真・恋姫†有双……になるはずが(仮)   作:生甘蕉

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62話 自覚

 早朝、もはや日課となったステータスの確認。

 むう。

 TP(スタミナ)がかなり増えているな。

 ……昨夜はしんどかったもんなあ。

 そりゃ春蘭も秋蘭も桂花もよかったけどさ。もちろん華琳も!

 でも、この幼い身体の俺にはその人数はハードなわけで。

 

 華琳、なんでこんな無茶させたんだろう。

 なんか怒らせちゃったんだろうか?

 やっぱり嫁さん増加しずぎ……いや、手引きしたのは華琳だからそれはないか。

 じゃあ何故?

 ……まさか、梓に俺の初めてを予約されたことを怒ってるの?

 焼きもちやいてくれてるの?

 だとすると、俺のことを好きでいてくれるって思っていいんだろうか?

 

 って、自意識過剰かな。華琳は仲間のために俺の嫁になってくれたんだもんな。

 俺に恋愛感情があるって確信できるのは梓だけだ。それだって俺の設定改変によるもの。

 ああ、俺の方はこんなに華琳たちが大好きなのにさ!

 

 あれ?

 隣で眠る華琳の寝顔を見ていたらすごいドキドキしてきた。顔面に血が勢いよく流れていく気がする。

 なんだこれ?

 

 お、落ち着け。

「はいてー、……吸ってー」

 何度か深呼吸を繰り返してきたら収まってきた。

 今のはなんだったんだろう?

 もう一度、ちらりと華琳の顔を見てみる。

 

「うっ? こ、これは!」

 また顔が熱くなってきた。心臓もバクバクいっている。

 なんだこの胸のトキメキは?

 ……もしかしてこれが(こい)

 華琳が大好きだって思ったらこうなったんだから、可能性はあるけどさ。

 今さら?

 

 これじゃまるで初心なネンネじゃないか。

 幼くなってしまった身体に引っ張られてるのか?

 思い出せ、このぐらいの時の俺はこんな時どうしたのかを。

 

 ……こんぐらいの外見の時はもう、呪われてて女の子を好きになっても嫌われるって思い知ってたから、こんなことなかったっけ。恋愛対象は2次元にシフト済みだったような。

 むう。経験不足か。

 ど、どうすればいいんだ?

 

 確認のために検証してみよう。

 いまだ寝ている華琳に顔を寄せる。

 見慣れたはずなのに、何度もキスしたはずなのに心臓が高速回転。

 唇は無理と、頬に軽く口づけた。ドキドキするけど、幸せを感じる。

「大好きだよ、華琳」

 気づいたらそんなことを囁いていた。

 なんだこれ? なんだこれっ!?

 無茶苦茶恥ずかしい!

 逃げるように布団から出て、そのままの勢いで部屋からも飛び出した。

 

 

「はぁっ、はぁっ……」

 熱くなった頭を冷ますべく、洗面所で何度も顔を洗った。

 真・恋姫†無双の魏ルート、季衣ちゃんと流琉ちゃんの拠点イベントで恥ずかしさのあまり逃げられるってのがあったけど、彼女たちもこんな気持ちだったのかな。

 

 その後、トイレと再びの手洗いを済ませて、寝巻きのまま台所へとむかった。

 あの部屋に戻る気持ちの準備がまだできてないので、着替えることなんかできないよ。

 そしたらさ、そこにいた梓でも俺はドキドキしちゃって、着替えるって言ってやっぱり逃げ出した。

 

 うう……嫁さんたちみんなにドキドキしちゃうみたいだ。

 特に最初に俺と結婚してくれた華琳、ヨーコ、クラン、レーティア、梓の通称五嫁大将軍の時に動悸が激しくなるみたい。

「なんで今さら……」

 華琳たちが俺の部屋から出るまでの時間稼ぎとして、ペストXさんの戦果を処分しながら考える。

 慣れたはずだったのに、恋心を自覚した途端にこれとか。

 もういっしょに暮らしてるというのに!

