月明かりに照らされた丸くって小っちゃくて、でも三角じゃないこの物体、俺を罠にはめようとした相手は本人曰く吸血鬼らしい。
昼間平気だったのは虚無僧ルックのおかげ? でも、一部肌は露出してたよね。
「おまえのような吸血鬼がいるか」
「オゥ、ミーのあまりの神々しさに闇のものだと信じられないのも無理はありまセーン!」
オーバーアクションで反応する自称吸血鬼。
「いや、どう見ても似非アメリカンな変質者なんだけど……」
……あっぱれ世界だとアメリカじゃなくてアメリアだっけ。国名が微妙に違うから、地理や歴史の授業で困るんだよなあ。
クランやレーティア、智子たちはすぐに覚えたのはさすがだ。ごっちゃになって混乱してる俺と梓、柔志郎が馬鹿なわけではない。
「このエレガントさがわからないとは見る目がないデース!」
「その格好のどこがエレガントだ!」
えっ、という表情で自分の姿を見回すリトルメタボ。
「定番の吸血鬼スタイルのどこに問題があるとでもいうデースか?」
「……それが定番になるのは美少女限定だ!」
そう、やつは困ったことマント以外を身に着けていなかった。一部で吸血姫の正装とされている裸マントというやつだ。
見たくもないっつの!
「美少女なんて照れるデース! 口説いているデースね」
……はい?
まさか……いやいや……そんな……。
あれ、性別、女性なの?
辺りに街灯はなく、月明かりのみなのでよくわからない。なにより、女性とわかったところであまり直視したくないのは変わらない。
「と、とにかく真留ちゃんを元に戻せ!」
「できない相談デース! ユーこそミーのしもべになるデース!!」
「そのために真留ちゃんを巻き込んだのか?」
みんなも周辺に潜んでいるし、戦うことはできるだろうけど少しでも情報を引き出したい。
「イエース! ミーの作戦に引っ掛かって個人情報をオープンしたユーがおろかなのデース!」
あの質問って、そういうつもりだったの?
俺の回答のせいで真留ちゃんがこんな目にあっちゃってるの?
「……なんで俺を狙う?」
「ユーのフィアンセを手に入れるためデース」
「フィアンセ?」
「柳宮十兵衛、最強と聞いたデース。ミーはこの島に手下を集めにきたデース!」
ああ、十兵衛は俺のことを婚約者ってことにしてるんだった。渡した指輪も婚約指輪だし、まだ学生だからそれでよかったのかな。
「手下?」
「使徒と戦うためデース。バンシーがやられた聞いてるデース。ザマミロデース!」
やっぱりこいつはこんなんでも魔族らしい。
「……仲悪いのか?」
「ちょっと飛べるからって生意気なのデース。なーにが、飛べないオークはただのオーク、デースかっ! 飛べなくたってミーは吸血鬼デース!」
思い出して悔しくなったのか、半分涙目になっている。
なんかこの吸血鬼、残念感しかしないんだけど……。
「飛べないの?」
「な、なぜソレを? ユーはエスパーデースか?」
いやあんた、自分で言ったじゃん。
「そんなんでよくこの島にこれたね」
本当に吸血鬼なら、水は苦手なんじゃ?
「宅配便は便利デース!」
……おい。積荷として送られてきたのかよ。
港での検査、大丈夫なんだろうか?
「帰りはどうするのさ?」
「手下に考えてもらうデース!」
なんか悲しくなってきた。俺たち、こんなのと戦わなきゃいけないの?
でも、トウキョウをゾンビタウンにした犯人の一味なのは確かっぽい。
「わかったらおとなしくしもべになるデース!」
「断る!」
ロリ美少女な吸血鬼ならともかく、なんでこんな物体に噛まれにゃならん。
「その状態でよく言ったデース。でも、ガールを抑えたままでは逃げることすらできないデース」
たしかに真留ちゃんを後ろから抱きしめた状態では身動きが取れない。
血を吸われて真留ちゃんも吸血鬼になっちゃったせいか、かなり強い力で抵抗してる。油断すると逃げられたり、噛みつかれたりしそうだ。
「痛いのは最初だけデース!」
「させるかっつの!」
俺に迫っていた肉塊、もとい自称吸血鬼がどごっ、という音とともに高く蹴り上げられた。
「オゥ! ミー、飛んでるデー」
最後まで言い切る前に落下して地面に激突。2度ほどバウンドして止まる。
「大丈夫か、煌一」
吸血鬼と同じく、両の瞳が光っている梓。やはり今の蹴りは鬼のパワーが乗っていたか。
「シーット! 地元の魔族デースか! デュラハンめ、討ちもらしがいるデース」
のっそりと起き上がる吸血鬼。たっぷりついた肉のおかげか、あまり効いていないようだった。
……討ちもらし? こいつら、地元の魔族と戦ってるのか?
