真・恋姫†有双……になるはずが(仮)   作:生甘蕉

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59話 予約

 食堂での再度の休憩を終えたら、ペストX(イックス)さんの開発をレーティアに任せて、戦女神(ワルテナ)に連れていかれた朱里ちゃん、雛里ちゃんを除く俺の小隊と冥琳、穏、亞莎は、工場の外に出てポータルスキル習得訓練を行う。

 

 訓練といっても、難しいことではない。ただ、俺が展開したポータルを使ってもらうだけだ。

 同じポータルを何度も使用するより新たに張ったポータルをくぐった方が習得判定がいいように感じているので、俺がポータルを展開、未修得者がポータルで向こうに行ってすぐに戻ってくる。全員戻ってきたら別の行き先のポータルを展開、未修得者が往復。

 という膨大なMP量に物を言わせた効率重視の、はたから見たらなにやってるんだろうな訓練風景だったのだが、さすがは名立たる軍師たち。

 1時間もしない間に軍師たち全員がポータルスキルを1レベルまで習得してしまった。

 

「ねね、すごい」

「これで恋殿を好きな場所へと送ってあげられるのです!」

「いや、行けるのは拠点や運営の各施設か、マーキングした場所だから」

 ワルテナの使い方見てたら、レベルが上がればその制限もなくなりそうだけどさ。

 

「ふむ。雪蓮や小蓮様が覚えてしまったら苦労しそうなすきるだな」

「そのまーきんぐというのが、人を対象にできたらいいんですけどねー」

 なるほど。たしかにそれは試してないな。

「試してみる?」

「では、お嬢様にお願いしましますね」

「七乃? いつの間に……」

 訓練に誘ったんだけど面倒くさいって断られたんで、さっきまではいなかったはずだ。

 

「お嬢様が退屈しまして」

「うむ。よくわからんが面白そうなのじゃ。妾にそのまーきんぐをしてたも」

 うっ。

 女の子にマーキング……。思わず首筋にキスマークつけそうになっちゃうじゃないか。

「どうしたのじゃ煌一? 顔が赤いぞ」

「い、いや……試すから動かないで」

 美羽ちゃんにマーキングのスキルを試す。

 あれ? できた?

 

「別になんにも変わってないのじゃが?」

「ええと、少し離れてみて」

 とたとたとかけだして5メートルほど離れてくれる美羽ちゃん。

「こんなもんかのー?」

「うん。じゃいくよ」

 ポータル発動。ビニフォンの行き先表示には美羽ちゃんの名前がある。

 それを選ぶと、美羽ちゃんのすぐそばにポータル出口が展開されてしまった。

 

「おお、どうなっておるのじゃ?」

「もっと離れてみてー」

「わかったのじゃー」

 今度はさっきの3倍くらい離れてくれた。

 もう一度美羽ちゃんを選択して、ポータルを展開。さっきのポータルが消えて、美羽ちゃんのそばに新たなポータル出口が出現する。

 

「これはいいな」

「かくれんぼでは使用禁止なのです」

 ねね、それが軍師の感想?

「あ……」

「どうした?」

「使用時間が短くなってる。動かない物にマーキングした時よりかなり短い。……美羽ちゃんが動く度にどんどん短くなってるみたい」

 俺のスキルレベルが上がったおかげか、ビニフォンのマーキング欄には残り時間も表示されるようになっている。その欄の美羽ちゃんマーカーの時間がぐんぐん減っているのだ。

 

「そうか。雪蓮に使えれば便利だったのだがな」

 ビニフォンやコンカでマップ表示して味方を表示させる機能も、相手が拒否したら表示されないもんなあ。

「探知のスキルレベルを上げるしかなさそうか」

「だが、隠形で相殺されるのだろう?」

「そうなんだよなあ」

 味方だけじゃなくて、敵の、魔族のファミリアにマーキングできればむこうの拠点を探し出せると思ったんだけど。

 ……その前にもっと強くならなきゃまずいか。

 

