女装習慣持ち限界オタクくんとクール系男装ガールちゃん   作:金木桂

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スランプと良く分からないメンタル弱期間を経て投稿


11幕 鬼灯一花(実は男)(二刀流)(二股ビッチ)……ってなに。

 

 羽実に勘違いされてから一週間ジャスト経った。経ってしまった

 

 意味不明な状況に置かれてから俺は結局羽実とは話せずにいる。話したいとは思っていたのだが、その接触によって羽実との関係が更に拗れることを懸念した洞木に「君はこの状況をどうしたいんだい? これ以上ややこしくしてしまっても良いのかい?」と説得されてしまった。なので未だに俺と羽実は仲違いしたまま。はあ……鬱だ。

 今思ったけどアイツ俺の対人能力を舐めすぎなんだよなぁ……ったく。俺が羽実と話したらこれ以上ややこしくするって何でそう思うのか。全く。その通りだ。はい。間違いない。他分野なら未だしも社交性に関しては最低レベルを自認している。だから俯いて首を縦に振らざるを得なかったのである。

 

 そうして何の変哲もない平日は過ぎ去り、土曜日。つまり本日。

 

「待ったかい? いや~今日はいい天気だね」

 

 駅前で待ち合わせていた洞木と合流した。休日、朝の駅前は俺たち以外にも待ち合わせる人たちで若干混み合っていた。その顔はどれも若いし、多分その多くが俺と同じように下宿している大学生なのだろう。

 洞木の格好はいつも通り男のものである。何でかいつも以上にイケメンのような気もするが……気のせいか? まあいつものイケメン度合いが100としたら今は110くらい。普段から会っている人間くらいしか分からないような小さな違和感でしかない。ただ100も110も三桁目で四捨五入したらゼロだゼロ。万物は収束するのである。

 

「はい、いい天気ですね……残念なことに」

「……気持ちは分かるけど、頑張ろう」

 

 俺の小声を拾った洞木はボリュームを合わせて言う。

 頑張ろうって言われてもなぁ……と俺は視線を洞木から右にスライドさせる。

 

「こ、こんにちわ……今日はよろしくお願いします……するわ」

 

 洞木の横に、毒気が引っ込んだ余所行きモードの羽実が気まずそうに立っていた。

 

「本日はお願いします安栖さん。楽しみましょうね!」

「え、ええ」

 

 健気に楽しもうとする美少女のフリをする俺だが、率直に言って気分はあまり良くない。不愉快とかそういう意味ではなく、単純に緊張で腹を下しそうなのだ。だってこれ、単純に遊ぼうとか言うそういう話じゃないんだもの。今すぐ家のトイレに駆け込みたい。それか多目的トイレ。現在の俺は男子トイレも女子トイレも入れないガチの性別中性だから上記二択以外の選択肢は無い。因みにこれ、簡単に言ってはみたが実は凄い面倒臭い問題だったりする。例えば大学構内で催したら大でも小でも家にバックホームして処理する必要があるのだ。それこそ往復15分ほどの道のりで、一々帰るのは物凄い怠い。緊急事態となったら止む無く近くのコンビニを借りたりもするが基本ムーブはゴーホームである。進学校なら性別秀吉用のトイレとかあるのになぁ、弊学は遅れてるぜ全く。現実逃避終わり。閑話休題。

 

 本題に入ろう。

 まず、この外出は洞木の作戦である。何も疑いもせずに来ている羽実には悪いけどこれも今後のため。悪く思わないで欲しい。

 

 作戦……洞木は奸計とか言っていたけど、内容は簡単に纏めるとすごく簡単だ。一言で「俺と洞木が付き合っているかもしれない風に羽実に見せる」、これに尽きる。

 

 俺が俺と……って言うとややこしいな。ここは昔使った偽名から則ることにする。現在、羽実は保月二千翔が鬼灯一花と付き合ってると誤解している。今回の作戦で俺は羽実のその認識をずらす予定だ。鬼灯一花は保月二千翔ではなく、洞木周と良い感じの関係であることを匂わせるのだ。

 

