ノイズを倒し、翼を退けた後に響に名を明かした隼人は、響に面識がある事を思い出した。
「あの子…2年前の…」
2年前、シャボン玉や本を通して見たあの子だ。ライブ生存者の1人で周囲の人間達から迫害を受け、通っていた学校ではいじめを受けていた。
いじめという言葉では表せないそれはもう酷い物だった。発端は、響と同じ学校に通っていた1人の男子生徒がライブ被害者の1人だった。
サッカー部のキャプテンであり将来を嘱望されていたが、「何故彼が死んで響が生き残ったんだ」と彼のファンを名乗る女子生徒のヒステリックな一言から始まり、やがて学校中に広がった。教師からは見捨てられ、見て見ぬふりをされ、挙げ句の果てに教師までもがいじめに加担したのだ。
それだけじゃない。さらに追い討ちをかける様に悲劇が襲う。彼女の父親も響同様迫害を受け、やがて酒に溺れ、声を荒げ、手を上げる様になっていった。
そしてとうとう何もかもを投げ出し、逃げ出した。そう。誰かの為に奔走する彼女は、誰かに心を踏み躙られた過去を持つ少女でもあったのだ。
そして隼人が動き出し、彼女を初めとする生存者達に降りかかった理不尽な迫害は消えたのだった。
「あの姿は一体何なんだ…何故あんな姿に…。」
しかし、隼人に疑念が残っていた。何故響が覚醒したのか。彼女の身に一体何が起きたのか思考していた。
一方その頃、特異災害対策機動部二課に身柄を拘束された響は、車の中で揺られていた。そして数十分後、車はある場所に止まる。そこは、響が通っている「私立リディアン音楽院」だった。
「何で学院に…?」
響は隣に腕を組んで座っている緒川に聞くが、彼は何も答えない。そして、暗い廊下を緒川を先頭に翼と共に響は進む。
「あの、ここ、先生達のいる中央棟ですよね?」
普段リディアンの教師がいる中央棟を何故通るのか響は分からなかった。そして、エレベーターに辿り着き、緒川と翼と共に乗り込むと、
緒川が何らかのデバイスを装置に読み込ませ、エレベーターの自動ドアが閉じた。
すると、自動ドアの上にさらに頑丈そうや自動ドアが閉まり、何故か手すりが現れた。翼は何も言わず、手すりを掴む。
「あの…これは…」
「さぁ、危ないので掴まっていて下さい。」
響が翼に聞くと、緒川に手を取られ、手すりを掴まされた。
「危ないって…?……あああああああああああ!!!」
突如、エレベーターが急降下したのだ。響はそれに思わず愛想笑いを浮かべる。
「愛想は無用よ。」
翼が冷たく言う。響はエレベーターの外を見ると、壁に何やら不思議な壁画が描かれていた。
「これから向かう所に、微笑みなど必要ないから。」
そしてエレベーターが1番下に着き、響はそこで目にした物とは…
「ようこそ!人類最後の砦 特異災害対策機動部二課へ!!」
熱烈な歓迎だった。
呆然とする響。翼はため息をつき、緒川は苦笑いをした。すると、スマホを持った了子が響に近づいてきた。
「さぁさぁ!笑って笑って!お近づきの印にツーショット写真!」
了子は手錠をかけた響と自撮りをしようとした。
「嫌ですよ〜!手錠をしたままの写真だなんて…!きっと悲しい思い出として残っちゃいます!」
響は了子から離れ、拒否した。
「それに、どうして初めての皆さんが私の名前を知ってるんですか?」
そう。ボードを見て響は思ったのだ。何故彼らが自分を名前を知っているのか。自己紹介もしていないのに。
「我々二課の前身は、大戦時に設立された特務機関なのでね、調査などお手の物なのさ。」
弦十郎が帽子を被りながらそう言うと、手に持っていたステッキから花を出した。すると了子が微笑みながら響を学生鞄を持ってきた。
「あ〜!!私のカバン!な〜にが調査はお手の物ですか!カバンの中身を勝手に調べたりして!」
声を上げる響を翼と緒川は見ていた。
「緒川さん、お願いします。」
「はい。」
翼は面倒くさそうに緒川に頼んだ。そして響の手から手錠を外し、机に置いた。机の上には料理や飲み物が置かれている。恐らく歓迎の為に二課が用意したのだろう。
「あの…ありがとうございます…。」
「いえ、こちらこそ失礼しました。」
すると、弦十郎が口を開いた。
「では、改めて自己紹介だ。俺は風鳴弦十郎。ここの責任者をしている。」
「そして私は出来る女と評判の櫻井了子。よろしくね♪」
弦十郎と了子がそれぞれ自己紹介をした。
「ああ、こちらこそよろしくお願いします。」
響は2人にお辞儀をした。
「君をここに呼んだのは他でも無い。協力を要請したい事があるのだ。」
「協力って…?ハッ…!」
響が弦十郎の言葉に反応すると、自分が覚醒してシンフォギアを纏った事を思い出したのだ。
「教えて下さい!あれは、一体何なんですか?」
響の質問を聞いた弦十郎は了子を見ると、了解したかのように頷いた