「誰が魔族だ!」
「ここは戦略的撤退デース」
飛べない、というのは本当らしく走って逃げ出す吸血鬼。どすどす、といった足取りであまり早くはない。
「逃がすか!」
とび出してきた春蘭が斬りつける。持っているのは華琳から借りたのだろう七星剣。あっさりと真っ二つにされてしまった。
あれ、こんなに弱いの?
コウモリや煙になったりもせずカードになって、そして消えていく。
「仕留めました、華琳さま!」
夜目にも嬉しそうな春蘭。
「もう少し情報を引き出したかったのだけれど……まあいいわ。見ているのも不快だったから」
「できればやつらの拠点は知りたかった……今はこっちの方が先か」
吸血鬼を倒したというのにいまだに暴れる真留ちゃん。そろそろ俺の腕が限界かもしれない。
「あいつを倒せば戻ると思ったんだけど……」
「スリープは?」
「レジストされた!」
けっこうなMPをつぎ込んでかけたんだけどスキルレベルが低いのか、失敗。
かといって殴って気絶というのも難しそうだ。
「元に戻す方法はないのか?」
心配そうな梓。隠れて見守っていてくれたみんなも集まってくる。
「倒すわけにはいかないし」
「当たり前だ! ……たぶん浄化すればまだ間に合うはず」
ゾンビと違って戻っても死体にはならないはずだ。
「私の出番やな」
前に出てきたのはキュアムーンライト。
すでに変身していたか。さすがわが娘。話が早くて助かる。
「お父さん、離れて」
ムーンタクトを手に避難を促す娘。他のみんなはすでに俺と真留ちゃんの付近から退避済みだ。
「いや、今離すと噛まれそうだから一緒にやっちゃってくれ」
俺が原因で巻き込んじゃったみたいだから、浄化も付き合うよ。
真留ちゃんになら噛まれてもいい気はするけどね。
「わかったわ、お父さん今楽にしたる。……花よ輝け、プリキュア・シルバーフォルテウェイブ!」
ムーンライトが掲げたムーンタクトの先端に光の花が大きく開いた。その花ごとムーンタクトの切っ先を俺たちに向け……光の花が俺たちに向かって飛んでくる。
当たる直前に思わず目を瞑る俺。
瞼を開けたら、俺たちは空中に浮いていてムーンライトがタクトをくるくると回していた。
「ぽわわわーん」
真留ちゃんが呟き、力が抜けていく。青白かった血色も戻っているし、上手くいったようだ。もうだいじょうぶだろう……。
「真留が世話になったな」
深夜にも関わらず彼女の上司が訪ねてきた。
光姫ちゃんが真留ちゃんの異変と無事を伝えたらしい。
北町奉行、
「で、真留は?」
「今は寝ている」
「そうか」
ほっと一息ついて月ちゃんが淹れてくれたお茶を飲み、それから真剣な顔になって俺たちを見た。
「なにがあったか、詳しい話を聞かせてくれ」
できれば秘密に、と前置きしてから事情を話す。
「この島にやつらが現れたっての言うのか」
「ああ。弱かったんで倒すことはできたが用心した方がいいだろう」
「とはいえ、パニックになるおそれもある。発表などできんじゃろうな」
光姫ちゃんの言うことも理解できる。ここは島だ。すぐに逃げ出せないし、多いのは学生。不安は大きいだろう。
「真留がまた狙われる可能性は?」
「ないとは言えん。しばらくここで保護するしかあるまいのう」
俺のせいで狙われることになったんなら、守らなきゃならないだろう。
この屋敷なら、みんなで守れるはず。……あとで結界を用意した方がいいか。
「北町じゃ無理だってのか?」
「うむ。お前さんなら聞いておると思うが、婿殿たちしかやつらを倒せんのでな」
「……授業や仕事はどうすんだよ」
そうなんだよなあ。試験も近いし休ませるのも気がひける。
「授業は問題ないでしょう。桂花が同じクラスなのだし」
桂花で守れるのかな?
