真・恋姫†有双……になるはずが(仮)   作:生甘蕉

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96話 お中元

「うわ! おっきいね、このソーセージ!」

 感嘆の声をあげてそれを頬張る次期生徒代将軍候補、徳河吉音。

 ……おっさんにありがちな下ネタ的な意味ではない。そのまんま、大きなソーセージにかぶりついているだけである。

 

「なんでここにいるのさ」

「ここんちのご飯、美味しいよね!」

 聞いてないし。……いや、食事が美味しいがまさか理由なの? いいかげん帰郷してないかって聞きたいんだけど。

 

 八雲君をほっといていのかと聞いたら、彼はすでに本土に帰省中のようだ。だから余計に寂しくてこの家に来てるのだろうか?

 

「ごめんなさい。本土へは私といっしょに帰るって言ってきかなくて」

 すまなさそうに詠美ちゃんが謝る。

 ああ、そうか。吉音はエヴァによって両親を殺されていて、親戚の詠美ちゃんちで暮らしていたんだっけ。

 そりゃ詠美ちゃんといっしょじゃないと帰りづらいのかもしれない。

 

「そうか。詠美ちゃん、それに他のみんなも帰省したいんなら今のうちかもしれない。シャンハイの方はすぐにどうこうってわけじゃなさそうだから」

 といっても、この世界の娘だけだけどさ。

 恋姫出身や、俺が成現(リアライズ)した娘たちには帰る故郷がない。

 夏休み中になんとか旅行にでも行くべきか? 新婚旅行もしてないし。

 でもこの屋敷で暮らしていると、旅館に宿泊ってのも今さらな気もするんだよなあ。風呂もでかいし。

 

「詠美ちゃん、いっしょに帰ろ!」

「……本当に美味しいヴルストね。流琉さんが作ったの?」

 帰りたくないのか、話を誤魔化す詠美ちゃん。……ファミリアや俺の嫁さんになったせいだろうか?

 

「いえ。貰い物ですよ」

「え? こんなにたくさん?」

 家族全員プラスアルファが揃ったこの夕食、みんなの皿にのっているんだけど。しかもこんな大きなサイズのが。

 美少女たちが大きなソーセージを頬張っているのって、好きな人が見たらたまらん光景だろうね。俺はお口派ではないのでそれほどでもないけど。

 

「いったい誰から?」

 ……どう考えてもダンボール1箱じゃ足りない量だよ。

 しかも美味い。チーズやハーブが入っているのもある。これ絶対高いよね。

「ああ、ドクツの首相からだ」

 はい? レーティアさん今なんて?

 この天晴れ対魔忍世界じゃドイツでもドクツでもないんですよー。

 ……でもなくて!

 

「首相?」

「うむ。このヴルストの詰め合わせはお中元、だそうだ。私宛に送られてきた」

 久しぶりに故郷の味を堪能しているせいか笑顔で頷く第三帝国の元総統。

「お中原?」

 恋姫ヒロインたちには通じないらしい。

 あっちじゃない風習なのか?

「いや、覇者が出そうなとこじゃなくてお中元。お世話になった人に、贈り物をするんだよ」

 えーっと、ほとんど出した記憶がないけど、今頃だったっけ?

 もっと早かったような……。

 外国だから、そこらへんの知識がないのか、わかってても気にしないで出したか、だな。

 

「あんたんとこはビールでしょ!」

 うん。おっさん――おっさんには見えない外見だけど――に戻った俺は、このソーセージにはビールが合うと思えるけどさ。お中元にビールも定番ではあるし。

「雪蓮、学生にそれは送れないでしょ。ってか首相からお中元か。受け取ってよかったんだろうか?」

 もう食べちゃったけど。お返しどうしよう?

 

「シャンハイに現れた孫策に影響されているわね」

「中国が彼女の取り込みにはしったので、負けてられないとレーティアさんを引き込みたいのかと」

 まあ、そんなとこだろう。

 レーティアを自国の使徒ってことにしたいのかもしれない。

 

「あれ、でもあの国にはゾンビタウンなかったよね?」

「不安はどこの国にもあるはずよ。それに使徒の存在は他国に対してのアドバンテージになるわ」

「まあ、引き抜きというわけでもない。むこうとしてはそんなに深い意図はなかったようだぞ」

 引き抜かれたら困る。というか嫌だ!

