真・恋姫†有双……になるはずが(仮)   作:生甘蕉

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今回は華琳視点です



85話 華琳II

 腹ただしい。

 目の前の女に怒りを覚えるわ。

 傲慢で得意気なその美しい顔が憎らしい。

 時折見せるこちらへの気づかいがムカムカするのよ。

 (バカ)のことは自分が一番よく知っているという、その態度が許せないわ。

 

 この女と私にいったいどれほどの違いがあるというのかしら?

 

 

 

 

「目標? 煌一と2人っきりでのデートね!」

 ぐっと力拳を握る孫家の末姫。

 ずいぶんと身近ではあるが、難易度はそれなりに高い目標だろう。

 

「私は世界中のお猫様をモフモフしたいですっ!」

 猫好きの明命が瞳をキラキラさせながら語る。

 達成可能かどうかは疑問だが、彼女がとても輝いて見えるわね。

「あ、あとお胸を大きくしたいのです!」

 輝きがくすんだ。

 むしろ闇を感じるわ。

「煌一は小さい胸の方が好きよ」

 もっともあの(バカ)はよくそう言っているわりに、梓やヨーコの胸を堪能していたけれど。そもそも胸の大きなあの2人を選んで成現したのも煌一なのよ。

 ……私の中にも闇を感じるわね。

 

「そうなんだよねー。華琳が羨ましいわ」

 わざとらしく大きくため息をつく小蓮。

 そして視線は私の胸。

「どういう意味かしら?」

「あ、あの、煌一さまに愛されている華琳さまが羨ましいです」

 私が怒ったのだと思った亞莎がフォローを入れてきた。呉の軍師はこの能力が高い気がするわね。雪蓮で苦労してるからかしら?

 それに免じて、さっきの台詞は許すことにする。私よりも胸の小さな娘に言われて怒りを覚えるほどのものでもないし……煌一に愛されていると言われたのが嬉しいわけではない。ないったらない。

 

 トウキョウで死体処理を続ける間、小隊のメンバーをいつも変更していた。国を越えた交流のためよ。

 その時の話題の一つにこれからの目標、というものがあった。

 元々は私が言い出したこと。

 流されているだけ……誰のことを言ったのかしらね? 

 

 人形にされた皆を取り返し、元の姿にも戻したわ。

 全ては煌一がやったこと。彼のおかげ。

 見返りとしてこの身を差し出した。それしかできなかったのよ、この私が!

 その無力感が原因かしら。皆が戻ったのに、やりたいことが思いつかないわ。

 

「それで、華琳の目標はなに?」

「そうね、世界征服でもしようかしら?」

 赤壁で敗れた後、私は新しき天が広がる大地を目指した。

 この世界を手に入れようと考えてもおかしくはないはずよね。

 ……なのに、そんな気がまるでおきない。

 

「い、いくら、使徒やファミリアとしての力があっても戦力が足りないです……。それに、煌一さまは嫌がると思います」

「わかっているわ、冗談よ」

 亞莎の指摘、2つ目の方。たぶん、それが私の動かない一番の理由なのでしょう。

 

 私は煌一の妻となっている。

 利用するつもりだったのはたしかよ。こちら風に言えばギブアンドテイク。結婚に憧れていたという夫にも利があったはずね。

 

 身動きも会話も食事もとれず、それなのに死ぬこともできない。

 いつまでも続くと思われたあの苦痛から解放してくれ、皆のことも助け出してくれた男。

 感謝もしているわ。……もしかして私は煌一を好きなのかしら?

 軟弱なお調子者の小物。

 私が性行為の許可を持ち出したら、涙ぐむような男のことを、私が?

 

 だいたいあの(バカ)、泣くほど我慢していたのなら、なぜ手を出さなかったのかと問いたいわ。

 私の魅力は我慢できる程度のものだったというのかしら?

 それとも私だけではなく、他の娘もいたから我慢できたとでもいうの?

