「ぐっ、おわぁっ!?」
『ルカヤ!そっちは大丈夫でございますか!』
「何とかな!コイツ、次の動きが全く読めない!」
資源衛星突入を目前にして、ゼットの前に突如現れた新たなマスダイバー機。強化されているといえど、ダイバーの実力が伴っていないならと強行突破を図るゼットとルカヤだったが、結果は相当な時間を稼がれているというものだった。
『この野郎……!迂回してく有志連合には目もくれず、俺達の邪魔ばっかしてきやがってぇ!』
「こっちの戦力が温存できるなら御の字だが……何が目的なんだコイツは」
───アッハッハッハッ!クヒャアッハハハッ!
『さっきからずーっと笑ってるのも何なんだ!』
「笑ってる?」
ゼットの言葉に集音機能の感度を上げるルカヤ。だが、周囲の戦闘音がより明確に聞こえるようになっただけで、目の前のシナンジュベースと思われるマスダイバー機からは駆動音以外の一切は発されていないのだ。
「笑ってるってどういう事だ!あの機体のダイバーが何か言ってるのか!」
『うえぇ!?いや、ウルトラうるさい声で笑ってるでごぜーますよ!?』
どうやらゼットにしか聞こえていないらしい笑い声。オープン回線も拾ってみるが、そちらも他の戦線の怒号やらを拾うだけで、目の前のシナンジュからは何も聞こえてこない。
───ヒヒッ!ハッハァッ!アッハハハ!
「くっ、そぉ!どういう作りしてんだ!」
短時間で二人を追い詰めた、虚空からのビーム乱射を再び行うブレイクシナンジュ。手持ち武器は存在せず、シナンジュをシナンジュたらしめているアイコン、特徴的なバックパックや両脚のフレキシブルスラスターすらもオミットされている。頭部もモノアイやスタインのデュアルアイではなく、機動に合わせて不気味に明滅するクリアパーツに置き換わり、その無機質な恐怖に拍車をかけている。
『ここは一発デカイのを……!』
「出力は抑えろ!防御機能がまだ分からん!」
『了解でありますよ!ゼスティウム───』
『光線ッ!!!』
最大から出力を絞ったゼスティウム光線。ドッズライフルから放たれた光の奔流は、避けようという焦りや動作すら見せないシナンジュに向かって伸び、その胸部に突き刺さる───直前で弾かれた。
『ヘアッ!?』
「I・フィールドか!」
円形の何かに当たり、流されるように拡散して消失したビーム。驚愕するゼットをよそに、ルカヤはI・フィールドないしビームに強い防御システムと予想する。
「射撃は通りが悪いか……!」
『なら、ぶん殴って退いてもらうぜぇ!』
ゼットの武装はドッズライフルと頭部バルカン砲の二つだけ。装甲貫徹力の高いドッズライフルの照射すら防ぎきる程の対ビーム防御に対して、通用しない武装を使い続けるのは愚の極みだ。かといってバルカンでは倒すどころか、再生機能まで併せ持ったブレイクデカール搭載機相手では雀の涙ほどのダメージにすらならない。
ならば選ぶべき戦法は一つ。
ウルトラボディが置き換わった、ガンダムボディによる殴る蹴る等の純粋な力の象徴を使わざるを得ない。
そう、暴力だ。
『キエアッ!』
───ヒャッハッハッハッ!!!
