真・恋姫†有双……になるはずが(仮)   作:生甘蕉

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88話 失われた俺の宝

 やっと。

 やっと、やっと、やっと、元の姿(おっさん)に戻れる。

 

 そして。

 そして、遂に卒業できるのだ。

 魔法使い(DT)を!

 

 ……問題はいくつかある。

 俺の最大MPはすでに(けい)超え。

 そのせいで成現(リアライズ)に必要なMPも膨大。

 嫁さんたちが俺の外見を子供からおっさんに戻すついでに改造コード(ねがい)を色々追加してくれたので、さらに倍。

 MPを溜められる機能を持つ婚約指輪。それにチャージしているMPを使うとしても到底足りやしない。

 

 成現の時の設定の改変。改竄できるのは1度きり。成現してしまったら、もう設定変更はできない。

 なのに、俺にかけられた女神の祝福(のろい)はとけない。もしもこの先、俺の最大MPの表示がバグるまでに成長して呪い解除に必要なコストに到達しても、その時には成現では呪いは解けないのだ。

 空きスロットも当然追加しておくけど、後からそこに設定を入れる時は同じ設定を最初からセットしておくよりもコストがかかる。呪い解除の効果を入れられる望みは薄いだろう。

 

 元のおっさんに戻ったら、大江戸学園には居辛い。

 学園の生徒のほとんどが俺を今の幼い姿だと思っているため、急におっさんになってしまったら別人だと判断するだろう。

 もしも万が一、同一人物だと信じてくれたとしてもだ。おっさんが生徒たちに混じって授業を受けるのは勘弁してほしい。

 

 一番の問題は、元に戻れたらという条件で約束していた、本当の初夜。

 済ませたら俺のたぶん唯一のアドバンテージである隠しスキル『魔法使い』が失われることだろう。

 かといって、この機を逃したら永遠に卒業などできそうにないし、戻れたらたぶん我慢だってできない。

 

 まあ、指輪は1つではないので、嫁さん全員のを使えば必要MPもなんとか足りるだろう。そういう計算だし。

 1つの指輪に1兆ほどチャージして渡している。戦闘などで消費した場合でも最低1兆にはなるように再チャージしているし、彼女たちも自身の最大MP強化のために寝る前に全MPをチャージしているので、もっとプールされているはずだ。

 たとえ数秒でも元に戻れれば、俺自身のMPで成現時間を延長すればいい。

 厄介なことといえば、ぬいぐるみの手では持つのが苦労するぐらいだろう。

 

 女神の祝福は、剣士を頼る以外の方法がなくなるのは痛いが、仕方がない。

 ぬいぐるみのままでは、最大MPを増やすどころか、MP自体が無いのだから前提条件で詰んでしまっている。

 設定改変での解除は諦めるしかない。なんとか他の方法を探そう。

 

 学園の方は、生徒をやめるか、変身魔法で誤魔化せばいい。

 今までだって変身魔法で翼のない姿になっていたのだから、それは余裕だ。

 

 魔法使いの最大MPの上昇率や、魔法関係のスキルの習得率は捨てがたいが、最大MPは京どころか(がい)にも届きそうだったぐらいだ。気にすることは無い。兄弟ンで覚えた数を表す単位だけで十分だって。

 魔法関連のスキルは残念だが、嫁さんたちが入れてくれた改造コード(ねがい)のおかげで物理強化はできるかもしれない。そっちを鍛えればいいだろう。

 

 

「うん。確認してみたけど、さしたる問題はないな」

「ならば成現なさい。指輪は用意できたわ」

 華琳は66個の指輪をチェーンに通し、俺の首にかけてくれた。もっとも、今の俺は頭が直接胴体に繋がっているから首はないんだけどね。

「けっこう重いね」

 ぬいぐるみの身体が重さでへこんでいる。

 

「それじゃいくから、ちょっと離れていてね」

 この人形屋敷もどきの力を持つ部屋にさすがに全員の嫁さんたちは入れなかったが、それでも2桁以上が見守っていてくれていた。その彼女たちが離れたのを確認してから、指の無い両手で指輪に触れる。

