真・恋姫†有双……になるはずが(仮)   作:生甘蕉

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80話 敵拠点

 聖鐘(ホーリーベル)完成。

 ついに待ち望んでいたメールが届いた。

 予定だからまだ手に入ったわけじゃないけどね。

 

「聖鐘?」

「アンデッドに効く浄化アイテムらしい。ゾンビタウン対策としても使われているものらしいから、効果は高いはずだよ」

 屋敷に戻り聖鐘のことを告げると、みんなが喜んでくれる。

 特にこちらの世界の娘たちが。

「これでトウキョウを取り戻せる」

「卒業後の進路に頭を悩ませている生徒にも朗報でしょう」

 トウキョウを解放できれば雇用も拡大するか。

 それとも、大江戸学園の卒業生が通う大学を用意するのかな? 

 

「喜ぶのは早いわ。やつらの拠点を発見し破壊しない限り、それは無理でしょうね」

 華琳の指摘通り、ゾンビたちを浄化できたとしても、異世界魔族を駆逐しないとトウキョウ奪還とは言えないだろう。

 そのためには敵拠点の見つけないといけない。

 

「それなら心当たりがある」

「心当たり?」

 頷く紫。対魔忍たちはすでにやつらの拠点を突き止めていたのだろうか?

 

「都庁だ」

「都庁って、新宿の?」

「そうだ。拠点かどうかは不明だが、首なし騎士(デュラハン)泣き女(バンシー)の出入りが確認されている。それなりの施設だと思って間違いはないだろう」

 都庁か。ゾンビたちの親玉の拠点がそこってGガンかよ……。デビルなんとかって巨大モンスターいないだろうな?

 

「もっと早く教えてくればいいのに」

「攻めるつもりか?」

「当然ッス! キタアヤセ駅の仇は討つッスよ!」

 柔志郎、そこは都民の仇じゃないか?

 まあ、拠点攻撃には賛成だな。

「拠点破壊にはアイテムがいるんじゃなかったか? 剣士にも相談しないといけないな」

 言いながらビニフォンでメール。

 今のあいつなら拠点破壊アイテムぐらいは買えるだろう。

 貧乏駄神を脱出したはずだから。……トイレの神様に転職(クラスチェンジ)してるかもしれないけどさ。

 

「その、都庁の情報を教えてください」

「皆さんが苦戦しているという首なし騎士のことももっと知りたいですね」

 朱里ちゃんと稟に軍師たちも頷く。やっと自分たちの仕事ができると張り切っているのかもしれない。

 

「デュラハンは私たちが倒す」

 凛子とゆきかぜちゃんがいつも以上に真剣な表情になっていた。

 彼女たちは、弟、恋人である人物をデュラハンに奪われたのだから当然か。

「仇を討ってあげるわ、達郎……」

 巫女スキルを入手することで霊が視えるようになった彼女たちは、凛子の弟でゆきかぜちゃんの恋人だった秋山達郎の霊を視ていた。

 2人を心配しているのか、そばにいたようだ。レベルが低いせいか視えるだけで会話はできないのだが、対魔忍のハンドシグナルである程度の意思疎通はしているらしい。

 張り巡らせた結界符に阻まれて、達郎の霊が屋敷には入れなくなっているのがよかったのか、悪かったのか……。

 

「そのデュラハンは拠点から引きずり出しておこう」

「守り手のいない拠点の方が攻めやすいですからねー。キタアヤセ駅のように」

「篭城されると困ります」

 呉の軍師たちはデュラハンたちよりも拠点破壊の方を重視か。

 ファミリアは倒してもカードになって復活されてしまうから、拠点を破壊するのが優先なのは当然だね。

 キタアヤセ駅は留守中に破壊されたそうだから、そのお返しをするのもいいかもしれない。

 

「やつらをおびき寄せるってこと? それとも満月、県境にきてる時を狙うのか?」

「わざわざ敵が強い時を狙ってどうするのよ」

 ……満月の夜はアンデッドが一番強くなるんだっけ。

 馬鹿にした目で俺を見る桂花。

 

「あの程度なら問題ないだろう? わたしが蹴散らしてくれる!」

「さすが春蘭さまですねー。でもやっぱり昼間に行くべきなのですよ」

「夜更かしは美容の敵だぜ、ねーちゃん」

 春蘭を止める風と宝譿。

 春蘭がなにか言いかけるが、風は先に寝ていた。

 

