新たにファミリアとなるメンバーに精神防壁スキルを覚えてもらうため、精神攻撃を行う。
ファミリアになる前に受けた攻撃であっても、ファミリアになってから耐性や対応スキルを入手することができるようだ。
現に、精神攻撃後にファミリアになった結真も精神防壁スキルを持っていた。
「あ、真留ちゃんは以前にやったから今回はいいよ」
「そ、そうですね。……みなさん、がんばってください」
以前受けた精神攻撃を思い出したのか、それとも自分だけが受けないですむことが後ろめたいのか、弱々しく頷いた後にみんなを応援する真留ちゃん。
「おう。よくわかんねーけど、まかせとけって」
朱金は笑ってたけど……。
「おい、なんだよありゃあ!」
やっぱり怒られました。涙目で。
精神攻撃の幻聴はキツイもんなあ。
「達郎が……」
ゆきかぜちゃんも泣いてるし。死んだ恋人の声を聞いたのかな?
「文はそんなにこたえてなさそうだね?」
「……たしかに辛かったですが、現実の兄の方がよほどアレですので」
光臣か。あれ以上というか、あれ以下なのはさすがにちょっとなあ。
紫も落ち込んでいる。
「こうも簡単に幻術にかかってしまうとは……」
落ち込む方向性が違うみたい。
対魔忍の学校で教官なんてやってる立場だから、かからない自信があったのかもしれない。
まあ、俺の精神攻撃魔法も何度か使ってレベルが上がってるから、それでレジストに失敗したんじゃないかな。
「そろそろファミリア契約いこうか?」
へたりこむほどに落ち込んでるんで、紫にはサービスしてあげる。
PoMっと、黒猫に変身する俺。
「なっ!?」
驚く紫に近づき、その足に鼻先を軽く当てる。
いわゆる鼻キスというやつだ。猫好きならば歓喜する行為である。ベストは鼻と鼻でだけどね。
「……はっ? ここは?」
鼻キスの衝撃に驚いたのか、紫が契約空間に気づくには若干のタイムラグがあった。
「契約空間。ここで、使徒と契約するとそのファミリアになる」
一種の精神世界なはずのここでも猫の姿のままだったが、かまわずに続ける俺。
「……そうか、猫に化けているのか。それとも、これが正体なのか?」
「いや、変身魔法だよ。俺の正体はおっさん。今は戻れなくて困ってるけどね」
おっさんだって俺の言葉にまたもショックを受けたようだったが、かまわずに俺を抱き上げ、なで回す紫。
「変身魔法か。これほどの使い手だったとはな」
口調はクールを装っているが、その手は俺の肉球をぷにぷにし始めているのが可愛い。
じっくりと堪能して、立ち直るがいい。
「そろそろ契約、いい?」
「……そうだな」
まだ足りないのだろうか? 春蘭といっしょで猫に怖がられるらしいもんなあ。
また機会があれば、猫になってあげよう。明命も喜ぶし。
「これに名前を書けと?」
「うん。それで契約が完了する。……いいんだね?」
返事の代わりに、彼女はファミリアシートに名前を記入した。一気に項目が埋まっていく。
うん、華琳の言ったとおり処女だったか。
あっぱれの方は俺たちがくるまではほとんど同じ展開みたいだったけど、対魔忍の方はどうなってるんだろう?
その後、凛子、ゆきかぜちゃんとも契約する。
……ますます、対魔忍ユキカゼの言葉巧みに2人と契約した娼館のオーナーなポジションになってしまったんじゃないかと頭をかかえたくなった。
明命が熱い視線を送ってきているので、なんとなく人間形態に戻れずに猫のまま。
「そんな姿で恋殿を誘惑するのはずるいのです!」
……恋もか。
ねねもさすがにこの姿相手ではキックを躊躇っているようだ。
普段はけっこう蹴ってきて痛かったりする。おっさんに戻れば耐えられるかな? ……キックの数も増えそうか。
「ならそろそろ戻るか」
PoM。煙に包まれ、視点が高くなる。といっても子供の身長なんだけどさ。
「そんな……」
「ごめんね。また今度」
泣きそうな明命に謝り、契約を続ける。明命たちの次の当番の時は猫の姿で明命たちと寝ることになるのかもしれない。
文、詠美ちゃん、朱金、真留ちゃんとも契約してしまった。
文と真留ちゃんはともかく、残る2人はよかったんだろうか……。
「土日に基礎講習あるから、空けておいてね」
彼女たちにチョーカーを渡しながら予定を告げる。
結真もまだだったし、ちょうどいいだろう。
「あの、これもう貰っていますよ」
いつもの首輪型から基本形の黒いだけのチョーカーに戻してそれを指差す真留ちゃん。
「ああ、こっちは嫁さん用なんだ」
機能限定版は本人の意思で外せるので、交換には問題ない。
「で、こっちが指輪。夜寝る前に使わなかったMPをチャージしておいてね」
新婦の手をとり、指輪をはめていく。もちろんMPはすでに1兆ほどプールした状態だ。余っている指輪全てにMPをチャージしておいたのだ。
別に嫁さんを増加させるつもりだったわけではない。もしもの時のためにだ。……華琳はこうなることを予想して100個も発注したのだろうか?
