「瞬く間すらなかった頃から比べれば雲泥の差ね」
華琳ちゃんが上機嫌。
人間でいられる時間が延びているので、ゆっくり話もできる。
「煌一の身体も少しだけど頑丈になってきている。この僅かな期間でと考えればたいしたものよ」
殴られ蹴られ続けたおかげで、耐性・打撃スキルも1レベルになった。
上昇率はMPほどではないが、最大HPも増加中。痛い思いをしている甲斐があるというものだ。……耐性・痛みスキルがあるから耐えられてるんだけどさ。
「使徒になったってのは、本当みたいだね」
じゃなければ、いくら殴られ続けても成長期の過ぎてしまったおっさんが急にここまで打たれ強くはならない。
……使徒って人間止めちゃったってことになるのかな?
強くなってもちょっと複雑な気分。
「私が使える時間が増えたとはいえ、一撃での負傷が大きい方がいいのでしょう?」
「そうなんだけど、殺さないでね。使徒って復活できるみたいだけどGP掛かりそうだからさ」
「早くそのじいぴいを稼ぎにいきたいわね」
ぬいぐるみとなってクレーンゲームの景品となっている他の恋姫キャラを助けるため、少しでも早くGPを稼ぎたいのだろう。
華琳ちゃんの気持ちはわかるし、協力もするつもりだけどもう少し待ってほしい。
「基礎訓練を終えないと出陣できなくて、基礎訓練を終えちゃうとこの回復できる病室の使用が有料になる」
痛し痒しだ。
俺がされてしまったという使徒の成長システムは、能力やスキルを使えば使っただけ鍛錬度、熟練度が貯まり、それが一定値になると能力値、スキルレベルが上昇する。
敵を倒して経験値でレベルが上がるというものではないのだ。まあ、敵を倒して入手できるGPを使用して能力値やスキルレベルも上げられるようだが、GPはクレーンゲーム用にとっておかなければいけない。
だから、無料回復ができる内に最大HP、最大MPはできる限り上げておきたい。
痛いけど、ほぼ寝てるだけで済むこの特訓は非常に楽だし。
既に最大MPは34万を超えた。計算するとだいたい1.8倍ペース。かなり高い上昇率だ。
満タンから一気に全部のMPを使いきってるのがいいのだろう。
次の成現でもう1時間以上も華琳ちゃんが人間でいられるMPが手に入るはず。
嬉しいが、そうなるとMPを使いきるのが面倒になるな。
1時間分のMPだけを使えるようにコマンドオプション考えてみるか?
いや、それだと鍛錬度の貯まりが悪いかも。一度に全MPを使うことを考えた方がいいかな。
「俺の担当が楽な世界だといいなあ」
「敵が多いほうが稼ぎやすいわ」
そりゃそうか。楽にGPが稼げる世界だといいな、が正解か。口には出さないけど。
「敵、か。人間じゃないといいけど」
「人間でないこともあるというの?」
「田斉君のとこはゾンビらしいよ。……動く死体」
「僵尸?」
キョンシーって恋姫の頃の中国にもういたっけ?
……ああ、萌将伝の台詞で出てきたかもしれない。
「キョンシーみたいに跳ねたりしないんじゃないかな」
あのゲームでもやってもらった方が説明しやすい。あ、TV放映された映画のやつ、録画してあるからそっち見てもらった方がはやいか。
「最近の物語だと、ゾンビに噛まれたり引掻かれたりして怪我しちゃうと、そいつもゾンビになっちゃうのが多いね」
「伝染病なの?」
「物語によってはそんなのも多いかな。……だとするとその治療方を見つけるのが、田斉君の世界の救済?」
墓場の死体をゾンビにした吸血鬼もいたけどさ、日本は火葬が多いからね。
あ、平行世界の日本だと違うのかもしれないか。
「まだ帰ってこないなら後で連絡した方がいいか。聞きたいことも多いし」
コンカでメールを確認するが『お巡りさんゾンビが見つからんぜよ』としかきてなかった。
もしかして、俺が頼んだせいで拳銃を入手できるまで帰ってこないつもりか?
