真・恋姫†有双……になるはずが(仮)   作:生甘蕉

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78話 西瓜

 本日修行の嫁さんの巫女さん姿をデジカメのメモリーに収めて、俺は神社を出発する。

 いや、もっともっと眺めていたかったのは確かだけど、思春と紫に追い出されてしまったのよ。

「蓮華さまをいやらしい目で見るな」

「修行の邪魔だ」

 2人は口調も性格も似てる。思春も忍者みたいなもんだからかなあ?

 紫のアサギLOVEほどじゃないけど、思春も蓮華大好きみたいだし。

 胸は真逆だけどさ。

 ……なんか鈴の音が聞こえた気がした。これ以上考えるのは止めておこう。

 

 常闇の季節の2面で1人でうろつくのは寂しい。

 寄り道もせずにまっすぐに開発部へと移動する。

「今日も護衛の姉ちゃんなしか?」

「あの子たちは教習所だよ」

 真桜もこっちにきたがったけど、あとでバイクのことを頼むからと教習所に通ってもらっている。

 真面目に行くならと、俺の積みプラモを少し崩してチラつかせたので、しぶしぶ従ってくれた。

 

「無用心ですよ!」

 スーツ姿の瀬戸さんに怒られてしまった。朝からいるなんて珍しいな。

「いくらセキュリティのレベルを上げたとはいえ、天井さんは狙われているのですから」

「左慈と干吉のことはなにかわかりましたか?」

「いえ、残念ながら。ですから、警戒は怠らないで下さい」

 あいつらの情報はゲーム知識以上のものはほとんどない。一刀君も気づいたら人形になっていたらしい。

 いったい何が目的なんだろう?

 

 悩む俺に、十三が上機嫌で告げる。

「昨日のコンカの件な、あちらさんも乗り気らしいぞ」

「もうそこまで話がいったの?」

 早すぎない?

 俺の疑問に答えてくれるのは運営の支部長代理。

「はい。現在、コンビニエンスカードの製造を請け負っている工房は1つだけです。そこは休みなし、深夜残業が当たり前の状態でして、こちらのプリンターの話を持っていったら、是非とも技術協力してくれと泣きつかれてしまいました」

 なんだか卒塔婆を書くのに大変だったっていう坊さんの話を思い出す。

 あれも今はプリンターでやるようになってるんだよな。

 俺のアパートそばの墓地、いつのまにかほとんどの卒塔婆が全く同じ印刷になってたもん。

 

「そんなハードだったんだ。人手増やせばいいのに」

「技術職ですからそんな急に育成できませんよ。ましてコンカの作成は難易度が高いんですから」

 使徒のスキルでも簡単にはいかないほどの品だったとは。

 だからあんなに高価なのね。

 

「チ子とドワーフ数名が試作プリンター持って出張中だ。なんとかなりそうだってさっき電話があった」

「そりゃよかった。これで量産ビニフォンが完成するな」

 ビニフォン完成したら、次は仮設シャワーかな?

 そっちもすぐにできそうな気がする。

 

「仮設トイレの人気も上々ですし、以前と違ってこの第666開闢の間は最近評判いいんですよ。開発部に新聞やテレビの取材申し込みがあるぐらいです」

 仮設トイレはモニター販売の数を増やすか、そろそろ本格販売に移ろうか開発部でも相談しているらしい。

 俺んとこももう数台ほしい。小隊ごとに1つとまではいわないけどさ。

「取材ですか」

「ええ。皆さん忙しいから嫌だとおっしゃるのでお断りさせてもらいましたが」

 それはよかった。

 もし受けていたりしたら、俺はその日は絶対に開発部にこない。

 

「あ、評判いいって、もしかしてそれでGPやGMの入りがよくなったりしますか?」

「もちろんです!」

 ……剣士、お前の収入アップは華佗が聖者様と崇められているせいじゃなくて、トイレのおかげっぽい。

 あいつはトイレの神様なのだろうか?

