まぁ、似たようなアレだから。
偽天使と電脳世界
『テヤッ!』
我らこそ救世主。
そのはずだった。赤と紫を纏う巨人が居なければ。愚かにも滅びの道を往く人類を導き、やがて来る闇から救い上げてやろうというのに。
『タァァァァッ!!』
二度目のチャンスをやった。門を開き、我らの威光を見せれば、一度目で間違えた人類でも気付くはずだ。発達した人類の技術を利用し、彼の巨人を悪魔に仕立て上げた。これで誰も力を貸そうとしない。あとは天の門を開き、呼び込んだ同胞と共に君臨するだけ。だというのに───
『シュアッ!』
貴様は何処まで邪魔をする気だ。もはや貴様を信じる者など居ないというのに。まぁいい、ならば圧倒的な力の差をもって理解させるだけの事。
『フンンッ・・・ハッ!』
何故だ・・・何故立ち上がる。何故理解しない。何故貴様に光が向けられる。何故貴様に祈りが届く。我らこそが正しき・・・我らこそが・・・何故だぁぁぁぁ!!!
『デュアッ!!!』
▽▲▽▲▽▲
「何故だろうなぁ・・・」
画面の向こうで爆散する目に優しくない金ピカのモビルスーツ。目に優しい色合いの方が放った、なんかめっちゃ名前長くてスゴい弾丸に貫かれて撃破されたのだ。金ピカに乗っていたダイバーの迫真「何故だぁ!」に届かぬ相槌を打ち、別の動画を探し始める。
「んー・・・ん、これとか面白そう」
手元に開いたコンソールにG-TUBEを映し、面白そうと判断した動画を手当たり次第視聴している少女。特定の誰か同士を指定した試合、ではなくセントラルエリアでランダムに選ばれ、俯瞰視点で流されているバトル映像である。アカウントを持っていれば、セントラルの大画面スクリーンではない代わりに自分のコンソールで閲覧が可能な映像。次に少女の画面に映ったのはやたらゴテゴテしたガンダムと、同じくゴテゴテしたザクのバトル映像だった。
「ふるあーまーがんだむ・・・てぃーびー版?ふるあーまーってもっと緑色じゃなかったっけ。ザクも赤いのにシャアじゃないし・・・稲妻の方?」
恐らく最初のフルアーマーガンダム。いわゆるMSV版の事を言っている少女。デブリが多数浮かぶ暗礁宙域で激闘を繰り広げているのは、てぃーびー版ではなくサンダーボルト版のフルアーマーガンダムと、シャアでもジョニー・ライデン専用でもない赤いザク、サイコザクである。イオVSダリルの死闘を彷彿とさせる対戦カードに、知識不足で困惑しながらも目を輝かせている。
「おっ!鎧を脱いだ!どっちも頑張れー!」
増加装甲と追加武装をパージした両者。二連装のビーム砲ごと右腕を吹き飛ばされ、左手でビームサーベルを抜きながら突撃するガンダム。致命傷を与えられなかった事に焦りながらもヒートホークを構え、ガンダムを迎え撃つ姿勢のサイコザク。
「・・・っ」
十秒と経たない内に、文字通り激突した両者。画面の向こうには、ヒートホークで頭部を斬り飛ばされたガンダムと、サーベルでコックピットを貫かれたサイコザクの姿があった。ガンダムが頭部を失うのは原作と同じだがゲームの試合としては───
「おぉー!ガンダムが勝った!」
コックピットを貫いたフルアーマーガンダム側の勝利である。ポケットの中の戦争のNT-1対ザクⅡ改に似た形で決着となったサンダーボルト宙域のバトル。今頃ダイバー達は機体を降り、健闘を称え合っているだろう。
「あぁ~今日も良い戦いが溢れていたなぁ~。我は満足だ!」
コンソールを閉じ、座っていたソファに勢いよく寝転がる少女。着用している修道服がはだけているが、彼女を注意する人間は居ない。
「ふあぁ・・・ねっむ」
大口を開け、だらしなく欠伸をする少女。このまま一眠りしてしまおうか、などと考えているが、GBN内で睡眠を含めて意識を失えば強制ログアウト一直線である。そう、普通のダイバーなら。
