真・恋姫†有双……になるはずが(仮)   作:生甘蕉

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79話 大蛇

 早朝。

 朝食の用意を軽く手伝ってから、梓たちともに近所の公園に出かける。

「おはよう、お父さん」

「おはよう、璃々ちゃん」

 連れて行くのはほとんどがロリっ子たち。

 ちゃんと着替えて顔も洗ってはいるが、まだ眠そうだ。

「ぐー」

「……ぐぅ」

 風とシャムちゃんは寝てるし。

 愛紗がシャムちゃんを背負って運ぶのか。起こせばいいのに。

 風は結局寝たふりだったのか、すぐに起きてついてきてくれた。

 

「おはようございます、梓先輩!」

 公園で出迎えてくれたのは乙級の子供たちだ。

 あくび混じりの俺たちよりもはるかに元気のいい挨拶。

「おはよう、みんなきてるか?」

 梓はその子たちと軽く会話した後、持ってきたラジオのスイッチを入れた。

 聞き覚えのある懐かしい曲が流れてくる。

 そう。ここにきたのはラジオ体操のため。

 屋敷でやればいいのにとも思うが、やはり雰囲気は大事だ。

 

 夏休みだというのにあまりかまってあげられない璃々ちゃんや娘たち、それに嫁さんたちに少しでも夏休みらしい気分をと始めたのだ。

 梓も妙に乗り気だったしね。

 乙級生徒は同じ乙級の嫁さんたちが声をかけたら集まってくれた。

 公園の使用はちゃんと奉行所に許可をもらっているので問題はない。

 

「おいお前、新入りだな」

 体操後に乙級の男の子に声をかけられる。

 新入りって、たしかに俺は初日寝坊して朝食抜きだったり、2日目は朝食の準備を手伝ったりしていてくるのは初めてだけどさ、ここでラジオ体操始めてまだ3日目じゃないのか?

「お前は誰派?」

「は?」

 スタンプカードを懐から出しながらそんなことを聞く乙級男子。

 さっきからお前って言ってるけど、もしかして俺も乙級だと思われている?

 俺、これでも最高学年ですから!

 さらにいえば正体はおっさんですから!

 

「僕、典韋さん派」

 背後から別の乙級男子がそう宣言した。

 それに続くように次々と俺の周りで誰派かを名乗りだす男の子たち。

 ああ、そういうことか。

 集まってくれたのは、嫁さんたちのファンだからだったのね。

 

「みんな人妻だよ」

「そんなことはわかってんだよ。オレは梓先輩を見れればいいだけで……」

 最初に話しかけてきた子は梓のファンだったか。

 それが聞こえたわけでもないだろうが、梓がこっちへとやってきた。

「おっ、仲良くなったみたいだな、煌一」

「えっ、煌一ってもしかして……」

「そ。こいつがあたしたちの旦那。仲良くしてやってくれよ」

 ぽんと俺の頭に手を置く梓。旦那と言いながら完全に子ども扱いじゃね?

 

 なんか男の子たちに睨まれてるんですけど。

 いや、男の子だけじゃなくて乙級だと思われる女の子たちにも。

 ……たった3日でけっこう集まっているな。

「人数増えましたね」

「明日にはこの公園では入らなくなるんじゃないでしょうか?」

 話しながらも凪と亞莎ちゃんが子供たちが出すカードにスタンプを押していく。2人は梓に引っ張られて初日からずっと参加している。

 

 最終日にスタンプの数に応じてなにかあげる予定らしい。

 今時の子供はノートや鉛筆じゃ喜ばないだろうに……。嫁さんたちのサイン入りブロマイドでもあげようか?

 そんなことを考えながら子供たちを眺めていたら急に梓が泣きそうな弱々しい声で呼んだので慌てた。

「煌一……」

「ど、どうした?」

「……霊が視えるスキルをいれてくれ」

 言われるままに、神職スキルで派生した霊視スキルをONにすると子供たちのそばに多数の霊の姿が視える。

 でも、不思議と恐ろしい気はしないのは朝だからだろうか?