 あんまりなので教えるのは止めておこう。

 

「それでですね、今日はこれを渡しにきたんです」

 瀬良さんがスタッシュから出したものを俺に渡す。

 見覚えのある大きさの青い箱。

「オール&エンジェルズ、エキスパートセット?」

「はい。第一の救済を完了した神に渡されるものです。本来なら涼酒さんに渡したいところなんですけれど、いつまでも申請がないので、もしかしたら忘れているんじゃないかと」

 あいつならありえる。

 まだなにか忘れていることがあるかもしれない。あとで確認しておこう。

 

「申請なしでもらっちゃっていいんですか?」

「いえ、天井さんが申請して下さい」

 差し出された用紙に必要事項を記入して青箱と交換する。

 受け取ったってことで、もうこの青箱のデータもコンカやビニフォンで参照できるのかな?

 

「師匠、エキスパートセットを学べば、技のことがおわかりになりますわ」

 なんと。第一の救済を完了すれば使えるようになるってそういうことだったのか。

「それは助かる」

 魔法や剣の訓練をしているとはいえ、左慈に勝つには不足してる気がしてたもん。これでみんなもっと強くなれる。

 

 

 今回修行の呉のみんなが真面目だったのか、座禅修行で巫女スキルを習得できなかったのは雪蓮とシャオちゃん、七乃の3人だけだった。

「まさか美羽ちゃんがあっさりマスターしちゃうなんて」

「さすがは私の妹だ」

 開発部でマインを調べていたレーティアが嬉しそうに美羽ちゃんの頭をなで、七乃が悔しそうにしている。もちろん、スキル習得に失敗したことじゃなくて、美羽ちゃんをとられた方が悔しいのだろう。

 きっと七乃は巫女さん美羽ちゃんに夢中で煩悩の塊だったに違いない。

 

「雪蓮、寝ていなかったか?」

「そんなことないわよー」

 冥琳の確認にそっぽを向いて答える小覇王。

「……もしかしてお神酒飲んじゃったりしてないよね?」

 あ、雪蓮だけじゃなくて、祭まで目をそらした。なにやってんのさ、まったく。

「シャオはそんなことしてないもん。集中できなかっただけなんだから!」

「うん。次はがんばろう」

 ちらりといまだになでられている美羽ちゃんを見てから俺の方を向くので、要求されてるのとわかりシャオちゃんの頭をなでた。

 

「それではいってきますわ」

 チ子が戻らないので、ワルテナの案内で小隊を再編成した雪蓮たちは2面の滝へとむかった。

 当然、俺はついていけない。無念だ。

 俺も濡れ透け、いや、精霊を見たかったのに。

 

「で、この後はどうする?」

 巫女姿を見せたのに穏ばかり見ていたミシェルを怒っていたクラン。飽きたのか俺に問う。

「巫女修行を兼ねて聖水や聖インクの製作」

 結界用のお札ももっとほしいし、巫女スキルのレベルを上げといて損はないだろう。

 

「武器もお清めしたいが、それはもっとレベルを上げてからの方がいいか。コストもかかりそうだ」

「聖水を水鉄砲で使ってみたらどうだ?」

 クランと梓の案から考えてみる。

 たしかに武器を強化して使徒やファミリアじゃなくても、異世界魔族にダメージを与えられるようにというのは巫女修行の目的の1つだ。

 

「聖水で武器を濡らして……いや、それだと効果があまり持続しそうにない……武器にお札を張るか」

 攻撃力アップの呪符を用意して、それを使えばいけるかもしれない。

「なんかそれ、かっこ悪くない?」

 小喬のツッコミに少し迷う。

 たしかに俺はプラモの箱や古本についている値札のシールは剥がすタイプだ。お札が張られている武器は微妙かもしれない。

 