「対魔忍の方ははめらんないか……」
嫁になったことを秘密にするためには、仕方がない。
「持ってるだけでも効果はあるはずだから」
MPチャージ以外にも効果はあるので渡しておく。璃々ちゃんの分みたいにお守り袋に入れておいた方がよかったかも。
朝から気が重くなったが、試験間近なのでちゃんと授業は受ける。
誰も赤点とらなきゃいいな。
巫女装束は注文したけど、すぐには届かないだろうし今日も勉強会か。
「異世界の魔族か。……たしかに奴らは既存の魔族と争っている形跡が見られる」
「だから退魔の力が通用しないのね」
紫とゆきかぜちゃんが頷いている。
勉強会のつもりだったが、身内となったのだから隠し事はなしと情報交換をすることになった。
退魔の力とは、対魔忍が持つ魔族を倒す素質のことらしい。
使徒やファミリアみたいに神の加護じゃなくて、個人の資質なのか。
「たぶん、俺たちみたいに上位の存在の加護の力が大きいのかも」
「こっちに元からいる魔族もダメージを与えられていないの?」
知りたかったことをヨーコが聞いてくれた。
「ああ。奴らは魔族を積極的に狩っている。魔族も反撃はしているが、奴らには効かないようだな」
ダメージが通らないなんてどんなチートだよ、まったく。
神が居れば加護で攻撃を受ける可能性もあるから、神が手放した世界を狙った方が安全なんだろう。……修行神が遭遇しやすい気もするな。
「初めのうちは政府も魔族同士の縄張り争いと見ていたのだが……」
「異世界魔族の目的は縄張りじゃなくて、手下の可能性が高いか」
「でも、それならなんで、こっちの魔族を配下にせずにゾンビやスケルトンを作っているんでしょう?」
む。朱里ちゃんの言うようにゾンビやスケルトンよりも既存の魔族を手下にした方が強いような気もする。よほどのアンデッドフェチなのだろうか?
「魔族たちならなにか知っているかも知れないが……」
「潜入捜査は止めてね」
対魔忍の潜入捜査は失敗するイメージがある。とくにゆきかぜちゃんと凛子は。
「ここに現れたという吸血鬼を逃がしたのは残念だ。そこまで会話をする異世界魔族は珍しい」
「デュラハンは首がないし、バンシーは泣くだけだもんな」
バンシーはあの小メタボ吸血鬼を馬鹿にしてるらしいから、会話はできるらしいけどさ。
「使徒とファミリアの詳しいことは、基礎講習でわかると思う。それ以上のことは俺たちも知らない」
「知らない?」
「使徒になったばかりで日が浅いんだ」
まだ初心者といっても間違いはないだろう。
不安にさせちゃっただろうか? やっぱり秘密にしておけばよかったかな。
「それでは、この男たちを知っているかしら?」
華琳が見せたビニフォンには干吉と左慈の顔が表示されていた。
「いや。何者だ?」
首を横にふる対魔忍たち。
あっぱれの世界と対魔忍の世界が一緒になっているのには絡んでいないのだろうか?
「……敵よ」
ぞっとするほど冷たい声の華琳。
指名手配にでもしてもらった方がいいだろうか?
