真・恋姫†有双……になるはずが(仮)   作:生甘蕉

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98話 狂戦士

「煌一、晩飯どうする?」

「食欲ない……」

 テーブルにつっぷしたまま梓の問いに答える。

 別に夏バテではない。精神的な疲労で胃がおかしくなっているだけだ。

 

 ここはニホン本土のホテル。家族みんなで宿泊中である。

 お盆のこの時期によくとれたとは思うほどの高そうなホテルだ。高すぎて空いていたのだろうか? ……いや、徳河さんのおかげだろう。

 

「みんなは帰ってきた?」

「ああ。まだテンション高いやつも多いよ。話だけでも聞いてやるんだね」

「そっか」

 みんなは、トウキョウと名がついていてもトウキョウ扱いされずゾンビタウンを免れた夢の国を楽しんできたらしい。

 朱里ちゃんと雛里ちゃんはメッセで開催されている聖なる祭りに行った。俺もそっち行きたかったなあ。

 

 

 みんなが急遽決まった夏の旅行を満喫している間、俺は本土にきた目的を済ませていた。

 そう! 嫁さんの家への挨拶である。

 順番が違う? 結婚自体が呪いへの対処療法なので仕方がない。

 

 で、その順番なのだが。

「少しずつ慣れてさ、面倒そうな家は最後にしたかったのに」

「んなワケに行くか。お偉いさんとこを後回しにできるワケないだろ」

 梓の言うことももっともだ。

 でもさ、俺としてもさ、そんなお偉いさんの相手には準備したかったのよ。熟練度貯めてスキル上げて……。

 無理だったけどね。

 船で本土につくなり、徳河のお迎えが待っててさ、心の準備が完了しないまま詠美ちゃんの家族とご対面。大江戸学園の筆頭理事だという徳河秀忠だよね、これ。知ってたけどしんどすぎ。

 しかもその場にさ、光姫ちゃんの家族までいるんだぜ。そりゃ親戚だろうけどなにもいっぺんにくるこたねーじゃんよぅ。

 

 気がついたら俺は詠美ちゃん光姫ちゃんの親父さんと飲んでいた。それまでの記憶が綺麗さっぱりない。いろいろテンパりすぎて、頭が真っ白になっていたようだ。

 あ、姿は元の姿――といっても実年齢よりも若い姿なのだが――に戻っているので飲酒は問題ない。

 トウキョウ解放や、知人友人の仇討ちの礼を言われたり、娘のことを頼むと泣かれたり、けっこう遅くまで飲むことになって結局その日は徳河の豪邸に泊まることに。

 

 ちなみに結納品、じゃなかった、お中元はX(イックス)さんのフルセット。そう、完成してついに販売を始めたペストXさんのコピー品量産型だよ。商品名にペストがつかないのは元ネタわからないと縁起悪く思いそうってのと、性能をダウンさせてる下位版って理由から。

 うちだけの商品だから喜んでくれるんじゃないかな?

 

 翌日、予約してもらったホテルにチェックイン後、朱金の家、真留ちゃんの家、十兵衛の家と挨拶していくことに。

 十兵衛のとこが最後だったのは、彼女からそう申請されたから。……うん。嫌な予感しかしなかったよ。だってさ。

「本日最後なら多少動けなくなっても……」

 とかつぶやいてるんだもん。

 

 でもね、柳宮家の前にね、ショックなことがあったのよ。

 真留ちゃんの親父さん、妙に話が合ってさ。聞いたら俺と近い年齢でさ。いったいいくつで真留ちゃん作ってんのさ?

 ……はいはい。どーせ、俺がおっさんなだけですよーだ。

 

 柳宮家は予想通り。

 すぐに道場に案内されてね……。詳しいことは思い出したくない。

 十兵衛に稽古つけてもらってなかったら死んでたかも。おかげで最大HPは増えたけどね。

 

 残る挨拶先は対魔忍だけど、任務に支障が出ると困るのと、ゆきかぜちゃんの母親、不知火がいまだに行方不明なので結婚は秘密のまま。たぶん関係者で知っているのはアサギさんぐらい?