「……私はまだ、ぽーたるを覚えられません」

「気にすることないよ、凪。軍師は魔法スキルを覚えやすいみたいだから」

「ですが」

「凪には試してもらいたいことがあるから安心して」

 そろそろ技や気の使い方も調べないと。

 

 

「はああぁぁぁぁーっ!」

 気合いと共に気弾を放つ凪。

 目標にと用意したダンボール箱は一瞬で吹き飛んだ。

「どうですか!」

 嬉しそうにこちらに振り返る凪。

 可愛いなあ。

 俺の身長が低くなってなきゃ彼女の頭をなでているとこだ。

 

「どれどれ……うん。CPが減ってる。やっぱりCPが気で合ってるみたいだ」

 ビニフォンに凪のファミシーを表示させて確認する。

「しいぴい、ですか?」

「うん。それを使って(アーツ)ってのを出すみたい」

 技か。魔法とは違う、体育会系向きのスキルってことなんだろう。

 銃弾が分身するのしか見てないけど他にもあるはず。

 講習を受けた方がいいかな。でも、無料券は少ないし……。そうだ! 軍師に受けてもらってあとでみんなに説明してもらえばいいか。

 

「そうなると、基礎講習を早めに受けてもらう必要があるな」

「基礎講習?」

「うん。無料で受けられる、使徒やファミリアの常識みたいなのを教えてくれる講習会。2日ほどかかるから、今度の土日かな?」

 2日目はそんなに時間はかからないけどね。

 受けてない子全員いっぺんにあの教室入れるといいけど。

 

「っと、今日はそろそろいいか。軍師もポータルをマスターしてもらったし。もう帰ろう」

 この面は今、夜の季節なので時間がわかりにくい。

 夕食の準備もあるし、早めに戻ることにした。

 レーティアたちを回収して他の面々に別れを告げる。

「なんだ、もう帰るのか」

「うん。こっちも色々忙しくてね」

 あ、ワルテナが朱里ちゃんたちを連れてきてくれたか。

 

「大変有意義な時間でした」

「ま、またよろしくお願いします」

 ワルテナと握手をしてる2人。ホントは彼女たちにもポータルマスターしてほしかったんだけど、それは明日でいいか。

「師匠、ありがとうございました。おかげでとても素敵な友人を得ることができました」

「そりゃよかった。他の子たちともども仲良くしてやってくれ」

 友人と言ってくれてるんだから悪いようにはしないだろう。

 ……別の意味で心配はあるけどさ。

 

「ペストXさんの量産は2、3日かかりそうだ。それぐらいで工作機械が完成するはず」

 早っ。そんな短期間でできちゃうの? もしかして工作機械が充実してたら今日中にできてるんじゃ……。

「工場好きに使わせてくれて助かるよワルテナ」

「いえ、こちらとしても使わなかった施設が有効活用できて満足ですわ」

 使用料ぐらいとってもいいだろうに。

 太っ腹な女神様だ。ウエストは細いけどね。

 

 2面のゲートから4面に移動する。直接ポータルで移動できればいいんだけど、ゲートからじゃないと移動できない。不便だけど左慈の侵入でセキュリティを強化してなくてもそういうものらしい。

 屋敷のセキュリティ完成したら、こっちにもカメラや警報装置を用意しようかな?

「わ、こっちはまだ夕方です」

「あっちはずっと夜の季節なんだよ」

 洗濯物を干すの、困るよなあ。

 屋敷の洗濯事情ってどうなってるかな? ……梓がいれば洗濯機の使い方は教えてくれてるか。

 そしてさらに4面のゲートからあっぱれ世界のカナマチ駅に戻ってきた俺たち。

 一応安全とはいえ、ゾンビタウン内の拠点を使うのはちょっと怖い。魔族の連中に見つかってキタアヤセ駅のように破壊されても困るから、あまり使用しない方がいいのかな?

 学園島の路面電車の駅も拠点になってるけど、けっこう人がいるんであそこをポータルの出先にするのはむいていない。

 地下鉄の駅なら外から見えるって気にしないでいいから、地下の拠点を探すのも悪くないかもしれん。みんなの講習終わったら拠点探しも進めないと。

 練習に冥琳に屋敷までのポータルを展開してもらって俺たちは帰った。

 

 

「なるほど、これを販売したいと」

「うん。便利そうでしょ」

 夕食後、やっぱりいる光姫ちゃんにペストXさんを見せる。

 もしかして毎晩泊まるつもりなんじゃなかろうか?