「結界符のように見えなくなる効果もあればいいのでは?」

「おおっ、さすが亞莎! ……でも、効果時間を考えると見えてた方が交換しやすいだろうし……」

 その手の呪符は効果時間は短いと思う。プリンターの量産品ならなおさらのはずだ。

 

「異世界魔族を倒せるのなら、見た目などにこだわる必要はない」

 紫に促されて、とりあえず作ってみることにした。

 

 

「呪符印刷用のソフトがもうできてるとかすごいな」

「まあ、この程度なら現代エルフの手にかかれば余裕だな」

 年賀状作成ソフトを思い出すそれは、魔力パターンの種類によって文字や図形の色が違うようになっていた。実際に印刷する時は黒一色だけど、これはわかりやすい。

 

「やはり高価なものほど使用されている魔力のパターンは多いな。煌一、いけるか?」

「なんとかなる。インクも足りそうだ」

 魔法使い系のスキルなおかげか、ソフトとプリンターによる作成でも呪符スキルの熟練度が貯まってレベルが上がっている。サンプルに購入した呪符の解析や魔力パターンの模倣は可能だった。

 

「あっさり完成しちゃったけど、効果はどうなんだろう?」

 プリントアウトされたお札を見ながら首を捻る。

 アイテム鑑定してみたが、どれほどの効果があるかがよくわからない。

「実際に使ってみるしかないでしょ」

「雪蓮、もうおわったの?」

「ええ。みんなちゃんと覚えたわ」

 おお、これで夕飯抜きは避けられそうだな。

 

「シャオ、がんばったよ」

「お疲れ様」

 再びシャオちゃんの頭をなでながら話を続ける。

「実際にって、俺たちが使ったんじゃ効果は確認できないけど」

 使徒やファミリア以外が異世界魔族にダメージを与えられるかが重要なわけで。……それ以前の問題として異世界魔族に遭遇しないといけないし。

 

「ならばそれは対魔忍で調べさせてくれ」

「紫?」

「捕獲したゾンビに使ってみれば少しは効果がわかるはずだ」

 ……異世界魔族はともかく、俺たち以外が使っても効果があるかは調べられるか。

「わかった。それしかなさそうだ」

 俺はお札の束を紫に渡す。……字はいっしょだけど、おフダの束より札束(さつたば)の方がいいな。

 

 その後、戻ってきたチ子たちとコンカ用のプリンターを作成したり、紫にポータル特訓をしてから屋敷に帰った。

 

 

「ビデオ鑑賞?」

「うん。とりあえず観てくれ。そうしなければ心が通じあえんっ!!」

 夕食後、マクロスをみんなで観る。サウンドエナジーシステムの稼働率を上げたいし、なにより俺の大好きなアニメだからね。

 

「はぅあっ!? 同じ名前なのです」

 ミンメイの登場に明命が驚いている。喜んでいるのかな?

 でもふられちゃうんだよな……。

 

「飛行機がロボなりよった!」

 真桜はもう飛行機やロボの基礎知識は持ってるのか。でも可変メカは知らなかったようだ。

 

「これ、おいら知らないよ」

 デザートのスイカを食べながらのロリ眼鏡。

 ……って、比良賀(ひらが)(てる)

 瓦版の取材や変な発明をする、ルートによっては悪役に回るあっぱれの不人気ヒロイン。

 それがなんでうちに?

 

「あ、てるてるはなんかアニキの素顔をスクープしたいらしーッス」

 俺の訝しげな視線に気づいたのか、柔志郎が教えてくれた。

「ふっふっふ。可愛いって噂の王子様の素顔は、おいらが激写させてもらうよ」

「なにその噂。断固拒否するから帰って」

 指輪に魔顔封じを仕込んだとはいえ、俺の呪顔を見られるのはやはり不安だ。許可などできない。

 

「そんなつれないこと言うなよ。おいらもこのアニメの続き、気になってるんだよ」

「……そういうことなら観てっていいけど、俺の顔は諦めてくれ」

「そうです! 煌一殿のお顔を見ていいのは妻のみです!」

 愛紗の宣言に嫁さんの多くが頷いていた。

 俺の顔は嫌いじゃなくなっているみたいだと、喜べばいいんだろうか?