「伝染病なら華佗に診てもらうという手もあるわ。あの箱にいたはずよ」
名医華佗か。
ゾンビ治療くらいはできるかもしれない。それに回復役はほしいし。
でも、駄目。無理。
別に男だからって理由じゃない。
「……華佗のぬいぐるみって下の方に埋もれてたんだよね」
卑弥呼と貂蝉のは取りやすい位置にあったのに、華佗は他のぬいぐるみをいくつか取ってからでないと無理だ。
手持ちのメダルでは足りない。
「そう。やはり先立つものが必要なのね」
「世知辛いね、使徒だっていってもさ」
華佗に治療してもらえるようになれば、無料治療を諦めやすくなるのに。
俺自身が回復手段をマスターする方が早いか。
「手持ちのスキルで使えそうなのを伸ばすか」
回復系のスキル、使徒の初期スキルで持ってないかな。
キャラシートを取り出して調べてみる。……相変わらず、目に付く位置に輝く童貞の二文字。これがあるからあんまり見たくないのに。
「ん? なんだこれ? スタッシュエリア?」
今まで気づかなかったけど、1枚目にあるってことは初期スキルか。レベルも0じゃなくて1だし。スキルの解説も隠されてなくてちゃんと読める。
……アイテムを収納できる個人用の領域?
マジですか。あのポケットや金ピカさんの宝具みたいな、定番能力があるってこと?
「どうしたの?」
華琳ちゃんがキャラシートを覗き込んできたので、慌てて童貞の箇所を隠した。
「べ、便利そうなスキル持ってたんだ!」
「どんな?」
「スタッシュエリア……直訳すると『ヘソクリ領域』になるのかな」
なんか締まらないけど、あっているよね。
実家にいた頃これがあれば、あの抱き枕買ってたのに……。
「臍繰りはわかるとして、領域? それは土地や場所であって能力ではないのではないかしら?」
「見ればわかるよ。……これがいいか」
手近にあったDVDのケースを持って、スタッシュエリアと念じる。
うん。思ったあたりの空間に黒い穴が出てきた。この穴に……ちょっと怖いな。
中を覗いても、真っ黒でなにも見えない。真横からだと全然見えないってことは厚みが全くないのかも。
大丈夫かな? 恐る恐るそこへDVDごと手を突っ込んだ。
「な!?」
華琳ちゃんが驚くのも無理はない。俺の手が空中で消えてしまったのだ。横から見ると途中で切断されたみたいになっている。
もちろん無くなったわけではない。ちゃんと感触はある。俺はDVDをその穴の中に置いて、手を穴から出した。穴はすぐに消えてしまった。
自分でも心配なので、握ったり開いたりしてみたが異常はない。
「大丈夫なの?」
「うん。さっきの穴がヘソクリ領域みたい」
コンカを調べてみると、スタッシュエリアの項目があり、中身も表示できた。
もう一度スタッシュエリアを呼び出して手を突っ込みDVDを出すと、コンカの方は中身はなにも表示されなくなった。
「MP消費もなし、か。便利だな」
キャラシートの方も確認すると、スタッシュエリアスキルの熟練度がほんのちょっとだけ増えていた。
マニュアルで調べてみる。
ふむ。レベルが上がると収納量が増える、か。上限があるのね。多量の物品を長時間入れておいた方が熟練度が貯まる、と。
もっと早く気づいていればよかった。
む。収納された物は変化しない?
お湯なら冷めず、氷ならとけないらしい。
……中の時間は止まっているってこと?
もっと早く気づいていればよかった。
おにぎりと麦茶、入れておけばよかった。
ベッドのおかげで空腹感がないので結局余っちゃってるんだよね。
食べられないことはないかもしれないけど、1日経っちゃったしなあ。焼きおにぎりにするか。
……百貨店で売ってみるかな?
