そしてある人物が登場します。
月遺跡にてカリバーと響達が戦う中、バラルの呪詛の真実が明らかとなった。その一方、地球ではシェム・ハによって無数のユグドラシルが出現していた…
月遺跡にカリバーと装者達が戦っている頃…
「ユグドラシルの稼働を確認ッ! 地球中心各域に向かって潜行中ッ!」
「みんなの頑張りでバラルの呪詛は守られているのに、何故ユグドラシルが…」
風鳴邸に出現したユグドラシルも地響きを立てて地球の中心へと進む。
カリバーと装者達が月遺跡にて戦う中、ユグドラシルが何故動いてるのか。バラルの呪詛で守られているはずなのに。その答えを藤尭がスクリーンを見つめて答える。
「やっぱりこいつの仕業だろうな…」
画面に映るこいつというのは、そう。シェム・ハだ。
それを見た弦十郎が、指令室を後にしようとする。
「司令ッ! どちらへッ!?」
「カリバーも装者不在の今、あの神話級の超常に対抗出来るのは…」
「待ってくださいッ!」
すると、エルフナインが弦十郎を呼び止めた。
「対抗するって…どうするつもりですか?」
「ぐッ……」
エルフナインの言う通りだ。対抗する為のカリバーも装者もいないのにどうするのか。ぐうの音も出ない。すると…
「ボクに考えがありますッ!」
「生々流転ッ! 間もなくであるッ! この星の迷い子達を我が力へと改造した後には、彼方へと去った同胞の喉元へと攻め入ってやろうぞッ!」
外では、シェム・ハが自身の計画が着々と進んでいる事に嬉々とし、ニヤリと笑みを浮かべた。
「高鳴りが抑えられぬッ! あぁ、そうさな……人間共はこういう時に、歌の1つでも口ずさむのであったなッ!……?」
すると、シェム・ハの視線…遠くにエルフナインが精悍な顔付きで立っていた。
「果ての荒野に、1人立つ者がいようとは……」
シェム・ハは浮遊し、エルフナインの元へ飛び立っていく。
(怖いか?)
「あまりの怖さに腰が抜けそうですッ!───だけどッ!」
力を使い果たして、眠っていたエルフナインの中のキャロルが呼びかけ、エルフナインは正直に怖いと即答した。でも…
「あの時、未来さんは逃げなかったッ! だから、ボクも……怖くたって逃げたくありませんッ!」
正直怖い。でも、あの時未来は自分を助ける為に逃げなかった。だから自分も、逃げない。怖くても絶対に逃げない。そう誓ったのだ。
「それに……今のボクは、1人じゃありませんッ!」
(フッ……)
そして、エルフナインの前にシェム・ハが到着した。
「向こう見ずな……、我に歯向かう鈍付くが、まだいようとは…」
「ボクもそう思いますッ!────それても、オレの錬金術を、舐めてくれるなッ!」
その時、エルフナインの表情と一人称が代わり、喋り方も声色も変わった。そう。人格がキャロルに変わったのだ。
「…?」
エルフナインの様子に、一瞬疑問の表情を浮かべるシェム・ハ。そして、キャロルは魔法陣からダウルダブラを取り出し、弦を震わせて美しい音色を奏でる。
ダウルダブラが変化し、弦が身体に巻き付き姿を変え、キャロルはファウストローブを纏った。
キャロルは歌いながら手から弦を伸ばし、無数の弦を出現させて丸めて複数の球としてシェム・ハに投げつける。
珠はシェム・ハの周りに落下し土煙が立ち込めるが、すぐに晴れる。
「粗忽だぞ。どこを狙っている。」
無意味な事をしたと思うシェム・ハの視線にキャロルの姿はいない。まさかと思い振り返ると、ユグドラシルに向かうキャロルの姿が。さっきの攻撃は囮だったのだ。
「悪くない考えだ……、我ではなく、直接ユグドラシル主幹を狙うとはッ!」
シェム・ハも浮遊し、キャロルの後を追う。その様子は勿論指令室にも映し出されていた。
「神に挑む、キャロルの錬金術…」
「だが…その力は、想い出を焼却する以上───」
そう。キャロルの錬金術は想い出を焼却して力を出している。つまり、全ての想い出が無くなり、力を失うのは刻一刻と迫っている。
ユグドラシルに向かって歌いながら飛行するキャロルの背後に、シェム・ハが追いつく。すると、右手から光の刃を出現させ、斬りつけようと猛スピードで接近してきた。
それに気づいたキャロルは指から弦を伸ばし、再び球にして撃ち出す。すると、シェム・ハのいる場所が爆発を起こす。だが…
「バラ撒けば躱せぬとでも踏んだか? なれど、人の技では撃ち墜とせぬッ!」
シェム・ハは並行世界の自分にダメージを肩代わりさせて自身のダメージを無効化した。