 

「もしも嫁さんや娘たちのパンチラ狙っているなら……」

「それは無理だったから諦めたよ」

 おや? 妙に物分りがいいな。こんな娘だったっけ?

 不思議に思いよく観察すると、背後を変に意識しているっぽい。そっちには……華琳?

 ふふっと楽しそうに微笑んでいる。輝になにかしたんだろうか?

 ……したんだろうなあ。

 

 数話で鑑賞会を終えて柔志郎に確認する。あの娘と契約するつもりなのかと。

「やっぱわかるッスか?」

「そりゃ柔志郎は眼鏡フェチだからね」

 あっぱれには眼鏡っ娘が少ないから、いろいろと問題のある輝にも甘くなっちゃうのかもしれない。

 他は由比(ゆい)雪那(せつな)ぐらいか。彼女はまだクーデター計画してるんだろうか?

 あ、詠美ちゃんも時々眼鏡をしていたか。

 

「迷ってるんスよね」

「俺としては反対したいとこだけど……」

 ロリ体型だけど性格に難ありだもんなあ。

 柔志郎のとこはファミリアが少ないから、もう少し人数がいてもいいとは思うけどさ。娘たちに迷惑がかかるのは避けたいわけで。

 

「よく考えてから決めてくれ」

「わかってるッス」

 もし契約しちゃったら、面倒なことになりそうだな。

 開発部の連中とは仲良くやってくれそうだけどさ。

 

 

 この学園島で結婚した嫁さんたちとの夜の2周目は、1周目と同じ順番や組み合わせではないようだ。

 1周目で固定だった嫁レンジャーの順番も変わっているみたい。

 今夜の当番はヨーコ、翠、蒲公英ちゃん、白蓮の4人だった。

 ポニーテール率高いな。

 

 4人が巫女装束じゃないのがちょっと残念。

「はやくバイクに乗りたいよな」

「ああ、かなり速度も出るっていうから楽しみだ」

 免許所得までにバイク用意しないとな。

 ……問題は車検か。光姫ちゃんか対魔忍に相談して車検を通してもらった方がいいのかもしれないな。

「たんぽぽは海の方が楽しみかなー」

「海か。懐かしいな」

 ヨーコはグレンラガンの海話を思い出しているのかもしれない。

 

「西瓜割り用に西瓜とっておけばよかったかな?」

「あの西瓜おいしかったねー。あ、お姉様、ちゃんとトイレ行ってきた? 水分たくさんとったんだから注意しないと大変だよ!」

「なにが大変だって? ちゃんと行ってきてるって。綺麗にしとかなきゃいけな……って、なに言わせんだよ!」

 真っ赤になって蒲公英ちゃんにゲンコツを落とす翠。

 

「お姉さまが勝手に言ったのに……」

「あのトイレ、煌一たちが作ったんだろ? すごいよなあ」

「ほとんどレーティアだよ」

 そっちの機能は、まだ怖くて試していない俺。まあ、一番恩恵にあずかってるのは俺なのは確かなんだけどね。

 

「煌一はバイクと海、どっちが楽しみ?」

「海でしょ、みんな水着だし」

 ヨーコの問いにたんぽぽちゃんが答えてしまった。当たっているだけに悔しい。なので別の回答を考える。

 

「俺が楽しみなのは……本番かな、やっぱり」

 最大MPもすごい事になってるから、そろそろ卒業したいなあ。

 その前にまず元の身体に戻らないとだけどさ。

 

「な、なにいってんだよ!」

「本番か……」

「そっちも楽しみだねー」

「……バカ」

 照れている嫁さんたちはとても可愛らしくて。

 かなり夜更かしすることになっちゃった。

 

 


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