ともかく、熟練度稼ぎのために手持ちのアイテムをスタッシュに入れてみた。
「それもしまってしまうの?」
ノートパソコンまで入れたので華琳ちゃんに聞かれた。
「うん。ちょっと時間がもったいないけどMPが満タンになったら、一度アパートに戻ろうと思う。涼酒君たちと電話もしたいし」
持ってきた物はたいして多くなかったせいか、全部スタッシュに入ってしまった。まだ余裕がありそうだ。
アイテム入手の可能性がある出陣先ならともかく、ここで隙間があるのは残念だ。戻ったら色々ぶちこもう。
「あと、百貨店にも寄っていくから」
「なら早くなさい。夜になるわ」
MPがフル回復したので外に出たらもう夕方だった。華琳ちゃん時間感覚しっかりしてるなあ。
来た時と違って今は手荷物が少ない。戻ってしまった華琳ちゃんのぬいぐるみのみ。
さすがに華琳ちゃんをスタッシュエリアに入れるのは躊躇われる。
気になっていた太陽はといえば、位置は相変わらずサイコロの中心みたい。ただ、色と強さが変わってちゃんと夕日っぽくなっている。沈まずにこのまま消えるのかな。
百貨店に到着したら、コンカでアイテム売買の場所を表示させる。
「サービスセンターか」
表示された店内図を頼りにサービスセンターに向かった。
着いてみるとやっぱり人はいない。
どうしたものかと、マニュアルを出すためにぬいぐるみ覇王様をサービスセンターのカウンターに置いた。
途端に、紙が数枚カウンターに現われた。
1枚を手にとって見てみると『買取』と一番上に書かれていて、物品欄には『人形』と既に記入されている。
「華琳ちゃんは売らないからっ!」
慌ててカウンターからぬいぐるみを抱き上げると、紙も消えた。
しかしやり方はこれでわかった。
スタッシュからラップにくるまれたおにぎりを2個取り出し、カウンターに載せる。
現われた数枚の用紙を調べてみる。
1枚は先程と同じ『買取』。
1枚は『修理』。
1枚は『強化』。
1枚は『合成』。
はい?
買取りはわかるとして、残りはなに?
……まあ、おにぎりを強化や合成しても意味なさそうだし、後でマニュアルで調べよう。
買取の紙をチェックする。物品欄に『食品』、個数は『2』。
GP欄に表示された額のあまりの低さにやっぱり傷んでいたのか、と食べなかったことにほっとした。
……修理したら高くならないかな?
修理の用紙を見たら、修理代が今の買取GP以上。これってもしかしたら損しちゃうか。
焼きおにぎりにしてもう一度試すかな?
でも、物品欄に出た表示には『傷んだ食品』ってなってないし……あれ?
さっきのは人形でこっちは食品? ずいぶん大雑把だな。
カウンターに備え付けのペンを手にとって、買取用紙の物品欄にペンを近づけると、食品と書かれていた文字が消えた。
デフォ名みたいなものだったのかな。
そこに『傷んだおにぎり』と書いてみる。
わ! 金額が上がった。
用紙をよく見ると備考欄に『初物ボーナス』と表示されている。個数も『1』に変わっていた。
「初物? ……初物お供え?」
運営が神様だからなのか?
よくわからないけど、その用紙を『記入した用紙はこちらへ』と書かれた箱のスリットに差し込んだ。
すると、おにぎりの1個が消える。
コンカで所持GPを確認するとたしかに用紙に表示された金額分増えていた。
もう一度、買取用紙に『傷んだおにぎり』と記入したが、今度はさっきの半額。初物ボーナスは倍の額で買取ってくれるということか。
これなら初物限定だけど、間違えて売ってしまったものも買い戻しやすいかもしれない。
残ったこのおにぎりは焼きおにぎりにすれば、初物になって高く売れるだろう。
……ふと、イタズラに近い気持ちで買取用紙の『傷んだおにぎり』の後ろに『(ゆかり)』と追加してみた。
初物ボーナスがついてしまった。
「いいのかこれで!?」
腑に落ちない気持ちがあったが、当然それも売ってしまう。
ちゃんとボーナス付きの額でGPが入っている。
なんかモヤモヤしないでもないけど、売るときは細かく書いて売ることにしよう。
地下の食品売り場に行ってみると、売ったおにぎりがあった。
