集中してると時間はあっという間に過ぎるもんで、スタジオの時計を見るとすでに18時をこえて19時前になっている。
そういえば夕飯は美代子さんがいないから作り置きはないと、母さんが言ってたことを思いだす。買い出しに行くべきか冷蔵庫のアイスクリームで我慢すべきか悩んでいると、スマートフォンが鳴る。スリープ状態から画面を点灯させて見ると、水沢の名前が表示されている。
「はい、冬馬ですが」
「あっ、冬馬さん」
「水沢 私のことはかずさでいいって前も言ったよね」呆れたよう話す。
「ごめん ごめん 前回のリサイタルに招待されたときの演奏を聞いてから、圧倒されちゃってさ。名前を呼び捨てでいいのか戸惑ってるんだよね。私達学生時代から繋がりそこまで会ったわけじゃないでしょ。同じ学校の同級生だったけど、春希関係であっただけで。だからそんな感じだったのに世界的ピアニストなって帰ってきて、親友の近くに私達以上に深い関係ときたらさぁ。」
「いいんだよそんなの。私と水沢は友達なんだし堅苦しいのなしにしよう。」
「わかった じゃあかずさ」
「どうした依緒」
「今から時間ある?」
その電話から30分後、私は岩津町駅から乗り換えなしで10分ほどの市田駅の改札口付近にいる。
2,3分程待っていると前方から待ち合わせの相手がやってくる。
「ごめんごめん、突然呼び出して。大丈夫だった」
「ああ ちょうど練習が終わって一息ついてたときの電話だったんで。それにしてもどうしたんだ私を呼び出すって」
「いやあんまり2人でゆっくり話す機会ってなかったから。だからこういうのもありかなって」
「そうなんだ、じゃあそんな機会を作ってくれたんだから今日は楽しませてらうよ」
そう言って2人は繁華街の方に歩きだす。
「えっ 何?」
「だから今日は母さんに怒られてさ」予想外の話の内容に驚く依緒。
まさかこの歳になって、母親に怒られたことの愚痴というものを聞かされることになるとは思わなかった。それに春希が「ピアノ以外はからっきしだからなアイツ」と以前話していたが、本当だったんだとここで再確認した。
「ただピアノのことはわからないけど、9時に起きて10時に練習の予定だったんでしょ。それが12時に起きてくるって。しかも目覚ましのセットがもともと9時ならまだしも、12時にきっちりセットされているんだから、起きる気なかったと取られても、文句言えないわね」
ワインを一口飲んで「まぁそれはそうなんだけど」
いま二人がいるのは小洒落た日本酒専門の料理店。
個室になっているため、声さえ気をつければ気兼ねなく使えると評判だ。
「でもその美貌と実力があるんだから大丈夫でしょ?。芸術家って一般人とは違って破天荒さも売りになる部分あるんだし。」
「うちの母さんもいろいろ彼氏がいたって言うのは聞いてるよ。でも私は生涯この先春希しかいないし」
「ふーん 今でも春希のことが好きなんだ」
「ああ 好きだよ。いや愛してる。悪いかよ、友人の旦那のことを今でもそういう対象で見ていることが。でもしょうがないんだよ、男をアイツしか知らないからとかそういうのじゃなく、心の底から生涯あいつしか愛せない。それほどの傷というかなんというか、絆を刻み込まれたんだから」 今まで二人が結婚してから誰にも吐露出来なかった思いを依緒にぶちまける。
依緒は思う。そらそうだよね。ヨーロッパに行ってた5年間でさえ春希のことを忘れられずにいたんだ。むしろその気持をピアノにぶつけてピアニストとして今の地位にまで上り詰めたん、そんな簡単に心の整理がつけば苦労しない。私もそうだよね。武也と今の関係にいるけど、もし相手がいてそれに結婚してたら自分は耐えられたであろうか。わからない。わたしだったらもう二度と会おうとしないかもしれない。でもこの子は、愛した相手と友人が結婚し幸せなところを見せつけられるのに近くにいて、見守り続けている。それだけでも尊敬に値する。
「で、ここからが今日母さんに言われたことなんだけど」
「はいはい」
「まぁ今日みたいなことが続くなら専属マネージャーをつけること提案されたよ。あれはまあ、提案というか命令っぽかったけど」
「へぇ」
「ピアノに専念させるためにだって」
「それで」
「母さんから、雪菜か春希どちらかをマネージャーにするように言われたよ」
「ふーーーーーん。.....えええぇぇぇぇどういうこと?」あまりのことに大声をあげる依緒。
「依緒静かにシーーッ」
「ああごめん。どういうことなのよ、いったい2人をマネージャーって?」話の内容に驚きながらも、冷静さを保とうとする依緒。
「母さんが言うには、専属マネージャーをつけるのは別に問題がない。でもその人選を誰にするかによるみたいなんだ。」
「そうよね、スケジュール調整やあなたの体調管理、それだけじゃなくメンタルに大きく作用されるタイプのかずさ、めんどくい女であるあなたを相手にして、ときには冷静に、ときには情熱的に対応してコントロールしなければいけない」
「めんどくさいってお前、いやまぁいい。まぁ自分で言うのも何だけど、そんな人間2人しかいないんだよ。雪菜と春希しか」 どうあがいても揺るぎようがない事実を突きつけられてかずさは苦悩する