 

 そして3日目。結花ちゃん、結真ちゃん、唯ちゃんといっしょに彼女たちの親の墓参り。

 1、2日目で疲れていたのもあったけど、墓参りだけなんで油断してた。

 墓前に俺を紹介してくれる結真ちゃん。その時にさ、唯ちゃんがね。

「ボクと結花姉もこの人のお嫁さんになるんだよ」

 って俺の腕に抱きついてきて。

 俺は慌てて神職スキルの霊視をOFFにしたよ。

 

「えっ? えっ?」

 いつのまにか、結花ちゃんまでが俺の腕に。

 くっ。ボリューミィで柔らかな感触が。

 同じ結花でも梓2号とは大違いだよなあ、なんて現実逃避しかけたよ。

「ゆ、結花ちゃん?」

「これからもずっと、そう呼んで下さい!」

 頬を染めながら胸を押し当てている子住姉妹長女。

 ……もしかして、義姉(おねえ)さんって呼ばれたくないんだろうか?

 老け……げふんげふん、年齢よりも落ち着いて見られるのを気にしている彼女だから、年下扱いが嬉しかったんだろうなあ。

 妹2人のためにっていつも気を張っているから、頼れる男を求めて……俺が頼れるってのはないか。

 

 どうにかして2人を説得しようとしていたら、華琳たち最初の嫁さんたち5人が現れて。

 俺は十兵衛のオヤジさんと対峙した時以上に死を覚悟したんだけどさ。

「その2人ならいいわよ」

 あっさり許可を出してくれた。

 

 どうやら、話は通ってたらしい。

 浮気者! って嫁さんたちに軽蔑されたり愛想尽かされたりするんじゃないかと気が気じゃなかったのに!

「なんかさ、姉妹の面倒を見るのを頑張っているのってさ、他人って気がしなくて……」

 ああ、柏木姉妹を思い出して梓も強く出れなかったのね。

 梓はゾンビタウン化で両親を早くに失った子たちのことも他人事に感じないって、旅行中にもかかわらずポータルで学園島に戻って朝のラジオ体操を続けているぐらいだもんなあ。

 

「可愛い娘が増える分には問題はないわ。彼女たちは優秀よ」

「結花たちには世話になっているのだ」

 たしかに島にきた当初から、いろいろアシストしてもらってるけどさ。

「俺に選択肢はないのね……」

「なんだ、断るつもりなのか?」

 うっ。

 泣きそうな顔の唯ちゃんに、うつむいた結花ちゃん、怒った表情の結真ちゃんや俺を睨む嫁さんたち。

 ずるい。これ、俺が断るなんて無理でしょ!

 

 これがイタズラで「おっさん、なに本気にしてんの」と笑われる可能性を考えながらも、その方がダメージはあるけど深手にはならないと思いつつも。

 俺に選べる道は1つしかなさそうだ。

「……結花ちゃん、唯ちゃん。おじさんと結婚してくれる?」

「はっ、はい!」

「よろしくね、お兄ちゃん」

 ……イタズラじゃなかったよ。

 

 

 それがとどめだったな。

 デリケートな俺の胃が食欲を失った。

 だってさ、恐る恐る霊視をONにしたらさ、結花ちゃんたちの親らしき霊がさ、頭を下げているわけよ。

 幽霊らしく憤怒や恨みがましい表情の方がまだよかった。彼女たちの人生を任されたってことでしょ。プレッシャー半端ないよね。

 

 ……すでに結婚していた嫁さんたちの人生も背負ってたつもりはあったよ。覚悟はあったんだよ。ただ、急に増えるとは思ってなかっただけで。

 ああ、胃が痛い……。

 

 

 