 

 ……私と約束したのが原因か。

 煌一は私たちに嫌われることを極端に怖れている。

 魔顔(まがん)の呪いのせいか。やっと手に入ったものを失いたくないのね。

 失うことを怖れるなど、やはり器が小さな男だわ。

 ……私を失いたくなかった、そう思うとなぜか許せる気もしてくる。

 煌一が元の姿に戻れたら本当に許可してあげよう。初めては梓に予約されているのが悔しいけれど。

 

 

 目標の喪失と自分の気持ちの迷いが隙となったのかもしれない。

 その日、待機所に突然現れた道士に私は再び敗れた。

 

「校庭が騒がしい。なにかあったようだぜ」

 教室を飛び出した朱金を追って校庭へ出ると、ヤマが侵入者を威嚇している。

 左慈。私たちを人形にした憎むべき2人の片割れだ。

「あの男はどうした?」

「教える義理はないわ」

 煌一の魔顔の呪いがまだ効いているようね。

 スタッシュから炎骨刃を取り出し、すぐに炎を発生させる。

 他のものたちもそれぞれ武器を構えていた。

 

「ちっ、干吉の情報もあてにならん」

 不機嫌そうにヤマが蹴り上げられる。左慈を一口で丸呑みできそうな巨大な大蛇が蹴り飛ばされ、校舎に強かに打ち付けられた。衝撃で飛び散る窓のガラス。

「自衛隊、対魔忍は退避なさい。邪魔よ!」

「あいつ、人間じゃねえのか?」

 面白れえと朱金が指を鳴らす。

 悪いけれどあいつは私の獲物よ。

 

「この世界ではストーカーといったかしら? 変態に狙われるなんて、我が夫も不憫ね」

「夫……お前の始末も頼まれていたな」

 挑発に乗って左慈がこちらへと駆け出した。やはり煌一に惚れているのね。

 会話中も練り続けていた気を剣にこめて迎え撃つ。以前とは違うということを思い知らせてあげるわ。

「大ッ紅蓮斬ッ……!」

 あの等身の低い曹操も負けたけれど嫌いじゃなかった。技を借りるわね。

 

 

 ……またしても私の攻撃は左慈には通用しなかったわ。マスターした『技』はかなり強力なはずなのに。

 火炎に包まれた左慈は、すぐに炎の中から傷一つない姿を現した。

 左慈もなにか技を使っているのかしら?

「お前らは殺しても無駄だからな」

 そう言いながら私の胸になにかを押し当てた。

「なにをしたっ?」

 視界が暗転していく。私の名を呼ぶ小蓮たちの声もどこか遠く感じるわ。

 いったいこれは……?

 最後に聞こえた左慈の言葉は「任務完了」だった。

 

 

 意識が奪われたのはほんの一瞬だと思うわ。

 気づいたら目の前の風景が変わっていたのよ。校庭にいたはずなのに今いるのは室内。

「ここは……大陸?」

 4面やニホンでは見たことのない、けれども見覚えのある懐かしい建築形式。

 走馬灯というものかしら? 私は過去を回想しているの?

 

 付近を確認すると、足元に見慣れぬカードが落ちていたので拾ってみる。

「なにこれ? ……SSR曹操?」

 まさかこれが、ファミリアカードかしら?

 ……私がここにいるのに、それはないわね。

 

 私のイラストが描かれたカードをもっとよく確認しようとしたら、またもや景色が一瞬で変わる。

 カードも手から消え失せていた。

「また違う場所ね」

「あら? あなただけ? 皇一は?」

 どこかで聞いたことのある声に振り向くと、そこには自分そっくりの人物がいたわ。

 私の偽者? 左慈たちの策略かしら……顔は似てるかもしれないけれど、残念だったわね。私はもう少し、背も胸も大きいはずよ!

「え?」

 私だけでなく、相手も驚いていた。私をここに連れてきた犯人じゃないのかしら?

 

「たいがー道場ー!」

 大きな声とともに現れたのは雪蓮によく似た女性。

 私は彼女を知っている。……会ったことはないけれど。

 

「孫堅? ここは2面なの?」

 孫堅。江東の虎と呼ばれた武将。雪蓮たちの母親。

 もう生きてはいないはずの女。

 2面の修行神である戦女神(ワルテナ)が固有スキルで復活させたの?