「じゃあどうするの。どちらかになってもらうように頼む?」
「ああでも、今の私の心の中は、頼んで断られたほうが楽なんじゃないかと思い始めている」
「なんで?」
「今でも2人の愛情が自分にひしひしと伝わってくるんだよ。心地いいよ、心地いいんだよ。でもこれでマネージャーになった日には、もう耐えられない」
「幸せすぎてってこと」
「ああ。恥ずかしいけどそうだよ。」
人間はつくづくめんどくさいと思う。
一年半程前、凱旋日本公演のときは春希に受け入れてもらえるか、もらえないかでビクビクして不安がっていた。しかし現在は春希だけでなく雪菜にも、親愛を持って受け入れてもらえている。それなのに幸せすぎてとは。
「これって惚気?」
「私は真剣だ」顔を真赤にしてその返答に答える。
「かずさ、本当にあんたって可愛いね。いまのその表情見せて惚れない男なんていないよ。あの子達が甘々な理由がわかったよ」
「ああそうかい。それはよかったね」 そう言ってワイングラスにに注がれた赤ワインを一気に飲み干して、溜め息をついた。
店を出ると23時。
お互いこれ以上遅くなるのはまずいということで、待ち合わせ場所であった市田駅まで歩いて戻ることにした。
「今日のこと聞かなかったことにしたほうがいい?」
「なんで?」
「いや、それならいいんだけど。武也には言わないほうがいい?」
「できれば」
そんな話をしているうちに、市田駅へと到着する。
「それじゃあ。あまり思い悩むんじゃないわよ」
「わかってる。」
「それと、2人に探られないようにしなさいね。あなたすぐ顔や態度にでそうだから」
「ああわかってるよ。そんなに私が信用できないのか?」
「そうじゃないわよ、電車に遅れるからじゃあ、曜子さんによろしくね。」
そう言って改札口の方へ消えていく。
依緒の姿を見届けてから私は切符を買おうと売り場に行くと、チンピラ二人組みにに絡まれてしまった。どこいくの? 一緒に遊ばないか? だの私が拒否の姿勢を見せてもまったく気にしないようで、逃してくれない。いくら女の中で身長がデカイといっても、あくまで女の中でだけだ、力なんてたかが知れてる。すると身長が低い法の男が、私の肩に腕を回したので手を払うようにすると、骨折しただの手術費が必要だのわめき出した。
周囲に助けを求めるも、誰もこちらを見ようとしない。交番も西口にしかない。万事休すかと思ったところ遠くから、「おーい探したよ、姉さん」と大きな声でおそらく私を呼ぶ声が近づいてくる。髪型は丸坊主で身長は180cm以上、黒いサングラスをして、デニムに黒の半袖Tシャツに白のスニーカーの男。表情はよめないが悪い男じゃなさそうだ。
その男は到着するとチンピラの男同様に私の方に腕を回すが、不快感がまったくない。「いやーまいったよ。こんな時間まで繁華街の方で飲んじゃって。いい大人だからって、父さんに怒られるよ。箱入り娘なんだから。」 そう言ってスマートフォンを出して電話をかけるふりをしながら、メモ帳に入力している文字を見せる「とりあえず僕の話してる内容に合わせて」その文章にうなずくかずさ。
「いやーごめんねぇお兄さん達。迷惑かけたみたいで、大丈夫だった。うちの姉さん結構気性が荒くて、じゃじゃ馬娘って有名なんだよね。 」サングラスの男は嘘八百並べたつもりだろうが、あながち間違いじゃないことに腹がたったかずさは、男の右足を思いっきり踏んづけてやった。
「イッテーなにするんだよ。人がせっかく迎えに来てやったのに」
「ふん、お前に助けてもらえなくても大丈夫だったよ」
「生意気だなぁそんなこった、嫁にいけねぇぞ」
「なんだと」
「あーもう俺の負けでいいよ。さっさと帰って寝たいんだ。明日も部活だし。お兄さん達ももういいよね。」骨折の件を交番で話すことを勧めると、お兄さん達は もういいとのことで開放してくれた。
そして2人は岩津町駅から一駅の西岩津駅て近くの24時間営業のファミレスポニーに行き着く。男の方は別にいいと言ったが、かずさが強引に連れてきた
店に入り呼び出しボタンを押すと、奥より店員が出てくる。
深夜になると喫煙席が稼働するためどちらか聞かれるが、かずさもタバコを吸わないし、
男もそのようで禁煙席へ案内された。
かずさは早速名物のいちごのパフェとチョコレートプリンとドリンクバーを、サングラスは遠慮していたものの観念して、同じくドリンクバーとスイーツではなく、ナポリタンを大盛りで注文した。
「さっきは本当にありがとう」と頭を下げる。
日頃のかずさを知っている人間がいればおどろく光景だ
「もういいよお姉さん。今度から気をつけなよ。綺麗なんだからあの時間にあんなところにいたら、チンピラの餌食にされるよ。市田駅の周辺って昼はいいけど、夜は全く違う街で、あの手の人間が多いんだよ。」説教臭く語りかける。
「ああ、肝に銘じる」
「うん」 サングラスを外すして笑顔を見せる男
かずさはその顔をよく見る。
あれっ?どこかで見たことある顔だ、一体どこで見たんだ?。
でも髪型が違う。
うーーーーーーーーん・・・。
「どうしたの人の顔をずっと見て?」
「いやあんたと以前どっかで会ったような、見かけたような」