が、現実とマスダイバーは一筋縄ではいかず。一般人にしては妙に運動神経のキレが良いルカヤの動きをトレースし、隙だらけのブレイクシナンジュに拳や脚を鋭く突き出すゼットだったが、それら全てをすり抜けるように回避し、型も何も無いタックルやラフなチョップを返すブレイクシナンジュ。ダメージはゼットだけに一方的に積もっていく。
『こんの野郎ォ~!いちいち笑いながら反撃してきやがってぇ!』
「……どういう、事だ……!」
『ルカヤ?』
もはや煽りの域にまで到達した芸術……ではなく、芸術の域にまで到達した煽りスウェー&アタックに、今にも堪忍袋の緒が切れそうなゼット。いやまぁ、多分もう切れてるけども。
熱くなっているゼットとは反対に、末端とはいえ最強フォースAVALONに名を連ねているルカヤは冷静だった。だが、何かに気付いた途端、その表情が驚愕と困惑に染まる。
「レーダーに反応が無い!」
『はぁ!?いやいや、目の前に居るでございましょう!それにパンチもキックもビームも痛ぇですが!?ウルトラムカつきますが!』
「それだけじゃない、軌道予測や熱源探知にも何一つ記録が残らない!目視以外に観測する術が無いんだ!【無】なんだよ!存在自体をブレイクデカールで消してるって言うのか!」
(それじゃ、まるでグリー───)
───アッハハ!キヒッヘァッ!!!
『クッソォ!』
かつてデータとして記憶した虚空の存在が脳裏を過った瞬間、物理的に視界を過った拳。余所見しながら戦える相手じゃないと気を引き締め直し、反撃のキックを繰り出すも結果は同じ。のらりくらりと揺れるように回避され、牽制と本命を織り混ぜたドッズライフルのビームは全てバリアで防がれる。
「いっその事こっちも時間稼ぎに徹するか!?」
『もしコイツが俺の知ってるヤツと同じなら、強いエネルギーに惹かれるはずでごぜーます!狭い衛星の中で待ち伏せなんてされたら、あのチャンプといえど……!』
「隊長がそう簡単にやられるとは思えないが……行かせる訳にもいかないよな、チクショウ!」
ここで倒すしかない。だが倒す手段が無い。明確に追い詰められつつあるルカヤとゼットだが、救いの手は意外と早く差し伸べられた。
『大丈夫ですか!俺も戦います!』
白と青が映える爽やかなカラーリング。両肩に備え付けた大剣と、そのマウント基部で柔らかな緑の光を放つ動力機関。ダブルオーダイバーエースと、それを駆る新進気鋭の少年ダイバー リクが馳せ参じたのだ。
「あのダブルオーは……ビルドダイバーズのリクか!」
『はい!コイツを倒して、早く───』
『リク危ない!』
───ヒャッハッハッ!!!ヒヒッ!ハハハッ!
リクでもルカヤでも、無論ゼットでもない声が警告を発した。咄嗟に回避機動を取らせるリクとルカヤ。ゼットに対しては球状のビーム弾、ダブルオーダイバーに対しては背中から触手のようなビーム鞭を発生させ、それぞれに攻撃を仕掛けたようだ。少女の警告もあって、間一髪の所で回避に成功する両者。
ダブルオーダイバーのコックピットに同乗しているらしい少女に礼を言う二人だったが、ゼットは凄まじい悪寒を感じていた。明らかにブレイクシナンジュの意識が自分から逸れたのだ。
強いエネルギーに惹かれる
つい先程の自分の言葉がリフレインし、嫌な予感は的中する。
───クハハハッ!アッハハハハハッ!!!
『な、なんだ!?』
『ひっ……』
「コイツ、急にダブルオーを……!」
『まずい!そいつから離れろ!』
見付けたのだ、自ら来てくれたのだ、強いエネルギーを持ったそれが。ダブルオーダイバーのコックピットに居るそれを。リクと共に戦場に出た彼女を。
サラを
『いろんな……こえ、が……うぅっ……』
『サラ!?しっかりしてサラァ!』
ゼットにしか聞こえていないシナンジュの笑い声。どうやらサラにも聞こえているらしく、どういう訳かサラの感覚にはより多くの声が重なり響いているらしい。青ざめ、崩れ落ちそうになるサラ。どうにか華奢なその身体を支えるリクだったが、隙を突くには充分すぎる時間を与えてしまった。
───ヒヒャアァハハッ!
