真・恋姫†有双……になるはずが(仮)   作:生甘蕉

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82話 イェーガーじゃない方の

 巨人ならぬ巨骨、がしゃどくろ。

 ゾンビと同じく頭部を破壊しなければ動きを止めることはできないようだが、10メートルを超えているだろう身長のせいで攻撃が届きにくい。

 鍛えたおかげで多少の自信があった俺のマジックミサイルもなかなか通じず、連射しまくってやっと倒したのだが、他にも十数体現れてしまった。

 立体起動装置を作っておけばよかったなあと後悔する俺。このシチュエーションにぴったりの装備だったのに。

 

 そのピンチで突如がしゃどくろが爆発。それに続くビルの屋上からの声。

 発生源に目をやれば、逆光で姿がよく見えないけど予想通りの人影。

 ……もう日が傾いているのに、あの位置で逆光はおかしい。もしかして光源を別に用意してるんだろうか?

 おや、2人いるみたいだ。

 片方はロム兄さんとしてもう片方は誰だろう。そっちががしゃどくろを攻撃したのかもしれない。

 

 ――ロム・ストール。

 世紀末で伝説な救世主と時代劇を足したようなロボットアニメ、『マシンロボ クロノスの大逆襲』の主人公だ。

 クロノス族という機械生命体で、天空宙心拳伝承者。

 ファンからは『ロム兄さん』と呼ばれている。

 

 俺たちと同じくロム兄さんに注目していた異世界魔族たち。

 肩が爆発したがしゃどくろがその破損を再生しながら、名前のとおりにがしゃがしゃと顎を動かした。

 それだけで声は聞こえなかったが、ロム兄さんには十分だったようだ。

「貴様らに名乗る名前はない!」

 やっぱり今のを「誰だ貴様?」って強引に解釈してくれたか。

 生でこの台詞が聞けるなんて、使徒になってよかった!

 

 ビルから飛び降りるロム兄さん。もちろん両腕は大きく広げてのジャンプだ。シュタッと着地し、いつのまにか持っていた剣、『剣狼』を掲げ、そして高く放り投げた。

「天よ地よ、火よ水よ! 我に力を与えたまえ! パァイル、フォォーメイションっ!!」 

 え、いきなりそっち?

 空中の剣狼が強く輝き、青いロボット(ケンリュウ)が召喚されロム兄さんを包み込むように合体する。

 さらにもう一回り大きな赤いロボット(バイカンフー)が現れ、同じようにケンリュウを包み込んで合体(パイルフォーメーション)が完成した。

 

「思ってたほど大きくありませんですわ」

「そう? あんなもんでしょ」

 いつのまにか俺の背後にいたらしい戦女神(ワルテナ)。彼女の言葉どおり、バイカンフーの身長は6メートルに届かず、がしゃどくろの方が頭3つぐらい大きく見える。

 あのマトリョーシカ合体は、自らの手足を合体先の手足に差し込むという構造なので、あれ以上の大きさはおかしいはず。

 ……アニメではもっと大きく見えたり、スパロボでは10倍に誤植されてたりするけどさ。

 

「ワルテナ? それではあの……ロボットはあなたの?」

 ロム兄さんの前口上とバイカンフーにさすがに驚いたのか、華琳にもいつもの鋭さがない。

「ええ。うちの使徒()ですわ。師匠、遅れてごめんなさいですわ」

「いや、いいタイミングだったよ。それにバイカンフーまで……本人以外は用意できないんじゃなかったっけ? 開発部の連中の作ってわけじゃないんでしょ?」

 

 ワルテナの固有スキルは英霊召喚。戦死した魂を呼び出し、復活させることができるらしい。

 彼女の使徒やファミリアのほとんどがそれによって復活した死者だ。ただし、呼び出せるのは本人のみで、生前の装備は持っていないと聞いている。

 

 ロム兄さんもワルテナによって復活した英霊である。

 スパロボなどで初めてマシンロボに触れたファンにはあまり知られていないが、彼は故人だ。

 マシンロボは人気が高く、ロムの妹レイナ・ストール――彼がロム兄さんと呼ばれるのは彼女のおかげ――を主人公とした続編OVAが作られている。その『レイナ剣狼伝説』においてロム兄さんは亡くなった。

 もしさらにこのシリーズの続編が作られたりしたら復活する可能性はあるだろうけどさ。それとも剣狼伝説がなかったことにされたりするのかな?

