「肝心のところは見せないのね」
華琳ちゃんのファミリアカードは、指輪にしまうことになった。
空きスロットに時間凍結のない収納空間を設定することで、そこにカードを収納、さらにそこから外部を見れるかどうかのON、OFFも切り替えられるように追加設定している。
「そりゃね。プライバシーは大事だよ」
いくら嫁の同一人物でも見られたくないものはある。トイレや風呂、それに……。今回、カードホルダーをONにしたのは寝る直前。レーティア、桃香、蓮華との初夜は見られていないからそれが不満なのだろう。
「ぷらいばしい? ずっとこんなところにいて楽しみがないのだけれど」
「そう言われてもさ、嫁さんたちだって見られるのは嫌だろうし」
「あら、私は平気よ。そちらの私もだいじょうぶなのではなくて?」
まさか華琳ちゃん露出狂?
……いや、見せたいんじゃなくて、見られてもかまわないってだけなのか。
むう。俺が見られるのも、嫁さんの裸を他の男に見られるのも、絶対に嫌なんだけどなあ。華琳ちゃんは男じゃないけどさ。
医者の診察でも華佗にすら嫁さんは見せたくない。回復ベッドがあるからなんとかなるだろうし。
……でも、出産時は無理か。やっぱり女医さんの産婦人科を探さないといけないな。俺の担当世界を救済するまでは子供ができないとはいえ、さ。
あ、大江戸学園には
「やっぱり恥ずかしいよ」
「……まあいいわ。それ以外は見れるようにしておきなさい」
「わかった。忘れないようにする」
OFFにすることも、うっかり忘れることのないように注意しないと。
他の無印恋姫のカードが手に入れば、ここに連れてきて少しは退屈させないですむんだろうか? なんとなく手に入りそうな気もする。だって、干吉が華琳ちゃん以外も使う可能性は高いよね。都合よく考えすぎ?
……大喬と小喬は無印からきたっぽいんだっけ。ぬいぐるみにされる前、どういう状況だったかは聞いたけど、雪蓮は生きていたみたいなんだよなあ。まさかアニメ版からじゃないよね?
両さんのとこに連れてったらどうなるかな? けど2人きりにするのも不安だ。
「今度暇潰しできそうなものを持ってくるよ」
DVDと再生装置や、ゲームとか。電源は両さんの銅像にからませたみたいに俺が持って寝……るのは無理だから、ビニフォンみたいにMPを電力に変える発電機とバッテリーを
「期待しておくわ」
「あと……」
俺が言い辛そうにしているので、華琳ちゃんが察した。
華琳にその話題をふられた時は指輪のカードホルダーをONにしていたから、華琳ちゃんも聞いていたのだろう。
「合成のことね」
「うん……」
合成。神様修行の運営のショップで行えるサービスの1つ。アイテムやファミリアを合成できる。
華琳と華琳ちゃんを合成すれば、より強い華琳になるのではないか? そう彼女が言ってきたのだ。
「そりゃカードもソシャゲっぽいし、同じカードを合成して強くするってのはよくあるけどさ、そんなこと試せないよ!」
「どうして? 私が2人いるという問題も解決するし、いいことづくめなのではないかしら?」
「別に2人いたっていいよ」
クランを合成成現した俺が言う台詞じゃないけどさ、片方は……もしかしたら両方の華琳がいなくなって全く別の華琳になっちゃうかもしれないじゃないか。
「煌一は私たちがいなくなるのが怖いのね」
「当たり前だよ。華琳も華琳ちゃんも失いたくない」
「……2人とも欲しいなんて強欲ね。嫌いではないわよ」
あれ? いつの間に華琳ちゃんがほしいなんてことになっているんだろう? いや、ほしいけどさ!