「人形にされし我が身体よ、妻たちの想いと絆の魔力にて成現せよ!」

 約66兆のMP全てを使って、俺は固有スキルを発動させた。

 ……俺の固有スキルって光や音の演出効果(エフェクト)がないから、発動自体は地味なんだよなあ。

 

「ど、どう?」

 一応、視点がぬいぐるみの時よりも高くなったので、成功してるよねと祈りつつ自分のMPで成現時間を延長してから聞いた。

 高かった声は戻っているみたいだ。

 

「元に戻ってるよ、煌一!」

 喜びのあまり抱きついてきた梓。彼女の大きな2つのふくらみも、顔で受け止めることはない。さらば、ぱふぱふ……。

 

「むむ。煌一、お前大きくなってるのではないか?」

「そりゃ元に戻ったんだから、大きくなってるでしょ」

「そうではないのだ! 元の時より大きくなっているようなのだ」

 クランの指摘にセラヴィーがPoMっと身長計を出す。保健室にあるようなやつ。それに俺は乗って、身長を測ってみた。

 

「見ろ、3センチ以上も伸びているではないか! ずるいのだ!」

 隣の華琳といっしょにクランが俺を睨んでいる。

 2人ともちっこいのを気にしているもんなあ。小さくて可愛いのは素晴らしいのに。

 

「たしかに。夢の180超えか……もしかして俺、無意識のうちに設定改変追加していたのかな?」

 まさかこの年になって身長が伸びるとは。

 自分の顔は思い出せなかったけど、身長に対する願望はあったのかもしれないな。

 

「それだけじゃないわね。煌一は若くなっているわ」

「へ? いや、ガキからおっさんになったんだから若くはなってないって」

「顔を確認する必要がありそうね」

 なに言ってるのヨーコ?

「そうね……帰りましょう。セラヴィーとエリザベスが呪われるわけにもいかないわ」

 俺の呪いは解けてないんだから、魔顔封じの眼鏡を外すわけにはいかない。俺たちはセラヴィーに礼を言ってサンダル城をあとにした。

 今度ちゃんとお礼の品を持ってこよう。……むう、大魔王やってたようなやつになにが喜ばれるかなんてわからない。たいがいのは魔法でなんとかしそうだしなあ。

 無難にビール1ケースかな? 俺も戻ったことだし、いっしょに飲むのもいいよね。

 

 

 屋敷に戻った俺たちは、娘たちや柔志郎に出迎えられた。

「よかった、お父さん」

「うん。心配かけたね」

「別に心配などしてないぞ。むしろ、ぬいぐるみのままの方が璃々が喜んだんじゃないか?」

 ううっ、ゆり子が冷たい。

 昔はあんなに、って前からこうか。いまだにお父さんともパパとも呼んでくれなくて寂しい。

 

「でもね、これで璃々ちゃんを肩車してあげられる」

「お父さん本当?」

「ほら」

 ひょいと璃々ちゃんを持ち上げて、肩車。

 ほとんど屈まずにそれができるなんて、筋力も上がっているっぽい。梓の改造コード(ねがい)で追加されたスキルの効果だろうか。

「わあ!」

 璃々ちゃん喜んでいるみたいでよかった。

「春蘭さまよりも璃々が大きくなっちゃったね」

「鈴々も鈴々も!」

「次は美以なのにゃ!」

 ちびっ子たちもはしゃいでいる。

 今の俺ならロリ嫁たちをみんな順番に肩車しても、腰が痛くなんてならないような気がする。調子に乗りすぎ?

 それとも、本当に若くなっているの?

 

「それぐらいにして。まずは煌一さんの確認が先よ」

 それもそうか。

 腰を痛めなかったのも、若くなってるからかもしれないしな。

 

「蓮華の言う通りね。ララミアと輝はこの部屋から出て行きなさい」

「そうだったな。ララミア、すまないがしたがってくれ」

 俺の家族扱いじゃないと、呪いがかかってしまうからね。

 軽く頷いて部屋を去るララミア。事情は知っているだろうけど、仲間外れにしちゃったみたいで気が引ける。あとでクランを通して埋め合わせしないと。

 