「はぁ・・・あっ、やべー・・・今日まだ外出てないじゃん」
心底ダルそうに起き上がる少女。先程までのキラキラした瞳でバトルを観戦していた少女はどこに行ってしまったのか。
「よいしょっと・・・いきますか・・・」
壁に雑に立て掛けられていた長方形の何かを担ぎ、玄関へと向かう。大あくびを隠す気もなく、猫背気味の姿勢で外出していく少女。その先と目的は───
▲▽▲▽▲▽
「救いー、救いはいらんかねー。汝の罪を赦す救いはいらんかねー・・・くぁ・・・ねむ」
セントラルロビーだった。そして何をしているのかね。
「救済はいらんかねー。今なら救世主でも可ー」
救世主の安売りをするな、とどこぞの殲滅爺さんがプラズマダイバーミサイルを担いで突撃してきそうな言葉。先程、マイルームと書いて楽園と読む部屋を出てきた少女である。長方形の何か──恐らくセイバーガンダムだろうイラストが描かれた手持ち看板をこれまたやる気無さげに掲げ、救いだの救世主だのと宣伝している。再三言うが、やる気は全く感じられない。
「ふぁ・・・ん、ユアーナじゃん。こんな時間までお疲れー」
「キリィ様。ありがとうございます」
邪魔にならない程度に、ロビー内をあっちへフラフラこっちへフラフラしていた少女。いつの間にか壁際まで寄っており、人形傭兵のユアーナが近くに居たらしい。
「ねむ・・・ユアーナはよく疲れないな。誰か依頼するまで立ちっぱだろ?」
「GBNなら肉体的な疲労はさほど気になりませんので」
「だとしても精神的な部分が悲鳴を上げると思うんだが・・・お前ほんとに人間か・・・?」
「一応、分類としては」
「一応って・・・」
ユアーナ本当に人形説を強く提唱したい修道服の少女こと【キリィ】。ユアーナとはロビーをフラフラしている時に知り合い、そこから何度か会話をして今の関係に至っている。話す度に自分の知る人間と本当に同じ種族なのか、確信が無くなっていくのだが。
「人間がお前みたいなのばっかりだったら楽だったのかな・・・」
「?」
無機質に首を傾げるユアーナ。遠い目をしながら思いを馳せるキリィ。彼女の言う【楽だった】とは何を指しているのか、さすがにユアーナでも理解できていない。
「まぁお前みたいなのばっかりでも、それはそれでつまらんが。やはり我らを心から崇め奉る者でなければ。そして邪魔者が居なければ・・・」
「お手伝いいたしましょうか?キリィ様の求める信者にはなれないかもしれませんが、敵対勢力の排除ならお力添え出来るかと」
「っ・・・大丈夫だ。手勢が必要な時はお前に声を掛けるさ」
冷静に、無感情に、正常に狂った瞳を向けるユアーナの言葉で我に返る。今は堕落しきった虚ろな命に甘んじているが、かつての遺恨はけっして消えないだろう。そして消すつもりも無い。今のように、ふとした切っ掛けで思い出してしまう事もある。
(人では勝てない相手だからな)
キリィの脳裏に浮かぶのは人智を超越した存在。もしこの世界の理に修正された姿になっていたとしても、ユアーナを加えただけで勝てるかどうか。
「ではな」
「はい。ご利用をお待ちしております」
これ以上の妄想は詮無い事だと、壁に預けていた背を離しユアーナに別れを告げるキリィ。デイリーノルマも充分やったし部屋に戻って寝るか、などと考えていた矢先に何かに気付く。
「はぁ・・・つくづく愚かで欲深いな、人間は」
それは人の声。それは愚者の声。それは偽善者の声。そして欲深き罪人の声。心底呆れたと言わんばかりの溜め息を吐き、楽園へと向けていた足を別の方向へと向けるキリィ。向かう先は欲望と闘争の戦場───ヴァルガである。
「助ける義理は無いが・・・我は今、虫の居所が悪い。八つ当たりさせてもらうぞ?人間よ」
▽▲▽▲▽▲
わたしは何をしてるんだろう?
逃げている。そう、逃げているんだ。
何から?
