もう、他の誰かじゃない。
だから...幸せになるんだ。
今日も白羽World全開で行くよ!
~Side ???~
本当に、美しい人生だった。
嫌になるほど短いのに、嫌と言うほど輝いた人生だった。
私は私。もう、ほかの誰かじゃない。
今、ようやく私は私になれたんだ。
だから、伝えに行こう。
『お別れ』を。
~Side 瑚太朗~
激動に巻き込まれた高校二年生時代から、いくつもの時間が過ぎ去った。
多く、いろいろなものが変わった気がする。
見えていた俺の世界は大きく変わった。もう、心からの安寧はきっとない。
けど、その世界を書き換える必要はもうない。
変わらないものが、俺の隣にずっとあるから。
×××
「起きろ、瑚太朗。今日は一日私に付き合う約束だろう」
フライパンとおたまがガンガンとぶつかる音で目が覚める。
薄ら目を開けると、見慣れたエプロン姿のルチアが不満げな顔で立っていた。
「・・・おはよう」
体をおもむろに起こして、大きく伸ばす。少しずつ開けてきた視界に映ったカレンダーは、12月23日を示している。
そこには大きく、『聖此花ルチア誕生祭』(下に赤字で「ふざけるな」と書いてある)と記されていた。
まあ、その名の通り、今日はルチアの誕生日というわけだ。
立ち上がり、食卓の方へ向かうと、そこにはしっかり、二人分の朝食が用意されていた。
ところで、どうしてこんなことになっているって?
簡単な話。これは正式な同居なのである。
あれからの付き合いは順調とはいかなかったが、紆余曲折を経て、こうして今は同じ屋根の下で生活を共にしている。
先日、ガーディアン日本支社の公認を得て、結婚が可能となった。
気が付けば、俺たちももうそんな年になっていた。何もないと気づいた高校二年生のころは、もうずっと昔の話。
今は社会に揉まれる大人として、俺はここにいた。
「ところで、ルチア。今日はどこに行きたいとかあるのか?」
朝食の途中、俺は何のとりとめもなくそんなことを聞いてみた。さっきのルチアも言ったように、今日はルチアの誕生日。一日付き合う予定となっているのだ。
ルチアは箸を持っている手を止め、箸置きにおいて考えるそぶりを見せた。
「そう言えば、全く何も考えてなかった気がするな・・・」
「えぇ・・・。あれだけ楽しみなようにしていて?」
「それとこれとは別だ。私はただ・・・瑚太朗と一緒にいれることがそもそも幸せなんだから」
「お、おう・・・。朝から照れるな」
あまりにピュアすぎたルチアの面影もだんだんと薄れつつある。恋のイロハを知ってか、はたまた自分の心に正直になることが出来たのか、思っている好意をはっきりと口にできるようになっていた。
もっとも、その頬はしっかり赤く染まっているが。
俺は軽く咳払いして、提案をしてみた。
「んじゃ、あのモールにでも行きますか」
「・・・それはちょっと、賛成しかねるな」
珍しく、ルチアは俺の提案を拒んだ。それも、自分のお気に入りの場所への提案を。
困惑の表情を崩すことなく、ルチアは続ける。
「今日は・・・なんだろう、風祭にいた方がいい気がするんだ」
「・・・何か、嫌な予感でもするのか?」
ルチアはまだまだガーディアンの現役。俺も裏方ながらそれを支えている。
嫌な予感・・・だとしたら、鍵でもまた現れるというのだろうか?