 

 華琳たちがいなくなってるのを確認して部屋に戻って、梓に朝食の準備はまかせるとメール。

 着替えてしばらく悩んだが、解決策は思いつかず、唸りながらずっと転げていただけ。

「あー……うー……」

「なにやってんだ? だいじょうぶか?」

 朝食ができたと呼びにきた梓に心配されてしまった。

 

 食堂と化しているいつもの部屋に到着すると、既にみんな揃っていたので俺も席について、いただきますの挨拶。

 みんなが俺を待っていてくれるのは嬉しいなあ。

「煌一、顔が赤いわよ?」

「う、うん」

 華琳の機嫌は戻ったようで、昨夜のドSモードではなかった。

 それはよかったんだけど、俺の方が恥ずかしくて顔を合わせられない。

 

「熱でもあるんじゃない?」

「ちょっ」

 ヨーコが額を合わせてくる。

「んー、少し熱い、かな?」

 そりゃ熱も上がるよ。大好きな美少女にこんなことされちゃさ。

 

「華琳、昨夜激しくしすぎたのではないか? 煌一の身体はまだ小さいのだぞ」

 クラン、俺のことを心配してくれてありがとう。

「は、激しく?」

 泊まっていた詠美ちゃんが思いっきり反応してるな。昨日よりは顔色がいい、というか赤い。

 俺も人のこと言えない状況だけどさ。

 ……うん。彼女だとドキドキはしない。嫁さん限定みたい。

 

「そう……ね。ごめんなさい、少し無理をさせたかもしれないわ」

 華琳が謝ってくれるなんて。

 心配させちゃってごめん、って俺の方が謝りたい。

 (こい)に気づいて恥ずかしくなったから、なんて言えるわけがないんだけどさ。

 

「今日は学校を休め」

「そうだな。昨日のこともあるし、むこうも納得してくれるよ」

 レーティアと梓が俺の欠席を決定してしまった。

 ……それもいいか。1日あれば少しは収まるかもしれない。

 

 

「カシオペア、アニキのこと頼んだッスよ」

「ガウ!」

 番犬となってる狼と俺を残してみんな登校していった。

 凪や文も残りたがったが、そんなに酷い熱じゃないからと学校に行かせた。文もせっかく生徒になれたんだからちゃんと登校しないとね。

 

「さて、どうしよう?」

 長い一人暮らしの間に染み付いた独り言の癖はなかなか直らない。

 普段みんながいる時は意識してるんだけどね。

「誰かに相談するべきか?」

 あっぱれ世界には該当者はいない。剣士や華佗も向いてなさそうだし。

 とすると……経験豊富そうなミシェル?

 いや、やつには相談できるはずもない。

 なら、一刀君か。でも、漢ルートの一刀君だしなあ。

 

 ドンさんにメールしてみるか?

 女癖は悪いけど妻子持ちらしい。相談できそうな気はする。

 でもなあ……悩んでいたら『ちゃんと昼飯食ってるか?』ってメールが届いていた。

 いつの間にか昼になっていたらしい。

 スタッシュから梓が用意してくれた弁当を取り出して食べる。

 フタを開けたら海苔でハートマークが描かれていたので、また転がってしまった。不意打ちは勘弁してくれ。

 

 食後、弁当箱を洗って部屋に戻り、このままだと時間を無駄に使うだけだと別のことを考える。

 ……逃避ともいうけどさ。

 ビニフォンを弄りながら、俺のステータスを確認。

 今の俺は状態異常にはなってないらしい。色ボケとかになってたらショックなので一安心。

 

 最大MPの上昇率は相変わらず1.6倍のままだ。

 まだ限界値到達(カンスト)はしてないってことと、この幼い姿では魔法使いの効果が下がるってことがわかる。

 元に戻ればまた1.8倍になるはず。

 戻れれば、この恥ずかしさもなんとかなるかな? ……でも、戻ったら本番したくなるだろうしなあ。

 

 ええと、現在の最大MPは19兆ちょいで、成現(リアライズ)に必要なMPはセイバーライオンが100倍でイカ娘が10倍くらいだったよな? マサムネやディスクロンが2、3倍だったから……面倒だ、200人分で計算すれば余裕あるだろ。

 1人1日分の864万×200×365で1年分が6307億2千万か。

 うん。今日のMPほとんど使って延長すれば30年ぐらい持ちそう。

 だとすると、もうすぐ魔法使いのスキルを失ってもいいのかな?

 

 ビニフォンの計算機を弄っていると、マサムネからメールが届いた。

 なにか緊急事態?

