そこにいたのは、東亜テレビの人気キャスター柳原朋。
付属時代に、ミス峰城大付属を雪菜にかっさらわれた件で大学時代は根に持って、絡むことが多かったが、逆にそれを乗り越えることで奇妙なというか不思議な友情が二人に芽生えて今に至る。 以前から雪菜の芸能界デビューの話を持ってくることが多かったが、「私はライブハウスであの環境でやるのが楽しいかな」と言って乗り気ではない様子。今日は別件の話だろうか。
「こんばんわ北原さん 雪菜に冬馬さんも」
「ああ」
「こんばんわ柳原さん」
「どうしたの朋?。あなた明日朝の情報番組出るのにこんな時間にいていいの?」
「明日は、特別番組で事前収録したものを流すだけだから1日オフよ。」
「そうなんだ。朋大活躍だもんね。東亜テレビの若手人気キャスターで、将来のエース候補だってもっぱらの噂だよ」雪菜
「当たり前でしょ。なんのために大学時代からテレビ局に出入りしてたと思ってるのよ。
そのための人脈づくりで、今まさにそれが花開く時期にきてるのよ。」
彼女は本当に向上心の塊だ。雪菜とタイプは違えど友情関係を築いてくれていることに、とても感謝している。俺やかずさに対して出せない部分が出ることで、人との交流の幅が広くなっている。
「冬馬さん、先日のミュージックリターン出演ありがとうございました。冬馬さんの出演回反響がものすごくて、ゴールデンで再放送の予定で現在調整中です。」
「ああ、私もクラッシックの人間だから、音楽番組でもポップス主体だから不安もあったけど、結果受け入れてもらえたようでうれしいよ。また機会があればよろしく頼む」
「ええ。こちらこそよろしくおねがいします」
「ただあのエロプロデューサーは許さないぞ。何度も尻を触ろうとしやがって。今度あんなことしやがったら、目に物みせてやる」かずさは怒りを露わにする。
「あはは...」柳原さんは苦笑いを浮かべる。
かずさは思いのほか、周囲の人たちとの人間関係の構築が出来ているようで俺自身安心している。日本に残ると言った際は、嬉しい反面自分たち以外の人間と関係の構築できるのか不安があったが、杞憂のようだった。
すると隣の席に武也が腰を下ろす。
「おい、春希なんかホッとしてるけどどうしたんだ?」俺の表情を見て何かを感じ取ったのであろう。
「いや、かずさが日本に残る決断をしてくれたときは嬉しかった。嘘じゃない。本気で。でもそれが、かずさを苦しめることになるという懸念があったからさ。」
「お前と雪菜ちゃんの関係でか?」武也は尋ねる。俺はコクリと頷く。
「そこは冬馬もわかってるんじゃないか。いくら気をつかったところで、結婚しこの先子供も産まれる。二人の幸せが増えるたびに冬馬は苦しむかもしれない。もしかしたら嫉妬もうまれるかもしれない」
「ああ」俺は答える。
「お前らは複雑な三角関係だ。そうならないように、雪菜ちゃんとは異なる愛情を注がないといけない」と助言を伝え。
「まーそれに、友達である私達もいるんだからさ、抱え込まないで、声かけてよ」武也の隣に座り、依緒も言ってくれる。
「ありがとう」そう言ってジョッキのビールと一緒に今の会話は飲み込んだ。
「雪菜 冬馬さん」今回の本題に移るようだ。
「どうしたの朋?」
「どうかしたのか?」
雪菜が居酒屋特製の手作りプリンを膝枕をして、かずさに食べさせているときに、
その話は始まった。
「折り入って2人に頼み事があるんです」真剣な眼差しで、話し始める。
「10月に私達の母校峰城大付属で付属祭が行われるのは、皆さんご存知ですよね?」
「ああ3年のときの付属祭が今の俺達、いやこの3人を結ばせた大いなる出来事だよな。忘れるわけがない。ただの付属3年の時の1ヶ月もなかったことの出来事、この歳になってもその絆が途絶えることなく結婚まで行きつき、1人は友人でそばにいてくれている。奇妙な関係だよ全く。」武也は昨日のことのように振り返る。
「そう考えると懐かしいな。もうそんな時期かぁ。あの頃の俺もまだ子供だった。」武也が当時の思い出に耽っている。
「あんたは今も昔もあんまり変わっていないでしょ。本当に」と呆れたように依緒がそ れに言葉を返す。
「でも、変わったこともある。俺たち2人の関係だよ」と返す。
「今じゃお前とこういう関係を築くことが出来て、本当に幸せものだ。中学時代のこと
がなくもっとお互いが素直になれてれば、拗れることも。」
「そうね、でもこれからの長い人生いろいろ苦労かけるかもしれないけど、よろしくね」
「あのぉ、惚気はこの話が終わったあといくらでもしてくださって結構なので本題の話いいですか?」柳原さんは申し訳無さそうに会話に入り込む。
「あっごごめんなさい、話しの腰折ったよねつづけてつづけて。」赤面する依緒をみんなが温かい目で見守りながら、本題にはいる