しかし、その思いとは裏腹にルチアは手をぶんぶんと横に振った。
「違う違う。そう悪い予感とかじゃないんだ。・・・ただ、この街で何かが起こる気がするんだ。変な予感だけど・・・信じてくれるか?」
「信じるよ。ルチアの言葉なんだから。それに、大事があったらいけないしな」
俺の微笑みに安心したのか、ルチアはほっと胸をなでおろした。
「それじゃ、適当に街でもぶらついてみるか。幸せオーラ見せつけてやるつもりでさ」
「・・・恥ずかしいのだけは勘弁だ。・・・けど、うん、それがいいだろうな」
ようやく、ルチアの顔に曇りない笑顔が灯った。
~Side ??リ~
海を越える。
空を超える。
心臓が悲鳴を上げる。
高鳴る気持ちだろうか? それとも・・・。
いや、これ以上考えるのはよそう。
だって今日は、幸せな日になるはずなんだから。
~Side ルチア~
一緒に居ればいるほど、好きになってしまう。
一時は、それをためらったりもした。私なんかが、幸せになっていいのかと。
けれど、瑚太朗は構わないさと笑った。私の手をしっかり握ってくれた。唇を重ねてくれた。
白金のリングを、指にはめてくれた。
私はもう、この恋を間違いなどと思わない。
私は、一人の女性なんだ。どこに所属していようと、何をしていようと。
天王寺瑚太朗を好きになった、一人の女性なんだ。
×××
瑚太朗は、機転を利かせて色々あちこち連れまわしてくれた。
私の言うことを聞いてくれるなんて約束だったのに、結局全て瑚太朗にゆだねてしまう。
けれど、答えてくれるんだから、何の文句もない。
そういう関係なんだ。私たちは。
「なあ、さっきから俺の提案ばっかりで・・・。なんか、不満とかないのか?」
手を引かれるがままの私の様子に何か思うところがあったのか、瑚太朗はそっと問いかけた。
不満はない。
ただ一つ、思い出したことはあった。
「不満はない。・・・けど、そうだな。行きたいところを思い出した」
「んじゃあ、決まりだな。今度はルチアが引っ張ってくれよ」
「了解だ。頼りっぱなしも悪いからな」
胸のつっかえが取れたこともあってか、元気が湧いてくる。そうすれば、瑚太朗の手を引いて歩き出すこともたやすいものだった。
階段を上る。丘を駆けあがる。
そこには、私の好きな光景が待っている。
触れることは出来ないけど、そこで私を待ってくれる。
私たちが出たのは、一面に咲いたひまわり畑だった。
「・・・瑚太朗をここに連れてくるのは、はじめてだったな」
「すごいな、これ。冬なのに、一面ひまわりが咲いている・・・」
「ああ。ここが、私が来たかった場所。私の好きな場所だ」
いつかは、触れられないそのもどかしさに苛立っていた。けれど今は、もうそんな悲壮はない。
汚れた自分。治らない毒素。
それでも、そんな自分を認めたら、何でもできるような自身が湧いてきた。
もちろん、それは認めてくれた静流や瑚太朗がいてくれたから、だけど。
「ところで、なんで今年はここに?」
「・・・まあ、なんだろうな。プロポーズから初めての誕生日だったから、とかだろうか」
「そういうのなんですね」
「お返しみたいなものだ。・・・それに、ここは私を私でいさせてくれるんだ。平気でも新世界プロジェクトでもなんでもない、一人の女性、此花ルチアとして」
「もうすぐ天王寺姓になるけどな」
「なんだ? 此花姓でもいいんだぞ?」
「悪くないな」
他愛もないことで、笑い合う。
場が静まり返ったところで、瑚太朗はぽつりと告げた。
「誕生日、おめでとう。ルチア」
「なんだ? 藪から棒に」
「タイミング図り損ねてたんだよ。悪いか」
「ぷっ。瑚太朗らしいな」
そういうところも、私は好きなんだ。
~Side ?カリ~
地に足を着く。ここから電車に乗って、もう少し。
そこに行けば、きっといる。きっと会える。
私の、大好きな人たちが。
~Side 瑚太朗~
結局その後どうしたものかと悩んでいたら、道中西九条先生と遭遇。(結局、あの後いまだに潜入捜査で先生を続けているらしい)
なんでも、フォレストで行われるクリスマスパーティの買い出しに行かされているらしいようだった。
もっとも、こういうことが出来ることが、平和と幸せの証なんだろうな。
せっかくだからということで、その荷物を折半し、フォレストまで持っていった。
