GBN:ダイバーズコンピレーション   作:X2愛好家

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バレンタインデーキンケドゥゥゥゥゥゥ!
(キチーネ編以外も有りますのでご安心を)


それぞれのバレンタイン

【バレンタインデー】

愛の日だったり祭日だったりチョコレートを贈る日だったりする日。

 

ガンダムシリーズにおいてバレンタインといえば【機動戦士ガンダムSEED】で触れられた【血のバレンタイン事件】だろう。劇中の2/14、プラントの農業用コロニーユニウスセブンが地球軍の核ミサイルによって壊滅したという、登場人物の心に影を落とした事件である。

 

劇中設定は一旦置いて、「チョコレートを贈る日」という印象が定着している昨今。GBNにおいても季節のイベントを逃す手は無いとばかりにバレンタインイベントとチョコレートのアイテムが用意されている。

 

 

今回はGBNバレンタインデーの彼ら彼女らを覗いてみたいと思う。

 

 

 

【ダブル眼帯のヤベー奴】

 

(こっちもリアルと変わらないな)

 

ログインし、セントラルロビーに現れたTHE Bi-neは特に歓喜も落胆もせずにそんな思考をしていた。世間はすっかりバレンタインムード。チョコを渡してくれる相手どころか、知り合いそのものが極端に少ないTHE Bi-neことサビネ・タカトは、最初からバレンタインのチョコに期待も絶望もしていないのである。

 

「限定ミッションくらいは受けておくとしよう」

 

誰に聞かせるでもない独り言を呟き、ミッションカウンターへ向かうTHE Bi-ne。その少ない歩数の中で周囲を見渡すだけでも、天国と地獄というか落差が激しいというか。フォースなのかカップルなのかは分からないが女性ダイバーが男性ダイバーにチョコを渡していたり、男性しか居ないフォースと思われる数人がこの世の終わりみたいな表情で肩を組んで何処かへ移動していたり、自分と同じく淡々とミッションを受注していたりと、分かりやすく反応が違うので見ていて面白い。

 

「まずは肩慣らしだな」

 

そう言ってバレンタインミッションの前に、クロスボーン系のミッションを受注しようとするTHE Bi-ne。準備運動をしようと考えているらしい。

 

「GBNへようこそ。本日は限定ミッションが受注可能となっております」

 

ミッションカウンターで受付をしているNPD。イベント時の定型文になっている以外は変わった所が無い。そんなバレンタインミッションの案内を一旦スルーし、鋼鉄の7人を再現したミッションをソロで受注しようとするTHE Bi-neだが───

 

「君は・・・バレンタインにもクロスボーンかい?」

「何の用だ?ジェーン」

 

受付を中断し、カウンターから離れるTHE Bi-ne。彼に呆れながら話し掛けたのはジェーン・ケドゥ。劇中にて重傷を負った際のキンケドゥ・ナウと同じ格好をした女性ダイバー。クロスボーン・ガンダムX1のカスタム機を愛機としており、X2を愛するTHE Bi-neのライバルでもある。

 

「せっかくのバレンタインにまでクロスボーンにこだわるとは、と呆れていた所さ」

「私が何のミッションを受けようが自由だろう。それに限定ミッションは後で受けるつもりだが?」

「はぁ・・・情緒の欠片も無いな君は。そんなだから女性どころか人が寄り付かないんじゃないかな?」

 

人が寄り付かないのは両目にゴーグル風の眼帯を着用している出オチネタみたいなダイバールックと、戦闘時に発揮されるキチーネこと狂気のザビーネロールが原因の九割を占めているからだと思うが。

 

「シャフランダムにも手を出しているそうじゃないか。余り他人に迷惑を掛けるものじゃないぞ」

「何度も言わせるな、貴様は私の母親か。むしろシャフランダムに関しては私の指揮で勝利した試合も有るくらいだ」

「へぇ?それは知らなかったな」

 

喧嘩する程仲が良い。とは言うが、この二人の場合だと微妙にギスギスした雰囲気になるのだ。

 

「少しはバレンタインを楽しむ気は無いのかい?チョコの数に一喜一憂するとか、幸せそうなカップルを呪うとか」

「待て、それはバレンタインを楽しむと言えるのか?」

 

例えに微量の悪意が混じっている。バレンタインに何か恨みでもあるのだろうか。

 

「ふふっ・・・まぁ君の言う通り、何をしようが本人の自由だがね」

「それなら最初から話し掛けるな。さっさとベラ様にチョコを渡しに行くのだな。私はこれから鋼鉄の貴族となる使命があるのだ」

「・・・?あぁそうだった。君に渡そうと思っていたんだった」

 

THE Bi-neの言葉に一瞬キョトンとなるジェーン。そして思い出したように、というか本当に忘れていた本題を告げた。その言葉に今度はTHE Bi-neが宇宙猫と化す。

 

「貴様が?私に?チョコだと?悪い冗談だな。DUSTに何の脈絡も無くザビーネが登場する展開の方がまだマシなジョークだ」

「酷い言われようだな・・・そんなあり得ない展開の方がマシとまで言うか」

「私としてはザビーネが登場するだけで感極まるがな。特に───」

「ストップだ。君がザビーネとクロスボーンを語ると長くなるだろうから」

 

THE Bi-neのクロスボーントークを始まる前に終わらせつつ、ストレージから赤い包みの何かを取り出すジェーン。ご丁寧にリボンで飾られているそれは───

 

「これだ。君にあげよう、勿論義理だけれどね?」

「本当に用意していたとはな・・・どういう風の吹き回しだ?」

「意中の相手への本命でなくとも、普段の感謝を伝えたり、友人同士で贈りあったりするだろう?」

「いや知らんが」

「全く君は・・・まぁそういうタイプもあるという事だよ」

 

THE Bi-neのリアルが別の意味で気になり始めたジェーン。常識や世間の流行を投げ捨ててクロスボーン・ガンダムとザビーネ・シャルに全振りでもしているのだろうか。

 

「まぁ、貰えるなら貰っておく。有り難みは特に感じないが」

「その言葉を聞いて渡す気が失せたよ・・・まぁいい、ホワイトデーのお返しを期待しておくよ」

「返さねばならんのか?」

「本当に君って奴は・・・」

 

ただただ呆れるしかないジェーンと、やはり人間関係は面倒だな等と考えているTHE Bi-ne。この後折角だからと共にミッションを受けたらしい。どれだけギスギスしていようと最終的に元の曖昧な距離に落ち着くのがこの二人である。