「おっはよー!」

「どうした煌一、珍しくテンション高いな」

「いや、大きな宿題が1つ終了してね。気が楽になったんだよ」

 苦行の反動か、俺の自重スイッチはOFFになっているようだ。学園島に戻るなり、土産配りも嫁さんたちに任せて開発部に直行した俺。

 今までもったいぶったことなんて忘れて、さっさとロボを成現(リアライズ)する。

 

「おう! AT(アーマード・トルーパー)か!」

 現れた降着ポーズの巨体に感嘆するドワーフたち。

 わらわらと集まってくる。……開発部にこんなにドワーフいたのか。

「ベルゼルガだ」

「ブルーナイトじゃないかっ!」

 俺の解説を押しのけて声を上げたのはヘンビット。

 そう。俺が成現したのはATH-Q63BTS。通称『ブルーナイト』と呼ばれる機体である。

 

「知ってるのか?」

「もちろん! プラモ出てたんだな」

「これはガレージキットだけどな」

 いろいろ言われてはいるが、模型誌発の企画だってこともあるのかモデラー人気は高い作品。ガレキやTOYもそれなりに出ている。

 

「スコープドッグじゃないのか?」

「あれも好きだけどね。EX-ギアに対応させるんだったら操縦席に余裕がある方がいいでしょ」

 平均身長が2メートルを超えるクエント人用でH(ヘビィ)級の機体なだけあって、通常のATよりもコクピットは広い。

 

 これが登場したのは『装甲騎兵ボトムズ』の外伝的小説、『青の騎士ベルゼルガ物語』だ。

 こんなのボトムズじゃない! と否定されることも多い作品だが俺はけっこう好きだったりする。

 このベルゼルガはそれの最初の主人公機。バトリングというATによる賭け試合を戦う機体で形式番号のBTSはバトリングスペシャルの略だ。

 ボトムズ本編の他のベルゼルガと違ってアームパンチとローラーダッシュも搭載されている。

 最終機体の『テスタロッサ』もいいけど、あれはスーパーロボットで成現コストもバカ高そうだし操縦もできそうにないので、まずはこれを選んだ。

 

 ベルゼルガはクエント人専用のATで、職人が手作り(ハンドメイド)で製作している一品物(ワンオフ)というロマン溢れる機体だ。いや、工場生産の量産型にもロマンはあるけどさ。そんなワンオフ機を量産化ってのは贅沢でいいよね。

 他のATにない装備を持っており、右肩のクエント製センサーはクエント素子を使用した高性能で信頼できる金属用スキャニングセンサー。

 左腕に装備した盾に内蔵されたパイルバンカーは単結晶合金製。作中でもベルゼルガ最強の武器として扱われており、青の騎士シリーズによってパイルバンカーはロマン武器に昇華されたといっていいだろう。

 

 ベルゼルガといったらパイルバンカーでしょ。やっぱりこれは桔梗にテストパイロットをやってもらおうかな? バトリングスペシャルなんて、喧嘩師を自称する彼女にはピッタリなはずだ。

 ……ベルゼルガって狂戦士(バーサーカー)のドイツ語よみだっけ。雪蓮にもいいかも。

 

 あとさ、EP籠めのために小説読み直して思い出したんだけどさ、このブルーナイトにはさらに秘密があったんだ。パイロットがATと一体化するシステムが搭載されてたりするんだよ。

 パイロットスーツ(耐圧服)に内蔵された108の端子(センサー)が感覚神経の集中点の上にあり、パイロットの動作、知覚神経に反応してバランサーを制御するシステムでね、AT自体の能力、戦闘情報をパイロットにフィードバックする機能もある。

 

 EX-ギアも似たような機能が搭載されていてね、筋電位の変化を感知して操縦の補助をしてくれる。EX-ギアにはさらに高い自己学習機能もついていて、パイロットの癖を覚えてそれを操縦に反映させてくれたりもするんだ。