『うわぁっ!?』
「リク!」
『あの野郎!』
ダブルオーダイバーの何が琴線に触れたのか、ゼットへの攻撃は遊びだったとでも言うように、執拗なまでの猛攻をダブルオーダイバーへ仕掛け始めたシナンジュ。形振り構っていられないと、ドッズライフルと頭部バルカンを接近しながら斉射するゼット。が、背を向けているにも関わらず、まるで後ろにも目が付いているようにそれらを全て防ぎ躱しきるシナンジュ。最後に繰り出した飛び込み蹴りすら、背中から生やしたビーム鞭で対処されてしまった。
「くっ……ダブルオーを離しやがれ!」
『っ、まさかアイツ!』
『あっ、あぁ……!?』
『ダメ!リクは、リクだけは……!』
更にはゲーム内であっても信じられない事まで実行に移した。なんと、ダブルオーダイバーを抱き締めるように「呑み込み」始めたのだ。リクも操縦桿を必死に引いて抵抗しているが、徐々にダブルオーダイバーがシナンジュの内側に消えつつある。そうはさせまいとビーム鞭に打たれる事も構わず、シナンジュに殴打を繰り返すルカヤとゼット。悲しいかな、初めて通ったダメージを全く意に介する事なく、ダブルオーダイバーを呑み込み続けるシナンジュ。
───イッヒヒヒハハハハッ!!!
『うぉぉぉあぁぁぁっ!?』
「ぐっ、あぁ!?なん、だっ!音波兵器か!?」
シナンジュの頭部が一際強く発光し、同時に鐘のような音が響き渡る。不快感を煽るその音に思わず動きを止めてしまうルカヤとゼット。ロクに防御の構えが取れなくなった所に殺到し、たちまちゼットを弾き飛ばすシナンジュのビーム鞭。
そして───
「くっ……!ダブルオーが!」
ダブルオーダイバーが完全に呑み込まれてしまった。ダイバーが搭乗したまま、モビルスーツを丸ごと吸収したにも関わらず「まだ足りない」と言わんばかりに大暴れを始めるシナンジュ。歪曲ビームを乱射し、背中のビーム鞭で誰彼構わず打ち付け、頭を振って鐘の音を発する。
このルートを通ろうとした有志連合機も、それを阻止しようとしたマスダイバー機もお構い無しだ。文字通りの無差別攻撃によって被害だけが拡大していく。
「おいゼット!ダブルオーはどうなってる!」
『恐らく、無事だ……』
「なら直ぐに救助を!」
『今の俺達じゃ多分無理だ……』
「何を弱気な事言ってんだ!」
有志連合もマスダイバーも阿鼻叫喚の地獄絵図になった事で、逆に作戦会議の余裕が生まれた二人。だが、いつになく覇気が無いゼットに苛立つルカヤ。その理由をゼットは語る。
『アレは、宇宙に空いた穴だ。ありとあらゆる物を吸い込んで、無にしてしまう穴』
「宇宙の穴……?」
『穴を塞ぐ唯一の手段は、無の向こうにある穴を縫う針しか無い』
「無の向こうって……!」
『そうだ、普通は取り出せない。だからアイツは、針に手が届くかもしれないあのサラって子を先に狙ったんだ』
ダブルオーダイバーに同乗していたサラ、彼女にそんな力が?と不思議に思うルカヤ。一旦サラに関する推測は打ち切ってシナンジュに視線を戻す。
「ゼット、お前は?お前もシナンジュの笑い声が聞こえるんだろ?針とやらに手が届くんじゃないのか?」
『メダルがあれば……可能性があるのは、神秘の力を持つシーエオのガンマハートだが……』
そのシーエオもこの戦場には居るが、絶賛マスダイバーと戦闘中だろう。
「じゃあどうすれば!リクとサラをこのままにしておけないだろ!」
『俺も分かっている。だが、無に取り込まれない為には理屈を超えたパワーが必要なんだ』
「理屈を超えたパワーって……そんなの、後は隊長のEXカリバーくらいしか……」
チャンプに理屈は通じない、チャンプだから。
それは置いといて。シナンジュがゼットに気付いた、というか存在を思い出したらしい。俺はおつまみ感覚かよとルカヤの操作を待たず自発的な回避に移るゼット。周囲に甚大な被害を出しながら、ゼットへのチャージを敢行するシナンジュ。突如としてその機体に赤い燐光を纏い始めた。
『アレって確か!』
「トランザムだと!?まさか、取り込んだ機体のアビリティを使えるのか!」
───ヒャハハッ!アッハハハヒヒヒヒ!