 ここで重要なのは完全に付き合っていると言い切らないことである。洞木と見た目上はラブラブしつつも、羽実に洞木との関係を問われたら「洞木くんはイケメンですよね……女の子からすれば憧れちゃいますよ」とか軽く流す。逆も然り。これがほんっとうに重要。言い切ってしまったら今度こそ取り返しが付かないことになってしまう。保月二千翔(美少女(男子大学生))と洞木周(イケメン(女子大学生))が交際していると思われたら、次はもう同じ方法では解決できない。成功しても失敗してもたった一度しか使えない作戦である。

 成功するにはバランス感覚が肝要なのだ。言い切らず、しかし互いに恋愛感情があると思われる程度には匂わせる。……まあ、ぶっちゃけこの点はあんまり心配してなかったりする。先週のことで思い知ったけど案外羽実って恋愛脳っぽいし。適当にやっても勘違いしてくれるだろう。明白な言質さえ取られなければ何を言っても問題ない。

 

 さて。

 そうやって鬼灯一花と洞木周が適度に仲良く話してれば羽実はきっとまた勘違いする。俺と洞木周がそういう関係であると確実に考えてしまうだろう。そうなれば目的達成だ。その後は一ヶ月後くらいに関係性を聞かれたら「え、違いますよーそもそも私が洞木さんと付き合っている訳ないじゃないですか~ハハハ」とか誤魔化せばいい。で、それと同時に洞木に頼みこんで女装状態の時は近寄らないようにしてもらって、疎遠なふりをする。そうすれば後は時間が解決してくれる。人の噂も七十五日。時間は偉大なのだ。

 

 一週間前、ここまで説明された俺は疑問を抱いた。

 

『でもそれって洞木さんの負担が大きくないですか? 明確に私と恋仲ではないにせよ、それを演じるってことですよね。大学でも噂になりますよ?』

 

 当然の疑問だと我ながら思う。洞木からしたらこれはリスクのある作戦だ。羽実は俺と違って一応大学に他の友達もいる。俺は会ったことも見たことも無いが、自ら異性に話しかける度胸も無いだろうし相手はどうせ女子だろう。俺は一般的な女子大学生という生き物と接する機会は多くは無いけど、彼女らがコミュニケーションを行う際に恋バナを好むことくらいは知っている。だから洞木からするとあまりメリットは無いハズで……。

 そんなことを考えていた俺に、羽実は指を人差し指を立てた。

 

『貸し一つ。それでどうだい、僕はどっちでも良いけど』

 

 ……俺たち、都度都度清算してるけど何だか貸し借り多いよなぁ。

 そんな裏話もあって、洞木の多大なる尽力により現在この作戦は決行されていた。

 

「……どうかしたの?」

「いえ、なんでもありません。それより今日は水族館に行くんですよね、あまり行く機会が無いのでちょっとウキウキしちゃいます」

 

 羽実のことをジッと見ていると怪訝そうに硬い声が返ってきたので慌てて取り繕う。羽実って洞木によって誘われて来たんだよなぁ……もしかしなくても、結構好意を持ってたりするんだろうか? 幾ら三人で行くとは言え見知らぬ異性から誘われて着いてくほど羽実はコミュ強者じゃないから、この短い期間で洞木は羽実と仲良くなったと言う訳で。何かムカつくな。羽実とは別に幼馴染ってだけだが、何と言うべきか。うん。イケメンはやっぱ滅びれば良いと思う。

 

「そんなに楽しみにしてくれてるなら光栄だね。じゃあ行こうか、もうすぐ特急が来るんだ」

 

 洞木が先導して歩き始める。俺はその後に続いて、羽実が妙にじっとりした視線を浴びせながら最後列を歩く。

 三番線と書かれた電子時刻表の下を潜る。洞木の言葉通り次の特急は7分後に来るらしい。立ち尽くすにも微妙に長い時間だったので6人掛けの椅子の左側に並んで座った。

 

「あの……洞木さん。この子と知り合いなの?」

 

 羽実が俺を挟んで洞木に話しかける。俺もスーッと視線をそちらへ流すと洞木が少し照れるように口を開く。

 

「知り合いというか何というか……一花ちゃんとは仲が良いのは間違いないよ。それこそ羽実さんこそ知り合いだったんだね」

 

 作戦通りのナチュラルなちゃん呼び。洞木がするととても様になるからホント容姿が人に与える印象というのは大きいらしい。

 

「この前に色々あって知り合ったのよ。それで……あの……名前」

 

 そう言えば名前名乗ってなかったなー。名乗って墓穴を掘るのも嫌だったし。でもこうなった以上はしょうがないか。

 