今だ独り身の西九条先生からの愚痴を聞きながら、のんびりフォレストへ向かう。
ついてからは、紅茶の一杯を飲んで談笑。
なんだかんだ、今日も今日で、変わらない一日。
幸せな、一日だ。
×××
時計の針が5時になると、もうすっかり夕焼けに染まっていた。
あと20分も経てば、あたりは真っ暗になるだろう。
「なあルチア。晩はどうするんだ?」
「家で食べよう。特別な日だけど、たまにはそう言うのも悪くないだろ?」
「だな。それじゃ、帰りしに買い物にでも・・・」
その言葉が最後まで紡がれることはなかった。
駅の前を通り過ぎようとしたとき。
俺は、ルチアは、出会った。
~Side アカリ~
駅を出る。
弾む息は白い。その寒さの中で、無謀にもその姿を探す。
心臓が痛みだす。今度は間違いなく、高鳴りではないことが分かった。
だからこそ、必死にあたりを見回す。
そして、ようやく私は出会った。
胸の奥底から、その名前を呼ぶ。
「瑚太朗」
~Side 瑚太朗~
「瑚太朗」
俺の名をそう呼んだのは、間違いなくアカリだった。
目の前には、此花アカリが確かにいた。
驚く俺より、先に声を出したのはルチアだった。
「アカリ!」
咎めることもなく、困惑することなく、ルチアはアカリに抱き着いた。まるでそれは友達と交わすスキンシップのように。
多分・・・ルチアはずっとアカリに会いたかったのだろう。
二人はかつての恋敵。
けれど確かに、ルチアはアカリを求めていたんだろう。誰よりも幸せになってほしくて、誰よりも幸せを伝えたかったのかもしれない。
ようやく、俺も声を出すことが出来た。
「久しぶりだな・・・アカリ。・・・立ち話もなんだし、家に」
「いや、それはいいんだ」
アカリはしっかりと、その提案を否定した。
でも、その顔の憂いが気になって仕方がない。
それに、話したいことが山ほどあった。
「でも・・・」
「いいんだ。私も、そんなに時間がないんだ。今日、ここにいることも奇跡みたいなものなんだ」
「アカリ・・・」
心配そうな表情を浮かべるルチアを、アカリは穏やかな表情で頭をそっと撫でた。
「大丈夫。ルチアの考えていることは分かるんだ。だからこそ言える。大丈夫」
「・・・まだ、記憶はつながっているのか?」
俺のその問いかけに対して、アカリははっきりと首を横に振った。
それは、アカリがアカリであることの証明だった。
「私はもう、此花ルチアのクローンじゃない。此花アカリという一人の人間だ」
「そうか」
嬉しいはずだった。けれど、なぜか素直に喜べない。
アカリは、あまりにも穏やかすぎた。その不気味さが、毒のように巡ってくる。
まるで、何かを伝えようと・・・。
「瑚太朗」
口を開いたのは、アカリの方だった。
「少しだけ、ルチアと二人だけで話をさせてほしい。・・・いいだろうか」
「分かった。・・・けど、勝手に帰ってくれるなよ? 俺だって、まだ」
「分かってる」
アカリを信じて、俺はその場を少しだけ立ち去ることにした。
夕焼けの明かりは、まだ消えない。
~Side アカリ~
私は、もうじき消える。
それは、此花ルチアのクローンとしての自分ではなく、此花アカリという一人間の命が。
経年劣化と言えば分かりやすいだろう。
クローンはクローン。その終わりも早いものだということに、今、嫌と言うほど気づいている。
だから、この命の終わりは、ルチアだけに告げることにする。
私は私。此花アカリ。
だけど、もう長くない命。
だからせめて、私の命を、私の思いをルチアに託す。
・・・不思議な話だな。
人間になるために本体から離れたのに、結局私は、ルチアのもとに帰ろうとしてる。
・・・でも、嫌な気分はしないな。
~Side ルチア~
アカリは私だけを残した。
だから、私には分かる。
ここから先の話は・・・聞きたくないほど残酷な話だ。
けれど、私は逃げない。アカリを受け止めたいから。
数秒して、ようやくアカリは口を開いた。
「・・・ルチア。私が今から言うこと、誰にも言わないでほしい」
「分かった」
その返事を受けて、アカリは悲し気に微笑んだ。一つ大きく息を吸って、話し始めた。
「私は・・・そろそろ消えるんだ」
「・・・寿命」
「そう、寿命。不思議なものだな。クローンとして生まれたのに、今は人間と同じように、消える命が悲しくて・・・仕方がないんだ」
