真・恋姫†有双……になるはずが(仮)   作:生甘蕉

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93話 合体歯車

 運営の瀬良さんは午後にやってきた。相変わらず忙しそうだ。

 挨拶もそこそこに本題である、交流マーケット時の俺の予定について話し始める。

「クレーンゲーム?」

「はい。ショップのゲームコーナーに置いてあるクレーンゲームです」

 それはわかっているって。なにしろ、俺の嫁さんたちの大半がそこに囚われていたのだから。

 

「煌一さんたちの報告を受け調査した結果、運営側が設置した記録のないクレーンゲームが多数、確認されました」

「それって」

「おそらく干吉たちが設置したものでしょう。メダルの回収や景品の追加、交換等は現地に行かずとも行えるようになっているため、発見が遅れました」

 資料として渡されたプリントに多数のクレーンゲームの写真が印刷されている。

 

「中身はどれもぬいぐるみか……。これ全部、元は人間だったのか?」

「もしかしたら使徒やファミリアが混じっているかもしれません」

 そうか、その可能性もあるか。使徒である俺もぬいぐるみにされたし。

 使徒やファミリアは殺しても復活できるが、ぬいぐるみにされたら自力復活はかなり困難になってしまう。それが狙いなのだろうか。

 

「たしか、あのぬいぐるみみたいに人の魂のあるアイテムは、インテリジェンスアイテムの素材にされちゃうんだよね?」

「はい。ですが、そうされた人はまずいないと思います」

 ……もしいたら、完成したインテリジェンスアイテムの口から、この事件が明るみに出ているか。それともできたインテリジェンスアイテムって昔の記憶はなくなっちゃうのだろうか?

 

「インテリジェンスアイテムにするのって合成だよね? 合成前の記憶って残るの?」

「ええ。合成後の姿や能力はたいがい、強い方がベースとなりますが記憶は残ります。もしもファミリア同士を合成したら、合成前の双方の記憶を持つファミリアができます」

 そうか。華琳と華琳ちゃんを合成したら、どっちの記憶も持っている華琳ができるのか。

 しないけどね。

 記憶が残るとはいっても、弱い方が消えることには違いないしさ。

 

「ぬいぐるみ素材のインテリジェンスアイテムの話を聞かないってことは誰も作ってないってことか」

「そうなります。クレーンゲームは元々、ゲームコーナーの中では難易度が高く、景品が取れない時も多くてあまり人気がありませんでした」

「マジ? 俺のいた世界じゃ人気あったはずなのに」

 娯楽でやるのと、便利なアイテムも求めてのチャレンジじゃ違うのかな。メダルも高いし、失敗して無駄にするよりは効果が低くてもなにか手に入った方がマシか。

 

「さらに何者かによって設置されていたこれらのクレーンゲームは、他の筐体よりも難易度が高く設定されているようなんです」

「そうなの?」

 ぬいぐるみ以外のクレーンゲームはやっていないんだけど、あれより簡単だったのか。いや、クレーンゲーム以外の他のゲームもやったことないんだけどね。

 

「そのため、ぬいぐるみを入手できたのはたぶん煌一さんだけかと」

「どんだけ難しいの?」

 俺がやった筐体は普通だったけど、アームを弱くしたり、ボタンの反応を悪くしたりしてるのかもしれない。

 やっと救出されると思ったら、ぽとんと落下してしまうなんて、ぬいぐるみ側からしたらたまったもんじゃないだろう。

 どこかに隠しておけばいいのに、クレーンゲームをわざわざ設置してわずかな希望を持たせるとは、なんて性格の悪いやつだ。それとも、別に理由があるのか?

 

「問題のクレーンゲームは回収しましたが、筐体を分解も破壊もすることができず、ぬいぐるみは救助できておりません」

「ああ、破壊不能属性になっているんだっけ」

 やたら力の強い使徒が、取れなかった怒りで殴りつけても壊れないようになっているらしい。

「スキルや(アーツ)なら破壊することはできるでしょう。ただし、加減を間違えて中のぬいぐるみを破損してしまうようなことになったら、復活させられるかどうかわからないのが現状です」

 破壊不能属性でも壊せるのか。どんだけ強い攻撃なんだろう?

 そんなものをくらったんじゃ、ぬいぐるみは破損どころか蒸発や消滅しちゃいそうだ。

 

「でもさ、取れないわけじゃないんだし、メダルを大量投入してぬいぐるみをゲットすればいいんじゃない?」

 現に俺もそうやって嫁さんたちを助け出したんだしさ。

「……あれは難しすぎます。有利に働くスキルも受け付けないようになっていますし」

 むう。ゲーム関係のスキルはゲームコーナーじゃ活用できないんだっけ。死にスキルだなぁ。まあ、スキルが有効だったらみんなそれを習得してるか。景品のアイテム目当てに。

 

「さらに、使用されたメダルは運営には入ってきておりません。どこか別の場所に転送されているようです」

 メダルの回収って転送されていたのか。かなり高性能だな。……ポータルカードがあることを考えたらそうでもないのか?

