真・恋姫†有双……になるはずが(仮)   作:生甘蕉

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90話 手加減

 サクランボ少年を卒業した男は、生まれ変わった自分に無敵感を錯覚することができると見たのはなんだったっけか。

 通常の2倍は確実に卒業に手間取った俺だから、それはもうすごいものかと思ったらそうではなかったようだ。

 いや、感動はあったんだけどね。

 

 そうならない理由が目の前にいるからさあ。

「感想を聞いているのだけれど」

 俺を睨むのはついさっき俺と同時に大人になった少女と同じ顔をしている。

 初体験の感想を双子の姉妹に聞かれた感じだろうか? いや、姉妹じゃなくて異世界の本人だけどさ。

 

「ええと、他人にそれを言うのはマナー……礼儀的にまずい気がする」

 こっちの華琳には英語はわからないと気づいて言い直した。

「他人とは違うわね。私なのだから」

「……そうなんだけどさ」

 でもやっぱり俺の華琳とこの無印華琳は違うわけで。

 どうやって誤魔化したらいいんだろう。

 それとも素直に「最高でした。今までの人生の中で一番! 辛いのを我慢しながらもがんばって俺を受け入れてくれた2人の気持ちも嬉しいし、その彼女たちには悪いけど、俺は究極に気持ちよくて……」って本心を語った方がいいのかな?

 ……無理。無理無理。絶対無理!

 1時間以上はこの感動を語れる気もしないでもないけど、やっぱり無理。 恥ずかしくてそんなことできるわけない。

 

「急に転がりだしてどうしたの?」

 ごろごろと悶えながら転がっていた俺を冷めた目で見ている無印華琳。

 彼女ははあ、と大きくため息をついてから続ける。

「こんなのに自分の初めてが奪われるのを見せられるなんて……」

「ごめんなさい。まさか見られているとは思ってなかった」

 立ち上がって頭を下げる。

 見られてるとわかっていたら、この無印華琳のカードは春蘭か桂花に預けていたと思う。稟は……またスキルの使用を忘れてカードが鼻血で汚れそうだから不可か。

 

「まあ、私だけではなくあの娘、梓と言ったわね、彼女の可愛い姿も見れたのだからよしとしましょう」

「う、うん」

 これ、梓にばれたら怒られそうだな。

 この華琳を戻す時には、秘密にしておいてくれるように頼まないといけない。

 

「彼女も言っていたわね、あなたのそれの力」

 ビッと俺の股間を指差す無印華琳。

 その先を追うように視線を下にもっていけば、いまだに増加中の俺の主砲。

 主砲が2門になっているのは双頭竜のスキルを使用したまま寝ているせいだろう。

 

「って、なんで服着てないのさ!」

 無印華琳の登場に気が動転していて今まで気づかなかったが俺は全裸だった。そばに落ちているタオルケットを手繰り寄せてそれを巻く。

 やはり、疑似契約空間に入るときは布団もいっしょに持ってこれるな。隣で、というか俺の腕枕で密着していた梓と華琳がいないのは寂しいけど。彼女たちは契約済みだから連れてくることはできない。

 

「裸で寝たからではなくて?」

「あ……そうか」

 華琳と梓と大人になって、彼女たちの後始末(ふきふき)をしてからそのまま寝ちゃったんだっけ。

 慌ててスタッシュから下着と服を出して着替える。大人用のサイズもちゃんと入っていた。鬼モードになる時に破けた時用に準備しておいてよかったよ。

 

「ふう。……で、力って? 梓なにか言っていたっけ?」

「ええ。あなただけでなく、私のことも感じられると」

「ああ、そういえば……」

 感覚共有とでもいうのだろうか。双頭竜スキルによって増加中の俺の主砲にはそんな力もあるらしい。俺の主砲を通じて、華琳は梓の、梓は華琳の……を感じることができたようだ。

 

「だからあの私はそれを望んだのでしょうね」

 むむ、それは有りえるかもしれない。

 華琳は女の子が好きだし、擬似的にでもそれを感じられるのなら、双頭竜のスキルを願ったことも納得できる。

 ……なんだ、俺のはじめてがほしかったわけじゃなかったのか。俺じゃなくて梓のはじめてや他の女の子たちと楽しむためだったのか……。

 