「私は力が欲しくなったら合成という手段を選ぶでしょう。あの華琳もきっと同じく。それを止めたかったら、そう思わせないことね」
「……わかった。華琳が力を必要としないぐらいに俺が強くなる!」
俺が頼りないから華琳もあんなことを言い出したんだろう。なら、俺が頼りになる男になればいいだけのこと。
「言うじゃない。どれほどのものか、ここからじっくり見せてもらいましょう」
「ああ、まかせてくれ」
ふむ。俺、いつになく強気かも。雪蓮のいうように魔法使いを卒業して自信がついたのかな? 昼間、詠美ちゃんと吉音の剣を止められたのもさらに影響してるのかもしれん。
……鍛錬の時間がこれ以上増えるとますますプラモ作ってる時間が減るなあ。マジで身体が2つ以上ほしいよ。
「おはよう、煌一さん!」
珍しく桃香に起こされた。朝っぱらからテンション高いな。
「おはよう」
「えへへ……なんだか照れるね」
頬染めてそう言われると、こちらも照れくさい。桃香の顔を直視できなくなってきょろきょろしたら、蓮華も起きているのに気づいた。
「おはよう、蓮華。身体の方はだいじょうぶ?」
やっとそれなりに手加減はできたはずなんだけど、3人ともはじめてだったんだし。……こんな美少女3人のはじめてをもらっちゃうなんて、俺は本当に幸せものだなあ。
「おはようございます。煌一さんも……げ、元気そうね」
朝の挨拶を返してくれたけど、微妙に反応がおかしい蓮華の視線の先には……げっ!
「こ、これはね、ただの生理現象だからね! 別にそんなつもりじゃないからね!」
発射体勢を整えていた主砲を慌てて隠そうとする俺。あんなに発射したのにもう次弾装填されているとか、どんだけ弾薬の補充早いの? い、いや待て。これは使用量は関係ないんだっけ?
昨夜しっかりと使用可能状態を見られているにもかかわらず、妙に恥ずかしくて俺の頭は正常回転していなかった。
「うぅ、朝からうるさいぞ。……す、すまん! 今は無理だ! い、いや煌一に抱かれるのが嫌だというわけではなくてだな、身体が悲鳴をあげているのだけなのだ!」
レーティアも目覚めたが、俺の主砲が寝ぼけ眼に入ったのか、俺と同じくテンパってしまった。
手加減できたつもりだったけど、武将2人とそこまで身体の強くないレーティアを同じ配分では最初から無理があったか。ごめんねレーティア……。
恋姫世界の女性はやっぱり強いのかもしれない。名立たる有名人がみんな女性になっているだけあって、身体能力は女性の方が高いのかも。……一般兵は男性の方が多かったから、一概にそうとはいえないか。となると、ある一定のラインを超えられるのは女性な種族、と考えればいいか。女王蜂的な。でもあれは餌が違うからであって……。
俺の脳はしばらく現実逃避をするのだった。桃香の「もう1回する?」発言にすぐに正気に戻ったけどね。やっぱり彼女も武将か。
もはや日課となったラジオ体操から戻って朝食後、テレビでニュースを見ていたらトウキョウ奪還がついに発表されていた。
「こりゃ今日の番組は1日中、特番になっちゃうんじゃないか?」
「ええーっ、夏休みの集中再放送のアニメ、楽しみにしてたのに」
昨晩からうちに泊まっていた徳河吉音がそうこぼす。
朝食時もあまりにも自然におかわりを重ねていたから部外者だって忘れるとこだったよ。思い出して
「トウキョウが解放されたんだからそっちを喜ばないの? ……知ってたのか?」
「うん。昨日の夜、詠美ちゃんから聞いたよ。みんなが取り戻してくれたんだって。まだ他のとこもあるから、詠美ちゃんは将軍になれないって。だからあたし、がんばるよ! 詠美ちゃんの分まで!」
「ごめんなさい、やっぱり私に将軍になってくれと泣きついてきたので説明してしまいました」
俺に頭を下げる詠美ちゃん。吉音が昨日きた時は「宿題教えて」という理由だったから、その流れで将軍の仕事の話になって、吉音は自分にむいていないってなったのかな。で、説明しちゃったと。
「徳河さん、詠美ちゃんは君のことを信用して話したんだから、他言無用だよ。いいね?」
「もちろんだよ! 詠美ちゃんも正義の味方、がんばってね!」
未来の生徒大将軍の言葉に苦笑するその従姉妹。正義の味方っていったいどう説得したんだろう?
