侵入犯である猫目の1人に素顔を見られてしまった。
しかも彼女、子住結真は華琳の小技で婚姻届にサインしてしまう。
恋姫ヒロインも全員嫁になっちゃったしさ。どうすりゃいいんだか。
「……この国じゃ関係ないから、もうほっておこうか。あとで運営にわけ話してなかったことにすればいいでしょ」
よく考えたら、この娘を巻き込む理由がない。
「煌一はそれでいいの?」
「結婚しちゃったことになってるけどさ、これは完全にだまし討ち。詐欺でしょ。可哀想だし、呪いなんか関係なく俺のこと嫌いになるでしょ」
「どういうことよ?」
「君は俺のとこじゃ嫁になっちゃったけど、ここはニホンだからそんなの気にしないでいいってこと」
ニホンの婚姻届出したわけじゃないしね。
「嘘っ! あんたが天井煌一なの? 何人もの美女と結婚してる王子様だって……」
「は? たしかに天井煌一だけど、王子様ってのはいったい?」
「小国だけど金持ちな国の王子様が側室をたくさんつれて留学してきたって聞いたんだけど」
なんで? そりゃ執行部で華琳たちが俺の妻だって名乗ってくれたけどさあ。
それからまだ数時間しかたってない。どこで話がおかしくなった?
これも策なの? と光姫ちゃんを見るが知らない、と手を振ってアピールした。
「それは勘違いだから」
「じゃあ何者なの?」
何者って、……留学生って設定なんだけど、詳しい設定まだ聞いてないしなあ。その説明もあって光姫ちゃんと十兵衛がここにきたんだろうか。
「国家機密レベルじゃぞ。聞けば後戻りはできん。それでもよいか?」
「光姫ちゃん?」
「勝手に調べられるよりは話してしまった方がよかろう」
怪盗やってるだけあって調査能力は高そうだから、黙っていてもいずればれるかも。
なら、話してもいいか。
……信じるかどうかは別にしてさ。
掃除をいったん中断してもらい、みんなを集めて事情を説明することにする。
……いくら大きい部屋といってもこの人数が集まると狭いなあ。
「感知には他のやつは引っかかっていないのだ」
感知スキルを最初っから使ってれば十兵衛と光姫ちゃん、それに結真ちゃんに俺の呪いが発動することは防げたんだよなあ。
自宅に帰ってきたと油断した。ここは
「盗聴もなさそうだよ」
いつのまにか、猫目の残り2人も増えていた。
どうやって連絡とったんだろう?
「知っておられるでしょうが、
「ボクは
結真を含めた三姉妹で怪盗猫目をやってるんだよね。
なんでこの2人まできてるの?
「えっと、ねずみやはどうしたの? 営業時間じゃないの?」
「それまでご存じなのですね。……今日は臨時休業です」
臨時休業? 人気店がそんなことしちゃっていいの?
「偽者だった校長代理の情報収集しないと不安でしょ。そしたらさ、王子様がきてるって話聞いちゃって由真姉が張りきって」
「唯!」
「まさか、由真姉が嫁入りするとは思ってなかったなあ」
「……全部聞いてたの?」
通信機越しにこちらの話が筒抜けだったっぽいな。
マジでセキュリティなんとかしないと。
「うん。もうバッチリ聞かせてもらっちゃった」
なら、華琳にイタズラされてる時に助けにきてあげればいいのに。……無理か。こっちは人数も多いし、光姫ちゃんもいるから悪いようにはしないって判断したのかな?
「どこまで聞いてるかわかんないけどね、俺の顔は呪われていて女の子が見ると、俺のことを嫌いになるんだ」
「変な呪いだねえ」
「この呪いには例外があって、家族はかからないんだ。婚姻届に名前を書いて、俺の嫁という家族になっちゃったから呪いの効果がなくなるんだよ」
はやくこんなわけのわからん
剣士がやってくれるってのはあてにしない方がいいんだろうか。
「じゃあさ、ボクたちは?」
「……義理の姉と妹ってことになるからだいじょうぶなはず」
「なら顔見せてよ」
念のために俺も感知して余計な者が紛れてないのを確認する。
あれ?