『逃げ足だけは一人前だねぇ?さっさと墜ちてくんないかなぁ!』
友達からだ。
ううん。友達だと思ってた敵から、か。
自分でも驚くほどに回想が捗る。アバター───ダイバールックだっけ。仮初の体は泣き喚いているのに。なんで、どうして、やめて、と。恐らくこの世界じゃこんな事は珍しくもないんだろう。騙すのが得意な玄人と騙される素人。何も知らずに飛び込んできたわたしの方が悪いんだろう。
『ったく・・・しぶといなぁ。本当に初心者かよ』
彼女の悪態が耳に届く。やられて楽になった方がこんな苦しみを味わわずに済むという事は理解している。これがゲームで、このロボットが爆発しても本当に死ぬ訳じゃないという事も。でも体が動いてしまう。
『でもさぁ、どんなに逃げ回ってもさぁ・・・誰も助けになんて来ないんだよねぇ!』
ここがそういう場所なのはなんとなく理解していた。わたしみたいな初心者が来るべき場所じゃないと。そしてそんな場所だからこそ、こういう事に使われてるんだろうと。
今わたしに出来る事は、必死に操っているコントローラーから手を離して諦める事。その結果は惨めな敗北。裏切られた、こんなはずじゃなかった、と叫んでも誰も相手にしてくれない。見抜けなかった、知らなかったお前が悪いと言われて終わり。現実で問い詰めても「たかがゲームの話」と切り捨てられるだけ。むしろそんな事で騒ぐ女として、白い目で見られるのはわたしの方。
もう一つは、このまま逃げ続ける事。その結果は分からない。親切でお節介な誰かさんが助けてくれるかもしれないし、結局捕まって手を焼かせたとして更に酷い仕打ちをされるかもしれない。むしろその可能性の方が高い。
『チッ・・・ねぇ、諦め悪すぎでしょ?ってか、援護ぜんぜん飛んでこないんですけど!働けよザコ傭兵!』
でも・・・でもだよ。悔しいじゃん。騙されてたとはいえ、初めてガンプラ買って、組み立てて、友達と一緒に現実じゃできない冒険をするって夢見て。ガンダムは知らないけど、棚の中に見付けて可愛いって一目惚れしたこの子───ファルシアだって可哀想だよ。
『パターン、読めたんだよッ!』
「うぐっ!?」
当てられた。コックピットが黄色く染まってる。ファルシアの左足が壊れたって表示が出てる。乗ってた土台も遠くに飛ばされちゃった。
『ほんっと手こずらせてくれてさぁ・・・さっさと墜ちてくれてれば、もう一人くらい潰せたんだけど?稼ぎの予定狂っちゃったじゃん・・・さぁ!』
「ぐうっ!───ひっ」
視界が赤く染まる。この子が、ゲームが教えてくれてるんだ。危険だって。お腹の辺りに鉄の塊が突き刺さってる。振り向かなきゃよかった。
『あれ?・・・あー、AGEの敵は頭がコックピットなんだっけ?最後までめんどくさいなぁ』
「ひっ、うっ・・・あっ、あぁぁぁぁ!!」
『うわっと、残念でしたぁ』
当たってるのに倒せない。何で───
『バルバトスにビームは効かないんだよねぇ・・・ぷっ、くくっ!アハハッ!必死になっちゃって可愛いねぇ!その機体選んでくれて良かったよぉ!鉄血とは相性最悪の機体使ってくれてさぁ!』
悪魔が笑っていた。
『じゃあとりあえず、今はバイバーイ』
長い銃を捨てて背中の刀を抜く悪魔。見せ付けるように頭上で振り、逆手に持ち替えたそれの切っ先はファルシアの頭に向けられていた。
あぁ・・・結局こうなるんだ。やらなきゃ良かった。来なきゃ良かった。こんな世界───
『ガッ!?』
「え・・・?」
悪魔が吹き飛ぶ。倒れているファルシアを通り越した先の地面に倒れ伏す。互いに何が起きたのか分かっていない。わたしは何もしてないし、彼女が自爆した訳でもなさそう。
『お前が首魁か?全く・・・手こずらせてくれたな』
先程の彼女と同じセリフを、今度は彼女に向ける誰か。
「ぁ───」
たまたま視線が合った。悪魔が立っていた所のさらに向こう。翼を広げ、地上のわたし達を見下ろしている何かが居た。
「てん、し・・・?」
わたしが見たテンシは、感情の見えない無機質な顔をしていた。
▲▽▲▽▲▽
第四形態のバルバトスが吹き飛んでいく。メイスが突き刺さっているファルシアの視線───もとい、ファルシアを操るダイバーの視線は天使のような機体に釘付けだった。
『キリ・・・』
(そんな情熱的な目で見られるのは久しぶりだな)
視線の先の天使───【キリエルロイド】から直接音声が発せられる。そしてその鳴き声のような一言に含まれた本来の言葉は、誰にも届く事なく消えていく。このGBNで、ほんの一握りのダイバーしか知らない存在と同じように。そう、かのゼットのように。
『てん、し・・・?』
『!・・・キリィ・・・!』
(ふっ・・・フハハハ!アッハハハハハ!そうか!お前にとって我は天使か!)