キャロルは歌いながら悔しい表情を浮かべた。
すると、シェム・ハは今度はこちらからいくぞと言わんばかりに手から5つの光球を生成し、撃ち出した。
それを見たキャロルは魔法陣で防ごうとするが、防ぎきれずに爆発の衝撃で地面に叩きつけられてしまう。
「ぐはぁッ!」
叩きつけられたキャロルを見下しながら、シェム・ハは空中で静止する。
「無意味だ。だが、それ以上にッ…」
シェム・ハは再び右手から光の刃を出現させ、キャロルへ突っ込む。
「目障りだッ!」
万事休すかと思いきや…
「高くつくぞ…オレの歌はぁぁぁぁぁぁッ!」
キャロルの声と共に先程ばら撒いた弦の球が光出し、赤く光りながら伸びる。それを見たシェム・ハは刃で次々に弦を斬り裂く。だが、シェム・ハの身体や両腕と両脚に巻き付き、拘束した。これがキャロルの狙いだ。
「動けぬ…鉄砲に緊縛するかッ!?」
「恐るべきは、埒外の物理法則によるダメージの無効化……。だが、拘束に対してはどうだッ!?」
「───くッ!」
「アルカヘストッ!」
キャロルの声と共にシェム・ハを光球と炎が包み込み、赤、青、黄、そして緑の魔法陣が取り囲む。
実は、戦いの前、エルフナインがある提案を弦十郎にしていた。それは…
『ボクに考えがありますッ! 切り札は、チフォージュ・シャトーに備えられた世界分解機能を限定的に再現し、応用した錬金術ですッ!』
『確か、キャロルも言っていた……、それで神に対抗出来るとして───まさか君は、響君に代わって友達殺しの罪を背負うつもりなのかッ!?』
そう。その方法ならシェム・ハに対抗出来る。だが、それは乗っ取られている未来を殺す事になってしまうのだ。でも、それは違う。
「人の概念などとうに解析済みッ! ならばそれ以外の不純物を神と定めて分解するまでッ! オレの錬金術を舐めてくれるなッ!」
真の狙いは、世界を分解する力を応用し、神の力を不純物と置き換えて分解して未来を救うというもの。これが真の狙いなのだ。
「だが、言うほどに簡単に成すには、膨大なエネルギーが必要なはず……ッ! 一体どこから……ッ!」
確かにこれほどのエネルギーを使うにはそれなりのエネルギーが必要だ。キャロルの想い出だけでも足りないだろう。その答えは…
(想い出の焼却───足りない分は、ボクの想い出も一緒に燃やしてぇぇッ!)
そう。エルフナインの想い出も合わせてエネルギーに変換しているのだ。そして、エルフナインの声と共にエネルギーは大きくなり、4つの魔法陣も更に5重になる。
「うううう……ああああああッ!」
シェム・ハの悲鳴と共に大爆発が起き、眩い閃光か辺りを包み込む。その衝撃でキャロルは吹き飛ばされてしまった。
その様子は勿論指令室にも映し出されていたが、スクリーンは真っ白のままだ。
「分解したのか……神を……錬金術で……」
誰もが分解したと思った。だが、それを打ち砕く思いもよらない展開へと変わっていく……
「まさか、神獣鏡の凶祓いで、オレの錬金術を……」
分解されていなかった。シェム・ハは直前で神獣鏡のファウストローブを纏い、キャロルの錬金術を打ち消していたのだ。
「トドメ……は刺さずに捨ておいてやろう。神に肉薄した褒美だ。星の命が改造される様を、特等の席にてごろうしろ。」
シェム・ハはキャロルに情けをかけて空中へと浮遊していく。決死の手段も潰え、悔しそうに顔を歪めながら叫ぶ。
「さっさと帰って来やがれッ! カリバーッ! シンフォギアアアアアアッ!」
そんなキャロルを尻目にシェム・ハは両手を広げる。
「頃合いだ。いきり立てッ!」
シェム・ハの声に反応するかの様にユグドラシルが各地に出現し始めた。街にいる人々は一体何が起こってるんだという表情を浮かべ、悲鳴を上げている。そして、雲を突き抜け天まで伸びる。
響の母と祖母が不安な顔をしながら家を出ると、洸が走ってきた。
「何があってももう逃げないッ! 約束するッ!」
洸の言葉に2人は表情を緩めた。
その頃、指令室では…
「どうしたッ!? 何が起きているッ!?」
スクリーンには、世界各地にユグドラシルを示す赤い丸があちこちに。今、次々にユグドラシルが出現しているのだ。
「この大量反応は……ッ!バラルの呪詛はまだ解かれていないというのに、どうしてッ!?」
「ほぼ同タイミングに、風鳴邸、地下電算室からのハッキングを確認ッ! 各地のコンピュータ施設からの被害報告多数ッ!」