 

 帰り道を歩きながら事情を聞いた。

「あの子たちな……トウキョウ出身なんだ」

「……あれは両親なのか」

「たぶんな」

 そうか。霊となっても子供のことが心配でそばにいるのか。

 だから怖くなかったのかもしれない。

 

「大江戸学園でも長期休暇には帰郷する者が多い。……それが叶わぬ者たちへのケアも必要じゃろうな」

 光姫ちゃんも痛ましげだ。

「せっかくの夏休みなのに、余計に悲しくなるなんて可哀想なんだよ」

 梓も両親を早くに亡くしている。他人事に思えないのだろう。

 たしかにずっと学園島にいるんじゃ寂しい夏休みだろうだけどさ。

「どっか旅行にでも連れてってやりたいけど、かなりの数がいるんだろ?」

「万は超えるのう」

 どこかのボランティアか地方自治体が招待しようにも多すぎるか。

 俺たちにもどうにかすることなんて……。

 

「あ、お盆になにかイベントでもあれば楽しい思いでもできるかな?」

 お盆のイベントといえばコミケなんだけどさ。ビッグサイトは無理だろうからどこでやるのかな? まさかメッセ?

 

「旅行は無理だから……キャンプでもするか?」

「キャンプ場なんてあったっけ?」

「いや、校庭にテント張って」

 みんなで花火したりキャンプファイヤーしたりもいいかもしれない。

 テンション上がって暴走する生徒が心配ってのはあるが。

 

「ふむ。目安箱に陳情してみるかの」

「公園借りる時にも世話になったとこのか」

 あっぱれ主人公である八雲君の店にある目安箱。奉行所が認めているものだ。動くのは主に八雲君なんだけどさ。

 光姫ちゃんは俺と八雲君を会わせたいのか、よく目安箱を使おうとする。十兵衛の弟だから俺と仲良くさせたいんだろうね。

 

 彼と会うたびに顔に落書きしたくなるんだよなあ。

 だってさ、妖怪食っちゃ寝といる八雲だよ。額に无ってないと物足りないでしょ。

「彼は帰郷してないの?」

 たしか本土に祖父母がいたはずだ。

 ……あれ? 十兵衛の祖父母にもなるのかな?

「お盆には帰るらしいよ」

「光姫ちゃんは?」

「トウキョウを取り戻すまでは帰らん」

 そうだな。あの子たちの両親の仇もとりたい。

 はやく聖鐘(ホーリーベル)ができてくれないかな。

 

 

 夏バテ防止にも朝食はしっかりととって、お勤め開始。

 昨日あっさりと済んだので、今日の巫女修行は補習と教習所に行く残りの未修得の嫁さん全員。

 人数は多いけどやることも多いのよ。

 巫女さんだけじゃなくて、技もマスターしないといけない。

 宿題もあるし、課題の多い夏休みだねえ。

 

「本当に夜なのね」

「1日中、夜なんて大変だな」

 朝なのに真っ暗な2面は、異世界だって認識しやすいかな?

 期末試験のために先送りにしてたけど、新しい嫁さん……ファミリアに基礎講習もしてもらわないとなあ。

 

「みんなすごく似合っているよ」

 今までと同じく、感激しながら巫女さん姿を撮影する。

「と、桃香さまといっしょに撮ってくれ!」

 焔耶のように誰かと写してくれという注文にも答えながら撮影を終えた。

 

「月のデータ、あとでよこしなさい」

「恋殿の写真がほしいのです!」

 自分たちだってビニフォンでバシャバシャ撮っていたくせに俺の成果も要求する娘たちも当然いる。補習参加のため、こっちにこれない猪々子も欲しがりそうだ。

 華琳や蓮華の写真をあげた嫁さんたちのように喜んでくれるだろうから、ちゃんと渡すよ。……「ご苦労」とぐらいしかお礼は言ってもらってないけどさ。

 

「さすがに全員同時に座禅は大変だから、ポータルスキル覚えてない子は先にそっちからね」

 今日初めてサイコロ世界にきた詠美ちゃん、結真ちゃん、文、真留ちゃん、朱金、ゆきかぜちゃん、凛子のことだ。熟練度を稼ぎやすいよう、俺の小隊に編成している。

 

「これを行き来してるだけで習得できるなんて……」

 基礎講習をまだ受けていない詠美ちゃんが信じられないのも無理はない。

 使徒、ファミリアのスキルは、習うより慣れろみたいだもんなあ。

「なんか飽きてくるぜ」

「遠山さま、真面目にやって下さい!」

 だらけた朱金が真留ちゃんに叱責されてるし。

 

「そろそろ交代の時間かな? まあ軍師じゃないんだからすぐには覚えてないだろうけど……」

 1時間ほどポータル特訓をしたのでビニフォンで確認したら、詠美ちゃんと凛子がすでにポータルスキルをマスターしていた。

「さすがは次期生徒大将軍候補か」

「私は将軍選挙には出ません」

 ファミリアになったからそれは助かるけどさ、やっぱりまだエヴァに利用されていたことを気にしているんだろうな。

 