「光姫ちゃん、お付きの人は?」
「エヴァのことで動いておる。なに、十兵衛がいっしょにおればわしは安全じゃしの」
ならばいいか。
うっかり八兵衛なポジションの由佳里ちゃんならともかく、かげろうお銀担当のじごろう銀次には絶対に見られるわけにはいかない。濃いけど美形ではあるから俺の呪いが発動しかねないもんな。
今度こそ油断はしないように、ゆっくりと眼鏡を外した。
「ふ~ん。可愛い顔してるね」
「唯、平気なの?」
由真ちゃんが驚いている。そりゃ、呪われてる時に俺の顔見てるから当然か。
なんか、人外レベルのゲテモノに見えるらしいし。
「この子ならボクもお嫁さんになりたいぐらいかな。ね、結花姉?」
「そうね……い、いえ、そういう意味ではありませんよ」
ほんのりと赤くなる結花。ショタっ気あったのかな?
ショックだろうから中身はおっさんだって教えない方がいいのかも。
「ほっほっほ。国家機密と言ったであろう。婿殿の嫁になるのは覚悟が必要じゃぞ」
そんな重い覚悟を俺の嫁の条件にしないで。
それよりも俺がほしいのは愛なんだから!
「はい。由真がなにに巻き込まれたかを確認するためにこうして参上しました」
結花は大きく頭を下げる。
覚悟はあるのか。説明しないと、妹のことが余計に心配になるだろうし教えるしかないかな。
俺たちが話せる範囲で全てを話すと、十兵衛と光姫ちゃんはともかくとして、三姉妹は微妙な表情。
「にわかには信じられませんわ」
うん。やっと普通の反応が返ってきて、逆にほっとした。
信じろってのが無理があるよねえ。
「まさか北アヤセ駅の謎の炎上にからんでる人たちだったとはねえ」
唯ちゃんの発言に、今度は俺たちが驚かされる。
「知ってるの?」
「ネットじゃ有名な話だよ。行方不明の両さん銅像が動き出してやったって都市伝説になってるんだ」
都市伝説……両さんの方には俺もかかわってるし、なんか耳が痛い。
それにしてもネットで広まってるって……検索んとこの衛星写真?
「……さっき剣を出したのは剣魂じゃなくてその使徒の力だってこと?」
由真が言ってるのは華琳が七星剣を見せた時のことだろう。
スタッシュから出してたからね。
「私は使徒じゃないわ。ファミリアよ。能力的には使徒に近いらしいけど」
近いというか、確実に俺より能力高いんですが。
「みんなにも説明したとけど、ファミリアっていうのは使徒と契約することでなれる。ただし、人間止めるっぽい。せっかく元に戻ったんだから人間止めることはないと思う」
「だが、妖怪たちと戦う力は手に入るのだろう?」
やっぱり十兵衛はそのためにファミリアになるつもりか。
「あいつらは俺たちが倒す……ってのは駄目か?」
「エヴァのことで婿殿たちの力を借りてしまったからな。大江戸学園の力を示さねばならん」
事件を解決したのは留学した後だから部外者ってわけじゃないんじゃない?
あと、力を示すってのが武力な必要はない気もするんだけど。
「俺としては嫁さんたちを危険にさらすのは避けたいかな、と。……いや、もうファミリアになっている嫁さんは危険にさらしてもいいって思ってるわけじゃなくてね!」
嫁さんが増えすぎちゃって気持ちの整理が追いつかない。
この島にきたのは、嫁さんやその仲間に普通に生活してもらうためだったはずだ。
「わかってるわ。だけど煌一、あなたはもっと私たちの力を信頼すべきよ」
華琳、みんなが強いことはじゅうぶんにわかってるつもりなんだけど。
「駄神の修行に付き合わせるのは気が引ける」
「夫婦だろう、苦労だって分かち合うものなのだぞ!」
クラン、そこまで本気で夫婦だって思ってくれてるの?
「……まさか煌一、あたしたちを学園に預けてその間にトウキョウをなんとかするつもりだったんじゃないだろうな?」
ぎくっ。
もしかして華琳にもばれてて、単独行動ができないように凪を俺の小隊に入れさせたの?