まあ、いざという時はポータルで逃げられるか。
「岡っ引きの時は誰か護衛をつけましょう」
華琳の提案に朱金が悩む。
そりゃ可愛い後輩を預けるんだからすぐには決められないか。
「やっぱ心配だからオレもここに世話んなるぜ」
「……本当の理由は?」
「オレも可愛い娘たちと暮らしてえ! いっしょに風呂入るんだ!」
やはりそれか。この娘、中身はおっさんかと思うほどエロ好きだもんなあ。
「なんか覗きとかしそうなんだけど……」
「いいじゃん、ちょっとぐれえ。嫁さんたちとのお楽しみ見られるぐらいさあ」
「俺は見られる趣味はないの! ……でもまあ、君がいっしょなら真留ちゃんも安心できるか……。わかった。ただし、変なことはしないでね」
嫁さんたちのチョーカーも同性でも発動できるようにしたから、そうエロいこともできまい。
俺の呪顔を見られないように気をつけさえすればなんとかなるだろう。
「よろしくな」
不安だ……。
さすがに2日連続で徹夜する気もせず、精神的にも疲れたので今夜は対魔忍のプレイを諦める。
「ずいぶんと疲れた顔をしてるな」
「まあね」
今夜はレーティアか。
連れてきたのは白蓮、麗羽、猪々子、斗詩の4人。
うん、この人数は無理。今日はもう寝ます。
「なんですの! せっかく私がきてさし上げたというのに」
「ごめん、疲れてるんだ」
「休ませてやれよ。あんなの直撃くらってんだし」
白蓮が布団に潜った俺の頭をなでる。
でもね、ムーンライトの攻撃は見た目ほど痛くはなかったよ。
……今夜の分の性欲まで浄化されちゃった疑いはあるけどさ。
「んじゃ斗詩ぃ、あたいたちで楽しもうぜ!」
「文ちゃん!」
猪々子と朱金って似てるのかな?
おっぱいは違いすぎるけど。
そんなことを考えながら、俺は眠りに落ちていった。
翌朝、起きた真留ちゃんに事情を説明し、彼女も納得する。
「これをつけるんですか?」
「うん。君を守ってくれるはずだから」
嫁さん以外用のチョーカーも装備してもらった。
真留ちゃんの話だと、虚無僧を番屋に連れて行って、やつの目を見た後の記憶がないらしい。たぶん魅了か催眠をくらって、血を吸われたんだと思う。
チョーカーの成現時、そこら辺の対策は力を入れてるので効果はあるだろう。
「わ、ホントに変わりました!」
説明を聞いて装備後にチョーカーをいつもの首輪の形状に変える真留ちゃん。
すごいでしょ、それ。
「唯と結花にも渡しておいた方がいいかもしれないわね」
「そうか。彼女たちも心配か」
「詠美もじゃな。ここへよく来ることは知られておる」
光姫ちゃんが連れてきてから、時々詠美ちゃんも泊まりににきている。その時は朱里ちゃん、雛里ちゃんたちと遅くまで話してることが多いようだ。
……まさか腐教されてる?
いや、艶本の方か。朱金もまじりそうだなあ。
結局、その3人もチョーカーを受け取ってくれて、しばらく屋敷で暮らすことになった。
部屋は余ってるぐらいだから問題はない。
「積荷に紛れ込んでくるなんて……」
「たぶん棺桶じゃないかな? 探せば見つかるかもしれない」
見つけて始末しておいた方がいいだろう。
……あっさりとカードになってたから、棺桶で復活するんじゃないのかな?
それから2日ほどは何ごともなくすぎた。
朱金が数名のチョーカーを発動させ軽く感電したり、レーティアが開発部から受け取ってきた仮設トイレをどこで聞きつけたのか
「ペストXさんは越後屋経由で販売した方がいいのかな」
「なぜ?」
「こっちのことある程度は知ってるだろうに、それは口に出さなかったから。フォローしてもらえそう」
彼女と会う時には、はじめちゃんもいるだろうしね。
だが、次の日。
魔族は現れなかったが、島の住人が増えることになった。
「政府も先の一件を重く見ておっての。護衛をよこしたのじゃ」
護衛っていわれても、魔族と戦えるのが俺たちだけだから、あまり意味はないような……。
屋敷に現れたのは大江戸学園の制服を纏った2人。
片方は長身でグラマーな少女。
片方は背も胸も小さく、日焼けした肌を持つ少女。
「
見ればわかる。対魔忍ユキカゼのヒロインの2人だ。
彼女たちがくるなんて……いったいどうなってるのさ?
今話タイトルの赤い星とは、テリーマンの肩やドロンパのお腹(胸?)についてるあれです