埼玉のつき神社に訪れた響達は、この地で神の力の伝承を知る事となった。
その夜、翼は1人外でタブレット端末で弦十郎と通信していた。
『門よりいずる神の力か…』
「皆の協力もあって神社所蔵の古文書より、いくつかの情報を得られました。」
腹ごしらえをして、探し尽くした響達は疲れて瞼が重くなり時間もあってか寝室で就寝していた。
しかし、起きている翼を除いて調の姿が和室に無い。
『敵がレイラインを利用した計画を進めているとすれば、対抗手段となるのは、やはり要石かと。』
要石。魔法少女事変にてキャロル配下のオートスコアラーに幾つかが破壊されてしまったが、それが逆転の鍵を握ると翼は推測した。
「要石…キャロルとの戦いで幾つかが失われてしまいましたが…」
「それでもレイラインの安全弁として機能するはずです。」
「…神の力をパヴァリア光明結社に渡すわけにはいかないッ!何としてでも阻止するぞッ!」
「無論、そのつもりです。」
『ところで翼。隼人君の方はどうなっている?』
弦十郎は、翼に隼人の事について聞いてきた。
「夕方に接触しましたが、未来は変わらないの一点張りで私達への協力を拒んでいました。今の彼は精神も擦り切れ、心も壊れかけた状態です。あのままだと自暴自棄になってしまうでしょう…」
翼も勿論分かっていた。廃人の様な風貌になった隼人がこのままだと心が壊れ、自暴自棄になり、自ら命を絶ってしまうかもしれないからだ。
「そうか…」
「未来の災いの啓示…この戦乱においてその力がどれだけ恐ろしいものなのか、よく分かります。」
「ボク達が想像する以上に闇黒剣月闇の力は強大です。」
『翼。パヴァリア光明結社は神の力だけでなく、隼人君の持つ闇黒剣月闇と無銘剣虚無、そしてワンダーライドブックも手にしようとしている。もし彼に何かあったら全力で彼を守ってくれ。たとえ拒まれても。』
「了解しました。」
翼は弦十郎との通信を切る。
すると、池の前に調がしゃがんで水が流れているのを見つめていた。
「おやおや、こんな夜更けに散歩とは…」
そこへ、宮司がやって来た。調は立ち上り、何事もない様な表情を浮かべる。
「……」
「何か悩み事ですかな?」
「1人で何とか出来ます。」
宮司から悩み事かと聞かれるが、1人で何とか出来ると答える調。
「それでも口に出すと楽になりますぞ? 誰も1人では生きられませんからな。」
「そんなの分かってるッ!……でも、私は…」
珍しく感情的になる調。
「何をかくそうここは神社。困った時のなんとやらには事欠かせないとは思いませんか?」
調は宮司と共に拝殿へ向かった。そして2回礼をする宮司。
そして手を2回叩き、最後に礼をする。
「二礼二拍手一礼…若い方には、馴染みのない作法ですかな?」
「うん…なんか、めんどくさい。」
最近は鈴を鳴らし、賽銭を投げ入れるのが定着している為調はめんどくさいと感じていた。
「これはこれは。」
「しきたりや決まり事…誰かや何かに合わせなきゃいけないって、よくわからない。」
「うん…?」
めんどくさいと言いながらも調は宮司がやった様に二礼二拍手一礼をする。
「合わせたくっても上手くいかない。狭い世界での関係性しか私には分からない。引け目が築いた心の壁が、大切な人達を遠ざけている…いつかきっと親友までも…」
「…あなたはいい人だ。」
「いい人!? だったらどうして私の中に壁があるの!?」
突然自分の事をいい人と言われ、思わず声を上げてしまう調。
一体どういう事なのか。自分がいい人なら何故自分の中に壁があるのか。
「壁を崩して打ち解ける事は大切な事かもしれません。ですが壁とは拒絶の為だけにあるものではない。私はそう思いますよ。」
壁は拒絶の為にあるものではない。一体どういう事なのか。
その頃、ホテルのジャグジーバスにアダムとティキが浸かっていた。
「ねぇ!私人間になりたいッ!」
「藪から棒だね…いつにも増して。」
アダムの腕に抱きつき、人間になりたいというティキ。
「神の力が手に入ったら、アダムと同じ人間になりたいって言ってるのッ!」
「……」
「人形のままだとアダムのお嫁さんになれないでしょ? 子供を産んで、ポコポコ産んで、野球チームを作りたいのよッ!」
オートスコアラーの彼女にとって人間になりたい彼女は子供を産みたいと言った。
野球は1チーム9人だが、人間になったら9人子供を産むつもりなのか?