 

「ようできておるのう。して、いくらで売り出すつもりじゃ?」

「最低でも100万エンからかな」

 漫画だとオボロ付きの限定版が、深夜の通販番組で5万ぐらいだったはずだけどね。

「ほう。大きく出たのう」

「そんなに売るつもりはないんだよ。この商売はあくまで俺たちのカモフラージュだから」

 CPU他のスペック考えたら、それでもかなり安いと思うし。

 まあ、販売品の性能はこのペストXさんよりは落ちることになると思うけどね。

 

「盗難されそうな値段ね」

 あ、結真ちゃんもきてたか。

「盗難対策、教えてくれると助かる」

「そうね……うちにも1つくれるってんなら教えてあげるわ」

 しっかりしてやがる。

 でもそれもいいかもしれないな。プロの意見は役に立ちそうだ。

 

「そうだな。唯ちゃんの意見も聞きたいし量産できたらモニターになってもらうかな?」

「ホントっ!?」

 って、唯ちゃんもいたのね。よく見たら結花も後片付け手伝ってくれてるし。

「なんかお世話になってるみたいだからね」

「やった。さすが義兄(おにい)ちゃん!」

 嬉しそうだな、唯ちゃん。

 ……それにしても喫茶店の娘の唯ちゃんに「お兄ちゃん」と呼ばれようとは!

 古き名作ゲーの記憶が呼び起こされる。

 チェックのリボンをプレゼントしたくなるなあ。

 

「それでね、みんなにも説明したけど、しばらくこのペストXさんはこの屋敷で働いてもらうから驚いて破壊したり、踏んだりしないようにね」

 屋敷の面積考えたら、1台じゃ足りなさそうだけど実際に使ってみないと効果はわからない。

 

「で、婿殿はこれから鍛錬か」

「うん。十兵衛が見てくれるっていうから。呉屋敷の方に道場っぽいのあるし」

 ゆっくり休みたいとこだけど、そんな暇はない。

 プラモ作る時間もなくて困るよ。

 

 

「疲れた……」

 別にシゴかれたわけではない。

 初日ということで基礎中の基礎、握り方や基本の構えから教えてもらって、あとはずっと素振りをしてたぐらい。

 ただ、おかしいところを直すのに十兵衛が、手を取るだけじゃなくて密着して教えてくれるわけよ。

 もしかして誘惑してるの? って魔法使いな俺が勘違いしそうになるぐらいに。

 むこうは俺が幼い姿だから油断してるのかもしれないけど、中身はおっさんなのよ。忘れないでくれ。

 

 しかもさ、数人の武将たちもさ、いっしょに鍛錬するってつきあってくれたんだけど、見てるわけよ。

 その密着個人授業を。

 おかげで精神的な疲労、大。

 

「風呂入って寝よ……」

 今日は女の子たちは魏屋敷の風呂を使うから、俺は蜀屋敷の方の風呂を使えばいいらしい。

 なんかもったいないことをしてる気がする。けど、汗をかいていて風呂には入りたいので、蜀屋敷へとむかった。

 

「お風呂ですか?」

「うん。借りるね」

 途中で会った愛紗に案内されて脱衣所にむかう。

 ……でかい。銭湯ほどじゃないけど、大きい。

 

 浴場の方はもっと大きかった。

 えっと、ここに俺1人で入るってかなり贅沢なんですけど。すごい気が引けるんですけど。

 風呂だというのに落ち着かない。明日はアパートで風呂に入るかな?

 湯船につかりながらそう悩んでいると、カララ、と誰かが浴場に入ってくる音。

 あれ? 脱衣場に俺が使用してるってプレート、出してきたよね?

 もしかしてラッキースケベのスキル、ONにしちゃった?