大正解!と嘲笑うように直線軌道で突っ込んでくるシナンジュ。更には、両肩に長剣のようなパーツまで生え揃い、それを抜き放って両手に保持した。ダブルオーダイバーのGNダイバーソードを模倣した物だろう。
『一体化が進んだんだ!』
「進むとどうなる!」
『多分、サラがどうにか中和してるんだ!だから吸収が遅い、が……!』
「ゼット!」
『理屈の中の力じゃ、やがて無に負ける……!無に解けて消えてしまうんだ!』
「なっ……!?」
消滅する。ゼットが返した答えは、ルカヤにとっては余りに荒唐無稽で衝撃的なものだった。当然だ、これはGBNというゲームで、マスダイバー達が使うブレイクデカールもゲームを滅茶苦茶にするチートツールでしかない。そして自分達もまた、ゲームのシステム内でチーター達をどうにかしようとしているだけ。
所詮はゲーム。極論、自分達が勝とうが負けようがそれは一つのゲームが続くか終わるかであり、人の生き死にには関わりが無い。もちろん「現実で動かせない身体をGBNの中なら思う存分動かせる」という者は居るだろう。だがゲームはゲーム。もしGBNが無くなっても、それだけで人が死ぬ訳ではないのだ。
だがリクとサラはどうなる?もしこのまま、あのブレイクシナンジュに呑み込まれたままだと?ゼットの言う通り「無に解けて消える」のだとしたら。この世界で意識が消滅し、現実に戻れなくなったら?
それは死だ。
ゲームの中で、死ぬ事になる。
「そ、んな……ことォッ!!!」
『ルカヤ!?』
ゼットからモビルトレースで操作を引き継ぎ、ドッズライフルから螺旋ビームを放ちつつシナンジュへ向かっていくルカヤ。直ぐに激突し、殴り合い宇宙へと発展していく。振るわれる拳や脚には、ルカヤの明確な「怒り」が込められていた。
「またッ!また見送るだけなんて真っ平だ!」
『またって……』
ルカヤが反応しきれない攻撃を防ぎ、バルカンで牽制しつつ言葉に耳を傾けるゼット。
「昔から……!俺が関わった奴らは、俺より先に居なくなる!俺と同じ病室だった奴も!同じ部活に入ってた奴も!みんな……みんな!」
『それはお前のせいじゃないだろ!』
「分かってる!分かってるさそんな事!それでも……見送るだけなのが嫌で!自分を鍛えて、それでも駄目で!死ぬ事なんて無いこの世界に逃げ込んだのに!」
ここでもまた、助けに入ってくれた二人を救えず。救う手立ても無く。ただ、がむしゃらに拳を振るう事しかできない。誰かを助けてやれない自分が嫌でGBNに逃げたのに、ここでも目の前で命が消えていく。
コドウ、シンリ、シーエオ。今まで共闘してきた三人と同じく、詳細な過去まで知る事はできないゼット。だがその悲しみや悔しさ、怒りは痛い程に理解できる。そして、そんな自分を変えようと努力できるのがルカヤという人間だという事も分かる。
何より───
『誰かを想って涙を流せる奴が!弱い訳ないだろ!』
「っ……!」
電脳世界で再現された虚構と仮初の物であっても、ルカヤが流していた涙は偽りではない。たとえそれが過去の悔恨と自己満足から来るものであったとしても、誰かを助けたい、誰かに傷付いてほしくない。その激しい感情の発露である涙を、ゼットは否定しない。
『弱気になって悪かった!どうにかして、あの宇宙の穴を塞ぐぞ!そしてリクとサラを助けるんだ!』
「っ……あぁ!」
───ヒャハァッ!?