 レーティアは渡さない。

「届いてからすぐに電話したら本人と話すことになってな、一度国に来てくれないかと誘われたぐらいだ」

 本人って首相が出たの? 国に呼ぶってなんか思惑がありそうなんですけど。

 

「行っていいか? わが祖国に似た国を見てみたいんだ」

 どうしよう。さっきああ言った手前、断りづらい。

 レーティアも行きたがってるしなあ。俺と違って政治には詳しいから、不利なことにはならないだろうけど心配ではある。

「……ちゃんと帰ってくるよね?」

「当たり前だろう。ここが私の家だ」

「ならいいか。なにかあったらすぐに連絡、いや1人じゃやっぱり危険……うん、美羽ちゃんと七乃も行ってみる?」

 七乃がついていればむこうもペースをかき乱されるだろう。美羽ちゃんがいないと駄目なので彼女もセットで。

 

「妾もいいのか?」

「うん。他にも行きたい娘がいるかな? あとで予定を相談しよう」

「そうですねぇ。レーティアさんの祖国でお嬢様のファンを増やすのもいいかもしれませんね」

 七乃の発案に苦笑気味のレーティア。ゲッベルスを思い出しているのかな。

「それも面白そうね。人気が出たら大統領にでもしましょうか」

 華琳、なに言ってんのさ。

 

 

「煌一は行かないのか?」

「そろそろさ、いいかげんに挨拶に行かないとまずいでしょ。嫁さんの家に」

「あー」

 嫁さんにしちゃったこの世界の娘たちの親御さんに顔を見せないといけない。大人にも戻ったし、トウキョウの解放も発表されたので、仕事も説明できる。

 手土産はなにがいいかな、って。

 

「いかん。それこそお中元出さなきゃまずかった……」

 やっべっ、嫁さんたちの実家に出してないや。

 暑中見舞いか残暑見舞いで直接持っていくしかないか。その方が挨拶に行きやすいか。

「かっかっか。トウキョウ解放が一番の土産となろう」

「そう考えると余計に今行くしかないか」

 ううっ、気が重い。これ以上遅れるわけにもいきそうにないので、逃げられないけど。

 

 

「……それじゃ、みんな実家に連絡とってもらえる? いつが都合いいか」

「は、はいっ」

 緊張した顔の真留ちゃん。そりゃそうか。こんなおっさんと結婚するって連れて行くんじゃ彼女も大変だ。

 

「あ、ゆきかぜちゃん、凛子、紫のとこはアサギさんにだけ報告の方がいいのかな。まだ任務中だし」

 ゆきかぜちゃんの母親がまだ見つかってないので、彼女を利用されても困るだろう。

「そ、そうだな」

 アサギファンの紫が真っ赤になっている。なにを想像しているんだか。

 

 ゆきかぜちゃん、凛子、紫をぬいたこの世界出身の嫁さんとなると、光姫ちゃん、詠美ちゃん、十兵衛、真留ちゃん、朱金、結真ちゃん、文。の7人か。

 俺みたいな庶民が、ってさらに緊張しそうな徳河もいる。……朱金も家柄がいいんだっけ。胃が重くなってくるな。

 十兵衛のとこは道場なのかな? 襲われなきゃいいけど。

 墓前に挨拶ですみそうな結真ちゃんのとこがありがたく思えてくるから不思議だ。

 あ、文は兄の光臣に挨拶すればいいか。まさかあいつに癒しを感じるとはね。

 

 胃が痛くなってきたせいか、つい聞いてしまった。

「……もしも、俺との結婚をとりやめたいなら言ってくれ。挨拶に行ってからじゃ、後戻りはできそうにない」

「婿殿?」

「今なら君たちは綺麗な身体のままだから。後ろのはカウントに入らないからね」

 

 

「くふぃー」

 湯船に浸かったとたんに変な声が出てくる。

 今日はそんなに疲れるほど身体動かしてないのにな。精神的には疲弊してるけどさ。

「なんであんなこと言っちゃったかなぁ」

 嫁さんたち驚いた顔をしてた。喜んでいる雰囲気じゃなかったよね。

 それで余計にストレスたまっちゃったかな。俺は逃げるように入浴タイムだよ。

 

 もし、俺と結婚したくないって娘がいても今ならなんとかなると思う。

 トウキョウを解放できた今ならば、その娘がそばにいてくれたのは任務のため、って言いわけできるだろうし。

 もし、俺の呪いが戻っちゃったら……その時はいっしょに暮らさなければいい。嫁さんじゃなくなるんだから当然か。

 

「ううぅーっ、別れたくないなあ……」

 その娘だけじゃなくて、他の嫁さんたちまで俺から離れていきそうで怖い。

 だいたい、俺は1人の嫁さんだって手放したくないのに。

 

「ならば言わなければいいのです!」

「全くそのとおりだよ……」

 ねねちゃんの言うとおりだ。……あれ?

「ねねちゃん?」

「恋もいる」

 恋とねねちゃんがいっしょに湯船に浸かっていた。

 いつの間に? 風呂に入った時、俺だけだったよね?