誰にも聞こえぬ声で笑い、ゆっくりと下降を始めるキリエルロイド。大破したファルシアの前に降り立ち、翼を折り畳んで膝をつく。
『キリ』
『えっ・・・?』
ファルシアのコックピットが存在する頭部に右手を伸ばすキリエルロイド。困惑するファルシアのダイバー【シフル】だったが、自分でも気付かない内にコックピットを解放していた。差し出された掌に乗り、天使と表した機体のコックピットへと移される。
「わたし・・・何で」
『そこで見ているがいい。我の戦を』
「えっ、あ、あの・・・あなたは」
『食らえぇぇぇぇ!!!』
突如聞こえてきた何者かの声に驚くシフル。答えが返ってくる前に怒号が響く。復帰し、不意を突こうと回り込んでいたバルバトスが太刀を投げ付けてきたのだ。
『素人め。不意打ちはもう少し静かにやったらどうだ』
サイドスローで投擲された太刀は、最小限の動きでは食われる即席の範囲攻撃になっている。それをバック宙で回避し、着地も危なげの無いキリエルロイド。直ぐに左手を顔の前に翳す。
『なっ・・・!』
『投げた後は勢いか。やはり素人だな』
バルバトスの右ストレートパンチを止めていたのだ。それも容易く。完璧に着地したとはいえ、多少は体勢が崩れているにも関わらず。バルバトスは全力でブーストを噴かしていたにも関わらず。機体のパワーが桁違いなのか。
『一発は一発だ。返すぞ』
文字通りのお返しとして右ストレートを繰り出すキリエルロイド。驚愕に動きを止めてしまったバルバトスは、もろにその一撃を受けてしまう。顔面の左半分を損壊しながら再び吹き飛ぶバルバトス。ビーム耐性と強靭なフレームを持っていても、扱う者の技量が違えばここまでの差が出るのだ。さらに言えば機体のクオリティも段違い。
「すごい・・・」
その圧倒的な力を特等席で体感しているシフル。混じり気の無い感想に気を良くしたのか、キリエルロイドがさらに仕掛ける。
『キリァ!』
『があっ!?』
バルバトスが吹き飛んだ先に連続バク転で移動するキリエルロイド。最後の一回で大きく跳躍し、起き上がりかけていたバルバトスに蹴りを浴びせて押し倒す。
『いっつ・・・何だよ・・・何なんだよ!急に出てきて人の獲物かっさらって!』
「獲物・・・」
『横取り天誅何でもアリ。無法こそヴァルガの法だろうに。そんな事も知らずに使っているのか?』
乱入に憤り、改めて悲しみ、再び呆れる。三者三様の反応を見せるコックピット模様。ちょうど胸の辺りを右足で抑えつけられ、何とか立ち上がろうともがいているバルバトス。完全にパワー負けしており、ダメージを与えて退かせようにも、太刀、メイス、滑腔砲すべて手元を離れ、第四形態ゆえに内蔵武装も無い。
『ちょっと傭兵ども!働いてよ!依頼主の危機よ!』
「まだ、来るの・・・?」
『援軍は来ないぞ。我が減らして、親切な人間も手伝ってくれたからなぁ』
◇◆◇
『ぐおぉぉぉっ!?』
『こいつ!ぐあっ!』
『チクショウ!何が楽な仕事だぁぁぁぁ!!!』
天使と悪魔が踊る舞台から少し離れた地点にて。1on1のキリエルロイドvsバルバトスよりも凄惨で圧倒的な蹂躙が行われていた。スローターダガーやジム・スパルタンといった機体群が、たった一機のモビルスーツに撃破され続けているのだ。
『何で・・・こんな時に戦争屋が・・・!』
「じゃあな、初狩りの一応同業者。テメェらみたいなのが居ると将来の顧客が減るんだよ」
『クッソォォォォォ!!!』
指揮官と思われるストライクノワールが爆散する。撃破の喜びも高揚も無く、ただただ鬱陶しいとばかりにプラズマソードを振り払ったのは青いAEUイナクト。戦争屋と呼ばれた少女───傭兵ダイバー アリムが搭乗するカスタム機、全領域対応型イナクトことジーニアスイナクトである。
「チッ・・・数だけで歯ごたえが無ぇな。面倒な連中を押し付けやがって、覚えてろよキメラ野郎」
親友との共闘で、所持機体の一つであるアルケーへの搭乗が多くなっているアリム。たまには機嫌とってやらねぇとな、等と軽く考え、久々にイナクトを駆ってヴァルガに出てみればコレである。暴れ回っていたベースすら不明な機体を目撃し、面白そうな相手と思ったのが運の尽き。キメラガンプラに悪い意味で有名な傭兵フォースを擦り付けられたのだ。
「配信には間に合わせなきゃなぁ・・・ってワケで」