「そう、こんな美人と会ってたなら嫌でも忘れることなんか出来ないと、思うけどね」
「美人なんて、年上をからかうのもいいかげんにしろ」まさか年下にいじられるなんて、恥ずかしい。
「あなたが美人じゃなきゃ世の中に美人なんて存在、あれ俺歳なんて言ったっけ」
「言ってないけど雰囲気でわかるんだよ、こっちは」
そうこう話しているうちに、店員さんが料理を運んできてくれた。
「パフェにプリンよくそんなに甘いもの食べれるね」
「いいだろ別に、お前だってこの深夜にナポリタン大盛りってどんだけ食べるんだよ」
「もうお前呼びですか、そうですか。育ち盛りの高校3年生だから、食べても成長の糧になるから何も問題ないんです」
「お前高3だったのか!!」見た目の風貌から信じられない。
「そうですよ。こう見えて付属高校の3年生」
「信じられん、てっきり社会人かと・・・あーーーーーーーっ」 店内で今年一番の大声をあげるかずさ。
「ちょっと声が大きいって」声のボリュームをおさえるように言うが、
「お前か、御宿駅バスターミナル付近でギターの弾き語りしてる学生がいるっていうのは?」
「そうだよ」
「お前以前と風貌違いすぎるだろ。でも元のパーツは変わらないんだから、気づく人も多いだろ?」
「まぁ夏休み中ですからね。数は少ないけど、それでも友人は気づいてくれるよ」
時間は日付が変わって、零時三十分。
ナポリタンが運ばれてくるなり男は店員に紙のエプロンを頼んで、装着し多めの粉チーズを振りかけてから食べ始めた。飲み物はコーラ。
かずさはいちごのパフェとチョコレートプリン。飲み物はカフェオレで驚異のスティックシュガー十本以上入れて、味見をして「ちょうどいいな」と声に出す
運ばれてきたメニューを食べながら会話は続く。
「よくそんなカフェ・オ・レに砂糖じゃぶじゃぶ入れて飲めますね。かなりの甘党?。」異様な後景を見て尋ねる
「以前はブラックコーヒーに角砂糖を砂糖水かってぐらい入れてたんだけど、友人にこっちのほうがマイルドになって、飲みやすいからって言われて」
「まぁ、体のことを考えるんだったらそっちのうほうがいいですね」
「そんなこと言って、お前もその粉チーズの量なんだ?。一口二口食べるたびに振りかけて。そっちの方がおかしいと思うが違うか?」
「チーズが好きなんですよ。チーズが。美味しいでしょ。」
「私も嫌いじゃないけど。」
かずさは男の顔を見る。最初はサングラスしていたからわからなかったが、目元が幼くこう見てみると、顔もまだ大人になりきれていない子供っぽさを兼ね備えた、女受けのいい顔だな。
「お姉さん仕事なにやってんの?。嫌なら答えなくていいよ。別に金をせびろうなんて思ってるわけじゃないから、ただの世間話。」
口の中のナポリタンをコーラで流し込んで、会話を続ける。
「あんまり詳しくは言えないけど、自営業かな。」
「会社経営かぁ、すごいじゃん」
「別にすごくないよ。会社の方針は両親がしてくれてるし、細かい部分はスタッフの人がやってくれるから、私が出来る部分は最後の仕上げの部分だけ。自分で全部やろうとするんだけど、できないしうまくいかないのわかってるからね」 最後のパフェのいちごを口の中に入れて、ベルを押しウェイターを呼んでもう一つプリンを頼むかずさ。
「お前はどうなんだよ。質問ばかりしてないで、私にもさせろ」
「いいよ、答えられる範囲内ならなんでも。その前にジュース入れてくる。お姉さんは?」
「オレンジジュースを頼むよ」
「OK」
席を立ちドリンクバーの方に向かう男。
席に一人になって思う。自分はこの日付の変わった深夜に、一体何をやってるんだ。初対面の何者かわからない相手と、いやターミナルでギターを弾いていた奴だと後々知ったが。確かにチンピラから助けてもらったのは感謝している。相手はお礼に関してはいいと言っているし、しかも未成年ときた。自分から誘っといてなんだが、何故誘っったんだろうか?。
「はいおまたせオレンジジュース。深刻そうな顔してどうしたの?。」
「ふん、何もない。お前は何にしたんだ。」
「俺はメロンジュースかな。アイスクリーム頼んでいい?。メロンクリームソーダしたいんで。」
「ああ、いいよ」 プリンを持ってきてくれたウェイターにアイスクリームをオーダーする。
「じゃあ、質問始めてもいいかな?」
「うん、いいよ」
「名前 誕生日 高校名」
「滝川勇司 九月一日 峰城大付属三年A組」
「峰城大付属だったのか、見た目では想像つかないが」 意外そうな感想を持つかずさ。
「この見た目じゃしょうがないよ。学校じゃ優等生だし成績はそれなりにいいからね。ありがとうございます」
ウェイターが持ってきてくれた、アイスをメロンソーダに入れる。適度に混ぜ合わされた、ソーダを美味しそうに飲む。
「なんで弾きがたりなんてやってるんだ?。別に悪いってわけじゃない、理由が知りたくてさ。」
飲んでいる姿を見ながら、質問を続ける。
「うーん人前で弾くための度胸試しって言えばいいかな。それと、家で弾くと防音 防室じゃないから」
「バンドでも組んでるの?。演奏に慣れてるし、歌いながら弾くときもまったく手元視てないようだね」
「バンドは付属で組んでるよ。二人組バンドだけど」