 

「ど、どうして……」

「恋殿、こいつ、ねねたちが入ってきたことに気づかないほど落ち込んでやがるのです」

 恋はその言葉にうなづくとゆっくりと近づいてきて俺を抱きしめた。ちなみに吉音がまだ帰ってないので俺は子供の姿のままだ。恋の胸が顔に押し付けられ、それも気にせず彼女は俺の頭をなでる。

 

「れ、恋?」

「だいじょうぶ、怖くない」

「恋殿に感謝するのです。おまえが怖れていることなど、たいしたことはないのです。そして早く安心してねねとそこをかわるのです! 今すぐに!」

 ああ、台詞はあれだけど、ねねちゃんも心配してくれてるのか。それで俺をなぐさめにきてくれたのかな?

 

「たいしたことないって、俺にとっては重大なことなんだけど」

「恋殿以上に大事なことなど、あるはずがないのです」

 そんな、大きなため息をついて、やれやれをされるほど愚問だったの?

 

「……だいじょうぶ、みんな煌一といっしょ」

 まだ俺の頭をなで続けながら恋が励ましてくれる。

「まったく、恋殿がおまえの残した腸詰めのお礼をと仰るからきてみれば、なんてざまなのです」

 胃が重いを通りこして痛くなった俺はせっかくの極上ソーセージを残すことになったわけだけど、それの争奪戦に勝利した恋がお礼を言いにきたらしい。

 まあ、それはねねちゃんの照れ隠しなんだろうけど。

「なんです? 急ににやにやして気持ち悪いのですよ」

「ありがとうな」

「お礼を言うのは恋。おいしかった」

 ……心配して、きてくれたんだよね?

 

「どうせおまえのことだから、挨拶に行った先で断られたり、反対されると不安になったのです」

「な、なぜそれを」

「おまえの自己評価の低さはみんながお見通しなのですよ」

 うっ、ドヤ顔のねねちゃんに返す言葉がない。

 嫁さんの家に挨拶に行くの、気が重いってまさにそれだもんなぁ。

 

「おまえの覚悟はその程度なのですか?」

「覚悟?」

「どんな障害があっても添い遂げる覚悟です。ちょっと反対されるのが不安な程度で諦めるようなやつに恋殿はわたさないのですぞ!」

 あれ? なんか恋を嫁さんにもらうって、ねねちゃんに挨拶してる流れ?

 

「……そう、そうだよな。どんなに反対されたって諦めちゃ駄目だよな」

「恋殿のような最高の嫁がほしくば、苦労するのは当然なのです」

 うん。なにを弱気になっているんだ。美少女たちを嫁にするんだ。簡単にいくわけがないじゃないか。

 土下座は基本として、その他どんな手を使ってでも結婚を認めさせてやる!

 

「ありがとう、ねねちゃん」

「わかればいいのです」

 なだらかな平原、いや、胸をはるねねちゃん。……うん。開き直ったら俺好みのつるぺたロリボディに身体が反応してきちゃうな。

 

「お礼に俺のソーセージを」

 こんな下ネタ言うなんてやっぱり俺、おっさんだねえ。

「オヤジくさいことを言うななのです! 今のおまえではウインナー程度なので……ギャグのために大人に戻るなですよ!」

 いや、ギャグのためじゃなくてね、使用するためなんだけど……でもねねちゃんちっちゃいから、俺も小さい方がよかったか?

 

「……お風呂でするの?」

「嫌ならしない」

 ふるふると首をふる恋。

「やさしくしやがれなのです!」

 ねねちゃんもいいのね。もちろん、やさしくするから安心してね。

 

 

 

 ちょっと予定外だけど、ねねちゃんと恋とお風呂でいたしてしまった俺。はじめては順番どおりの時に寝室でのつもりが、恋の要望でもらってしまった。

 風呂から出た後、みんなに謝った。やっぱり結婚取り消しは、無しでって。

 そのつもりの娘はいなかったみたいでほっとしたよ。

 

 で、挨拶の1人目は光臣にすることになった。

「兄ですか」

「うん。彼もこの学園島にいるし、文もまだ俺の嫁さんになったことを説明してないだろう?」

「あれに許可を取る必要はありません」

 俺もそんな気はしないでもないけどね。反対されても別れるつもりもないし。

 

「彼なら、他より緊張しないから練習台にいいかと思って」

「練習台……」

 あっ、文が笑っている。

「そうですね。たまには兄も踏み台にされる経験が必要かもしれません」

 いや、踏み台じゃなくて、練習台だから、ね。

 

「牢屋で挨拶というのもなんだから、明日は彼をここに呼ぼう」

 こちらのホームなら、俺の緊張はさらになくなるし。

 

 

 まさか彼があんな土産を持ってきてくれるとは思わなかったけどね。

 

 


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