「ああ、私ですか? 鬼灯一花です」

「鬼灯……ええ、鬼灯さんね。……アレ? もしかしてだけど鬼灯さんって私と洞木さんと同じ授業受けてるわよね……?」

「え? 私は見てないですけど……」

「ええと……いや間違いないわ。それどころか私、見たことある。アンタ洞木さんと一緒に授業で出てたわよね!」

 

 羽実と目が合う。

 確信を持って言ってるらしい。まあ事実だしな。五月から洞木とは普段でも女装でも一緒だし、羽実が見掛けたのも頷ける。

 隠すような話でもないか……。

 

「私と洞木さんはその」

「ただならない仲だからね」

「その通り、ただならない仲……!?」

 

 否定しそうになったが、この場ではあながち間違いでもないのかもしれない。断言もしていないし、よし、これくらいの茶目っ気なら受け入れても構わない。

 

「そうですね、私と洞木さんはただならない仲でした」

「た、ただならない……?」

「まあこの話は良いじゃないですか安栖さん。あ、電車来ましたよ」

「滅茶苦茶気になるんだけど凄い強引に話を逸らしてきたわね」

 

 無視して電車に乗り込む。洞木は微笑みながら乗車して、それから羽実が不服そうな目つきで乗車。

 幸先不安な立ち上がりである。

 

 

 

 

 

 

 水族館まで電車で一時間も掛かるのは隣の県まで行く必要があるからである。

 今回の作戦に当たって、洞木はそれはもう本気で何処へ行くかを調べた。「二千翔、僕この水族館って行ったことないんだけど。えっ、プールで鮫を撫でられる!? それに大水槽での魚群ショーだって!? ここにしようよ二千翔! 僕ここが良い! ここじゃなきゃ手伝わない! 作戦手伝わないからね!」と全力で私情を挟まず決まったのがこの場所だ。二の句が継げずに俺は時間を置いて頷いた。決して洞木の押しに負けたからではない。いつも男装している洞木の珍しい上目遣いに陥落したわけじゃないのだ。

 

「うわぁ……思ってた以上に水槽大きいね」

 

 そして現在の洞木周さんの姿をクローズアップしてみましょう。

 この水族館1の大きさを誇る巨大水槽のガラスに手をべたりと貼り付け、列を成して泳ぐ魚群にキラキラと目を光している。え、この様子大丈夫なんですよね? 作戦のこと忘れてないですよね洞木さん? 信じていますよ?

 

 定刻通り始まった魚群ショーに対して初めて水族館に来訪したキッズみたいな反応をする洞木の隣に、意外と立派じゃないとばかりに興味津々に水槽を眺める羽実。一歩引いた場所でその二人を観察している俺。何というか、俺たち作戦班一行は普通に水族館を楽しんでいた。

 

 5分経っても動かない二人から目を離してスマホを開く。

 ……失敗したかもしれない。ここまで水族館の魔力に引き付けられるとは思わなかったんですが。羽実は良いんだけど、洞木までこうなっちゃったら作戦もどうももこうも無いんだからな!? 

 思えばもっと質素なテーマパークとかにすれば良かったかもと反省してしまう。作戦対象のみならず協力者まで役立たずになっちゃったら意味が無い。潰れかけの遊園地とかにしとくべきだった。ブリリアントパーク的な。

 

 薄暗い空間でスマホを弄っていると次第に罪悪感で気まずくなってくる。別に館内スマホ使用禁止とかじゃないけど、この手の計算され尽くした薄暗さは映画館を彷彿とさせる。上映中にスマホを弄るのはマナー違反である。俺の強力すぎる道徳心は最終的にスマホで時間を潰す行為を躊躇させて、ポケットへと再び仕舞いこせた。SSS級の善人だから俺って。

 

 スマホを封じられた俺は特に理由も無く洞木の視線の先を追ってみた。

 塩分濃度を調整された水槽の中で、イワシの魚群が泳いでいる。俺に吟遊詩人の才能は無いが、言うなれば魚たちはアイスリンクで舞うフィギュアスケーターみたいに自由に、立体的に舞っている。テレビの番組で見たことがある。魚たちの目的は餌だ。タイミングを合わせて餌を水槽内に投入することでまるで魚の兵隊が行軍しているように規律立って縦横無尽に踊っているのだ。魚群の位置に合わせてライトが幻想的に投射される。