「あんた1人じゃ無理よ。今は小さいんだし」
ヨーコまで。
俺は弱いのわかってるから、パワードスーツかなんか用意したってば。
ライドアーマーかソルテッカマン、ソリッドアーマーあたりかな。
「1人でなんでもやろうとすると倒れるぞ」
レーティアが言うと説得力があるなあ。
「わかったよ。俺1人で攻略なんてしないよ」
……巨大ロボットが完成したらわかんないけどね。
コストがかからなくて戦力になるのってなんだろう。
「煌一殿、私と契約して下さい」
悩んでたら愛紗が立候補してきた。
「愛紗?」
「この関雲長、きっとお役に立ちます」
「いや、えっと、桃香はいいの?」
君主ほっといちゃまずいでしょ。
「もっちろん。わたしもなるもん」
桃香まで?
……正直、君の戦闘力はそんなに高くなかったんじゃ……。
「なら鈴々もなるのだ!」
「私もつきあいますかな」
「あたしもいるぜ!」
戦闘力は低いけど、カリスマは高いんだった。次々と名乗りを上げる蜀の武将たち。
「はわわわっ、わたしたちも契約してお役に立てるでしょうか?」
「軍師ならば魔法の習得は早いはずよ」
俺のスキルを考慮に入れなければ、魔法の習得には知力の影響が大きいらしいから、軍師ならそうだろうね。
祈祷じゃなくて魔法で東南の風を吹かせる孔明ちゃんか。……魔法少女装備考えるのもいいかもしれん。
「ウチらも契約頼むで。妖怪と戦えるなんておもろそうやしな」
「姉者がなっているのだ。私も契約するぞ」
魏武将までもが契約するって言い出した。
これに対抗意識を出したのか、全ての勢力から契約希望者が発生。
「とーぜん、私もよね!」
雪蓮もか。
桃香のように君主が言い出したら、みんなついてきちゃうだろうに。
「ちょっと待って。勢いで決めないでくれ。まずは入島管理局に行って手続きをしてこよう。それから掃除や食事の準備。ご飯食べたりお風呂入ったりして、一晩ゆっくり寝て落ち着いてから契約しよう」
よく考えたらみんなの手続きまだだった。
食材の買出しもいかなきゃいけないし。
契約は後回しにしよう。
結局、みんなで入島管理局に移動する。
屋敷の戸締りは魔法で施錠したのでたぶんだいじょうぶ。
大事な品はスタッシュに保管してるしね。
猫目の三姉妹も、食材の購入場所を教えてくれる、といっしょにきてくれた。
「ありがとうね」
「そのかわり、今度魔法教えてほしいかな?」
「たぶんファミリアにならないと無理だと思う」
セラヴィーみたいに元から魔法を使えたら別だろうけど。
契約前の麗羽も飛行魔法使えなかったし。
「そっか。ボクもファミリアになろうかな?」
「お姉さんに許しをもらってね」
唯ちゃんは止めても諦めるかわからなかったので、そう言うしかできなかった。
「……それにしても目立ってるなあ」
話を誤魔化すために話題転換したわけではない。
いや、それもあるけど実際に注目を集めてしまっているのだ。
「制服じゃない人がこんなにいたら、そりゃ目立つわよ」
由真ちゃんの言う通りだ。制服をもらってきてから
……サイズもあるから無理か。
なんとなく気恥ずかしくなって、みんなから少し離れた。
十兵衛と光姫ちゃんが先導してくれてるから問題はないだろう。
俺は少し遅れながらこそこそと追っていくことにした。
「待ちなさい」
……俺?
声の方に振り返ると、そこにはゲームで見たことのある少女がいた。
関係ないけど、銭形平次の子孫の銭形警部もこういちだったっけ。
「珍しいのはわかりますが、あの方たちは留学生です。付け回してはいけませんよ」
「いや、真留ちゃん、付け回してるわけじゃなくてね」
「なんで私の名前を知ってるんですか? ……怪しいですね」
迂闊にも名前で呼んでしまった俺を
乙級の生徒だけあってちっこくて可愛い。大きな投げ銭型の髪飾り、ローライズなスパッツも魅力的だ。
うん。あっぱれのヒロインの中ではお気に入りの娘なんだけど、その娘に疑われてしまうとは心苦しい。
「ちょっと番屋にきて下さい」
返答に困った俺を不審者と判断したのか、職務質問のために連れて行こうとするロリ岡っ引。連行しようと彼女の手が俺の腕に触れて……。
「え? ……な、なんですか、これはっ!?」
「ああ、やっぱりか」
契約空間にきてしまった。
下っ端である岡っ引ながらも剣魂の使用を許可されている実力者なだけあって、ファミリアの資格があったか。……真留ちゃんはその気にはなってないような気もする。なにかまだ俺に異常があるんだろうか?