決意を新たにした二人だったが、依然として状況は変わらず……と思いきや、意外な所から援護が入った。宇宙空間でも絶えず燃え続ける火球がシナンジュを襲ったのである。ゼットに意識が向き過ぎていたのか、ビーム鞭の根元への直撃となった火球。それを放ったのは、白と黒のモノトーンで塗装された竜のような機体だった。
『どうして、等という脳内お花畑な発言はなさりませんよね?これだけの乱戦でございます。たまたま手が滑って、同じマスダイバーに攻撃してしまってもおかしくはないでしょう?』
一瞬で障害と認識したのか、ビーム鞭と歪曲ビームを竜のような機体に殺到させるシナンジュ。それらを軽々と回避し、一瞬の内に人型へと変形したモビルスーツ。左腕を肩口から丸々、翼になるビームウォーサイスも右の物が中程から切断されているが、それ以外は健在と言えるプライマルカラーのN-EXTREMEガンダム2番機。ヴィシャスだ。
『アイツもマスダイバーなのか?』
「言葉通りならな……だが、何故?」
シナンジュが無差別攻撃を行ったとはいえ、一応は友軍同士。仮に粛清だとしても手負いのヴィシャス一機を向かわせる訳もなし、どちらかと言えばシナンジュの方が殲滅力は高いはず。
『私がマスダイバー側に加わっているのは、ひとえに面白そうだったからでございます』
「面白そう、だと……!」
『そんな理由で!』
『使命に燃えるあなた方にしてみれば、下らない動機なのでしょうね。ですが、私からすれば至上命題。灰色の日常を彩る清涼剤、生死に関わる一大事でございますので』
淡々と語るヴィシャス乗りの女性マスダイバー。故に自分は今、このシナンジュと戦っているのだと言う。何故なら打たれ弱い有志連合よりも、唐突に発生したブレイクシナンジュ相手の方が面白いから。文句なら私を引き入れた連絡係に仰ってくださいませ、とソードモードのテールロッドをシナンジュに叩き付ける。
『ルカヤ、気持ちは分かるが』
「今は猫の手も借りたい所だ!分かってる!」
幸いにもヴィシャス乗りの技量はブレイクデカールに頼らずともかなり高いらしく、本当に愉快犯でマスダイバーをやっている事が分かる。技量と手数は確保出来た、後は穴を塞ぐ理屈を超えたパワーをどうするか。
(とんでもないパワー……最強のガンダムなんて物があれば誰も論争なんざしてない!最強、究極……!何でも良い!あのシナンジュの土手っ腹をぶち抜く極限の力があれば!)
極限……?
ふと、ルカヤの視線がヴィシャスで留まる。絶望に抗う極限の希望、全てを覆してきたガンダム。作品としての評価はノイズになる、この際どうでも良い。
限界を超えろ、絶望など覆せ。否、絶望すらも呑み込んで希望を繋げ。三流のハッピーエンドで構わない、三分の一人前と言われても良い。最後の最後まで諦めるな。
「これは……?」
ルカヤの前に現れた三つの光。小さな円形のそれには、それぞれガンダムが描かれている。
三機のエクストリーム
胸部の赤いtype-レオス
セシアの乗るエクセリア
青い装甲のex-機
それらがルカヤの手に収まると、強い輝きを放ち、光が消えた時には絵柄も変わっていた。
『ルカヤ、それをスロットに!極限のウルトラフュージョン……!やるぞォ!』
「あぁ!」
『仕方ありませんね。時間は稼ぎますよ』
正体不明の危機を察したのか、頭部を振って鐘の音を発するシナンジュ。だが、ドラゴンモードの頭部にのみブレイクデカールの力を限定解放する、という離れ業でブーストしたドラゴンロアで音波を打ち消すヴィシャス。勢いは止めず、更にブーストしたドラゴンズブレスでシナンジュを焼いていく。
「絶望を呑み込め!黄金の希望ッ!!!」
【Valiant surface】
【EXELLIA】
【Xeno Valiant】
『ご唱和ください!我の名を!』
『ガンダムゼット!!!』
「ガンダァァァム!ゼェェェェット!!!」
壊れ始めた偽りの宇宙に、閃光が迸る。
【DELTA RISE MAXIMUM】
◇◆◇
───ヒャッアッハッ!?