 あ、ドール素体の場所を調べてくれたのか。

「ん?」

 製作所の場所はちゃんと調べてくれたみたいだけど、メールの様子がいつもと違う。

 いつもは簡潔に任務のことしか報告しないのに『会ッテオ話シタイコトガ』って。……メールでもエフェクト音声っぽく拘ってるから、いつも通りなのかな?

 

 探知で周辺に人がいないのを確認してからマサムネを呼ぶ。

「マサムネ」

「ココニ」

 いつのまにかそばに落ちていた青い携帯ゲーム機から声がする。

 マサムネが変形しているそれを手に取り聞いてみた。

「どうしたんだ、いったい?」

「……」

 返事はなかったが、ゲーム機の液晶が赤くなっていく。

 

「……もしかして恋愛相談?」

 マサムネは俺のコンバットさんに一目惚れしてるもんなあ。

 でも、コンバットさんはただの害虫駆除ロボット。いくら高性能でもマサムネのような心はない。

 やっぱりそれが寂しいんだろうか?

『アノ凛トシタ佇マイガ忘レラレナイ』

 自分の液晶画面に文字表示するマサムネ。画面は相変わらず赤というかピンクっぽい。

『マフラーヲタナビカセ、愛車ヲ駆ル颯爽トシタ姿』

 んん?

 これってコンバットさんのことじゃないよね?

 

「もしかしてマサムネ、ペストXさんにも惚れちゃったのか?」

 俺の質問に液晶の色が一瞬で青く変わった。

 わかりやすいなあ。

『同時ニ2人ノ女性ヲ愛シテシマウナンテ……』

「それを悩んで相談しにきたのか?」

『……ハイ』

 まいったな。ロボットにそんなことを相談されるとは思わなかった。

 

「いや、俺ん中には別名キューピッドなエロースっぽい恋愛神の欠片がいるらしいけどさあ」

 よく恋のキューピッドというが、やつの戦歴を考えたらキューピッドには縁結びのご利益は期待しない方がいい。不幸になってる方が多いんだから。

 それに今は俺の方が相談したい状態なわけだし。

 

『ドチラモ愛シイ』

「うん。それはわかるよ」

 これはあれか? 造物主に似るってやつか?

 マサムネはモデルがいるとはいえ、俺の半オリジナル作品に近いもんなあ。俺に似て気が多いのかも。

 ってことはさ。

「どっちも好きでいいんじゃないか?」

 俺は一度(ひとたび)好きになったらずっと好きでい続けられると思う。マサムネもきっとそうに違いない。

 ……なんかすごい自己弁護してる気がするけど、これが俺の本心。

 だいたいさ、ロボなんだから一夫一妻に拘る必要ないかもしれないし。

『ヨロシイノデスカ?』

「うん。別に誰も不幸にならないからいいんじゃない?」

『サスガマスターデス。相談シテヨカッタ』

 マサムネはいつものロボット形態に戻ると、一礼して部屋から消えた。

 

 いい加減マサムネの相手に心を持ったID(インターセプトドール)を用意してあげた方がいいのかな?

 でも、1度成現しちゃったら設定変更できないんだよなあ。俺のコンバットさんとペストXさんじゃ無理か。

 ホイホイさんを……ん? そうか、レーティアのカンプさんならさらに成現が可能だな。後で相談してみるか。

 

 ロボでも(こい)に悩んでるとわかってなんか焦らなくてもいい気がしてきた。

 この胸の高鳴りも悪いもんじゃない。当時味わえなかった青春を取り戻してると思うことにしよう。

 

 なんとなく気持ちの整理がついた俺は、みんなが戻ってくるまでにペストXさんと専用バイク(オボロ)の充電台を作成して成現(リアライズ)

「バッテリー切れで倒れてたら、マサムネが悲しむもんな」

 ちなみにそのマサムネのエネルギー補給は、携帯ゲーム機の充電器から。ディスクロン部隊にはマサムネがエネルギーキューブを作成して与えていたりする。

 

 作業中、物音は聞こえなかったけど、パッシブな感知スキルには侵入者が引っ掛かっていて、それをカシオペアが撃退してくれたのがわかった。

 6人か。カシオペア強いな。さすが狼だ。

 まだ授業中だろうに。俺が1人で屋敷にいると知って襲いにきたのだろうか?