「あなたの質問に答える為に2つばかりお願いがあるの。最初の1つは今日の事は誰にも内緒。そしてもう1つは…」
了子は響の体を寄せると…
「とりあえず脱いでもらいましょっか。」
「え…だからぁ…何でぇぇぇぇぇ!!!」
響の声が地下深くに響いた。
「何なんだあいつら…やっぱり機密が大事なのか…」
隼人は一連の流れをシャボン玉を通して見ていた。そして了子の誰にも内緒の言葉を聞いて苛立っていた。
やっぱりあんな奴等は信用ならない。絶対に信用してなるものか。例えどれだけ大金を積まれようとも。そもそも金に困ってないからそんな物はいらない。隼人はシャボン玉を消すと、寝室に向かった。
一方その頃、翼はシャワーを浴びていた。かつてのかけがえのない存在…唯一無二の相棒…天羽奏と共に戦った日を思い出しながら。
『2人一緒なら、何も怖くないな。』
奏の言葉が脳裏をよぎる。
「あのギアは…奏の物だ…!!」
「私呪われてるかも…」
放課後、響はクラスメートの誘いを断り、1人教室にいた。すると、人の気配が。入口に翼が立っていたのだ。
「重要参考人として、再度本部に同行願います。」
「な、何でぇぇぇぇぇぇぇ!!」
再び手錠を掛けられ、二課に連行された。
「それでは〜!先日のメディカルチェックの発表〜!初体験の負荷は若干残ってるものの、体に異常はほぼ見られませんでした〜!」
了子が明るく言う。
「ほぼ…ですか…」
「そうね…あなたが聞きたいのはこんな事じゃないわよね。」
「教えて下さい!あの力の事を!」
響の質問に弦十郎が翼を向くと、翼は赤いペンダントを見せた。
「天羽々斬。翼の持つ第1号聖遺物だ。」
「聖遺物?」
「聖遺物とは、世界各地の伝承に登場する現代では製造不可能な異端技術の結晶の事。多くは遺跡から発掘されるんけど、経年による破損が著しくってかつての力をそのまま秘めた物は本当に希少なの。」
了子は響に聖遺物について説明した。
「この天羽々斬も、刃のかけら。ごく一部に過ぎない。」
「かけらにほんの少し残った力を増幅して解き放つ唯一の鍵が特定振幅の波導なの。」
「特定振幅の波導…?」
「つまりは歌。歌の力によって聖遺物は起動するのだ。」
「歌…そういえばあの時も胸の奥から歌が浮かんできたんです。」
弦十郎の説明で響はあの時を思い出した。
「歌の力で活性化した聖遺物を一度エネルギーに還元し、鎧の形で再構成したのが、翼ちゃんや響ちゃんが、身に纏うアンチノイズプロテクター 、シンフォギア なの。」
「だからとて、どんな歌、誰の歌にも聖遺物を起動させる力が備わっている訳ではない!」
その時、翼が突然声を上げる。そして思い詰めた表情をする。すると、弦十郎が立ち上がり、響の元へ歩き出す。
「聖遺物を起動させ、シンフォギアを纏う歌を歌える僅かな人間を、我々は適合者と呼んでいる。それが翼であり、君であるのだ。」
「どう?あなたに目覚めた力について少しは理解してもらえたかしら?質問はどしどし受け付けるわよ?」
了子が微笑みがら響に言うと、
「あの!」
「どうぞ!響ちゃん!」
「…全然分かりません。」
「だろうね…」
「だろうとも。」
響は全然理解していなかった。分かっていた様にオペレーター藤尭と友里が言う。
「いきなりは難しちゃったね。だとしたら聖遺物からシンフォギアを造り出す唯一の技術、櫻井理論の提唱者がこの私である事だけは覚えて下さいね。」
「はぁ…でも私がその聖遺物という物を持ってません…。なのに何故…」
響は自分は聖遺物を持っていないと主張する。すると、モニターにレントゲン写真が映しだされた。
「これは何なのか、君には分かるはずだ。」
「はい。2年前の怪我です!あの事件の時、私もあそこにいたんです!」
その言葉に翼が反応する。
「心臓付近に複雑に食い込んでる為、手術でも摘出不能な無数の破片。調査の結果、この影はかつて奏ちゃんが身に纏った第3号聖遺物 ガングニールの砕けた破片である事が判明しました。」
「!?」
了子の言葉に翼は驚愕の表情を浮かべる。
「奏ちゃんの…置き土産ね。」
翼は了子の言葉を聞くとショックを受け、顔を手で抑ええると、そのまま部屋を後にした。
「あの…この力の事…やっぱり誰かに話しちゃいけないんでしょうか…?」
「君がシンフォギアの力を持っている事を何者かに知られた場合、君の家族や友人、周りの人間に危害が及びかねない。命に関わる危険すらある。」
「命に…関わる…!」
その言葉に響は固まる。そして思い出す。自分を支えてくれる親友、未来の事を。
「俺達が守りたいのは機密などではない。人の命だ。その為に力の事は隠し通してもらえないだろうか?」
「あなたに秘められた力は、それだけ大きな物だと分かって欲しいの。」
弦十郎と了子の言葉に、響は自分が背負う物がいかに大きい物なのか、理解した。