「うわぁっ!?」
「うっ……!」
曖昧な、ふわふわとした感覚。それに包まれ、自分という存在が消えていくような錯覚に囚われていた。
唯一覚えているのは、ずっと名前を呼び続けてくれていた、消えないようにと手を繋ぎ続けてくれていた暖かな光。サラに守られて、俺はGBNに戻ってこれた。
「っ、サラ!大丈夫!?」
「うん……リクも、無事で良かった」
そういえば、と辺りを急いで見回す。少し離れた所に俺たちを呑み込んでいた不気味なシナンジュ。そして、俺たちを背中に庇うように竜巻のような物が間に渦巻いていた。
「黄金の……嵐……?」
◆◇◆
「ダブルオーを吐き出した!二人も無事だな!こっちの攻撃も効いてるみたいだ……ここから反撃と行くぞ!ゼットォ!」
『よっしゃあ!』
全身のクリアパーツが更に増加し、暗い宇宙空間すら眩く照らす極限強化状態となったゼット。一層強い輝きが手足に灯った瞬間、凄まじい勢いでスラスターを噴かしてシナンジュの元へと吹き飛んでいく。
『デェヤァッ!』
渾身の右ストレートがシナンジュの顔面を捉える。スパークをあちらこちらに散らし、後方へと殴り飛ばされていくシナンジュ。だが、物理法則を無視した奇っ怪な挙動で立て直すと、ロケット頭突きの姿勢となり一直線にゼットへ迫る。
『ヌウッ!ダアッ!』
それでも今のゼットを土俵際まで押し出すには至らず。正面から受け止め、膝打ちで顔を蹴り上げてみせた。またもや物理法則を無視した動きで立ち直るも、今度はダメージアップのチャンスを逃さないとゼットは距離を詰めていた。
『ダダダダダダダダッ!キエアッ!!!』
モビルファイター顔負けの高速ラッシュ。肘打ちと裏拳は飛んでいないが、覚醒したドモンにも負けず劣らずの連打がシナンジュを襲う。
「リク!ここは俺達に任せろ!先に行くんだ!」
『でも!』
『リク、あの人たちなら大丈夫』
締めの一撃を食らい、もんどり打って飛んで行ったシナンジュを見たルカヤが、リクを先に行かせようとカバーに回る。自分達を取り込もうとした異質な相手を任せる訳にはいかない、と食い下がるリクだったが、サラが優しくリクの手に自分の掌を重ねて諭す。
『ゼット、さっき無の中に何かが光っていたの。今のあなたたちなら、きっと……!』
「穴を塞ぐ針か!」
『分かった!ありがとなサラ!』
ダブルオーダイバーを資源衛星へと向かわせ、GN粒子の燐光が完全に消えたのを見届けてから。改めてシナンジュに向き直るゼット、そしてコックピット内のルカヤ。ビームを乱射しつつシナンジュが突っ込んできたのを、これ幸いと迎え撃つ構え。ビーム鞭を避けた所でカウンターの右ストレート。
「ぐっ……!うぉぉぉぉぉッ!!!」
シナンジュの胸部ユニットに突き刺さった拳は、内部機構すら通り抜けて真っ暗闇の虚数空間へ。果てしない無を押し通り続け、やがて奥底に鈍く輝く相貌が見えた。
「つ、かん……だァ!」
『ヌウゥゥゥゥッ……!デヤァッ!』
勢い良く引き抜いた「それ」は、異質なシナンジュの中から取り出したと説明がつく程に異質で。だが、考えようと思えば幾らでも想像がつく程に簡素だった。
「何だこりゃ……エクガンの頭が付いた、剣?」
ダガーとブロードソードのちょうど中間ほどの刀身、サーベルと言って差し支えないサイズの剣。それは良いのだが、問題はナックルガード部分に刀身に合わせてダウンサイジングしたエクストリームガンダムの頭部が取り付けられている点だ。それはもう雑コラのように。
「とっ、とにかく!これであのシナンジュを倒せるんだな!」
『そのはず───』
強引に中の物を取り出される、言い換えれば無から有を生み出された事が大ダメージとなったのか、放心したように動きを止めるシナンジュ。なら後はトドメを刺すだけ、となった所でゼットに異変発生。厳密に言えば引き抜いたばかりのエクストリーム剣に。
『どぅえぇ!?』
「どうしたゼット!」
『こ、この剣……空間に固定されたみたいに……!動かない!』
「はぁ!?」
[我を手にして、貴様は何を成す?]