「っと、メール?」
着信音でビニフォンを確認したらチ子からメールが届いていた。頼んだアプリがもう完成したらしい。動作確認と他にも話すことがあるので、開発部に顔を出せとのこと。
「ちょうどいいか。これじゃあトウキョウにはいけないだろうし」
テレビの画面にはトウキョウ各地を映し出している。青い顔のレポーターの背後の一部にはモザイクがかかっているので、たぶん遺体が見つかったのだろう。チャンネルを回しても、どこも似たり寄ったりだ。
「うむ。むこうの準備が整うまでは行けないじゃろうな」
「かといって中国の方は井河さんから連絡がきてからじゃないと」
干吉にさらわれた俺の救助の後始末がおわっても、情報収集や俺たちの活動の根回しのために中国に残ってくれたアサギさん。彼女からの連絡はまだない。……ユキカゼちゃんと凛子の母校だった五車学園の校長の仕事はいいのだろうか?
「じゃあ俺と開発部にいく人以外は明日の準備しといてね」
「明日?」
首を捻る春蘭にすかさず秋蘭が解説する。
「姉者、キャンプだ。校庭に天幕を設置して泊まると決めた日だろう」
「おお、野営訓練の日だったな」
「違う! 野外フェスよ」
地和、気合入ってるな。ただキャンプするだけじゃあれだから、いくつもある校庭それぞれに舞台を作って、申請したグループが歌や演奏することになっている。彼女が言う通り、野外フェスもどきのプチ音楽祭状態だ。
「俺が思ったよりも大ごとになっちゃってる」
「最後の大仕事ができると吉彦もはりきっておったぞ。まあ、身体を心配した桃子が無茶しないようにつきっきりだったがの」
かっかっかと笑う光姫ちゃん。
一方、朱里ちゃんと雛里ちゃんの表情は暗い。
「やっぱり、即売会したかった?」
「はわわわ、そ、そんなことはありません!」
キャンプだけでは、との話が上がった時に彼女たちは同人誌即売会を提案したのだ。……もうそこまで腐女子化が進んだか、とはびびったが、俺も即売会はやってもよかったと思う。
ちゃん様じゃない詠美ちゃんが音楽祭の方をおしたので、2人は折れたのだが。同じ名前でも即売会のくいーんではなかったようだ。
「気になっているのはこのニュースで、トウキョウ周辺が混雑してコミケが中止になったり延期されるんじゃないか、です」
「うーん、どうだろう。解放されたとはいってもまだ一般人が入るのは規制しているみたいだし、おめでたいことだから、自粛ってのもないでしょ、だいじょうぶなんじゃないかな? って、夏コミ行くつもりなの?」
「い、いえ、お友達に新刊を頼んでいただけです」
その手があったか!
あまりのショックにしばらく放心する俺。
「あわわわ、ど、どうしましゅたか?」
不安げな雛里ちゃんに、ぼそりと呟いた。
「俺も、頼めばよかった」
頼めるやつなんていないけどね!
いや、ぼっちじゃないよ。友達はいるし! ……乙級ばかりだけどさ。コミケやワンフェスでの買い物を頼めるような知り合いがいないだけで。
「ま、ガレキ買っても作ってる暇ないか」
当日版権のためにワンフェスでしか買えないのがあったりするんだよなあ。残念だ。マサムネたちディスクロン部隊に写真だけでも撮ってきてもらおう。
「1日ぐらいならええやん。ポータルですぐ帰ってこれるんやし」
ワンフェスの説明をしてから真桜も行きたがっている。気持ちはわかる。痛いほどに。
「即売会をなめるな。あれは戦場だ」
行ったにもかかわらず、目的のブツが売り切れで入手できなかった時の精神的ダメージは計り知れない。俺は1週間ぐらい引きずる。その後、自作しようとして資料にとそのサークルのホムペを見てさらに落ち込むという悪循環。
「それに真桜だったら、次はサークル参加したいって言い出すだろう。でも残念ながら俺たちにそんな暇はない」
「……せやな。模型よりもモノホンのロボつくるんで忙しいんやった」
「そうだよ! おいらたちの夢はでっかいんだよ!」
真桜も開発部の影響受けて巨大ロボを作る気まんまんだ。輝なんて、大魔神のパーツを開発部に持ち込み始めている。
……今日の呼び出しってその関係?