「ちゃんと傷んだおにぎりってなってるし……」
表示と売値を見ているとモヤモヤが大きくなりそうなので、すぐに屋上へと向かうことにした。
屋上のゲームコーナーでメダル売り場を探す。
「……高い」
傷んだおにぎりで換算すると1000個や2000個じゃメダル1枚にもならないぐらいに高い。
こんな高いものを涼酒君はくれたの? 彼、かなり大
あとでしっかりお礼言っておこう。
メダルの追加は叶わなかったが、クレーンゲームは確認しておく。
「うん。ちゃんとまだあるみたいだよ」
安心できるようにぬいぐるみ華琳ちゃんを持ち上げ、その目にクレーンゲームの中のぬいぐるみたちを映す。
「思った以上にメダルが高かったけど、きっとみんな助けるからね」
前回は気づかなかったけど、ゲームコーナーの隅っこに小さな丸テーブルと交流ノートがあった。
真っ白だった交流ノートに備え付けのペンで『クレーンゲームの人形は変えないで下さい』と記入しておいた。
まあ、華琳ちゃんの話だと大丈夫そうだけど念のためにね。
そうだ、クレーンゲームを見て思い出した。涼酒君が言っていた鑑定のスキルを試してみよう。
クレーンゲーム機を見ながら念じる。
「鑑定!」
叫ぶ必要はないんだけど、つい、ね。
……頭になんとなく、クレーンゲーム機の型番だとか、壊せそうにないな、とかが浮かぶ。あくまでなんとなく、ぼんやりと。
確信て感じじゃない。スキルレベルが高くなれば違うのかもしれないな。
自分の目で鑑定なしでよく見たら、型番が書かれている場所を発見。鑑定する必要って……。破壊不能がわかるだけでもすごいか。
あ、そうか。
コンカに鑑定内容を表示させてみる。こっちの方がわかりやすい。システムツールのスキルレベルが上がってるからこれができるのかな?
あのおにぎりを鑑定してたら傷んでるかどうかわかったかもしれない。実は傷んでなかったらもっと高く売れたかも。
アイテム売る時は鑑定も使うようにしておこう。
試しに華琳ちゃんぬいぐるみを鑑定したら、『恋姫†無双ぬいぐるみ 曹操』としか表示されなかった。
鑑定ももっとスキルレベル上げておくか。
既に外は真っ暗。
街灯の明かりはあるけれど、人の姿は全く無い。
無人だとわかっているけど怖いなあ。風もないのに寒気がしてきた。
風か。風魔法とかあるのかな。空気を動かすイメージ?
空気……空気か。
「スタッシュ!」
スタッシュの入り口を呼び出して、手で空気を押し込むようにしながら、入るだけ空気を入れると念じてみる。
「イン、空気」
ヒュッ、という音とかなりの風が吹いて、俺がよろける。華琳ちゃんを落とさないように慌てて強く抱きしめた。
スタッシュホールの付近の空気が一気に無くなって、風が吹いたみたいだ。
「空気inスタッシュの方が正しいんだっけ?」
どうでもいいことを呟きながらコンカで中身を確認すると、ちゃんと空気が入っていた。量は……m3、
「スタッシュ……空気アウト!」
再び、風発生。
今度はちゃんと身構えているから大丈夫。
「ふふ……ははははは!」
MP消費なしで風魔法っぽいことができた!
使いどころあんまりなさそうだけど、なんか嬉しい。
っと、もう一度空気入れてスタッシュを満タンにしておいて熟練度を貯めよう。
なんかさっきからシステムの不備をついたセコイことばっかりしてるけど、気のせいだ。
俺はもはや夜の無人街も怖くはなく、軽い足取りでアパートへと帰った。
出迎えてくれたコンバットさんの報告ではゴキブリは出てないらしい。よかった。
安心して部屋の掃除を始める。
華琳ちゃんを成現するのにちらかってちゃまずい。もう見られているとはいえ、ね。
掃除が終わったら、シャワーで身体のほこりを落として食事の準備。
冷蔵庫の中にも生鮮食品はないが、問題はない。
スパゲティの乾麺を茹で、その隣でレトルトのミートソースを鍋で湯煎。手抜きだけど、材料がないので勘弁してもらおう。
出来上がったスパゲティを2つの皿に盛り、ミートソースを袋から出しながらかける。
フォークだけじゃなくて箸も用意して、飲み物はカップスープ。
よし、準備完了!