「凛子先輩なら当然」

 なぜかゆきかぜちゃんがドヤ顔。

 凛子の空遁は空間跳躍もあったはずだから、転位系のスキルは向いているのかも。

 当の凛子は逆にあまり嬉しそうではない。

「……しかし、皆が簡単にこのスキルを使うとなると私の立場がないな……」

「いや、ポータルはマーキングしたとこしか使えないし、隊長は小隊ごとだったりと条件もあるから」

 凛子ならマーキングのスキルもすぐに覚えてくれそうだから、空間系のエキスパートになってくれるはず。

 それに巫女さん姿もすごい似合っているし!

 

 座禅修行を終えたみんなが報告にやってくる。

「月もがんばったわ」

「へぅ……」

 どうやら月ちゃんも無事スキルを習得できたらしい。

「よくがんばったね」

 月ちゃん以外にもかなりの人数が巫女スキルをマスターしていてくれた。

「さすが恋殿なのです!」

 ねねが喜ぶように恋も習得していたが、彼女もこのまま1面に行き、滝行をしたいようだ。

 どうやらエルフの森には多くの動物もいるらしい。モブが人じゃなくて動物だったりするんだろうか?

 滝行を終えた嫁さんたちからその話を恋は聞いているみたいだ。

 

「行っておいで。恋は試験もがんばったんだしそれぐらいはいいよ」

 時々授業中に寝てたり、サボったりしてると聞くけど、恋は赤点をとらずに補習を回避している。

「煌一もいっしょに行く」

「ごめん、俺はあっちに行けないんだよ」

 俺が断ると落ち込んだのか、黙ってしまう恋。

「恋殿のお誘いをけるとはなにさまのつもりですか!」

 一応、夫です。

 誘いを蹴ったせいで、ねねの蹴りをくらう羽目になってしまった。

 

「こ、煌一さん!」

「あ、あの……」

 巫女スキルを入手できている朱里ちゃんと雛里ちゃん。その後ろでワルテナが微笑んでいる。

 たぶん、ワルテナに誘われたのだろう。

「ワルテナの誘いじゃ仕方ないよね」

「師匠、お2人をお借りしますわ」

 軽く頭を下げると、ワルテナはポータルで朱里ちゃんと雛里ちゃんを連れていってしまった。

 ……技のこと、聞きたかったんだけどなあ。

 

 その後は俺の小隊のみんなが座禅。

 習得できなかったのは朱金だけだった。

「あれ?」

「遠山さまは、みなさんのことばかり見ているからです!」

 ……滝行も失敗しそうだけど、だいじょうぶかな?

 

 小隊を再編成して、スキル未習得者は1面へ。

 俺たちは開発部に移動しポータル特訓を再開した。

「残りはエキスパートセットのマニュアルを勉強してくれ」

 1冊しかなくても、ビニフォンでもマニュアルは見れるので問題はない。

「了解。わからないとこはカミナやミシェルに聞くわ」

「……うん」

 浮気はしないと思うけど、心配になっちゃうんだよなあ。

 

 

 滝行に行った娘たちが戻ってきた。

「麗羽と朱金がまだか」

「この私がてこずるなんて、おかしいですわ!」

 袁家の幸運でもスキルの習得はできなかったらしい。ある意味予想通りだけど。

 美羽ちゃんがすぐに巫女スキルを手に入れられたのは、満月戦の時に歌った祝詞ソングとその練習で熟練度が貯まっていたのかもしれないな。

「いやぁ、あの絶景で集中しろってのは無理だろ?」

「遠山さま!」

 朱金もブレない。……俺も見たかったな。

 

「……お土産もらった」

 手に果物のたくさん入った籠を持っている恋。

「そうか。ありがとうな、チ子」

「渡したのは年寄りたちよ。連中、あの子たちがあんなに懐くなんて驚いていたわ。恋、またいつでもおいでね」

「うん」

 エルフたちも恋のことを気にいったか。

 これで武力もとんでもないってわかったらもっと驚いてくれるかな。

 