「そう。ちまちま隠れながらってのをやっと止められるのね」

「雪蓮?」

「やつらをおびき寄せるんでしょ? 派手にやっていいのよね!」

 楽しそうだな。拠点攻略組よりも囮役を選ぶのか。

 おびき寄せるってますますマスター登場回っぽいな。卑弥呼を復活させてたら「ハメルンの笛吹き!」をやってくれたんだろうか? ……卑弥呼にはおさげがなかったか。

 

「やっと暴れられるんすね、姫!」

「私の美貌を隠すのはいけませんものね」

「囮役ですよぉ、麗羽様」

 麗羽たちで作戦をわかっているのは斗詩だけか。

 ……留守番しててもらった方がいいって思うのは気のせい?

 

「新宿駅は京王線と小田急小田原線が終点だからこっちの拠点になるッス。作戦前に確保してくるッス」

 敵の拠点近くにこっちの拠点か。便利だけどばれないようにしないと。

「新宿から離れた都内で暴れればおびき出せるかな?」

「キタアヤセの時は大火災をおこしたら、調査にきたのでしたね。数日続けて現れなければわかりやすい異常事態を起こしてみましょう」

 異常事態、か。

 隠形をOFFにしてれば現れてくれると思うけど、ゾンビも集まるだろうし。

 

「大音量で歌ってもらうか?」

 ゾンビも弱体化できて一石二鳥だろう。

 宣伝カーで……いやステージカーを用意しての方がいいか。

 がんがん歌ってもらってればさすがに異常を察知するはずだ。

 

「私たちの歌はバンシーたちに勝ってるから、デュラハンが出てくる可能性は高いな」

 うん。レーティアのステージも見たい。というか保存しておきたい。ディスクロン部隊(マサムネたち)に録画してもらおう。

「今度こそ妾も、三度爺い死捨てを動かしてみせるのじゃ!」

「サウンドエナジーシステムですよ、お嬢様」

 美羽ちゃんもやる気になってるね。懐いているレーティアの前でいいところを見せたいのかも。

 

「ワタシは直接戦いたいんだが……」

 不満気な焔耶。ダンス指導だったから歌には自信ないのかな?

「楽器でもあの機械は起動するんだよ。ドラムとかやってみない?」

 ビヒーダはドラミングでサウンドエナジーを発生させていた。焔耶にはドラム、向いてそうだし。

「楽器でいいなら冥琳もいいじゃろ」

 そうか。他の娘たちも稼動させられるか試すのもいいな。

「桔梗も笛が得意だったよね」

「ど、どうしてそれを知っておる」

 萌将伝でイベントあったからねえ。

 トラウマ克服にもいいんじゃない?

 作戦会議は夕食後も続いた。

 

 

「ミシェルも作戦には参加してくれるぞ」

「ああ、ワルテナも魔族との戦いには呼べって言ってたもんなあ」

 自分の管理した世界を異世界魔族との戦いで失ったワルテナは魔族をものすごく憎んでいる。それは普段のお嬢様キャラの仮面を忘れるほどだ。

 

「閨でもその話ですか? 今は戦いよりも我らを見ないと失礼というものですぞ」

 むう。星の言うとおり、嫁さんたちのことを考えたほうがいいか。

 今晩の当番はクラン、星、朱里ちゃん、雛里ちゃんの4人。

 1順目でもこの組み合わせで、クランが妙にお姉さんぶっていたな。

 星に張り合っていたんだろうか?

 

「ちゃ、ちゃんと勉強してきたのでまかせてくだひゃいっ!」

「ぜ、前回よりもうまくやれましゅ……」

 真っ赤になったロリ軍師2人はテンパってるっぽい。さっきの会議ではそんなことなかったんだけど、こういうのはまだ慣れてないのか。

 

「勉強だと? なぜ私も混ぜんのだっ!」

「ならば次はお誘いしよう、クラン殿」

「うむ。頼むぞ!」

 クランと星は仲がいいのかな?

 ……ふと頭に浮かんだのはノリノリで華蝶仮面してるクラン。しかも巨人バージョンで大華蝶ってロボ枠で。

 

 

 翌日から今まで以上に気合を入れて鍛錬の日々。

 俺は長所を伸ばすために魔法の特訓に集中。

 技も気になっているが、そっちは凪や対魔忍にまかせた。対魔忍の遁術は魔法だけじゃなくて、技扱いのもあるらしいからね。

 CPのCはチャクラのCなんだろうか?