 

ちなみに周囲からは面倒な彼氏となんだかんだ尽くす彼女という関係に見えており、ジェーンが冗談めかした「カップルを呪う」対象に自分達がなっていたらしい。

 

 

 

【戦争好きな天才(自称)】

 

(油断してた・・・完全に失敗した)

 

セントラルロビー外周部のベンチに座り込み、頭を抱えて絶望しているのはアリム。そこそこ有名な傭兵ダイバーであり、悪名高きヴァルガでチンパンやモヒカンを屠る側の強者なのだが、今の彼女に強者の威厳やオーラは全くと言っていいほどに無い。負のオーラは見えるが。

 

(あぁ・・・こんなに落ち込んだのいつ以来だろ)

 

アリムのフレンドであり、G-TUBERとして活動しているイオリ。そんな彼女が行う、厳密には現在行っているバレンタイン凸待ち配信にて、先着5名募集しバトル後に【強敵(とも)チョコ】を渡す。というイベントがあるのだが、ここまで言えば分かるだろうか。

 

(あぁもう・・・最悪だ・・・)

 

そう、募集で外れたのである。さらに言えば配信開始の時刻を間違えて記憶してしまった為に、応募すら出来ていない。チャンネル登録してから一度も視聴を逃した事は無いが、今回はさすがに相手が悪かった。イオリのファンとしての年季が違う他のリスナー達。配信開始の通知を見て慌ててコメント欄に参加するも時既に遅し。栄光のチケットを勝ち取り、イオリとのバトルへ意気込みを見せる五人の勇者。

 

(あれ?何で泣いてるんだろ・・・)

 

とうとう涙を流すアリムの目。一応、仕方ない理由として、配信開始時刻の直前まで傭兵として依頼をこなしていたのだ。それも配信時刻を間違えていた為に、依頼を受けても大丈夫と判断したアリムの自己管理不足になってしまうが。

 

(いおりぃ・・・)

 

今頃、挑戦権を得たリスナーと激闘を繰り広げているだろう。戦っている時に発露する凶暴な笑みを浮かべて。そしてグッドゲームと優しい笑顔を見せるのだろう。

 

(チョコ・・・イオリのチョコ食べたかったなぁ)

 

たかがゲーム内のアイテム。感覚が有るとはいえ、現実の身体に影響が出る事など無い偽りの甘味。けれど、アリムにとっては───

 

(もういいや・・・暴れてスッキリしよ)

 

結局いつもの結論。と言いたい所だがアリムの瞳に光は無く、足取りも覚束ない。かなり危うい雰囲気を纏っていた。そのままミッションカウンターで何かしらのミッションを受注するアリム。本人もどんなミッションを受けたのか分かっていない。

 

 

【宇宙のバレンタイン-止血-】

それがアリムが受注したミッションであり、最大8人で参加する規模縮小版レイドバトルである。

【宇宙のバレンタイン-流血-】と対になっているPvPでもあり、ユニウスセブン宙域を舞台に8vs8のプレイヤー戦に加え、核攻撃を行おうとする地球連合のMAとそれを迎撃するザフトのMSが入り乱れる、情報が出回ると同時に「悪化したシャフランダム」「シャフレイド」等と呼ばれる事になったミッションである。

 

格納庫エリアからバトルフィールドへの転送ゲートを潜り、出撃していく機体。虚ろな瞳のままアリムも出撃シークエンスに入る。

 

「ゲニーアルケー・・・いく」

 

 

 

『青き清浄なる世界の為にぃぃぃぃぃぃ!!!』

『青き清浄なる世界の為に・・・!』

『青き清浄なる世界の為に』

『ASST!』

『あおせかた!』

『青き清浄なる世界の為に・・・』

『青き以下略ぅ!』

『青き清浄なる世界の為にヴェイガンは殲滅する!』

 

 

『何だコイツら!?』

『フォースで来たのか?』

『おのれナチュラル共!やらせはせんぞ!』

『モウヤメルンダ!』

『見事に地球連合機ばっかだな』

『ブルーコスモスの回し者しか居ない』

『ヴェイガンが何をしたっていうんだ・・・』

「・・・」

 

なぁにこれぇ。

アリムが参加したバレンタイン戦はかなり変わった顔ぶれが揃っていた。【青き清浄なる世界の為に】を掲げて攻め込んで来たのは一機を除いて、機動戦士ガンダムSEEDシリーズの地球連合側の機体群で構成されたフォース。

IWSPストライク、ガンバレルダガー、ソードカラミティ、ネオ専用ウィンダム、ヴェルデバスター、デュエルダガーフォルテストラ、ブリッツ、そして何故かガンダムAGE-1フルグランサ。

 

対してアリムのいるザフト側はバラバラな構成。

グフイグナイテッド、ベルティゴ、ジンハイマニューバ2型、ガブスレイ、ヤクト・ドーガ、サイコ・ザク、G-ルシファー、そしてアリムのゲニーアルケーガンダム。

ザフト側はシリーズこそ違えど、アルケー以外はモノアイ式の頭部が共通しており、グフとジンは年代が異なるがザフト製のMSでもある。

 

ヴェルデバスターのバヨネット装備型ビームライフルと、ガブスレイの肩部メガ粒子砲からほぼ同時に放たれたビームによって戦いの幕は切って落とされた。

 

『核メビウスも来てるぞ!』

『あれ絶対に元ネタよりも多いよな!?』

 

ユニウスセブンの悲劇を元ネタとしているにも関わらず、核ミサイルを搭載したMAメビウスの数はSEED本編の最終決戦であるヤキン・ドゥーエ攻防戦より若干少ない程度に増えている。一応それに合わせてザフト側のNPD搭乗のジンも増加してはいるのだが。

 

「アイツらは私がやる」

『はぁ!?アイツらって向こうのダイバー全員!?』

『あんた傭兵アリムか?流石に1対8は無理だろう』

「今私は自己嫌悪と苛立ちでどうにかなりそうなの。近くに居たら巻き込みかねないから退いてて」

 

そう言ってアルケーを前に出すアリム。イオリとのバトル用とお披露目も兼ねて【ヤークトアルケー】に換装していたのだが、今目の前に居るのはイオリではない名も知らぬ誰か。

 