「えーっ、おいらも?」

 輝の方は不満気だ。

 彼女は俺の素顔をスクープしようとしてた時期があったが、いまだに諦めたかどうか油断はできない。

「もちろん。絶対に覗くなよ」

「芸人のネタふり的な意味だよねぇ!」

「んなわけないだろう」

「いいじゃないかい! そんなケチケチしないでも。なんだったらおいらもお嫁さんになってあげるからさあ!」

 むう。性格はともかく輝は俺好みのロリには違いない。胸も小さいし。

 性格を気にしなければ能力も高い。

 

「だが断る」

 やっぱり性格って大事だよね。

 なによりも、俺を好きでってのじゃないのはありありとわかるのだ。

「そんなつれないこと言わないでくれよぉ」

「これ以上嫁を増やすわけにはいかないっての。もしも万が一増やすとしても、それは俺と相手が好きあってだよ。そんなことは絶対にないだろうけどね」

「おっきくなっても、乙女なんだねえ」

 誰がじゃ。

 いっからさっさと出て行ってくれ。

 

「仕方ないッスねえ。カシオペア」

「ガウ!」

 あれ、いたの?

 いつもは庭に作られた犬小屋にいて、部屋に入ることなんて滅多にないのに。

 柔志郎に呼ばれてすぐに庭から部屋に瞬時に移動した……まさかね。

「てるてるを連れて行くッス。覗かせちゃ駄目ッスよ」

 わかったとばかりに一声鳴いて輝の襟首を噛んでそのまま引き摺っていくファミリア犬。いや、ファミリア狼。

 

「あとで骨あげるから離してくれよぉ!」

「カシオペア。ちゃんと見張っていたら、ご褒美は缶詰あげるッス」

 あ、カシオペアが移動速度上げてすぐに見えなくなっちゃった。そんなに犬缶好きなのか。……あれの材料が怖いって話多いんだけどなあ。

 

「マインは人間じゃないから大丈夫なはずだ。外してくれ」

 レーティアに促され、自分の目でもう一度部屋の中のメンバーを見回し、さらに用心して感知スキルを使い、隠れて見られていないことを確認してからゆっくりと眼鏡を外す。

 ううっ、緊張する。だってさ、みんな呼吸さえ止めて俺の顔に集中してるんだよ。手が震えてもおかしくないよね。

 

「ど、どうだ!」

 力んだあまり、外した眼鏡を思わず握り締めてしまった。成現の時の設定変更で破壊不能にしておいてよかった。

「……」

 あれ?

 みんな黙ったままで返事がないんだけど。

 ぽかんと口を開けたままの子もいるし、硬直しちゃってるの?

 

 静寂を破ってくれたのは璃々ちゃんだった。

「お父さん、かっこいい!」

 マジですか?

「せやなあ。まさかこんなエエ男とは。お父さんやなかったら惚れてるところや」

 智子まで。

 むしろ俺が惚れちゃいそうなんだけど! 俺はいい娘たちを持って幸せだなあ。

 

「煌一?」

「は、はい」

 華琳がスタッシュから鏡を取り出して俺に渡してくれた。干吉が使ったもの――たぶん銅鏡――ではなくただの手鏡だ。

 それを覗き込む。

 ……ふむ。俺ってこんな顔してたんだっけ。たしかに若返っている気もするな。20(ハタチ)前後ってとこか?

 

「俺にも若返り願望あったのかな。みんなとの年の差、やっぱり気にしてたのかもしれないね」

 俺だって熟女よりもロリの方がいい。

 嫁さんたちのことを考えれば、おっさんなんかよりも若い夫の方がいいはずだ。

 

「……まさかこれほどとはね」

「ん?」

「煌一の顔も微妙に変わっているわ。若返った以外の理由で」

 どゆこと?

 まさか、顔も設定改変で整形しちゃったのか?

 鏡を見ながら、空いた手で自分の顔を撫で回す。たしかに美形な気はする。弟よりもイケメンかもしれない。

 

 もう一度嫁さんたちに目をやれば、真っ赤な顔になっている娘も多い。

「これは俺の願望じゃないような……」

 美少女たちを妻にしているとはいえ、釣り合うために整形ってのは違う気がする。

「私かもしれないわね。若返らせてしまったのも」

 華琳?