 

 まだな娘たちには基礎講習も受けてもらった。

 詠美ちゃんや結花ちゃんまでトウキョウ奪還に燃えている。

 歌唱班も歌や楽器のレッスンを続け、柔志郎たちは拠点を増やしながら新宿を目指した。

 

「ウエノ駅を確保したッス!」

 この報告をした時の柔志郎はかなり上機嫌だった。

「スタッシュがもっと大きければよかったんスけどねえ……」

 お気に入りの車両を持ってこれなかったことに不満そうではあったが。

 

「ならば、俺たちも協力しようか」

「いいんスか?」

 人数が多い俺たちの小隊の共有スタッシュなら先頭車両ぐらいはなんとかいけるかもしれない。

 トウキョウを解放しちゃったら火事場泥棒まがいの稼ぎはできなくなるだろうし……。

「あ、でも鉄道会社が無事ならスタッシュに入らないかな?」

「……そうだったッス。鉄道会社さんに迷惑はかけられないッス」

 がっくりと膝をつく柔志郎。

 見ていて痛々しい。

 

「元気出せって。あとで鉄道模型を成現(リアライズ)してあげるから」

「マジッスか!? 嘘じゃないッスっよねっ!!」

 一瞬で立ち上がって俺の前に出現した柔志郎。いつの間にこんな触れるほど間近に?

 凛子みたいに瞬間移動とかできるの?

「あ、ああ。上野駅ならすぐそばにでっかい玩具店があったから、入手できるんじゃないか? そこにほしいのがなかったら、秋葉原に出れば専門店があったはずだ」

 あそこはオタクの聖地だ。いくらヒキコモリだった俺でも何度も行ったことがあるのでそれぐらいはわかっている。

 電車に乗ると痴漢に会うので自転車で長い時間かけて行ったんだけどさ。そのおかげで上野秋葉原間がかなり近いことも知ってるし。

 

「そうだったッス! 秋葉原に行くッス!」

 物欲を刺激されたのか彼女はかなりやる気になっている。

「もちろん、秋葉原に行くのなら、俺も付き合おう」

 特訓した魔法スキルも実戦で使いたいしね。

 ヤマちゃんも完成したから、ゾンビを倒したとしても後始末の心配もない。

 

「お(フダ)だけじゃなくて、ヤマちゃんのテストもつきあってくれたんだって?」

「対魔忍の確保していたゾンビを使っただけだ。聖水、呪符ともに効果は確認できた」

 紫たちのおかげで対魔忍との協力体制も進んでいる。

「ヤマちゃん?」

「ああ、なんかメスらしいから」

 オスでもヤマちゃん呼びはあったかもしれないけどね。

 

「ヤマちゃんはおいらの大魔神相手でもタメはると思うよ」

 結局、柔志郎は輝をファミリアにしてしまった。口封じのためにやむなく、と言っているが気が合ってるのかもしれない。

 輝ももちろん基礎講習は終えているし、ポータルもマスターした。大江戸学園ではファミリアの力は使わないように厳命している。

 今のところそれを守っているのは、破るようなら開発部には連れていかないと約束したからだろう。予想通り開発部の連中と意気投合してるもんなあ。

 

「てるてるとヤマちゃんのおかげで遺体を放置しないでいいのは助かっているッス」

「遺体ん処理は初めて見たときは若干引いたわ」

 智子の発言ももっともだろう。遺体の処理はヤマちゃんが丸呑みという形なのだから。

 ヤマちゃんが体内に取り込んだ遺体は瞬時に各種データをとられて、その後圧縮される。保管場所の問題もあるため、遺品ごとだ。情報は逐次データベースへと転送され、圧縮された遺体はわずか数センチの塊となる。

 火葬もしないのはかなり気が引けるが、遺体の数が多すぎて火葬場じゃ間に合わない。腐敗や虫がわくことによる疫病の回避のため、やむを得ない処置ということで政府も了承している。

 

「安全確認では俺も引いた」

 生きた人間の場合はセーフティが働き、処理されることはない。光臣が自分で咥えられて証明した。いくら自分の作品とはいえ、その自信はさすがだった。

 

「オレらも使えたらよかったんスけどね」

 ヤマちゃんは合体剣魂であり、コアが複数ある。そのため、分離状態なら複数の人間が呼び出せるのだ。

「どうやらこっちの人は耀界スキルを持っているらしいね」

 契約してくれた光姫ちゃん、十兵衛、詠美ちゃん、結真ちゃん、文、真留ちゃん、朱金、輝の全員がそのスキルを持っている。そして人数も8人。ちょうどよかった。

 ちなみに呼び出すためのアクセスコードを刻んだアイテムは勾玉だった。……八岐大蛇なんだから、天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)草薙剣(くさなぎのみつるぎ)じゃないの? とは思ったが、分離状態での召喚を考えてこの形にしたらしい。今は8つの勾玉をそれぞれが所有している。