 以前、聖鐘(ホーリーベル)の申請やエロ神情報でお世話になった際に、お礼として教えたマル秘情報、それがこのロム兄さん死亡だった。おかげでワルテナは俺のことを師匠と呼んでいる。

 

「剣狼はアーチャー君が投影してるのですわ。彼の撮影がおわるのを待っていて、この時間になってしまったのですわ」

「アーチャー……あの番組の?」

 華琳たちが驚いている。サイコロ世界で人気らしいアーチャーもどき特訓番組を見て知っているもんなあ。

 

 ワルテナの使徒の中にアーチャーもいたんだっけ。たしかに彼の能力ならば……むしろ、ロム兄さんにとっては必須の存在か。

「じゃ、さっきのはアーチャーの攻撃か」

 それならあの爆発も納得できる。

 

「みんな、がしゃどくろから離れた方がいい」

 ビニフォンのトランシーバー機能で、武将たちに注意する。みんなのチョーカーにはマイクとスピーカー機能をつけたけど、自分用にはインターカムを用意していたり。

『あれって味方なの?』

「うん。ワルテナんとこの援軍だからね。巨人たちに踏まれたり下敷きになったりなんて、したくはないでしょ」

 

 武将たちが離れるのに合わせて、バイカンフーががしゃどくろに攻撃を始めた。

「あのロボ、(でか)骨よりちっこいけど、だいじょぶなんか?」

「……だいじょうぶだとは思うけど、できる限りの援護はしよう」

 俺の知ってるロム兄さんなら絶対に負けそうにはないけど、救援にきてもらったのに見ているだけっていうのも気まずい。

 

「一撃でバラバラにするとは……」

 バイカンフーの鋭いパンチががしゃどくろを捉え、その背骨を粉砕した。崩れ落ちる1体のがしゃどくろ。

 ……だが、すぐに再生を始めて立ち上がる。

 

「あの兄さんたち、頭を潰さねえとイケネエって知らねえんじゃねえの?」

「……そうですわね」

「連絡取らないと」

 って、あの2人ビニフォン持ってないか。アーチャーはともかく、ロム兄さんはコンカメールも読める状況じゃなさそうだ。

 こっちの声、届くといいけど。

 

「まかせるがいい!」

 その声にふり向くと、秋蘭と祭が弓を構えていた。大きな弓を使うためだろう、祭は元の姿に戻っている。

 2人から大きな力を感じる。これは……。

「もう、気を練っていたのね」

 (アーツ)に使うCP。気のことらしいのだが、強い技を使うためにはこのCPをチャージしないといけない。

 気を練って(チャージして)いる間も動けるので、シューティングゲームの『溜め撃ち』のような感じだ。チャージ時間を短縮する練気スキルもあり、覚えた娘も多い。……俺はまだだけど。

 

「っ!」

「はぁーっ!」

 ほぼ同時に秋蘭と祭から放たれた矢はそれぞれがしゃどくろの頭部に狙いたがわず命中、頭部を破壊して2体のがしゃどくろが今度こそ完全に動かなくなった。

「あいつ、すごい硬かったのに……」

 たった1本の矢が俺のマジックミサイル1000本と同等とか、へこむなあ。

 祭は真・恋姫でも氣と武を極めとか言ってたからわかるけど、秋蘭もですか。

 

「ペネトレイトとピアース。どちらも貫通力を高め、相手の防御力を弱体化、無力化させる射撃技ですわ。今のは他にも攻撃力増加なども追加されていたようですわ」

「さすがは戦女神、よう見破るもんじゃ」

「落ち込むな煌一、これはかなり疲れる。まだあまり多くは使えん」

 ワルテナの解説に頷きながらも再び弓を構え、気を練り始める2人。

 ……俺も落ち込んでる場合じゃないか。できることをしないと。

 

「ロム君もアーチャー君も今のでどこを攻撃すればいいかわかったようですわ」

 バイカンフーのパンチやとび蹴りで、頭部を破壊されがしゃどくろの数が減っていく。

 アーチャーの矢もがしゃどくろの頭を狙い始めた。

「……同じ弓使いとしてはあの威力の違いは気になるのぉ」

「アーチャーは魔法も使っているから」

 魔術だっけ? まあいいや。詳しく違いを説明なんてできないし。

 