でも、この世界にいないんじゃ意味はないだろうし、隠形スキルも使えそう。無駄かな。
「そっ、それにしても、みなさんが異世界の三国志の武将とは驚きなのです」
華琳の殺気にビビったのか、真留ちゃんが話題を変えてくれた。
「マジなのか? みんな女だけどよ」
「朱金、こっちでもやっぱ男なんだ?」
「ああ。こんなべっぴんさんばっかなら、オレだってもっと三国志勉強するっての」
ふむ。一刀君の元々いた世界も武将たちは男だったから、それが普通なのだろう。
……同じメーカーさんの世界なのだから、こっちにも聖フランチェスカ学園があるのかもしれないな。たしか地方都市にあったはずだから無事だろう。一刀君がいたらどうしよう?
「心配だったが、この世界の曹操や袁術たちが幽霊で出てきても、あまり気にせずに戦えそうだな」
レーティア、そんなことを考えていたの?
でもそうか。敵はアンデッドばかり。ゴーストやミイラになった三国武将が現れてもおかしくはないか。
「それはそれで面白そうね」
いや、今さら髭面の関羽や劉備なんて見たくないんですが。愛紗たちだけでいいよ。
「こ、この上さらに幽霊?」
愛紗が青い顔になって震えだしちゃった。まだ駄目か。
バンシーとやる時も苦労したらしいもんなあ。
「アンデッド対策にも、巫女修行は必要だよね」
試験が終わったらまずは巫女さんになってもらおう。
あ、水着購入もあったんだっけ。
技もマスターしたいし、夏休みでものんびりなんてできそうにないなあ。
その夜。
試験勉強の合間にロードサンダー以外のバイクをなんにするか悩んでいた俺の元へ華琳たちが現れた。
「追加されたばかりの娘じゃなくて、がっかりしたかしら?」
華琳が連れてきたのは、雪蓮と桃香。
君主3人が揃っちゃった。すごい豪華な組み合わせだよね。
「あの娘たちには悪いけど、先輩を立てて順番は最後ね」
「もう一巡したけど誰がよかった?」
順番を教えてくれる雪蓮と、にこにこと黒いことを言う桃香。
誰がいいなんて、言えるわけないでしょ! 追加の嫁さんたちは一巡に入ってないらしいし……。
「試験がなきゃゆっくり飲みながら話したいとこなんだけど」
「試験がなくても、こっちじゃ駄目。あと、今の俺は飲めないし」
俺も早く元に戻って、嫁さんたちと飲みたいな。
こう暑いとビール美味いだろうなあ。夕食に枝豆が出てきた時のあの物足りなさは辛いよ。
「もうみんなは、こっちに慣れた?」
気を取り直して、ずっと気になっていたことを聞いた。
本当は、こっちじゃなくて俺の嫁さんに、なんだけどなんとなく聞けない。
「もちろんよ。うちの娘たちも問題はないわ」
うちの娘ってのは魏の娘たちなんだろうな。華琳は心配してなかったけど、やっぱり一安心。
「ええ。お酒が飲みにくいのがちょっと問題だけど。呉の娘たちも楽しんでるようよ」
楽しんでる、か。本当なら嬉しい。
「うん。美味しいものもたくさんあるし、みんな元気だよ。困ってる人たちのために戦えてるのも嬉しいかな。愛紗ちゃんが怖がってるのはかわいそうだけど」
蜀組も大丈夫か。
「あとは南蛮の娘たちが心配なんだけど」
「平気だよ。蜀にいた頃、それなりに暮らしていたんだもん。それに、今は華雄ちゃんがついているし!」
桃香もちゃん付けで呼んじゃうか。そうだよなあ。あれは華雄ちゃんだよなあ。鈴々ちゃんより小さく見える。
「麗羽も白蓮をつけておけば、騒ぎを起こすことは少ないわ」
白蓮……。あとで肩揉んであげよう。
美羽ちゃんは、レーティアがついてるから七乃もアホなことふきこみにくいようだ。頼むぞ、レーティア。
「あとは……みんな別に煌一を嫌ってなどいないから安心なさい」
……見抜かれていたか。さすが華琳だ。
「そうだよ、みんな煌一さんのこと、大好きなんだから!」
「あの箱から助け出してくれた時は、7割増し……ううん、3倍くらいの効果でいい男に見えたもの。そりゃ惚れるわよ」
え、えっと、お世辞、だよね?
だって、恩返しで結婚してくれたんでしょ?
「まだ不安なの? それならもっと頑張りなさい。皆があなたを好きだって自分でも納得できるように」
「……うん。がんばるから捨てないでね」
「じゃ、さっそくがんばってもらいましょ!」
がんばるって、そっちを!?