「二人組、四人組じゃなくて?」
激甘カフェ・オ・レを一口のみ怪訝な顔をするかずさ。
「自分が時と場合によってギターかベース もう一人はドラム。あとの足りない楽器は打ち込みで対応してる。音楽をやるうえで気の合う人間がそいつしかいないんだから、しょうがないでしょ。」
付属時代の軽音楽同好会でのステージ演奏を思い出す。雪菜 春希 自分 三人の波長が合ったから、あれだけのものが表現できたんだ。こいつの言ってることは間違っちゃいない。
「じゃあこの二年間付属祭のステージ演奏には参加してたのか?。見た感じあの腕なら問題ないと思うけど、ドラムの子も上手いの?」
「当然二年連続で参加してるよ。うん上手いよ。プロ目指ないのか聞いたけど、趣味の範囲内でやるのは高校までだって、大学行ったら、父親の事業を手伝うため本腰入れないといけないから。」
飲みきったメロンクリームソーダのグラスを持って、ドリンクバーへ。
確かに純粋に楽しむことだけを考えるなら、プロになるのはやめといたほうがいいのかもしれない。
プロになったら、自分もファンも納得させたうえで売れないと、自分だけでは自己満足になるし、ファンにだけ受けの良いものだとモチベーションが保てなくる。難しい部分ではある。
「はい、なにか聞かなかったけどとりあえずりんごジュース」テーブルにグラスを置く。
「ありがとう。」
「お姉さんどうする?」
「どうするとは?」
「もう二時回っていい時間だし、店出る?。タクシー呼ぼうか?」
「そうだな、お前はどうするんだ?」
「こっから家近いから、歩いて帰るよ」
「そっか、じゃあ出よ」
外に出る2人。
「この時間になっても、こんだけ蒸し暑いと嫌になりますね。冷房の効いた部屋にいたから余計に感じるんでしょうけど。」 体を伸ばしてほぐす。
「まぁね」
「じゃあ今後関わることもないだろうし、ご飯今日はありがとうございました。また会う機会があれば」
「おいおい何言ってるんだ、今後の予定知っておきたいから、メールアドレスと電話番号教えろ」
「えっ、なんで?」 突然のことに驚く淳也。
「駅前での弾き語りを私直々に観に行ってやると言ってるんだ。」
「いやでも名前を知らないし音楽のこと何もわかんないんでしょ?。それに素性もはっきりしない相手に電話番号教えるのはちょっと。」
なんとかして教えない口実を考えようとする。
「そう言えばまだ名前を言ってなかったか。私の名前は 冬馬かずさ。お前の通ってる峰城大付属出身。冬馬曜子オフィス所属のピアニストだよ。」
日頃自分からしない自己紹介をおこなう。
「はーやっぱりそうなんですね。」
「なんだ気づいてたのか」
「まぁ薄々。三年ほど前の雑誌での特集記事で、当時の写真も掲載されてたしね。確証はなかったけど。それじゃあ正々堂々自分のことも言わないとね。本当の名前は、南淳也 誕生日は十二月一日 あとはさっき言ったのと一緒」
観念してさっきの偽名や誕生日を訂正する。
「なんで嘘なんかついたんだ?」
「このときだけの関係だから、べつにいいかなと」
「はぁ~、とりあえず、電話番号とメールアドレス教えろ」
「はい、これ」
観念して電話帳で自分のメールアドレスと電話番号を見せる。
「よしこれで、いつでも連絡できるな」
「まぁ、また暇な時連絡してよ」
「ああ、次はいつするんだ?」
「次って?」
「弾き語りだよ。それ以外に何があるんだ。」
「マジで来る気?」
来ようとすることに驚く淳也。
「当たり前だろ。何のために連絡先聞いてると思ってるんだ。それともしバックレたり居留守使ったら、私の権限で付属の方に直接電話してやるからな。おたくの学生が駅の方で、うるさいんで、どうにかしてくださいって」
「わかりましたわかりました、今週は日曜日にするから。」
「御宿駅だな」
「そうですよ。はぁ本当にピアニストしかもクラッシクの人間の前で演奏なんて」
話していると連絡したタクシーが到着する。
ドアが開き乗り込むかずさ。
「じゃあ日曜日ね」
そう言って、タクシーは去っていった。
数十分後家に到着するかずさ。タクシーを降りて静かに玄関のドアをを開けて、バスルームの方に行こうとしたところ、突如電気が点灯する。
「かずさこんな遅くまでどこに行ってたの」
「母さんごめん。明日は朝早く起きて練習するから。」
「そんなこともう怒っちゃいないわ。ただ年頃の娘がこんな時間まで、連絡もよこさずに外出していることに対して心配だからよ。」
「実は依緒に呼び出されて飲んでたんだよ。最初は店だったんだけど、途中からあいつの家で。そしたら途中で寝落ちしちゃってさぁ」
本当の中に嘘を混ぜてこの場をやり過ごそうとするかずさ。
「あなたが北原さん夫妻の人間以外の人と、交友を持つことができて母さんうれしいわ。一部に依存しすぎるのは問題だもの。でもそれとこれとは話は別よ、今後は遅くなる場合は連絡を頂戴。」
「わかった。」
「はい、じゃあ早くシャワーを浴びて休みなさい。」
「そうさせてもらうよ」
そうしてかずさが横を通り過ぎようとすると、
「ストーップ」
突然呼び止める母さん。
「なんだよ母さん」
「クンクン、クンクンクン」
突如服の匂いを嗅ぎはじめる。
