「勝手に使ってるのは誰だ!」
私達は咄嗟に声の方を振り向くと、そこには先輩と思われる2人の女子生徒が立っていた。
2人の第一印象としては真逆だった。
1人は凛々しい表情をした黒髪ショートカットの女性で、もう1人は対照的にほんわかとした表情が特徴的だった。
「勝手に使ってすみません!」
胡桃ちゃんはあわあわしてしまってるが愛李ちゃんは直ぐに頭を下げる。
その反応を見てほんわかとした表情の先輩は優しい声で話しかけてくる。
「驚かせてごめんね。一応ここは野球部のグラウンドだから一般生徒は使用許可がないと使えないのよ」
「あっ、そうだったんですね。直ぐに整備します!行くよ胡桃!」
「お、おう!」
2人は慌てて一塁側ベンチ横のトンボを取りに行く。
そして取り残されてしまった私は気まずい空気に耐えきれず取り敢えず話題を振る。
「先輩方は野球部の方ですか?」
「正確には元かな。現状野球部は廃部状態で部員は0になってるの」
休部状態と聞いていたが実際は廃部していたらしい。
「でも、あなた達が野球部に入部するなら同好会として存続はできるかな」
「はぁ」
元々入部する予定は無かったがキャッチボールやノックくらい出来るならいいかもしれない。
本気じゃなくても野球は出来るし。
ここで少し先輩の言い方に違和感を感じる。
「先輩達は部活に戻らないんですか?」
「今年の集まり次第かな。部活に入らなくても今なら外のチームでも出来るし」
先程と変わらずに優しそうな表情だが、少し寂しそうに感じる。
その表情を感じ取ったのか無口な方の先輩が何か言いたげにしているが、優しそうな先輩は反応しない。
それにしてもこの2人どこかで見た事あるような気がするんだけど、全く思い出せない。
「そう言えばあなた、ポジションはどこなの?」
「私、涼風鈴音っていいます。中学は硬式のチームで投手してました」
「涼風…もしかして祇園ボーイズの夏風選手?」
「そうですが何か?」
なぜ名前を聞いただけで所属チームまで分かったのか。
疑問が生まれる。
「どこかで対戦した事ありましたか?」
「ううん。私達はないわ。でも後輩が対戦してたのよ」
「あっ、そうだったんですね」
しかし、後輩の対戦相手の選手の名前など覚えてるだろうか?
正直、私は対戦相手の名前はほとんど覚えてないし、覚える気もあまりない。
それにしてもここまで覚えてくれているということは衝撃的なピッチングでもしたかな?
「先輩のチームってどこだったんですか?」
選手名を聞いてもピンとは来ないがチーム名を聞けば何か思い出せるかも知れない
「私達は浪速ボーイズ出身よ」
「えっ!?」
なんの因縁か浪速ボーイズは8ヶ月前の決勝戦で当たったチームである。
しかも、あの試合で私はノーヒットノーランを達成している為、よく覚えられていたのだろう。
因みに、浪速ボーイズは私達の1つ上と2つ上の代で全国優勝している名門チームであり、3連覇を阻止したのがウチである。
「もしかして、先輩達はあの再再試合も経験して?」
私は珍しく覚えていた2年前の夏の決勝戦。
浪速ボーイズ対神戸ボーイズの決勝戦では再再試合の末決着がつく大熱戦を繰り広げられていた。
最終的に神戸ボーイズのエースが途中で交代し、浪速ボーイズが優勝している。
浪速ボーイズは1人のエースが3試合とも投げ抜き、決勝タイムリーも打つなど中学野球では有り得ないほど取り上げられた覚えがある。
あの時のエースの名前ってなんだっけ?柑橘系みたいな名前だった気がするんだよね。
そんな事を考えている時にふと先輩達の表情が目に入る。
「うん」
あれほど話題になった試合でしかも優勝したと言うのに先輩の表情は暗い。
私はあの試合について色々聞きたかったがそんな空気でも無かった為、次に繋げる言葉を探していた。
私は元々そこまで喋りも上手くないし、特に先輩と言う生き物は苦手である。
1年やそこら早く産まれただけで大した努力もしていないのに威張り散らす。
中には尊敬出来る人も居るがどうしても苦手の方が印象に残りやすい。
私が次の話題を探していると整備を終えた2人が戻ってくるのが見え、助かったと少し安堵する。
「整備ご苦労さま」
先輩はそう言うと先程までの暗い表情はいつの間にか無くなり、優しい表情へと変わっていた。