『おい!勝手に』

『いつもと様子が違うな・・・仕方ない、ジンとグフの奴は一緒に来てくれ。それ以外はNPDと一緒にメビウスを頼む』

『了解!』

『ナチュラルの傀儡共!此処で息の根を止めてくれるわ!』

 

ガブスレイのダイバーがジンとグフを引き連れ、アリムの援護に回るらしい。核ミサイル搭載メビウスにはオールレンジ攻撃が可能な機体と重装備のサイコ・ザクを当てる魂胆のようだ。

 

 

「どけ・・・」

『青き清浄なる世界の為───』

「どけ・・・!」

『青き清浄なる世界───』

「どけぇ!」

『青───』

 

重くなったはずのヤークトゲニーアルケーで敵陣に斬り込み、瞬く間に三機撃墜するアリム。その光景を見てガブスレイのダイバーは唖然としている。

 

「青は・・・青は・・・!」

 

アリムの脳裏に浮かぶのは大切で大事な友達。【私の】イオリ。

 

「青はぁ!!!私達の色なんだぁぁぁぁ!!!」

 

絶叫と共に自分達の青をトランザムで赤く染め上げ、加速するアルケー。一方的な蹂躙はものの数分で終わりを告げたのだった。

 

 

 

「何やってんだろ・・・アタシ」

 

再びロビー外周部のベンチに腰掛けているアリム。一人称を意識的に切り替え、私からアタシになっているあたりいつもの調子に戻っているらしい。ミッションはアリムが一人で敵対陣営のダイバーを全滅させた事により一気に戦局が傾き、他のザフト側ダイバーの活躍でメビウス隊も全滅。血のバレンタインにならないifが訪れ、アリム達の勝利となった。

 

思いっきり暴れて正気に戻ったのか、ミッション終了後に連合側ザフト側双方のダイバー達に自身の戦いを謝罪し、今に至る。

 

(記憶がちょっと曖昧なんだよなぁ、ヤバい事口走ってないよな?)

 

私達の色とか言っていたが、連合側はゲニーアルケーのカラーリングとブルーコスモスを掛けたジョークと勘違いし、ザフト側も深くは詮索しないと言ってくれたので大事にはなっていない。ちなみにガブスレイのダイバーだけはイオリの配信を見たことがあるため、薄々気付いてはいるが口には出していない。

 

「コレどうすっかなぁ」

 

アリムの手には青い包装紙と黄色のリボンでラッピングされたハート型のチョコ。ザ・バレンタイン用とでも言うべきお手本のようなチョコレートだった。バレンタインイベントのミッションである為、参加賞としてこのチョコが貰えるのだ。

 

「まぁテキトーに食べるか」

「アリムさん?」

「えっ・・・イオリ?」

 

アリムの前に現れたのはイオリその人。

 

「なん、で、配信してたんじゃ」

「バトルは全部終わりました。リスナーさんが、そういえば今日はアリムさんが居ないんですね?って」

「あ、えっと、そうなんだ」

 

わざわざ自分を探しに来てくれたのは嬉しいが、バトルは終わったという発言に、気を病んだ原因を思いだし複雑な胸中に戻ってしまうアリム。そんな彼女にイオリは【赤い包みの何か】を差し出す。

 

「はい、ハッピーバレンタインです」

「・・・へっ?これ、チョコ?でも戦って」

「普通に書いた友で友チョコですよ?大事な友達への分はちゃんと用意してます」

 

【大事な友達】その言葉がアリムの中で何度も反響する。

 

「イオリぃ!」

「きゃっ」

 

自分でも訳が分からないままイオリに抱き着くアリム。イオリも驚きはしたものの抵抗する素振りは無い。

 

「どうしたんですか?今日は甘えたい日なんです?」

「もう少しこのまま・・・」

「ふふっ、分かりました」

 

 

この後、報酬アイテムで悪いけど、とアリムもミッションで入手したチョコレートをイオリに渡し友チョコ交換となり、良い雰囲気で終わりそうだったのだが。

 

「イオリ?それ、まさか・・・」

「それ?あぁカメラですよ?配信用の」

「はいしん・・・」

 

イオリの後ろをG-TUBE配信用のハロカメラが浮遊している。バトルは全て終わったとは言ったが配信も終了したとは一言も言っていないのだ。先程のやり取り全てを見られていた事を理解し、顔を真っ赤にしてしゃがみこんでしまうアリムだった。

 

 

 

アリムは感極まっていたが、イオリのチョコレートはナルミやクオンといったコラボしたG-TUBERにも贈られており、決してアリムだけが特別では無い、あくまで【友達】へのプレゼントである事にアリムは気付いていない。気付かない方が幸せかもしれないが。

 

 

 

 

【海の男、時々宇宙】

 

セントラルエリアのカフェテリアにて。二人の男性が席に着いていた。テーブルにめり込む勢いで突っ伏しているのがリット、そのリットの様子を呆れたように眺めているのがミズキリである。

 

「そんなに気ぃ落とすなよ・・・」

「もうダメだ・・・お仕舞いだぁ・・・」

「その言葉七回目だぞ」

 

リットが何故こんな状態になっているのか、簡単に言えばバレンタインのチョコが貰えていないのである。リットがリーダーを務めるフォース【テイクイットイージー】はリット含めて男性四人、女性二人という構成の小規模フォースであり二人の女性の内一人はリットの妹のリンカになる。もう一方の女性とフォース内の男性一人が最近お付き合いを始めた上にリアルでも会える距離らしく、今日はGBNではなくリアルでバレンタインデートなのだとか。一応、関係を打ち明けてくれた時にフォースメンバー全員で祝福はしたが。

 

「やっぱさぁ・・・悔しいじゃん」

「まぁ目の前で幸せそうにされたらな、でもリンカが居るだろ」

「そうだよ・・・そうだったよ」

 

『その歳になってまだ身内からチョコ貰えると思ってるの?なんかちょっと気持ち悪い』

 

「ってさぁ!アイツが最後の希望だったのにさぁ!とんだファントムだったよチクショウ!」

「クロスボーンの話?」

 

指輪の魔法使いの話。

 

「はぁ・・・どこかに傷心リットさんへチョコを渡してくれる日焼け肌にアロハ着た元気な女の子は居ないかなぁ」

「ガードフレーム呼んでいいか」

「冗談だって、そんなマジトーンで言わないでくれ」

「俺も冗談だよ、本気だったらコブラツイストの後にバックドロップだ」

「リンカのアームロックよりもヤバい件について」

 