「な、なんなんだよ一体」
動揺するかずさ。
「かずさあなた男と会ってたんじゃないの?」
「ギクッ、依緒の家に部長飯塚いたからその匂いがついたんじゃないのかな(なんでご飯食べただけなのに、その男の匂いを嗅ぎ分けられるんだよおかしいだろ)」
「ふーん」
疑いの眼差しを向けるも、これ以上は何も出てこないと感じたのか、
「じゃあ私は先に寝るわね、おやすみ。」
「おやすみ」
かずさはなんとか危機を脱してそう声をかけると、バスルームの方に向かうのだった。
時間は日付が変わって、零時三十分。
ナポリタンが運ばれてくるなり男は店員に紙のエプロンを頼んで、装着し多めの粉チーズを振りかけてから食べ始めた。飲み物はコーラ。
かずさはいちごのパフェとチョコレートプリン。飲み物はカフェオレで驚異のスティックシュガー十本以上入れて、味見をして「ちょうどいいな」と声に出す
運ばれてきたメニューを食べながら会話は続く。
「よくそんなカフェ・オ・レに砂糖じゃぶじゃぶ入れて飲めますね。かなりの甘党?。」異様な後景を見て尋ねる
「以前はブラックコーヒーに角砂糖を砂糖水かってぐらい入れてたんだけど、友人にこっちのほうがマイルドになって、飲みやすいからって言われて」
「まぁ、体のことを考えるんだったらそっちのうほうがいいですね」
「そんなこと言って、お前もその粉チーズの量なんだ?。一口二口食べるたびに振りかけて。そっちの方がおかしいと思うが違うか?」
「チーズが好きなんですよ。チーズが。美味しいでしょ。」
「私も嫌いじゃないけど。」
かずさは男の顔を見る。最初はサングラスしていたからわからなかったが、目元が幼くこう見てみると、顔もまだ大人になりきれていない子供っぽさを兼ね備えた、女受けのいい顔だな。
「お姉さん仕事なにやってんの?。嫌なら答えなくていいよ。別に金をせびろうなんて思ってるわけじゃないから、ただの世間話。」
口の中のナポリタンをコーラで流し込んで、会話を続ける。
「あんまり詳しくは言えないけど、自営業かな。」
「会社経営かぁ、すごいじゃん」
「別にすごくないよ。会社の方針は両親がしてくれてるし、細かい部分はスタッフの人がやってくれるから、私が出来る部分は最後の仕上げの部分だけ。自分で全部やろうとするんだけど、できないしうまくいかないのわかってるからね」 最後のパフェのいちごを口の中に入れて、ベルを押しウェイターを呼んでもう一つプリンを頼むかずさ。
「お前はどうなんだよ。質問ばかりしてないで、私にもさせろ」
「いいよ、答えられる範囲内ならなんでも。その前にジュース入れてくる。お姉さんは?」
「オレンジジュースを頼むよ」
「OK」
席を立ちドリンクバーの方に向かう男。
席に一人になって思う。自分はこの日付の変わった深夜に、一体何をやってるんだ。初対面の何者かわからない相手と、いやターミナルでギターを弾いていた奴だと後々知ったが。確かにチンピラから助けてもらったのは感謝している。相手はお礼に関してはいいと言っているし、しかも未成年ときた。自分から誘っといてなんだが、何故誘っったんだろうか?。
「はいおまたせオレンジジュース。深刻そうな顔してどうしたの?。」
「ふん、何もない。お前は何にしたんだ。」
「俺はメロンジュースかな。アイスクリーム頼んでいい?。メロンクリームソーダしたいんで。」
「ああ、いいよ」 プリンを持ってきてくれたウェイターにアイスクリームをオーダーする。
「じゃあ、質問始めてもいいかな?」
「うん、いいよ」
「名前 誕生日 高校名」
「滝川勇司 九月一日 峰城大付属三年A組」
「峰城大付属だったのか、見た目では想像つかないが」 意外そうな感想を持つかずさ。
「この見た目じゃしょうがないよ。学校じゃ優等生だし成績はそれなりにいいからね。ありがとうございます」
ウェイターが持ってきてくれた、アイスをメロンソーダに入れる。適度に混ぜ合わされた、ソーダを美味しそうに飲む。
「なんで弾きがたりなんてやってるんだ?。別に悪いってわけじゃない、理由が知りたくてさ。」
飲んでいる姿を見ながら、質問を続ける。
「うーん人前で弾くための度胸試しって言えばいいかな。それと、家で弾くと防音 防室じゃないから」
「バンドでも組んでるの?。演奏に慣れてるし、歌いながら弾くときもまったく手元視てないようだね」
「バンドは付属で組んでるよ。二人組バンドだけど」
「二人組、四人組じゃなくて?」
激甘カフェ・オ・レを一口のみ怪訝な顔をするかずさ。
「自分が時と場合によってギターかベース もう一人はドラム。あとの足りない楽器は打ち込みで対応してる。音楽をやるうえで気の合う人間がそいつしかいないんだから、しょうがないでしょ。」
付属時代の軽音楽同好会でのステージ演奏を思い出す。雪菜 春希 自分 三人の波長が合ったから、あれだけのものが表現できたんだ。こいつの言ってることは間違っちゃいない。
「じゃあこの二年間付属祭のステージ演奏には参加してたのか?。見た感じあの腕なら問題ないと思うけど、ドラムの子も上手いの?」
「当然二年連続で参加してるよ。うん上手いよ。プロ目指ないのか聞いたけど、趣味の範囲内でやるのは高校までだって、大学行ったら、父親の事業を手伝うため本腰入れないといけないから。」