 やっぱり若い美形の方がいいの?

 

「異世界の私と会ったと言ったでしょう」

「ああ。……カードになっちゃったもう1人の華琳とは別の華琳だっけ?」

「ええ。身篭っている私。その華琳を孕ませたのは皇一という男」

 もしかして平行世界の俺なんだろうか。華琳を妊娠させているってことはしちゃったってことだよな。なんと羨ましい。

 

「その男の写真も見せてもらった。たぶんそれの影響があったのでしょう」

「異世界の俺は若くて美形だったのか」

「何度も死んで若返ったそうよ」

 なにそれ?

 異世界でも俺は命がけなの? ……華琳に子供を生んでもらうにはそれぐらい必要か。恋姫†無双の世界も危険は多そうだ。

「私も意識してそうなってもらったわけじゃないの。ただ、もう1人の私の話で聞いた印象が強すぎて……。煌一の年齢や元の顔が、煌一が嫌だってわけではないから勘違いしては駄目よ」

 異世界の俺ってどんなやつなんだろう。気になるけど、聞いたら自分と比べて落ち込みそうだ。……やっぱり聞かない方がいいか。

 華琳も俺のことを嫌だってわけじゃないなら、この姿も受け入れよう。前の姿にさほど未練があるわけでもなし。

 

「その異世界の俺みたいに死なずに若返ったんなら、得したって思おう。顔もブサイクになってるよりはずっといい。それにどうせ眼鏡で隠すんだし」

 手鏡を返して、眼鏡を装着。これで一安心だ。

「ええっ? 隠しちゃうのもったいないよう」

「そ、そうね。なんとか他の方法を考えられないかしら?」

 桃香と蓮華だけではなく、他の嫁さんからもブーイング。

 

「今までショタコンってちぃたちを馬鹿にしたやつらを見返すチャンスなのよ!」

「そうよ! シャオの旦那様はこんなに格好いいんだって自慢してやるんだから!」

 ……俺がふがいないばかりに、肩身の狭い思いをしてたのか。ごめんね。

 嫁さんたちのためにも眼鏡以外で魔顔封じを考えた方がいいのかも。

 

「あら、いいの? 煌一が素顔をみんなに見せたら、ライバルがもっと増えちゃうわよ」

 それも面白そうだけど、と続ける雪蓮。

 祭もうんうんと頷く。

「たしかにあれでは小娘どもはほっとかんじゃろ」

「ぶろまいどで小銭稼げるかもしれへんな」

 なんでカメラのレンズを磨いているのさ、真桜。

 俺の写真なんて誰もいらないでしょうに。

「隊長の写真が撮れたら売ってくれ!」

 ……凪が真剣な顔で真桜に頼み込んでいた。

 

「煌一殿の素顔はしばらくは隠したままの方がよさそうですね」

「でも愛紗ちゃん」

「はわわわ、こ、煌一さんの鑑賞権はお嫁さんたちだけが独占してるのですよ、桃香さま」

 独占って、なんか違うような。それに鑑賞権って……。なんだか自分がパンダにでもなったような気分だ。

 でも、朱里ちゃんの主張をみんな受け入れたらしく、それ以上は素顔を要求されなかった。

 ……寝室以外では。

 

「閨では眼鏡を外しなさい。どうせ嫁だけなのだから問題はないわ」

「それなら大賛成です」

「寝るときは外すのが当然よね」

 三国の君主、……呉は雪蓮がまだトップなので、真の各ルートのメインヒロインたちの決定に、他の嫁さんたちまでもが納得し、寝室は眼鏡禁止になってしまった。

 

「さて、次の確認なのだけど、煌一の妻以外は出ていって。さすがに娘といえど、教育上よろしくないから」

 え? なにをするつもり?

 智子たちは察したのか、璃々ちゃんを連れて出ていってしまった。もちろん、柔志郎も。

 それを確認してからの華琳の指令は驚くべきものでった。

 

「脱ぎなさい」

 いきなり露出プレイ?

 俺が戸惑っていたら、さすがに愛紗も抗議してくれる。

「か、華琳殿、いきなりなにを?」

 あれ? 止めてくれるんじゃなくて理由を聞くだけ?