 

「炎蓮を知っている? お前はいったい何者?」

 私そっくりな顔の女が問う。

 同じことを私が聞きたいわ。……鑑定すればいいだけね。左慈に敗れたことを引きずっている場合じゃなさそうね。

 

「華琳、お前を殺した女だ」

「私を?」

「ああ、この女に殺された」

 そういって私を指差す孫堅。

 私の偽者は、名前も真名まで同じ鑑定結果だったわ……。

 

「この女は元々この世界の人物ではない」

「……まさか、皇一と同じ世界の?」

「いや、それとも別の外史のお前だ」

 外史?

 煌一に借りてプレイした恋姫†夢想にそんな設定があったわね。

 ……家庭用じゃなくて、18禁版の方をさせてほしかったわ。

 

 外史。平行世界、パラレルワールドだったかしら。この世界では孫堅が生きているようね。

「ほぼ同じ存在のせいか、全く同じ座標に転移してきたそちらの華琳のせいでこちらの華琳は死に、ここに送られてきた」

 同じ世界に複数の同一人物は存在できない。……よくある設定ね。

 さっきから、私の偽者……偽者じゃなくて平行世界の私か。それを殺したと言っているけど、では今いる彼女は?

 霊視スキルなしでも見えるから幽霊ではなさそうだけど。……孫堅の方が霊のように感じてるわね。やはり死んでいるのね。

 

「なぜ私の方が死ぬことになったの?」

「弱いからだ」

 その言葉でこちらを凝視した彼女が反発しないのは実力差がわかっているからか。

「ふむ。たしかに私はファミリアとなって強くなっている。ファミリアになってない私よりもはるかに強いわね」

 鑑定でわかっている。外史華琳は使徒にもファミリアにもなっていなかった。それなら私の方が強いのは当たり前だ。

 

「ふぁみりあ? ……それで、なんで私が死んでここに送られるのよ? それは皇一の能力でしょう。私にそんな力はないはずよ」

 煌一の能力?

 どんな能力を持っているかは不明だけど、この外史にも煌一がいるのね。

 ゲームには煌一が出てこなかったから、その外史ではなさそうね。

 

「正確にはお前ではない。お前の中のもの(・・)の力だ」

「私の中の……」

 はっとしてお腹に触れるもう1人の私らしき人物。その後の表情は本当に自分と同じ存在か疑いたくなるほどに優しげだった。

「そう。父親と同じ力を持っているのね、この子は」

 ……外史華琳は妊娠している。それも鑑定で判明していた。

 なんだか無性に煌一の顔が見たくなったわね。

「帰らないと……」

 どうやって帰ればいいのかしら?

 

「炎蓮、返すことはできる?」

「お前たちがいない間の絶好の暇潰しの相手を返せと?」

 私のことを暇潰し扱いとは、やはり雪蓮と同じ血を感じるわね。それならこちらにも考えがあるわ。

「できないとは言わないのね」

 スタッシュから取り出したボトルを孫堅に見せつける。

 料理用に試しているブランデー、4面の百貨店で購入したものよ。

 

「ほう。肴は?」

 テーブルと椅子を持ってきた孫堅。コップを並べ、ブランデーを注ぎ始める。

 帰るためにとスタッシュホールを開き、雪蓮お気に入りのスルメを出す。ついでにマヨネーズも。

 焼きたてなのは、においで雪蓮を呼び出す時用のため。

「これでいいわね。そっちの華琳(わたし)の分は注ぐのを止めなさい。妊婦に酒は駄目よ」

「そうだったわね」

 彼女には紅茶を出すことにした。結真が淹れてくれた、ねずみやと同じものだ。スタッシュに入れておけばいつでも好きな時に飲めるので重宝している。

 

「便利ね、それ。ここで出せるなんて指輪とは違うのね」

「指輪?」

 一服しながら互いの情報を交換することとなった。

 ……半分くらいは惚気だったかもしれない。目の前の華琳(わたし)には負けたくないと張り合ってしまった気がするわ。

 

 

 この世界の華琳(わたし)の夫は、読みは同じだが煌一ではなく皇一と書くらしい。

 異世界からきた人間で、セーブ&ロードというまるでゲームシステムのような力を持つらしいわ。

 私がこの道場にいるのも、その夫と性行為をし、道場入りの資格を持つ外史華琳と同じ存在ということで道場主の炎蓮が連れてきやすかったからだそう。

 彼女の夫はその力を使って三国を統一し、大陸に平和をもたらした。……あの動乱の時代を3周ほどしたらしいが。

 煌一に世界征服をさせるのも面白そうね。

 