飲みきったメロンクリームソーダのグラスを持って、ドリンクバーへ。
確かに純粋に楽しむことだけを考えるなら、プロになるのはやめといたほうがいいのかもしれない。
プロになったら、自分もファンも納得させたうえで売れないと、自分だけでは自己満足になるし、ファンにだけ受けの良いものだとモチベーションが保てなくる。難しい部分ではある。
「はい、なにか聞かなかったけどとりあえずりんごジュース」テーブルにグラスを置く。
「ありがとう。」
「お姉さんどうする?」
「どうするとは?」
「もう二時回っていい時間だし、店出る?。タクシー呼ぼうか?」
「そうだな、お前はどうするんだ?」
「こっから家近いから、歩いて帰るよ」
「そっか、じゃあ出よ」
外に出る2人。
「この時間になっても、こんだけ蒸し暑いと嫌になりますね。冷房の効いた部屋にいたから余計に感じるんでしょうけど。」 体を伸ばしてほぐす。
「まぁね」
「じゃあ今後関わることもないだろうし、ご飯今日はありがとうございました。また会う機会があれば」
「おいおい何言ってるんだ、今後の予定知っておきたいから、メールアドレスと電話番号教えろ」
「えっ、なんで?」 突然のことに驚く淳也。
「駅前での弾き語りを私直々に観に行ってやると言ってるんだ。」
「いやでも名前を知らないし音楽のこと何もわかんないんでしょ?。それに素性もはっきりしない相手に電話番号教えるのはちょっと。」
なんとかして教えない口実を考えようとする。
「そう言えばまだ名前を言ってなかったか。私の名前は 冬馬かずさ。お前の通ってる峰城大付属出身。冬馬曜子オフィス所属のピアニストだよ。」
日頃自分からしない自己紹介をおこなう。
「はーやっぱりそうなんですね。」
「なんだ気づいてたのか」
「まぁ薄々。三年ほど前の雑誌での特集記事で、当時の写真も掲載されてたしね。確証はなかったけど。それじゃあ正々堂々自分のことも言わないとね。本当の名前は、南淳也 誕生日は十二月一日 あとはさっき言ったのと一緒」
観念してさっきの偽名や誕生日を訂正する。
「なんで嘘なんかついたんだ?」
「このときだけの関係だから、べつにいいかなと」
「はぁ~、とりあえず、電話番号とメールアドレス教えろ」
「はい、これ」
観念して電話帳で自分のメールアドレスと電話番号を見せる。
「よしこれで、いつでも連絡できるな」
「まぁ、また暇な時連絡してよ」
「ああ、次はいつするんだ?」
「次って?」
「弾き語りだよ。それ以外に何があるんだ。」
「マジで来る気?」
来ようとすることに驚く淳也。
「当たり前だろ。何のために連絡先聞いてると思ってるんだ。それともしバックレたり居留守使ったら、私の権限で付属の方に直接電話してやるからな。おたくの学生が駅の方で、うるさいんで、どうにかしてくださいって」
「わかりましたわかりました、今週は日曜日にするから。」
「御宿駅だな」
「そうですよ。はぁ本当にピアニストしかもクラッシクの人間の前で演奏なんて」
話していると連絡したタクシーが到着する。
ドアが開き乗り込むかずさ。
「じゃあ日曜日ね」
そう言って、タクシーは去っていった。
数十分後家に到着するかずさ。タクシーを降りて静かに玄関のドアをを開けて、バスルームの方に行こうとしたところ、突如電気が点灯する。
「かずさこんな遅くまでどこに行ってたの」
「母さんごめん。明日は朝早く起きて練習するから。」
「そんなこともう怒っちゃいないわ。ただ年頃の娘がこんな時間まで、連絡もよこさずに外出していることに対して心配だからよ。」
「実は依緒に呼び出されて飲んでたんだよ。最初は店だったんだけど、途中からあいつの家で。そしたら途中で寝落ちしちゃってさぁ」
本当の中に嘘を混ぜてこの場をやり過ごそうとするかずさ。
「あなたが北原さん夫妻の人間以外の人と、交友を持つことができて母さんうれしいわ。一部に依存しすぎるのは問題だもの。でもそれとこれとは話は別よ、今後は遅くなる場合は連絡を頂戴。」
「わかった。」
「はい、じゃあ早くシャワーを浴びて休みなさい。」
「そうさせてもらうよ」
そうしてかずさが横を通り過ぎようとすると、
「ストーップ」
突然呼び止める母さん。
「なんだよ母さん」
「クンクン、クンクンクン」
突如服の匂いを嗅ぎはじめる。
「な、なんなんだよ一体」
動揺するかずさ。
「かずさあなた男と会ってたんじゃないの?」
「ギクッ、依緒の家に部長飯塚いたからその匂いがついたんじゃないのかな(なんでご飯食べただけなのに、その男の匂いを嗅ぎ分けられるんだよおかしいだろ)」
「ふーん」
疑いの眼差しを向けるも、これ以上は何も出てこないと感じたのか、
「じゃあ私は先に寝るわね、おやすみ。」
「おやすみ」
かずさはなんとか危機を脱してそう声をかけると、バスルームの方に向かうのだった。
ピピピピピピピピピピピヒューーーガン。
「ウッウーンンンンンンはぁ~、今何時だよー」
枕元にあった目覚まし時計を洗濯かごに投げて、止めることに成功する淳也。