 俺が脱がされるのは決定事項なのね……。

 

「新たに得た煌一のスキルを確認するためよ。服を着たままでは破れる可能性があるわ」

「そ、そういう理由なら仕方がありませんね」

 赤い顔でチラチラこちらをうかがいながら愛紗が引き下がる。

「先に言ってくれよ。なにごとかと思ったじゃないか」

 梓が追加してくれた新スキル『鬼制御』はたしかに服が破けるかもしれない。痕をプレイしたことのあるみんなもそれを理解したようだ。

 

「でもさ、みんなの前でやる必要があるの? おっさんじゃあなくなったけど、俺のストリップなんて見ていて楽しいもんじゃないでしょ」

「楽しいわよ。それに、スキルレベルが低いせいでもしも制御に失敗しても、皆がいれば取り押さえられるでしょう?」

 なるほど。痕の鬼は制御できなければ人を狩る化け物となる。それを防ぐための制御スキルだけど、失敗した時の保険は必要だ。

 

「仕方ないのか……」

 納得させられた俺は渋々ながら脱衣を始める。

 ぬいぐるみから戻った際に設定改変の調整がうまくいっていたのか、着ていた大江戸学園の制服も、今の俺にピッタリなサイズだった。屋敷の外では変身魔法で小さい姿になる予定だから、また制服も買わなきゃいけないか。

 

 下着までは恥ずかしかったので抵抗したら、梓と雪蓮たちに押さえつけれて脱がされてしまった。あんまりだ。

 両手で股間を隠す全裸の俺。顔はたぶん真っ赤だろう。

 見えないように両手で目を隠している亞莎ちゃんたちも、よく見れば指の隙間からしっかり覗いている。

 

「恥ずかしいのなら、さっさと始めなさい」

「そんなこと言われても鬼の制御って、どうやるのさ?」

 困りながらも身体の各所に力を入れようとして、俺はあることに気づいた。

「ないっ!」

 俺の身体にあるはずのものがなかった。

 

「どうしたの?」

「ないんだ……俺の……すね毛が!」

 股間を隠すのも忘れて脛をなでる。元々凄く濃いわけでもなかったが、ここまでつるつるだと、変に寂しい。

「どうして……はっ!」

 俺はさらに各部を確認する。

 股間は……よかった、生えていた。女性は生えていなくてもまったく問題ないが、男が生えていないのはちょっとねえ。

 だが、わき毛はきれいさっぱりなくなっていた。胸毛と腹毛は元々生えていない。

 

「うむ。うまくいったようだな」

 これはレーティアの改造コード(ねがい)か!

 彼女の調整の時にしっかり確認していれば……。

「も、もしかして!」

 大事なことに気づいた俺は慌てて左の乳輪に指をはわせる。……やっぱり、ない。

 

「お、俺の宝毛が……」

 大切にとっておいたのに。時々長さを計るのが楽しみだったのに。小さくなってた時はなくなっていたから、戻った時に再会できると信じていたのに!

「ああ、あれか。あたしも気になってたんだよな。いつか抜いてやろうって思ってた」

 なんだって!?

 縁起物だぞ、あれは! ……でも考えてみると、御利益はあまりなかったような。

 

「無駄毛よりも、今はスキルに集中しなさい」

 無駄毛じゃなくて宝毛だってば。テンション上がらないなあ。

 ……まてよ。鬼になったら新陳代謝が活発になって発毛しやすくなるんじゃないだろうか?

 これは試してみるべきだ!

 深呼吸の後、俺は全身に力を入れた。

 

 ……感じる。身体の奥底から湧き出る力を感じる。

 痕ではマグマにたとえられたそれが全身を巡り、骨と筋肉が音を立てて変形、肥大化していく。脱いでいてよかった。そうでなければ、服は破けていたはずだ。

 身長だけでなく体重も増加しているのだろう、畳にのせた足が沈んだ気がする。

 両手の爪も長く鋭く伸びていた。

 

「グオオオオオォォォォォーーーーーーーッ!」

 俺の咆哮はしかし、地上で最強の生物となった全能感からではない。

「ヤッパリ、ナイ」

 この姿では滑舌があまりよくないようだ。スキルレベルが上がれば、上手く喋れるようになるだろうか?