アカリは笑ってごまかそうとしているが、その瞳からは涙がとめどなくあふれていた。
その涙、言葉で私はようやく理解する。
アカリは・・・お別れを告げるために、私たちに会いに来たんだと。
悔しくて、私は必死に言葉を紡ぐ。せめてものフォローにと。
「人間と同じように、なんかじゃない! ・・・アカリは、ちゃんと人間なんだ」
「じゃあ・・・なんでこんなに運命は残酷なんだろうな」
「・・・」
そうだ。残酷だ。
アカリは自分で自分を認めて、一人の人間になったんだ。
その終わりくらい、人間と同じでいいじゃないか。
しかし、現実は変わらない。
嘆いても仕方のない事だった。
それを、アカリは分かっている。
きっとこれ以上に伝えたいことがあるのだと、私はすぐに分かった。
私はこの子の・・・姉なんだから。
涙を呑んで、その言葉を待つ。
アカリは自身の涙をぬぐって、目を細めて笑った。弱弱しい声でお願いをする。
「ねえ、ルチア。お願いがあるんだ」
「言ってくれ」
「・・・幸せに、なって。瑚太朗と。・・・私の愛した瑚太朗が、私の好きなルチアと幸せになってくれるなら、私はそれでいいんだ。・・・瑚太朗が好き。そんな私の思いを、どうか忘れないでほしい。天王寺瑚太朗を好きでいた此花アカリという人間を・・・どうか、忘れないで」
「・・・分かった。絶対に、幸せになる」
アカリの思いは、受け取った。
その言葉に偽りはないと信じて、私はそのお願いをかなえようと誓う。
そうすることでアカリが幸せになるなら。満足して消えれるなら。
・・・でも、ああ、あれだ。
なんだろう・・・泣きたくなる。伝えたくなる。
せめて最後くらい、瑚太朗が好きとアカリに言ってほしい。
じゃないと、あまりにも悲しいから。
~Side 瑚太朗~
二人に呼び出されたのは十分後。
あたりはもうすでに暗く、夕日の残りだけで空はまだ明るさを保っていた。
二人の顔はどこか晴れている。心配はなかった。
それでも俺は、言葉に困る。
そんな俺をよそに、アカリは申し訳なさそうに笑った。
「悪いな、瑚太朗。私、そろそろ時間だ」
「もう、行っちゃうのか?」
「ああ。こんな急で、本当に悪いな」
「そうか・・・。何か、最後に俺に出来ることはあるか?」
「・・・」
アカリは悩んだ。いつかは、この時キスをしたような気がする。
けれど、答えは空白だった。
「いや、何もいらない。もういいんだ」
「・・・そう、か」
「ほら、行った行った。ルチアが妬くぞ?」
「や、妬く分けないだろ!」
「ほんとかな? いつかは」
「わー! わー!!」
なんだかんだいって、二人の関係は変わっていないようだ。
どこか安心して、俺はアカリのその姿に背を向けた。
歩き出そうとする。
けれど、俺は最後に大事なことを思い出した。
振り返る。
白い息とともに、言葉を混ぜて・・・。
「アカリ!」
「なんだ?」
「誕生日、おめでとう!」
「・・・! ・・・ありがとう、な」
そうして今度こそ、俺とルチアは帰路についた。
~Side アカリ~
これでいいんだ。私の思いは、ルチアに託された。
けど・・・なんで、瑚太朗は私の誕生日を?
それに、私自身が私の誕生日を知らない。だったらなんで、今日なんだろうか。
少し考えて、ようやくわかった。
今日、瑚太朗が此花アカリという一人の女性を認識したからこそ、今日を誕生日にしたんだ。
瑚太朗の中で、此花ルチアのクローンだった此花アカリが、一人の女性になった日。
だから、誕生日。
・・・まいったな。
雫が伝い落ちる。
最初で最後の誕生日は、涙の味がした。
ルチア。
どうか、幸せに。
~Side ルチア~
さむがる手を温めるように、瑚太朗と手をつなぐ。
本当は、反対側にアカリがいてほしかったが、これは約束だ。
此花アカリは一人の女性となって、今は私の中にいる。
だから、私は・・・。
「瑚太朗」
「なんだ?」
「・・・幸せに、なろうな」
私はこの命で、幸せになるんだ。
そうすれば、きっと隣に、もうひとつの幸せがある。
・・・そうだろう? アカリ。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
自分の誕生日と同日というのもありまして、全力を上げて書かさせていただきました。
出来は...悪くないですね。しろは誕SS並です。
では、今回はこの辺で。
ルチア、アカリ、HPB!