本人は認めようとしないだろうが、すっかり保護者になっているミズキリ。そんなやり取りの中でリットも何とか立ち直り、声色も明るくなっている。

 

「やっぱダチと駄弁ると悩みが薄れるわぁ」

「お役に立てて光栄だよ」

「そういやシゼちゃんは?いつもならオレンジジュース注文してない?」

「さぁな、リンカと遊ぶって言ってたが」

 

兄であるリットも知らない内に仲良くなっているシゼとリンカ。ログインするなりリンカと共にミッション攻略へ向かったらしい。

 

「よーし!ならこっちは野郎同士バレンタインルーザー同士、仲良くユニウスセブンを焼こうぜ?」

「何だその不穏な単語は・・・」

 

宇宙のバレンタイン-流血-側にミズキリを誘うリット。原作好きなダイバー以外にも、こういったバレンタインの怨念を抱いて攻撃側であるユニウス焼きに参加するダイバーは意外と多い。

 

「まぁ特にやる事無いからいいけどよ」

「よしきた!そうと決まればカウンターのお姉さんへゴー!」

「もう受付NPDからチョコ貰えよ」

「それも考えた、でもいつもの対応されるだけだった」

「冗談のつもりだったんだが?本当にやるなよ・・・」

 

各々の会計を済ませ、座っていた席を離れる二人。丁度カフェテリアを出た辺りでミズキリに向かって走ってくる二人の人物。

 

「シゼちゃん・・・ちょっと、待って・・・!」

「ミズキリー!やっと見つけたぁ!」

 

シゼとリンカである。シゼは最早タックルのレベルであり、リンカはシゼに追い付く為に全力疾走したらしく呼吸が荒い。

 

「お前はもう少し他の奴の事を考えろ」

「リンカごめん!リット!ミズキリ借りてくね!」

「いい、のよ・・・はぁ、ふぅ」

「え?お、おう」

「ミズキリ!ログアウト!」

 

そう言ってミズキリの手を引き、ログアウトを促すシゼ。事情を知っているらしいリンカは疲労困憊でリットは状況が分かっていない。怪訝な顔でシゼに問い掛けるミズキリ。

 

「いきなり何言ってんだお前は」

「いーからいーから!早く早く!」

「だから事情を説明しろっての」

「おーねーがーいーだーかーらー!」

 

こうなったシゼは面倒極まりない。今までの経験からそう判断したミズキリはため息をつき、リットに向き直る。

 

「リット悪いな、今日は落ちるわ」

「えぇ?ユニウス焼きはー?」

「野郎がシゼみたいな事するとキモいだけだぞ」

 

先約のはずだったリット。シゼを真似し、冗談めかしてぶりっ子のような振る舞いをするが、言葉のアーマーシュナイダーが突き刺さった。シゼ絡みになると本当に容赦が無いのがミズキリという保護者である。

 

「早く!もう来ちゃうから!」

「何が来るんだよ・・・リンカ、リットの事よろしく」

「はい、ではまた。シゼちゃんもまたね」

 

息を整えたリンカにリットを丸投げし、ログアウトするミズキリ。シゼもまた手を振りながら現実のモビルドールへと意識を移していく。

 

 

「シゼは帰ってきたー!」

「そら自宅だからな」

 

元々はガンダムベース等のGBN筐体設置店からログインしていたミズキリだったが、シゼの躯体の事を考えて個人用の設備を購入したのだ。独身男性にとっては中々のお買い物だったが。

 

「で?そろそろ説明してほしいんだが?」

「あっと5分!あっと5分!」

「話を聞け」

 

ワクワクを隠す気もないシゼ。ミズキリこと【ミナト・キリヤ】は呆れながらその様子を眺めている。

 

「あのさぁミズキリ。もしかしたらマギーからミズキリ宛の荷物が届くかもしれないから、その時は受け取りよろしくね?」

「はぁ?マギーから?何の事だよ」

「いやぁ?もしかしたらだからねぇ」

 

───ピンポーン

 

「来たぁ!ミズキリ早くでて!」

「訳が分からん・・・」

 

「はい?」

『お届け物でーす』

 

 

「で?これは何だ?元払いで料金も掛かってないし」

「ふっふーん!バレンタインを一人寂しく過ごすだろうミズキリへのプレゼントだよ!シゼの優しさにむせび泣くんだね!」

「余計なお世話だ」

 

そう言いながら届いた箱を開封していくキリヤ。クール便で配達されたそれはヒンヤリと冷たい。段ボールの中にはちょっと高級そうなボックス。その中には───

 

「ゼーゴック?」

「そう!ぜごくんロールケーキだよ!可愛いでしょ~」

 

クーベルメを展開する前のコンテナ状態を模したロールケーキが入っていた。コンテナケーキの上には、メレンゲドールで形作られたゼーゴック本体が乗っかっている。こういう菓子等に疎いキリヤでも、高いクオリティの品だということが分かる逸品だった。

 

「これ・・・どうしたんだ?」

「オーダーメイドで作ってくれる店があってね?ぜごくんの画像を送って作ってもらったの!」

「そうじゃなくて、代金」

 

満面の笑顔だったシゼの表情が曇る。

 

「えっと、その、マギーに払ってもらった」

「お前・・・いくらだった?マギーに返さねぇと」

「違うの!シゼがマギーのお店でお手伝いして返す事になってるの!ミズキリにプレゼントしたくて!でもシゼはこっちだとお金無くて!マギーに相談したら払ってくれるって!だから!」

 

プラスチックのボディ故に涙を流せないシゼ。だが、その声は途中から泣いているであろう声色になっていった。

 

「ミズキリにお返ししたくてぇ・・・ビックリさせたかったのぉ・・・」

「シゼ・・・」

 

マギーもシゼにそこまで重労働を強いるつもりは無いだろう。可愛い看板娘が増えて嬉しいわぁ!くらいの感じになるのだろう。

 

「来年はちゃんと自分で作るから・・・」

「はぁ、ったく」

 

ボリボリと後頭部を掻き、ため息をつくキリヤ。次の瞬間、シゼの頭に指を乗せてやや乱暴に撫で始めた。

 

「自分で作るって、その材料費は誰が出すんだ?」

「えっと・・・それは」

「サプライズは嬉しいが、次はちゃんと言え。特に金銭絡みならなおさらだ」

 