 

 ショーとしては一流で、現に洞木や羽実の意識を未知の水底へ埋没させることに成功している。だが何と言うべきか、貶したり馬鹿にしたりはたまた下らない代物として見下したりする訳じゃないが、裏側の事情を知ってしまうとどうもこの光景がちっぽけなものに思えてしまう。

 言わば、目の前の光景は人工的な大自然の神秘だ。魚という本能に従って生きる自然を徹底的に管理し、海を十全に模した場を整えて、光という古来から神秘的な概念として捉えられがちな物理現象を機械にて用いる。これらによって作り上げられた魚群ショーは少し歪に感じてしまう。

 定刻通りに魚群を成す魚達に、循環する際に砂やプランクトンによって綺麗に浄化されて吐き出される海水に、自然界では起こり得ない色調の光。全てがどこまでも人工的な代物だ。

 

 人工物という概念の対偶は自然のはずなのに、人工物によってお膳立てされた自然が目の前の光景で。何だかショタとロリの良いところを一纏めにしようとしたら合成失敗してふたなりにしてしまったみたいな面妙さすら覚えるのだ。と言うのは言い過ぎか。流石に特殊性癖と一緒にするのはどうかと思います、はい。

 

 一度無粋な事を考え始めた脳内回路は中々そこから脱せず、その場の空気に入り込めないままショーは終了する。

 

「ふー、見応えあったね」

「ええ……映像で見るよりよっぽど綺麗だったわ」

 

 洞木は口火を切ると、二人はそのまま互いに感想を言い始める。当然俺はハブられた。悲しい。

 肩を並べて先行して歩く美少女二人組(片方はイケメン)と一歩後ろを歩く和風美人こと俺(中身陰キャ大学生)。傍から見れば洞木の美少女ハーレム。実態は姦しい女子二人に着いて行けない哀れなコミュ障男子大学生の成れの果てがそこにはあった。は~ドナドナ~……。

 

 虚しい位置取りは水族館を出るまで変わらず、無言で館外に出ると太陽は真上に来ていた。何も考えずに水槽の中身と表示板に書かれたその種類の名前とを照らし合わせる作業を繰り返す間にも正午を回ってしまったらしい。

 

 未だに互いの所感を伝え合う二人と場違いな俺。カップルのすぐ後をすごすごと歩いてるように見えるのだろう、すれ違う人からそれぞれ奇異の目を向けられる。ぷるぷる。僕は悪い美少女じゃないよ。友達のツンデレの羽未ちゃんが心配で会いに来たんだよ。

 

「昼ごはんどうしよっか……って何で後ろを歩いてるんだい一花ちゃん」

「私はただのリア充撲殺幽霊です……リア充を撲殺するまで成仏できません……とにかく私に気にせずカップル二人でごゆっくりご歓談を続けて下さい……」

「何だいその物騒過ぎる新種の幽霊。とても気になるんだけど」

 

 漸く気付いた洞木は俺を変な物でも見るような目で眺めると、「どうしたのかなこれ」と言いつつ羽実に視線を送る。だが羽実も「知らないわよ」と一蹴。こいつら酷くないですか? 出るとこ出ちゃって良いですか? 俺の出るとこなんて匿名掲示板くらいしかないけど。

 

 この人、作戦のことを本当に覚えているんだろうかとかなり不安になってくる展開である。作戦では俺と洞木が仲良くなって羽実に誤解させる手筈なのに、気付けば洞木と羽実が仲良くなって俺が分からせられようとしている。もしかして、逆分からせってやつですか? ちょっと高度すぎてお兄さん付いてけないです。因みに俺は分からせられるより分からせたい派である。超どうでも良いっすね。えへっ☆

 

「お二人はお昼何か食べたいものありますか?」

「そうねぇ……私は何でもいいけど。敢えて言うなら刺激的なのかしら」

「刺激的……」

 

 何でもいいとか言っているが、間違いなく激辛のことだろう。ただ激辛専門店だけは断固として反対だ。

 

「洞木さんは何かありますか?」

「僕は何でも良いけど、出来ればサッパリしたものが良いかな」

「いきなりかち合いましたね」

 

 激辛 VS サッパリしたもの。相容れない二つのジャンルが激突する……!