「右の腕で触れしもの、魔力にて成現せよ!」
俺の家で女の子といっしょに食事、テンション上がるよね。
「こう?」
教えたら華琳ちゃんはすぐにフォークでの食べ方を覚えてしまった。もちろんスプーンなんて使っていない。
綺麗に巻いて俺より上手いぐらいだ。
だって俺、普段はスパゲティも箸だからさ。
「赤いから驚いたけれど、辛くはないのね。悪くないわ」
「それで最初、躊躇してたのか。辛いの苦手だって知ってたのに説明しなくてゴメンね」
「べ、別に躊躇ってなど……」
あ、赤くなった。照れてるのも可愛いなあ。
照れ隠しなのかスープを一気に飲み干した華琳ちゃん。
その次の台詞で今度は俺の方が真っ赤になる。
「それよりも、あなたさっきお風呂に入ってきたのよね? 私も入れるかしら?」
「お、お風呂? い、いや俺はちょっとシャワーを浴びただけで……」
におうなんて言われたから気になってたし。
「しゃわあ?」
「お湯や水が、小さい穴のたくさん開いた筒から出てきて、それを浴びるんだ。お風呂はちょっと沸かしてる時間なさそう」
華琳ちゃんが成現できてる時間はあとどれくらいか計算してみる。
うん。残っている時間は30分もないか。今から沸かしてだとゆっくり入れないよね。
「そう。それでいいわ。しゃわあを使わせて」
「で、でも、もし途中でぬいぐるみに戻っちゃったら大変だよ」
シャワーだから湯船で溺れるようなことはないだろうけど、ぬいぐるみが濡れると面倒そう。
「ならばいっしょに入りなさい」
「い、いっしょに!?」
お、俺が華琳ちゃんといっしょにシャワー!?
そんなことが許されるの?
「早くなさい。時間が惜しいわ」
急かされた俺は、慌てて食器をシンクの水を張った洗面器に入れた。ミートソースって落ちにくいからね。華琳ちゃんの服に飛ばなくてよかったな。
あ、華琳ちゃんの着替え。
「か、替えの服なんてないんだけど」
「あなたの服でいいわ」
か、彼シャツ!?
……いや、彼氏じゃないけどさ。
箪笥から大き目のワイシャツを取り出し、華琳ちゃんに見せる。
「これでいい?」
「大きいけれど仕方ないわ」
よかった。大きめのシャツで裸ワイシャツというロマン装備になってくれる!
はだワイには靴下が必要かどうかで友人と激論になったっけ。懐かしいな。
あとは新品のバスタオルもおろして、こんなもんでいいかな。
緊張しながら風呂場へと案内する俺。
「これは?」
「洗濯機。洗濯物を洗う機械なんだ」
「便利な機械ね。これも洗えるかしら」
言いながらも華琳ちゃんは脱ぎ始めていた。も、もう!?