「行き先はわからないの?」

「筐体を分解できればわかるのでしょうが」

 むう。干吉の技術力は、かなり高いようだ。クルル曹長モードって眼鏡や口調だけじゃないのか。

 ……ケロロ軍曹が敵にまわることがなければいいけど。ガンプラのことをじっくりと語りあいたいよ。

 

「ですので、マーケットの日には、煌一さんにはクレーンゲームの攻略をお願いします」

「それが俺の仕事? でもさ、それならマーケットの日じゃなくてもいいんじゃない?」

 嫁さんたちみたいな境遇なら助けるのもやぶさかではない。――やぶさかではないって、喜んでするって意味だからね。最近の使い方は違うらしいけど、俺は嫌々するつもりじゃないんだからね。

 

「マーケットの時は他の面だけでなく、他の開闢の間からの移動もあるため、運営側の人手が足りずセキュリティが緩くなりがちです。前回の交流戦でも、干吉たちは行動を起こしています」

「うん。俺たちも左慈に襲われた」

 その対処のために素顔を見られ、左慈が俺の呪いにかかってしまった。今やつはどうなっているんだろう? ……考えたくない。

 

「煌一さんの安全を確保するためにも、マーケットとは別の厳重な警備のもとでクレーンゲームを攻略していただきたいのです」

「ならなおさら、マーケット以外の日の方がいいんじゃ?」

「いえ、マーケット時の申請を利用して他の開闢の間からの護衛を集めます。……うちの支部は慢性的な人手不足ですので、それ以外にチャンスがありません」

 いつも忙しそうだもんなあ。ビニフォン量産で功績はあがってるようだけど、その分仕事も増えているようだし、だいじょうぶなんだろうか?

 

「瀬良さん、身体だいじょうぶ? 無理してない?」

「えっ? あ、はい。平気です。ちょっと寝不足で抜け羽根が多かったりしますが私は元気です」

 だいじょうぶじゃないっぽい。……抜け羽根ってやっぱり翼があるのか。

 ここの開発部は瀬良さんにかなり頼っているんだから、倒れられたら困る。いつもお世話になってるから、元気でいてほしいし。

「心配だなあ。身体大事にしないと駄目だよ」

「だいじょうぶですって。それに、今回の作戦がうまくいけば、代理がとれた正式な支部長となれるんです。そうなれば部下も増えますし、多少はゆっくりできるはずです」

 そうだろうか?

 肩書きが上がれば責任も増えるし、新しい部下なんて余計な仕事が増えるフラグっぽいんだけど。有能なベテランがくることを祈ろう。……祈る相手は駄神しかいないけどさ。

 

 

 マーケット時の予定を軽く打ち合わせると、瀬良さんはすぐに行ってしまった。むう、彼女がいつ来ても差し入れできるように開発部に栄養ドリンクを用意しておくか。……開発部の連中も消費しそうだから多めに用意しよう。華佗に相談してみるかな。

 

「なんだ、もう話はすんだのか」

「うん。瀬良さん相変わらず忙しいみたいだ。倒れなきゃいいけど」

「私も心配して注意したけど、無能で嫌味な上司から解放されてやっとまともな仕事ができるって張り切っていて聞いてくれない。代理がとれる前に別の支部長が派遣されるかもしれないって気にしてる」

 以前の環境はよほど酷かったようだ。今頑張らないと、また無能な上司が現れるかもしれないとなると、そりゃ多少の無茶はするか。

 

「俺の責任、けっこう重大かもしれない」

 クレーンゲーム攻略、プレッシャーでかいなあ。胃が痛くなりそうだ。

「頼むぞ。支部長代理が支部長になったら宴会する予定なんだからな!」

 真剣な表情で俺の背中を叩くヘンビット。もしかしてツンデレなんだろうか? 瀬良さんに気があるんだろうか?

 ふとそんなことが気になったが、おせっかいはしない。だって俺、エロースの欠片入りだもん。キューピッドの応援なんてろくなことにならないのはギリシア神話で証明されている。

 

「宴会も楽しみだけど、報酬もかなり高そうなんだよね。成功したら、みんなの協力で作ってほしいものがあるんだ」

「ほう。巨大ロボか?」

 あんたらはそればっかだな。気持ちはわかるけど。

 今の俺の最大MPなら、スキャンしてる時間くらいは成現(リアライズ)もちそうだけどさ、まずはそこそこの大きさからでしょ。

 

「今回は、その準備だ。ロボの操縦関係」

「操縦……リモコンか?」

 リモコンね。「倒せ」や「負けるな」といったファジーな命令に対応してくれるならいいかもしれないけどさ、それだと超AIとかでいいよね?