 だが、問題はそこではない。鬼の姿になれても、俺の宝毛は再生しなかった。つまり、さっきの咆哮は悲しみの叫びだ!

 

「こ、煌一?」

 不安気な梓の呼びかけに頷く。

「だいじょうぶか? ちゃんと制御できているのか?」

「モンダイナイ」

 にかっと笑ってみせようとして、鬼の顔じゃ怖いだけかと思いなおし、鬼化を解除する。それはあっさりと成功した。

 

「煌一ぃ! ……よかった、よかったよぉ!」

 泣きじゃくりながら梓がまた俺に抱きついている。その柔らかな感触は非常に嬉しいが今はまずい。

 俺が全裸なせいで、ジュニアの反応がすぐにばれてしまうからだ。

 

「梓、ちょっと離れてて。今度はもう1つのスキルも試してみるから」

 ジュニアの血行がよくなる前にと、誤魔化すために愛神化のスキルもテストすることにした。

 クランの改造コード(ねがい)だ。きっと翼が生えてくるんだろう。

 

「いくよ」

 今の要領で、今度は背中に意識を集中する。

 ……むう、上手くいかないな。

 ならば、と自分の中のエロ神の欠片に呼びかけてみた。お前になるぞって。

 その瞬間、さっきと同じように全身に変化が訪れる。やはり背中から何かが生える感覚。そして、骨と筋肉が変形していく感覚。翼が生えるだけじゃないのだろうか?

 

「ど、どうなった……あれ?」

 滑舌は悪くないが、声が高い気がする。視点は……低い。

「もしかして、ちっちゃくなっちゃった?」

「……そのようね」

 微妙な表情で華琳が教えてくれた。それはそうだろう。苦労して、この姿から戻ったばかりなのだから。

 だがよくよく考えてみれば、俺の中にある欠片の本体、エロ神が成長しないことを母親の女神が嘆いていたって話を聞いていた。となるとこのスキルは愛神化(チェンジ・キューピッド)ってところか。

 

「うむ。うまくいったのだ!」

 1人満足そうに頷くクラン。

「まさか、クランがほしかったのって、翼じゃなくて、この幼い姿だったの?」

「しょ、しょうがないではないか! 貴様だけ大きくなるのはずるいのだ!」

 そうか、クランはマイクローン時の自分の姿をこれほどまでに気にしていたのか。

 たしかにこの姿ならクランと釣り合いはとれるかもしれないけどさ。

「俺はクランのその姿も好きだから」

 元の姿に戻り、クランの頭をなでる。彼女は子ども扱いするなと言いながらもおとなしくなでられ続けてくれたのだった。

 

 今度は小さくならないで翼だけ出す練習もしよう。

 部分鬼化もできるようになりたいな。手だけ鬼化できれば地獄先生ごっこもできるし!

 熟練度を貯めてスキルレベルを上げようと俺は誓った。

 

「最後は双頭竜よ。早く試しなさい」

「あれもやっぱり変身系のスキルだったの? 二刀流とかじゃなくて」

「そうよ。効果次第では、今夜は梓だけではなく私もいっしょにすることになるわ」

 華琳もいっしょ? それって初夜のことだよね。どういう意味だろう。

 悩みながらも、俺はスキルを使ってみた。

 3度目なので、だいぶ慣れた気がする。双頭竜、双頭竜と心で呟きながら変身しようとする。……首が増えたら脳が2つになっちゃうわけで、混乱しないのかな、などと不安になりながら。

 

「え?」

 そのスキルは全身に変化はなかった。

 力が流れたのは股間だけ。いったいどういう……。

 

「なんじゃこりゃぁあ!」

 予想外の光景に絶叫する俺とは対照的に華琳はにこやかに微笑んでいた。

「梓、予約していたから最初は譲ろうとも思ったのだけれど、今夜は私もいっしょよ」

「う、うん」

 俺の状態に驚いていた梓も華琳の言葉につい頷いてしまって。

 

 結局、3人での初夜となるのだった。

 

 

 


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