体を起こして携帯の時計を見ると昼前の十一時過ぎ、メールは大貴からで、添付された写真にはバナナボートやウェイクボードで、ハワイを満喫している姿が写し出されていた。
結局淳也は旅行の誘いを断って現在自宅のマンションの一室に入る。
昼は洗濯掃除に、近所の公園での筋トレに楽器の練習と勉強、そして夜になると、市田駅周辺の繁華街でのバイト。
家賃や光熱費などを払っていかないといけない、苦学生であり金のない淳也にとっては時給の高いバイトは必須で、多少のリスクがあっても背に腹は代えられない。
夏休み中は週五で、通常学校がある時期は週四の勤務。
今日は土曜日で一八時から明くる日の一時までのシフトのため、早速体を起こして着ているTシャツを脱いで洗濯機に入れる。液体曜洗剤を注入し標準でスタート。
次は掃除に取り掛かる。敷布団と掛け布団をベランダに干して、敷き布団カバーは次回すため洗濯機の前においておく。高くても駅が近い方でとのことで1Kになったが正解だった。部屋の数が少なく狭いため、掃除にも困らないし、必然的に物が少なくてすむ。掃除機をかけた後は拭き掃除で、風呂場で雑巾を水で絞り床を吹いていく。そうこうしているうちに、洗濯機が止まり洗った衣類をベランダに干していく。次は敷き布団カバーを洗濯
。昼ごはんは冷蔵庫にあった麺二玉とキャベツと人参で焼きそばを作る。それをゆっくり食べた後は洗濯機が止まったため、敷き布団カバーを干してシャワーを浴び昼寝をする。そうこうしているうちに四時となり、洗濯物を取り入れ畳んでリュックを背負ってバイトへと行く。
マンションから最寄り駅まで歩いて5,6分で、その駅から市田駅まで10分
。市田駅から歩いて五分ほどの所にある水商売のお店。ここが自分がバイトをしている店。いわゆる職場。店の規模は大きくないが、繁盛していてお客が途切れることがない。
淳也はこの店で、調理補助と雑用係の担当として雇ってもらっている。手際が良いので店長からは、出勤日数を増やすように度々言われるが、学業のことを理由に辞退している
。今日もすでに一時になり、タイムカードを押して帰り支度を行う。
すると店長から声がかかる。
「淳也、はい今月分の給料。夏場忙しい中しっかりやってくれてるし助かってるから、弾んでるからな。それじゃ」
「ありがとうございます。今後もよろしくおねがいします。」
ロッカーの中に入れてあった折りたたみ自転車を取り出し鍵を締めて、従業員出入り口の裏口から店の外に出る。
大通りを抜けるまで歩き、自転車を袋から取り出し自転車に乗って家に帰る。
家まで三十分の道のりをスーパーに寄るなどして、ゆっくりゆっくり帰っていく。
一時四十分マンションに到着。折りたたみ自転車を畳んで、一階なので階段を上る際の音を気にする必要がないため、気が楽だ。鍵を開けて部屋の中に入る。
電気を点けて洗濯機の中に、バイト用の衣類とそれを入れていた袋と靴下を洗濯機に入れる。そして晩御飯として、バイト先からもらったまかない料理(からあげとスパゲティサラダ)を取り出し、拭いたテーブルの上に置く。パソコンを立ち上げ、時事ニュースの情報を収集し、胃袋の中に食事を詰め込んでいく。
食べ終えると容器をナイロン袋に入れて、外のポリバケツへ。
次はシャワーを浴びて、着古したTシャツと短パンに着替えて二時三十分。
欠伸が止まらないため、歯磨きを行いそのまま布団で寝てしまった。
「母さーん、今日のスケジュールって夜空いてたよね?」
「ええー、空けておいたわ。かずさ今日それでスケジュールの件について五回目よ。しかも午前中で。何か予定があって待ち遠しいのかもしれないけど、答えるのに疲れてきたから、とりあえず午前中その話はこれで最後にして。」
朝の六時に起きてから9時までの間にスケジュールの件で五回も確認をとるかずさ。あの夜遅く帰ってきて以来、ピアノに対するモチベーションが格段に上がり練習にも熱がはいっている。曜子自身男ができたならそれはそれで仕事にいい方向へと、繫がるならと思ったが何かが違う。悪い方向ではないと思うのだが。
「それにしても淳也のやつ、まったくメールにも電話にもでないじゃないか。私から連絡を取ろうとしているのに。どういうつもりだまったく」
まだ会ったのも会話をするのも一回しかない相手に対して、既に名前を呼び捨てで憤慨する。
「かずさ、なにかうれしいことがあるのかもしれないけどもう少し静かに出来ないかしら。それと練習はどうしたの?。夜に予定があるんだったら今のうちに練習すべきじゃない?」
「はーい」
鼻歌交じりに階段を駆け下りると、地下のスタジオでの練習に取り組み始めた。
ハァー、本当にうちの気難しいかずさをここまで楽しませる人間はいったいどこのどいつなんだろう。ギターくんや小木曽さんじゃないのは間違いない。確かにあの夫婦はかずさにこれ以上ないほどの親愛を与え続けてくれている。しかし愛情を注がれることは不可能であることは、かずさ自身理解している。
いずれかずさ自身がボロを出してわかることよね、と意識を切り替えて会社の雑務に取り組むのだった。
よく寝たような、時計を見ると十二時を少し回った辺り。十時間ほどか。