 ともあれ、真面目に考えるとあまりにも世界が違うこの二つを両立させるにはどっかのフードコートとか食べ放題に行くしかない。それかコンビニとかで買って適当な公園で食べるとか。

 ムムムと唸っていれば洞木がこちらに視線を送る。

 

「一花ちゃんは何か食べたいの無いの?」

「私ですか?」

「折角三人で来てるのに一花ちゃんの意見だけ無視なんて出来ないからさ」

 

 流石のイケメン力。気遣いを忘れないその精神、もし洞木が女だったなら俺は惚れていたかもしれない。女だったわ。前言撤回。惚れていた可能性が万に一つでもあったかもしれない。

 気を取り直して、俺の食べたいものなぁ……。

 

「じゃあインスタ映えするものとかが良いですね」

「アレ、意外に女子っぽい回答だね」

「意外って失礼な。ただ私はああいう、健康に悪そうな見た目と味が本当に両立しているのか実証実験したいと常々思っていたんです」

「疑ってごめん、一花ちゃんは一花ちゃんだった」

 

 うるせえ! 何だかいつも以上にイケメンを装っているからか洞木の一言一句が余計に癪に障るなこの野郎!

 

「私が刺激的、洞木さんがさっぱりした、鬼灯さんがインスタ映え……見事に調和しなさそうな物が並んだわね」

 

 羽実が呟く。全くその通りだと思う。

 

「……提案なんですけど、全部忘れてファーストフードにしませんか?」

「じゃあ何で聞いたのよって思うけど……こんだけバラバラだと流石に無理があるわよね。さっきも言ったけど私は構わないわよ」

「僕もハンバーガーなら良いよ」

 

 全員の意見が一致したので駅前の有名ファーストフード店に入店する。馴染みの無い店よりかは幾分と入りやすい分、俺としてもありがたい。また不意打ち気味に激辛オムライス屋に連れてかれてもアレだしな。

 

「鬼灯さん。ちょっといいかしら」

 

 カウンターで個々人で注文を終え、ハンバーガーセットが乗ったトレーを席まで運ぶと俺は羽実に小声で呼ばれた。

 

「どうしたんですか?」

「話したいことがあるのよ。洞木さんには内緒で」

「良いですけど……」

「だからちょっと女子トイレ行きましょ」

 

 じょ、女子トイレ……!?

 俺のポンコツCPUが強制シャットダウンしてる間にも羽実はひらりと通りすがる人を避けてトイレの方向に歩き始めていた。あの、幾ら見た目が銀河創成以来の美少女だからって女子トイレに入るのはちょっとばかし問題が……!?

 

「あれ、羽実さん。何処か行くの?」

「ちょっとトイレにね。折角だから鬼灯さんも一緒に行くことになったの」

「せ、折角?」

 

 そんな連れション感覚で誘われましても!?

 洞木もこれには目を白黒させるしかないみたいで、その間にも俺の手は羽実に引っ張られる。何だコレ。俺、何をさせられてるんだ?

 

「どうしたのよ、トイレの手前で立ち止まって」

「い、いや~。私、まだまだ催してなかったりするんですが会話するにも出来れば他の場所とかでしませんか?」

「ここファーストフード店よ? 他の場所なんて無いわよ」

「最悪喫煙スペースとかでも良いんで。ほらタバコは今からコンビニで買って来れば」

「良く分からないこと言ってないでさっさと行くわよ」

 

 最後の抵抗に虚しく、俺は女子トイレに引きずり込まれてしまう。お、俺は悪くないからな! 全部羽実がやったことだ! だから後から「それは犯罪なのでは?」とか言われても俺は知らないからな!

 言い訳に次ぐ言い訳をしてる間にも女子トイレの光景が目に飛び込んでくる。小便器が無い以外は正直、大きな違いは無いように見える。都合が良いことに、今は俺と羽実以外には誰も居ないみたいだ。もう全然頭回んないんだがこの状況。

 

「アンタさ」

 

 周囲を確認し終えたのか、羽実は俺に近寄ってきた。

 羽実の凛とした相貌が近づく。その目は疑懼によって日本刀みたいに鋭い。

 普段なら異性的な意味合いでドキッとする俺ではあるが、今に限ってはそうでもない。寧ろ冷や汗をだくだくと流して「もしかして俺の女装……バレました?」とか考えている。でも俺が男だと理解していて女性トイレに引きずり込む羽実も相当な変態だと思うのですがどうでしょう。はい、羽実は変態だと思います。