「剣が喋った……!?」
シャベッタァァァァァァァと古も古のミームは置いといて。コックピット内にも再現されたエクストリーム剣、そのナックルガードになっているエクストリームガンダムの頭が、急に流暢な問い掛けをしてきたのだ。しかも何のこだわりがあるのか、妙に声が良い。
[我は斬りたい時に斬るべき物を斬る]
『この野郎!速やかに動きやがりなさいよぉ!』
「ゼット!意思があるなら、NPDとも異なる生命体として扱った方が良い!俺はルカヤ、頼むエクストリーム剣!俺達に力を貸してくれ!」
握り締めたそれに必死に頼み込むルカヤだが、エクストリーム剣から返ってきたのは全く同じ問い。
[もう一度問う。我を手にして、貴様は何を成す?]
「……アレも、皆の好きって気持ちで作られたガンプラなのかもしれない。でも、今だけは!アレを倒して前に進まなきゃいけない!あの機体は、存在しちゃいけない宇宙の穴なんだ!」
[宇宙の穴、か……面白い!斬ってみるか!]
───アッヒャッヒャッヒャッ!
ゼットがパントマイムのようにエクストリーム剣を動かそうとしては駄目で、のコントとルカヤが思いを吐露している間に復帰していたシナンジュ。もう怒ったとでも言いたいのか、笑いながら全ての武装を一斉に解き放ちゼットを狙ってきた。
[フンッ……!]
が、それらの内一つたりともゼットに届く事はなく。突如として動くようになったエクストリーム剣のガンダムヘッド部分のマスクが開き、文字通りその中に吸い込まれていった。一瞬の後に開口したマスク部、及びデュアルアイから反撃のビームが放たれた。ちなみに目からもビームが出てるせいで絵面はシュールである。
───ヒッヒッハァッ!?
『す、スゲェ……』
「これなら行ける!」
[機を逃すな]
正に好機。エクストリーム剣に促されるまま、全力全開でスラスターを噴かしシナンジュに肉薄していく。吸収反射ビームの直撃でグロッキー状態になりながらも、その戦闘力は依然として高いままのシナンジュ。
だが、悠々とゼットのパンチやキック、ドッズライフルを防いでいた時と比べて明らかに回避の割合が多くなっている。それはつまり───
「コイツに斬られたくない、って言ってるようなモンだよなぁッ!」
タックルやチョップでゼットを引き離そうとするも、心に火が着いたルカヤとゼットの猛攻は止まらない。遂にその刀身がシナンジュの肩口を捉え、斬られた衝撃で背を向けさせられた瞬間にもう一太刀。どうにか離脱したものの、「宇宙の穴を塞ぐ針」の効果が出たのか、再び動きを止めてしまうシナンジュ。
『ウルトラ効いてるぞ!』
「あぁ、これで終わらせる!」
グリップエンドに備え付けられたスイッチ。それを押し込む事でエクストリーム剣の「必殺技」を解放する。
[カルネージ!]
[イグニス!]
[タキオン!]
スイッチを三度押し込み、タキオンモードで確定。逆手で保持していたエクストリーム剣を、通常のサーベルと同じく順手に握り直す。そして最後に親指の位置に来るスイッチを押し込む───
[絶望の轍となれ!]
「うぉぉぉぉぉッ!!!」
『シュアッ!!!』
首もとに一太刀、肩口から袈裟懸けにもう一刀、駄目押しに腰辺りを横一文字に切り裂く。【Z】状に三連続斬りを受け、限界など無いかのように暴れまわっていたシナンジュも終焉を迎えた。
───アッハハッ!ヒャッアッハッ!?
