「じゃあな春希、付属祭楽しみにしてるぜ」
「2人に恥かかすんじゃないわよ。お疲れ様~」
酔ってる勢いからか依緒は満面の笑みで、手を繋いでその手をぶんぶん振り回しながら同棲中のマンションの方角へと歩みだす。素面だと絶対見れない光景を拝むことができて、面々は何か得したような気分になった。
「じゃあ、私も行きますね。今日話した件と別件でつめておきたい話があるので、一度局の方に戻りますね」
「おい、なんで付属祭のことを局で話し合うんだ?」
「えっ! 言ってませんでしたっけ。ステージ演奏は生か後日VTRで放送される事になってるんですよ」
「俺はそんなの聞いてない、初耳だぞ。」驚愕の事実に驚く春希
「あれ、おかしいですね。他の皆さんには伝えているのですが。雪菜は北原さんに伝えると言ってたんですけど」
「雪菜ぁぁぁぁ、謀ったなぁ」
「ほんとうぅぅぅにごめんなさい。だってこうでもしないと、あなたしてくれないじゃない」
「いや、そりゃそうだけど。そういえば帰りの武也の表情やけに笑顔だったのはそのためか」
「いいじゃないか春希。今までの罪滅ぼしとして、新妻のわがままの1つや2つきいてあげないでどうする。バチは当たらないと私は思うけどな。」
「その一端に関与している人間が、言っていい言葉ではなかったような気がするんだが気のせいか?」
「さあ何のことだ?」春希からの口撃を受け流すかずさ
「はいはい、痴話喧嘩は終わりにしましょう。お二人さんみられてますよ。」手を叩いて終了を促す柳原。
『痴話喧嘩じゃない(から)』
「はいはいじゃあ私は行きますんで、それじゃあ。またね雪菜」
「うん。またね」
左手を上げてタクシーを停め、乗り込み颯爽と去っていった。
「じゃあ私達も行こうか」
3人は御宿駅の方に向けて歩きだした。
「かずさ、今日は泊まっていかない?。明日も休みなんだし」
「馬鹿言うな、大学時代から住んでるあの狭い部屋に3人はきついだろ」
「そうかなぁ。ベッドに私とかずさで、床に春希くんが寝れば問題ないと思うんだけど。ど。どう。」
「俺に聞くなよ」
「ねぇ、かずさ」
「駄目だ、明日は朝から練習が入ってるし、母さんと各所へ挨拶回りに行く予定だから」
「ちぇー、それじゃあしょうがないね。また今度ね」
「ああ」
「雪菜、なんか俺の扱い雑になってきてない?」
「じゃあねかずさ、気をつけて帰るんだよ」
「じゃあまたな」
「ああ」
改札口付近で別れる、1人と2人。
しばらくして2人が見えなくなってから、かずさはもう一度御宿駅西口の自動販売機付近、弾き語り少年のいた場所へ行ってみることにした。
会ったからって何をするつもりもない。ただ聞いていたいだけだ。
一目惚れ?。ふん、見たところ8年程年が離れているように見える。相手から見ればおばさんかもしれない相手に、恋愛感情など生まれるわけがないし、自分も言わずもがな。
目的地に到着すると「やっぱり、いないよな」。
3時間ほど前にそこにいた少年の姿はなく、自動販売機の光だけが存在する状態。
そして時計を見るともう終電が過ぎている。
私は近くのたくしーに、乗ると運転手に住所を伝え帰路についた。
目を覚ますとカーテンのおかげで光が遮られているが、現在は朝の5時。
週の始めの月曜日。
名前は南淳也、峰城大付属普通科に通う高校3年。
整容 洗顔などを済ませ、着替えてから朝の日課である、ウォーキングに出かける。
玄関の鍵を締めて、階段を降り準備運動をして早速出発する。流石に7月にもなるとこの時間でも蒸せるし暑いし、歩いて5分と経たない間にTシャツは汗でベトベトで額には玉のように汗が出来ている。マンションから歩いて20分程にある公園に到着。