シゼが顔を上げるとキリヤの、ミズキリの笑顔があった。

 

「怒ってない?」

「驚きはしてるよ。さて、折角のプレゼントだ!食ってみようかね」

 

シゼをシャツのポケットに入れ、両手でケーキを持って立ち上がる。シゼを待たせていたログイン用も兼ねた自室からキッチンへ移動するキリヤ。テーブルにシゼとケーキを置き、ナイフとフォークを取りに行こうとするが───

 

「ミズキリ、あのさ、すーちゃんとりーくんとぜごくんも一緒に」

「ん?あぁそうだな、どうせなら皆で囲むか」

 

ナイフとフォークをケーキの傍に置き、再び自室に戻るキリヤ。ゼーゴック本体を胸ポケットに、スペルビアジンクスとジンクスⅢをそれぞれの手に持ってキッチンへと戻って来た。

 

───おぉ、スゴい出来だね

───良いなぁ、僕も作ってほしいなぁ

───これから食べられると思うと複雑だがな

 

「ここに置いてっと、シゼこっち来い写真撮るぞ」

「うん!」

 

携帯電話のカメラ機能で写真を撮影するキリヤ。愛機であるガンプラでケーキを囲んだ写真と、シゼを肩に乗せての自撮り。そしてアングルに苦戦しながらも、何とか撮影に成功した自身とシゼとガンプラ達にケーキを加えた集合写真。その写真を見てシゼがキリヤに語り掛ける。

 

「ねぇミズキリ?」

「何だ?」

「ずっと一緒に居てね?来年も再来年もその先も。バレンタインもクリスマスもお正月も」

 

いつもの元気で快活な笑顔とはまた違う、儚げな笑みを浮かべて共に居る事を願うシゼ。自分は人間だからいずれ天寿を全うするだろう。それでなくとも事故や病に倒れる事もあるかもしれない。

 

「ま、可能な限りは一緒に居るさ」

「何それ、そこはずっと一緒って言うところだよ?ミズキリのヘタレ」

「誰がヘタレだこの野郎」

 

海の男はほんの少しだけ逃げた。

 

「まぁいいや!そんなヘタレミズキリはシゼが居ないとダメダメだからね!しょうがないから一緒に居てあげよう!」

「さっきと言ってる事違うぞ、いただきまーす」

「あっ!勝手に食べるな!もっとシゼを敬ってから食べろー!」

 

───仲良しだねぇ

───仲良しだなぁ

───仲が良いのか?あれは

 

 

 

後日、きっちり謝罪はするべきと考えたキリヤはリアルのマギーの店に赴き代金を支払おうとしたが、シゼちゃんの気持ちを汲んであげなさい、と丁重にお断りされた。それでもというキリヤにマギーが折れ、客として酒を注文するという形に落ち着いたらしい。

 

「あ!そうだわ、ケーキの写真とか撮ってなぁい?美味しく食べてもらったならこっちも嬉しいわ。それもお代として見せてもらおうかしらん?」

「あるよー!ミズキリ!」

「ハイハイ・・・まぁそんな気はしてたよ」

 

苦笑しながら見せた写真。それを見たマギーはとても嬉しそうに笑ったとか。

 

 

 

 

【ヤンママ魔王】

 

2/14バレンタインデー当日の早朝。

一軒家の二階から一人の女性が降りて来る。

 

「ふぁ・・・寝みぃ」

 

自宅だからと誰にも憚らず大きな欠伸をする女性【マガツキ・アキラ】下腹部に残っている傷痕を掻きながら台所へとたどり着く。

 

「今日は?あぁバレンタインね・・・ふぁ」

「おはよう、母さん」

「ん、おはよヒカリ」

 

再び欠伸をしながらカレンダーで予定を確認していたアキラに話し掛けたのは、黒髪の少女。アキラの娘の一人である【マガツキ・ヒカリ】である。

 

「バレンタイン配信するんでしょ?無理しないでね?」

「無理はしてないって、ヒカリこそ早起きしなくても良かったんだぞ?休みなのに」

「もう日課だから大丈夫だよ」

(母さんを一人占め出来る貴重な時間だからね)

 

欲望が見え隠れしているヒカリ。と、そこに階段を降りる音が聞こえてくる。

 

「お、カスミも起きたな」

「みたいだね」

(カスミは想定内。直ぐに出るし)

「おはよう!母さん!む、またヒカリ姉さんに負けたか」

 

赤色に溶岩柄という変わったジャージ姿で降りて来たのはマガツキ家六姉妹の四女【マガツキ・カスミ】。GBN内では【マガジョウネツ】のダイバーネームでログインしているスポーツ女子である。日課であるジョギングに出ようとしているらしい。

 

「そう簡単には譲らないよ」

「むぅ、体力では勝っているのに」

「朝から元気だなぁ、若いって羨ましいぜ」

 

母親であるアキラの手伝いをする為に早起きしているヒカリと、体力作りとして早朝ジョギングを行っているカスミ。早起き勝負は毎回ヒカリが勝利しているらしい。そんな二人の愛娘を見てしみじみと呟くアキラ。体力には自信があるが、本当に若い者には及ばなくなってきている自覚もある。

 

「ジョギングは良いの?」

「おっと、そうだね。では!行ってくる!」

「気ぃつけろよー」

「行ってらっしゃい」

 

そのまま元気よく飛び出していくカスミを見送り、微笑むヒカリ。

 

(やっと私の時間が───)

「おはよー・・・」

「えっ」

「アミ?珍しいな、どうした?」

 

想定外の人物が乱入してきた。【マガツキ・アミ】六姉妹の長女にして、【マガマキガイ】の名でログインしている愛すべきポンコツである。普段なら休日はぐうたらし、起こさなければ昼頃まで寝ているのがデフォの長女。そんなアミが早起きした事に驚きを隠せないヒカリ。

 

「こよいはバレンタイン配信だから、われも手伝うの」

「マキガイと混ざってるぞ。寝ぼけてんなコレ」

「配信は昼からだよ姉さん。もう少し寝てて」

「うみゅ・・・」

 

そう言って、やや強引に階段へとアミを押しやるヒカリ。大好きな母とのプライベートタイムの為なら多少の強硬手段に出る事も辞さないのだ。

 

「珍しい事もあるもんだな」

「そうだね」

(本当に想定外だった・・・でもこれで)