「あら、急に暗い顔になったわね」

「……別に」

 さっきまでの高揚感が霧散している。

 華琳はやっぱり俺のことなんて……。

「そう? それで、私のはじめてはどうだったのかしら?」

「結局そこに戻るのか。……よかったよ。たとえ華琳が俺のことを道具にしか思ってなくてもさ」

 華琳がどう思ってようと俺のはじめての相手は華琳と梓だ。感謝しないといけないだろう。……はじめてはやっぱり愛がほしかったな……。

 

「……馬鹿にしているの?」

 え? なにか気に障ったらしい。

 無印華琳が俺を睨んでいる。投げやりな答えがまずかったんだろうか。

 殺気含みの眼光で俺を貫きながら続ける彼女。

「いくらその双頭竜とやらの力が素晴らしくても、私は男などに身体を許したりはしないわ!」

「それって……」

「あの私にとって、あなたはそうしてもいい相手だということよ。誇りに思いなさい」

 う、うわ……やばい。顔が熱い。異世界のとはいえ、本人からここまで言われては、華琳の愛を信じるしかないだろう。

 そうだよ! 大事な大事な処女を俺にくれたんじゃないか! その愛を疑うなんてどうかしてるぞ、俺!

 

「あ、ありがとう」

「どういたしまして」

 やはり異世界の娘でも華琳は素晴らしい。

 この感謝は口だけのお礼では返せそうにない。

「華り……曹操ちゃんにお礼したいんだけど、どうすればいいかな?」

「華琳でいいわ。私の真名もあの私と同じよ」

「それは知っているけど、いいの? 俺には真名なんてないから返すものもないんだけど」

「それならなおさらよ。真名も許していない相手が私との伽をしていたなんて、気分がよくないの」

 よくわからないけど、そういうものなんだろうか?

 これは断る方が無礼になるかもしれないと、受け取ることにした。

 

「前にも名乗ったと思うけど、俺は天井煌一。よろしくね、華琳ちゃん」

「華琳ちゃん?」

 あ、また睨まれてしまった。

「だ、だって華琳って呼び捨てだと俺の華琳と紛らわしいからさ」

「……そう。仕方ないわね」

 よかった、納得してくれたようだ。

 これからは無印華琳の方は華琳ちゃんで決定だね。

 

「それで、お礼なんだけど」

「いらないわ。あなたの華琳に敗れて、私はどうやらかあどとやらになっているようだから」

 華琳が言うには同一世界には同じ人物は存在できなくて、接触してしまうと、弱い方が死んでしまうらしい。

 なんとも物騒な話だが、実際に華琳と華琳ちゃんが握手した瞬間に華琳ちゃんの方がカードになってしまった。ファミリアカードになったということは華琳ちゃんは死んだってことなんだろう。

 ……ファミリア候補って契約しないでもカードになるのか。それとも契約しなかったとはいえ、疑似契約空間に入ったことがあったからだろうか?

 

「カードってのはこんな感じの札のことだよ」

 スタッシュからポータルカードを渡して説明する。

「ふむ。私は今、こんな状態なのね」

SR(スーパーレア)曹操ってなっていたよ。強いカードなんじゃないかな」

 なんだかますますソシャゲのような気がするけどね。

 華琳の話によれば、華琳ちゃんとは別の、妊婦な華琳はSSR曹操になったそうだ。SSR(ダブルスーパーレア)にも勝つなんて俺の華琳はUR(アルティメットレア)なのかもしれない。

 

「ファミリアカードはね、契約すれば復活できるんだよ」

 剣士のイナズマや柔志郎のカシオペアもカードから復活した。あ、GPが必要だったっけ。

「復活ね。もし復活できたとしても、あなたの華琳と接触したらまたかあどになってしまうのでしょう?」

「そ、そうだろうけど。触れないように気をつければ……」

「自分に触れぬように怯えるのは嫌よ」

 じゃあ、どうすればいいんだろう?