 カシオペアが首輪ビニフォンで写真を撮っておいてくれたので、後日そいつらは通報しておいた。

 

 

「おかえり」

「ただいま。まだ顔が赤いわよ、寝てた方がいいんじゃない?」

「だいじょうぶ、問題ない」

 うん。恥ずかしいけど、慣れなきゃいけないからね。

 やっぱりそばにいたいしさ。

 

 俺を心配してくれたのか、みんな寄り道もせずにまっすぐ帰ってきてくれた。

 すごい嬉しい。愛されてるって思ってもいいのかな?

「へへ」

「嬉しそうね?」

「うん。だって大好きな嫁さんたちといっしょだから」

 たちって一括りで言わないと、好きって言えそうにない。

 いつか、ちゃんと告白したいなあ。

 

 元気そうな俺に安心したのか、みんなは思い思いに行動する。

 昨日俺が襲われているので、単独での行動はしないようにはなってるけどね。

「昨日の奴等の黒幕はまだわかっておらん」

 ついに完成したと、俺と華琳、レーティアの刀を持ってきた光姫ちゃんが教えてくれた。

 彼女にもドキドキするけど、最初の5人よりは小さい。これはやっぱり絆の違い? それとも肉体関係の違いなんだろうか?

 

「計画的にしても、なんか雑だったからそんな大物は出てこないんじゃないかな?」

 言いながら、刀を袋から出してみる。

 俺に合わせてちゃんと二口(ふたふり)用意してくれていた。この身体には少し大きいかな?

 でも、使徒は鍛えやすいからなんとかなるか。

「注文通り、剣魂は刻んでおらんがよかったかの?」

「ああ。この島でしか使えないものに慣れても困る」

 いくら便利でも、俺たちが戦うゾンビや魔族は島の外にいるからね。

 華琳たちのも同様に剣魂なし。

 

「刃引きとはいえ、この国の刀は美しいわね」

「そうだな。芸術品としての価値もありそうだ」

 華琳とレーティアも気に入ったみたい。

「ありがとう」

「かっかっか。礼には及ばん。残りの者たちの分はどうする?」

「こっちで用意するよ」

 現に数名が見に行ってるしね。

 真桜の製作か、俺が成現してもいい。この島の外で使える獲物も準備しないといけないのだし。

 

「で、明日からの土日、基礎講習じゃったな?」

「だいじょうぶ?」

 俺たちはともかく、光姫ちゃんと十兵衛はこっちの立場があるから予定組んでもらわないとまずいだろう。

「もちろんじゃ」

「ああ。早くファミリアの力に慣れたい」

 十兵衛も大きく頷く。

 これで明日と明後日は受けてない全員が基礎講習か。

 文がきてくれてよかったよ。璃々ちゃんのことを頼める。

 

 

 その夜。

 当番としてやってきたのはヨーコと愛紗、蓮華だった。

 最初の5人プラス、新嫁で組んでるんだろうか?

「ほ、本当にいいの?」

 うう、ドッキドキだあ。

「は、はい。桃香様よりも先にというのは気が引けますが」

「覚悟はできているわ」

 愛紗と蓮華の顔が赤い。

 俺の顔はもっと赤いかもしれない。

 

「華琳が言っていたわ。本当は昨日この2人を連れてくるべきだったけれど、冷静じゃなかったって」

「それって……もしかして梓の予約のせい?」

「かもね」

 ヨーコの表情も微妙だ。

 これって……。

 

「ヨーコも怒っている?」

「あ、あたしは別に」

 最後まで聞かずに頭を下げる。

「ごめん! こんなに嫁さん増やしちゃって!」

「煌一?」

「好きなんだ、みんな。ヨーコも! 華琳たちも! 愛紗と蓮華、それにみんなも!」

 顔を上げずに言う。

 だって、図々しいことを言っている自覚があるのだから見せる顔なんてありはしない。

 

「……わかってるわよ、そんなこと」

 え? ばれてたの? そんなにわかりやすかった?

「煌一殿」

「煌一さん」

 ヨーコといっしょに愛紗と蓮華が抱きついてきて、そのまま……。

 

 そのまま、寝た。

 昨夜無理させすぎたとの判断を受けて、今日は添い寝だけらしい。

 そりゃ昨日はハードだったけどさあ。

 

 身体を動かして疲労でもしないと、ドキドキしすぎて眠れそうにないんですが……。

 

 




活動報告に「今後の予定(ネタバレ)」を投稿してます

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