開発部に到着した俺たち。
常夜だった2面も2ヶ月が過ぎて季節が変わった。今は秋。熱い夏の世界からくると、ほっとするな。
「いつも差し入れありがとね」
「いや、
今日の差し入れは素麺。みんな腹が減っているというので、さっそく俺が茹でることになった。
ビニフォンの開発が一段落して徹夜続きから解放されたはずなのにまだ生活リズムがおかしいようだ。夜の季節じゃなくなったから早く改善されるといいのだが。
「これは流し素麺ができる機械を作れというフリか?」
蕎麦猪口を忘れたので、紙コップに入れたつゆで素麺を啜りながらヘンビットが提案する。
「いや、それもうあるから」
「なんだって!」
あれ、ここの連中のほとんどが驚いてる? ……ああ、転生者の多くは前世紀に亡くなった人が多いんだっけ。その頃にはまだなかったか。
「入手できたら今度持ってくるよ」
「頼む。きっとなにかの役に立つはずだ」
流し素麺以外の役には立たないと思うけど。武器やマジックアイテム作成のヒントに……ならないだろうなあ。
「アプリはどう?」
「いい感じだよ。ちゃんとみんな表示される」
「あんたんとこはファミリアが多すぎなの」
そんなため息つかんでも。その上、やれやれって首ふりまで?
「普通はそこまで人間のファミリア候補を集めることもできないわ」
「そんなもんか。じゃ、このアプリ、俺以外じゃ使う人少ないかな?」
「どうかしら? 一応販売はしてみるつもりだけど」
売るのか。ビニフォンに最初から入っていてもいいと思うアプリなのに。
「どうやって売った方がいいのか相談したいの」
「それで呼ばれたのか。こっちにはインターネットなんてないからダウンロード販売は無理だろうなあ」
ネット環境があれば便利だろうけど、非常に面倒くさいことになりそうなので俺や開発部での構築はしたくない。管理に忙殺されそうだもん。
「運営の支部に端末を置いて、購入者はそこでインストール、かな」
「FCのディスクカードの書き換えみたいね」
「あったなあ、自動販売機みたいなやつ」
その後しばらく、若い子置いてけぼりの話題で盛り上がってしまった。ここのドワーフやエルフたちの中身は俺と年が近いのかもしれない。
「まあ、あそこまで大掛かりな物じゃなくて、ノートパソコンと接続ケーブル、それに専用ソフトを用意しておけばいい」
「そうね、まずはそれでマーケットで試してみましょう」
「マーケット?」
「ああ、あんた達は初めてだったっけ。交流イベントの1つよ。来月行われるわ」
こないだの交流戦のようなものか。基礎講習で聞いた気もする。
あれ?
「でもさ、このサイコロのみんなは開発部にきているから、マーケットじゃ売れないんじゃないか?」
わざわざマーケットで買わなくても開発部で直接入手すればいい。
「いえ、マーケットは他の開闢の間に行くこともできるわ。事前申請が必要だけど」
「事前申請って、なにが売ってるか前もって知ってないとしないよね?」
俺の質問に十三がスタッシュからなにかを取り出す。
「……カタログ?」
それは1冊の本だった。渡されたものを確認してみる。
すると○○開闢の間○面、と売主と商品が書かれていた。
「なんだか通販のカタログじゃなくて、コミケのカタログのような……って、巻末に徹夜禁止とかの注意事項があるじゃないか」
これは完全に同人作家が作ったに違いない。
なんだかマーケットが即売会に思えてきたよ……。
「あと数日で売り物を決めなきゃいけなかったんだけど、これで決まりね」
「面ごとに出店するんじゃないのか?」
「ああ。ビニフォンや仮設トイレのおかげで、この開闢の間は有名になっているからな。ニュースでも紹介されたし、多数の客が予想される。面ごとに対抗するのではなく、一丸とならんと大変だろうよ」
もしも本当に壁サークルのように混雑するのだとしたら、行列を捌く人員も確保する必要があるか。
「わかった。混対の練習もしておくか?」
「いや、お前さんには別の仕事が予定されているらしい。詳しくは支部長代理に聞いてくれ」
「瀬良さんに?」
なんだろう?
プラモの製作代行だろうか。キャストオフの依頼とか受けたら困るなあ。基本的にフィギュアは完成品にしか手を出していないし。
その時俺は、マーケットであんな仕事をすることになるとは欠片も思っていなかった……。