドンさん。

 一応、壊れにくいから深海でも使えるはずだけど、そこら辺もレポートしてほしいことを告げる。

「まかせておけ」

 どん! と分厚くて毛深い胸板を叩くドンさん。頼もしい。思ってたよりもいい人っぽい。

 これで女癖が悪くなきゃなあ。

 

 みんなの食いっぷりがいいのでもう少し焼こうとした瞬間、俺のビニフォンが鳴った。

 電話だ。相手は柳宮十兵衛。

 俺の声変わりに驚いていたけれど、すぐに納得してくれた。順応はやすぎ。

 彼女の話は、受け入れの準備ができたとのことだった。

 一応、前もってこちらの予定人数はメールしておいたが、問題はないとのこと。

 というか、屋敷を3つほど用意したのでこっちで分配してくれとのことだった。

 

「屋敷?」

『ああ。空き屋にしておいても犯罪者の根城にされるだけなのでな。使ってもらってかまわないよ』

 例の退学者たちが使っていた屋敷なんだろうか。

 普通の学生寮を期待してたんだけどなあ。

 もしくは長屋暮らし。冬場の寒さを嫁さんと身を寄せ合って耐えるってのも悪くないかなって。……夢見すぎ?

 まあ、せっかくなので使わせてもらうことにしよう。3つってのが運命的なのか作為的なのかはわからないけどちょうどいいしね。

 

「ありがとう。いつ行けばいいかな?」

『明日ではどうだい?』

 ゆり子とララミアの講習も終わってるだろうし、いいかな?

 船の手配をお願いして港と時刻を確認して、電話を切った。

 

 これで明日からは大江戸学園の生活が始まる。

 今日はもう帰ってあっぱれを復習するかな?

 

 


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