「っと、さすがに泣き女(バンシー)も動き出したか」

 今まで傍観していたバンシーが騒ぎ始める。あいつらの叫びは状態異常を引き起こして非常にやっかいだ。

 だがそれも、レーティアと美羽ちゃん、七乃の歌声にかき消された。

 

「明命、思春、恋。これを!」

 名を呼んだ彼女たちにロボ掃除機改を渡し、装着してもらう。彼女たちを選んだ理由はこれによる飛行が上手かったからだ。

 3人にはバンシーを倒してもらう。

 

『いったぞ!』

 インカム越しの春蘭の警告。がしゃどくろが3体とゾンビの群れ、それに首なし騎士(デュラハン)馬車(コシュタ・バワー)ごとこちらに向かってきていた。

 

「巨大スケルトンはまかせろ!」

 スタッシュからハート型のアイテムを取り出すクラン。

 それを右手で掲げると、上部に円柱を宝石みたいにカッティングしたようなものが突き刺さり合体する。

 合体したハートで前面に大きくト音記号を描くクラン。

「レッツプレイ! ゼントラーディ、モジュレーション!」

 クランの身体が眩い光に包まれた。

 

 光が収まると、そこには巨大化したクランがいる。

「爪弾くは魂の調べ!」

 自分のツインテールで髪ギターをするクラン。おおっ! アホ毛ギターじゃないのは残念だけどそこまでやってくれるか!

 

 ハート型のアイテムはキュアモジューレ。それに合体したのはピクシートーン。フェアリートーンの代わりに用意した人造(パチモン)妖精だ。

 どちらも俺が巨人化の消費MPを減らすために成現(リアライズ)した変身アイテム。元々は『スイートプリキュア』の変身アイテムである。

 本来のフェアリートーンを用意したらクランはキュアビートにも変身できるかもしれないね。

 ……うん。中の人ネタ。その方がイメージしやすいからね。上手くできてよかったよ。

 

「大きい……」

 クランを見上げる桂花。小さな声でぼそっと「裏切り者」って聞こえたのは気のせいだと思いたい。

「以前のような武器や装備はつけてないのね」

 華琳はアーマードクランになっていないのに気づいたようだ。

「モジューレによる変身ではある程度の装備は選べるようにしたからね。今回はいらないってクランが判断したんだろう」

 巨人クランはバイカンフーよりも大きく、がしゃどくろと同じくらい。素手の骨相手に武器を使うのは戦闘種族であるプライドが許さなかったのかもしれない。

 

『私たちはデュラハンを仕留める!』

 通信の直後、轟音とともにデュラハンの馬車を襲う雷光。

 ゆきかぜちゃんの電撃だろう。以前は5000ボルトだったそれは、ファミリアになることでさらに電圧が上がっている。

 

 煙を噴き上げ、動きを止める馬車。首のない馬が倒れて、カードになってそして消えた。

 やはりあの馬車もファミリアだったか。

 だが、デュラハンは、凛子の弟の、ゆきかぜちゃんの恋人の仇は平然とこちらに向かって歩いてきている。

 

「やはりあの鎧がやっかいなのか?」

 黒光りするデュラハンの鎧。まだ離れていてさらに結界越しだというのに大きな魔力を感じる。

「がしゃどくろと言ったかしら。あの骨よりも面倒ね」

 そう。大きさは人間並だがデュラハンの方が脅威に感じる。

 ゾンビやがしゃどくろは頭部を破壊できれば倒せるが、デュラハンにはその頭がない。……頭があってもダメージを与えられるかも疑問があるが。

 

「貫通攻撃よ。鎧の防御を無力化させなさい」

 華琳の声が聞こえたのか、目標をがしゃどくろからデュラハンに変更した秋蘭が先ほどと同じく技による攻撃を行うも、その矢はデュラハンの剣によって切り払われてしまった。

 

 ならばと、手に持った刀で攻撃する凛子。流れるようなその連撃もデュラハンの剣によって阻まれる。

 デュラハンと切り結びながらの凛子からの通信。

『こっちはいい。ゾンビたちを頼みます』

『わかった。ちょっとの間、持ちこたえていてくれ!』

 答えたのはクラン。

 見上げれば、彼女のアッパーカットががしゃどくろの顎をとらえ、そのまま頭蓋骨を粉砕していた。

 