 ますます組み合わせるのに向いている気がして、EX-ギア量産を待ちきれずに成現しちゃったよ。

 

「課題はいろいろあるんだけどね」

 ATを動かす人工筋肉、マッスルシリンダーはポリマーリンゲル液が必要なんだけど、この液体、非常に引火しやすい。おかげでATは爆発しやすい。

 さらにはポリマーリンゲル液は劣化もしやすいから、こまめな交換が必要。

「つまりはポリマーリンゲル液をなんとかすればでっけえ問題が解決するわけか」

「入手しやすくて、引火、劣化しにくい別の液体にできればいいんだけどね」

「マッスルシリンダーを動かせなきゃ意味はねえわな」

 そもそもATが巨大ロボにしては小型にできたのはこのマッスルシリンダーがあるおかげだから、他の動力にはできそうにない。

 

「なあ、筋肉ならあれはどうだ? オーラ・バトラー」

「ああ、あれも筋肉使ってたっけ」

 オーラ・バトラー。サイズ的にはATの次くらいにくる小型ロボットだろう。メジャー巨大ロボの中では。

 大きくないから成現のコストもそれほどかからないだろう。

 ダンバインの舞台がバイストン・ウェルという魔法があまりないファンタジー世界なので、それほど再現には苦労しないかもしれない。

 素材は恐獣(強獣)という巨大生物なので、ファンタジー世界担当の使徒なら入手できるかもしれない。ドラムロやビランビーなんていかにも水棲生物っぽいし、ドンさんとこでなんとかならんかな?

 

「あれってさ、死肉の(フレッシュ)ゴーレムに操縦席くっつけてるんだよな」

 ドワーフの1人が髭をいじりながらそんなことを言い出した。たしかに死体を継ぎ接ぎしているな。

「言われてみればフランケンシュタインか。マズイかな?」

「別に問題はないわい。モンスター素材の武器や防具など珍しくもない」

 ならいいか。

 オーラ・バトラーは人型のオーラ・マシンで、動かすにはオーラ力という精神エネルギー(生体エネルギー?)を使うのだが、問題はこのオーラ力だ。

 気と考えればCP、心の力って考えればEPを消費することになる。

 むう、俺としてはMPで動くようにしたい。さっきの話のようにフレッシュゴーレムって考えればできなくもなさそうだ。

 

 うん。次はオーラ・バトラーもいいかな?

 オウカオーなんて蝶の(はね)だから星が喜ぶかも。

 でも、まずはATを完成させるのが先か。

 

「EX-ギアの方はどう?」

「ミシェルのおかげでだいぶ進んでいる」

 実際に使用したやつがいると開発も進むね。EX-ギアの操縦には慣れも必要だから彼の存在は有難い。

 今度、青の騎士シリーズに出てきた対戦車ライフル『インサニティ・ホース』を作ってプレゼントしようかな。新型ATすら破壊する強力なライフルなんだよね。……暴発しやすいけど。

 

「こいつに使うんだったら翼をなんとかする必要があるかもしれん」

「邪魔になる?」

「うむ。こいつは飛ばないのだろ。ならば飛行機能はいらんのではないか?」

 EX-ギアの翼は、もちろん飛行には必要なんだけど、変形して操縦席になった時には微妙に邪魔だ。

 でも、脱出時には飛べるとありがたいと思うんだよな。魔法で飛べるやつは気にならないのかな?

 

「いっそのこと、背部の飛行ユニット、これに変えちゃおうか?」

 俺はスタッシュからロボ掃除機改を取り出した。

「そいつは面白いかもしれんな」

 おっ、みんな乗り気みたい。

 ……なんだか魔改造が進んでいる気もするけどいいか。

 

 

 俺のストレス解消のための暴走により、巨大ロボの開発はついにスタートしてしまった。

 まあ、すぐにペキンで使うことになったから無駄にはならなかった。

 あんなやつが出てくるなんて予想外だったから。

 

 


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