そこへ誰かが入ってくる。
「だーかーらー、さっさと三級錬金術師を生命エネルギーに替えちゃってさー」
「その話、詳しく聞きたいワケダ。」
入って来たのは、プレラーティだ。
「繰り返して来たはずだよ、君達だって。言わせないよ、知らないなんて。」
プレラーティを見て蔑んだ笑みを浮かべてるティキ。
「計画遂行の勘定に入っていたのさッ!最初からッ!君の命もッ!サンジェルマンの命もッ!」
アダムの口から語られた真実。
全て彼の計画の内。神の力を手に入れる為にプレラーティの命も、サンジェルマンの命も。そしてカリオストロも、使い捨ての手駒だったのだ。
「そんなの聞いていないワケダッ!」
勿論納得出来ず、聞いていないと反論するプレラーティは魔法陣から氷の針を飛ばすがアダムが指を鳴らすと、光ともに砕かれる。
「他に何を隠しているッ!? 何を目的としているワケダッ!?」
「人形の見た夢にこそ……神の力は。」
「人形…?」
人形…即ち、ティキの事だ。アダムが指を鳴らすと、緑色のエネルギー刃が飛ばされ、持っていたカエルのぬいぐるみが引き裂かれる。
プレラーティはその中からスペルキャスターを取り出し、ホテルの屋上から飛び出しファウストローブを纏うと、何処かへ去った。その様子はアダムとティキも屋上から見ていた。
「逃げたッ!きっとサンジェルマンにチクるつもりだよッ!どうしようッ!?」
「狩りたてるのは、任せるとしよう…カリバーとシンフォギアに。」
(サンジェルマン…!サンジェルマン…!…くッ…妨害されているワケダ…」
テレパシーで伝えようとしても、サンジェルマンには通じない。
その様子はつき神社にいる翼にも
「錬金術師がッ!?」
「新川越パイパスを猛スピードで北上中ッ!」
「付近への被害甚大ッ!このまま、住宅地に差し掛かることがあれば…!」
このままだと住民達の命が危ないのは目に見えている。
「了解ですッ!対応しますッ!」
「皆さんどちらへ!?」
そこへ宮司達がやって来る。すると、調が走っていく所が見えた。
「調…」
『師匠!今調ちゃんがッ!』
「そちらにヘリを向かわせているッ!先走らず、ヘリの到着を待てッ!」
弦十郎は響達にヘリを向かわせた事を伝えた。
(シュルシャガナでなら、追い付けるッ!)
そして調はギアを纏い、街中を走行。
そのまま高速道路へ入ると、背後からライトが照らされる。
振り返ると…
「高機動を誇るのはお前1人ではないぞ?」
翼だ。天羽々斬もまた高機動を誇るシンフォギアだ。
しかし、調は翼に背を向ける。
その頃プレラーティは箒に乗る様にスペルキャスターで飛びながら、球を引きずりながら高速道路を爆走していた。
そこへ翼と調と鉢合わせする。
「ッ!?」
「何を企み、どこに向かうッ!?」
「お呼びでないワケダッ!」
プレラーティは魔法陣から炎を2人に発射するが、かわされる。
部が悪いと判断したプレラーティはスピードを上げ、高速道路の壁を破壊して反対側の車線へ移動し、逆走した。
「お構いなしと来たかッ…!」
「ユニゾンだ月読ッ!イグナイトとのダブルブーストマニューバでまくり上げるぞッ!」
「…ッ!」
自分が切歌以外合わせられなかったユニゾンを翼が提案して来た。
しかし…
「ユニゾンは…できません…」
調は出来ないと言う。
「月読ッ!?」
「切ちゃんは、やれてる…誰と組んでも…でも私は、切ちゃんとでなきゃ…!人との接し方を知らない私は、1人で強くなるしかないんですッ!1人でッ!」
「心に壁を持っているのだな。月読は。」
「─壁…」
宮司との会話でも言われた心の壁。
そこへプレラーティが高速道路の壁を破壊する。
「私もかつて、亡き友を想い、これ以上、失うものかと誓った心が壁となり、目を塞いだ事もある…」
「天羽…奏さんとの…?」
天羽奏を失った翼も、これ以上失うものかと心の中に壁を作ってしまった事もあった。