起き上がりカーテンを開けると曇り模様で パソコンを起動し天気予報を見ると夜から雨のようだ。昼食はカップ焼きそばでお湯を入れて、五分後出してからふりかけやソースを混ぜてから食べはじめる。
スマートフォンの画面を起ち上げると、着信通知が山のようにあるのが目につく。名前がその他となっている。でも電話番号はすべて同じだ。淳也は知らない電話や親しくない人などのメールはその他に分類できるようにして、自分が気を使わないようにしている。
不安を感じながらも恐る恐る、電話をかける。
「プルルルルルルルッガチャ、もしもしどちら様で」
「オイッ、」
第一声あまりの声の大きさに電話から耳を離す。耳がキーンっとなった。
「すいませんもう一度。どちら様でしょうか?」
「お前もう忘れたのか?。一度しか会ってないけど、楽しい時間を過ごしたと思ってるんだが、私の思い違いだったようだなぁ。」
「あっ、えーっともしかして、冬馬さん?」
かすかな記憶を頼りに、思い出す淳也。
「そうだよ。お前今日は弾き語りをする日だろ。日曜日にするって行ってたから。それなのに電話をしても全然出ようとしないじゃないか。どうなってるんだ?」
「ごめんごめん、昨日夜遅かったんで、うん。じゃあ今日は十八時。」
「わかった、遅れんなよ」
「でも今日は夜から雨だって天気予報で言ってるから、気つかって無理して来なくていいですよ。来ようが来よまいがやるから。」
「いや、自分からいくと言ったんだから行かせてもらうよ。待ち合わせ場所はどこにする。
御宿駅ターミなビル内のRound Frontでいいかな?」
「あの1階チェーン店のコーヒーショップですよね。わかりました。」
「それじゃあ」
「はい」
「本気で来るつもりかぁ」
右手で頭をかいて時計を見ると十三時を回ったところ。
玄関にギターとタオルなどを入れたカバンを玄関に置いて、目覚ましを十五時にセットし再び眠り始めた。
次に目を覚ましたときは十五時だった。
外を見ると曇り空でまだ雨は降っていないようだったが、外出中に降ってきたら困るので、洗濯物を室内に入れておくことにした。スマートフォンを見ると大貴からのメール。
水曜日には帰国予定だそうで、由紀や由紀の親族 自分の親族が揃った集合写真が送られてきていた。また帰国後、ステージ演奏曲の練習をすることも送られている。
色々こなしているとあっという間に十七時前になり、玄関の鍵を締めて最寄り駅まで歩く。バイトのときみたいに日をまたぐ場合は折り畳み自転車を使うけど、今日は遅くても終電までには帰れると思い持ってこなかった。
十七時三十分過ぎに御宿駅に到着。
ターミナルビル内にあるチェーン店のコーヒーショップ、インフォメーション板で確認すると二階のようでエスカレーターを使用し移動する。
到着して店内を確認するとまだ来ていないようで、自分はアメリカンコーヒーアイスSをミルク 砂糖なしで注文し、見つかりやすいように出入り口付近の席に陣取る。
そこから二十分ほど経つと冬馬さんがやってきた。
白のTシャツに薄いブルーのデニム、足元は白に緑のラインがはいっているスニーカーで、スタイルがいい為シンプルにまとめても絵になる人だよな。
「ごめん、遅かった?」
「いえ、自分もいま来たところですけど」
「そうなんだ。ねぇ、これどう?」
「えっ、何が」
「ばか、今日の服装 ファッションだよ。見てなんとも思わないのか?」
無関心な淳也に怒るかずさ。
「いや、ものすごく似合ってますよ。気づいてないでしょうけどあなたがここに来てから、男女関係なくみなさんあなたに釘付けですからね。」
「まぁそれは気づいてたけど」
「へぇもしかして、言われ慣れてます?。」
「言われ慣れてるというか行動に現れるというか、プロデューサー 指揮者の偉い人は触りにくるからね。こう何気なしに肘で胸とか、抱くふりして尻を触るとか本当多いんだよ。あと昔母さんに世話になってたから君の面倒も見てやろうか、みたいな感じでさ。」
「そんなときはどうするんです?」
「ある奴はおもいっきり足を踏みつけたり、またある奴は上半身をおもいっきり蹴りつけたこともあったかな。」
過去の武勇伝を語りだすかずさ。
「じゃあ極力、手とか触らないようにしますね。あとが怖いんで」
「おい、なんか私のことを猛獣か何かと勘違いしてないか?。まあいい、場所に移動しよう」
「夕飯はどうしたんです?」
「まだ」
「じゃあどこかで食べていきますか?」
「私はプリントか甘いものがあればどこでも。淳也はどうだ?。私に付き合って食べて、足りるのか?」
「あくまで軽食ですよ。終わったら別になにか食べます。さっそく呼び捨てかぁ。」
「わかった。おいなんか最後言ったか?」
「いえ何も」
動くのが面倒くさいことに共感した2人は、このチェーン店で食事をすますことにした。
淳也は、カツサンドにエビカツサンドにバナナ・オ・レL。
かずさは、店舗特製プリン6個にキャラメルをこれでもかと使用した特大パフェを頼んだ。
お金を払おうとした淳也に、「いいよここは私が払う。そのかわり相応しいものを見せてくれよ」と言ってポケットから財布ではなく、ゴールドカードでもなく、普通にブラックカードを出してきた。その姿に本物のセレブであることを感じとった淳也だった。