今私は、御宿駅の出入り口付近に立っている。今夜は花の金曜日、恋人や夫婦友達連れなどが明日が休みなのをいいことに、笑顔でそれぞれの目的地へと雪崩のように流れ込んでいく。私は何をしているかって?。親愛なる親友北原雪菜とその夫である北原春希との、待ち合わせのためにここに佇んでいる。二人共私への負い目からか、用がない限り週末の夜は一日だけ予定を空けてくれているが、逆に私は気を使わせているようでなんだかなぁ。それと今日は部長と水沢も呼んでいるようで、明日も休みなため一晩中楽しめそうだ。
そうこう言っているうちに、改札方面から人妻になり一段と美しさに磨きがかかった親友が足早に向かってくる。
「ごめんねかずさ、待った?」
「いや待ってないよ。そんなに急がなくても」
「だってかずさ一人にしてると、男の人に言い寄られて人だかりができて大混雑しちゃうでしょ?。
ただでさえ今注目の実力派美人ピアニストで、ジェバンニ国際ピアノコンクール4位入選の箔がついてるんだから。
もっと自覚をもちなよ。」
「いやお前だって、結婚してからその美貌に更に磨きがかかってるんだ。ナイツレコードの取引先の人間に
言い寄られてるんじゃないか?。それこそお前が自覚を持つべきだろ」
やいのやいのと言い合いが始まり、ナンパや声をかけようとした男は尻込みをしてしまった。タイプは違えど10人いれば10人とも振り返る美女が、公衆の面前で見た目とは裏腹に言い合いを始めるのである。周囲はいつ終わるのかハラハラし、また好奇の眼差しでその光景を眺めていた。
「おい二人共、ここで何をしてるんだ?」
呆れた表情で二人に問いかける。この人こそ、雪菜にとっては夫、かずさにとっては友人以上恋人未満なのかそれ以上の
存在である、北原春希その人である。
「まったく、公衆の場でするようなことじゃないだろ。雪菜もかずさに引っ張られて、もう少し落ち着けよ。」
「だって春希くんかずさが」
「おい春希、今日も雪菜の方に付くきか?。いつもいつもお前は雪菜ばかり、過保護すぎるんだよ。もっと私の気持ちを考
えろ。じゃないと次回の開桜社での独占取材と特集は他雑誌に頼もうかなぁ。」
「お前、何言ってるんだよ。曜子さんが言ってたぞ、いまだ俺以外の記者だとしどろもどろで、美代子さんの
助言や助けがないと成り立たないって。」
「母さんも余計なことを。」
「まあまあいいじゃない。春希くん、仕事は大丈夫だったの?」
「まぁ....な。週明けは大変だろうけど」
「それはご愁傷さまで。」
「くそう母さんのやつ...ぶつぶつ」
「おーいかずさ何やってるんだ、置いてくぞ」
「かずさ~、はやく~」
「ああ、今行くよ」
駆け出そうとしたところ、ふと駅前のバスターミナル付近でギターの弾き語りをしている少年が目に入る。
身長は私より頭一つ分高く帽子を被りおしゃれではなく地味な黒縁メガネをしているため、顔がはっきりみえない。いやあれはあえてみられる、恥ずかしさから緊張しないためのものか。服装は夏場のためか、某アーティストの名前が入った黒の半袖のTシャツにベージュのハーフパンツにスニーカー。しかしスタンダードな服装で目立たないように演出しているが、身長の高さと手足の長さが逆にスタイルの良さを先立たせている。そんな少年を眺めながら、二人の後ろ姿を足早に追いかけることにした。
本日の飲み会の場所に到着する3人。流石に世界的ピアニストを一般的な居酒屋に招待するのは混乱を招きかねないことを考慮し、著名人も利用すると噂の会員制個室居酒屋での催しとなった。
「すいません、飯塚で予約しているのですが」
「飯塚様ですね。存じ上げております。それではこちらにどうぞ」
化粧品メーカーに努めており、営業で接待もあるようなので、店のセッティングやチョイスの際には本当に助かる。
持つべきものは友達である。
案内された個室の襖を開けてみると、「おー春希やっと来たか」すでに出来上がっている飯塚武也。
「もー遅いよ、あんたたち」その武也の相手を嫌そうにしながらも、どこか嬉しそうな水沢依緒。
そしてもう一人。「あれ君は」。
文才のない人間の妄想ダダ漏れ感満載となっておりますぅぅぅ。