「いや、やっぱり乗って操縦したいでしょ」

「それもそうだな。となるとパイルダーか?」

 パイルダーか。操縦はオートバイに近いから覚えやすいかもしれない。敵に奪われた時もすぐに操縦されているから難しくなさそう。

 

「いや、ジオングヘッドだろ」

 コアファイターじゃなくて? ……アゴルフはジオン派だったっけ。

「そこまで大きなものじゃないって。できれば他のロボにも対応可能にして操縦系を統一したいからさ」

「なるほど。EX-ギア(エクスギア)か」

「はい正解」

 ミシェルの回答にパチパチと拍手。

 あれなら成現コストもあまりかかりそうにないし、利点も多い。

 

 EX-ギア。マクロスFに登場した、パワードスーツに変形するコクピットシートだ。主役メカであるVF-25やYF-29に使用されており、脱出装置も兼ねている。これで脱出できるせいか主人公である早乙女アルトはよく撃墜されていた印象があるよね。

 耐G性能が高かったり、飛行可能だったりと高機能だ。

 

「でさ、これってちょっと見かたを変えると聖衣(クロス)っぽくない?」

「聖衣ってムウが着るキンキラキンのやつだろ?」

 カミナも知ってたか。戦女神(ワルテナ)がビデオを見せたのかも。

「そう。変形する鎧。椅子座の聖衣って感じで」

 あれほどバラバラになってから装備ってわけじゃないけどね。そんな星座もないし。

 

「するってぇと、ムウに作ってもらうつもりか?」

「駄目かな? できればオリハルコンで作りたいんだよ。サイコフレーム仕様のね。操縦するロボの性能も上がりそうでしょ?」

 元々サイコフレームはコクピット周辺に使用されていたはずだ。

 ニュータイプじゃなくても恩恵があるかわかないけど、オリハルコンならパワードスーツ時の装甲としても申し分ないはず。

 

「それは面白そうですわ。ムウ君に打診してみましょう」

 いつの間にかいたワルテナが賛成してくれた。

 ムウはオリハルコンの加工に慣れてるらしいから、協力してくれればうまくいくだろう。

「うむ。アクセサリーならともかく、鎧となるとやつの方が上だろう」

 ドワーフにつきものの長い髭をいじりながらフライタークも頷く。指輪で依頼したサイコフレームを研究中の彼の技術も役に立つはずだ。

 

「スーパーEX-ギアといったところね」

「いや、その名称はマズイって」

 チ子たん、マクロス的にはバルキリーみたいにスーパーをつけるのは間違ってないのかもしれないけどさ。

「え?」

「略称がね」

「……あ。そ、そんなつもりじゃなくて!」

 スーパーをSって略すことに気づいたチックウィードが真っ赤になってしまった。意外とこういう話に免疫がないのかもしれない。

 

「名称は後で考えるとして、これからEX-ギアを成現するのか?」

「え? マーケットの準備があるんじゃないの?」

 俺は参加できそうにないけど、この開発部みんなでやるって決めたんだよね。

 

「そうだったな。しかし、そんなものはすぐ済むし、マーケットにEX-ギアの試作品を参考出品できるかもしれん!」

「そうだ! とにかく見たいんだ! 早く用意してくれ!」

 さすが開発部。未知の技術への興味は抑えきれないらしい。

 ため息を大きく見せつけてから、俺はEX-ギアのフィギュアをスタッシュから取り出した。

 俺の出身世界からネット通販で購入したものを剣士に運んでおいてもらってよかったよ。

 

「軍用の、しかも姫つきか」

 ミシェルが眼鏡を光らせる。

 民生用ではなく、装甲の多い軍用のEX-ギア。装着しているのは早乙女アルトのフィギュアだ。

「彼は成現しないからね」

「残念ですわ」

 だって、美形なんてうちに追加されたら嫁さんの浮気が心配だし、ワルテナのとこだと、男ばかりで可哀想だし。

「ロム兄さんの妹のレイナなら成現してもいいけど」

「いえ、女性はいりませんですわ」

 これだ。ワルテナのとこにいくくらいなら成現しない方が優しいと思う。

 

 必要なEPは貯まっていたので、空きスロット以外は余計な機能を追加せずにさっさと成現した。成現時間は1週間分指定でやったがMPにはまだずいぶんと余裕がある。次はもっと大きな物を試してみよう。