「では、10月にある付属祭のステージ演奏でスペシャルゲストとして2人に出演していただきたいのです。」朋は単刀直入に言う。
「「私達が」」
「そうです。」
「出たい出たいよ、かずさいいよね?」
「なんで、私達なんだ?」
「あなた達は付属の英雄とでもいいましょうか、峰城大全体で見ても有名人なんです。1人はミス峰城大付属で2年連続トップに君臨した学園のアイドル。もう1人は海外のピアノコンクールで入選し、しかもその美貌でだれもが魅了されるピアニスト。特に音楽科があるため、付属の方ではそれを宣伝文句にしてる部分がありますが。」
「そうだよねぇ~、かずさは可愛いから本当に。自分が男だったらほっとかないよね。もう食べちゃいたいくらい。」雪菜はかずさに覆いかぶさろうとする。
「おいこら、やめろ」引きはがそうとするが。
「いいじゃん、女同士なんだし」
「女同士でも困るんだよ。みんな見てるだろ、春希だって」逃げるための口実を発するも、
「いいじゃない、間違いが起こっても泣いて謝れば、春希くんなら笑って許してくれるって、ねえ春希くん?」と本人に確認をとる。
「いや、うーん・・・まぁ」
「お前も何だよその反応。まるでまんざらでもないような態度だけど。おい雪菜もういいからやめろ。どっからこんな力出てくるんだよ。さっさと離れる」やっとこさ引き剥がし、乱れた衣類を正す。
「雪菜、かずさをからかうのはやめろ。話が前に進まない」
「えーっ、本気なのに」
「もういいから雪菜。朋、話の続きをはやく。」雪菜に隙を与えないように急かす依緒。
「はい、当日のステージ演奏でスペシャルゲストとして、2人に出演して頂きたいんです。持ち時間というよりも、5曲ほど披露していただければ。その中には「届かない恋」を必ず加えていただきます。これは実行委員会からのお願いです。あとの4曲は二人にお任せします。バックバンドに関しても、リクエストが有ればできるだけ要望を叶えるつもりですが。」
「私はとくにないかな。かずさは?。」
「ああ、私も異論はないよ。だが、春希はどうなってるんだ。私達2人が揃うってことは、こいつが出るのは必然だし当然だろ。そこんところどうなってるんだ」
「そうだよ朋、春希くんは?」2人は問いかける。
「正直、曲の作詞家ではありますが、そこに加えるのはインパクトに欠けるといいますか。実行委員会側から北原さんの出演が望まれていない、わけではないんです。ただ2人のインパクトが大きすぎるので、印象に残っていないというのが正直なところです。」
「まーそりゃぁなぁ」
「ぐぅの音も出ないわね」
武也と依緒は思う。確かに付属時代は成績優秀、理論武装家で口で勝てるやつはいないと有名だったのは事実。面倒見もよかったしな。
しかしこの2人の美女、当時は美少女を相手にインパクトで上回るのは不可能だ。確かに今でも峰城大付属や大学の方で流れている、休憩中に学校内ラジオでリクエストがされる名曲であるが、歌っている人間とそれを作曲して演奏している人間が強すぎる。作詞家本人が演奏しているのにインパクトがないのではない、2人がありすぎるだけのことだ。
「春希くんは悔しくないの。作詞家として、認識されてないんだよ」
「いやまぁ、俺自身あまり表舞台に出たくないというか。出ることになったら、あの地獄のようなギターの練習をすることになるんだろ。無茶言うなよ。今でも激務で来月から、かずさお前知ってて言ってるな。来月からお前の独占取材でそれどころじゃないの。しかも曜子さんからマネージャーまがいなことまで頼まれてるんだよ。」
「いいじゃないか。取材名義で練習に付き合ってやるよ。それだと口裏を合わせて合法的に出来るじゃない。母さんにも伝えておくよ。開桜社の方に根回ししてもらえるように。雪菜構わないよね?。」雪菜の方を向いてこの提案を提示する。
「いいよ いいよ合宿みたいだね。軽音楽同好会再始動って。朋いいよね?」
「はぁ・・・、わかりました。こっちもその予定で都合をつけておきますね。北原さん当日まできっちり仕上げておいてくださいね。たのみますよ」念を押す柳原。
「俺に意思決定権はないのか?」
「ないよ」
「ない」
「あるわけないだろ」
「あるわけないでしょ」
「逃げ道はないですね」
もう逃げ道はない やるしかないの。
「はぁー、じゃあやるよ。やればいいんだろ。まったく自分で言うのも嫌だけど、
本当にお人好しだよな、俺って。」
「そこがあんたののいいところでしょ」
「だからお前には、雪菜ちゃんや冬馬がいるんだよ。今までのお人好しさの結果、この2人がお前の近くにいてくれている。そう考えたら、悪いもんじゃないだろ」
確かにつくづく思う。俺みたいなやつにタイプは違えど、慕ってくれている女性が二人いる。もう1度頑張ってみるか。
「よーし、今晩は飲むぞー。武也とことん付き合えよな」
「おうよ」
1人の男の決意とともに、金曜の夜は更けていく