ここにあるトレーニング遊具を使って体を鍛えていく。楽器を演奏する上で体力を重要視しているため徹底的に体をいじめていく。1時間ほど行うと6時20分になるとマンションに帰る。
マンションに到着すると、クーラーを入れてシャワーで汗を流す。その後トースト 牛乳を朝食として、前日に準備しておいたカバンなどは玄関へ。8時前まではパソコンを触りながら部屋着で過ごし、時間が来ると着替えて、8時過ぎには家を出た。
自転車通学で片道20分で僕の通学する峰城大付属高校に到着する。
前方に同級生で同じクラスの親友の、あいつがいる。
「よう、大貴」自転車から降りて声をかける。
「おはよう 淳也」
「おはよう淳也くん」
一緒に校舎まで歩く3人。
高柳大貴 俺と同じクラスで2人で組んでいるバンドのドラムを担当している。超絶ドラムが上手いが、本人は「高校までの趣味としてやってるだけで、本業としてやっていくつもりはないよ」とのことで、恵まれているのにもったいない。
大貴を挟んで歩いているのが、別のクラスの山際由紀。才色兼備で大貴のガキの頃からの幼馴染であり、お互いの両親どころか祖父が決めた許嫁でスタイル抜群ときた。しかもこの2人超絶セレブ金持ちという庶民からはヘイトを超貯める対象ではあるが、持ち前の性格の良さと嫌味のなさで神のように崇められている。
「こんな事言うのなんだけど、本当に毎日仲いいねぇ」
「いやそうでもないよ、一緒に住んでないからっていうのもあるかもしれないけどね」
「でもさぁケンカなんかしないだろ?」
「まーケンカはしないかな、ただ言い合いはするけど」
「内容は?」
「アイスクリーム屋さんやケーキ屋さんなどでのスイーツ選びとか、私そこは譲れないんで」
「平和すぎんだろ」
2人は笑って受け止めている。
そうこうしているうちに下駄箱へ。教室が違うため、僕と大貴はA組へ由紀はF組へ下駄箱で分かれる。
「それじゃあ、淳也くん 大貴さん」
「うん」
「またあとで」
「淳也、今日で一学期も終わりだけど今年の夏休みはどうするんだい?」
「高校最後だけど今年もバイトかな、あとギター ベースの練習と勉強で埋まってる状態かな、予定という予定はない」
「今年もかい。大学の方へはエスカレーター式で上がることはできるし、学力に関しても難なく期末考査だって10位以内に本腰入れなくても、余裕だったじゃないか。」
「そんなことないよ。でもそれ以上にすごいのはお前だろ、期末考査堂々のトップの王子様。しかも由紀が2位なんて。」謙遜する淳也。
「そんなに卑屈になられなくてもいいよ。本当の君を僕はよく知ってる。どうだい、今年の夏高校最後の夏にうちの別荘に来ないかい?。ハワイだけど旅費はうちが持つから。父さんも連れて来いって以前から言ってるんだ。お願いだ、この通り」
大貴の父親というのが、峰城大付属病院の高柳医学部長。それは数年ほど前で現在は高柳教授だ。白血病の権威だそうで、度々峰城大学内の会報誌などに登場している。多忙なため、家に遊びに行ったときも淳也は高校からの入学だったためか、この二年半で三度ほどしか見かけたことがない。そんな人が自分に興味があるなんて、どういうことだ。なんか裏がありそうだけど。
「なんか悪いよ、旅費出してもらうなんて」
「かまわないから、じゃあね。前向きに考えておいてよ」そう言って自分の席に歩いていった。
俺はどうにかして断る理由がないか、考えるしかなかった
4時間目まで授業があり2時間目終了後に昼休憩、4時間目後に体育館に集まって終業式となる。
とりあえず2時間目終了後昼食のため教室から、食堂の方へと移動する。
大貴の席を見るも既にいない。
まあどうせ由紀と一緒にランチタイムだろうし、そこに割ってはいるのは野暮だよな。
そう思い、食堂へ。