『『『ヒエッ』』』
「まとめてお陀仏ってなぁ!」
◆◇◆
『ぐあぁぁっ!?ぐっ、くぅ・・・誰か、誰か助けなさいよ!』
『立場が逆転しただけでこれか。我の知る人間はもう少し強かったのだがな。そもそも比べるのが間違いか』
「あ、あの・・・天使、様?」
『幕引きとしよう』
キリエルロイドの猛攻で満身創痍のバルバトス。各部装甲は脱落し、ようやく拾い直せた太刀も役に立たない。まさに絶体絶命だった。コックピット以外には意味のある言葉として伝わらない言語の代わりに、機体の手首付近から生えるように備わっているブレードを起こす。これで終わりにする、と示すように。
『くっ・・・こんな、こんなぁ!』
『キリ!』
抵抗を諦め、逃走を選択したバルバトスのダイバー。推進機関を総動員して逃げるが、仕留めると決めたキリエルロイドが見逃すはずもなく。ブレードとは別の位置に装備されているロケット砲から砲弾を放つ。
『あっ、あぁぁぁぁ!火っ!燃えて───』
『この人間の怒りの炎、とでも思え』
指先からビーム刃を発振し、バルバトスを貫いて撃破するキリエルロイド。ロケット砲から放たれたナパーム弾で装甲の金属塗料が剥離し、装甲自体がいくつか無くなっているバルバトスに、この攻撃を防ぐ手段は無かった。
『かっ・・・はっ・・・』
空中で貫かれた姿勢のまま、データの塵となって消えていくバルバトス。キリエルロイドが着地し、血を払うように腕を振ってビーム刃を消した時には、バルバトスは既にヴァルガから消えていた。
「・・・」
『引くとしよう。災厄に巻き込まれると面倒だからな』
▽▲▽▲▽▲
「あの」
「くぁ・・・お休み前の良い運動になったな」
「あの!」
昼間よりダイバーが少なくなったセントラルロビーに大きく伸びをして体の凝りを解すキリィと、慌てて声を掛けるシフルの姿があった。
「ん?まだ居たのか人間」
「先程は助けていただき、ありがとうございました!」
「気にするな。ただの気まぐれだ」
「それでもです!」
涙を流し、困惑していた少女と今の少女では明らかに様子が違う。普通はあの状況への即応に対してマッチポンプではないのか、と多少の疑念を抱いたり、コックピットに姿が無かった事を不審に思うのが普通なのだが。訝しむキリィだが、振り向き視線を合わせて合点がいく。
(あぁ、この目は知っているな)
かつて扇動し、狂気を正気と勘違いさせた人間に似た目をしている。
「天使様、どうかお願いです。わたしに恩返しさせてください。救っていただいた恩に報いたいんです」
目の前の少女からは嘘や裏切りの匂いがしない。【死ねと言えば死ぬ】までは行かないだろうが、恐らく大抵の命令には従う。そんな気配がする。
(なら何をしてもらおう───ダメだ眠い・・・)
この少女を最初の巫女とし、こちらの世界で再びキリエル人の救いを広めるか───いやいや、アンシュを筆頭とした面倒な手合いが居るのを忘れたか。それにお菓子を貪り好きなだけジュースを飲んで、バトル動画を見ながらゴロゴロし、眠くなったら翌日の昼まで寝る最高の生活を捨てるのも・・・
キリィの中では天使の皮を被った悪魔と、清楚の皮を被った自堕落ELダイバーの思考が眠気も相まってごちゃ混ぜになっており、考えがまとまらない。しかもバトル終わりで疲労もしている。
「ふあぁ・・・そうだな・・・」
「天使様?」
「とりあえず・・・われをしんじょにはこべ・・・」
とうとう船を漕ぎだしたキリィ。元々ぐーたら時間を潰し、寝ようとしていた時に無理矢理体を覚醒させ、眠気が再発した所でバトルまでしたのだ。そろそろ限界らしい。
「寝所!?えっ、えーっと!?」
「あんないはするから・・・おぶれ・・・」
「はっ、はいぃ!」
そこみぎ、ちょっともどれ、やっぱひだり、と全く頼りにならないナビゲーションを背負いディメンションを走り回る初心者シフル。もうちょっと・・・と言い残して睡魔に完全敗北したキリィを必死に起こそうとするが、どんな良い夢を見ているのかニヤけるだけで一向に起きる気配が無い。
先程は慣れないバトルと裏切りで泣いていたシフルだったが、今度は別の意味で泣きそうになっていた。偶然ELバースセンターの職員に出会えた事で本当に泣いたのだが。
やったねキリちゃん!信者が増えたよ!
