「ところで先輩方の名前って何て言うんですか?」
グラウンド整備が終わり少し話しているといきなり胡桃ちゃんが手を挙げて質問を投げかける。
その質問に答えてくれたのはやはりと言うか妥当に栗色の髪を後ろで束ねて優しい表情をした先輩の方だった。
「そう言えばまだ名乗ってなかったわね。私は日向 夏(ひむかい なつ)、こっちが高千穂 小夏(たかちほ こなつ)。よろしくね」
「よろしくお願いします。私は梅原愛李です。こっちが」
「富山胡桃です!夏先輩達ってもしかして浪速ボーイズですか!?」
「ええ、そうよ。良く分かったわね」
「知ってるに決まってるじゃないですか!」
胡桃ちゃんは当たり前と言わんばかりの表情をするが隣で聞いていた愛李ちゃんがツッコム。
「よくそんな自信満々で言えるわね。さっき私に聞いてきた癖に」
「それは言うなよ〜」
「それにしても梅原さんは良く知ってたわね」
「それは勿論!一昨年の決勝戦を生で見てましたから!」
大好きな選手を目の前にしたからか子供の様な高いテンションになる。
テンションが高すぎて若干先輩が引いているが敢えてツッコムまい。
「それにしても祇園ボーイズの涼風に浪速ボーイズの夏先輩達って凄いチームになりそうだな!」
愛李ちゃんのテンションに当てられたせいかいつの間にか同じくらいテンションが上がった胡桃ちゃんが言う。
「いやいや、私本気で野球はやらないよ?」
「ブーブー。折角豪華なメンバーで出来るんだから全国目指そうよ〜」
確かに全国クラスの先輩達やレベルの高い同級生と一緒に野球をするのは楽しいかもしれない。
しかし、
「うーん、やっぱりいいかな。いくら女子野球が発展したって言っても男子と同じレベルで出来た中学程燃えられなさそうだし」
「それは聞き捨てならない」
先程まで口を閉じていた高千穂先輩が反応する。
「中学で1番だっかもしれないけど高校野球のレベルは比じゃない。それを解らせてあげる」
どうやら私は高千穂先輩の逆鱗に触れてしまったようで先程までの何を考えてるかわからなかった表情から感情が読み取れる。
「いいですよ。でもどうやって解らせてくれるんですか?高千穂先輩と勝負でもしますか?」
「もちろん。私が」
勝負すると言いかけた高千穂先輩の声が途切れる。
その瞬間
「「!?」」
私と高千穂先輩はとてつもない威圧感を感じ取り、咄嗟にその威圧感を感じた方を向く。
その視線の先には先柔和な笑みを浮かべている日向先輩がいる。
正確には「目」以外は笑っている先輩である。
(目元が笑って無いせいで普通に怒るよりも怖い)
私は先程の発言が原因だと気付きはしたが本心だった為、撤回する気もない。
それから取り敢えず勝負の為に肩を作る。
「そろそろ準備は出来た?」
そう言った日向先輩は両手に黒のバッティンググローブに黒の金属バットと黒に統一された格好で待ち構えていた。
「はい。大丈夫です」
「せっかくだし何か賭けしない?」
思いもよらない発言に少し驚くが何か賭けた方が断然燃え上がるので断る理由はない。
「良いですよ。先輩は勝ったら何が欲しいですか?」
「私は……」
先輩は言葉を途中で止めてバットをこちらに向ける。
「貴方が欲しい」
日向先輩はラブソングで使われそうなセリフを真剣な表示で言ってのける。
そんなストレートに言われた事が無かったので凄く照れくさい。しかし、その真剣な眼差しから発せられる威圧感は冗談ではなさそうだ。
「なら私が勝ったら…。思いつかないので勝負が終わってから決めますね」
少しずるいかもしれないがこの胸の高鳴りを確かめてから決めたい。
「それでいいよ」
そう言って先輩は左打席に入り右足を少し外側に開くオープンスタンスで構える。
今回の勝負は捕手も野手もなしで、ヒット性の当たりで先輩の勝ち。それ以外でフェアゾーンに飛んだ打球と三振は私の勝ち。
「じゃー行きます」
私は振りかぶり1球目を投げる。
投じられたボールは弧を描きながら日向先輩の右肩目掛けて直進する。
左対左で初見のカーブを投げれば軌道的に打者は一瞬死球を覚悟し打ち気が削がれる。
その一瞬があれば打ち取れる。
それ程の自信があったし、見逃したら次の球に活かせる。
そんな思惑を乗せて投じた1球目は快音を残してグラウンドから消えてしまった。