到着すると、上級生下級生関係なくごった返す光景が映る食堂。いつものことながら目眩がしそうだが、今日はコンビニでお菓子どころか何も買ってきていない為、ここは並ぶ以外選択肢がない。
15分ほどして自分の番が回ってくると俺は唐揚げ丼の食券を購入し、食堂の方に手渡す。一分もかからず提供された食事をお盆に乗せて席を探す。室内の席はドコモ満席で座る場所なんてどこを探してもない。諦めて、屋外のテラスの方に出ると、炎天下のため誰一人出てはいなかった。しかし気が楽なため前方の校門辺りが見える席に陣取ることにする。
両手を合わせていただきます。鶏肉は程よい味付けで、ご飯はふっくらで自分好みの軟らかさだ。そしてご飯を食べながらの、今日はギターの耳コピーで時間を潰す。
曲はラウドロックの「Empire」。現在アメリカで人気急上昇中の「WHITE DEMON」のアルバム曲で、激しさの中にもポップな要素も取り入れ、独自な路線を突き進むバンドだ。
大貴とは付属祭でのステージ演奏でこの曲をやることが決まっている。
このジャンルの曲を付属祭でやるのはどうかなと躊躇したが、大貴が「逆にいいんじゃないかな。自分たちの好きな曲なんだし。何も恥ずかしがることがない」それにより、楽曲は決定した。
唐揚げ丼を完食し、炎天下だが屋外で誰もいないため思い切って弾けると思った矢先、
屋内から大量の生徒がテラスになだれこんできた。
そして周囲の生徒が 「東亜テレビアナウンサーの柳原朋が来たぞ」「どこだどこ?」「校門の方だろ」「なんでその柳原朋がうちの学校に?」「なんだお前知らないのか。うちの卒業生で4年連続ミス峰城大だぞ」「付属時代はあの小木曽さんがいたから、付属の方ではなれなかった。けど、だからといって柳原さんが劣っているってわけじゃなく、小木曽さんがエグすぎたってのが大きい」「俺サインもらおうかな」「俺たちのような学生には高嶺の花だよなぁ。」
俺はその喧騒の中でも、黙々と耳コピーで楽譜を作っていく。
これをギター ベース ドラムようそれぞれのものに落とし込んで、お互いで合わせていく。基本 自分がギターのときはベースを ベースのときはギター ドラムは大貴 キーボードなど足りない楽器は基本打ち込みで補う。2人でバンドを組んでる身からすれば、致し方ない。逆に2人でしている分意思疎通がはっきりしやすく、演奏に関するリクエストは明確になる。性格などは違えど、音楽に関する考え方や受け止め方にズレがないためなせるものだろう。
スマートフォンの時計を見るとあと5分で3時間目の予鈴が鳴る。
興味のなかった自分は、その喧騒をよそにギターや楽譜を片付けて自分の教室へ、移動することにした。
教室に着くと大貴と由紀しかいなかった。
「2人は、柳原朋が来たことは知ってるのか?」
「うん あの騒ぎじゃあ誰も知らないないわけないよ。暑い中みんなテラスに出て、食い入るように観てたからね。今は職員室にいるんじゃないかな?。生徒が出入り口付近に群がってるし」騒ぎに関することを述べる。
「興味はないのか」
「まぁ ないといえば嘘になるけど、だから何? って感じかな。あっ楽譜できたんだね。どれどれ。」
「ああ、はいこれ」
「いやぁ、淳也は仕事が早いし助かるよ。しかも正確ときたらねぇ」
「お褒めいただいて光栄です殿下」
「うむ、我は満足じゃ」
「クククッ」
「クックッ、ハハハッ」
「ハハハッ」
「お二人は本当に仲がいいんですね」 少し羨ましそうにする由紀
「うん 由紀僕はね、淳也が大学の医学部に進んでくれたらそれだけで満足なんだ」
「お前まさか」 少し寒気がする淳也
「違うよ変な意味じゃなく、ただ純粋にきみと高みを目指したいというのが僕の希望かな。君とならどこまでも行けそうな」 願望を語る大貴