「そして上條も、未来の災いを見続けて、誰とも繋がらないと誓った心が壁になっているのだろう…」
もしかしたら隼人にも、心が壁となっているのかもしれない。
最も彼には壁の他に闇もある。
そして2人はトンネルへ入った。
「月読の壁も、ただ相手を隔てる壁では無い。相手を想ってこその距離感だ。」
「想ってこその距離感…?」
その時脳裏によぎる切歌に何でもないと言った言葉。
相手を想っていたから、壁を作っていた。
「それはきっと、月読の優しさなのだろうな。」
「優しさ…」
そこへプレラーティが魔法陣から氷の針を発射するが、調はなんなく避けた。
「優しいのは、私だけじゃなく、周りのみんなです!だからこうして気遣ってくれて…私は、みんなの優しさに応えたいッ!」
みんなの優しさに応えたい。その想いが、調を決意させる。
さあ今こそ。歌を重ねる時だ。
「ごちゃつくなッ!いい加減付け回すのをやめるワケダァァァァッ!!」
プレラーティは憤慨し、2人に炎を浴びせる。その時、トンネル内が爆発した。
「ぐうの音も─」
【Dáinsleif.】
突如聞こえて来た無機質なイグナイトの起動音。
炎の中から、イグナイト形態へ移行した翼と非常Σ式 禁月輪で走る調が出てきた。
「ワ…ケダッ!?」
翼の目に電光掲示板に連続カーブ注意!!の文字と連続カーブを示す文字が。
「このまま行くと、住宅地に…!!」
ここで決着をつけなければ住宅地に甚大な被害を齎してしまう。
時間はかけられない。
「いざ、尋常にッ!」
翼は加速してプレラーティの右の隙間に入り込み、タイヤ部分からブレードを展開してスペルキャスターの球に噛ませた。
「邪魔立てをッ!」
そこへ調が歌いながらすかさずチェーンソーを展開して同じく球に噛ませる。2人の歌が重なる。
「動きに合わせて来たワケダッ!」
プレラーティの動きに合わせて、住宅地に突っ込む前に食い止める作戦だ。
「神の力ッ!そんなものは作らせないッ!」
「それはこちらも同じなワケダッ!」
プレラーティは立ち上がり、腕を組むと魔法陣から激流を放ち、壁を作り出した。
「歌女共には、激流がお似合いなワケダッ!」
「行く道を閉ざす訳かッ!?」
「そんなのは、切り開けばいいッ!」
調がα式 百輪廻を繰り出し、前方に高速道路の壁を破壊してジャンプ台を生成。水の壁を乗り越えた。
「───ッ!? なんとぉぉぉぉっ!?」
プレラーティがスペルキャスターでなぎ払おうとするも、2人は先回りする。
「駆け抜けるぞッ!」
翼のバイクと調の鋸が合体。2人の合体技、風月ノ疾双が放たれようとする。
「サンジェルマンに…告げなくてはいけないワケダッ!こんな所でぇぇッ!」
プレラーティも負けじとスペルキャスターを大型化させ、巨大な針が突き出た形態に変形させ、突撃する。
「アダムは危険だとッ!サンジェルマンに伝えなくてはいけないワケダッ!!」
そして3人がぶつかり、爆発が起こりアスファルトが砕け散る。
それでもなお3人はぶつかる。そんな時…
【クラッシュ必殺斬り!】
「グォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」
突如、聞いた事のある雄叫びと共にプレラーティの胸にエネルギーを纏った闇黒剣月闇と無銘剣虚無が突き立て、プレラーティに激痛が走り、ファウストローブにひびが入る。
それはプリミティブドラゴンになったカリバーが随分と遅れて登場。
響達に言われて事も重なって心が更に不安定になり、この場所で3人が高速道路でぶつかる未来を見て来たのだが、ここで闇黒剣月闇の未来予知が発動、「翼と調がプレラーティに敗れ、命を落とす」と言う最悪な未来を見たカリバーは、またしてもプリミティブドラゴンになってしまったのだ。
翼と調、そしてカリバーの一撃に押され、プレラーティに最期の時が訪れる。
「サンジェルマン…サンジェルマァァァァァァンッ!」