「ヒカ姉ぇおっはよぉぉぉぉ!」

「うわっ!?」

 

大きな声と共に背後からヒカリに抱き着いた少女。【マガツバッサ】の名でGBNを楽しんでいる【マガツキ・フウ】である。

 

「朝はデケェ声だすなって言ってんだろ、フウ」

「おかーさんもおはよー!ヒカ姉ぇ良い匂い~」

「ひゃっ、ちょっ、やめ、首・・・!」

 

GBNでやろうものなら、リスナーこと悪ガキ達が新たなカップリングと性癖に目覚めかねない光景。姉妹の中で一番快活でありスキンシップが激しいフウ。寝起きでブレーキが緩んでいるのか、ヒカリのうなじ辺りでスーハーしている。

 

「そんぐらいにしとけ」

「あうっ」

 

愛の鞭、アキラのチョップがフウの頭に炸裂する。だいぶ手加減しているが。

 

「あ、ありがとう母さん」

「気にすんな。娘同士で仲良いのは嬉しいけどよ」

「ぶー、今のはちょっと痛かったぞー」

 

ぷくぅと頬を膨らませ抗議するフウ。その様子を見てチョップした部分を優しく撫でるアキラ。

 

「悪かったよ、痛いの痛いの飛んでけーってな」

「飛んでった!火星くらいまで!もう大丈夫!」

「飛びすぎじゃないかな・・・」

 

にへへ!と笑顔を見せるフウ。元から軽いダメージだった為か火星まで飛んでいったらしく、その飛距離にヒカリもツッコミを入れざるをえない。

 

「昼からの配信を手伝ってもらうからよ、朝飯までゆっくりしてな」

「おー!それまでジーチューブ見てるねー!」

 

自室に戻っていくフウ。撫でられたフウの頭を羨ましそうに見つめるヒカリと、朝食の準備を再開するアキラ。だが───

 

「何してんだチユ・・・」

「えっ?」

「見つかってしまった」

 

テーブル付近からは死角になる位置に体育座りしていたのは【マガツキ・チユ】。マガ家のレアキャラこと【マガランキ】のリアルの姿である。

 

「急に隠れたくなってね」

「いや、何で?」

 

リアルのマガツキ家、GBNのマガ家どちらの状態でも何を考えているのか最も読めないチユ。また突発的な奇行かと呆れるヒカリだが、母であるアキラの目は誤魔化せなかった。

 

「その背中に隠してるもん見せろ」

「・・・何の事かな母上」

「今月の小遣いカット」

「我ながら珍しく早起きしたら小腹が空いていまして丁度賞味期限が今日までの菓子パンが一つ食べてほしそうにこちらを見ていたので誘惑に負け食べてしまいゴミ箱の奥底に袋を沈めて証拠隠滅しようとしたところで母上と姉上が想定よりも早く降りてきてしまい慌てて隠れ離脱するタイミングを伺っておりました申し訳ありませんお小遣いカットは勘弁してくださいお慈悲を」

 

菓子パンの袋をアキラに差し出し、美しい土下座をキメながら一切合切を白状するチユ。ヒカリだけでなくアキラも呆れた表情になっていた。

 

「飯の前に間食すんなって言ってんだろうが・・・」

「ひえー」

「そんな棒読みの悲鳴初めて聞いたよチユ・・・」

 

ただただ呆れるしかない二人。

 

「はぁ、食っちまったモンは仕方ねぇ。次は無いからな?」

「ありがとう母上」

「甘いなぁ母さん」

「ココア淹れるから、フウにも持ってってやれ」

「分かった」

 

数分後、ココアの入ったマグカップを二つ持ち、それぞれの自室がある二階へ戻っていくチユ。自身の分を飲みながらそれを見送るヒカリとアキラ。

 

「さてと、飯の支度だ」

「うん、まぁトーストセットだけどね」

「手抜きとは言ってくれるなよぉ?手伝ってるヒカリも共犯だからな?」

「ふふ、勿論だよ母さん」

 

食器を用意し、トーストをオーブンにシュウゥゥゥゥ!朝エキサイティン!して焼き上げ、適当な大きさにちぎったレタスとプチトマトを添えて完成。カガリと陽気なケバブおじさんのような悲劇が起きない事を祈りながら、野菜用のマヨネーズとドレッシングを用意する。

 

「うし、終わりっと。アミ起こしてチユも呼んでくれ、オレはミレンとフウ呼んでくるからよ」

「分かった」

「頼むな?」

(やっと撫でてくれた)

 

ポンポンとヒカリの頭を撫でるアキラ。ヒカリも嬉しそうに目を細めている。

 

姉妹達の部屋は三つの部屋を長女アミと次女ヒカリ、三女チユと四女カスミ、五女フウと六女ミレンで分けているのだ。起こす際の手間を省く為、アミをチユとカスミの部屋に誘導していたらしい。その時室内を確認していればチユが居ない事に気付けたかもしれないが。

 

(あれ?もしかしたら一番早起きしてたのってチユ?)

 

階段を上がりながら、ふと考えるヒカリ。ちょっとした敗北感を抱きながらチユ&カスミの部屋に入る。

 

「姉さん、チユご飯だ、よ?」

「うぅ・・・ぬぅ・・・」

「ヒカリ姉上」

 

カスミの布団を掛けて眠っているアミに、チユが馬乗りになっている。重いからか、アミがうなされているように見えるが。

 

「えぇと、何してるの?」

「そこは顔を赤くしながらお邪魔しました、と静かに扉を閉めるところでは?」

「とりあえず退いてあげて、姉さんうなされてるから」

「ヒカリ姉上はこの状況に性的羞恥と興奮を覚えないかね?」

 

本当にこの妹は・・・と、つまみ食い発覚時よりも呆れかえるヒカリ。チユに退いてもらい、アミを起こす。寝ぼけて降りてきた時よりも顔色が悪い。

 

「パンチとキックから光線くらってトドメに蒸発させられる悪夢見た・・・」

「何と戦っていたんだ姉さん」

 

人の光で力を取り戻した巨人だろうか。

 

一階に戻ると、テーブルには既にフウと六女の【マガツキ・ミレン】が着いていた。ミレンは今にも二度寝しそうになっているが。顔を洗ってサッパリしたアミとチユがテーブルに着くと、起きているのか怪しい状態のままミレンが口を開く。

 