「まさか、人類の脳を使わずとも、シェム・ハは現代の演算端末ネットワークシステムを応用して───ッ!?」
そう。シェム・ハは人類が普段から使用しているインターネットのネットワークシステムを人類の脳の代わりにして、ハッキングをしてユグドラシルを動かしているのだ。
その時、警報と共にS.O.N.G.本部が海底から伸びるユグドラシルに当たった。
「外部からの攻撃に左舷の一部が損傷ッ! 浸水が始まっていますッ!」
「ユグドラシルが、あちこちにッ! 鎌倉の1本じゃないッ! 世界中にユグドラシルがッ!」
カリバーと翼とマリアがミラアルクとの戦いを終えた頃、世界中にユグドラシルが出現したのだ。
「攻略は失敗…このままでは、月にいる皆さんの救出どころか…」
「ククク…胸躍るッ! さぁ、ユグドラシルにて、全ての在り方を改造しようッ!」
高らかに宣言するシェム・ハの声と共に雲を突き抜けた無数のユグドラシルから棘が伸び、地球全体を包み込み赤く染め上げる。
「クリスちゃんッ! あれッ!」
「あたし達の帰る場所が…ッ!」
「どうなってるのッ!?」
そして、月遺跡にて響とクリス、ヴァネッサとエルザが見上げて、今に至るという訳だ。
「始まった様ね…」
「あれが……あんなのが、ヴァネッサさんの望んだ、みんなと仲良くなれる世界なんですかッ!?」
「人間に戻れない完全怪物となった今、この身を苛む孤独を埋めるには、全てを怪物にして、仲良くするしかないじゃないッ!」
無茶苦茶だ。いくら自分達の欲望が果たされない事を理由に全てを怪物にするなんて。理解出来るわけがない。
「お前達の言う、分かりあうって……」
「そうよッ! その為にシェム・ハは、星と命を作り替え、私達は、封じられたシェム・ハの力を取り戻す為、バラルの呪詛を解除するのッ!」
悲しげな表情を浮かべながら、自分達の目的を話すヴァネッサ。すると…
「ふざけた事を…ッ!」
突然、聞いた事のある声が後ろから聞こえて来た。響とクリスが振り返ると、仮面のスリットから赤い光を放ちながら、カリバーが歩いてきた。実はあの後、再び闇黒剣月闇の未来予知が発動し、「響とクリスがヴァネッサとエルザとの戦いで命を落とす」という未来を見たカリバーは、闇に入る空間移動で急いで戻って来たのだ。
「隼人さん…」
「願望が果たされずに神の奴隷に成り下がった貴様等の戯言など、取るに足らん。」
カリバーはヴァネッサとエルザに闇黒剣月闇の切先を向ける。
「ヴァネッサ…戦うでありますか?」
「戦うわ……だからエルザちゃんは下がってなさい。お姉ちゃん判断よ。」
ヴァネッサの言葉にエルザは離れ、ヴァネッサは3人を睨む。
「どうする? 奴は戦う気だ。」
「だったら私は、私達はッ!」
「温もりも厳しさも、繋がりも……、全部をくれた場所を護る為にッ!」
2人は戦う決断をした。そして…
「Balwisyall nescell gungnir tron」
「Killter Ichaival tron」
静寂な月遺跡内部に聖詠が響き渡り、2人はギアを纏う。
先手必勝と言わんばかりにクリスはヴァネッサに短銃を撃つが、彼女は避けずに爆発が起こる。すると、エネルギー柱と共に爆炎を振り払い、
アンダースーツを露にし、両肩からアームを出現させた。響に突っ込む。先に響が殴りかかるが、ヴァネッサはアームで防いだ。
すると、クリスが短銃で発砲するが、ヴァネッサが首元からレーザーを放ち、クリスを吹き飛ばす。
「奪われた未来を取り戻す為、私達は先に進むッ! 元に戻るとか帰るとか、そういうのはもう必要としないのよッ!」
カリバーと響の攻撃をアームで応戦しながら、ヴァネッサは未来を取り戻す為、先に進むと決意を叫びながら響に一撃を喰らわせようとするが、カリバーが闇黒剣月闇の刀身で受け止めて振り払い、ヴァネッサを引き離した。
「正中戦に…打たせてくれないッ!」
「それどころか鳩尾にも届かないぞ…ッ!」
ヴァネッサは空中にブースターを点火させて飛び上がると、自身をエネルギーに纏わせて変形させ、巨大なマシンを思わせる形にした。
クリスが短銃を撃つが当然効かない。
そこでカリバーが割り込み、闇黒剣月闇を構えたその時…
「ッ!? ぐぅぅ…ッ!」
「隼人さんッ!?」
ここに来て、身体に激痛が走り、カリバーの身体の様子が急変。膝をついた。これまでの戦いで無理を承知で戦っていた為、とうとう積りに積もった負担で身体が悲鳴を上げたのだ。