 

 齷齪と思考がえらい方向に猪突猛進ガールしていく俺を無視して羽実は切り出した。

 

「洞木さんが女の子ってこと、知ってるわよね」

「……………………へ?」

 

 目が点になった。勿論比喩だ。だが気分的には本当に点だった。数学的には面積を定義されない点Aだった。

 

「初めて確信を持ったのは今日よ。洞木さんは確かに見た目は男っぽいわ。でも女の子として不思議なことがあるのよ」

「不思議なこと……ですか?」

「そう。洞木さん、私との距離が近いのよ」

 

 羽実は深刻な表情でそう口にする。

 

「最初はそういう性格だからと思ったわ。イケメンだからそういうのに慣れてるのかと思ったけど、どうも違うような気がしたの。初対面なのに私との会話は妙に合うし……疑って洞木さんのことを観察してみれば身体的にも女性っぽい。鬼灯さん、そうなんでしょ?」

 

 ……まあ、そうなんだけど。

 肯定するのは簡単だが、と悩んでいると羽実は俺の肩を掴んだ。

 

「ねえ鬼灯さん。アンタって結局何がしたいの?」

「何とは……何でしょうか?」

「とぼけるんじゃないわよ。アンタ、洞木さんと随分仲が良いみたいだけど……女の子同士で、その、付き合っている……なんてことはないわよね?」

 

 ないわよねと言われても……めっちゃ困る。

 実際は俺と洞木は男女であって、女の子同士とかいうある種きらら的展開は絶対に起きえない。のだがそれをバラしてしまうと作戦が崩壊する。いや、でも洞木の性別がバレた時点で作戦は崩壊してるのか。ああもう分からん!

 

「あのー……本人の同意も無しに語るのは本当は嫌なんですけど、確かに洞木さんは女の子です。ですので私とそういう、恋愛的な意味合いは無いですよ?」

 

 何か言わなくは。

 そう駆り立てられて口にしたが、羽実は依然として固い表情で口を結ぶ。どうやら羽実の牙城を崩すには至らなかったらしい。羽実は既に確信を深めてしまったようだ。まあ確かに恋愛に性別は些細な事なのかもしれないな……いや全然些細じゃないと思うんですが。

 

「私だってこれに関しては半信半疑だけど……洞木さんの視線、妙に鬼灯さんの方に向くのよ。まるで一挙手一投足に気になって集中出来ないみたいな、そんな感じ。……こういうこと言いたくないんだけど、アンタさ、二股してるんじゃないの」

「………………え?」

 

 何でそうなるの?

 予想外の言葉を投げかけられて頭が爆発している間にも羽実は追撃の手を止めない。

 

「洞木さんと二千翔、同時に誑し込んでんじゃないのと言ってるの。言っとくけど洞木さんも……それに二千翔も。私の大事な人達だから、引っ掻き回さないでくれるかしら」

 

 …………ええ!?

 二千翔的には嬉しい言葉だけどやっぱり何でそうなるんですか羽実さん!?

 

 

 

 それからのことはあまり覚えていない。唯一記憶にあるのは滅茶苦茶弁解したけど羽実には納得されなかったという一点のみだ。

 

 

 

 

 

─── ─── ───

 

 

 

 

 

『二千翔、どうだった? 上手く行ったかな?』

 

 帰宅して、夜。

 俺は洞木と結果報告のため通話していた。

 

「何から言えばいいか……とにかく失敗だった」

『えっ。失敗……?』

「まず羽実に洞木が女の子である事がバレた。あ、バラすつもりは無いらしいからその点は安心しても大丈夫だと思う」

『……噓だよね?』

「マジっす。更に一花が、洞木と二千翔と二股している二刀流ビッチと思われた。なあどうしようか洞木」

『何その超展開は。どうしてそうなったんだい』

「知らん。助けてくれ洞木、何でもする。貸し2つにするから」

『ごめん無理。僕も全く打つ手が思いつかないよ』

「だよなぁ……どうしよ」

 

 これから俺、羽実と会う時どういう顔をして会えば良いんだか……。

 溜息が窓から抜けて夜に溶けて行った。

 

 

 





意味分からなくなってきましたね。
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