 別チームを組んで別世界の攻略に当たってもらうか、それこそ他の面の使徒に渡してそのファミリアに……それは駄目だ。華琳が他のやつのものになるなんて許せるわけがない!

 

「……しばらくはこのままで、どうするかはゆっくり考えるしかないか」

「そうね。ならばかあどは煌一が持っていなさい。あなたのそばにかあどがあった方が可愛い子たちを見れそうだから」

「ええっ……」

 それってまた覗かれることになるんじゃ?

 俺が断ろうとしたらそれを察したらしく。

「それがお礼ね。肌身離さずいつも持ち歩きなさい」

 と押し切られてしまった。いつもって、俺のトイレまで覗かれてしまうじゃないか。そのへんはON-OFFできるカードホルダーを用意するしかないか。

 

 その後、食事ができるか聞いて、試してみたいとのことだったのでスタッシュから取り出して渡した。

「あら、美味しいわね」

「そりゃ梓は料理が得意だからね」

 早弁や夜食用に多目に作ってもらってスタッシュに保管してあるのだ。

 拉致されていた時はぬいぐるみにされていたから空腹感がなくて忘れていたけどさ。

 

「ますます欲しいわね」

「俺の嫁さんです」

「そうだったわね」

 ふふっと笑う華琳ちゃん。うん。やっぱり可愛い。

 

「念のためにこれも出しておくね」

 仮設トイレをスタッシュから呼び出し、使い方もレクチャーすると「こんな物があるのなら、あの時に出しておきなさい!」と怒られてしまった。

 でも、ウォシュレット機能を試したら機嫌を直し、絶賛する。

「素晴らしいわ。ただ、お尻の洗浄にこだわりすぎな気もするわね」

 ……その理由は言えません。

 

「退屈かもしれないから本を……日本語を教える方が先か」

 ひらがなとカタカナを教えて、その日の夢は終わった。あとで華琳から辞書を借りるか。

 

 

 

 もはや日課となっている朝のラジオ体操。

 もうスタンプは終わったんだけど続けてほしいとの要望が多かったため、夏休みの間はやる予定だ。

 ちなみにスタンプが埋まった子たちには手作りクッキーをあげた。スタンプが埋まらなかった子にもちょっと枚数を減らしたけどちゃんとあげている。都合でこれなかったり、知ったのが数日経ってからって子も多かったからね。

 

「おはよー……あれ?」

 梓ファンだという乙級男子が朝の挨拶後に首を傾げる。

「煌一、なんかいつもと違わね?」

「お、わかるか?」

 ふむ。やはり大人(・・)の男になるとにじみ出るオーラも違うのだろうかね。俺にはそんなものは見えなかったけどさ。

「なんか前より大きくなったっていうか……」

「なんだそっちか」

 身長の方は確実に伸びているからな。今は変身魔法で以前の子供に化けているけど、それでも2ミリほど身長を高く変身している。

 これから毎日、1日1、2ミリずつ伸ばして変身する予定だ。卒業前には変身魔法を使わずにすごせるようになりたい。

 俺は病気で成長が遅れていたってことにして、治療が上手くいきだして急成長しはじめたとでも誤魔化そう。大江戸学園には18歳で登録しているから問題はあるまい。この学園の生徒なら信じてくれそうな気がする。

 

「梓さんもいつもと違う気がするし」

 鋭いな。さすがファンだといったところか。他の嫁さんのファンは首を傾げているけど。

「そうかぁ? 文姉(ぶんねえ)はいつもと同じっぽいぜ」

 文姉って呼ばれているのは猪々子。(あや)と紛らわしい字面で困る。いっちー姉じゃ駄目なのかな?