「俺には夢もなにもない。とりあえず勉強をある程度出来ておけば、職業の選択の幅が広がるからやってるだけ。それだけだよ」窓の外を眺めながら、どこか寂しそうに語る淳也。
「だから英会話の勉強もしているのかい?」
「ああ」
絶妙のタイミングで予鈴が鳴る。
「じゃあ私は戻りますね」
「うん ありがとう」
「じゃあ」
由紀は自分の教室へと去っていく。
沈黙が続く。
「で、別荘に行く決心はついた?」
逃れられない。
「ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリン」目覚まし時計を投げてアラームを止める。
「くっ、うーーーーーんよく寝た」かずさは体を起こし立ち上がり、カーテンを開けて陽を浴びながら背伸びを行う。
「暑い」と一言。
寝ている間にづれた下着を整えて、パジャマから私服へと着替える。
一階に降りると、母さんがソファに座り新聞を見ている。
「おはよう 母さん」
「おはよう かずさ」この人が私の唯一の肉親、冬馬曜子
世界的ピアニスト兼冬馬曜子オフィスの社長で、私なんか足元にも及ばない実力の持ち主で、また美貌を併せ持った魔女というべきか。現在は病気の治療専念で休業中。冬馬曜子オフィス現状は私 冬馬かずさに懸かっている。
洗顔と整容を行いキッチンへ。
冷蔵庫にある母さんが作ってくれたであろう、サンドウィッチとウサギさんカットのりんご、コーヒーをお盆に乗せてリビングへ。椅子へ座り昼食を食べる
「重役出勤ねぇ。今日は何時に起きる予定だったのかしら?」
「9時だけど」
「時計をよく見てみなさい」
「12時だね」
「昨日言ったわよね。9時から起きて10時までには練習にはいるって。目覚ましセットしてるのに何故なのかしら?」呆れて言葉が出ない様子。
「元の目覚ましが9時にセットしたつもりだったんだけど、知らぬ間に12時になってたんだよ」苦し紛れの言い訳を言うかずさ。本人に悪意がないのが尚更たちが悪い。
「かずさ 自己管理が厳しいなら専属マネージャー付けましょうか?。ピアノに専念するために。あなたはピアノだけに専念できる環境であれば、私をも凌駕する領域まで到達することが出来るわ。あなたが気心知れた仲。ギターくんなんかどう?」
「ぶは、はは春希だって?」突然の発言に驚いて飲んでいたコーヒーをぶち撒けてしまう。汚れたテーブルを拭いてくれる母さん。
「それとも小木曽さんでもいいんじゃない。あなた以上にあなたのことをわかっている人間なんて女で言えば彼女ぐらいでしょ。今の小木曽さんなら頼み込んだら、OK出してくれると思うけど。そうなったら開桜社かナイツレコードを2人のどちらかにやめてもらわないといけないけど」
「やめてくれよ母さん。いまでもあの2人に甘えている状況なんだ。これ以上になると、逆に精神的に辛くなる」 現在でも後ろめたさがあるのに、そんなことになったらその重圧に耐えかねてダメになりそうだよ。
「そこまで言うのならかずさ、自分でどうにかしなさい。私もあなたぐらいの歳の頃は、あなたを抱えてヨーロッパ中を回ったものよ」
「わかったよ」
「はーい、すねないの。すねたあなたは本当に破壊的に可愛いんだから」 長い髪の毛をワシワシと撫でる。
「子供扱いしないでくれ」
「いつまでも、親にとって子供は子供なの」出かける準備をする母さん
「今日は美代ちゃん来れないから、夕飯は自分でなにか食べてちょうだい。それじゃあ行ってきます。」ドアを開けて出て行った。
起きてから1時間経ったけど日差しは更にきつくなり、時計を見るともう13時を回っている。
食べ終わった食器を軽く流し食器洗浄機に入れると、練習のため地下スタジオの方に降りていった。