心の準備が完了する前の出来事に俺は激しく気が動転。気絶しなかったのは、EPも増えていたからに違いない。
「あなたは脱がないの?」
既に下着姿となった華琳ちゃん。脱ぐの早いな。
「お、俺はさっき浴びたから」
できるだけ見ないように視線を逸らせて答えた。
俺の前で簡単に脱いじゃうのは、もし俺に襲われても簡単に倒せるからなんだろうな。
「こちらを向きなさい。女の裸を見るのが初めてというわけではないでしょう?」
ごめんなさい。ナマで見るのは初めてです。
モニタ越しにはよく見たけどさ。
無言の俺に華琳ちゃんも察したらしい。
「そ、そうなの?」
「……俺の呪いは話したでしょ」
「そうだったわね。ならば初めて見るのが私だったことを光栄に思うのね」
下着までも脱いでしまった。
小さな身体に小さな胸だが、それでも柔らかそうな曲面と白い肌。そのあまりの美しさに俺は目が離せない。
「……」
「黙ってないで、感想は?」
「綺麗だ……」
綺麗。自分の語彙の少なさに呆れるが、そうとしか言えない。ずっと見ていたい。
「ふふ。さあ、しゃわあを説明して」
「う、うん」
浴室のドアを開けて華琳ちゃんを案内する。
「ずいぶん狭いわね」
「ごめん。庶民の風呂場なもんで」
……訓練場へ行く途中に銭湯があったな。GPが貯まったら連れていこう。
「浴槽は空ね。しゃわあは?」
「これだよ」
シャワーヘッドを持って華琳ちゃんに渡す。
「このホースを伝わってお湯が流れてこの穴から出るんだ」
「なるほど」
「ここのハンドルでお湯を出すんだ。赤がお湯、青が水。出すよ」
切替は蛇口のまま、2つのハンドルを捻りお湯を出す。しばらく手で確認しながらお湯の温度を調節。
「下から出てるわよ」
「温度見てたんだ。そっちに回すよ」
切替をシャワーへ。
「きゃ」
可愛く驚く裸の美少女。
「けっこう力強く出るのね」
自分の手でシャワーから出るお湯を確認している華琳ちゃん。
「もう少し弱くする?」
「いえ、これぐらいでいいわ。温度も調度いい」
「そう。持っていると大変でしょ。そこに固定すれば両手が使えるよ」
壁の固定具を指差したが、拒否された。
「髪が濡れてしまうわ。形が崩れるのは嫌よ」
ああ、くるくるがない時の姿を見られるのは駄目なんだっけ。
ここにはドライヤーしかないし、田斉君の世界でセット用の道具を探すことも考えないと駄目かな。
でも、髪を濡らさない様にってどうすれば……アップにしたり、頭になんか被せて入ればいいんだっけ。けど今さら……。
「じゃ、じゃあ俺が持つね」
名案だ、と華琳ちゃんの両のツインテールを俺が持ち上げた。
って、なにしてる、俺!?
いきなり髪に触ったら怒られる!
「そう。お願いするわね。髪は濡らさないでね」
……あれ? 大丈夫なの?
華琳ちゃんは片手でシャワーヘッドを持ちながらお湯を浴びていく。
「いいわね、このしゃわあって」
「う、うん」
いいのは華琳ちゃんの身体です。お湯でほのかに赤くなった肌がこれまた綺麗で。
眼鏡をくもり止め加工しておいてよかった!
間近に見ていて、もうどうにかなっちゃいそうなくらい頭が熱い。
「ふう。こんなものかしら。止めていいわ」
ある程度身体にお湯を浴びて満足したのかな。
華琳ちゃんがシャワーヘッドをむこうに向けたのを確認してからお湯を止めた。
「そろそろ時間かしら。上がりましょう」
……華琳ちゃんの裸に夢中になり過ぎて、石鹸のこと教えるの忘れてた。
バスタオルで身体を拭いてもらってから、華琳ちゃんにワイシャツを渡した。
「ぬいぐるみになった時、この服はどうなるのかしらね」
どうなるんだろう? ……って、華琳ちゃん、下着はつけないの?
「もし私の服が残っていたら、洗濯をお願いできるかしら?」
「はい喜んで!」
実家での家事手伝いで、女物の服の洗濯やアイロンがけもできないこともない。
お袋のだったけど。
「どうやら時間のようね」
あまり裸ワイシャツ華琳ちゃんを堪能することなく、すぐに時間切れになってしまった。
やっぱりもっともっとMPを増やそう!
華琳ちゃんの着ていた服はそのまま残り、華琳ちゃん自身は、はだワイぬいぐるみになっていた。
ぬいぐるみを下から覗き込もうとして、戻った時のことを考えて思いとどまる俺。でも、どんな造形になっているか気になるなあ。
まあ、今日はさっきの華琳ちゃんの姿を思い出せば3回はいける!
……華琳ちゃんに見られると困るからトイレでか。
忘れないうちにさっそく……っと、先に華琳ちゃんの服を洗濯しておこう。
明日出かける時までに乾かなかったらさっきの風魔法モドキを使えばいいかな。
そして、俺はあることに気づく。
華琳ちゃんの下着、やっぱり手洗いの方がいいよね。
……その時、においとかかいじゃったりしてもおかしくないよね?