 猪々子は乙級男子生徒たちとも仲がいい。彼女の頭の中はおっさんかと思っていたが男子中学生よりだったようだ。今も乙級生徒に斗詩のおっぱいの素晴らしさについて力説している。

 

惇姉(とんねえ)と淵先輩は……今日はきてないのか」

 春蘭も惇姉って呼ばれているが秋蘭は先輩。そのあたりが2人の差なのかもしれない。秋蘭はどちらかといえば女生徒からの人気が高いしね。

 彼女たち2人は朝になっても微妙に辛そうだった華琳のサポートのため、屋敷に残っている。回復能力も高いファミリアの身体でそうなるなんて、昨夜はがんばり過ぎちゃったか。加減したつもりだったんだけど……。

 

 あと、乙級生徒に懐かれてる嫁さんたちに共通するのは、剣の使い手だってこと。同じ剣徒でも、やはり元から剣の使い手の方が人気があるっぽい。

 沙和の影響かデコデコな刀を使う女生徒も増えているみたいだ。

 

 

 朝食後、これからの予定を会議。

「そろそろ、民間人をトウキョウに入れるという話が出始めている」

 紫が教えてくれた。

 ゾンビから解放されたとはいえ、いまだトウキョウには対魔忍や自衛隊しか入ってない。

聖鐘(ホーリーベル)が稼動してからトウキョウでは生きた(・・・)ゾンビは確認されておらん。もういいだろうと政府も奪還を発表したくてうずうずしておる」

 光姫ちゃんの親戚である総理もその1人で、昨日電話で俺の無事を確認した後にそう言ってきたらしい。

 

「そうなると、俺たちはもうトウキョウに行かなくていいってこと?」

「死体はまだまだあるわ」

 そりゃ23区の都民の遺体の処理なんて簡単には終わらないだろう。数が多すぎる。

 

「人手が足りなすぎる。警察も動かして、一気に遺体を集める。……遺体の処理は数日置きでいい。その時は厳重な警備を用意する」

 警察か。トラウマになる人が増えるだけな気もするけど。あまりの遺体の数とその状態に、対魔忍や自衛隊でもストレスがすごくて精神科医のカウンセリングを受ける者が多いらしいし。

 ……うちの嫁さんたちはだいじょうぶなんだろうか? そんなに落ち込んだりしている娘はいないようだけど。

 

「みんな、辛かったらちゃんと言ってね。俺に言い辛かったら、他の誰かに相談して。1人で抱え込まないでね」

「急にどうしたの?」

「いや、俺たちだって精神的にまいってもおかしくないよなって、ふと思ってさ」

 あ、精神的なストレスはEP低下という数値でしっかり確認できるから、それに注意してればいいのか。みんなのステータスも今まで以上にこまめに確認しておこう。

 

「なら、ストレス発散にそろそろ海に行こうよ! お仕事が数日置きでいいなら、みんなで行けるよね!」

「そうだよね、せっかく水着も買ったんだし!」

 桃香と天和の案に乗るのもいいか。学園島の海は1年中泳げるらしいけど、やはり夏の方がいいだろう。

 

「宿題は進んでいるの?」

 華琳の一言で、急に静かになった。

「ま、まあ、宿題は夏休みの間に終わらせればいいんだからさ。約束だったし海に行こうよ。準備もあるだろうから明日行こうと思うんだけど、予定のある子いる? ……うん。みんな予定はないようだね、決定!」

 実は俺もあんまり進んでなかったりする。プラモ作ったり他にやることが多いんだよ。

 それもあって、やや強引に話を進めたけど、華琳も怒ってはいないらしい。華琳やみんなの水着、楽しみだな。

 

 その後は数名とともに開発部に移動した。

「煌一、またイメチェンしたのかい? ……へえ、やっと男になったのか、おめでとう」

 ニヤニヤとミシェルが笑っている。

 あ、鑑定スキルで俺が魔法使いじゃなくなったのがばれちゃったのか。隠蔽しておくんだった。

 

「モトロイドの実戦データ持ってきたで」

「おお! どうだった?」

 真桜とドワーフたちがモトスレイヴを囲んで話を始めた。

 ロードサンダーやモトスレイヴはこの開発部にも見せて、今後の参考にしてもらっている。

 ただ、エルフはともかくドワーフは足が短いので扱いにくいのか、コピー品の量産には至っていない。

 