「人類では、ノイズに打ち勝てない。人の身でノイズに触れる事は、即ち炭となって崩れる事を意味する。そしてまた、ダメージを与える事も不可能だ。たった1つ例外があるとすれば、それは、シンフォギアを纏った戦姫だけ。日本政府特異災害対策機動部二課として、改めて協力を要請したい。立花響君。君の宿した力を対ノイズ戦に役立ててくれないだろうか?」
「私の力で、誰かを助けられるんですよね?」
響の言葉に弦十郎と了子は頷く。
「はい!分かりました!」
迷う事なく返事をする響。それを聞いて弦十郎と了子は笑みを浮かべた。
「あ、そうだ!ノイズを倒せるのはシンフォギアだけなんですよね?」
「うん?そうだが…」
響の言葉にいち早く反応したのが弦十郎だ。
「じゃあ…カリバーさんもシンフォギアなんですか?」
その言葉に、突然響以外は表情を変える。
「カリバー?もしかして、あの仮面の剣士の名前?どうして知っているの?」
響の口からカリバーの名前が出ると、了子は響に何故知っているのか聞いた。
「私が名前を聞いたら教えてくれたんです!仮面ライダーカリバーって言ってました!あの人は一体何者ですか?」
響の言葉に弦十郎は腕を組む。
「それが、我々にも分からない。ただ1つ言える事は、シンフォギア では無いという事だ。」
了子がモニターを操作すると、画面にカリバーの写真や映像が映しだされた。
「2年前のノイズ災害の時に初めて存在が確認され、どこからともなく現れてはノイズを殲滅していく謎の剣士。シンフォギアとは違って、本型のデバイスと剣を使用しているの。正体は不明だけど性別は声色から4、50代の男性と推測されるわ。」
了子はカリバーの正体は4、50代の男性と予想するが、実際の変身者である隼人は20代の青年だ。
「これまで何度も同行を呼びかけているが、全て拒否されている。恐らく我々を強く警戒しているんだろう…。」
「あの、カリバーさんにどうして欲しいんですか?」
「それは…。」
響の質問に弦十郎が答えようとしたその時…
「私が何だって?」
声のする方向を一同が振り返ると、ブックゲートが開き、中からカリバーが出て来たのだ。
「カリバーさん!」
響が声を上げる。
「嘘!どうやって入って来たの!?」
カリバーがここへどうやって入って来たのか驚きの声を上げる友里。
「そんな事はどうだっていい。」
カリバーは友里の疑問の声を一蹴した。
「君がカリバーか?ずっと拒否されていたにも関わらずまさかそちらから現れるとは驚いたぞ。始めましてだな。俺は風鳴弦十郎。ここの…」
「お前の名前など聞いていない。お前達二課の勧誘には心底うんざりしていた。だから直接話してやろうと出向いたまでだ。」
弦十郎の自己紹介を遮り、自身が来た目的を話すカリバー。
「いきなりで悪いけど、あなたの剣と本をちょーっと調べさせてくれない?シンフォギアでないのにノイズを倒せるなんて科学者として非常に興味があるの。」
了子の「闇黒剣月闇とワンダーライドブックを調べさせて欲しい」の発言にカリバーは…
「私に喧嘩を売っているのか?お前の意見は求めん。」
当然ながら拒否した。
(この女から何かを感じる…何なんだ?)
カリバーは了子から何かを感じていた。
「あ〜あ。残念。」
了子は残念そうにふてくされた表情をした。
「それよりも、お前達の目的を聞かせて貰おうか。」
カリバーはそう言いながら弦十郎の元へ歩いた。
「分かった。話そう。カリバー、我々二課に協力してもらえないだろうか?」
「……何?」
「今ノイズを倒せる力を持つのはシンフォギアと君の力だけだ。日本政府が君の存在を明かした今、世界中が君の力を物にしようと動いているだろう。日本政府は世界で優位に立ちたいという思惑を持っている。君を対ノイズの兵器として利用するだろう。それを防ぐ為に我々二課に所属してもらえないだろうか?もちろん君の力については絶対に口外しない。君を守る為だ。どうか頼む!!」
弦十郎はカリバーに二課に所属して一緒にノイズと戦う為に協力を要請した。機密よりも、人命を守る為に。しかし…
「フン。口だけなら何とでも言える。人命よりも機密を優先する連中の言葉など信じる訳がないだろう。私はお前達の言葉など信用しない。どうせ私の力目当てに甘言で騙して利用し、用済みとなれば切り捨てるんだろう?」
カリバーは弦十郎の頼みを厳しい言葉と共に一蹴した。
「そんなに我々が信用出来ないのか…?」
その言葉にに対してカリバーは…
「ハッハッハッハッハッハッハッハッハッ…。」
顔を俯き、静かに笑い声を出した。
「私は身に染みているのだ。人も組織も、いかに信用出来ない事について、腹の底からな。」
いかがだったでしょうか?隼人が敢えて二課に接触。そして彼の口から語られる事とは…?
今回はここまでです。感想お待ちしております。