 

「お、お背中流します」

「愛紗?」

 入ってきたのは、大き目のタオルで身体を隠した美髪公だった。

 髪はアップにした方が濡らさないでいいんじゃないかな?

 ……って、そうじゃなくて!

 

「な、なんで?」

 愛紗はこんなことをするようなキャラじゃなかった気がするんだけど。

 やるとしたらもっと他にいそうなんだけど。

「つ、妻なのですから別におかしくはないでしょう?」

 そう言いつつも愛紗の顔は赤い。

 けっこう無理してるんじゃない?

 

「無理しなくていいんだよ」

「無理などしておりません! さ、身体を洗いましょう」

 強引な愛紗に促され、湯船から出る俺。

 ……そんなにジュニアを凝視しないでくれると助かる。小さくなってコート着込んでる姿なんて見ないでくれ。

「愛紗?」

「……はっ! い、いえ、そこにお座りください」

「う、うん」

 愛紗に背を向けるように座る俺。

 なんだかすごい緊張する。

 

「い、いきます!」

「うわっ」

 ざばっと頭からお湯をかけられて、すぐに背中を手ぬぐいで擦られる。

「あ、愛紗、ちょっと痛い」

 ちょっとどころか、かなり痛い。

「す、すみません」

「もしかして、石鹸つけてない?」

「こ、これは失礼しました」

 慌てて、手ぬぐいに石鹸を擦りつける愛紗。

 むこうも緊張してるとわかって、逆にこっちの肩の力が抜けた。

 

「もう一度聞いていい? どうしてこんなことを?」

「……私にはこれぐらいしかできることがありません」

 小さな声で答えてくれた。

 これぐらいって、ものすごいことしてもらってるんですが。

「皆を助けてもらった恩返しをするために嫁になったというのに、どうやら煌一殿を困らせている様子」

 嫁になってくれたのは嬉しいけど、恩返しのためだもんなあ。

 俺のことを好きになってくれて、ってわけじゃなさそうだし。

 

「ならばせめて武で力になりたかったのですが、私よりも十兵衛の方が師にはむいているらしい」

 さっきの道場に愛紗もいたっけ。

 俺に教えるチャンスを狙っていたのかな?

 

「愛紗は力になってくれるって。俺たちはゾンビや魔族と戦わなきゃいけないんだから」

「ですが、私は妖術は覚えられそうにありません」

 ああ、軍師たちに先にポータルのスキルを覚えさせたのも気にしているのか。

「今の私にできるのはこれぐらいしか……」

「恩返しって言うけど、俺はそれで結婚してもらったりこんなことまでされても、逆にビビっちゃうんだけど。後でもっとすごいことを要求されそうな気がしてさ」

 美人局(つつもたせ)じゃあるまいし、愛紗がそんなことをするはずがないとわかっていてもね。

 

「では、どうやって恩を返せばいいのですか?」

「そんなに気にしないでいいのに」

「いえ、そうはいきません。身動きのとれぬ人形の身から解放してもらった大恩は必ずお返しします!」

 ぬいぐるみになっていたのはよほど辛かったようだ。自分だけじゃなくて桃香や仲間たちもそうなっていたのがさらに追いうちをかけてるんだろう。

 無印の恋姫でも恩返しで自分の器を示すみたいな話があったっけ。

 

「……1つだけお願いしていいかな?」

「は。なんなりと」

「じゃあさ、恩返しで俺の嫁になったって言うのは止めてほしい。君たちはそれでいいのかもしれないけど、俺には苦痛だ」

「私たちとの結婚を無効にすると言うのですか?」

 俺の小さな背中はとっくに洗い終わっているだろうに、いつまでも擦っていた愛紗の手が止まる。

「いや、そうじゃないよ。結婚してくれたのは嬉しい。でも、それが恩返しって理由なのが嬉しくないって言ってるだけ」

「そ、そうですか」

 別れちゃったら俺の呪いも再発動するだろうから、別れることなんてできるわけないのだし。

 

「愛紗だってそうでしょ、恩返しされるために結婚してくれたって言うより、愛紗のことが好きだから結婚してくれた、って方が嬉しいでしょ?」

「……はい」

 振り返って愛紗を見ながら聞いたら、真っ赤になって頷いてくれた。

 よかった。わかってくれたみたいだ。

 