 昼食後、また小隊再編成をして、戻ってきた朱里たちにポータル特訓をまかせ、俺はあっぱれ対魔忍世界へと戻る。

 そしてすぐに護衛の凪たちとともに港へ移動した。

 そこで待っていたのは光姫ちゃんと光臣。

「なんだ、文は一緒ではないのか」

「まだポータルを覚えていなくてね」

 契約小隊長による熟練度ブーストがないから、今日中に覚えられるかも微妙なとこだけど。

 

「約束どおり、スカイタワーの電波範囲外で剣魂を使う現場を見せてもらうぞ」

「そのつもりだよ。そっちも開発は進んでいるの?」

「基礎は完成している。データ収集用に第1段階のを持ってきてやった」

 早いな。やはり能力は高いか。

 性格に難ありだからファミリアにはしないけどね。

 

 用意された船に乗りこむ俺たち。

 学園島が見えなくなった辺りで光臣に問う。

「この辺でいいか?」

「そうだな」

 金属片を取り出し、さらに計測器を調べ始める光臣。

「ああ、ここならばいいだろう。出してみろ」

 出してみろって相変わらず偉そうだな。

 光姫ちゃんを見ると、彼女はこくりと頷いていつも持っている杖でデッキを叩いた。

 周囲にきらきらとした粒子が集まって、2体の剣魂が形作られていく。

 

「……ほう」

 光臣は、現れた剣魂スケとカクに計測器を向け、さらに直接手で触れて確認した。

「たしかに範囲外での発現だ。ふむ」

 今度は計測器を光姫ちゃんに向けている。

「これでわかったじゃろう。トウキョウでも剣魂は使える」

「……わかった。ならばこれを試せ」

 スケ、カクを戻した光姫ちゃんが金属片を受け取り、今度はそれを掲げた。

 

 さっきの2体よりも大きな剣魂が出現する。

「……蛇?」

 そう。現れたのは巨大な蛇。あの酉居の剣魂、クチバミよりもはるかに巨大で、そして頭部は8つ。

八岐大蛇(ヤマタノオロチ)か。……そうか、分離するのか」

「ほう。それを見抜くか」

 モデラーなめんなよ。分割線がなんとなくわかるっての。

 

「な、なにを冷静に話してるの! 船が大変なの!」

 沙和が慌てるように突然の巨大質量の出現で船は大きく揺れていた。

「ヤマ、分離して海へゆけ」

 光姫ちゃんの指示で8体の大蛇に分離すると、海に飛びこんでいく蛇たち。

 分離させたのは飛沫や揺れを減らすためなんだろう。

 しばらくして揺れが収まると大蛇たちは船の周りにぷかぷかと浮いていた。

 

「ヤマ?」

「かっかっか。八岐大蛇だからヤマじゃ」

「安易な」

 不機嫌そうな光臣。別の名前があったのかもしれない。

 でも、キュウビだって九尾の狐からでしょ。たいしてかわらないって。

 

「……まあいい。そのままどのぐらい離れられるか調べろ」

「うむ。ヤマ」

 大蛇たちは頷いてすいすいと離れていった。泳げるのね。

 

「100メートル前後といったところか。やはり中心は貴様だな」

「さすがじゃの。いかにもあれはわしの力じゃ」

 光臣の推察を肯定する光姫ちゃん。

「貴様の範囲内だったのに俺では剣魂が発現しない。貴様専用の耀界とは……」

 敵に使われることを気にしなくていいのか。便利なスキルだなあ。

 

「……体内に発生装置を内蔵したにしては出力が大きい。水戸の貧相な身体には収らないだろう……となると衛星から? ならば室内で試せば……」

 ぶつぶつと呟きながら思考を始める光臣。それを光姫ちゃんが止める。

「なにをたわけたことを言っておる。それよりも、肝心の遺体処理の方はどうなっておる?」

「その機能なら出来上がっている。確認したいのなら死体を用意するがいい」

 まあ、そりゃそうだな。

 実際にやってみないと確認はできないけど、死体なんて入手できないから確認はしてないか。

 

「……わかった。次はそれのテストかの」

「そうだね。早いこと完成させた方がよさそうだ」

 俺のビニフォンにメールが届いていた。

 

 それは、聖鐘の入荷の予定日が決まったという瀬戸さんからのメールだった。

 

 




今回巫女修行のメンバー

蜀小隊
 ヨーコ、桃香、朱里、雛里、紫苑、桔梗、焔耶、月、詠

その他小隊
 レーティア、麗羽、斗詩、恋、華雄、音々音、柳宮十兵衛

煌一小隊
 煌一、詠美、結真、文、真留、朱金、ゆきかぜ、凛子


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