「詳しい使い方、操縦方法はミシェルに聞いてくれ」

 スキャンするのが先で俺の話なんか聞いてなさそうなドワーフたちに一応、言っておく。

 

「むむ、このままではドワーフには着づらそうだな。だが、うまく作成できればドワーフや人間、エルフが乗り換える度にシート周りを調整する手間が省けそうだ」

 やっぱり聞いてないね。でも、言うことはあってるな。ドワーフや背が低い子たちに専用のEX-ギアができれば、乗り換えも容易になると思う。マクロスFのTV版ではクランがミシェルのVF-25Gを使用したから、背が低い子用のもあるはずだし。

 

「対応身長は150から225センチなのだ。だが、オプションで拡張も可能なのだぞ」

 目があったクランが俺が聞く前に教えてくれた。クランの時にはきっとオプションを使ったのだろう。あとでどんなのがあるか確認しておこう。女性用の巨乳仕様な胸部装甲があるかは聞きにくいけど。

 

 

 

 その後、結局ほとんどEX-ギアの調査でおわってしまった。

 試着時、無動力歩きまですることになってかなり疲れた。……成現する時にMPを電力に変換する機能を忘れた俺が悪いんだけどさ。急遽、空きスロットにその機能を追加したけど、やっぱり勢いでやらないで、ちゃんと案をまとめてからじゃないといけないと痛感した。

「明日は筋肉痛かな……」

「だらしないわね。明日はってことは今はだいじょうぶなんでしょうね?」

 雪蓮が俺を見つめる。『今』とはつまり、初夜のことだろう。

 今夜の当番は雪蓮、冥琳、大喬ちゃん、小喬ちゃんの4人だ。

 

「もちろん!」

「ならいいけど」

 愛しい嫁さんたちの初夜に筋肉痛で動けないなんていってられないでしょ。

 それに雪蓮たちは俺の設定改竄で処女になってくれたんだし、先延ばしにもしたくない。……いや、俺がもらうつもりで設定改竄したわけじゃないけどね。

 

「大喬ちゃん、小喬ちゃん、さっきも確認したけど、本当にいいんだね?」

「いいって言ったでしょ。ここにいるお2人があたしたちの雪蓮さま、冥琳さまと違っても……」

 ここにいる雪蓮と冥琳、そして他の恋姫ヒロインたちみんなが、大喬ちゃんと小喬ちゃん、彼女たちの世界の恋姫ヒロインと違うことを説明した。

 それでも、彼女たちは俺の嫁でいてくれるという。

「人形から助けてくれたあんたには感謝してる。それに、もしあたしたちの雪蓮さま冥琳さまと遭遇することがあったら、お2人のことも助けてくれるんでしょ」

「それは当然だよ」

 クレーンゲーム攻略を引き受けた理由の中に、他の恋姫ぬいぐるみが見つかるかもしれない、というのもある。もしいたら必ず救出するつもりだ。

 

「もし私が増えても合成しちゃえば1人になれるんでしょ。問題ないわよね、大喬ちゃん?」

「は、はい。よろしくお願いします」

 雪蓮まで合成推奨派か。俺は合成って嫌なのに。

 無印雪蓮じゃなくても、やっぱり大喬ちゃんのことを好きなようだし、彼女を巡って雪蓮同士が争うよりかはいいのかね?

 ……夫の俺を巡ってってのはなさそうだよなあ。

「でね、武器用意しといてね。あの虎錠刀(こていとう)ってやつ。あっちが持ってる本物の南海覇王と勝負できるように」

 虎錠刀か。三国伝の孫策の武器だ。――あの孫策はどっちかっていうと巨大トンファーや巨大棍棒のイメージが強いんだけどさ。

 雪蓮が持っている南海覇王は俺が成現したある意味偽物だ。性能的には本物と同じなんだけど、それだけに孫家伝統の当主の証がいくつもあるのは気にくわないのだろう。

 って、やっぱり戦うつもり満々なのか。

 

「気にするな、煌一。むこうの私は病をかかえていそうだから、合成することが彼女を救うことにもなろう」

 無印の恋姫の家庭用もプレイ済みの冥琳はそう慰めてくれるけどさ、それもどうなんだろうね。

 華佗に診てもらえれば、それだけでなんとかなりそうな気もするんだけど。

 

 

 肝心の初夜の方は雪蓮が、冥琳かそれとも大喬ちゃんと同時に処女喪失するかで珍しくかなり迷ったあげく「なんで3本4本ないの!」と俺が怒られ、大喬ちゃんが遠慮しまくってなんとかスタートすることができたのだった。

 

 




 ロリクランの身長、150センチもなさそう

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