「フライターク、ちょっと相談したいことがあるんだけど」

「今度はなんだ?」

「オリハルコンの加工ってできる?」

 金属加工スキルが10レベルはないとオリハルコンは加工ができない。もちろん、俺には無理なので以前に婚約指輪を頼んだドワーフに聞いてみた。

 

「おう、ここのところ、トイレやビニフォンの加工の依頼もちょこちょこあってな、レベルは上がっている」

 量産を始めたビニフォンはそこそこの高級品でケースに入れて使う者も多く、ミスリルやオリハルコンでケースを作ってくれとの依頼もあると笑うフライターク。

 

「オリハルコンにさ、コンピューターチップを金属粒子レベルで鋳込んでほしいんだけど」

「ほう!」

 フライタークだけではなく、他のドワーフたちまで目を輝かせる。

 

「サイコフレームを作ろうと思うんだよ」

「サイコフレームか! ついにMSを造る気になったか!」

 ドワーフたちは歓声を上げる。あ、エルフたちもみたいだ。

 アゴルフなんてジークジオンって連呼してるし。

 

「いや、今回はまだだよ」

「なんだ……」

 俺の周りで踊っていたドワーフたちがゆっくりと作業に戻っていった。

 そんなに落ち込むの? ……モトロイドが動くのを見てたり、バイカンフーで盛り上がっていたりしたから、すぐにでも造り始めたかったのかもしれない。

 

「そっちの方はまた今度。俺だって巨大ロボは楽しみにしてるんだから」

「……で、今回は?」

 フライタークもやはり巨大ロボを造りたかったのか、ちょっと声のトーンが低い。あんた、アクセサリーの方が得意なんじゃなかったっけ?

「指輪だよ、結婚指輪。必要な機能が出てきてね。ビニフォンが使えない時でも話ができるようにしたい」

「ふむ?」

 干吉にぬいぐるみにされた時にみんなに連絡がとれなくて困ったから、対策を用意しておきたい。

 

「別にニュータイプじゃないけどさ、サイコフレームならその補助になるかもしれないかなって」

 華琳は左慈に別の世界に送られてしまった。今回は戻ってこれたけど、次はどうなるかわからない。その時にも場所がわかるようにする必要がある。

「それは作ってみんとわからんな。だが、オリハルコンは高いぞ」

「トウキョウ解放でかなりGPが入ったからね。なんとかなるよ」

 がしゃどくろで結構稼がせてもらった。リッチヘッドの浄化でも入金されたようで、予算に不安はない。

 

「石はどうする?」

「こっちで用意するよ。ぴったりのがあるんだ」

 そう。たぶん世界が違っても思いを伝えてくれそうな石。

 超空間共振水晶体。フォールドクォーツ。

 イヤリングも考えたけど、やっぱり指輪でしょ。

 

 

 指輪のことを相談し、試作型の仮設ユニットバスを受け取って開発部を後にする。

 本当は瀬良さんに干吉たちのことを相談したかったんだけど、ビニフォン人気で忙しいらしく、メールだけにとどめた。

 

 そして夜。

 明日の準備は、俺の水着とシートを数枚、日焼け止めと浮き輪もあった方がいいか。弁当は朝に用意すればいいからこんなもんだろう。

 

 準備が終わると、クランとヨーコに向き直る。

「待たせてごめんね」

「ま、待ってなどおらんのだ!」

 大きな声でクランが怒鳴る。かなり緊張しているみたいだ。

 

「無理そうなら今夜はいいよ」

「無理なわけがなかろう!」

「クラン、声が大きいってば。……煌一はずいぶんと余裕ね」

 テンパったままのクランにジト目のヨーコ。

 俺が余裕? 昨日すでに経験済みなおかげかもしれない。

 

「安心して俺にまかせて」

「わ、わかったのだ。やさしくするのだぞ!」

 うん。昨日の反省もあるからちゃんと手加減するからね。

 

 

「でかるちゃぁ……」

「……激しすぎ」

 ごめんなさい。嘘になってしまいました。

 覚えたての俺に手加減なんて無理だってば!

 

 


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