断痕から激しく火花を散らし、大爆発を起こした後にテクスチャの塵へと還っていったシナンジュ。マスダイバー側の特記戦力が一つ消えたのは間違いないだろう。
「勝った……!ゼット、エクストリーム剣!連戦で疲れるだろうが、このまま俺達も衛星に突入するぞ!」
『まだまだ動けるでございますよ!』
[ほう?まだ我の興味を引く物があるか]
デルタライズマキシマムへの強化変身を解かず、そのまま資源衛星への突入ルートを取ったゼット達。まぁここまで来たら後は何とでもなるだろうとか、正直今のシナンジュより強い敵なんてそうそう居ないだろうとか、ぶっちゃけ慢心してたのは否めない。
この後ブレイクデカールをばら蒔いていた一連の事件の首魁、シバ・ツカサが駆るブレイクビグ・ザムが出てくるんですけどね。それに関しては、原作主人公の奇跡の翼に頑張ってもらうという事で一つ。
『騒がしいお客人でしたね。まぁ、退屈しのぎにはなりましたので、感謝はしておきましょう。そろそろお嬢様の元に戻らせていただきます、有志連合の皆様も、マスダイバーの皆様も。それなりに健闘を祈っております』
いつの間にやら姿を消していたヴィシャス。コックピットの中で、メイド服に身を包んだ女性が独り言を溢した後。今度は本当にゲームからログアウトし、現実へと戻っていった事には誰も気付けなかった。
諦めるな(ネクサス並感)
【デルタライズマキシマム】
ガンダムゼット最強の姿。
極限の希望、愛、絶望を持つ三機のエクストリームガンダムのメダルを使って変身する。
ルカヤの思いに呼応し、type-レオスはヴァリアントサーフェイスに、ex-機は∫エクストリーム ゼノ・ヴァリアントへと更なる強化が成される。
特殊能力は後述のエクストリーム剣ことex-カリバーに集約されており、機体スペックが極限向上しているだけというのが特徴。簡単に言えば「ハチャメチャに強くなっただけの本体」である。
【ex-カリバー】
シナンジュの虚無空間にサラの因子が触れ、それをゼットとルカヤが引き抜いた事で誕生したイレギュラーELダイバー。
見た目はクソコラの如くエクガンの頭がナックルガードに付いたサーベル。頭の向き的に逆手持ちがデフォルトであり、必殺技を放つ際に順手に持ち変える。
明確な自我があり、「斬りたい時に斬るべき物を斬る」とは本人……本剣の弁。
グリップエンドのスイッチを押し込む事で必殺技を発動でき、一回でカルネージモードの極太照射ビーム「ゼスティウムブラスター」。二回でイグニスモードのビームビット「ゼストファンネル」、三回でタキオンモードの高出力斬撃「ゼストリームスライサー」。四回でミスティックモードの全てを無に帰す羽ばたき「Z光蝶」を放つ。
【ヴァニティシナンジュ】
有志連合、そしてゼットの前に立ち塞がったブレイクデカール搭載機。元になったシナンジュやスタインとも異なる深い青の塗装が特徴。全身に発光器官のようなクリアパーツを持ち、ここからビームを放つ事も可能。
頭部は鐘の音を発する音響兵器になっており、モノアイやデュアルアイ、アンテナといったモビルスーツをモビルスーツたらしめている一切のパーツが存在しない。
ゼットの記憶にある「虚空怪獣」「宇宙の穴」に非常に似通っており、偶然か、ブレイクデカールに別世界の存在が入り込んだかは定かではないが、強いエネルギーを発する存在に惹かれて動くという性質をしている。
【ヴィシャス乗りのメイド】
(原作:お嬢様がGBNに居るわけないだろう!)
退屈を何よりも嫌う女性。
マスダイバー陣営として参戦してきたのも、途中で脈絡なく裏切ったのも「面白そうだから」。
お嬢様と呼ぶ主が居るらしい。