「これがあなたの夫? ずいぶん幼いのね。そんなにも自殺させたの?」

「そんなことをさせるわけがないでしょう!」

 私の煌一の説明をするためにビニフォンで撮影した画像を見せたが、そんなことを言われてしまった。

 外史華琳の皇一がロードするためには死ななくてはいけなくて、さらに自殺すると若返ってしまうらしい。こちらの夫も苦労しているようね。

 彼女はロードさせるために何度も殺したとか。いくらそれしか方法がなくても、私ならそんなこと……するわね。たしかに外史華琳は私と同じ存在のようね。

 

「同棲していたの?」

「ほんの短い時間よ」

「それは残念だったわね」

 あれを同棲と言っていいのかしら?

 今思えば貴重な時間。ヨーコを成現(リアライズ)させるのを遅らせればよかったかもしれないわ。

 

「紫苑、桔梗と祭も妻にしたというの? 乙女に戻して……嫁の数で私たちが負けるなんて!」

 悔しそうな外史華琳に多少の優越感を得て、クラン姉さんやヨーコたちのことも自慢することにしたわ。

「可愛い義姉妹ね。私もほしいわ」

「この梓もいい娘よ。料理も得意だし面倒見もいい。閨でも可愛いし、良妻賢母ね」

 梓の画像に魅入っているわね。次はレーティアの歌声を聴かせてあげましょう。ふふっ……けれど、勝った気がしないのは彼女が妊娠しているからかもしれない。

 私なんて、それ以前の問題なのに!

 

「無理矢理に奪われた!? それも何度も何度もって、あなたの皇一(おっと)は本当に私の煌一(おっと)と同じ存在なの?」

「顔は同じよ。処女じゃないと駄目な度量の小ささで幼い子が大好きで泣き虫なへたれ。独占欲が強くて抱いた女は嫁にしないと気がすまない男なのでしょう?」

「……同じね」

 気になったので初めての時のことを聞いたら、衝撃を受けたわ。

 あの(バカ)にもそれぐらいの意気地があればよかったのに……。

 

「双頭竜? 煌一なのにそんなに強いの?」

 煌一も二刀流だからそれが由来の二つ名なのかもしれないと思ったら、全く違った。

「皇一は嫌がったり悲しんだりしたけれど、セーブ&ロードよりもはるかに素晴らしい能力よ」

「そんな……」

 なんて羨ましい能力。同じ存在なら、煌一にもそんな能力があればいいのに。

 クリア特典? 担当の世界を救済したら煌一も入手できたりしないかしら。

 子供といい、夫の覚悟といい、羨ましく妬ましい女だわ。私は同じ存在のはずの外史華琳に深い敗北感を味わうのだった。

 

「さて、話は済んだか? そろそろ時間だ」

 私が跳ばされる直前に戻り、炎蓮――孫堅の真名だ。ブランデーをわずかな時間で空にしたので、追加で日本酒を渡したら教えてくれた――の能力で私を元の世界に弾き返すとのこと。

 英霊となった炎蓮はこの世界の守護者のようなものとなっているそうよ。

 

「干吉か。思えばまだあの男には借りを返していない。私の分まで頼むわね」

「ええ。私だって恨みはあるわ。今度こそ」

 干吉にかけられた華琳(わたし)の術を解くために、彼女の皇一(おっと)は彼女を抱いたそうだ。……私も術にかかれば煌一は我慢しなくてすんだのかしら?

 

「無事に子を産みなさい」

「ありがとう」

 とても素敵な微笑みを返す外史の私。

 本当に羨ましいわ。私がその表情(かお)をするためには、煌一の子を身篭らないと無理そうね。

 

 目標ができたわ。

 私も煌一の子を産もう!

 

 ……使徒やそのファミリアが子供を作るためには、担当する世界を救済しなければならない。妊娠や子育ては救済の妨げになるからという理由で。

 

 そのために煌一の担当の世界を救済しましょう。

 もしかしたら双頭竜も手に入るかもしれないのだから!

 

 




冒頭の華琳のモノローグは、有双華琳に対するものです



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