「おねーちゃんたちおはよー・・・ふあぁはふぅ」

「ミレンは本当に朝が弱いね」

「朝以外もじゃないかな」

 

欠伸が止まらないミレン。若干眠気が抜けないアミが指摘するが、ミレンが夢の世界に旅立ちかけているのはヒカリが補足した通り、ほぼ常にである。

 

「ただいま!すまない、動き足りなくて少し遠回りしてしまった!」

「おかえり、いつもより遅いと思ったら悪い癖が出たな?」

「母さん本当にすまない!手洗いうがいだけしてくる!」

「いいからシャワー浴びてこい、ぱぱっと手早くな」

 

他の姉妹にも謝罪しながら浴室へ向かうカスミ。その間に新しくココアを淹れるアキラ。

 

「母上またココア?ハマってる?」

「ちげーよ、アミとカスミとミレンは飲んでねぇだろ?せっかくのバレンタインだからな」

「ママ~冷蔵庫に入ってる箱は~?」

「目敏いな・・・まぁ隠すつもりも無いけどよ。チョコケーキだ、晩飯の後でな?」

 

各々喜びを表す姉妹達。二人がココアを飲み干し、シャワーからカスミがあがった事で始まる朝食。朝だけでこんなにも忙しなく騒がしいが、アキラの心は暖かい感情に満ちていた。

 

「さぁて!昼から悪ガキども相手にバレンタインバトルだ!気合い入れてけよ?」

 

「任せよ!我が闇で呑み込んでくれよう!」

「今日の光は眩しいだけじゃ済まないよ」

「挟んで潰して土に還してあげようね」

「私の火は消えない!敵は燃やし尽くすのみ!」

「風に乗せて飛ばしてあげるよ!嫌でもね!」

「水でばしゃばしゃ~皆ぶくぶく溺れちゃえ~」

 

 

「待たせたな、悪ガキ共!チョコが欲しけりゃオレらとバトルだ!」

 

魔王の家は今日も禍々しく平和である。

 

 

 

【無自覚チャレンジャー】

 

「来客?」

「はい・・・その、またあの子が・・・」

「またぁ!?懲りないなぁ・・・」

 

フォース【AVALON】

GBN最強のチャンピオンである【クジョウ・キョウヤ】が率いるフォースであり、そのフォースランクも一位というまさに現時点でGBNの頂点。そのフォースネストである白亜の城に、「また」来た者がいるとのこと。それをキョウヤに伝えたのは副官の【エミリア】、驚きながらもゲンナリしているのが【カルナ】である。

 

「彼女か、分かった。僕が対応しよう」

「その、しつこいのでは?話を聞くに逆恨みでしょう」

「そーですよ毎回瞬殺ですけど、粘着行為として報告しても問題無いっすよ」

「いや、挑戦し続けるダイバーを無下には出来ない。僕も一人のダイバーである以上逃げた、なんて言われたくないしね?」

 

エミリアとカルナの口振りから幾度となく戦った事のある相手らしい。そんな相手の話題にも嫌な顔一つする事なく言い切るキョウヤ。むしろ爽やかな好青年スマイルを浮かべている。

 

「分かりました。応接室に案内します」

「頼むよ」

「ほんと、何があの子を突き動かすのかねー」

 

 

数分後 AVALONフォースネストの応接室にて

 

 

「おっそぉい!おそいのだクジョウキョウヤ!」

「すまない。待たせてしまって」

「せっかくワタシがきてやったのに!」

 

開幕から偉そうなガキンチョのダイバーネームはゲドーリトル。以前は楽にポイントを稼げるからという理由で初心者狩りをしていた問題児だったのだが、初心者を仕留めようと追っていた最中ブレイクデカールとマスダイバーを調査していたキョウヤに遭遇。あっさり撃破された上に、セントラルロビーの衆人環視の中でオンラインゲームのマナーをマギーも交えて諭されたのだ。その場は収まったものの、恥をかかされたと逆恨みしたリトルの思考がポイント稼ぎから打倒キョウヤにシフトし、以降何かにつけてはキョウヤに挑んでいるのだ。

 

勝敗に関してはカルナが言った通り、ゲドーリトルの全敗である。

 

「それで、今日もバトルの申し込みかな?なら申し訳ないが今日は少し都合が悪くてね」

「ふん!ちがうわ!」

「おや?そうなのかい?」

 

意外な展開だなと思考するキョウヤ。今までは、メリクリバトルだクジョウキョウヤ!とか、明けましてバトルだクジョウキョウヤ!とか、とにかくバトルだクジョウキョウヤ!等とかなり無茶苦茶なバトル申し込みに加え、イベントのフリーバトル枠にも真っ先に応募してきたりと、とにかく打倒クジョウキョウヤに燃えていたリトルなのだが。

 

「きょうはなんのひだ?クジョウキョウヤ!」

「今日?バレンタインデーではないのかな」

「そう!バレンタインだ!」

 

当然の答え。そもそもキョウヤが都合が悪いと言ったのはバレンタインイベントの限定ミッション攻略をする為である。ストレージからチョコと思わしき物を取り出しキョウヤに差し出すリトル。

 

「ん!」

「?」

「チョコだ!」

「僕に?」

「きょうてきとかいてトモとよむ!トモチョコだ!」

 

友チョコは一般的に定着しているが、強敵(とも)チョコはどうなのだろうか。

 

「きょうはそのチョコにかいてあるとーりのことだけだ!」

「チョコに?」

「よーくあじわってたべるのだ!わがライバル、クジョウキョウヤ!」

 

さらばだ!と退室し、幼い高笑いを響かせて去っていくゲドーリトル。入れ替わるように、待機していたエミリアとカルナが入室してくる。

 

「珍しいですね、あの子がバトル申請もせずに帰るなんて」

「確かにね、チョコに何か書いてあるらしいが」

「そういや出口分かるのかね、あの子」

「あぁ・・・送ってきます」

 

慌ただしく部屋から出るエミリア。それを見送ったカルナはニヤニヤしている。

 

「それで、何て書いてあるんです?チョコのメッセージって!」

「そうだね、開封してみようか」

 

生真面目なエミリアの居ぬ間に覗き見しようとするカルナ。キョウヤも特に咎める事なくラッピングを外していく。スタンダードなミルクチョコを円形に固めたそれに、ホワイトチョコで文字が書いてある。のだが───

 

「これは?」

「間違えてるな・・・」

 