 

「呪符を武器に貼れば私たちがデュラハンにダメージを与えても、ファミリアになったってことを隠せるわね」

 ゆきかぜちゃんがファミリアになっていることが広まると、母親を人質に彼女を利用しようとするやつが現れそうなのでまだ秘密にしてもらっている。

 残念ながら、まだ母親の消息は不明だ。

 

「お袋さん、まだ見つからないの?」

「……ああ。闇の都市に異世界魔族が現れて魔族狩りをおこなっているらしい。そのせいでむこうの情報が入りにくくなっている」

 紫からの情報で唇を噛むゆきかぜちゃん。

 早くお袋さんと合わせてあげたい。……でもそうなると、娘さんを下さいって挨拶しなきゃいけないんだよなあ……。

 

 

 アキハバラ到着。

「……やっぱりいたか」

 メイド喫茶の呼び込みや、なにかのイベントだったのかコスプレしたゾンビに遭遇してしまう。

「容赦がないな。お前にしては珍しい」

「パパと呼びなさいってば」

 3桁に及ぶマジックミサイルでコスプレゾンビたちを即座に殲滅。欠片しか残らないほどに粉砕した俺に驚くゆり子。

 俺のこれは同情だろうか? 俺だったらあんな姿での死体はさらしたくない。……どんな姿でも死体はさらしたくない気もするけどさ。

 

 その後もゾンビを倒しヤマちゃんに処理してもらいながら、各店舗を漁る。

「雛里ちゃん、これ!」

「あわわわ、朱里ちゃんそれって……」

 朱里ちゃんと雛里ちゃんは薄い本やソフトを集めていたり。

 

「プレイする時間あるかしら?」

 華琳はエロゲーですか。

 楽しそうに選んでいるね。余計な趣味を教えちゃったのかもしれない。

 あ、今スタッシュに入れたそれ、一見百合ゲーみたいなパッケージだけど女装主人公なんだよ。……また俺に巫女服着せようとしたりしなきゃいいなあ。

 

「1日じゃ無理かも……」

 俺も欲望のままにプラモやガレキをスタッシュに入れまくる。

 華琳じゃないけど、作ってる時間なんかないのになあ。

 あ、このフィギュアもほしいけど、エロすぎて置き場に困るな……。

 

「隊長、なんだか辛そうですね?」

「そう? 楽しそうに見えない?」

 ……物欲は満たされるが、同士といえるオタクたちのゾンビを始末するたびに俺は悲しくなっていく。

 霊視のスキルをONにすれば、フィギュアやゲーム機を手にした幽霊たちが俺に微笑んでくれている。自分の遺体を傷つけた俺を責めるのではなく、礼をするかのように頭を下げる霊もいた。

 それが悲しい。

 

「生きた君たちとオタ話をしたかったよ。……呪いがあるから直接は無理だけど掲示板ごしにでもさ」

 異世界魔族許すまじ!

 ガンプラを片手に俺に敬礼する幽霊たち。死んでもオタクはやっぱりオタクのようだ。

 俺も敬礼を返しながら、やつらへの怒りをつのらせるのだった。

 

 

 数日後。

「やっと補習が終わったのだ!」

「これでみんなと鍛えられますね、春蘭さま」

「うむ。華琳さまに賢くなったわたしを見てもらおう!」

 赤点組も補習授業が終わり、これで安心してトウキョウ決戦に参加してもらえる。

 それに合わせるかのように、聖鐘も剣士に届いた。

 

「シンジュク駅も拠点にしてあるッスよ!」

 敵地なのにやつらに発見されずに拠点確保なんて、もしかして柔志郎も忍者?

「地下鉄の線路を使って、地下から向かったんや」

「おいらの特製トロッコが役に立ったんだよ」

 輝と契約した柔志郎の目は確かだったってことか。

 ……そういうことなら教えてくれれば俺だって車両ぐらい用意したのにさ。

 

 っと、イジケてる場合じゃないか。

 見てろよ異世界魔族……。

 トウキョウは返してもらう!

 同士たちの仇も討たせてもらうから!!

 

 


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