断末魔と共にプレラーティは月の光が照らす宵闇の空の下散ったのだった。
「勝てたの…?」
「あぁ…2人で掴んだ勝利だ。」
しかし、その喜びも束の間、炎の中からカリバーが闇黒剣月闇と無銘剣虚無を手に2人に一歩、また一歩と迫る。
「上條…!」
「グゥゥゥゥ…!? ガァァァ……グォォォォ…!!」
【グッバイ!】
突如苦しみだし、膝から崩れ落ちると、変身が解けて隼人の姿に戻った。
「上條ッ!」
「大丈夫ッ!?」
翼と調が隼人の元に駆け寄る。隼人は闇黒剣月闇と無銘剣虚無を手にし、翼と調を虚ろな目で見た。
「また…知らない未来か…」
「また…? やはりお前が見た未来と違う未来になっているのだろう?」
「それでも未来は変わらない…俺の事はほっといてくれ…」
隼人が立ち上がり、去ろうとすると翼が腕を掴む。
「放っておける訳がないだろうッ!? このままだとお前が壊れてしまうッ!」
「切ちゃん達も、私達もみんな心配してる。響さんはあなたを助けようとしてる!ほっとけないッ!」
翼も調も必死に訴える。このままだと彼が壊れて自暴自棄になってしまう。
響も彼を助けるべくプリミティブドラゴンの物語を完結させる為に任務の間に話を考えているのだ。
「ほっといてくれって言ってるだろ…ッ! お前達を…闇の中に引きずり込む訳にはいかない…光を照らす道を歩け…暗闇を彷徨い続けるのは…俺だけでいい…」
そう言うと隼人は、翼の手を解くと姿を消してしまった。
「上條…」
夜明けにサンジェルマンは神社の地面に小さな魔法陣を展開して何かを読み取っていると、突然神社の賽銭箱に何故か置かれていた電話のベルが鳴る。
「プレラーティはカエルの様に突き刺されて轢き殺されたよ!お似合いだよッ!」
「……え?」
嬉々とした声で話す相手はティキだ。
プレラーティの死を聞いて呆然とするサンジェルマン。
「生贄にもならないなんて無駄死にだよね?ざまあないよね?」
「報告に間違いはない。残念ながら。」
今度はアダムの声が聞こえてきた。
「1人で飛び出したの…?」
「急ぎ帰投したまえ。カリバーとシンフォギアに儀式を気取られる前に。」
「カリオストロに続き、プレラーティまでもが…くっ…?」
仲間を失ったやるせない思いがサンジェルマンを支配する。
「お世話になりました!」
そして夜が明け、世話になった響達は宮司に礼をする。
「いやいや、お役に立ちましたかな?」
「とても参考になったのデス!」
「お前は読み始めてすぐ寝ちまっただろうが…」
翼は弦十郎に通信でプレラーティが向かっていた先がどこなのか、タブレットで聞いていた。
「では、あの錬金術師の向かった先には…」
『鏡写しのオリオン座を形成する神社…レイポイントの一角が存在している。』
「ますます絵空事とは言えないわけね。」
車に乗っていたマリアが通信を聞いて答える。
『対策の打ち所かもしれないな。』
「良かったら、つき神社にまたいらっしゃい。この老ぼれが生きている間に。」
「神社ジョーク…笑えない。」
すると、宮司が調に兎の絵が描かれた御守りを渡した。
調はそれを見て微笑む。
「「「「ありがとうございました!」」」」
4人は礼を言うと車へ向かっていったが、切歌が立ち止まる。
「んー、やっぱり不思議デス。こんなの「ツキ」なんて絶対読めないデスよ。」
「切ちゃん!置いてっちゃうよッ!」
「わ、分かってるデスよ!」
切歌も調に呼ばれて車の元へ走って行った。
いかがだったでしょうか?今回は主人公の出番が少なくて申し訳ありません。
さて、アニメパートも終わりに近づいて来ました。
いよいよ次回、悲しみの物語を終わらせる物語が出てきます。
ヒントはマシマシなドラゴンです。
読者の皆様はどんな物語なのか予想してみてください。
セイバー本編とは少し違う物語になります。
今回はここまでです。感想お待ちしています。