早く元の姿に戻りたいと夜毎に思いながらも、期末試験は乗り切った。
俺はクリアしたが、残念ながら数名補習組は出てしまった。
こちらの事情もあるので補習期間は短め。かわりに課題は多く出されたけど、学力向上のためにもがんばってもらうしかあるまい。
「算数ドリル……ずいぶんと大目に見てくれたんだな」
「水着、ほしかったなあ」
「スクール水着も悪くないよ」
季衣ちゃんと鈴々ちゃんも赤点だったのはがんばってる俺へのご褒美?
璃々ちゃんは特例なので、試験はしたが補習は免除らしい。まあ、補習を受けてる子たちに会いに自主的に補習に出るみたいだけど。
仲良くなった子がいるのか。よかったなあ。
で、水着を買いにいく前に巫女装束が届いてしまった。
運んできたのは越後屋山吹。
彼女の剣魂は倉庫代わりになるとはいえ、直接運んでくるにはなにか理由があるのだろう。
「わざわざ越後屋が持ってきてくれるなんて……何度言われてもあのトイレは売れないからね」
ほしがっていたあの仮設トイレは魔力で動くのでMPのチャージが必要だし。
「いけずやなぁ」
「巫女服はありがとね」
「王子さんは好き物どすぇ」
王子はやめてってば……巫女さんでもないのに巫女装束を大量発注とか、もしかしてコスプレエッチ用って思われてる?
でも、使用方法は言えないしなあ。開き直るしかないかな。
「だってみんなに似合いそうでしょ?」
「そうどすなぁ。ウチにも似合いますやろか?」
え? 越後屋に?
「うーん、微妙?」
「いけずやなぁ」
だって越後屋派手だから、巫女服は向いてなさそう。
「ボクは?」
「はじめちゃんは似合うよ、絶対!」
うん。確信できる。
……あれ?
「お、俺と話すの、辛くない?」
「……怖い、けど、この前のお礼、まだ言ってなかったから」
ああ、失禁の隠滅ね。
「ありがとう……」
「どういたしまして。明命に会いにきたんでしょ、ちょっと待ってて」
「いい。それじゃ……外で待ってます」
越後屋を置いてはじめちゃんは行ってしまった。
やっぱり嫌われてるか。それでもお礼は言うためになんて、律儀な子だ。
「煌一さん、綺麗な指輪をしてはりますなあ」
「そう? 婚約指輪なんだよ……って今度はこれ?」
「ええ。ぱっと見でもええ品やとわかります。けど、素材はわかりまへん。気になりますわ」
そりゃミスリル製だからね。
一見地味だけどドワーフの細工だし。
「特殊な品だから……」
「遠山さんも最近してはりますなあ」
殴る時につけてても壊れないから安心してつけられるって、変な喜び方してたっけ。
「売りもんにはできないから。俺の嫁さん用なの!」
「……それはええことを聞きましたわ」
あれ? なんか余計なこと言っちゃった?
「ほな、また」
去っていった越後屋に不安になる俺。
……いいか。
今は巫女さんの方が先決。
事前に相談しておいたので2面の神社を借りるとしよう。
それなりに大きな神社だったけど、さすがに全員で押しかけるのは気が引けるので、魏の面々と神社へむかう。
なんでも、そっち方面の修行は3つあるらしい。
座禅、滝行、断食。
座禅は坊さんじゃ? とは思ったけど、流派は関係なく使徒やファミリアはこの3つでそっち関連のスキルを習得できるとのこと。
滝行の滝は1面で借りれるらしいので、まずは座禅からだ。……神社でできるのかな?
「あら、師匠の分は?」
巫女装束を入手したはいいけど、着方がわからないので現地で聞こうと2面にやってきた俺たちを待ち構えていた
「俺の分?」
「ええ。正式な装束を纏うことでスキルが入手しやすくなるのですわ。それを知っていて巫女の修行をするのでしょう?」
プラス補正がつくのか。それは助かるな。
「俺はいいよ」
「師匠の能力なら、入手した方がよろしいですわ」
「煌一、巫女服を着なさい」
「隊長なら似合うと思うのー」
華琳と沙和まで。
他のみんなも期待した目をしてる……。
いくら今の俺が声変わりもまだっぽいからって、巫女さんは無理だってば!
「巫女さん好きとして、男が着るのは絶対に認められない! 断固として拒否する!」