 バイカンフーの方はといえば、剣狼でがしゃどくろの頭を真っ二つにしている。あの剣、バイカンフーサイズに巨大化もするんだよな。

 恋たちもバンシーを次々と仕留めていた。

 ゾンビたちは数が多いけど、この結界を越えられないようだし、問題はデュラハンだけっぽい。

 あれを敵拠点からおびき出すことが目標の作戦だったとはいえ、できれば倒したい。油断するとこっちにも被害が出そうだし。

 

「華琳、デュラハンの鎧って鑑定できる?」

「ええ。防御力付加、魔法抵抗付加、オートバリア……かなりの高級品のようね」

 むう。バリアか。それってこの結界みたいなもんなのかな?

 でもオートってことは勝手に張っちゃうってことだから、発生させまくってればMP切れもありえるかもしれない。それが無理でもバリアを破壊できればすぐに次のバリアを発生できることはあるまい。……あるかな?

 試してみるか。

 

 馬鹿の一つ覚えのようにマジックミサイルで攻撃することにする俺。

(ちょー)MM!」

 もちろんMMはマジックミサイルの略である。

 1000発、2000発……くらいながらもじりじりと近づいてきてる?

 のけ反り無しのスーパーアーマーですか。

 

 連射しながらもミサイルのイメージを改良していく。

 細く、鋭く、高密度に。魔法の矢を研ぎ澄ます。

 貫通力を高めなくては……やはりドリルか? ドリルミサイル……グレンラガンの全身からのドリル発射みたいなイメージで!

 

螺旋の雨(スパイラル・レイン)!」

 その場で思いついた適当なネーミングを叫びながらドリルマジックミサイルを大量生産。攻撃中にレベルが上がったおかげでその数はたぶん1000近い。照準をロックするのが面倒なくらいだ。

 それを一斉に全弾発射した。回転しながら飛んでいく光の矢。デュラハンの前進もようやく止まる。

 

「おおっ! 今のはかっこよかったで隊長!」

 ドリルのおかげだろう、真桜が感動している。

「さすが師匠ですわ」

 ワルテナが褒めてくれるってことは上手くいったのかな?

「凛子、ゆきかぜちゃん!」

 インカムに2人の名を叫んだ俺。

 それでわかったのだろう、2人も攻撃を再開する。

 

「効いているみたいね」

「……でも、ちょっとずつしかダメージいってないっぽい。バリア破壊しかできなかったか」

 それでも、剣士と柔志郎も苦戦した相手だ。上出来なのかな?

 

 デュラハンの攻撃は物理のみなようだった。異世界魔族の攻撃無効化と、鎧の性能で今までそれでなんとかなっていて、攻撃を鍛える必要がなかったのかもしれない。

 

『ゾンビは近づけさせないわ。しっかり倒しなさい』

 雪蓮の通信。

 事情を知っているからこそ、強敵を譲ったのだろう。

 

「こっちは終わったのだ」

 がしゃどくろは全て倒され、巨人クランはいつものロリクランへと戻っていた。

「バンシーも恋殿たちが倒したのです!」

 ねねちゃんの報告。

 

「私はマイン。マイン・カンプです。あなたは?」

 パイルフォーメーションを解き、人間サイズに戻ったロム兄さんにマインが自己紹介をしていた。

「ロム・ストール。クロノス族の戦士だ」

「素敵なお名前ですね」

 あれ、マインもしかして惚れちゃった?

 ロボ同士だからいいのかな?

 ……でも、サイズの問題があるような。

 

 

「なんや、なぶり殺しみたいやなあ……」

 霞が呆れるのもわかる。

 凛子が切り結んで隙をついてゆきかぜちゃんが雷撃。さらにその隙に凛子が斬るというパターン。

 2人にその意図はないだろうが、ちくちくとしか削れていないデュラハンのHP。時間がかかりそうだ。

 

 時々俺たちが凛子とゆきかぜちゃんに、エンチャントや回復魔法をかけながら、デュラハンを倒すまでには結局、さらに2時間以上もかかったのだった。

 

 凛子、ゆきかぜちゃん、おめでとう。

 そして、本当にご苦労様。

 

 




イェーガーじゃないエレンです

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