けど、これで余計に誤魔化しにくくなったような。
「落ち着いてね」
「あ、あなたの仕業ですか! さっさと元の場所に戻すのです」
「君が落ち着いてくれたらすぐに戻すよ。いい、元のとこに戻っても騒がない? 俺は目立ちたくないだけだからさ」
彼女が投げ銭を手に持ったので、不審者から敵にシフトしないように、両手を上げてゆっくりと説明する。
「……わかりました」
ふう。ため息をついて契約空間を解除する。
「今のはなんなんですか?」
「ええと……国家機密? 詳しいことは光姫ちゃんに聞いてね」
「え? あなたはいったい……」
光姫ちゃんの名を呼んだことで、俺の正体が気になったようだ。
「信じられないだろうけど、あの娘たちの関係者。いっしょにいると視線が辛いんで離れて歩いてたんだよ」
「もしかして、王子様?」
君もか。
どんな噂になっているんだか。
「隊長、どうかしましたか?」
俺がいなくなっているのに気づいたのか、凪がきてくれた。彼女はもう制服を着ているから目立たないので助かる。
「いや、なんでもないよ。それより君、その王子様ってのの話聞かせてくれないかな?」
真留ちゃんは1枚の紙を取り出してくれた。
エレキ新聞? 瓦版か。
日付は今日の。見出しは『王子様来島! ……か?』。もちろん『か?』の部分は折り返しで隠れている。
「隊長、王子様だったのですか?」
「んなわけないでしょ。ガセネタだよ」
どうしてこんな話に……この記事を書いたやつが、俺に嫁さんが何人もいるって聞いたからなんだろうな。
明日の登校が怖い。サボっちゃおうかな?
「ガセなんですか? それに隊長って?」
首を傾げる真留ちゃんにどう説明しようか迷っていたら、みんなも戻ってきてしまった。
「なにをやっておるんじゃ?」
「水都さま? 本当にこの子が?」
いや、王子様じゃないから。あと、この子ってなにさ。今のナリでも君よりは年上に見えないかな?
不審者からの警護と言いながら真留ちゃんもついてきてくれた。
「ほっほっほ、なるほどのう。真留にも資格があったか」
「だからって巻き込まないでやって。まだ小さいんだから」
「身体は小さくても、器はとっても大きいのです!」
身体じゃなくて、年齢的な意味だったんだけど……。
無事に全員が手続きをおえ、晴れて大江戸学園の生徒となった。
璃々ちゃんは特例として乙級での入学が認められた。さらに下級のクラスを作成する時の参考意見を求めるため、とかなんとか理由をつけたらしい。大変だろうからフォローしてあげないと。
みんな受け取った制服に着替えている。よく似合っているが、全員が同じ仕様なのが不満な者もいるようで、結真ちゃんや唯ちゃんとアレンジのための方法や小物、素材の店を聞いていた。
「隊長、沙和たちもちょっとお買い物していくの!」
「それはいいけど、なんで隊長?」
「凪ちゃんがそう呼んでるからなの」
ああ、そういうことか。
「凪、ビニフォンの使い方は覚えているよね。いっしょに行ってあげて。なにかあったら連絡ちょうだい」
「隊長は?」
「屋敷に戻るよ。眼鏡を用意しないと怖くてしょうがない」
料理の材料の店は気になるけど、人ごみにも疲れた。
眼鏡を用意して少し寝たい。
「じゃあ、晩飯はあたしたちが用意するよ」
「迷子になるなよ」
「あんたこそ。知らない人についてっちゃ駄目だからね」
……俺は小学生か。
結花に案内され食材購入班も分かれ、残る俺たちは屋敷に戻った。
ちなみにこの大江戸学園の通貨であるエンは特殊な合金、トクガワニウム製の硬貨のみ。円は使えないので、両替してもらってすでにみんなに渡してある。
屋敷についてから、部屋割りもまだだったことも思い出した。
どこでEP注入すればいいんだろう。
掃除の邪魔にはなりたくない。……やっぱりトイレでこっそりと?