さらに、突然闇黒剣月闇が光り出し、オムニフォースが地面に転がると、同時に共鳴するかの様にカリバーを包むかの様に本型のエネルギーが出現する。
「ぐぅぅ……ぐぁぁぁぁッ! うああああああッ!」
激痛に苦しむカリバーの声と共にオムニフォースから出た本型のエネルギーがカリバーを本へ閉じるように包み込むと、オムニフォースも含めそのまま消えてしまった。
「消えたッ!?」
「チャンスッ!」
一番邪魔なカリバーがいなくなった事でチャンスと判断し、クリスに向けてレーザーが放たれる。それに気づいた響が咄嗟に割り込み、クリスを庇うが2人は吹き飛ばされてしまい、爆発が起きた。
その頃、消えたカリバーはある場所に転送されていた。
「ッ!? 何でここに…ッ!?」
それは、ワンダーワールドの自宅の寝室だった。今までこんな事は無かったのに。どういう事なのか全く分からなかった。
すると、変身可能なコンディションレベルを下回ったのか、変身が解けた。同時に…
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ! あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ! 」
これまで経験した事のないレベルの激痛が身体を襲い、床に倒れる隼人。更に追い討ちをかけるように闇黒剣月闇の未来予知が発動。ここで啓示される未来は…
「自分がここで死ぬ」
実は、訃堂を斬る前に隼人はこの未来を既に見ており、もう自分が長くない事を分かっていた。でも、口が裂けても響達には絶対に言えなかった。
「あぁ……あぁぁ…ッ!」
忘れかけていた死への恐怖が隼人に襲いかかる。そしてさらに闇黒剣月闇の未来予知が発動し、最悪な未来が啓示されていく。内容は「シェム・ハに響達が敗れ、死ぬ」と言う物だ。嫌だ。こんな所で死にたくない。立花響達が死んでしまう。激痛が走る身体に鞭を打ちながら立ち上がるが…
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
再び激痛が襲いかかり倒れてしまう。同時に懐からジャオウドラゴンが転がり落ちた。
「うぅ……くぅぅぅ…ッ!」
隼人は這いながらもジャオウドラゴンを左手で掴み、闇黒剣月闇を支えに立ち上がるが、バランスを崩して壁にもたれかけて尻を床に付く。
そんな時、ある事を思い出した。
『隼人さん、この何気ない日常が続くなら、どうしますか?』
『お前がやりたい事に、付き合ってやるよ。』
『ホントですかッ!? 私、隼人さんや翼さん達とやりたい事たくさんあるんですッ!』
『ああ、約束だ。』
いつの日か、響と前に響のやりたい事に付き合う約束した事を。しかし、自分はもうここで死んでしまう。約束を、破ってしまう。せっかく彼女が自分の手を取ってくれたのに。彼女との約束を自分が無下にしてしまう。
身体を動かそうにも痛みで動けない。
(ごめんな……立花響……約束……守れそうにない……)
もうこれまでかと諦めかけた、その時…
「ッ!?」
突然、隼人の左腕を誰が両手で掴んだ。その瞬間隼人は我に帰る。それよりも腕を掴まれた事に驚いた。ありえないからだ。
この家はおろかこのワンダーワールドには自分以外誰もいないはずなのに。一体どういう事なのか。
とにかく自分を落ち着かせ、恐る恐る左を見る。
「……ッ!?」
隣にいた自分の腕を掴んだ人物を見て驚愕の表情を浮かべながら、その名を口にした。
「瑠奈………!?」
何と、亡くなったはずの隼人の大切な存在だった瑠奈だった。
いかがだったでしょうか?いよいよクライマックスに突入していきます。そして、死にそうな隼人の前に現れた瑠奈。一体何故なのか。そして、隼人が知るべき大切な事が明らかとなります。
次回結構カットする場所があるかもしれませんが、よろしくお願いします。
そしていよいよアレが登場します。ヒントは最終章のキーアイテム、ジャオウドラゴンです。
その3「スペシャルゲストの1人はかなり奇抜なカラーリングです。」
完結まであと4話。今回はここまでです。感想お待ちしています。
「俺だって死ぬのは怖いよッ!」
「呪いは、きっと祝福に変えられる…」
「隼人は、隼人が正しいと思った事をすればいいんだよ。」
「悲劇? 笑わせんなッ! ハッピーエンドに変えてやるよ!」
「変身ッ!!」
次回「勇気、愛、誇りを胸に。」