【キリィ】
ELダイバー。修道服の下にボディスーツという服装をした白髪の少女。その日の気分でショートヘアだったりロングヘアだったりする。
主に夕方から夜にかけてセントラルロビーを徘徊しており、救いだの救世主だのと怪しい勧誘まがいの事をしている。が、やる気は一切感じられない。
自堕落な生活を送っており、生産性の無いキリィにキレたアンシュから「1日1回は外に出ろ」と厳命された為、上記の宣伝活動を行っている。
その正体は異なる宇宙から紛れ込んだ精神生命体の残滓がGBNに流入し、ELダイバーとして再誕したモノ。元の意識とELダイバーの意識が融合しており、基本は誰に対しても柔らかい対応をするが、何かの拍子に急変し人間を見下すような態度になるなど情緒が不安定。ELバースセンターによる定期検診ではメンタルチェックが優先事項に設定されている。
【キリエルロイド】
キリィの躯体。運営やELバースセンターには【モビルドールキリィ】として登録されている。
何者かが製作したガンプラという訳ではなく、キリィが最初から搭乗していたという記録が残る謎の機体。アンシュとコーイチ曰く、「データを継ぎ接ぎしただけのミキシングではない」「初心者が一朝一夕で作れるクオリティではない」との事。
黒い装甲にグレーのラインが多数走り、胸部左側には常に点滅を繰り返すクリアパーツが埋め込まれている。頭部は瞳に当たるデュアルアイ・モノアイが存在しないという独特な形状をしている。それを見た者からは「無表情なモビルスーツ」と言われる。
バエルとデスティニーの改造と思われるスラスターウイングを備えており、パーツ間に飛膜のような青いビームを発生させて飛行する。
武装は指先から発振するビームネイル、手首から肘にかけて装備された可動式ブレードカッター、同じく手首に装備されたロケット砲(主にナパーム弾を使用)。さらに蹴りをメインとした格闘戦を得意とし、膝から下に青い炎のようなエフェクトを纏わせる事もある。
知る者は極少数だが、キリィ本人が機体になるという特殊な方法で運用される。一応コックピットは存在しており、本編のように誰かを乗せての戦闘も可能。
元々は精神生命体だった頃の戦闘形態であり、怒りの姿とも呼ばれていた。
【シフル】
初ログインで友人に初心者狩りされるという不幸な体験をしたダイバー。感性が独特なのか、危機的状況で幻視したのかキリエルロイドを【天使】と表した。
キリィに救われて以降は彼女の事を【天使様】と呼び慕うようになった。
白髪のロングヘアと対照的に淀んだ黒い瞳が特徴と言えば特徴だが、ダイバーの中では平々凡々も良い所。服装は黒とグレーのサイバースーツ。小文字ビルドダイバーズのメイが着用している物の色違い。
乗機は素組みのファルシア。
【モニエ】
シフルを狩るつもりだった悪質初心者狩り。前科三犯ほどやっており、偶然リアルで知り合いだったシフルがGBNを始めるという事で獲物として定めた。
報酬を用意して傭兵フォースを雇うなど多少は考えを回すが、基本的には典型的な小物。バトルの実力もそこそこ。
乗機はガンダム・バルバトス(第四形態)。
【アリム】
被害者。それなりに名の通った傭兵ダイバー。依頼が無い時は、チンパンのラストリゾートことヴァルガでバトルに明け暮れている事も。
キメラ野郎ことキリエルロイドことキリィに初心者狩りフォースを擦られ、全滅させたものの不完全燃焼気味だった。最推しの配信には間に合ったのでご満悦。
愛機を四機所持しており、今回はその内の一つである全領域対応型イナクト【ジーニアスイナクト】に搭乗していた。