「すみません、恩返しを押しつけてしまうところでした」

「いいよ。愛紗が一生懸命なのはわかっているから。それに、自分じゃ洗い難いところもあるのも事実だし」

 俺は、ずっと使っていた変身魔法を解く。

 PoM。

 効果音と一瞬の煙の後に現れる背中の1対の白い大きな翼。

 セラヴィーに教えてもらった魔法は解除時にも演出効果(エフェクト)があっていいなあ。

 

「これ、洗うの大変なんだ。手伝ってくれると助かる」

「は、はい。喜んで洗わせてもらいます!」

 この翼、自分だととても洗い難い。強く洗うと羽が抜けそうで怖いし。

 かといってずっと洗わないでいるっていうのも気分的に悪い。

「あ、石鹸よりもシャンプーでお願いね」

「はい」

 やっと愛紗が笑顔になってくれた。

 

 翼を洗ってもらった後、お礼と洗い方を教えるのを兼ねて、今度は俺が愛紗の髪を洗う。

 美髪公だけあって綺麗な髪だ。ちゃんと手入れしてあげたい。

「シャンプーを手にとって泡立ててからこう、頭皮を洗うように」

 わしゃわしゃと愛紗の頭を洗いながら説明する。

「シャンプーし終わったらよく濯いでね。その後にトリートメントかリンスを使うんだ」

 ここにあるのはリンスか。クランかヨーコが用意してくれたのかな?

 もっと詳しいやり方を後でみんなに説明しておいてもらおう。……もしかしたら昨日教えてくれたのかも。愛紗もシャンプーすぐにわかったし。

 

「さっぱりしました」

「俺も」

 風呂から上がり、脱衣所でお互いの髪や翼をドライヤーで乾かす。これも自分じゃ翼を乾かし辛いんで助かる。

 ……早く元の身体に戻りたい。

 

「ありがとう愛紗。助かったよ」

「いえ。妻なのですから頼ってくださると私も嬉しい」

 うん。さっき言ったことわかってくれたみたい。

「ふふ」

 2人で見つめ合ってから自然に笑い出した。

 うん。やっぱり愛紗も可愛いなあ。

 おっさんの身体だったら我慢できずに欲情してただろう。今回だけはこの身体でよかったのかな?

 

 

 

「遅かったな煌一」

 俺の部屋に戻ると、既に梓が待っていた。

 彼女も湯上りなようで、とてもいい香りがする。

「翼を洗うのに手間取っちゃって」

「なら、あたしに言えよな。洗ってあげるから」

 ごめんなさい、愛紗に洗ってもらっちゃいました。

 梓に悪い気がして心の中で頭を下げた。

 

「しばらく煌一を独り占めできないか」

 俺をぎゅっと抱きしめる梓。巨乳が押しつけられて大変気持ちいい。

「ううん、今日が最後かもしれない。あんなに嫁さん増えちゃって……」

 抱きしめる腕の力がどんどん強くなってくる。

 胸に顔が埋まっていくんですけど。もしかして怒ってる?

 

「……ごめん、梓」

「煌一ぃ」

 力を緩めた一瞬の隙をついて、梓の唇を奪う。

 そのまま、長い口づけ。

 それでやっと梓が解放してくれた。

 

「梓のことも大事に思っているから。蔑ろにするつもりなんてないから」

「煌一……じゃあ、じゃあさ、あたしが一番になっていい?」

 一番? うん。俺を好きでいてくれる嫁さんの一番は梓で間違いないと思うよ。

 

「煌一の本当の初めてはあたしが予約する! だからそれまで他の娘としちゃ駄目だよ!」

 それって本番のこと?

 まだ許されてない。っていうか、いつになるかわからない。

 そう言ってくれるのは嬉しいけど……。

 俺が断るかもと不安で泣きそうな顔の梓に、俺は無言で頷くしかできなかった。

 

 このことを知ったら、華琳はなんて言うかなあ?

 

 


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