『宣戦富国!』とチョコで描かれた文字。おそらく強敵チョコで『宣戦布告』と書きたかったのだろうが。

 

「ドキドキも何も無いよなぁ・・・残念感がスゴい」

「ハハ・・・まぁ彼女らしいじゃないか、挑戦状としてありがたく受け取るとしよう」

 

 

小さな挑戦者の闘志は尽きないらしい。

 

「ここどこぉ・・・クジョウキョウヤぁ・・・おぼえてろよぉ」

「もう、案内するから着いてきなさい」

 

心は折れかけていたが。

 

 

 

【アナタノニンギョウ】

 

「こちらが、盟主様のご希望の品になります」

「フッ、クハハハハ!僕は勝つんだ!そうさいつだって!」

 

セントラルロビーから少し離れた路地裏にて、怪しげな密会を行う男女。男性はムルタ・アズラエルのようなダイバールックをしており、女性から手渡された物をストレージに仕舞い上機嫌でその場を後にした。

 

「またのご利用をお待ちしております」

 

残された女性は深くお辞儀をして、自身を利用した男性を見送った。女性ダイバーの名はユアーナ。【人形】と呼ばれ、自分でも自身を人形と定義する傭兵ダイバーである。普段はギャラルホルンの制服を着用しているのだが、今回の依頼者からの要望でSEEDの地球連合軍の制服を纏っていた。

 

(似た内容の依頼が今日だけで七件)

 

ユアーナはその病的な服従姿勢が気味悪がられ、ごく一部のダイバーしかリピーターがついておらず、一日一件依頼があれば良い方なのだ。にも関わらず今日は先程のアズラエル風ダイバーで七件目。件数だけ見れば素晴らしい成果なのだが、その内容はどれもほぼ一緒なのだ。

 

(チョコレートが欲しい、それも他人から)

 

そう、最終手段としてユアーナを使った、いわゆるバレンタインルーザー達である。要は悲しき男の見栄として「女性からチョコを貰ったという事実」をユアーナから買ったのである。それならば他の女性傭兵でも良いが、ユアーナは特に【ご主人様】の情報に関して口が堅く、依頼料がとてつもなく安い。アズラエルモドキのダイバーも、ユアーナのそんな部分を見込んで依頼したのだろう。勝つ、と言っていたがユアーナを頼っている時点で負けている気もするが。彼にとってはニュートロンジャマーキャンセラーのデータよりも価値があるのだろう。少なくとも今は。

 

(お喜びいただけたなら何より)

 

命令される事、命令に従う事こそが存在意義。バレンタインでもそれは変わらない。チョコが欲しいと言われれば渡す。恋人のフリをしろと言われればするだろう。それがユアーナという商品名が付いた人形なのだから。

 

「・・・ん」

 

ユアーナ宛のメッセージ。送り主は七人のバレンタインルーザーとは違い、ユアーナの数少ないリピーター。その内容はルーザー達とあまり変わらないものだが、純粋にユアーナのチョコが欲しいらしい。

 

直ぐに向かう旨を返信し、コンソールを操作して連合軍制服からいつものギャラルホルン制服に着替えるユアーナ。その足取りは軽くも重くもなく、その表情は明るくも暗くもなく、一定に無表情に人形は歩く。そうあれ、と命令されるまで。

 

 

 

【Z in GBN】

 

(バレンタインねぇ、地球には変わった風習があるんだなぁ。地球で戦ってたウルトラ兄弟の方々や先輩方には馴染み深いイベントだったりするのかなぁ)




「俺の出番あれだけ!?ウルトラショックゥ!」

【ジェーンのチョコ】
ジェーンがTHE Bi-neに渡したチョコレート。「機動戦士クロスボーン・ガンダム」のタイトルロゴに使われている「X」の文字を模した形をしている以外は普通のチョコである。

【イオリのチョコ】(出典 青いカンテラ様)
イオリがバレンタインに行った凸待ち配信にて先着5名に手渡ししたチョコレート。「あなたもまた強敵(とも)だった・・・」という意味が込められている。イオリの愛機であるトリスタンサファイアをイメージした青いチョコに、ホワイトチョコで「ハッピーバレンタイン」の文字が描かれている。実力にストイックなイオリらしく甘さ控えめなビターチョコ。リスナーに渡した物は黒い包装紙だが、アリム(とクオンやナルミ等)への「大事な友チョコ」は赤い包装紙になっている。

【ゼーゴックロールケーキ】
シゼがミズキリへのサプライズとして用意したケーキ。クーベルメ展開前のコンテナを模したロールケーキに、メレンゲドールで作られたゼーゴックが乗って(刺さって)いる。事前にイラスト等を渡していれば可能な限り近づけて作ってくれる菓子店でオーダーメイドされた。何でチョコじゃないのか?とはさすがにミズキリも聞かなかった。

【ミナト・キリヤ】(湊 霧也)
ミズキリの本名。
マギーと同じでほぼ見た目が変わらない。
変わるのは精々服装くらい。

【マガツキ・アキラ】(勾月 晶)
マガツ・ローの本名。
GBNよりも目付きが悪く完全にヤンママ。
娘達は帝王切開で出産したらしく、下腹部に傷痕が残っている。

【マガツキ姉妹】
GBN内におけるマガ家の娘達のリアルネーム。
長女マガツキ・アミ (闇海)
次女マガツキ・ヒカリ(光理)
三女マガツキ・チユ (地夢)
四女マガツキ・カスミ(火純)
五女マガツキ・フウ (風宇)
六女マガツキ・ミレン(水恋)

【マガチョコ】
マガ家の面々とバトルした悪ガキ(リスナー)に、戦ったローや娘達から手渡しされたチョコ。娘達のチョコはそれぞれのイメージカラーに染められており、ローの物は茶色に血のような赤いデコレーションがされている。ゲットできたのは合計で14人。ローと六姉妹がそれぞれ二回づつ抽選で選ばれたリスナーと1on1を行った。

【ゲドーリトルのチョコ】
丸いチョコにホワイトチョコで「宣戦富国!」と誤字が描かれたミルクチョコ。ちなみにラウンドシールドと言っても過言ではないサイズ。

【ユアーナのチョコ】
ザ・量産品、ザ・市販品といった普通のチョコレート。一応贈り物っぽくラッピングされている。アズラエルモドキのダイバーに渡した物のみ、何故かフロッピーディスクのような形をしていたらしい。
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